【驚愕】これ以上の”サバイバル映画”は存在するか?火星にたった一人残された男の生存術と救出劇:『オデッセイ』

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

出演:マット・デイモン, 出演:キウェテル・イジョフォー, 出演:ジェシカ・チャステイン, 出演:ジェフ・ダニエルズ, 出演:ショーン・ビーン, 監督:リドリー・スコット
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます

この記事の3つの要点

  • 6人のクルーの内1人が事故のため火星に取り残されてしまう
  • 「科学で生き延びる」と決意した主人公の驚異的なサバイバル術
  • マークを救出するために乗り越えなければならない大きな障害と、危険を顧みない勇敢さ

ほぼ現実と言っていいレベルのSF作品であり、そのリアリティに圧倒された

自己紹介記事

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません

映画『オデッセイ』は、「火星でのサバイバル」と「究極の救出劇」を描き出す、壮大なスケールとリアリティを両立させた傑作

凄まじい映画だった。ジャンル分けするなら「SF」なのだろうが、この映画に登場する科学技術はすべて、現代の科学の知見の範囲内で描かれている。火星への有人飛行も実際に計画されているはずだ。だから、確かにSFではあるのだが、現実がもうすぐそこに追いつくことは間違いない。

だから作品のリアリティは圧倒的だった。「実話を基にしている」と表記されても不自然ではない作品だ

映画『オデッセイ』の内容紹介

アレス3で火星に到着し、長期滞在しながら調査を続けている6名。アキダリア平原を拠点に、各々がそれぞれの専門分野の知見を持ち寄りつつミッションを続けている。

ある時、異常を知らせる警告が鳴り響いた。予想よりも遥かに強大な嵐がアキダリア平原に迫っていると知らせているのだ。取り決めでは、7500ニュートンを超える力が加わる場合ミッションは中止とされている。しかしその嵐は8600ニュートンもの力をもたらすと予測されていたのだ。マーク・ワトニーは、誤差を含んだ数値だから様子を見るべきと主張するが、船長はミッションの中止を決断した。大嵐を突っ切って火星脱出用のロケットに乗船、地球への帰還を目指すと決まる。

視界ゼロの中、ロケットを目指す一行。そんな中、嵐に飛ばされた何らかの物体がマークに直撃、彼の宇宙服が破損したことを知らせる警告が届く。通信が途絶えたマークを探そうとする船長を他のクルーが止めた。ロケットは嵐によって倒壊寸前まで傾いている。宇宙服ももう限界に近い。マークは死んだ。そう判断して、残りの5人で火星を後にすることに決めた。

クルーから連絡を受けたNASAは、マークの死をマスコミに伝える。壮大な葬儀が執り行われ、「彼の死を無駄にしないためにも、NASAは今後も宇宙探査に注力していく」とNASA長官はスピーチした。

そんな長官は、衛星の使用許可を求める火星プロジェクトの統括責任者に「NO」と返す。統括責任者は、衛星を利用しマークの死を確かめて報告すべきだと主張するが、長官は「マークの死体が映る可能性がある衛星の使用」を認めないという立場を堅持した。それでも粘り強く説得を繰り返し、長官からどうにか衛星の使用許可を取り付ける。そして統括責任者は担当者に、アレス3のクルーがいた火星居住用のセル周辺をチェックするように指示をした。

そこで担当者は、信じがたい光景を目にすることになる。セル周辺の人工物が移動していたのだまさかマークが生きているというのだろうか……。宇宙服が破損した状態で生存できるはずもないが、それでもNASAは「マークは生きている」と判断した。ただちに救出作戦が立案され、さらに、どうにかしてマークと通信を取ろうと試みる。

素晴らしいことに、マークはどうにか生き延びていた。しかし彼は、残酷な現実に直面する。地球と火星のあまりの遠さ故に、次に火星に有人機が来られるのは4年後だ。生活していたセルは31日居住用でしかなく、当然備蓄食糧が尽きることも分かりきっている。

さらに、ただ生き延びるだけでは意味がない。彼は現状、地球と通信ができずにいる。自分が生きていることもどこにいるのかも伝えることができないのだ。この状況で地球への帰還を果たすためには、4年後にアレス4が着陸する予定地点に辿り着いていなければならない。それは、今マークがいる場所からなんと3500キロも離れている。

あらゆる状況が絶望的だ。しかしマークは決して諦めない。

科学を武器に生き残る

彼はそう決意し、科学的知見をフル活用して、目の前の問題を1つずつ解決していく……

マークが生き延びた方法を少しだけ紹介

さて、物語の設定や展開から容易に想定できる通り、マークは見事生き延び、地球への帰還を果たす。この事実は書いてしまってもネタバレではないだろう。さすがに、そうでなければ物語として成立しない。

映画の焦点は、「どうやって」にある。あらゆる状況が絶望的でしかない環境で、マークはどのように闘いに挑むのだろうか。少しだけ紹介することにしよう。

まず、食料の確保が重要だ。セルに備蓄されていた食料は、そのほとんどがパックされた「宇宙食」だっただろうが、「感謝祭」を祝うために持ち込んだじゃがいももあった。植物学者であるマークは、このじゃがいも使って「火星でのじゃがいも栽培」に挑むのである。

さて、食料以上に重要なのが水だ。セルには水再生機がある。とりあえずこれが故障しない限り、当面の生活に必要な水は確保できる。しかし問題は、じゃがいもを栽培するための水だ。マークは126㎡の畑を作ったのだが、この畑を維持するには1㎡につき40リットルもの水が要る。そんな大量の水を火星でどう生み出すか。彼は、船内に残っていたイリジウム、クルーの1人が残していった木製の十字架、そして化学の知識を使って大量の水を生み出すことに成功する。

こうやって、最低限生きていくだけの環境は整えた。しかしやはり、この状態を4年も続けていくことは相当困難と言わざるを得ないだろう。となれば、どうにかして地球と連絡を取らなければならない

しかしまあ、普通に考えれば不可能だろう。セルには通信できるような装置はなく、火星にあるもので自作することもできない。しかしマークは、あり得ないやり方でその不可能を可能にしてしまうのである。

映画は全体的になかなかスリリングなのだが、「いかに通信手段を確保するか」という点が、映画前半部における最大の焦点だと私は感じた。

不可能としか思えない救出作戦

さて、どうにか通信手段を確保したマークは、自身の現状を伝えられるようになった。格段の進歩と言える。こうなればあとは、NASAがマークを救出するプランを立てるだけだ

しかし当然だが、そう簡単な話ではない。火星までは片道2年掛かるほど絶望的な距離があり、この距離があらゆる可能性を阻んでしまう

もちろん、NASAは諦めずに可能性を追求する。マークを救える可能性はゼロに近いかもしれないが、それでも検討を諦めるわけにはいかない。

NASAはどうにか当座の案を作り上げ、不眠不休で準備を進めるが、結果としてそのプランは失敗に終わってしまった。それもあり、NASAの長官はこんな発言までする。

NASAの継続は、1人の命より重大だ。

かつて日本の首相はある事件に際して「1人の命は地球よりも重い」と発言したが、それとは真逆の発言だ。確かにマークの命は重要だが、しかしNASAを継続させることの方がさらに重要だというのである。実現の可能性が低い救出作戦のために膨大な資金をつぎ込み、さらに火星探査計画まで延期するべきなのか? 長官の発言はなかなか酷いが、しかし、大組織のトップとしてはそのような検討もしなければならないだろうと思う。

さて、NASAのプランが失敗に終わった後、紆余曲折あり、なんと新たに2つの救出作戦が浮上する。そして非常に興味深いのが、哲学の世界で有名だろう「トロッコ問題」がこの局面で出現することだ。マイケル・サンデルが『これからの「正義」の話をしよう』の中で提起し、大いに話題になったのを覚えている人もいることだろう。

著:マイケル・サンデル, 著:鬼澤 忍, 翻訳:忍, 鬼澤
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ブレーキの壊れたトロッコが、猛スピードで線路を走っている。その先に5人の作業員がおり、このまま進めば5人が命を落とすことは間違いない。一方、その途中に待避線があり、そちらに舵を切れば5人は助かる。しかし待避線上に作業員が1人おり、舵を切ればこの作業員が命を落としてしまう。さて、直進のままにすべきか、はたまた待避線へと舵を切るべきか。これが「トロッコ問題」だ

マークの救出作戦にも、この「トロッコ問題」と同じような状況が浮上する。人命というとても重いものに関して究極の選択をしなければならない状況が描かれるというわけだ。

そして最終的に、様々な人間の決断と勇気により、とある救出作戦が決行される。それまでも息詰まるシーンの多い映画ではあったが、最後の救出作戦はもう「固唾を呑んで見守る」という表現がしっくりくるような緊迫感に満ちあふれていた。「マークは救出される」と分かっていたとしても、「そんなの絶対ムリでしょ」という状況の連続にドキドキさせられてしまう。そして、様々な人間が勇気を振り絞ることであり得ない状況を乗り越えていく展開には見事の一言だ

「生き延びるために生き延びる」というテーマが強く打ち出される

エンドロールを眺めながら、「そういえば映画には、マークの家族が登場しなかったな」とふと感じた。とても意外ではないだろうか。

欧米の映画であれば特に、マークのような状況に置かれた人物の「家族とのやり取り」を描くように思う。「地球に帰還することを諦めそうになるマークを家族が鼓舞する」「家族のため、絶対に地球に戻ると決意する」といった要素を入れた方が、物語としては盛り上がるはずだからだ。

しかしこの映画には、そのような描写は一切ない。その潔さに感心した。

そのような設定にしたことで、「生き延びるために生き延びる」というマークの決意をより一層力強いものに感じさせてくれる。マークは、火星探査の未来のためでもなく、家族のためでもなく、「自分が生き延びたいと願うからこそ生き延びる」と決意しているのだ。家族を登場させないことで、火星という、他の人類の痕跡も、生きる希望も感じさせない茫漠とした環境で、「それでも生き延びる」と諦めずにいるその力強さが印象深くなったと思う。個人的には、家族とのやり取りを排した構成は非常に良いと感じた

ただ、マークは家族への想いを持っていないわけではない

ある場面でマークは、アレス3の船長に「自分が死んだら親に会いに行ってくれ」と頼む。酷な願いだと分かっているからこそ、船長に頼みたいのだ、と。そして、親にこのように伝えてほしいと告げるのだ

僕が死ぬのは大切なことのため。偉大なもののため。僕は喜んで命を捧げる。そう伝えてくれ。

マークは、どんな場面でも非常に冷静だ。取り乱すということがない。話は変わるが、私はかつて『宇宙飛行士選抜試験』という本を読んだことがある。JAXAでの宇宙飛行士選抜試験を取材したものだ。

著:大鐘 良一, 著:小原 健右
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宇宙飛行士に求められる能力は多岐に渡るが、その中でも「どんな状況においても平常心でいられるか」が非常に重要な要素として扱われていた。閉鎖的な環境で、同じ人間と長期間、限られた物資だけで生活を共にするという環境においては、「どんな状況になっても取り乱さない」というのが何よりも求められるそうだ。地球への帰還はまさに、マークが持つ「平常心」が実現させたと言っていいかもしれない。

地球に帰還したマークは、宇宙飛行士になるかもしれない若者に向けて

“もう終わりだ”と君たちは思うだろう。それを受け入れるのか闘うのか。それが肝心だ。

と語る。諦めなければ常に可能性が開けるのかと言えばそんなことはないだろう。しかし当然だが、諦めてしまえばそこで終了だ。そのことを改めて実感させてくれる。

そんなマークが、たった1度だけ感情を露わにする場面があった。具体的には触れないが、ありとあらゆる難題が起こり、様々な困難に直面せざるを得なかったマークが、たった1度激昂したのがこの場面だというのも、彼の人間性を表しているように思う。

自分が同じ状況に置かれた時、マークのように振る舞える自信はない。しかし、これからどんどん地球人が宇宙へと進出していけば、マークが直面したような状況に置かれる者も当然出てくるだろう。果たしてその時、彼のような冷静さを発揮できるものだろうか。

出演:マット・デイモン, 出演:キウェテル・イジョフォー, 出演:ジェシカ・チャステイン, 出演:ジェフ・ダニエルズ, 出演:ショーン・ビーン, 監督:リドリー・スコット
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最後に

この映画では、色んな意味で「信頼」がポイントとなる。あらゆる不可能を可能にするのが「信頼」なのだ。

現実的な科学技術の範囲内で描き出す、壮大であり得ない救出ミッションは、同時に、自分や他人を「信頼すること」の大事さも教えてくれるのである。

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