目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:ヴァンサン・カッセル, 出演:レダ・カテブ, 出演:エレーヌ・ヴァンサン, 出演:ブライアン・ミアロンダマ, 出演:マルコ・ロカテッリ, 出演:ベンジャミン・ルシュー, 出演:フレデリック・ピエロ, 出演:スリアン・ブラヒム, 監督:エリック・トレダノ, 監督:オリヴィエ・ナカシュ, Writer:エリック・トレダノ, Writer:オリヴィエ・ナカシュ
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
この記事の3つの要点
- どれだけ無謀な挑戦でも、「誰かのため」を貫いて信念を曲げない
- 「情熱」だけは、誰からもどこからも借りてこられない
- 凄まじい情熱を社会の中で活かすために、ルールの方が融通を利かせてもいいと思う
「ルール」は守られるべきだが、厳密すぎると誰も幸せになれない。難しい問いを楽しく突きつける作品だ
自己紹介記事
ルシルナ
はじめまして | ルシルナ
ブログ「ルシルナ」の犀川後藤の自己紹介記事です。ここでは、「これまでのこと」「本のこと」「映画のこと」に分けて書いています。
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
ルールは「ルール」のためではなく「人」のために存在すべきだ
「誰かのため」はかなり難しい
私は、一応自分の中の気持ちとしては常に、「誰かのためになるように生きていきたい」と考えている。その気持ちには、嘘はないつもりだ。
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しかしやはり、「誰かのため」はとても難しい。気持ちはあっても、行動に移すことは、簡単ではない。
映画の中に、こんなセリフがある。
世の中の人は二種類に分かれる。見向きもしない人と、それ以外よ。振り向いてくれる人は、ほんの一握り。だから、認可なんて関係ない。
できれば私も、「振り向く人」になりたいと思う。ただ、口で言うのは簡単だが、やはりハードルは高い。
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物語は、自閉症の人たちのケアを行う無認可施設を舞台に起こる。モデルとなる自閉症ケア施設は実在するし、この物語は実話を基にしているそうだ。
彼らは日々、自閉症の人たちが起こすトラブルへの対処に大わらわだ。例えば、「電車に乗っていると非常ベルを押してしまう自閉症の人」がいる。施設のスタッフが、非常ベルを押すなと何回言い聞かせても押してしまう。そしてその度に電車は止まり、彼らは平謝りする。
しかしそれでも施設のスタッフは、自閉症の人の自由を奪わないし、何かを強制させもしない。根気よく話をし、説得し、理解してもらおうとする。もちろん、全然上手くいかないのだが、彼らは、どれだけ謝らなければならなくなるとしても、そのやり方を変えない。
出来ないよなぁ、と思う。私には、そこまでのことはやはりできない。
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多くの施設では、薬で大人しくさせたり監禁したりすることが普通だそうだ。しかし、彼らはそうしない。そして、そうしないが故に、行政から目を付けられる。無認可の立場である彼らは、とても大きなジレンマに置かれているのだが、その話はもう少し後で書こう。
強制したらダメだ。説得するんだ
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新人スタッフのディランに対する研修で、主人公がこんな風に言う場面がある。彼らはとにかく、自閉症の人たちを、きちんと個人として扱う。
そしてやはり、彼らのように「情熱」を持つ人間をバックアップするために「ルール」は存在すべきではないか、と私は思いたい。
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「情熱」は誰かから借りてはこられない
彼らは、とにかく徹底的に自閉症の人たちと向き合い、社会の中できちんと生きていけるように寄り添おうとする。どれだけ不可能に思えても諦めず、無理を承知で成果の出ない日々を過ごし、僅かな可能性のために奮闘する。
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そして、そんなスタッフの努力に報いるように、自閉症の人たちも活き活きと頑張る。残念なことだが、恐らくそれまでは、自閉症というだけで真っ当に扱ってもらえる機会は少なかったことだろう。そんな中にあって、薬や監禁という手段を使わずに、社会の中に居場所を見つける努力をしてくれるのだ。
自閉症の人たちにとっては非常に良い環境だし、長い目で見れば社会全体にとってもプラスだろうと思う。
そして、そんな献身的な活動ができるのは、「情熱」があるからに他ならない。
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お金や施設や人手は、どこかから借りてくることができるかもしれない。しかし、「情熱」だけは無理だ。「情熱」は、それを内に強く強く秘めている人を見つける以外の方法はない。
映画に登場する医師は、主人公とその施設について、
彼らは、心と信念で動いている
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彼らは正しかった
という風に語る。まさにその通りだと思う。
絶対に曲げない信念を持ち続けている主人公は、だからこそ無二の存在であり、そんな風に他人に移植することが不可能な「情熱」を持つ人間はサポートされるべきだ、と思う。
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しかし、行政はそう判断しない。彼らの施設が無認可だからだ。施設の監査にやってきた役人は、「ほとんどの職員は無資格だそうですが」と聞く。それはとても大きな問題だ、という含みを込めて。この場面での主人公の返答は、非常に痛快であり、真理を衝いていると感じさせられる。
資格がありゃ、殴られても平気ってか?
知識だって、外から借りてこられるものだろう。もちろん、知識や資格も重要だ。軽んじているつもりはない。しかし、誰からも借りてはこられない「情熱」を持つ人間が最も適切な場所にいられるような仕組みを作ることが、行政の仕事なのではないか、とも感じる。
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「ルール」は守るべきだ。しかし、例外もある
私の「ルール」に対する考え方を述べてみる。
大前提として私は、「ルールは守るべきだ」と考えている。そして、「ルールに逆らう振る舞いをしたいのであれば、ルールを変える努力をしなければならない」とも感じている。
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例えば、薬物の使用などで芸能人が逮捕された際のコメントとして、「他人に迷惑を掛けていない(から別にいいじゃないか)」というようなものが出てくることがある。「薬物を買うことで暴力団の資金源になる可能性がある」など、まったく誰にも迷惑を掛けていないということはあり得ないと思うが、とりあえず迷惑を掛けていないということにしよう。
しかしその場合でも私は、「誰も傷つけていないのだからルールを破ってもいい」とは、当たり前だが思わない。「法律に反する行動を取りたいのなら、法律を変える努力をしろ」と思うからだ。
これが私の基本的なスタンスだ。
しかし、どんな物事にも常に例外はある。例えば独裁国家においては、「ルール(法律)」の方が一般的な社会常識に照らして間違っている場合も多くあるだろう。このように、「明らかにルールが間違っている」場合は例外といえる。
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そして、この映画で描かれる自閉症ケア施設に関しても、例外が当てはまると考えている。それは「ルールが誰も幸せにしない」場合だ。
行政は、「自閉症ケアを行うなら認可を取れ」というルールを定める。しかし、このルールは、特に重度の自閉症を抱える本人やその家族をまったく幸せにしない。
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重度であればあるほど、「認可された施設」は入所を断る。扱いが難しいからだ。適切な扱いができなければ認可の基準を満たせず、認可が取り消される可能性だってある。
施設に断られれば、家庭に閉じ込められることになり、正しいケアやサポートが得られないまま、本人もその家族も疲弊してしまう。そもそも家庭で対処できるようなレベルではないのだ。だから、無認可でも受け入れてくれる施設を探す。
つまり、「重度の自閉症を扱う施設」はどうしても無認可にならざるを得ない、ということになる。行政がルールを定めたことによって、このような問題が起こっているというわけだ。
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さらに、ルールを変える努力をするにしても、ルールが変わるまでに時間が掛かる。その間も、重度の自閉症の人たちは生きている。「ルールが変わるまで支援はできません」なんて言えるはずもない。だからこそ、ルール違反だと分かっていても、ルールを破り続けるしかないのだ。
また、「ルールを変える努力」とは何を指すのかも問題だ。彼らの場合は、「無資格の職員ばかりでも、独自のノウハウがあるので大丈夫です」と主張し、認めてもらうしかないだろう。となれば「独自のノウハウ」を実践するしかないわけだが、それは当然、ルールを破った行動になってしまうというわけだ。
このように、「大前提としてルールを守るべき」と考えているのだが、「どうしても例外は存在する」し、その例外に対しては杓子定規ではなく柔軟に対処しなければならない、と思っている。
ただし、役人の側を一方的に責めたいわけでもない。彼らは「ルールを守らせること」が仕事なのであり、その役割が緩んでしまえば、「ルールは守るべき」というスタンスそのものも緩んでしまう。ルールが守られていない場合、それを指摘せず放置すれば、他の部分で歪みが生じてしまいかねない。
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だから、この映画で提示される問題は、非常に難しいと感じた。善悪を簡単には判断できない。
しかし、映画を観て改めて実感したことがある。それは、「ルールとは、正しいことが行われるために存在する」ということだ。恐らく誰もが、主人公たちの活動を「正しい」と感じるだろう。であれば、その「正しい行動」をなんとか存続させるために、ルールの方が柔軟にならなければならない、という方向性だけは間違ってはいないはずだと思う。
そして彼らの行動を正しいと判断する最大の要因は、やはり「情熱」である。
「情熱」を持つ人間が、その力を最大限に発揮できる環境を用意することが、社会全体の使命ではないか。そんな風にも感じさせられた。
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映画の内容紹介
自閉症の人たちを支援する団体<正義の声>を運営するブリュノと、同じく自閉症の人たちへの社会教育を行う<寄稿>を運営するマリクは友人同士であり、彼らがこの物語の主人公である。
ブリュノは、何があっても自閉症の受け入れを断らない。ありとあらゆる施設で入所を断られた患者でも、ブリュノだけは無条件で受け入れてくれることを知っているからこそ、多くの人が彼を頼る。無くてはならない存在なのだ。
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しかし、施設の運営は容易ではない。職員への給料の支払いも綱渡りで、トラブルも日々頻発している。しかしブリュノは、とにかくあちこちで「何とかする」と口にし続け、無理やりにでもなんとか対処し続けてきた。
しかし今回こそそうはいかないかもしれない。監査があるのだ。保健局の連中によるいつもの監査ではない。今回は厚生省のエリートがやってくるという。会計担当から、この監査の件を真剣に考えておいてくれと念押しされるが、ブリュノはやはり日々のトラブルへの対応に追われて後回しにしてしまう。
中でも、ブリュノが<正義の声>を立ち上げるきっかけになったジョゼフの就職の件でかなり手こずっている。ジョゼフは今、一人で電車に乗る訓練の最中だが、いつも橋を渡っている途中で非常ベルを押してしまうのだ。毎度、鉄道警察に謝り倒している。
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また、新たに受け入れを要請されたヴァランタンは、自分の頭を壁に打ち付ける癖があり、常にヘッドギアを付けていなければならない。かなり厄介な患者だが、ブリュノは新米支援員のディランに担当させることにした。
しかしこのディラン、遅刻魔かつ言い訳魔で、かなりの問題児だった。支援員としてやっていけるのか、なかなか不安を抱かせる存在だ。しかしディランは少しずつヴァランタンと心を通わせていくようになり……。
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映画の感想
とても良い映画だった。ただもしかしたら、副題が内容を誤解させるかもしれない、とも感じた。
「政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話」という副題は、「弱小施設vs政府」という対立構造を強く意識させる。物語の展開も、この点を核として進んでいくのではないか、と予想する人もいるだろう。かくいう私も、その一人だ。
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しかし、映画はそのような構成ではなかった。基本的には、<正義の声>と<寄港>の日常を描き出す映画だ。どんな自閉症患者も受け入れ、薬も使わず監禁もせずに社会復帰を目指そうとするという、かなりと言っていいほど無謀な挑戦に果敢に挑んでいる者たちの、信念と情熱を熱く描き出す作品である。
先述したが、やはり私は、仮にルールを曲げることになったとしても、ブリュノやマリクのような人たちが支援されるような制度・世の中が必要だと思っている。
あくまでもルールというのは大枠でしかない。そして、大枠で物事を捉えるだけではどうしてもこぼれ落ちてしまう部分が出てくる。それをどこまで掬い取れるかが、「ルールを守らせる」だけではない行政のもう一つの役割と言っていいだろうと、この映画を観て強く感じた。
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映画を観る前は知らなかったが、公式HPによれば、電車の非常ベルを押してしまうジョゼフは実際に自閉症を抱えているそうだ。これにはなかなか驚かされた。自閉症の程度まで触れられていなかったが、実際に自閉症を抱えている人と共に映画の撮影を行うのは、なかなか困難を伴っただろう。
またHPには、主演の2人は撮影前に、モデルとなった団体で活動をしたと書かれていた。というか、主演の2人は監督から、「モデルの団体で2時間過ごしてほしい。それが出来ないなら、出演の話は無しだ」とオファーされたのだ、という。
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そう考えると、ジョゼフ以外にも、実際に自閉症を抱える人が映画に登場していると考えるのが自然だろう。
実際に自閉症の人たちと正面から向き合っている施設の面々も素晴らしいが、彼らにきちんと敬意を表し、役者に実際の活動に関わるところから始めた制作陣も見事だと感じさせられた。
出演:ヴァンサン・カッセル, 出演:レダ・カテブ, 出演:エレーヌ・ヴァンサン, 出演:ブライアン・ミアロンダマ, 出演:マルコ・ロカテッリ, 出演:ベンジャミン・ルシュー, 出演:フレデリック・ピエロ, 出演:スリアン・ブラヒム, Writer:エリック・トレダノ, Writer:オリヴィエ・ナカシュ, 監督:エリック・トレダノ, 監督:オリヴィエ・ナカシュ
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最後に
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「誰かのため」はとても難しいし、「振り向く人」にもなれないかもしれないが、せめて「無関心」にだけはならないように気をつけようと、改めて実感させられた。
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