【権利】「難民だから支援すべき」じゃない。誰でも最低限の安全が確保できる世界であるべきだ:『ファヒム』

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はじめに

この記事で取り上げる映画

出演:アサド・アーメッド, 出演:ジェラール・ドパルデュー, 出演:ミザヌル・ラハマン, 出演:イザベル・ナンティ, 出演:ピエール・ゴンム, 監督:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル, プロデュース:デボラ・べナッター, Writer:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます

今どこで観れるのか?

この記事の3つの要点

  • 「才能がある者は報われるべき」以前に、「才能が無くても安全は担保されるべき」だ
  • 世界中に安全ではない環境が残っているのは、我々の責任である
  • ファヒムの物語を例外として賞賛するのではなく、当たり前に変えていくべきだろう

特に「難民」に対しては、日本という国家の対応はお粗末に過ぎるので、日本人としては恥ずかしくなる

自己紹介記事

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません

誰もが安全に生きられる世界が実現しなければならない

「才能があるから認められるべき」と考えるのは間違いだと思う

この映画は、実話を基にしているという。どこまでが事実で、どこまでが創作なのかイマイチよく分からないが、物語の大枠である、「バングラデシュからやってきた難民の子どもがフランスのチェス大会で優勝し、家族と共にフランスの永住権を手に入れた」という部分は事実だろう。

こういう物語に触れるとやはり、「才能がある人間はきちんと報われるべきだ」「実力で権利を勝ち取ることができてよかった」などと考えてしまいがちだ。

しかし、そうじゃないそうじゃないと踏み留まる

彼が難民になったのは、彼のせいではない。自分のせいではないことについて、「才能や努力で這い上がらなければならない」と考えるのは間違っているはずだ

本当に考えるべきは、才能が無くても、努力しなくても、最低限の安全ぐらいは誰だって確保できるべき、ということだろう。

母国では安全を確保出来なかったからこそ、彼らはフランスへと逃げてきた。どんな境遇の人であれ、こんな経験をせざるを得ない世界は、やはりおかしい。

才能の有無ではないぞ」と、映画を観ながら、そして観た後も、意識的に考えるようにしていた。

世界が安全ではないのは、我々の責任

私は、安全を確保するために時間やお金や労力を費やしたことはほとんどないと思う。私が男性だからということはあるだろう。女性であれば、いくら日本といえども、安全に対する意識が皆無というわけにはいかないはずだ。しかしやはり、全世界的に比較しても、恐らく日本は圧倒的に安全な国で、だからこそ、「安全を確保するための努力」には、あまり想像が及ばない

しかし世の中には、常に砲弾が飛び交っている、あちこちに地雷が埋まっている、安全な飲み水を確保するためにかなりの距離を歩かなければならないなど、危険や不衛生と隣合わせの環境で生きている人もたくさんいる。そして、そのような悪環境は人々の心も蝕み、様々な犯罪が蔓延る社会になってしまうだろう。

「自分は安全な国に生まれ育ってラッキー」なんて思っている場合ではない。それらの悪環境は、我々先進国に生きる人間の「便利な生活」が生み出している可能性は十分にある。直接的にあるいは間接的に、私たちがただ便利な生活をすることで、彼らを苦しい環境に追いやってしまっているかもしれないということだ。

「SDGs」という呼び掛けの元、世界中の大きな問題を解決していこうという流れが生まれているし、若い世代ほど関心が高いとも言われている。そんな現状に対しては、これから少しずつ世の中は良くなっていくのかもしれない、と期待を抱く。私も、気持ちとしては常に「誰かのためになるような生き方をしたい」と思っているし、可能なら行動も起こせたらいいと思うが、自分一人を生き延びさせるので精一杯の生活しかできずに忸怩たる思いを抱くことはある。

ともかく、これは我々の責任なのだと、正しく認識すべきだと思っている。

映画のラストは、なかなか印象的だった。これが実際にあった出来事なのかは不明だが、もし事実なのだとしたらなかなかドラマティックだといえる。その中である人物がこんなことを言う。

フランスは、人権の国なのですか?
それとも、人権を宣言しただけの国なのですか?

とても良いシーンだった。そしてそれは、フランス以外の国の人間にだって突きつけられているはずだ。

自分の人権だけ確保されていて、満足ですか? と。

映画の内容紹介

ムハンマド一家は、政変に揺れるバングラデシュで穏やかではない日々を送っていた。そんな環境下でありながら、息子のファヒムは周辺でも有名なチェスプレイヤーであり、大人が相手をしても敵わないほどの実力を持っていた

国の情勢の変化を見ながら、両親はある決断をする。父・ヌラとファヒムだけ、フランスに行かせることにしたのだ。ファヒムには、「チェスのグランドマスターに会いに行こう」とだけ伝えて乗り気にさせ、本来の目的を悟らせないようにパリへと向かった。

元々どちらもフランス語は喋れなかったが、ファヒムはすぐに言葉を覚えた。しかし父親は語学の習得が覚束ない。そのせいで仕事探しも難航し、結局彼らは難民センターに頼ることになってしまう。難民申請が通れば家族を呼び寄せてフランスに移住できる。しかし、申請を1年以上待っている人もいるようで、簡単な道のりではない。

学校に通い始めたファヒムは、チェス教室にも足を運ぶようになる。コーチのシルヴァンは、かつて強豪を誇ったチェスプレイヤーであり、今では子ども相手にチェスを教えている人物だ。初めはシルヴァンのやり方に不満を抱いていたファヒムだったが、次第に同じ教室の仲間と打ち解け、チェスプレイヤーとしてもメキメキと力をつけていくことになる。

当然国内大会への出場が期待されるが、ファヒムには1つ大きな問題があった。国内大会への出場のためには、フランス国籍が必要なのだ。父親は、未だに仕事を見つけられず、難民申請も上手く行っていない。このままだとファヒムは大会に出られず、それどころか父子が引き剥がされてしまうことになってしまう……。

映画の感想

予想していたよりもずっと面白く衝撃的な映画で、非常に良かった

私は、基本的に映画館でしか映画を観ないし、観る映画を決める際には、その映画に関する情報をほとんど調べない。3行程度のあらすじを読むか、パンフレットをチラ見するぐらいでいつも何を観るか決めている。

この映画は、パンフレットなどの印象から、インド映画のようなポップな映画のイメージを持っていた。もちろん、そういう側面もかなりある。思わず笑ってしまうようなシーンは随所にあり、ポップな映画という印象が間違っていたわけでは決してない。

しかし、思っていた以上にシリアスな映画でもあった。「チェスが強い少年が勝ち上がっていく」みたいな単純な映画ではまったくなく、というかチェスのルールすら知らなくても観れるぐらいチェスの存在感は薄い。そしてチェスよりも重要なのは、ファヒムの母国バングラデシュの現状と、難民をどのように受け入れていくのか、という問題だ。

ファヒムは、結果から言えば、「才能があったから難民として認められた」と言ってしまっていいだろう。だからこそこうして、映画になるほどの物語として取り上げられるのだ。

しかし、このファヒムの顛末を「良かった」と感じる自分がいる一方で、そんな例外的な事象に焦点を当てても仕方ない、と考える自分もいる

日本は、難民申請が恐ろしく厳しい国で、世界全体と比べても比較にならないほど難民の受け入れ率が低い。そんな国の人間がとやかく言ったところで説得力の欠片もないわけだが、やはり、才能のあるなしに関係なく、不可抗力によって安全を確保できない人は救われるべきだ、と感じてしまった。

世界的に「自国優先」や「移民排斥」などの動きが高まっている。もちろん自国民にも困っている人はたくさんおり、先にそちらを助けるべきだろうと思う人もいるだろうし、なんで自分の生活を犠牲にして(つまり、税金の拠出を許容して)外国人を助けなければならないのだと感じる人もいると思う。

でも、そんな風に考えていたら、何も始まらないし、何も終わらないよな、と思う。

だから私は、「才能によって難民申請を勝ち得た少年の物語」に、感動してはいけない、と考える。いや、この映画は、とても良かったのだけれども。

映画全体としては、出てくる人物がなかなか魅力的だ。主人公のファヒムや、ちょっとダメダメな父親・ヌラを始め、チェス教室の面々もとてもいい。

コーチのシルヴァンは当初、とても嫌なヤツとして登場する。私は、「自分の正しさに疑問を抱けない人」がとにかく嫌いなのだが、シルヴァンというのはまさにそういう典型のような人物だ。非常にイライラさせられる。しかしシルヴァンも、映画の展開と共に色々と変わっていき、最終的には、ファヒムが奇跡を勝ち取るための重要な役回りを演じる人物でもあるのだ。

重たいものを突きつけられる作品ではあるが、エンタメ作品として楽しく観れる映画でもある

出演:アサド・アーメッド, 出演:ジェラール・ドパルデュー, 出演:ミザヌル・ラハマン, 出演:イザベル・ナンティ, 出演:ピエール・ゴンム, Writer:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル, 監督:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル, プロデュース:デボラ・べナッター
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最後に

たまたま運良く安全な世界に生まれることができた私たちにはなかなか想像できない世界が実際に存在し、そのような環境で厳しい生活を余儀なくされている人がいる。個人にできることは多くはないかもしれないが、少なくとも、自分が便利に生活することが、誰かの不利益に繋がっている可能性もある、という意識は、手放すべきではないだろうと改めて感じさせられた。

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