目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:岸善幸, Writer:岸善幸, 出演:有村架純, 出演:森田剛, 出演:磯村勇斗, 出演:若葉竜也, 出演:マキタスポーツ, 出演:石橋静河, 出演:北村有起哉, 出演:宇野祥平, 出演:リリー・フランキー, 出演:木村多江
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 私は「自分のために行動する人」が好きで、だから、本作で描かれる保護司・阿川佳代の葛藤に考えさせられてしまった
- 「強さ」ではなく「弱さ」でしか救えない状況は存在するし、「犯罪者の更生」にもそのような観点が取り入れられるべきだと思う
- 「保護司っぽくない」と感じさせる阿川佳代の言動が、とても素敵に映った
何にせよ私は、「まず彼女自身が幸せになってほしい」と願わずにはいられなかった
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
映画『前科者』が描く「犯罪者の更生の現実」と、「有村架純演じる保護司の葛藤」に色々と考えさせられた
「自分のために行動する人」が好き
私は、「自分のために行動する人」のことが好きだ。しかし、これには少し説明が必要だろう。
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決して、「自分勝手に生きている人」という意味ではない。そうではなく、「『誰かのため』と捉えられがちな行動を『自分のためにしている』と自覚している人」が好きなのである。意味が伝わるだろうか?
これは私の中では、弁護士や医師など「報酬を受け取る職業」の人にも当てはまる話なのだが、ちょっと軸がブレるように思うので、分かりやすいように「ボランティア」を例に挙げよう。ボランティアは普通、「誰かのためにしている」とみなされると思うし、従事している当人もそういう認識で行っていることが多いだろう。しかし私は、とても勝手な意見だと理解しているのだが、正直、「誰かのためにしている」という感覚をあまり信じていない。
もちろん世の中には、医師でありながらアフガニスタンで用水路建設に生涯を費やした中村哲のように、「どう見ても『誰かのため』としか言えないような生き方をしている人」もいる。だからそのすべてを否定したいわけではないのだが、一方で、そういう人は決して多くはないと考えてもいるのだ。これは別に「『誰かのため』という感覚を持つなら100じゃなきゃいけない」みたいな話ではない。誰もが0から100の割合のどの程度かで「誰かのため」という感覚を持っているだろうし、そこにグラデーションがあること自体は全然いい。ただやはり、「誰かのため」と”主張する”のであれば、そのレベルは「100に近いもの」であってほしいと思ってしまうし、そしてそういう人は決して多くはないと私は考えているのである。
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だから、例えば70~80程度の「『誰かのため』という感覚」を持っているような場合に、「これは自分のためにやっているんだ」と自覚している人の方が好ましいと私は思っているのだ。私のこの感覚は伝わるだろうか?
ここには、「『あなたのためにやっている』という”圧”が苦手」という理由もある。
さて本作『前科者』では、出所した元犯罪者の更生に関わる保護司が描かれるのだが、まず1点、もしかしたら広くは知られていないかもしれない情報を提示しておくことにしよう。保護司が行うのは、「定期的に元犯罪者と面談する」というなかなかに大変な仕事だが、なんと無給のボランティアなのである。そして、もし私が元犯罪者で、保護司と関わらなければならなくなった場合に、「『あなたのためにやっている』という”圧”」を保護司から感じてしまったらしんどいなと思う。これは他の状況でも同じである。私は大体において、「『あなたのためにやっている』という”圧”」がすこぶる苦手なのだ。
だから私は、自分はそういう雰囲気を発しないように気を付けているつもりだし、さらに、「自分のためにやっている」という認識の方が優位な人と関わりたいとも考えているのである。
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「弱さ」が誰かにとっての「救い」になることだってあるはずだ
本作『前科者』の中で、私が一番好きなシーンを紹介しよう。女性2人がコンビニの前で話をしている場面でのやりとりだ。1人は保護司の阿川佳代で、もう1人は、かつて彼女が保護司として担当した元犯罪者のみどりである。そして佳代がみどりに、「更生を手助けするなんて大口叩いてきたけど、私には何もできない」と弱音を吐くシーンがあるのだ。
佳代のそんな吐露を受けて、みどりは自身の子ども時代や刑務所時代の話を始める。彼女は子どもの頃、「親が男漁りに行く時は500円もらえる」という環境で生活していた。しかし、母親が1週間帰ってこないこともしばしばで、そんな時は、「私は世界一不幸な子どもだ」と考えていたそうだ。しかし刑務所に入って、「世の中は自分みたいな人間ばかりなのだ」と気付いたという。それに、罪を犯してから出会った人間は「弁護士」や「検事」のような”真っ当な人間”ばかりで、「世間を代表しています」と言わんばかりの顔で「これからは真面目に生きろ」みたいなことを言ってくる。でも、「あたしたちのような前科者がいるお陰で『世間の代表』みたいな顔が出来るんだろ」って思ってたし、だからあいつらの言葉なんか全然耳に入ってこなかった。
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そんな話を滔々と続けた後で、みどりは佳代にこんなことを言うのである。
でも、佳代ちゃんと会って考えが変わったんだ。私らみたいな人間以外にも、こんなに弱い人間がいるんだ、って。
さらに続けて、こんな風にも念押ししていた。
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前科者に必要なのは保護司なんかじゃない。佳代ちゃんみたいな人だよ。
凄く良かったなと思う。
佳代は保護司としての自身のあり方に悩んでいる。というのも、彼女にはどうしても振りほどけない過去があり、その過去に導かれるようにして保護司になったという経緯があるからだ。もちろん彼女の中には、「前科を持つ者たちの更生に真摯に向き合いたい」という強い想いがある。しかしそれと同時に、彼女はどうも、「自分は自分のために保護司をしている」というある種の”後ろめたさ”みたいなものを感じているように見えるのだ。
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そして彼女は、そのことに葛藤を抱いている。「罪を犯してしまった人たちに寄り添いたい」という気持ちは決して嘘じゃない。しかし実際には、過去に囚われている自分自身のために保護司を続けているのだ。それが彼女には「中途半端」だと感じられているのだろうし、また、「そのせいで『取り返しのつかない事態』を引き寄せてしまったのではないか」とも考えているのである。
みどりは別に、佳代が抱えているそんな葛藤について具体的に理解しているわけではない。しかし、長い付き合いで感じるものがあったのだろう。「佳代ちゃんのその弱さが良いんだよ」という言葉で彼女の背中を押すのである。そのような感覚はよく理解できるなぁと思う。私も、犯罪者ほどではないにせよ、「社会の割と低い方」を生きてきた自覚がある。そしてだからこそ、「弱さ」によって相手を信頼できたり、自分を託せたりするのだ。「前科者に必要なのは佳代ちゃんみたいな人」というのは本当によく分かる。さらにこの言葉は、彼女を勇気づけるものでもあるが、同時に、現行制度の限界を示してもいると言えるだろう。
犯罪者だって「何かの被害者」である
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また、「罪を犯してから出会うのは“真っ当な人間”ばかりだった」というみどりの“不満”も、凄く分かるなぁという感じがした。
私は以前、『プリズン・サークル』というドキュメンタリー映画を見たことがある。これは、島根県に実在する刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」に密着した作品で、「日本初の新たな取り組み」を行う刑務所として注目されているのだ。
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その「新たな取り組み」は「TC」と呼ばれている。「Therapeutic Community」の略で、「治療共同体」と訳されることが多いようだ。元々は「薬物依存者や精神疾患患者が対話を通じて回復を目指す仕組み」として始まったそうだが、それを刑務所にも応用した形である。「島根あさひ社会復帰促進センター」では、「受刑者同士が様々な形で対話を行うことで更生に寄与すること」が期待されているのだという。
そして、そんな「TC」を映し出す映画の中で、特に印象的に感じられた場面がある。グループセラピーの最中に受刑者の1人が、「自分だって被害者だ」と口にするシーンだ。加害者であることはもちろん理解しているが、自分も「虐待の被害者」だったし、誰かがそのことを認めてくれないと「加害者としての立場」になんか立てない。そんな風に訴える者がいたのである。
「なるほど」という感じだった。確かにその通りかもしれない。そしてこの言葉は、本作『前科者』で描かれる状況にも当てはまると言えるのではないかと思う。
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一応書いておくが、「自分も被害者だった」みたいな主張が通るはずのない犯罪者だってもちろんいるし、それまでの生い立ちなどにまったく関係ない身勝手極まりない犯罪も存在する。だから以下の話は、すべての犯罪者に当てはまるわけではない。ただ一方で、「そういう境遇にいなければ罪を犯さなかっただろう人」もいるわけで、私はそんな、映画『プリズン・サークル』や映画『前科者』で描かれるような犯罪者に言及しているのだと理解してほしい。
犯罪に手を染めてしまう人の中には、児童養護施設でいじめられていたとか、親から虐待を受けていたみたいなキツい環境の中で、さらに「誰にも助けを求められなかった」というタイプの人が多いように思う。もちろん、そういう境遇に生まれ育ってもら犯罪に走らない人だっているわけで、「100%境遇のせい」なんて主張は成り立つはずがない。ただ、「そういう境遇にいなければ罪を犯さなかっただろう」ぐらいのことは言ってもいいんじゃないかと思っている。
さて問題は、「根本的な原因を解消しないまま、すべての責任を『犯罪者』に押し付けたところで何も解決しない」ということではないだろうか。「罪を犯した」ことは確かなので、法に則って彼らを刑務所に隔離するのは当然である。しかし、塀の外にいる我々が、「罪を犯した奴が悪いんだから刑務所に入って反省しろ」みたいなスタンスのままでいたら、状況は何も改善されないだろう。なにせ、彼らが犯罪に走ってしまった根本的な原因は放置されたままなのだから。
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本作でも、まさにそのような状況が描かれる。具体的には触れないが、本作で描かれる「犯罪」は、「塀の中よりも、外の方にこそ『問題』がある」ことを如実に示すものと言っていいと思う。だから私は、映画『プリズン・サークル』で取り上げられた受刑者が口にした「被害者と認めてもらえなかったら、加害者の自覚が持てない」という言葉に、共感させられてしまったのだ。
誤解されないように書いておくが、私は決して「犯罪者を無罪放免にすべき」などと主張しているのではない。法治国家に生きている以上、どんな理由があろうとも、「罪を犯した」という事実に対しては法が定める罰が与えられるべきだと思っている。しかしそれは、「事件をどう終結させるか」という話でしかない。個々の事件には被害者がいて、物理的・金銭的・精神的な被害が発生してしまう。そして「それらに対し法が裁定を下し、表面的に『事件は終わった』とみなす」というのが「罰則」の意味合いだと私は捉えているのだ。
となればやはり、「社会全体をどう導くか」という観点は薄いと考えるしかないだろう。
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2人を殺し、7人に重傷を負わせた金川真大に同情の余地はない。しかし、この事件を取材した記者も、私も、彼が殺人に至った背景・動機については理解できてしまう部分がある。『死刑のための殺人』をベースに、「どうしようもないつまらなさ」と共に生きる現代を知る
個々の事件ではなく、社会全体に焦点を当てるのなら、やはり「犯罪をいかに減らすか」が最大の課題になるはずだ。そして、そのためには「根本的な原因」を解消する他ないのだが、それは「犯罪者に罰を与える」というやり方では実現しない。場合によっては「逆効果」ですらあると言えるだろうい。そのことについて、私たちは深く考えなければならないはずだ。
直接的な被害者は、加害者を感情的に恨んで当然だと思うが、そうではない人は「処罰感情」に囚われすぎず、「どうしたら社会全体において犯罪を減らせるか」という方向に思考を切り替えるべきだと思う。もちろん、その方向性に沿った存在として「保護司」がいるのだとは思うが、誰もが保護司のように生きられるわけではない。しかしだとしても、出来ることが無いなんてことはないはずだ。
というか、「罪を犯してしまうような環境を”維持している”」という意味で、我々は間接的に「犯罪者を生み出す社会」に加担していると理解すべきだろう。犯罪の少ない安全な社会を希求するのであれば、私たちはまず、「『犯罪に走ってしまうような環境』をいかにして減らせるか」という観点から犯罪者との関わりを考えるべきだと思う。これこそ”真っ当な人間”のやるべきことではないだろうか。
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映画『前科者』の内容紹介
阿川佳代は、コンビニでのアルバイトの傍ら、犯罪者の更生を支援する保護司としても活動している。保護司は「非常勤の国家公務員」という扱いだが無報酬であり、完全なボランティアだ。出所した元受刑者と定期的に面談を行うのが主な役割で、その過程で大変な状況に巻き込まれることもある。彼女が自らそんな保護司になろうと決めたのには、今も引きずっている過去があるからだ。
さて、佳代は半年前から、仮釈放中の工藤誠という殺人犯を担当している。仮釈放期間中は月に2度の定期報告が義務付けられており、佳代は彼との面談を自宅で行っていた。期間は6ヶ月。その間何も問題がなければ晴れて出所できるという仕組みである。
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一方、彼女が住んでいる地域で凶悪事件が発生した。交番勤務の警察官が襲われ、奪われた銃で撃たれてしまったのだ。幸い一命はとりとめたものの、銃は行方不明のまま。そしてその後、犯人が持ち去ったのだろう銃による犯罪が続いていた。
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映画『前科者』の感想
もしも罪を犯してしまったとしたら、彼女のような保護司と関わりたい
本作『前科者』は、様々な形で「善悪」について考えさせる作品だ。「保護司」というのは決して馴染み深い存在ではなく、恐らくその存在自体を知らない人もいるのではないかと思う。本作はそんな「保護司」を中心にして、「正しい」と「間違い」の境界を絶妙に衝いてくるのである。
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先述した通り、「法治国家に生きている限り『社会的な正しさ』は法が決する」と言っていいだろう。というか私たちは、「法が決めたことを『正しい』と受け入れて生きていかなければならない」のである。法そのものが誤っていることもあるが、それを是正する仕組みも存在はするし、だから私たちは、「とりあえずは『法の裁定に従って生きること』が求められている」と考えるべきなのだと思う。
しかし、「社会的な正しさ」だけがすべてではない。日常生活においては、そうではない「正しさ」の方が重要な場面も多いだろう。そして本作では、そんな様々な「正しさ」を複層的に描き出すことで、「何が正しいのか分からない」という困惑が積み上がっていくことになる。この点に関しては本作でも、何か分かりやすい結論が提示されるわけではない。観る者に委ねられているというわけだ。
しかしそれはそれとして、佳代の振る舞いや決断からは、「これは正解の1つである」と感じさせるだけの力強さがあるようにも思う。彼女は、自身のある過去をきっかけとして保護司になった。そして、そんな個人的な起点を持つ彼女の生き方は、「これが私なりの正解だ」と突きつけるだけのパワー無しには成立し得ないということなのかもしれない。
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保護司としての彼女のスタンスは、とても気持ちの良いものだ。
本作は、冒頭からなかなか荒々しく始まっていく。担当する元受刑者が仕事に行っていないと判明するのだ。佳代はすぐに元受刑者の家に向かうが、「あの職場は私に合っていない」と言い訳を口にするばかり。そこで彼女はある強硬手段を取り、元受刑者を説得する。
その時に発した言葉がとても良かった。
あなたは今崖っぷちなんです! このままだと、奈落の底に真っ逆さまです。そうなったらもう、助けてあげられなくなってしまいます。
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保護司という役割に真摯に向き合っているからこそ、そんな言葉が口をついて出てきたのだろうなと思う。
あるいは、初めて工藤誠に会った時にも、こんな風に言っていた。
頑張りすぎないで下さいね。大切なのは、「普通」だと思うんです。頑張りすぎてしまったら、それは「普通」ではありません。
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保護司に直接会ったこともなければ、その仕事ぶりを目にする機会もないのであくまでも想像でしかないのだが、佳代が口にする言葉は「元受刑者と向き合う人のもの」っぽくない気がする。「罪を犯してから出会うのは“真っ当な人間”ばかりだった」という元受刑者の言葉を踏まえると、「一般的な保護司」もやはり、「現実は厳しいんだから、ガムシャラに頑張っていきましょう」みたいなことを言うんじゃないだろうか。
そして、それはとてもしんどいだろうと思う。何故なら、「これまで頑張って来なかった」みたいに言われている気がするからだ。頑張って来たのにダメだった人もいるはずだし、色んな事情から頑張りたくても頑張れなかった人だってもいるだろう。だから、「普通でいい」と言ってもらえるのは、ホッとする。私も、万が一犯罪者になるようなことがあれば、阿川佳代のような保護司に出会いたいものだと思う。
阿川佳代にも幸せになってほしい
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佳代はある場面でこんな風に口にする。
法律や福祉だけではあなたを助けられない。それが現実です。
元受刑者の更生の現実を知らなくても、この点については容易に想像出来るだろう。しかし、「その最大のハードルが『犯罪者になったことのない私たち』にある」という事実は、あまり意識されないんじゃないかと思う。
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「『正しさ』は人によって違う」というのは、私には「当たり前の考え」に感じられるが、この前提さえ共有できない社会に私たちは生きている。映画『由宇子の天秤』は、「誤りが含まれるならすべて間違い」という判断が当たり前になされる社会の「不寛容さ」を切り取っていく
本作には、ある人物が「殺人犯は人じゃないよ」と口にする場面がある。どうだろうか、口には出さないにしても、そんな風に感じている人は世の中に結構いるんじゃないだろうか。だからこれは、「世間の声」と言ってもいいのではないかと思う。そして、社会制度は「世間の声」が作ると言っても過言ではないのだから、当然、法律や福祉が「元犯罪者に優しいもの」になったりもしない。そのことに対しては「仕方ない」と思いつつも、同時に、「それで良いはずがない」とも感じる。
佳代が先のセリフに続けて発する言葉からは、とても強い信念が感じられるんじゃないかと思う。また、実際の保護司が何にやりがいを感じているのか知らないが、佳代が別の場面で口にした「人が”生き返る”瞬間に立ち会えるのって凄い」という言葉は、彼女が「自分のため」に保護司を続けていると感じさせるものだった。そのようなことをすべてひっくるめると、「保護司としての彼女の存在」は社会にとって必要不可欠だと言えるだろう。
そしてだからこそ私は、「阿川佳代には『一般的な幸せ』もちゃんと目指してほしい」と感じた。もちろんこれは、単なるおせっかいである。彼女が「保護司としてのやりがい」によって十分な「幸せ」を感じているというのであれば、他人がとやかく言うようなことではないだろう。ただ、ある人物が「恋してる? セックスしてるか?」とぶっ込んでいて、そんな風に言いたくなる感じも分かる。彼女がどんな過去を抱えているにせよ、自分のことを蔑ろにしてまで保護司としての役割を続けるべきではないと私は思う。
彼女のお陰で救われる人は間違いなくいるはずだし、その事実は佳代にとっても非常に重要だろう。しかしそれ以上に、「佳代が救われること」の方が大事だし、そのためにもちゃんと自分の時間を使ってほしいと願わずにはいられなかった。
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監督:岸善幸, Writer:岸善幸, 出演:有村架純, 出演:森田剛, 出演:磯村勇斗, 出演:若葉竜也, 出演:マキタスポーツ, 出演:石橋静河, 出演:北村有起哉, 出演:宇野祥平, 出演:リリー・フランキー, 出演:木村多江
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最後に
最後に「どうでもいいこと」に触れてこの記事を終えよう。
私は、特に日本の作品であればエンドロールはちゃんと見る派なのだが(さすがに外国語のエンドロールは辛いが)、本作のエンドロールに「石橋静河」の名前があって驚いた。というのも私には、本作に石橋静河が出てきた記憶がなかったからだ。いや、実は彼女は割と重要な役で出ており、単に私が気づかなかっただけである。しかし本当に、映画の最後まであの人物を演じていたのが石橋静河だとは気づかなかったので、本当に驚かされてしまった。
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まあそれは本当にどうでもいい話なのだが、本作はとにかく、「元受刑者」と「保護司」との関係を丁寧に描き出すことによって、「社会にとっては何が正しいのか?」「個人にとっては何が正しいのか?」とを突きつける作品である。色々と考えさせられてしまった。
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「相談に乗る」とは、「自分の意見を言う行為」ではない。相談者が”本当に悩んでいること”を的確に捉えて、「回答を与えるべき問いは何か?」を見抜くことが本質だ。『哲学の先生と人生の話をしよう』から、「相談をすること/受けること」について考える
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【絶望】「人生上手くいかない」と感じる時、彼を思い出してほしい。壮絶な過去を背負って生きる彼を:…
「北九州連続監禁殺人事件」という、マスコミも報道規制するほどの残虐事件。その「主犯の息子」として生きざるを得なかった男の壮絶な人生。「ザ・ノンフィクション」のプロデューサーが『人殺しの息子と呼ばれて』で改めて取り上げた「真摯な男」の生き様と覚悟
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【あらすじ】子どもは大人よりずっと大人だ。「子ども扱い」するから、「子どもの枠」から抜け出せない…
宮部みゆき『ソロモンの偽証』は、その分厚さ故になかなか手が伸びない作品だろうが、「長い」というだけの理由で手を出さないのはあまりにももったいない傑作だ。「中学生が自前で裁判を行う」という非現実的設定をリアルに描き出すものすごい作品
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元気で明るくて楽しそうな人ほど「傷」を抱えている。そんな人をたくさん見てきた。様々な理由から「傷」を表に出せない人がいる世の中で、『包帯クラブ』が提示する「見えない傷に包帯を巻く」という具体的な行動は、気休め以上の効果をもたらすかもしれない
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【理解】東田直樹の本は「自閉症の見方」を一変させた。自身も自閉症児を育てるプロデューサーが映画化…
東田直樹の著作を英訳し世界に広めた人物(自閉症児を育てている)も登場する映画『僕が跳びはねる理由』には、「東田直樹が語る自閉症の世界」を知ることで接し方や考え方が変わったという家族が登場する。「自閉症は知恵遅れではない」と示した東田直樹の多大な功績を実感できる
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勤務していた会社の都合で、町が1つ丸々無くなるという経験をし、住居を持たないノマド生活へと舵を切った女性を描く映画『ノマドランド』を通じて、人生の大きな変化に立ち向かう気力を持てるのか、我々はどう生きていくべきか、などについて考える
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【現実】生きる気力が持てない世の中で”働く”だけが人生か?「踊るホームレスたち」の物語:映画『ダン…
「ホームレスは怠けている」という見方は誤りだと思うし、「働かないことが悪」だとも私には思えない。振付師・アオキ裕キ主催のホームレスのダンスチームを追う映画『ダンシングホームレス』から、社会のレールを外れても許容される社会の在り方を希求する
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子どもの頃「台風」にワクワクしたように、未だに、「自分のつまらない日常を押し流してくれる『何か』」の存在を待ちわびてしまう。立教大学の学生が撮った映画『サクリファイス』は、そんな「何か」として「東日本大震災」を描き出す、チャレンジングな作品だ
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【称賛】生き様がかっこいい。ムンバイのホテルのテロ事件で宿泊客を守り抜いたスタッフたち:映画『ホ…
インドの高級ホテルで実際に起こったテロ事件を元にした映画『ホテル・ムンバイ』。恐ろしいほどの臨場感で、当時の恐怖を観客に体感させる映画であり、だからこそ余計に、「逃げる選択」もできたホテルスタッフたちが自らの意思で残り、宿泊を助けた事実に感銘を受ける
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【リアル】社会の分断の仕組みを”ゾンビ”で学ぶ。「社会派ゾンビ映画」が対立の根源を抉り出す:映画『C…
まさか「ゾンビ映画」が、私たちが生きている現実をここまで活写するとは驚きだった。映画『CURED キュアード』をベースに、「見えない事実」がもたらす恐怖と、立場ごとに正しい主張をしながらも否応なしに「分断」が生まれてしまう状況について知る
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【改心】人生のリセットは困難だが不可能ではない。過去をやり直す強い意思をいかにして持つか:映画『S…
私は、「自分の正しさを疑わない人」が嫌いだ。そして、「正しさを他人に押し付ける人」が嫌いだ。「変わりたいと望む者の足を引っ張る人」が嫌いだ。全身刺青だらけのレイシストが人生をやり直す、実話を元にした映画『SKIN/スキン』から、再生について考える
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「自分の子どもなんだから、どんな風に育てたって勝手でしょ」という親の意見が正しいはずはないが、この言葉に反論することは難しい。虐待しようが生活能力が無かろうが、親は親だからだ。映画『MOTHER マザー』から、不正解しかない人生を考える
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社会的弱者が闘争の末に権利を勝ち取ってきた歴史を知った上で私は、闘わずとも権利が認められるべきだと思っている。そして、そういう社会でない以上、「正義のためにルールを破るしかない」状況もある。映画『パブリック』から、ルールと正義のバランスを考える
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国の諜報機関の職員でありながら、「イラク戦争を正当化する」という巨大な策略を知り、守秘義務違反をおかしてまで真実を明らかにしようとした実在の女性を描く映画『オフィシャル・シークレット』から、「法を守る」こと以上に重要な生き方の指針を学ぶ
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「ルールは守らなければならない」というのは大前提だが、常に例外は存在する。どれほど重度の自閉症患者でも断らない無許可の施設で、情熱を持って問題に対処する主人公を描く映画『スペシャルズ!』から、「ルールのあるべき姿」を考える
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「アイヌの町」として知られるアイヌコタンの住人は、「アイヌ語を勉強している」という。観光客のイメージに合わせるためだ。映画『アイヌモシリ』から、「伝統」や「文化」の継承者として生きるべきか、自らのアイデンティティを意識せず生きるべきかの葛藤を知る
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「強盗や立てこもり事件などにおいて、人質が犯人に好意・共感を抱いてしまう状態」を「ストックホルム症候群」と呼ぶのだが、実はそう名付けられる由来となった実際の事件が存在する。実話を基にした映画『ストックホルムケース』から、犯人に協力してしまう人間の不可思議な心理について知る
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「共感」が強すぎる世の中では、自然と「想像力」が失われてしまう。そうならないようにと意識して踏ん張らなければ、他人の価値観を正しく認めることができない人間になってしまうだろう。映画『ミセス・ノイズィ』から、多様な価値観を排除しない生き方を考える
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【実話】正論を振りかざす人が”強い”社会は窮屈だ。映画『すばらしき世界』が描く「正解の曖昧さ」
「SNSなどでの炎上を回避する」という気持ちから「正論を言うに留めよう」という態度がナチュラルになりつつある社会には、全員が全員の首を締め付け合っているような窮屈さを感じてしまう。西川美和『すばらしき世界』から、善悪の境界の曖昧さを体感する
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【誠実】地下鉄サリン事件の被害者が荒木浩に密着。「贖罪」とは何かを考えさせる衝撃の映画:『AGANAI…
私には、「謝罪すること」が「誠実」だという感覚がない。むしろ映画『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』では、「謝罪しない誠実さ」が描かれる。被害者側と加害者側の対話から、「謝罪」「贖罪」の意味と、信じているものを諦めさせることの難しさについて書く
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【再生】ヤクザの現実を切り取る映画『ヤクザと家族』から、我々が生きる社会の”今”を知る
「ヤクザ」を排除するだけでは「アンダーグラウンドの世界」は無くならないし、恐らく状況はより悪化しただけのはずだ。映画『ヤクザと家族』から、「悪は徹底的に叩きのめす」「悪じゃなければ何をしてもいい」という社会の風潮について考える。
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アメリカには「民営刑務所」が存在する。取材のためにその1つに刑務官として潜入した著者が記した『アメリカン・プリズン』は信じがたい描写に溢れた1冊だ。あまりに非人道的な行いがまかり通る狂気の世界と、「民営刑務所」が誕生した歴史的背景を描き出すノンフィクション
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【救い】耐えられない辛さの中でどう生きるか。短歌で弱者の味方を志すホームレス少女の生き様:『セー…
死にゆく母を眺め、施設で暴力を振るわれ、拾った新聞で文字を覚えたという壮絶な過去を持つ鳥居。『セーラー服の歌人 鳥居』は、そんな辛い境遇を背景に、辛さに震えているだろう誰かを救うために短歌を生み出し続ける生き方を描き出す。凄い人がいるものだ
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2人を殺し、7人に重傷を負わせた金川真大に同情の余地はない。しかし、この事件を取材した記者も、私も、彼が殺人に至った背景・動機については理解できてしまう部分がある。『死刑のための殺人』をベースに、「どうしようもないつまらなさ」と共に生きる現代を知る
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ガンを患い、余命宣告され、もう治療の手がないと言われれば絶望を抱くだろう。しかし医師は、治療しない方が長生きできることを知って提案しているという。現役医師・久坂部羊の小説『悪医』をベースに、ガン治療ですれ違う医師と患者の想いを知る
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12歳で数学の未解決問題を解いた天才児は、3歳の時に「16歳で靴紐が結べるようになったらラッキー」と宣告されていた。専門家の意見に逆らって、重度の自閉症児の才能をどう開花させたのかを、『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』から学ぶ
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実際にチェコの警察を動かした衝撃のドキュメンタリー映画『SNS 少女たちの10日間』は、少女の「寂しさ」に付け込むおっさんどもの醜悪さに満ちあふれている。「WEBの利用制限」だけでは子どもを守りきれない現実を、リアルなものとして実感すべき
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こんな映画、二度と存在し得ないのではないかと感じるほど衝撃を受けた『娘は戦場で生まれた』。母であり革命家でもあるジャーナリストは、爆撃の続くシリアの街を記録し続け、同じ街で娘を産み育てた。「知らなかった」で済ませていい現実じゃない。
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39歳で餓死した男性は、何故誰にも助けを求めなかったのか?異常な視聴率を叩き出した、NHK「クローズアップ現代」の特集を元に書かれた『助けてと言えない』をベースに、「自己責任社会」の厳しさと、若者が置かれている現実について書く。
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「良い子でいなきゃいけない」と感じ、本来の自分を押し隠したまま生きているという方、いるんじゃないかと思います。私も昔はそうでした。「良い子」の呪縛から逃れることは難しいですが、「なりたい自分」をどう生きればいいかを、『わたしを見つけて』をベースに書いていきます
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どう生きるべきか・どうしたらいい【本・映画の感想】 | ルシルナ
どんな人生を歩みたいか、多くの人が考えながら生きていると思います。私は自分自身も穏やかに、そして周囲の人や社会にとっても何か貢献できたらいいなと、思っています。…
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