目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 「掃除」や「給食の配膳」など「教育以外の活動」を児童が行わない諸外国では、「日本式教育」は特異的に見えているらしい
- 「コロナ禍の小学校に密着する」という超ハードルの高い撮影をやり切って生み出された作品
- 地域や世代の違いによっても「当たり前」は異なるはずなので、観た人同士でそういう会話をするのも面白いだろう
日本の公立小学校に通い、中学高校はインターナショナルスクールに、そしてアメリカの大学に進学した監督が「日本式教育」をじっくりと描き出す
自己紹介記事
あわせて読みたい
ルシルナの入り口的記事をまとめました(プロフィールやオススメの記事)
当ブログ「ルシルナ」では、本と映画の感想を書いています。そしてこの記事では、「管理者・犀川後藤のプロフィール」や「オススメの本・映画のまとめ記事」、あるいは「オススメ記事の紹介」などについてまとめました。ブログ内を周遊する参考にして下さい。
あわせて読みたい
【全作品読了・視聴済】私が「読んできた本」「観てきた映画」を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が『読んできた本』『観てきた映画』を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本・映画選びの参考にして下さい。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
「私たちが経験したごく当たり前の小学校生活」を映し出すだけの映画『小学校~それは小さな社会~』は、日本以外の国の人には「衝撃的」に見えるらしい
日本で生まれ育った者には「当たり前」過ぎる日常を捉えた本作『小学校~それは小さな社会~』は、一体何が評価されているのだろうか?
本作『小学校~それは小さな社会~』は、ごくごく一般的な公立小学校の日常風景を捉えただけの作品である。私も含め、日本で生まれ育ってきた人(国籍に限らず)にとっては正直、「当たり前の光景」でしかないと思う。後で触れるが、コロナ禍に撮影が行われたこともあり多少の例外はあるものの、そのことは別に大した問題ではないはずだ。映し出されている大枠の日常、つまり、「掃除」「給食の配膳」「運動会の練習」などは、地域や年代によって多少の違いはあるにせよ、「大体こんな感じだったよね、小学校って」と誰もが感じるのではないかと思う。
あわせて読みたい
【衝撃】「きのくに子どもの村学園」に密着する映画『夢見る小学校』は、「義務教育」の概念を破壊する…
驚きの教育方針を有する私立小学校「きのくに子どもの村学園」に密着する映画『夢見る小学校』と、「日本の教育にはほとんどルールが無い」ことを示す特徴的な公立校を取り上げる映画『夢見る公立校長先生』を観ると、教育に対する印象が変わる。「改革を妨げる保護者」にならないためにも観るべき作品だ
しかしそんな映画が、フィンランドではたった1館での上映から始まって20館にまで拡大、4ヶ月に渡るロングランを記録しており、さらに、他にも様々な国で公開され、評判を集めているのだそうだ。では一体、この「当たり前でしかない光景」の何に反応しているのだろうか?
さて、私は鑑賞後に本作の公式HPを見て初めて知ったのだが、「TOKKATSU」という英語が存在するのだという。もちろん日本語由来なのだが、元の言葉が何か分かるだろうか? これは「特活」、つまり「特別活動」から来ているのだそうだ。ではそもそも「特別活動」とは何なのか。それは「教科・学科外の活動」であり、分かりやすいところで言えば「掃除」や「給食の配膳」などを指している。
そうどうやら、「児童が自ら掃除や給食の配膳をする」というのは、世界的に見るととても珍しいことなのだそうだ。全然知らなかった。「TOKKATSU」という単語が生まれるくらい、「教科・学科外の活動も行う」という「日本式教育」は世界的に注目されているのである。そのため、「私たちには当たり前だった日常」がただ映し出されているだけの映画が、色んな国で評価されているというわけだ。
あわせて読みたい
【社会】学生が勉強しないのは、若者が働かないのは何故か?教育現場からの悲鳴と知見を内田樹が解説:…
教育現場では、「子どもたちが学びから逃走する」「学ばないことを誇らしく思う」という、それまでには考えられなかった振る舞いが目立っている。内田樹は『下流志向』の中で、その原因を「等価交換」だと指摘。「学ばないための努力をする」という発想の根幹にある理屈を解き明かす
そんな映画を撮影したのが、監督の山崎エマである。彼女はイギリス人の父を持つハーフなのだが、日本で生まれ育ち日本の公立小学校を卒業した。しかし、中学・高校はインターナショナルスクールに通い、さらにアメリカの大学に進学したのだそうだ。そんな彼女を紹介する文章が公式HPに掲載されており、本作の制作動機にも関わってくると思うので紹介しておくことにしよう。
ニューヨークに暮らしながら彼女は、自身の“強み”はすべて、公立小学校時代に学んだ“責任感”や“勤勉さ”などに由来していることに気づく。
「6歳児は世界のどこでも同じようだけれど、12歳になる頃には、日本の子どもは“日本人”になっている。すなわちそれは、小学校が鍵になっているのではないか」との思いを強めた彼女は、日本社会の未来を考える上でも、公立小学校を舞台に映画を撮りたいと思った。
あわせて読みたい
【挑発】「TBS史上最大の問題作」と評されるドキュメンタリー『日の丸』(構成:寺山修司)のリメイク映画
1967年に放送された、寺山修司が構成に関わったドキュメンタリー『日の丸』は、「TBS史上最大の問題作」と評されている。そのスタイルを踏襲して作られた映画『日の丸~それは今なのかもしれない~』は、予想以上に面白い作品だった。常軌を逸した街頭インタビューを起点に様々な思考に触れられる作品
日本で生まれずっと生活していると、「日本の小学校が特殊だ」と感じる機会はなかなかないだろう。しかし彼女は、後に「日本的教育」から離れたことで「日本的教育」の特殊さに気づくことが出来たのである。そんなわけで、本作のようなドキュメンタリーが生まれたというわけだ。
彼女はもちろん日本的な感覚を持っているので、日本で生まれ育った人が本作を観た場合には「当たり前だよね」という感想になる。しかし彼女は同時に外国人視点も持っているので、恐らくだが「外国人には奇妙に見えるポイント」も熟知しているのだと思う。そのため、日本人(今後もこの記事においては、「日本人」という表記は「日本で生まれ育った人」という意味に受け取ってほしい)にはまったく違和感のない映像に外国人は違和感を抱きまくる、みたいなことになっているんじゃないだろうか。
私は今ここで説明してきたようなことをまるで知らないまま本作を観たわけだが、知った上で観る方がより興味深く鑑賞できるかもしれない。
あわせて読みたい
【史実】太平洋戦争末期に原爆を落としたアメリカは、なぜ終戦後比較的穏やかな占領政策を取ったか?:…
『八月十五日に吹く風』は小説だが、史実を基にした作品だ。本作では、「終戦直前に原爆を落としながら、なぜ比較的平穏な占領政策を行ったか?」の疑問が解き明かされる。『源氏物語』との出会いで日本を愛するようになった「ロナルド・リーン(仮名)」の知られざる奮闘を知る
コロナ禍に膨大な時間カメラを回し続けて作られた作品
先ほど少し触れた通り、本作の撮影はコロナ禍の真っ只中に行われている。「意図的にコロナ禍を狙った」なんてことはまずあり得ないと思うので、不可抗力でそうなってしまっただけだろうが、ある意味ではそのことによって、日本人にとっても興味深さがプラスされていると思う。コロナ禍のまさに規制が厳しかった時期に小学生の子どもを育てたりしていない限り、「コロナ禍における学校生活」を知る機会などなかなかないはずだからだ。
しかし本当に、コロナ禍の子どもたちは大変だっただろうなと思う。みんなマスクしているのは当然として、「給食の時間はシールドを立てて黙食」みたいなことも知識としては知ってはいたが、「入学式の校歌斉唱の際に『心の中で歌って下さい』とアナウンスがあったこと」にはかなりビックリした。「確かにそういう対策しかないか」と思いつつも、「心の中で歌う」というフレーズの響きがちょっと異様な感じがしてしまい、驚かされてしまったのだ。
また、クラスを半分に分けて「登校組」と「リモート組」に分けるなどの対策も行われていたが、「小学生のリモート授業」なんてメチャクチャ大変だっただろうなと思う。子どもや親も慣れない状況に四苦八苦しただろうが、先生も相当苦労したはずだ。そんなわけで本作では、「概ね当たり前の日常」が映し出されつつ、「観客の誰も経験したことがない小学校生活」も垣間見えるわけで、表現が適切ではないかもしれないが、そういう部分はかなり興味深く観れるのではないかと思う。
あわせて読みたい
