目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:落合陽一
¥631 (2021/08/20 23:22時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事で伝えたいこと
コンピュータは「ツール」ではない、と理解しなければ生き残れない
というか、生き残ることを諦めてもいいんじゃないか、と私は感じました
この記事の3つの要点
- 落合陽一は現状を、「映像による強制から解放された時代」と捉えている
- 分化する価値観を繋ぎ止める要素としてコンピュータが存在している
- そんな世の中で必要とされる「言語化する能力」と「専門性」
デジタルネイティブ世代こそ、どこに「欠落」があるのかに気づける作品だと思います
自己紹介記事
ルシルナ
はじめまして | ルシルナ
ブログ「ルシルナ」の犀川後藤の自己紹介記事です。ここでは、「これまでのこと」「本のこと」「映画のこと」に分けて書いています。
あわせて読みたい
オススメ記事一覧(本・映画の感想・レビュー・解説)
本・映画の感想ブログ「ルシルナ」の中から、「読んでほしい記事」を一覧にしてまとめました。「ルシルナ」に初めて訪れてくれた方は、まずここから記事を選んでいただくのも良いでしょう。基本的には「オススメの本・映画」しか紹介していませんが、その中でも管理人が「記事内容もオススメ」と判断した記事をセレクトしています。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
未来をどう生きるか、そして子どもに何を学ばせるか
本書の内容と読み方の注意
本書は、「現代の魔術師」と称されるメディアアーティスト・落合陽一が、コンピュータとインターネットが激変させる未来社会をどう生き抜くべきかについて、若い世代と、その若い世代に教育を行う立場の人に向けて提言をする作品だ。本書では、「クリエイティブ・クラス」として生き残るために、どんな能力を身につけるべきかについて、かなり具体的なことが書かれていく。
さてその上で、本書の読み方の注意を先にしておきたいと思う。それは、「ほとんどの人間にとって、『クリエイティブ・クラス』を目指すことは不可能だろう」ということだ。あくまで私の個人的な感想だが、本書を読むとそう感じてしまう。
つまり本書は、「『クリエイティブ・クラス』として生き残ることを諦める」ために読むべきではないか、と思うのだ。
あわせて読みたい
【天職】頑張っても報われない方へ。「自分で選び取る」のとは違う、正しい未来の進み方:『そのうちな…
一般的に自己啓発本は、「今、そしてこれからどうしたらいいか」が具体的に語られるでしょう。しかし『そのうちなんとかなるだろう』では、決断・選択をするべきではないと主張されます。「選ばない」ことで相応しい未来を進む生き方について学ぶ
もちろん、世の中にごく僅かに存在する本物の天才であれば、正しい努力や適切な選択によって、落合陽一が言う「クリエイティブ・クラス」として生き残っていくことはできるだろうと思う。しかし、私を含め、世の中の大多数の人には、たぶん無理ではないかと私は判断している。もちろん、目指すのは自由だし、誰も止めないだろうが、「クリエイティブ・クラス」として生き残るという超ハードな道を選ぶよりは、諦めてしまった方が楽ではないかと思うのだ。
著者は、
そのためこれからは、人間が「人工知能のインターフェイス」として働くことが多くなるでしょう
と、我々の未来を予測する。これは要するに、「人工知能が判断し、その判断に基づいて人間が動く」というイメージだ。今でも、例えば物流倉庫などでは、「AIが作業員に、ピックアップするルートと品物を指示し、人間がその指示通りに動く」というようなシステムが存在する。そしてこのようなシステムが社会全体に広まっていき、あらゆる場面で「AIの指示に人間が従う」という世の中になっていくだろう、と指摘するのだ。
あわせて読みたい
【驚嘆】この物語は「AIの危険性」を指摘しているのか?「完璧な予知能力」を手にした人類の過ち:『預…
完璧な未来予知を行えるロボットを開発し、地震予知のため”だけ”に使おうとしている科学者の自制を無視して、その能力が解放されてしまう世界を描くコミック『預言者ピッピ』から、「未来が分からないからこそ今を生きる価値が生まれるのではないか」などについて考える
そして著者が言う「クリエイティブ・クラス」というのは、AIに使われる人材ではなく、AIを動かす側の人材である。もちろん、そういう存在として生き残れればいいが、恐らく、ごく一部の天才がいれば「クリエイティブ・クラス」というのは事足りてしまうだろう。
だから本書は、我々が直面することになるだろう未来の姿をイメージし、そしてその中で「AIに使われる人材」として生きていく覚悟を決める、という読み方をする方がいいのではないか、と私は感じている。
また本書は、「明らかに誤った方向に進まない」という点でも読む価値があると言えるだろう。
本書には、こんな記述がある。
ですから若い世代は、いま自分がどんな時代に生きているのかを過去と比較して知ることも大事です。昔は何ができなくて、いまは何ができるのかを知らなければ、解決すべき問題を発見することも、そこに文脈をつけることもできません。生まれたときからパソコンもインターネットもスマートフォンもあると、「昔は何ができなかったのか」を直観的には理解しにくいものですが、それがわからないと、二十年後、三十年後にまた別の時代が訪れることも想像できないのです
著者は繰り返し、「『昔は何ができなかったか』を知ることも大事だ」と語る。どうしても我々は、これからの未来ばかり見ようとしてしまいがちだ。しかしそれでは、本当の意味で未来を理解することはできない。
私は、インターネットが存在していない時代のことをリアルに経験しているから、インターネットが社会をどう激変させたかを理解できている。しかしデジタルネイティブと呼ばれる世代は、インターネットが当たり前の世界に生きているからこそ、過去にどんな激変が起こったかを知らない。それは即ち、未来にどんな激変が起こりうるかを明確にイメージできない、ということでもあるのだ。それを正しく理解しなければ、明らかに誤った方向に進む可能性も高くなるだろう。
あわせて読みたい
【恐怖】SNSの危険性と子供の守り方を、ドキュメンタリー映画『SNS 少女たちの10日間』で学ぶ
実際にチェコの警察を動かした衝撃のドキュメンタリー映画『SNS 少女たちの10日間』は、少女の「寂しさ」に付け込むおっさんどもの醜悪さに満ちあふれている。「WEBの利用制限」だけでは子どもを守りきれない現実を、リアルなものとして実感すべき
著者の主張は、読む者を熱くさせるに違いない。特に若い世代であればあるほど、自分たちがこれからどんな経験ができるのかとワクワクするかもしれない。しかしある意味本書は劇薬であり、「誰もが『クリエイティブ・クラス』として残れるわけではない」という厳しい現実を突きつける作品でもあると感じる。
だからこそ、本書をこれから読もうという人は、「『クリエイティブ・クラス』を諦める」「明らかに誤った方向に進まない」という目的意識でページをめくってみるのもいいだろうと思う。
「クリエイティブ・クラス」として生き残らなければ人間としてダメなんだとしたら、未来はあまりに辛すぎる。
あわせて読みたい
【飛躍】有名哲学者は”中二病”だった?飲茶氏が易しく語る「古い常識を乗り越えるための哲学の力」:『1…
『14歳からの哲学入門』というタイトルは、「14歳向けの本」という意味ではなく、「14歳は哲学することに向いている」という示唆である。飲茶氏は「偉大な哲学者は皆”中二病”だ」と説き、特に若い人に向けて、「新しい価値観を生み出すためには哲学が重要だ」と語る
落合陽一の、現状の捉え方
落合陽一は、「映像」というキーワードで、「過去」と「今」を区別しようとする。
二十一世紀が来て十六年、今世紀のすでに六分の一を消費したいま、僕はやっと「ほんとうの二十一世紀」がやってきたような気がしています。ここで「ほんとうの二十一世紀」という言葉を使った意味は、前世紀の人類を支配していたパラダイム、映像によって育まれてきた共通の幻想を基軸としたパラダイムがようやく抜け落ちてきた、または変化してきたなという実感があるからです
これまでの世の中は、「映像」によって統一的なモノの見方・考え方が強制されていた、と著者は語る。著者がいう「映像」というのは、主に「テレビ」のことを指すだろう。様々な価値観が「テレビ」を通じて発信され、それを誰もが当たり前のものとして受け取ってきた、ということだ。
あわせて読みたい
【権威】心理学の衝撃実験をテレビ番組の収録で実践。「自分は残虐ではない」と思う人ほど知るべき:『…
フランスのテレビ局が行った「現代版ミルグラム実験」の詳細が語られる『死のテレビ実験 人はそこまで服従するのか』は、「権威」を感じる対象から命じられれば誰もが残虐な行為をしてしまい得ることを示す。全人類必読の「過ちを事前に回避する」ための知見を学ぶ
そしてその状況が、インターネットによって変わってきたと語る。インターネットの登場で統一的な価値観が解体され、人間の思考や見方はどこまでも分化していく。これは、生き方や価値観が細分化し、ロールモデルと呼べるような存在が成立しなくなった現代をまさに表現している。
価値観が分化し続ける状態を「社会」というまとまりのあるものとして捉えることは難しい。そして、このバラバラな価値観を「社会」という形で繋ぎ止めているものこそコンピュータだと著者は語る。かつては単なるツールでしかなかったものが、現在では、「社会」を構成する上で不可分の存在になった、と指摘するのだ。
だからこそ、
コンピュータという大きなものの文化的性質を知らずに生きていくことは、貧困の側に回り、それが再生産されていく温床になりかねません
と危機感を表明する。
そして、この主張を背景として、「教育」への問題を指摘するのだ。
ところが、彼らに将来の指針を与える立場にある親の世代が、いまコンピュータやインターネットのもたらす技術的変化や文化的変化によって具体的に何が起こるのか、それがどういう意味を持つのかを理解していません。そのため多くの親が、子供に見当違いの教育を与えているような気がします
この観点は、親や教育者が常に意識しておくべきことだろう。コンピュータは、やはりまだ多くの人に「ツール」だと考えられているはずだ。しかしその捉え方だけでは社会を正しく捉えられない。社会構造と不可分に結びついたものであり、単なるツールではない、ということを、教育の過程で教えるべきなのだろうと感じる。
あわせて読みたい
【生きろ】「どう生き延びるか」と覚悟を決める考え方。西原理恵子が語る「カネ」だけじゃない人生訓:…
西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』は、決して「お金」の話だけではありません。「自分が望む生き方」を実現するための「闘い方」を伝授してくれると同時に、「しなくていい失敗を回避する考え方」も提示してくれます。学校や家庭ではなかなか学べない人生訓
落合陽一の未来予測
本書では、かなり具体的な記述で、未来がどう変わっていくのかが描かれていく。しかし、その一つ一つを紹介していても
キリがない。だからこそ、落合陽一の未来の捉え方を大づかみで理解できる記述を引用しよう。
そこを鍛えなければ、どんなに英語を学んでも、プログラミングを学んでも、シンギュラリティやマルチラリティ以降の世界に通用する人間にはなれないでしょう。それは、「コンピュータと人間が相互に補完しあってそれ以前の人類を超えていく時代」だからです
つまり、「どう使う」「どう使われる」という観点ではなく、「共存」してどう変化していくかが重要だ、という指摘だ。
あわせて読みたい
【諦め】「人間が創作すること」に意味はあるか?AI社会で問われる、「創作の悩み」以前の問題:『電気…
AIが個人の好みに合わせて作曲してくれる世界に、「作曲家」の存在価値はあるだろうか?我々がもうすぐ経験するだろう近未来を描く『電気じかけのクジラは歌う』をベースに、「創作の世界に足を踏み入れるべきか」という問いに直面せざるを得ない現実を考える
これを著者は、人間とミトコンドリアの関係に喩えている。
ミトコンドリアという生物は、人間(だけではないが)の細胞内に存在する。しかし元々は、ミトコンドリアは生命の体内に存在せず、別々に生きていた。進化の過程で、生命はその細胞内にミトコンドリアを取り込んだのだ。それは、生命にとってもミトコンドリアにとっても利益をもたらすことだったからだ。
このようにして人間とミトコンドリアは「共存」して、両者を高め合うことになった。
人間とコンピュータも同じような関係になっていく、と著者は言う。その融合がどのようなものかは分からないが、既に世界には、身体の一部をサイボーグ化している人もいるし、あるいは、身体の中にミクロなコンピュータを入れて体調を整えるアイデアも存在する。
両者が共存することでお互いが補完することが重要なのであり、著者はさらに、
コンピュータは電化製品ではなく、我々の第二の身体であり、脳であり、そして知的処理を行うもの、たんぱく質の遺伝子を持たない集合型の生物です
と、コンピュータを生物と同等に扱っている。
そんな未来に、どんな能力を身につけるべきか?
そんな未来に必要とされる能力について、短くまとまった箇所を引用しよう。
重要なのは、「言語化する能力」「論理力」「思考体力」「世界70億人を相手にすること」「経済感覚」「世界は人間が回しているという意識」、そして「専門性」です。これらの武器を身につければ、「自分」という個人に価値が生まれるので、どこでも活躍の場を見つけることができます
あわせて読みたい
【問い】「学ぶとはどういうことか」が学べる1冊。勉強や研究の指針に悩む人を導いてくれる物語:『喜嶋…
学校の勉強では常に「課題」が与えられていたが、「学び」というのは本来的に「問題を見つけること」にこそ価値がある。研究者の日常を描く小説『喜嶋先生の静かな世界』から、「学びの本質」と、我々はどんな風に生きていくべきかについて考える
このそれぞれについて本書では詳しく書かれているが、この記事では、「言語化する能力」と「専門性」について触れようと思う。
まずは「言語化する能力」について。著者はこのように書く。
また、ネットで知った知識をそのまま人に話しているようではダメ。思考体力の基本は「解釈力」です。知識を他の知識とひたすら結びつけておくこと。
したがって大事なのは、検索で知った答えを自分なりに解釈して、そこに書かれていない深いストーリーを語ることができるかどうか。自分の生きてきた人生とその答えはどうやって接続されていくのか。それを考えることで思考が深まり、形式知が暗黙知になっていくのです。
そういう能力は、考えたことの意味を「言葉で説明する」努力をすることで養われます。僕の東京大学大学院時代の指導教官である暦本純一先生(スマホなどで使われているマルチタッチのアイディアを世界で最初に作った人です)も「言語化は最高の思考ツールだ」と言っていました
これは、特にデジタルネイティブ世代には耳が痛い話ではないかと思う。
「ネットで検索すればなんでも分かるんだから知識なんか覚える必要がない」という主張がある。確かに、「覚える」必要はないかもしれない。しかし落合陽一の主張から、ネットで検索すれば分かるからいい、という態度では闘えない、とも理解できるだろう。何か知識に触れた時、そこに「思考」「解釈」が必要だし、それはまさに「言語化する能力」そのものである。
あわせて読みたい
【思考】「”考える”とはどういうことか」を”考える”のは難しい。だからこの1冊をガイドに”考えて”みよう…
私たちは普段、当たり前のように「考える」ことをしている。しかし、それがどんな行為で、どのように行っているのかを、きちんと捉えて説明することは難しい。「はじめて考えるときのように」は、横書き・イラスト付きの平易な文章で、「考えるという行為」の本質に迫り、上達のために必要な要素を伝える
「言語化する能力」の重要さは、私自身も実感している。他人の文章を読んだり、誰かの主張を聞いたりする時、何を言っているのか分からないことが結構ある。それは、文章力や伝達力の問題であることも多いが、それ以前に「自分が考えていることをまとめきれていない」という部分に問題があると感じることが多い。
これからの時代、コミュニケーションで大事なのは、語学的な正しさではなく、「ロジックの正しさ」です
「コミュニケーション能力」について考える時、「ロジックの正しさ」は真っ先には頭に浮かばないだろう。しかし、人間相手のコミュニケーションはもちろん、AIが社会に組み込まれるほど、「ロジックの正しさ」は重要になっていく。なぜなら、ロジカルじゃない言葉や文章は、AIが正しく認識できないからだ。
あらゆる情報を検索して調べ、ほしい情報だけをソートし、大量の情報を処理するだけの世の中では、なかなか思考力は身につかない。だからこそ、言葉とロジックできちんと説明できる力をつけることは、これからの時代において一歩抜ける要素になるだろうと思う。
あわせて読みたい
【継続】「言語化できない」を乗り越えろ。「読者としての文章術」で、自分の思考をクリアにする:『読…
ブログやSNSなどが登場したことで、文章を書く機会は増えていると言える。しかし同時に、「他人に評価されるために書く」という意識も強くなっているだろう。『読みたいことを書けばいい』から、「楽しく書き”続ける”」ための心得を学ぶ
また、「専門性」については、こんな風に書かれている。
だから、いまの小中学生が将来「コンピュータに駆逐されない自律的な仕事」をできるようになるのは、何でも水準以上にこなせるジェネラリストではなく、専門性を持つスペシャリストになることが必要です
そしてさらに、この「専門性」については、このような条件がつく。
一般教養と違って、テクニカルな専門性というのはインターネットをクリックするだけで学習できるようなものではありません。みんながアクセスする知識に、専門性はないのです
この「みんながアクセスする知識ではないこと」に専門性がある、という点が非常に重要だ。
今の世の中、YoutubeやInstagramには様々な情報が載っている。初めて挑戦することであっても、そういうネットの知識を拾い集めればいくらでも独学できる環境が整っている素晴らしい時代だ。
しかし重要なのは、そんな風に誰でもアクセスできる情報には大して価値がない、と理解することだ。著者は本書の中で「土器を作る能力」と呼んでいるが、需要がなさそうで、ネット上で探しても情報が見つからないような、特に何かに活かせそうにない能力にこそ「専門性」がある、と主張する。
あわせて読みたい
【あらすじ】天才とは「分かりやすい才能」ではない。前進するのに躊躇する暗闇で直進できる勇気のこと…
ピアノのコンクールを舞台に描く『蜜蜂と遠雷』は、「天才とは何か?」と問いかける。既存の「枠組み」をいとも簡単に越えていく者こそが「天才」だと私は思うが、「枠組み」を安易に設定することの是非についても刃を突きつける作品だ。小説と映画の感想を一緒に書く
このことは、教育を与える側も認識しておかなければならないだろう。小学校の授業でプログラミングが必須になったが、プログラミングができればいいわけではない。それよりは、今現在の視点では何の役に立つのか分からない、でも大勢の人間ができるわけではないという能力こそきちんと伸ばしてあげるべきなのだ。
また、AIがより社会に組み込まれる時代で重要になるこんな指摘もある。
コンピュータには「これがやりたい」という動機がありません。目的を与えれば人間には太刀打ちできないスピードと精度でそれを処理しますが、それは「やりたくてやっている」わけではないでしょう。今のところ、人間社会をどうしたいか、何を実現したいかといったようなモチベーションは、常に人間の側にある。だから、それさえしっかり持っていれば、いまはコンピュータを「使う」側にいられるのです
コンピュータには動機がないから、強い動機がある人間こそ勝てる可能性があるというのは、非常に納得感のある主張だろう。著者はそんな人間のことを、「秀才」でも「天才」でもなく「変態」と呼んでいる。「変態」こそが、これからの世の中で生き残れるのだ、と。
このことが理解できていないと、子どもが何か熱中するものを見つけても、「そんなことより勉強しなさい」と、その熱中を妨げるような教育をしてしまうだろう。そういう過ちを犯さないという意味でも、本書の主張は重要だと感じる。
著:落合陽一
¥902 (2022/02/03 23:05時点 | Amazon調べ)
ポチップ
最後に
本書には他にも様々な主張がなされ、そのどれもが読む者の気持ちを高めるだろうと思う。しかし、逸る気持ちを抑えるために、こんな文章も引用しておこう。
しかし大事なのは、成功したクリエイティブ・クラスをそのまま目標にすることではなく、その人が「なぜ、いまの時代に価値を持っているのか」を考えることです
あわせて読みたい
【逸脱】「人生良いことない」と感じるのは、「どう生きたら幸せか」を考えていないからでは?:『独立…
「常識的な捉え方」から逸脱し、世の中をまったく異なる視点から見る坂口恭平は、「より生きやすい社会にしたい」という強い思いから走り続ける。「どう生きたいか」から人生を考え直すスタンスと、「やりたいことをやるべきじゃない理由」を『独立国家のつくりかた』から学ぶ
「今成功しているクリエイティブ・クラス」は、キラキラしているし目指したくもなるだろう。しかし我々は、短期間で時代が変わる世の中に生きている。だから、「今成功しているクリエイティブ・クラス」のやり方を真似しても意味がない。重要なのは、「なぜその人の能力が”今の時代”に価値を持っているかを考えること」だ。これをしなければ、永遠に時代遅れになってしまう。
そしてさらに重要なことは、冒頭でも書いた通り、無理に「クリエイティブ・クラス」を目指さないことだ。本書を読んで、「明らかに間違った方向に進まない」ことが実現できれば、それでよしとしようじゃないか。
私はそんな風に提言したい。
次にオススメの記事
あわせて読みたい
【幻想】日本での子育ては無理ゲーだ。現実解としての「夜間保育園」の実状と親の想いを描く映画:『夜…
映画『夜間もやってる保育園』によると、夜間保育も行う無認可の「ベビーホテル」は全国に1749ヶ所あるのに対し、「認可夜間保育園」は全国にたった80ヶ所しかないそうだ。また「保育園に預けるなんて可哀想」という「家族幻想」も、子育てする親を苦しめている現実を描く
あわせて読みたい
【飛躍】有名哲学者は”中二病”だった?飲茶氏が易しく語る「古い常識を乗り越えるための哲学の力」:『1…
『14歳からの哲学入門』というタイトルは、「14歳向けの本」という意味ではなく、「14歳は哲学することに向いている」という示唆である。飲茶氏は「偉大な哲学者は皆”中二病”だ」と説き、特に若い人に向けて、「新しい価値観を生み出すためには哲学が重要だ」と語る
あわせて読みたい
【歴史】ベイズ推定は現代社会を豊かにするのに必須だが、実は誕生から200年間嫌われ続けた:『異端の統…
現在では、人工知能を始め、我々の生活を便利にする様々なものに使われている「ベイズ推定」だが、その基本となるアイデアが生まれてから200年近く、科学の世界では毛嫌いされてきた。『異端の統計学ベイズ』は、そんな「ベイズ推定」の歴史を紐解く大興奮の1冊だ
あわせて読みたい
【貢献】飛行機を「安全な乗り物」に決定づけたMr.トルネードこと天才気象学者・藤田哲也の生涯:『Mr….
つい数十年前まで、飛行機は「死の乗り物」だったが、天才気象学者・藤田哲也のお陰で世界の空は安全になった。今では、自動車よりも飛行機の方が死亡事故の少ない乗り物なのだ。『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』から、その激動の研究人生を知る
あわせて読みたい
【天才】読書猿のおすすめ本。「いかにアイデアを生むか」の発想法を人文書に昇華させた斬新な1冊:『ア…
「独学の達人」「博覧強記の読書家」などと評される読書猿氏が、古今東西さまざまな「発想法」を1冊にまとめた『アイデア大全』は、ただのHow To本ではない。「発想法」を学問として捉え、誕生した経緯やその背景なども深堀りする、「人文書」としての一面も持つ作品だ
あわせて読みたい
【協働】日本の未来は福井から。地方だからこその「問題意識の共有」が、社会変革を成し遂げる強み:『…
コンパクトシティの先進地域・富山市や、起業家精神が醸成される鯖江市など、富山・福井の「変革」から日本の未来を照射する『福井モデル 未来は地方から始まる』は、決して「地方改革」だけの内容ではない。「危機意識の共有」があらゆる問題解決に重要だと認識できる1冊
あわせて読みたい
【驚異】ガイア理論の提唱者が未来の地球を語る。100歳の主張とは思えない超絶刺激に満ちた内容:『ノヴ…
「地球は一種の生命体だ」という主張はかなり胡散臭い。しかし、そんな「ガイア理論」を提唱する著者は、数々の賞や学位を授与される、非常に良く知られた科学者だ。『ノヴァセン <超知能>が地球を更新する』から、AIと人類の共存に関する斬新な知見を知る
あわせて読みたい
【人生】「資本主義の限界を埋める存在としての『贈与論』」から「不合理」に気づくための生き方を知る…
「贈与論」は簡単には理解できないが、一方で、「何かを受け取ったら、与えてくれた人に返す」という「交換」の論理では対処できない現実に対峙する力ともなる。『世界は贈与でできている』から「贈与」的な見方を理解し、「受取人の想像力」を立ち上げる
あわせて読みたい
【思考】「”考える”とはどういうことか」を”考える”のは難しい。だからこの1冊をガイドに”考えて”みよう…
私たちは普段、当たり前のように「考える」ことをしている。しかし、それがどんな行為で、どのように行っているのかを、きちんと捉えて説明することは難しい。「はじめて考えるときのように」は、横書き・イラスト付きの平易な文章で、「考えるという行為」の本質に迫り、上達のために必要な要素を伝える
あわせて読みたい
【人生】どう生きるべきかは、どう死にたいかから考える。死ぬ直前まで役割がある「理想郷」を描く:『…
「近隣の村から『姥捨て』と非難される理想郷」を描き出す『でんでら国』は、「死ぬ直前まで、コミュニティの中で役割が存在する」という世界で展開される物語。「お金があっても決して豊かとは言えない」という感覚が少しずつ広まる中で、「本当の豊かさ」とは何かを考える
あわせて読みたい
【あらすじ】天才とは「分かりやすい才能」ではない。前進するのに躊躇する暗闇で直進できる勇気のこと…
ピアノのコンクールを舞台に描く『蜜蜂と遠雷』は、「天才とは何か?」と問いかける。既存の「枠組み」をいとも簡単に越えていく者こそが「天才」だと私は思うが、「枠組み」を安易に設定することの是非についても刃を突きつける作品だ。小説と映画の感想を一緒に書く
あわせて読みたい
【窮屈】日本の生きづらさの元凶は「失敗にツッコむ笑い」。「良し悪し」より「好き嫌い」を語ろう:『…
お笑い芸人・マキタスポーツが、一般社会にも「笑いの作法」が染み出すことで息苦しさが生み出されてしまうと分析する『一億総ツッコミ時代』を元に、「ツッコむ」という振る舞いを止め、「ツッコまれしろ」を持ち、「好き/嫌い」で物事を語るスタンスについて考える
あわせて読みたい
【社会】学生が勉強しないのは、若者が働かないのは何故か?教育現場からの悲鳴と知見を内田樹が解説:…
教育現場では、「子どもたちが学びから逃走する」「学ばないことを誇らしく思う」という、それまでには考えられなかった振る舞いが目立っている。内田樹は『下流志向』の中で、その原因を「等価交換」だと指摘。「学ばないための努力をする」という発想の根幹にある理屈を解き明かす
あわせて読みたい
【感心】悩み相談とは、相手の問いに答える”だけ”じゃない。哲学者が相談者の「真意」に迫る:『哲学の…
「相談に乗る」とは、「自分の意見を言う行為」ではない。相談者が”本当に悩んでいること”を的確に捉えて、「回答を与えるべき問いは何か?」を見抜くことが本質だ。『哲学の先生と人生の話をしよう』から、「相談をすること/受けること」について考える
あわせて読みたい
【驚嘆】この物語は「AIの危険性」を指摘しているのか?「完璧な予知能力」を手にした人類の過ち:『預…
完璧な未来予知を行えるロボットを開発し、地震予知のため”だけ”に使おうとしている科学者の自制を無視して、その能力が解放されてしまう世界を描くコミック『預言者ピッピ』から、「未来が分からないからこそ今を生きる価値が生まれるのではないか」などについて考える
あわせて読みたい
【観察者】劣等感や嫉妬は簡単に振り払えない。就活に苦しむ若者の姿から学ぶ、他人と比べない覚悟:『…
朝井リョウの小説で、映画化もされた『何者』は、「就活」をテーマにしながら、生き方やSNSとの関わり方などについても考えさせる作品だ。拓人の、「全力でやって失敗したら恥ずかしい」という感覚から生まれる言動に、共感してしまう人も多いはず
あわせて読みたい
【思考】「働くとは?」と悩んだら読みたい本。安易な結論を提示しないからこそちゃんと向き合える:『…
「これが答えだ」と安易に結論を出す自己啓発本が多い中で、山田ズーニー『おとなの進路教室』は「著者が寄り添って共に悩んでくれる」という稀有な本だ。決して分かりやすいわけではないからこそ読む価値があると言える、「これからの人生」を考えるための1冊
あわせて読みたい
【戸惑】人間の脳は摩訶不思議。意識ではコントロールできない「無意識の領域」に支配されている:『あ…
我々は決断や選択を「自分の意思」で行っていると感じるが、脳科学の研究はそれを否定している。我々に「自由意志」などない。「脳」の大部分は「意識以外のもの」に支配され、そこに「意識」はアクセスできないという驚愕の実態を『あなたの知らない脳』から学ぶ
あわせて読みたい
【非努力】頑張らない働き方・生き方のための考え方。「◯◯しなきゃ」のほとんどは諦めても問題ない:『…
ブロガーであるちきりんが、ブログに書いた記事を取捨選択し加筆修正した『ゆるく考えよう』は、「頑張ってしまう理由」や「欲望の正体」などを深堀りしながら、「世の中の当たり前から意識的に外れること」を指南する。思考を深め、自力で本質に行き着くための参考にも
あわせて読みたい
【天才】写真家・森山大道に密着する映画。菅田将暉の声でカッコよく始まる「撮り続ける男」の生き様:…
映画『あゝ荒野』のスチール撮影の際に憧れの森山大道に初めて会ったという菅田将暉の声で始まる映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』は、ちゃちなデジカメ1つでひたすら撮り続ける異端児の姿と、50年前の処女作復活物語が見事に交錯する
あわせて読みたい
【貢献】働く上で大切にしたいことは結局「人」。海士町(離島)で持続可能な社会を目指す若者の挑戦:…
過疎地域を「日本の未来の課題の最前線」と捉え、島根県の離島である「海士町」に移住した2人の若者の『僕たちは島で、未来を見ることにした』から、「これからの未来をどう生きたいか」で仕事を捉える思考と、「持続可能な社会」の実現のためのチャレンジを知る
あわせて読みたい
【誤解】「意味のない科学研究」にはこんな価値がある。高校生向けの講演から”科学の本質”を知る:『す…
科学研究に対して、「それは何の役に立つんですか?」と問うことは根本的に間違っている。そのことを、「携帯電話」と「東急ハンズの棚」の例を使って著者は力説する。『すごい実験』は素粒子物理学を超易しく解説する本だが、科学への関心を抱かせてもくれる
あわせて読みたい
【リアル】社会の分断の仕組みを”ゾンビ”で学ぶ。「社会派ゾンビ映画」が対立の根源を抉り出す:『CURED…
まさか「ゾンビ映画」が、私たちが生きている現実をここまで活写するとは驚きだった。映画『CURED キュアード』をベースに、「見えない事実」がもたらす恐怖と、立場ごとに正しい主張をしながらも否応なしに「分断」が生まれてしまう状況について知る
あわせて読みたい
【変人】学校教育が担うべき役割は?子供の才能を伸ばすために「異質な人」とどう出会うべきか?:『飛…
高校の美術教師からアーティストとして活動するようになった著者は、教育の現場に「余白(スキマ)」が減っていると指摘する。『飛び立つスキマの設計学』をベースに、子どもたちが置かれている現状と、教育が成すべき役割について確認する。
あわせて読みたい
【希望】貧困の解決は我々を豊かにする。「朝ベッドから起きたい」と思えない社会を変える課題解決:『…
現代は、過去どの時代と比べても安全で清潔で、豊かである。しかしそんな時代に、我々は「幸せ」を実感することができない。『隷属なき道』をベースに、その理由は一体なんなのか何故そうなってしまうのかを明らかにし、さらに、より良い暮らしを思い描くための社会課題の解決に触れる
あわせて読みたい
【肯定】社会不適合者こそ非凡。学校・世の中に馴染めなかった異才たちの過去から”才能”の本質を知る:…
「みんなと同じ」に馴染めないと「社会不適合」と判断され、排除されてしまうことが多いでしょう。しかし『非属の才能』では、「どこにも属せない感覚」にこそ才能の源泉があると主張します。常識に違和感を覚えてしまう人を救う本から、同調圧力に屈しない生き方を学ぶ
この記事を読んでくれた方にオススメのタグページ
ルシルナ
自己啓発・努力・思考【本・映画の感想】 | ルシルナ
私自身は、仕事や社会貢献などにおいて自分の将来をもう諦めていますが、心の底では、自分の知識・スキルが他人や社会の役に立ったらいいな、と思っています。だから、自分…
タグ一覧ページへのリンクも貼っておきます
ルシルナ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント