目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:フェリシティ・ジョーンズ, 出演:エディ・レッドメイン, 出演:ヒメーシュ・パテル, 出演:トム・コートネイ, Writer:ジャック・ソーン, Writer:トム・ハーパー, 監督:トム・ハーパー, プロデュース:トッド・リーバーマン, プロデュース:デヴィッド・ホバーマン, プロデュース:トム・ハーパー
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「天気を予測すること」に情熱を燃やしたせいで、科学者から嘲笑され続けたジェームズ
- 良家の子女でありながら、信念を持って冒険へと突っ走ったアメリア
- 2人の類まれな情熱が、不可能と思われる未来を切り開いた
凄まじい撮影手法と役者の奮闘、そして完全なレプリカの再現によって、とてつもない映像に仕上がった作品
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でも、傍観者には世界は変えられない。選んで生きる者が、変えられるのだ。
メチャクチャカッコいい物語だ。私たちが普段とてつもなくお世話になっている「天気予報」に、まさかこんな「冒険譚」があったとは想像もしなかった。
映画『イントゥ・ザ・スカイ』で描かれる者たちは、気球に乗り、酸素ボンベ無しで1万1277mまで到達した。酸素ボンベ無しの記録としては、現在も破られていない高さである。空を飛ぶジャンボジェット機の高度は1万m以上。ジャンボジェット機が飛ぶ世界を、生身の人間が体感したというわけだ。
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そしてこの無謀とも言える挑戦こそが、
最初の科学的天気予報の道を開いた。
のである。なんともワクワクさせられる実話なのだ。
「天気を予測する」ことなど不可能だと嘲笑われた時代に、その慧眼で歴史を切り開いた科学者がいた
舞台は1860年代。今から160年以上前のことだ。その頃、科学者を含めたほとんどの人がこう考えていた。
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いつ雨が降るか、予想できると思うのか?
この感覚は、私たちには理解できないだろう。既に、明日の天気どころか、数日先の天気までかなり確実に予測できる世界になっているからだ。もちろん、あくまでも「予測」であり、外れることもある。ただ、近い未来であればあるほど、かなり正確に天気を当てることが可能な時代に、私たちは生きているのだ。
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しかし当時は、「天気予報」は「占い」と同じ程度の扱いしかされなかった。”自称”気象学者だったジェームズ・グレーシャーは、イギリスの王立協会で「天気の研究に力を入れるべきだ」と力説するも、
カエルのことだってロクに分からないくせに、天気とは!
と、哄笑の渦を巻き起こすだけに終わってしまう。
科学の力を信じていた彼は、
混沌に秩序を見出すのが、科学者の責務では?
と訴えるが、「天気の予測なんてアホなことを」と言わんばかりの反応を示す科学者に嘲笑われてしまうのだ。
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映画の冒頭、まさに気球に乗らんとするジェームズは、
僕の人生は、笑われ通しだった。今日だけは、例外にしたかったね。
と冗談を口にする。彼がどれほど馬鹿にされ続けたのかがよく伝わる場面と言えるだろう。
私たちは、「科学技術が社会を激変させた世界」を生きている。だから、どれだけ荒唐無稽に思える未来予測でも、割と受け入れる余地があるはずだ。しかし、そうではない時代の人たちに、「鉄の塊に大勢の人が乗って空を飛ぶ」とか「小さな金属の箱で遠くの人と会話ができ、あらゆる情報が手に入れられる」などと言っても、とても信じなかっただろう。天気予報も、同じようなものだ。そんなこと不可能だと思われていた時代においては、まさに魔法そのものにしか感じられないだろう。
「科学」は常に、常識に抗い続けてきた。誰もが「無理だ」と反対したこと、あるいは、誰も頭の片隅に想像しさえしなかったこと、そういうことを「科学」は次々と成し遂げてきたのである。だから、新たな時代を作る科学者が、同時代を生きる人たちに理解されないのは当然だ。「青色発光ダイオード」も「透明マント」も、「理論的に不可能」と言われながらも、人間の想像力と努力がその不可能を成し遂げた。これからも人類は、様々な「不可能」を成し遂げていくことだろう。
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だからこそ、「ほとんどの人から反対されるような何かでなければ、時代を変えることなどできない」と言ってしまってもいいだろうと思う。ジェームズが成し遂げたのは、まさにそのような類のことなのだ。
好機ではない。義務です。世界を変える機会は、皆にはない。あなたは、義務を課せられたのです。
世界を変えるようなアイデアを頭に思い浮かべ、その実現に突き進む者にとって、その行動は「義務」である。これはかなりの極論ではあるが、確かにその通りかもしれないとも思う。その人がいなければ恐らく、未来の社会は変わらないのだから。それは人類のための「使命」なのであり、選ばれし者の生き方なのだ。
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私はとにかく、そういう人の邪魔だけはしないように生きていきたいし、もしも自分の近くにいるのなら、陰ながら応援したいとも思う。
映画『イントゥ・ザ・スカイ』の内容紹介
1862年のある日、2人はすべての準備を整え、ようやく待ちに待った日を迎えた。気球に乗り、空高くを目指すのだ。
意気込んでいるのは、科学者と冒険者。天気を予測しようと目論むジェームズ・グレーシャーと、かつて夫と共に「気球乗り夫妻」として知られていた気球操縦士のアメリア・レンだ。ジェームズは気球に様々な計測機器を持ち込み、上空のあらゆるデータを取るつもりでいるのだが、それ以上に2人には明確な目標があった。
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いかなる男女も到達したことのない高度へとたどり着くこと。
当時の気球の最高記録は、フランス人が打ち立てた高度7000mだった。彼らは、この記録を絶対に抜くと決めていたのである。
彼らの挑戦は、ある種のイベントとして扱われた。人付き合いが得意ではないジェームズとは対称的に、生粋のエンターテイナーでもあるアメリアは、
驚く準備はよくって?
今日歴史が作られる。皆さんは、その一部となるのです。
と、記録更新を前提に観客を煽りまくる。
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「空の規則を書き換えたい」と意気込むジェームズと、「優秀な気球乗りとして能力を示したい」と決意を胸にするアメリア。どちらもなかなか思い通りにはいかない人生の中で、常に低空飛行を強いられるような生き方をしてきたが、それでも、
少なくとも空は開放されている。
と前向きだ。鬱屈とした地上を離れ、彼らは天空に希望を見出していく……。
映画『イントゥ・ザ・スカイ』の感想
メチャクチャ良い映画だった。正直そこまで期待していなかったのだが、ストーリーも良かったし、映像の迫力も凄まじい。
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リアリティを追求した凄まじい撮影現場
映像に迫力があるのは、当然だ。公式HPには、こんなことが書かれている。
撮影はできる限り空中で行われた。最も命がけのシーンとなる、アメリアが気球の外面を登る場面も空中で撮影された。
もちろん、高度1万m地点というわけではないが、上空900m地点で撮影が行われたというだけでも十分驚きではないだろうか。ドバイにある世界一高いビルが828mであり、それよりも高い場所なのだ。そんなところで撮影するのは常軌を逸していると言っていいだろう。
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役者の身体の張りっぷりはそれだけではない。主人公2人を演じる役者は、高所における低酸素状態を体験するための訓練を受けているというのだ。また、気球が凍ってしまう高度における場面では、気球を取り囲むような冷却ボックスが用意され、役者の吐く息が白く濁るようにしたという。震えや青い唇はメイクなどではなく、テイクの合間に手を氷水に浸すなどして本物を追求したそうだ。
アメリアは、かなりアクロバティックなアクションをする場面が多いのだが、それらもスタントではなく女優本人が実際にやっているという。プロの空中曲芸師と何週間にも渡る訓練を行った後、実際に高さ600mに浮かべた気球の上で撮影を行ったそうだ。
私は映画を観ている時点ではこれらの情報を知らなかった。しかし、やはりリアリティを追求すると画面越しにそれが伝わるのだろう。とにかく映像が圧巻だった。史実を基にしたストーリーも、ジェームズとアメリアの関係性も良かったが、とにかく何よりも映像そのものに圧倒されたのである。正直、映像の凄まじさを体感するだけでも、この映画を観る価値は十分にあると言っていいと思う。
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また、映像で観て分かるわけではないこだわりについても感心させられた。なんと、この映画の撮影のためだけに、「完全に機能する、19世紀当時のガス気球のレプリカ」を作成し、それを実際に飛ばして撮影したのだそうだ。これまでも気球が登場する映画はたくさん存在したが、それらは「ガス気球っぽく見えるように作られた熱気球」だった。そしてこの映画では、世界で初めて、ガス気球のレプリカを多額のお金を投じて製作したのだという。HPには撮影を担当したカメラマンのコメントも載っており、次のように語っている。
カメラマンとして、本当に神からの贈り物のような映画に出会えた。
これだけ気合が入っていれば、良い映画になるのも納得だ。あらゆる要素に一切の妥協なく挑んだ、かなり挑戦的な映画だと言っていいだろう。
アメリアの生き様に惹かれる
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科学に関心がある私としては、最初の興味はやはりジェームズに向く。冒頭で触れた通り、誰もが不可能だと考えていた「天気を予測する」という偉大な一歩を踏み出した人物であり、その奮闘の様はとても興味深い。ジェームズの、科学に対して抱く信念や情熱は、この映画を魅力的にする1つの要素であることは間違いないだろう。
しかし映画全体で捉えた場合にはやはり、アメリアに惹かれる部分が強いと言える。
映画の中で明確に描かれるわけではないが、恐らく彼女は裕福で恵まれた家庭に生まれ育っているはずだ。妹が着ている服や自宅である屋敷の雰囲気などからそう感じる。そして当時は恐らく、「両家の子女は良い結婚を」みたいなものが強く求められる時代だっただろうとも思う。
しかしアメリアは、そんな時代の雰囲気に逆行する生き方を選ぶのだ。
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気球にばかりかぶれているアメリアに対して妹が、
少しは不安の声に耳を傾けて。
と気球に乗るのを止めさせようとしたり、「あなたの幸せを願っているの」という趣旨の発言をしたりする。
しかしアメリアは、
結婚して、男に尽くせってわけ?
とまったく聞く耳を持たない。彼女はとにかく、自分の力を試してみたいのだ。
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また、この時代を象徴するような場面もあった。アメリアはジェームズに会うために王立協会の敷地を歩いていたのだが、通りかかった男性から、女性が敷地を歩くことを咎められるシーンがあるのだ。「女なんかが科学に関わるな」と言わんばかりの態度である。そんなあからさまな男性優位の社会において、怯むことなく闘いを挑むアメリアの姿は、とても勇敢でカッコいい。
しかし彼女は、決して強いだけの女性ではない。
再び飛ぶ理由を、妹が知りたがった。
確かめたかったの。私の知識。彼に教わったこと。そして失ったこと。
すべてに意味はあったのだと。
アメリアは、とても大きなものを背負って気球に乗っているのだ。次のようなセリフもまた、彼女の決意と覚悟を感じさせるだろう。
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ジェームズもまた、とてもカッコいい男だ。地上に戻った彼は、王立協会での演説でこう宣言した。
この成功は、少しの寄付と、少しの協力と、そして、レン女史の非常な勇気によるものです。
この時代にあって、女性の功績を正しく喧伝する姿勢も素晴らしいと感じさせられた。
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