【生きる】志尊淳・有村架純が聞き手の映画『人と仕事』から考える「生き延びるために必要なもの」の違い
撮影予定の映画が急遽中止になったことを受けて制作されたドキュメンタリー映画『人と仕事』は、コロナ禍でもリモートワークができない職種の人たちを取り上げ、その厳しい現状を映し出す。その過程で「生き延びるために必要なもの」の違いについて考えさせられた
そしてさらに言えば、どう考えたって死ぬほど大変だっただろうコロナ禍の時期に、ある意味で「余計な仕事」でしかない「撮影スタッフの受け入れ」を決断した小学校もやはり凄い。この企画は、撮影をOKしてくれる小学校が見つからなければ始まらないわけで、まずはその部分でメチャクチャ苦労したんじゃないかという気がする。また公式HPには本作へのコメントが多数掲載されているのだが、その中に、「ジャーナリスト・フジテレビ解説員 鈴木款」という人が、次のように書いている文章があった。
「よくこんな映像が撮れたなあ」学校の取材は難しい。この作品ができたのは監督スタッフの熱意が先生や子どもたち、保護者に伝わり信頼関係がつくられたからだ。
恐らくだが、「学校の取材は難しい」というのは、実際に取材をしたことがあるからこその実感なのだと思う。ただでさえ学校の取材は難しいのに、さらにコロナ禍だったのだ。先ほど「コロナ禍を狙ったわけではないはず」という推測に触れたが、そうだとすれば「企画を立ち上げ、資金を集め、色々準備をしていたらコロナ禍になってしまった」みたいなことなのだと思うし、だとすれば、通常の何倍もの労力が必要になったのではないかという気がする。そんな想像を抱かせる作品だった。
あわせて読みたい
【日常】映画『大きな家』(竹林亮)は、児童養護施設で「家族」と「血縁」の違いや難しさに直面する
児童養護施設に長期密着した映画『大きな家』は、映画『14歳の栞』で中学2年生をフラットに撮り切った竹林亮が監督を務めたドキュメンタリーである。子どもたちの過去に焦点を当てるのではなく、「児童養護施設の日常風景」として彼らを捉えるスタンスで、その上でさらに「家族のあり方」に対する子どもたちの認識が掘り下げられる
本作の制作にあたって、監督は現場で4000時間を過ごしたそうだ。仮に1日10時間と計算しても1年以上である。恐らくそうやって、教員や児童たちと信頼関係を築いていったのだろう。さらに、実際の撮影は1年の内の150日間、カメラを回した時間は700時間に及んだという。
相当な労力が費やされたわけだし、そしてそんな作品が「ごく一般的な日本人には『当たり前』に見える」というのも、面白いポイントと言えるかもしれない。
「当たり前」の中にいくつかあった、私が驚かされた描写について
さて、私が本作で最も好きなのは、「教師が児童を泣かせるぐらい怒っていたシーン」である。この学校では毎年、「新1年生を迎える演奏会」を行っており、「楽器を演奏する児童は挙手制、希望する人が複数いればオーディションを開く」というやり方をしているようだ。そして「オーディションで選ばれたにも拘らず、普段から練習しているようには思えない女の子が、そのことについて教師から厳しく問い詰められる」みたいなシーンがあったのである。
あわせて読みたい
【斬新】フィクション?ドキュメンタリー?驚きの手法で撮られた、現実と虚構が入り混じる映画:『最悪…
映画『最悪な子どもたち』は、最後まで観てもフィクションなのかドキュメンタリーなのか確信が持てなかった、普段なかなか抱くことのない感覚がもたらされる作品だった。「演技未経験」の少年少女を集めての撮影はかなり実験的に感じられたし、「分からないこと」に惹かれる作品と言えるいだろうと思う
正直私の中には、「教師は親からのクレームを恐れて、子どもたちを厳しく指導しない」みたいな印象があったし、さらにこの状況はカメラで撮影されてもいるわけで、そういう色んな要素が絡まり合って「ちゃんと怒るんだなぁ」という感覚になった。個人的にはとても良いことだと思う。作中にはこのシーンに限らず、「教師が児童に厳しく接するシーン」が随所に存在する。そしてそのことは、「教師と児童、そして教師と保護者の間に信頼関係がきちんとあること」を示していると思うので、そういう意味でも素敵だなと感じた。
さらに作中には、「先生たちの本気」が垣間見える場面もある。「厳しい指導」がしにくい時代になっているような印象を持っていたが、やはり教師には「厳しくすべき場面では厳しくしないと」という感覚があるようで、その線引きについて話し合っていたのだ。さらに、修学旅行なのか林間学校なのか分からないが、旅館のような場所で先生たちが「指導とは?」みたいな議論を熱く行っているシーンがあったりと、「教育に対する熱量」が感じられたのも凄く良かったなと思う。
あと、これは私が通っていた学校にはなかったので驚いたのだが、「下駄箱への靴の入れ方を児童が採点する」なんてシーンがあった。たぶん日々当番が決まっていて(あるいは、それ専用の係があったりするのだろうか?)、「◯◯さんは花マル、◯◯さんは三角」みたいな評価をチェックシートに書いていたのだ。さらに最終的に、靴箱の様子をタブレットで撮影までしていた。
あわせて読みたい
【思考】「”考える”とはどういうことか」を”考える”のは難しい。だからこの1冊をガイドに”考えて”みよう…
私たちは普段、当たり前のように「考える」ことをしている。しかし、それがどんな行為で、どのように行っているのかを、きちんと捉えて説明することは難しい。「はじめて考えるときのように」は、横書き・イラスト付きの平易な文章で、「考えるという行為」の本質に迫り、上達のために必要な要素を伝える
そしてそんなチェックがされているからだろう、子どもたちには、自分の靴だけじゃなく、自分の靴箱の近くの靴の入れ方も直してあげるみたいな習慣が身についているようだ。この小学校だけの独自のスタイルなのかもしれないが、こんなチェックをしているなんてちょっとビックリしてしまった。
さらに、何となく知識として知ってはいたものの、子どもたちが「男女関係なしの『さん』付け」で呼び合っていたことも、個人的にはとても印象的だったなと思う。先生が「さん」付けで呼ぶのはもはやルールとして決まっているのだと思うが、児童同士も「さん」付けなのは決まり事だったりするのだろうか? もちろん、先生が「さん」付けで呼んでいれば、児童同士も自然とそうなるとは思う。ただ、小学校に入る前から知っている幼馴染みたいな存在もいるはずだし、そういう場合はどうなるんだろうか。もしも「児童同士も『さん』付け」がルールとして決まっているなら、「学校外では『くん・ちゃん』付けで呼ぶ」みたいなことになるのかもしれないが、さすがにそれは不合理過ぎるように思う。あるいは、幼稚園とか保育園でももはや「さん」付けがデフォルトで、子どもたちはもう「くん・ちゃん」で呼び合ったりしないんだろうか?
私は結婚していないし子どももいないので、こんなことをあーだこーだ考えているだけなのだが、こういう部分から時代の変化が感じ取れるのもまた面白いものだなと思う。
また、これは本作を観る前から知っていたことではあるのだが、小学校(中学校もだろうか?)の机と椅子の脚にテニスボールを履かせている光景は、最初あまりにも見慣れなくてビックリした。フィクション映画で初めてその光景を目にしたので、「このテニスボールはもしかして、何かの伏線なんだろうか?」と感じたほどである。実際には、「机や椅子を移動させる際の音や振動を軽減する」ために付けているらしく「へぇ」という感じだった。私が小学生の頃にはなかったものなので、どこかのタイミングで「当たり前の光景」に変わったのだと思うが、見た目のインパクトがとても強く、初めて見たた時は本当に驚かされたことを覚えている。
あわせて読みたい
【感想】映画『若おかみは小学生!』は「子どもの感情」を「大人の世界」で素直に出す構成に号泣させられる
ネット記事を読まなければ絶対に観なかっただろう映画『若おかみは小学生!』は、基本的に子ども向け作品だと思うが、大人が観てもハマる。「大人の世界」でストレートに感情を表に出す主人公の小学生の振る舞いと成長に、否応なしに感動させられる
こんな風に「当たり前」の中にもグラデーションがあるので、そういう部分を見つけて誰かと話してみるのも面白いかもしれない。
一切何の説明もしない構成と、「どんな風に撮影したんだろう?」という疑問
本作の特徴としては、「一切何の説明もしない」という点が挙げられるだろう。例えば、「教師が教室でルンバを走らせている」みたいな場面があるのだが、説明が無いので正直状況が良く分からなかった。なんとなく、「長期休みに入った後で大掃除を兼ねてルンバを走らせている」と受け取ったが、これが「学校のルール」なのか、あるいは「その教師が独自にやっていること」なのかもよく分からない。そもそも「教室にルンバ」というのもメチャクチャ違和感があったし、そういう部分も含めて印象的なシーンだった。
ただもしかしたら、「日本公開版では説明を省いている」みたいなことなのかもしれない。いや、そもそも「日本公開版」と「日本以外公開版」の2種類が存在するのかさえ知らないまま書いているのだが、「日本人には説明しなくたって大体分かるだろうし、説明があったらむしろ煩わしいんじゃないか」みたいな理由で説明を省いているみたいな可能性もあるんじゃないかと思う。ただ何となくだが、外国人に対しても説明なしで見せているような気もする。根拠は特にないが、「TOKKATSU」が注目されているのであればその理解はある程度広まっているとも考えられるし、あるいは、「日本式教育の良さって、説明しなくたって伝わるよね」みたいに監督が感じているとしたら、「敢えて説明を省く」みたいにした可能性もあるだろう。
あわせて読みたい
【協働】日本の未来は福井から。地方だからこその「問題意識の共有」が、社会変革を成し遂げる強み:『…
コンパクトシティの先進地域・富山市や、起業家精神が醸成される鯖江市など、富山・福井の「変革」から日本の未来を照射する『福井モデル 未来は地方から始まる』は、決して「地方改革」だけの内容ではない。「危機意識の共有」があらゆる問題解決に重要だと認識できる1冊
さて一方で、撮影そのものに対して不思議に感じる部分もあった。まずは「子どもたちがカメラに全然興味を示さないこと」だ。もちろん、「カメラ目線的なシーンは意識的にカットしている」のだろうし、またそもそも「長くカメラを回していれば、その存在が当たり前になってくる」という側面もあるとは思う。でも、本作は「1年間の小学校の様子」を映し出しているし、だとすれば「カメラにまだ慣れていない時期に撮った映像」だって使われているはずだ。それに、いくら慣れるといったって、小学1年生があんなにもカメラの存在を気にせずにいられるものなのかとも思う。また作中では度々、放送部の男女の姿が映し出されるのだが、この2人の雰囲気も凄く良かったし、この感じを「目の前にカメラがある」という状況で醸し出せているのは、個人的にはちょっと驚きだった。
また、「音声をどう録っているんだろう?」とも思う。「先生や児童にピンマイクでも付けているのか?」と思うぐらい、カメラから遠く離れた場所でのやり取りも記録されているのだ(もしかしたら、先生だけには付けている可能性はあるかもしれないが)。カメラに映らない場所でデカいガンマイクを構えているとも思えないし、そもそもそんなんじゃ拾えないぐらい遠くのやり取りもちゃんと録れている。これは、同種の密着系ドキュメンタリー映画でもよく感じることではあるのだけど、未だにどうやっているのかよく分からない。
そんなわけで、確かに「当たり前」が記録されている映画ではあるのだが、細かく見ていくと「どうなっているんだろう?」と感じるような場面もあり、興味深く鑑賞出来るのではないかと思う。
あわせて読みたい
【狂気?】オウム真理教を内部から映す映画『A』(森達也監督)は、ドキュメンタリー映画史に残る衝撃作だ
ドキュメンタリー映画の傑作『A』(森達也)をようやく観られた。「オウム真理教は絶対悪だ」というメディアの報道が凄まじい中、オウム真理教をその内部からフラットに映し出した特異な作品は、公開当時は特に凄まじい衝撃をもたらしただろう。私たちの「当たり前」が解体されていく斬新な一作
あわせて読みたい
【全作品視聴済】私が観てきたドキュメンタリー映画を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が観てきたドキュメンタリー映画を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非映画選びの参考にして下さい。
最後に
私は以前、中学生に密着した『14歳の栞』というドキュメンタリー映画を観たことがある。こちらもとても良い作品だったのだが、映画『14歳の栞』は「人物」に焦点を当てていたのに対し、本作『小学校~それは小さな社会~』は「環境としての小学校」に着目している点が大きく違うと言えるだろう。
あわせて読みたい
【現代】これが今の若者の特徴?衝撃のドキュメンタリー映画『14歳の栞』から中学生の今を知る
埼玉県春日部市に実在する中学校の2年6組の生徒35人。14歳の彼らに50日間密着した『14歳の栞』が凄かった。カメラが存在しないかのように自然に振る舞い、内心をさらけ出す彼らの姿から、「中学生の今」を知る
そんなわけで本作は、「日本の小学校はどのような環境なのか」がとても良く伝わる内容になっているし、それ故に外国人も興味を示しているということなのだろう。「外国人は何に惹かれているのか」を想像してみると、また違った面白さが見えてくる作品ではないかと思う。
あわせて読みたい
Kindle本出版しました!「文章の書き方が分からない」「文章力がないから鍛えたい」という方にオススメ…
「文章の書き方」についてのKindle本を出版しました。「文章が書けない」「どう書いたらいいか分からない」「文章力を向上させたい」という方の悩みを解消できるような本に仕上げたつもりです。数多くの文章を書き、さらに頼まれて文章を推敲してきた経験を踏まえ、「文章を書けるようになるにはどうしたらいいか」についての私なりの考えをまとめました。
次にオススメの記事
あわせて読みたい
【全力】嶋田鉄太、天才だろ!映画『ふつうの子ども』は環境問題に“暴走”する少年少女が超素敵
映画『ふつうの子ども』はまず、主演の嶋田鉄太の存在感が圧倒的な作品でした。メチャクチャ良い表情するんだよなぁ、この子。で、本作では「環境問題に猪突猛進な子どもたちの奮闘」が様々な喜怒哀楽と共に描かれます。そしてそんな彼らの眼差しが観客を含む「すべての大人たち」に向けられているという事実をちゃんと受け止めるべきでしょう
あわせて読みたい
【人】映画『風たちの学校』は、監督・田中健太の母校・黄柳野高校の“日常”と“異常”を素敵に映す
映画『風たちの学校』は、「不登校などの問題を抱えた子どもたちを受け入れる全寮制の高校」(本作監督の母校でもある黄柳野高校)を舞台に、主に2人の生徒に焦点を当てたドキュメンタリーだ。学校そのものに焦点が当たるわけではないのに、2人の生徒の日常から自然と「黄柳野高校の良さ」が浮かび上がる感じがとても素敵だった
あわせて読みたい
【実話】最低の環境で異次元の結果を出した最高の教師を描く映画『型破りな教室』は超クールだ
映画『型破りな教室』は、メキシコでの実話を基にした信じがたい物語だ。治安最悪な町にある最底辺の小学校に赴任した教師が、他の教師の反対を押し切って独自の授業を行い、結果として、全国テストで1位を取る児童を出すまでになったのである。「考える力」を徹底的に養おうとした主人公の孤軍奮闘がとにかく素晴らしい
あわせて読みたい
【日常】映画『大きな家』(竹林亮)は、児童養護施設で「家族」と「血縁」の違いや難しさに直面する
児童養護施設に長期密着した映画『大きな家』は、映画『14歳の栞』で中学2年生をフラットに撮り切った竹林亮が監督を務めたドキュメンタリーである。子どもたちの過去に焦点を当てるのではなく、「児童養護施設の日常風景」として彼らを捉えるスタンスで、その上でさらに「家族のあり方」に対する子どもたちの認識が掘り下げられる
あわせて読みたい
【歴史】映画『シン・ちむどんどん』は、普天間基地移設問題に絡む辺野古埋め立てを”陽気に”追及する(…
映画『シン・ちむどんどん』は、映画『センキョナンデス』に続く「ダースレイダー・プチ鹿島による選挙戦リポート」第2弾である。今回のターゲットは沖縄知事選。そして本作においては、選挙戦の模様以上に、後半で取り上げられる「普天間基地の辺野古移設問題の掘り下げ」の方がより興味深かった
あわせて読みたい
【問題】映画『国葬の日』が切り取る、安倍元首相の”独裁”が生んだ「政治への関心の無さ」(監督:大島新)
安倍元首相の国葬の1日を追ったドキュメンタリー映画『国葬の日』は、「国葬」をテーマにしながら、実は我々「国民」の方が深堀りされる作品だ。「安倍元首相の国葬」に対する、全国各地の様々な人たちの反応・価値観から、「『ソフトな独裁』を維持する”共犯者”なのではないか」という、我々自身の政治との向き合い方が問われているのである
あわせて読みたい
【絶望】安倍首相へのヤジが”排除”された衝撃の事件から、日本の民主主義の危機を考える:映画『ヤジと…
映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』が映し出すのは、「政治家にヤジを飛ばしただけで国家権力に制止させられた個人」を巡る凄まじい現実だ。「表現の自由」を威圧的に抑えつけようとする国家の横暴は、まさに「民主主義」の危機を象徴していると言えるだろう。全国民が知るべき、とんでもない事件である
あわせて読みたい
【狂気】入管の収容所を隠し撮りした映画『牛久』は、日本の難民受け入れ問題を抉るドキュメンタリー
映画『牛久』は、記録装置の持ち込みが一切禁じられている入管の収容施設に無許可でカメラを持ち込み、そこに収容されている難民申請者の声を隠し撮りした映像で構成された作品だ。日本という国家が、国際標準と照らしていかに酷い振る舞いをしているのかが理解できる衝撃作である
あわせて読みたい
【現実】映画『私のはなし 部落のはなし』で初めて同和・部落問題を考えた。差別はいかに生まれ、続くのか
私はずっと、「部落差別なんてものが存在する意味が分からない」と感じてきたが、映画『私のはなし 部落のはなし』を観てようやく、「どうしてそんな差別が存在し得るのか」という歴史が何となく理解できた。非常に複雑で解決の難しい問題だが、まずは多くの人が正しく理解することが必要だと言えるだろう
あわせて読みたい
【衝撃】「きのくに子どもの村学園」に密着する映画『夢見る小学校』は、「義務教育」の概念を破壊する…
驚きの教育方針を有する私立小学校「きのくに子どもの村学園」に密着する映画『夢見る小学校』と、「日本の教育にはほとんどルールが無い」ことを示す特徴的な公立校を取り上げる映画『夢見る公立校長先生』を観ると、教育に対する印象が変わる。「改革を妨げる保護者」にならないためにも観るべき作品だ
あわせて読みたい
【信念】凄いな久遠チョコレート!映画『チョコレートな人々』が映す、障害者雇用に挑む社長の奮闘
重度の人たちも含め、障害者を最低賃金保証で雇用するというかなり無謀な挑戦を続ける夏目浩次を追う映画『チョコレートな人々』には衝撃を受けた。キレイゴトではなく、「障害者を真っ当に雇用したい」と考えて「久遠チョコレート」を軌道に乗せたとんでもない改革者の軌跡を追うドキュメンタリー
あわせて読みたい
【実話】福島智とその家族を描く映画『桜色の風が咲く』から、指点字誕生秘話と全盲ろうの絶望を知る
「目が見えず、耳も聞こえないのに大学に進学し、後に東京大学の教授になった」という、世界レベルの偉業を成し遂げた福島智。そんな彼の試練に満ちた生い立ちを描く映画『桜色の風が咲く』は、本人の葛藤や努力もさることながら、母親の凄まじい献身の物語でもある
あわせて読みたい
【挑発】「TBS史上最大の問題作」と評されるドキュメンタリー『日の丸』(構成:寺山修司)のリメイク映画
1967年に放送された、寺山修司が構成に関わったドキュメンタリー『日の丸』は、「TBS史上最大の問題作」と評されている。そのスタイルを踏襲して作られた映画『日の丸~それは今なのかもしれない~』は、予想以上に面白い作品だった。常軌を逸した街頭インタビューを起点に様々な思考に触れられる作品
あわせて読みたい
【異様】西成のあいりん地区を舞台にした映画『解放区』は、リアルとフェイクの境界が歪んでいる
ドキュメンタリー映画だと思って観に行った『解放区』は、実際にはフィクションだったが、大阪市・西成区を舞台にしていることも相まって、ドキュメンタリー感がとても強い。作品から放たれる「異様さ」が凄まじく、「自分は何を観せられているんだろう」という感覚に襲われた
あわせて読みたい
【あらすじ】嵐莉菜主演映画『マイスモールランド』は、日本の難民問題とクルド人の現状、入管の酷さを描く
映画『マイスモールランド』はフィクションではあるが、「日本に住む難民の厳しい現実」をリアルに描き出す作品だ。『東京クルド』『牛久』などのドキュメンタリー映画を観て「知識」としては知っていた「現実」が、当事者にどれほどの苦しみを与えるのか想像させられた
あわせて読みたい
【不謹慎】コンプライアンス無視の『テレビで会えない芸人』松元ヒロを追う映画から芸と憲法を考える
かつてテレビの世界で大ブレイクを果たしながら、現在はテレビから完全に離れ、年間120もの公演を行う芸人・松元ヒロ。そんな知る人ぞ知る芸人を追った映画『テレビで会えない芸人』は、コンプライアンスに厳しく、少数派が蔑ろにされる社会へ一石を投じる、爆笑社会風刺である
あわせて読みたい
【生き方】改めて『いま、地方で生きるということ』を考える。「どこで生きる」は「どう生きる」に直結する
東日本大震災やコロナ禍などの”激変”を経る度に、「どう生きるべきか」と考える機会が増えるのではないだろうか。『いま、地方で生きるということ』は、「どこででも生きていける」というスタンスを軸に、「地方」での著者自身の生活を踏まえつつ、「人生」や「生活」への思考を促す
あわせて読みたい
【残念】日本の「難民受け入れ」の現実に衝撃。こんな「恥ずべき国」に生きているのだと絶望させられる…
日本の「難民認定率」が他の先進国と比べて異常に低いことは知っていた。しかし、日本の「難民」を取り巻く実状がこれほど酷いものだとはまったく知らなかった。日本で育った2人のクルド人難民に焦点を当てる映画『東京クルド』から、日本に住む「難民」の現実を知る
あわせて読みたい
【協働】日本の未来は福井から。地方だからこその「問題意識の共有」が、社会変革を成し遂げる強み:『…
コンパクトシティの先進地域・富山市や、起業家精神が醸成される鯖江市など、富山・福井の「変革」から日本の未来を照射する『福井モデル 未来は地方から始まる』は、決して「地方改革」だけの内容ではない。「危機意識の共有」があらゆる問題解決に重要だと認識できる1冊
あわせて読みたい
【見方】日本の子どもの貧困は深刻だ。努力ではどうにもならない「見えない貧困」の現実と対策:『増補…
具体的には知らなくても、「日本の子どもの貧困の現状は厳しい」というイメージを持っている人は多いだろう。だからこそこの記事では、朝日新聞の記事を再編集した『増補版 子どもと貧困』をベースに、「『貧困問題』とどう向き合うべきか」に焦点を当てた
あわせて読みたい
【危機】教員のセクハラは何故無くならない?資質だけではない、学校の構造的な問題も指摘する:『スク…
『スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』では、自分が生徒に対して「権力」を持っているとは想像していなかったという教師が登場する。そしてこの「無自覚」は、学校以外の場でも起こりうる。特に男性は、読んで自分の振る舞いを見直すべきだ
あわせて読みたい
【社会】学生が勉強しないのは、若者が働かないのは何故か?教育現場からの悲鳴と知見を内田樹が解説:…
教育現場では、「子どもたちが学びから逃走する」「学ばないことを誇らしく思う」という、それまでには考えられなかった振る舞いが目立っている。内田樹は『下流志向』の中で、その原因を「等価交換」だと指摘。「学ばないための努力をする」という発想の根幹にある理屈を解き明かす
あわせて読みたい
【助けて】息苦しい世の中に生きていて、人知れず「傷」を抱えていることを誰か知ってほしいのです:『…
元気で明るくて楽しそうな人ほど「傷」を抱えている。そんな人をたくさん見てきた。様々な理由から「傷」を表に出せない人がいる世の中で、『包帯クラブ』が提示する「見えない傷に包帯を巻く」という具体的な行動は、気休め以上の効果をもたらすかもしれない
あわせて読みたい
【絶望】権力の濫用を止めるのは我々だ。映画『新聞記者』から「ソフトな独裁国家・日本」の今を知る
私個人は、「ビジョンの達成」のためなら「ソフトな独裁」を許容する。しかし今の日本は、そもそも「ビジョン」などなく、「ソフトな独裁状態」だけが続いていると感じた。映画『新聞記者』をベースに、私たちがどれだけ絶望的な国に生きているのかを理解する
あわせて読みたい
【称賛?】日本社会は終わっているのか?日本在住20年以上のフランス人が本国との比較で日本を評価:『…
日本に住んでいると、日本の社会や政治に不満を抱くことも多い。しかし、日本在住20年以上の『理不尽な国ニッポン』のフランス人著者は、フランスと比べて日本は上手くやっていると語る。宗教や個人ではなく、唯一「社会」だけが善悪を決められる日本の特異性について書く
あわせて読みたい
【情報】日本の社会問題を”祈り”で捉える。市場原理の外にあるべき”歩哨”たる裁き・教育・医療:『日本…
「霊性」というテーマは馴染みが薄いし、胡散臭ささえある。しかし『日本霊性論』では、「霊性とは、人間社会が集団を存続させるために生み出した機能」であると主張する。裁き・教育・医療の変化が鈍い真っ当な理由と、情報感度の薄れた現代人が引き起こす問題を語る
この記事を読んでくれた方にオススメのタグページ
ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
教育・学校【本・映画の感想】 | ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
大人になって様々な本を読んだことで、「子どもの頃にこういう考えを知れたらよかった」「学校でこういうことを教えてほしかった」とよく感じるようになりました。子どもの…
タグ一覧ページへのリンクも貼っておきます
ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント