目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:マルタン・マルジェラ, Writer:ライナー・ホルツェマー, 監督:ライナー・ホルツェマー
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 既存の常識を打ち破り続けたからこそ、同業者にも大衆にも高く評価されるに至った
- 「作品だけを記憶してほしい」と、生涯表舞台に現れないまま引退した伝説的人物
- モデルの扱い方など、デザイン以外の部分でも先進性を発揮し、時代を先取りした男
「19世紀まで遡っても10本の指に入るデザイナー」と評されるその凄まじさを体感してほしい
自己紹介記事
あわせて読みたい
ルシルナの入り口的記事をまとめました(プロフィールやオススメの記事)
当ブログ「ルシルナ」では、本と映画の感想を書いています。そしてこの記事では、「管理者・犀川後藤のプロフィール」や「オススメの本・映画のまとめ記事」、あるいは「オススメ記事の紹介」などについてまとめました。ブログ内を周遊する参考にして下さい。
あわせて読みたい
【全作品読了・視聴済】私が「読んできた本」「観てきた映画」を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が『読んできた本』『観てきた映画』を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本・映画選びの参考にして下さい。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
顔出しを一切せずに「ファッション業界最後の革命児」と評されるまでになった天才デザイナーに肉薄する映画『マルジェラが語る”マルタン・マルジェラ”』
あわせて読みたい
【表現者】「センスが良い」という言葉に逃げない。自分の内側から何かを表現することの本質:『作詞少…
大前提として、表現には「技術」が必要だ。しかし、「技術」だけでは乗り越えられない部分も当然ある。それを「あいつはセンスが良いから」という言葉に逃げずに、向き合ってぶつかっていくための心得とは何か。『作詞少女』をベースに「表現することの本質」を探る
私は「マルタン・マルジェラ」という名前もその存在も、この映画で初めて知った。それぐらい、私はファッションに対して興味も知識もまったくない人間だ。そんな人間が観ても、なかなか面白いと感じられる作品だった。
やはり世界には、とんでもない人間がいるものだなと思わされる。
ファッション業界に常に「問題提起」を投げかけ続けた革命児
あわせて読みたい
【映画】『キャスティング・ディレクター』の歴史を作り、ハリウッド映画俳優の運命を変えた女性の奮闘
映画『キャスティング・ディレクター』は、ハリウッドで伝説とされるマリオン・ドハティを描き出すドキュメンタリー。「神業」「芸術」とも評される配役を行ってきたにも拘わらず、長く評価されずにいた彼女の不遇の歴史や、再び「キャスティングの暗黒期」に入ってしまった現在のハリウッドなどを切り取っていく
まずはこの映画とは関係のない話から始めたいと思う。
現代アートの傑作と評される、デュシャンの「泉」という作品がある。しかしその作品だけ見ても、なぜこれが「傑作」と呼ばれるのか理解できないだろう。何故なら「泉」は、便器にデュシャンのサインが書かれただけの作品だからだ。なぜ評価されているのか、詳しいことは以下の記事を読んでほしいが、ざっくり説明すると「美術の世界の常識に対して問題提起を行ったから」である。
あわせて読みたい
【教養】美術を「感じたまま鑑賞する」のは難しい。必要な予備知識をインストールするための1冊:『武器…
芸術を「感性の赴くまま見る」のは、日本特有だそうだ。欧米では美術は「勉強するもの」と認識されており、本書ではアートを理解しようとするスタンスがビジネスにも役立つと示唆される。美術館館長を務める著者の『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』から基礎の基礎を学ぶ
誰もが「当たり前だ」と感じていたことに疑問を抱き、「本当にそうでなければならないのか?」と突きつけることにアートの価値の一側面があるというわけだ。
そしてそれは、ファッションにしても同じだろう。マルタン・マルジェラは、まさに「既存の常識に問題提起を行った人物」であり、そういう意味で彼は「ファッション界の『デュシャン』」と呼んでもいいのかもしれない。
マルタン・マルジェラのショーやデザインは、私のようなファッション音痴が見ても「斬新」と感じざるを得ないものだ。
何せ彼は、自身のデザイナーデビューを飾るショーで、モデルの顔を隠してしまったのである。確かにファッションショーというのは「服」を見せる場であり、モデルの顔は重要ではないのかもしれない。しかし当然、「モデルの顔を隠す」なんてことをやろうと考えた人間はいないはずだ。
あわせて読みたい
【改革】改修期間中の国立西洋美術館の裏側と日本の美術展の現実を映すドキュメンタリー映画:『わたし…
「コロナ禍」という絶妙すぎるタイミングで改修工事を行った国立西洋美術館の、普段見ることが出来ない「裏側」が映し出される映画『わたしたちの国立西洋美術館』は、「日本の美術展」の問題点を炙り出しつつ、「『好き』を仕事にした者たち」の楽しそうな雰囲気がとても魅力的に映るドキュメンタリー
こんなエピソードは枚挙に暇がない。東京を訪れた際に見た「足袋姿の作業員」にインスピレーションを得て、足袋のデザインを組み込んだブーツを生み出す。着色された氷で作られたジュエリーをモデルに身に着けさせることで、ウォーキング中に服が溶けた氷の色で染まっていく。レジ袋を使ったトップスをデザインする。
あるいは、決して治安が良いとは言えない地区にある、子どもの遊び場になっている空き地でショーを行う。ウォーキング中のモデルが、乱入してくる住民の子どもたちを肩車しながら練り歩く光景は、「なんだか凄いものを見せられている」という感覚にさせられた。
このような斬新さは、私のような無知な人間をも驚かせ、同業者や批評家の絶賛も集める。映画には様々な人物が登場し、マルタン・マルジェラを褒め称えるのだが、その一部を抜き出してみよう。
あわせて読みたい
【伝説】映画『ミスター・ムーンライト』が描くビートルズ武道館公演までの軌跡と日本音楽への影響
ザ・ビートルズの武道館公演が行われるまでの軌跡を描き出したドキュメンタリー映画『ミスター・ムーンライト』は、その登場の衝撃について語る多数の著名人が登場する豪華な作品だ。ザ・ビートルズがまったく知られていなかった頃から、伝説の武道館公演に至るまでの驚くべきエピソードが詰まった1作
19世紀まで遡っても10本の指に入るデザイナー。
モードの革命児。今も新しい。
他の服が全部古く見えるくらい。
ショーも思想も時代を大きく先取りしている。
あわせて読みたい
【不満】この閉塞感は打破すべきか?自由意志が駆逐された社会と、不幸になる自由について:『巡査長 真…
自由に選択し、自由に行動し、自由に生きているつもりでも、現代社会においては既に「自由意志」は失われてしまっている。しかし、そんな世の中を生きることは果たして不幸だろうか?異色警察小説『巡査長 真行寺弘道』をベースに「不幸になる自由」について語る
なかなかの大絶賛だと感じるだろう。中でも私が一番印象に残った称賛がこれだ。
ルジェラはこれまでの30年間ファッション界をリードし続けた。
そして(引退後の)20年もまだリードしている。
50年もファッション界の先頭に立っているなんて偉大だ。
そう、マルタン・マルジェラは既に、2008年にデザイナーを引退している。それは、自身の名を冠したブランド「メゾン・マルタン・マルジェラ」20周年という節目の年のことだった。そして、引退してからも彼の影響力は衰えを知らないというのだ。
あわせて読みたい
【奇跡】鈴木敏夫が2人の天才、高畑勲と宮崎駿を語る。ジブリの誕生から驚きの創作秘話まで:『天才の思…
徳間書店から成り行きでジブリ入りすることになったプロデューサー・鈴木敏夫が、宮崎駿・高畑勲という2人の天才と共に作り上げたジブリ作品とその背景を語り尽くす『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』。日本のアニメ界のトップランナーたちの軌跡の奇跡を知る
それが分かる映像があった。2018年にガリエラ美術館でマルタン・マルジェラの全作品の回顧展が開かれ、観客が大挙していたのだ。この回顧展について彼は、「嬉しかった」という言葉に続けて、
ファッション界は早い。あっという間に有名になり、忘れられていく。
だから、10年後も注目してもらえるとはまさか思っていなかった。
と語っていた。動きの激しい世界で、本人さえも驚くほど長く注目を集め続けているという点に、マルタン・マルジェラというデザイナーの本当の凄さがあるのだと感じる。
この映画でも、声のみで姿は現さない。生涯「顔出ししない」と決めてトップに上り詰めた天才
マルタン・マルジェラを取り上げるこの映画にも、彼は姿を現さない。手ぐらいは映るし、声は加工されていないそのままの音声だったと思うが、顔も姿も秘密に包まれたままなのである。というか、写真や映像だけでなく、そもそもインタビューさえ一切受けてこなかったというのだから、その凄まじさが理解できるだろう。インターネットやSNSが優勢だった時代ではないとはいえ、作家本人が「作品」以外の発信を一切せずに、同業者にも大衆にもここまで支持される存在になったことは、やはり凄まじいことだと感じさせられる。
あわせて読みたい
【倫理】アート体験の行き着く未来は?映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』が描く狂気の世界(…
「『痛み』を失った世界」で「自然発生的に生まれる新たな『臓器』を除去するライブパフォーマンス」を行うソール・テンサーを主人公にした映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は、すぐには答えの見出しにくい「境界線上にある事柄」を挑発的に描き出す、実に興味深い物語だ
有名人になりたくない。匿名でいたいんだ。
みんなと同じだと思えるとバランスが保てる。
僕の名前は、作品と共に記憶されていてほしい。
映画の中で彼はこんな風に語っていた。マルタン・マルジェラ自身にとっても、その作品にとっても、「顔が見えないこと」はプラスに働いていると考えているようだ。しかし一方で、
顔を出さずに名を成すのは本当に難しい。
あわせて読みたい
【驚嘆】「現在は森でキノコ狩り」と噂の天才”変人”数学者グリゴリー・ペレルマンの「ポアンカレ予想証…
数学界の超難問ポアンカレ予想を解決したが、100万ドルの賞金を断り、フィールズ賞(ノーベル賞級の栄誉)も辞退、現在は「森できのこ採取」と噂の天才数学者グリゴリー・ペレルマンの生涯を描く評伝『完全なる証明』。数学に関する記述はほぼなく、ソ連で生まれ育った1人の「ギフテッド」の苦悩に満ちた人生を丁寧に描き出す1冊
自分を守るための選択を後悔したこともある。
とも口にしていた。「自分を守るための選択」というのは当然、「顔を出さないこと」を指す。結果から見れば、彼が顔出ししなかったことはこれ以上ない正解だったと言えるが、しかしそれは、彼が大成功を収められたから言えることでもある。もし彼が、世間に評価されず燻ったままの人生を歩んでいたとしたら、「作品を知ってもらうために匿名を手放してでも顔出しすべきだった」と後悔していただろう。
彼が顔出しをしないと決めたことについて、ある人物が「子どもが遊ぶ空き地でのショー」がきっかけだったのではないかと語っていた。ショー自体は大いに盛り上がったし、後に評価もされたが、観客の半数は「ポカーンとしていた」ようだし、かなり手厳しく批判する人間もいたという。そのことがきっかけで、「自分が表に出ることはしない」と決めたのではないかと推測していた。
あわせて読みたい
【革命】電子音楽誕生の陰に女性あり。楽器ではなく機械での作曲に挑んだ者たちを描く映画:『ショック…
現代では当たり前の「電子音楽」。その黎明期には、既存の音楽界から排除されていた女性が多く活躍した。1978年、パリに住む1人の女性が「電子音楽」の革命の扉をまさに開こうとしている、その1日を追う映画『ショック・ド・フューチャー』が描き出す「創作の熱狂」
マルタン・マルジェラ自身は映画の中でこう語っている。
自分の仕事について語るのが苦手な自分に気づくようになった。
取材がダメというよりは、自分の作品について語るのが嫌いなのだ、と。
作品は、自由に感じたままに受け取ってほしい。
なるほど、この感覚はなんとなく分かるような気がする。同じレベルで語るのはおかしいと分かっているが、それがファッションであれなんであれ、「作者に作品解説を求めること」は、「国語の試験に正解が存在すること」と同じぐらいの違和感がある。
どんな作品にも、作者の意図とは関係なく、鑑賞者が自由に解釈する余地が残されているはずだ。そして、むしろそれだけで十分なのではないかとさえ私は思う。
あわせて読みたい
【驚嘆】映画『TAR/ター』のリディア・ターと、彼女を演じたケイト・ブランシェットの凄まじさ
天才女性指揮者リディア・ターを強烈に描き出す映画『TAR/ター』は、とんでもない作品だ。「縦軸」としてのターの存在感があまりにも強すぎるため「横軸」を上手く捉えきれず、結果「よく分からなかった」という感想で終わったが、それでも「観て良かった」と感じるほど、揺さぶられる作品だった
映画の中である人物が、マルタン・マルジェラのショーについてこんな感想を口にしていた。
だからマルジェラのショーは、ある意味で”親切”と言えるわね。
見た人が自分で考えるように促してくれるから。
ここで”親切”という単語が出てくるのは、もちろん皮肉だ。つまり、「普通のショーは、『誰でも見たら理解できる』ように作られているから、『思考を促す』という意味ではまったく親切ではないが、マルタン・マルジェラのショーはまったく逆だ」と言っているのである。これもまた、「鑑賞者側の解釈こそが重要」であることを示唆する言葉だろう。そしてまさにそれこそ、マルタン・マルジェラが望んでいることでもあったのである。
マルタン・マルジェラの斬新さは、デザインだけではなく、モデルの扱い方にも現れる
あわせて読みたい
【天才】タランティーノ作品ほぼ未見で観た面白ドキュメンタリー。映画に愛された映画オタクのリアル
『パルプ・フィクション』しか監督作品を観たことがないまま、本作『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』を観たが、とても面白いドキュメンタリー映画だった。とにかく「撮影現場に笑いが絶えない」ようで、そんな魅力的なモノづくりに関わる者たちの証言から、天才の姿が浮かび上がる
映画の中で興味深かったのは、マルタン・マルジェラのショーに出演したモデルたちの言葉だ。その中の1人は、こんな風に彼を評していた。
マルジェラの手が好き。
(デザイナーの中には)人によって触ってほしくない人もいるけど、
マルジェラは私たちをマネキンではなく人間として扱ってくれた。
現在でこそ、「BMIが低い痩せすぎのモデルは活動不可」など、業界全体で様々な改善が行われているだろうが、一昔前は恐らく、モデルを人間として扱わないような誤った考え方が当たり前だったと思う。しかしそんな中にあってマルタン・マルジェラは、モデルの女性たちを適切に扱っていたという。
また、モデルに「知的さ」を望んだのもマルタン・マルジェラの特徴だと言われる。ファッション業界ではどうしても、ある種の「色気」が優先して求められてしまう傾向にあるが、彼は「働く女性」や「自身の『女性としての魅力』を気にしない女性」を求めるモデルの優先条件にしていたそうだ。このような考え方も、「時代を先取りしている」と言っていいのだろう。
あわせて読みたい
【欠落】映画『オードリー・ヘプバーン』が映し出す大スターの生き方。晩年に至るまで生涯抱いた悲しみ…
映画『オードリー・ヘプバーン』は、世界的大スターの知られざる素顔を切り取るドキュメンタリーだ。戦争による壮絶な飢え、父親の失踪、消えぬ孤独感、偶然がもたらした映画『ローマの休日』のオーディション、ユニセフでの活動など、様々な証言を元に稀代の天才を描き出す
さらにマルタン・マルジェラは、一般人をモデルに仕立てた元祖とも言われている。事務所に所属している女性ではなく、ストリートでスカウトしたモデルを使うこともあった。スカウトされた女性は当然、「歩き方は?」と聞く。モデルウォーキングなどできないからだ。しかしマルタン・マルジェラは「そのままで完璧」と答えたという。
このようなエピソードを知ると、その知性と斬新さに驚かされる。
映画の中で、マルタン・マルジェラのスタンスを「唯一無二」と絶賛した人物は、彼の凄さについてこう語っていた。
あわせて読みたい
【感想】どんな話かわからない?難しい?ジブリ映画『君たちはどう生きるか』の考察・解説は必要?(監…
宮崎駿最新作であるジブリ映画『君たちはどう生きるか』は、宮崎アニメらしいファンタジックな要素を全開に詰め込みつつ、「生と死」「創造」についても考えさせる作品だ。さらに、「自分の頭の中から生み出されたものこそ『正解』」という、創造物と向き合う際の姿勢についても問うているように思う
マルジェラはカウンターカルチャーだから唯一無二なんだ。
カウンターカルチャーって、汚いものも美しくないものも取り込んでいく。
それらが舞台上で光り輝いたりするんだ。
「汚いもの」「美しくないもの」で言えば、引退直前のショーでの奇抜なアイデアを挙げることができるだろう。いつもやっているやり方を続けているだけでは飽きると言って、作った白いパンツスーツのお尻の部分に「アイロンの跡」をわざとつけたのだ。それは決して「美しいもの」ではないが、しかしそういうものを「マルタン・マルジェラ」というフィルターを通して表に出すことで、「舞台上で光り輝く」のである。
ある人物が、
「発想の転換」という言葉が、彼の作品を見る度に何度も思い浮かぶ。誰もやらないことをやろうとする勇気が凄まじい。
と語っていたが、まさにその通りだろう。ぶっ壊せるだけの常識を叩き潰していくような凄まじいまでの斬新さが、彼の作品に多くの人が惹きつけられる要因なのだと思う。
あわせて読みたい
【革新】映画音楽における唯一のルールは「ルールなど無い」だ。”異次元の音”を生み出す天才を追う:映…
「無声映画」から始まった映画業界で、音楽の重要性はいかに認識されたのか?『JAWS』の印象的な音楽を生み出した天才は、映画音楽に何をもたらしたのか?様々な映画の実際の映像を組み込みながら、「映画音楽」の世界を深堀りする映画『すばらしき映画音楽たち』で、異才たちの「創作」に触れる
当然だが、マルタン・マルジェラ自身は、
いつでも自分を追い込んでいた。
発想を求めて追い込むのが好きだった。
という自身の創作活動について、「想像以上にキツイ仕事だ」と風に語っていた。結果としてとんでもない評価を得るに至ったわけで、その努力は報われたと言っていいだろう。ただ映画を観ていると、マルタン・マルジェラ自身は、「自分が良いと思うものを好き勝手に作ること」が好きなようだし、それが実現できている引退後の生活に満足しているようなことも言っていた。根っからの「クリエイティブ」なのだろう。
エルメスからの依頼と、引退した理由
マルタン・マルジェラはそれまでも、コンサルタントとして様々なブランドにデザインを提供していたが、ある時エルメスからコラボレーションの依頼がやってきた。彼はそのオファーに即答したという。
あわせて読みたい
【映画】『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』で号泣し続けた私はTVアニメを観ていない
TVアニメは観ていない、というかその存在さえ知らず、物語や登場人物の設定も何も知らないまま観に行った映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』に、私は大号泣した。「悪意のない物語」は基本的に好きではないが、この作品は驚くほど私に突き刺さった
マルタン・マルジェラはエルメスのデザインの本質をすぐに見抜き、「ずっとそこにあったかのようなアイテム」を生み出した。そして彼は、エルメスの店内でショーを行う提案をし、非常にシンプルなデザインの服のお披露目をすることになる。
しかしその服を見た多くの人が「はぁ?」という反応だったそうだ。「こんなことのためにマルタン・マルジェラを雇ったのか」という苛立ちさえ聞こえてきたという。新聞も様々な表現でエルメスとマルタン・マルジェラのコラボレーションを酷評し、ある新聞は露骨に「神の元に悪魔」という見出しをつけさえした。
あわせて読みたい
【挑戦】相対性理論の光速度不変の原理を無視した主張『光速より速い光』は、青木薫訳だから安心だぞ
『光速より速い光』というタイトルを見て「トンデモ本」だと感じた方、安心してほしい。「光速変動理論(VSL理論)」が正しいかどうかはともかくとして、本書は実に真っ当な作品だ。「ビッグバン理論」の欠陥を「インフレーション理論」以外の理屈で補う挑戦的な仮説とは?
マルタン・マルジェラ自身は、
シンプルが退屈だと受け取られたんだ。
と分析しており、
新しいものが定着するには時間が掛かる。
新しい挑戦の始まりだと思っている。
と、世間の反応をある種受け流すような言い方をしていた。世界的なブランドと、革新的な評価をされていたデザイナーのコラボレーションだったからこそ、過剰な期待が生まれてしまったと見るべきだろうか。
あわせて読みたい
【アート】「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」(森美術館)と「美術手帖 Chim↑Pom特集」の衝撃から「…
Chim↑Pomというアーティストについてさして詳しいことを知らずに観に行った、森美術館の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」に、思考をドバドバと刺激されまくったので、Chim↑Pomが特集された「美術手帖」も慌てて買い、Chim↑Pomについてメッチャ考えてみた
この点は、彼が引退した理由にも若干関係してくるだろう。理由は大きく2つあるのだが、まずは自身のブランドが買収されたことが大きい。マルタン・マルジェラと同じく0からブランドを立ち上げた人物からの出資であり、近いスタンスでデザインが行えると期待していたのだが、結局、マーケティング部門がデザインのコンセプトを提示したり、コンセプトを表す言葉そのものが変更させられたりといったことが続くことになる。彼は、
私は創るのが本分だ。
アシスタントに指示を出すディレクターではない。
と言っており、「自分の手を動かしてモノを生み出すこと」にこだわっていた。そんな人物だからこそ、その理想が叶わない環境は遠ざけるしかなかったのだろうし、引退後に自由にモノを創れる環境に満足している理由でもあるのだろう。
もう1つの理由は、「ショーがネット配信されるようになったこと」だそうだ。
あわせて読みたい
【実話】映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』(杏花主演)が描く、もの作りの絶望(と楽しさ)
実在したエロ雑誌編集部を舞台に、タブーも忖度もなく業界の内実を描き切る映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』は、「エロ雑誌」をテーマにしながら、「もの作りに懸ける想い」や「仕事への向き合い方」などがリアルに描かれる素敵な映画だった。とにかく、主役を演じた杏花が良い
現場のサプライズが生み出すエネルギーが失われるように感じた。
すべてがインターネットに出回ってしまうと、どんどん悲しい気分になってくる。
インターネットが当たり前に存在する世代には分からない感覚かもしれないが、私はなんとなくこの感覚にシンパシーを覚える。コロナ禍でさらに加速したという背景があるとはいえ、「なんでもインターネットで完結する」という世界には、あまり賛同できない。
もはや今の時代、「インターネットとは関わらない」なんて態度では生きていけなくなってしまったが、それが叶うのならば私も、「インターネットを生活から排除した人生」はアリだと感じているのである。
マルタン・マルジェラがインターネット時代に生まれていたら、恐らくその時代なりの闘い方をしただろう。どのみち、トップに上り詰める人生を歩んだのではないかと思う。しかし、そうではない時代に生まれたからこその伝説を残すことができたとも言えるかもしれない。
なかなか興味深い存在である。
あわせて読みたい
【言葉】「戸田真琴の生きづらさ」を起点に世の中を描く映画『永遠が通り過ぎていく』の”しんどい叫び”
『あなたの孤独は美しい』というエッセイでその存在を知ったAV女優・戸田真琴の初監督映画『永遠が通り過ぎていく』。トークショーで「自分が傷つけられた時の心象風景を映像にした」と語るのを聞いて、映画全体の捉え方が変わった。他者のために創作を続ける彼女からの「贈り物」
出演:マルタン・マルジェラ, Writer:ライナー・ホルツェマー, 監督:ライナー・ホルツェマー
ポチップ
あわせて読みたい
【全作品視聴済】私が観てきたドキュメンタリー映画を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が観てきたドキュメンタリー映画を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非映画選びの参考にして下さい。
最後に
あわせて読みたい
【天才】映画音楽の発明家『モリコーネ』の生涯。「映画が恋した音楽家」はいかに名曲を生んだか
「映画音楽のフォーマットを生み出した」とも評される天才作曲家エンリオ・モリコーネを扱った映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』では、生涯で500曲以上も生み出し、「映画音楽」というジャンルを比べ物にならないほどの高みにまで押し上げた人物の知られざる生涯が描かれる
名前すら聞いたことがないほどまったく知らない存在だったが、それが何であれ「創作」に関わる人間には関心を向けることが多く、この映画も非常に面白く観ることができた。現代ではバンクシーが象徴的な存在だろうが、やはり「正体が分からない」というのは非常に神秘的であるし、そのスタンスも含めて「伝説」と呼んでいい人物だと思う。
次にオススメの記事
あわせて読みたい
【興奮】「チームラボプラネッツTOKYO@豊洲」は超素敵な空間だった!2027年年末の終了前に急ごう!
前々から行きたいと思っていた「チームラボプラネッツTOKYO」にようやく行けた。ここはホントに素敵な場所だったなぁ。ありとあらゆる「非日常」が詰まった空間で、朝イチでさほど混んでいなかったこともあり大満足だった。体感では9割近くが外国人というのもあまりに異次元。ホントにまた是非行きたいなと思う
あわせて読みたい
【不思議】「杉本博司 絶滅写真」展は衝撃的!だが、代表作<ジオラマ>を始め、何がすごいのかは謎だ
「杉本博司 絶滅写真」(@東京国立近代美術館)は、写真展にはあまりピンとこない私がぶっ飛ぶほどの衝撃を受けた素敵すぎる展示である。何よりも、「生命ではないものを撮って『生命感』を宿す」という手腕に驚かされたし、また全体的に「何が良いのか分からないがメチャクチャ良い」という感覚が強く、とにかく素晴らしかった
あわせて読みたい
【名曲】コンサート『ハンス・ジマー&フレンズ』を映画館で!合間の対談も刺激的な映画音楽の祭典(出…
映画『ハンス・ジマー&フレンズ』は、映画音楽の天才作曲家であるハンス・ジマーも奏者として出演するコンサートを丸々収録した作品である。誰もが知る超有名映画の劇中曲の大迫力の演奏は圧巻だ。さらに合間には、ドゥニ・ヴィルヌーヴやクリストファー・ノーランらとの対談も収録されており、天才たちの仕事ぶりが垣間見える
あわせて読みたい
【虚構】映画『シアトリカル』が追う唐十郎と劇団唐組の狂気。芝居に生きる者たちの”リアル”とは?
映画『シアトリカル』は、異端児・唐十郎と、彼が主宰する「劇団唐組」に密着するドキュメンタリー映画である。「普段から唐十郎を演じている」らしい唐十郎は、「ややこしさ」と「分かりやすさ」をないまぜにした実に奇妙な存在だった。「演劇」や「演じること」に己を捧げた「狂気を孕む者たち」の生き様が切り取られた作品だ
あわせて読みたい
【アート】映画『ヒプノシス』は、レコードジャケットの天才創作集団の繁栄と衰退を掘り起こす
映画『ヒプノシス』は、レコードのジャケットデザインで一世を風靡した天才集団「ヒプノシス」の栄枯盛衰を描き出すドキュメンタリー映画である。ストームとポーの2人が中心となって作り上げた凄まじいクリエイティブはそのまま、レコードジャケットの歴史と言っていいほどだ。ぶっ飛んだ才能とその生き方を知れる映画である
あわせて読みたい
金沢&富山のアート旅!「21世紀美術館」だけじゃない激アツなおすすめ美術館巡りをご提案
金沢・富山を巡るアート旅に出かけてきました!メインの目的は「21世紀美術館」でしたが、それ以上に「ASTER Curator Museum」「LIP BAR」「KAMU kanazawa」などがとにかく素晴らしかったです。アートや美術のことはド素人ですが、超個人的主観で「金沢・富山で触れられるアートの良さ」について書いた旅行記となります
あわせて読みたい
【才能】映画『トノバン』が描く、「日本の音楽史を変えた先駆者・加藤和彦」のセンス良すぎる人生(「♪…
「♪おらは死んじまっただ~」が印象的な『帰って来たヨッパライ』で知られる加藤和彦の才能と魅力を余す所なく映し出すドキュメンタリー映画『トノバン』を観て、まったく知らなかった人物の凄まじい存在感に圧倒されてしまった。50年以上も前の人だが、音楽性や佇まいなどを含め、現代でも通用するだろうと思わせる雰囲気が凄まじい
あわせて読みたい
【憧憬】「フランク・ザッパ」を知らずに映画『ZAPPA』を観て、「この生き様は最高」だと感じた
「フランク・ザッパ」がミュージシャンであることさえ禄に知らない状態で私が映画『ZAPPA』を観た私は、そのあまりに特異なスタンス・生き様にある種の憧憬を抱かされた。貫きたいと思う強い欲求を真っ直ぐ突き進んだそのシンプルな人生に、とにかくグッときたのだ。さらに、こんな凄い人物を知らなかった自分にも驚かされてしまった
あわせて読みたい
【価値】レコードなどの「フィジカルメディア」が復権する今、映画『アザー・ミュージック』は必見だ
2016年に閉店した伝説のレコード店に密着するドキュメンタリー映画『アザー・ミュージック』は、「フィジカルメディアの衰退」を象徴的に映し出す。ただ私は、「デジタル的なもの」に駆逐されていく世の中において、「『制約』にこそ価値がある」と考えているのだが、若者の意識も実は「制約」に向き始めているのではないかとも思っている
あわせて読みたい
【魅惑】マツコも絶賛の“日本人初のパリコレトップモデル”山口小夜子のメイクの凄さや素顔を描く映画:…
日本人初のパリコレトップモデルである山口小夜子と親交があった監督が紡ぐ映画『氷の花火 山口小夜子』は、未だ謎に包まれているその人生の一端を垣間見せてくれる作品だ。彼女を知る様々な人の記憶と、彼女を敬愛する多くの人の想いがより合って、一時代を築いた凄まじい女性の姿が浮かび上がってくる
あわせて読みたい
【天才】映画『笑いのカイブツ』のモデル「伝説のハガキ職人ツチヤタカユキ」の狂気に共感させられた
『「伝説のハガキ職人」として知られるツチヤタカユキの自伝的小説を基にした映画『笑いのカイブツ』は、凄まじい狂気に彩られた作品だった。「お笑い」にすべてを捧げ、「お笑い」以外はどうでもいいと考えているツチヤタカユキが、「コミュ力」や「人間関係」で躓かされる”理不尽”な世の中に、色々と考えさせられる
あわせて読みたい
【斬新】映画『王国(あるいはその家について)』(草野なつか)を観よ。未経験の鑑賞体験を保証する
映画『王国(あるいはその家について)』は、まず経験できないだろう異様な鑑賞体験をもたらす特異な作品だった。「稽古場での台本読み」を映し出すパートが上映時間150分のほとんどを占め、同じやり取りをひたすら繰り返し見せ続ける本作は、「王国」をキーワードに様々な形の「狂気」を炙り出す異常な作品である
あわせて読みたい
【映画】『キャスティング・ディレクター』の歴史を作り、ハリウッド映画俳優の運命を変えた女性の奮闘
映画『キャスティング・ディレクター』は、ハリウッドで伝説とされるマリオン・ドハティを描き出すドキュメンタリー。「神業」「芸術」とも評される配役を行ってきたにも拘わらず、長く評価されずにいた彼女の不遇の歴史や、再び「キャスティングの暗黒期」に入ってしまった現在のハリウッドなどを切り取っていく
あわせて読みたい
【改革】改修期間中の国立西洋美術館の裏側と日本の美術展の現実を映すドキュメンタリー映画:『わたし…
「コロナ禍」という絶妙すぎるタイミングで改修工事を行った国立西洋美術館の、普段見ることが出来ない「裏側」が映し出される映画『わたしたちの国立西洋美術館』は、「日本の美術展」の問題点を炙り出しつつ、「『好き』を仕事にした者たち」の楽しそうな雰囲気がとても魅力的に映るドキュメンタリー
あわせて読みたい
【天才】映画音楽の発明家『モリコーネ』の生涯。「映画が恋した音楽家」はいかに名曲を生んだか
「映画音楽のフォーマットを生み出した」とも評される天才作曲家エンリオ・モリコーネを扱った映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』では、生涯で500曲以上も生み出し、「映画音楽」というジャンルを比べ物にならないほどの高みにまで押し上げた人物の知られざる生涯が描かれる
あわせて読みたい
【共感】斎藤工主演映画『零落』(浅野いにお原作)が、「創作の評価」を抉る。あと、趣里が良い!
かつてヒット作を生み出しながらも、今では「オワコン」みたいな扱いをされている漫画家を中心に描く映画『零落』は、「バズったものは正義」という世の中に斬り込んでいく。私自身は創作者ではないが、「売れる」「売れない」に支配されてしまう主人公の葛藤はよく理解できるつもりだ
あわせて読みたい
【伝説】映画『ミスター・ムーンライト』が描くビートルズ武道館公演までの軌跡と日本音楽への影響
ザ・ビートルズの武道館公演が行われるまでの軌跡を描き出したドキュメンタリー映画『ミスター・ムーンライト』は、その登場の衝撃について語る多数の著名人が登場する豪華な作品だ。ザ・ビートルズがまったく知られていなかった頃から、伝説の武道館公演に至るまでの驚くべきエピソードが詰まった1作
あわせて読みたい
【倫理】アート体験の行き着く未来は?映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』が描く狂気の世界(…
「『痛み』を失った世界」で「自然発生的に生まれる新たな『臓器』を除去するライブパフォーマンス」を行うソール・テンサーを主人公にした映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は、すぐには答えの見出しにくい「境界線上にある事柄」を挑発的に描き出す、実に興味深い物語だ
あわせて読みたい
【天才】タランティーノ作品ほぼ未見で観た面白ドキュメンタリー。映画に愛された映画オタクのリアル
『パルプ・フィクション』しか監督作品を観たことがないまま、本作『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』を観たが、とても面白いドキュメンタリー映画だった。とにかく「撮影現場に笑いが絶えない」ようで、そんな魅力的なモノづくりに関わる者たちの証言から、天才の姿が浮かび上がる
あわせて読みたい
【あらすじ】映画化の小説『僕は、線を描く』。才能・センスではない「芸術の本質」に砥上裕將が迫る
「水墨画」という、多くの人にとって馴染みが無いだろう芸術を題材に据えた小説『線は、僕を描く』は、青春の葛藤と創作の苦悩を描き出す作品だ。「未経験のど素人である主人公が、巨匠の孫娘と勝負する」という、普通ならあり得ない展開をリアルに感じさせる設定が見事
あわせて読みたい
【無謀】園子温が役者のワークショップと同時並行で撮影した映画『エッシャー通りの赤いポスト』の”狂気”
「園子温の最新作」としか知らずに観に行った映画『エッシャー通りの赤いポスト』は、「ワークショップ参加者」を「役者」に仕立て、ワークショップと同時並行で撮影されたという異次元の作品だった。なかなか経験できないだろう、「0が1になる瞬間」を味わえる“狂気”の映画
あわせて読みたい
【特異】「カメラの存在」というドキュメンタリーの大前提を覆す映画『GUNDA/グンダ』の斬新さ
映画『GUNDA/グンダ』は、「カメラの存在」「撮影者の意図」を介在させずにドキュメンタリーとして成立させた、非常に異端的な作品だと私は感じた。ドキュメンタリーの「デュシャンの『泉』」と呼んでもいいのではないか。「家畜」を被写体に据えたという点も非常に絶妙
あわせて読みたい
【アート】映画『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』が描く「美術界の闇」と「芸術作品の真正性」の奥深さ
美術界史上最高額510億円で落札された通称「救世主」は、発見される以前から「レオナルド・ダ・ヴィンチの失われた作品」として知られる有名な絵だった。映画『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』は、「芸術作品の真正性の問題」に斬り込み、魑魅魍魎渦巻く美術界を魅力的に描き出す
あわせて読みたい
【芸術】実話を下敷きに描く映画『皮膚を売った男』は、「アートによる鮮やかな社会問題風刺」が見事
「シリア難民の背中にタトゥーを彫り芸術作品として展示する」と聞くと非常に不謹慎に感じられるだろうが、彫ったのが国家間の移動を自由にする「シェンゲンビザ」だという点が絶妙な皮肉。実話をベースにした映画『皮膚を売った男』の、アートによる社会問題提起の見事な鮮やかさ
あわせて読みたい
【抽象】「思考力がない」と嘆く人に。研究者で小説家の森博嗣が語る「客観的に考える」ために大事なこ…
世の中にはあまりに「具体的な情報」が溢れているために、「客観的、抽象的な思考」をする機会が少ない。そんな時代に、いかに思考力を育てていくべきか。森博嗣が『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』を通じて伝える「情報との接し方」「頭の使い方」
あわせて読みたい
【感想】才能の開花には”極限の環境”が必要か?映画『セッション』が描く世界を私は否定したい
「追い込む指導者」が作り出す”極限の環境”だからこそ、才能が開花する可能性もあるとは思う。しかし、そのような環境はどうしても必要だろうか?最高峰の音楽院での壮絶な”指導”を描く映画『セッション』から、私たちの生活を豊かにしてくれるものの背後にある「死者」を想像する
あわせて読みたい
【狂気】バケモン・鶴瓶を映し出す映画。「おもしろいオッチャン」に潜む「異常さ」と「芸への情熱」:…
「俺が死ぬまで公開するな」という条件で撮影が許可された映画『バケモン』。コロナ禍で映画館が苦境に立たされなければ、公開はずっと先だっただろう。テレビで見るのとは違う「芸人・笑福亭鶴瓶」の凄みを、古典落語の名作と名高い「らくだ」の変遷と共に切り取る
あわせて読みたい
【革新】映画音楽における唯一のルールは「ルールなど無い」だ。”異次元の音”を生み出す天才を追う:映…
「無声映画」から始まった映画業界で、音楽の重要性はいかに認識されたのか?『JAWS』の印象的な音楽を生み出した天才は、映画音楽に何をもたらしたのか?様々な映画の実際の映像を組み込みながら、「映画音楽」の世界を深堀りする映画『すばらしき映画音楽たち』で、異才たちの「創作」に触れる
あわせて読みたい
【アート】「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」(森美術館)と「美術手帖 Chim↑Pom特集」の衝撃から「…
Chim↑Pomというアーティストについてさして詳しいことを知らずに観に行った、森美術館の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」に、思考をドバドバと刺激されまくったので、Chim↑Pomが特集された「美術手帖」も慌てて買い、Chim↑Pomについてメッチャ考えてみた
あわせて読みたい
【解釈】詩人が語る詩の読み方。意味や読み方や良さが分からなくて全然気にしなくていい:『今を生きる…
私は学生時代ずっと国語の授業が嫌いでしたが、それは「作品の解釈には正解がある」という決めつけが受け入れ難かったからです。しかし、詩人・渡邊十絲子の『今を生きるための現代詩』を読んで、詩に限らずどんな作品も、「解釈など不要」「理解できなければ分からないままでいい」と思えるようになりました
あわせて読みたい
【天才】読書猿のおすすめ本。「いかにアイデアを生むか」の発想法を人文書に昇華させた斬新な1冊:『ア…
「独学の達人」「博覧強記の読書家」などと評される読書猿氏が、古今東西さまざまな「発想法」を1冊にまとめた『アイデア大全』は、ただのHow To本ではない。「発想法」を学問として捉え、誕生した経緯やその背景なども深堀りする、「人文書」としての一面も持つ作品だ
あわせて読みたい
【創作】クリエイターになりたい人は必読。ジブリに見習い入社した川上量生が語るコンテンツの本質:『…
ドワンゴの会長職に就きながら、ジブリに「見習い」として入社した川上量生が、様々なクリエイターの仕事に触れ、色んな質問をぶつけることで、「コンテンツとは何か」を考える『コンテンツの秘密』から、「創作」という営みの本質や、「クリエイター」の理屈を学ぶ
あわせて読みたい
【思考】「”考える”とはどういうことか」を”考える”のは難しい。だからこの1冊をガイドに”考えて”みよう…
私たちは普段、当たり前のように「考える」ことをしている。しかし、それがどんな行為で、どのように行っているのかを、きちんと捉えて説明することは難しい。「はじめて考えるときのように」は、横書き・イラスト付きの平易な文章で、「考えるという行為」の本質に迫り、上達のために必要な要素を伝える
あわせて読みたい
【あらすじ】天才とは「分かりやすい才能」ではない。前進するのに躊躇する暗闇で直進できる勇気のこと…
ピアノのコンクールを舞台に描く『蜜蜂と遠雷』は、「天才とは何か?」と問いかける。既存の「枠組み」をいとも簡単に越えていく者こそが「天才」だと私は思うが、「枠組み」を安易に設定することの是非についても刃を突きつける作品だ。小説と映画の感想を一緒に書く
あわせて読みたい
【奇跡】鈴木敏夫が2人の天才、高畑勲と宮崎駿を語る。ジブリの誕生から驚きの創作秘話まで:『天才の思…
徳間書店から成り行きでジブリ入りすることになったプロデューサー・鈴木敏夫が、宮崎駿・高畑勲という2人の天才と共に作り上げたジブリ作品とその背景を語り尽くす『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』。日本のアニメ界のトップランナーたちの軌跡の奇跡を知る
あわせて読みたい
【教養】美術を「感じたまま鑑賞する」のは難しい。必要な予備知識をインストールするための1冊:『武器…
芸術を「感性の赴くまま見る」のは、日本特有だそうだ。欧米では美術は「勉強するもの」と認識されており、本書ではアートを理解しようとするスタンスがビジネスにも役立つと示唆される。美術館館長を務める著者の『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』から基礎の基礎を学ぶ
あわせて読みたい
【天才】写真家・森山大道に密着する映画。菅田将暉の声でカッコよく始まる「撮り続ける男」の生き様:…
映画『あゝ荒野』のスチール撮影の際に憧れの森山大道に初めて会ったという菅田将暉の声で始まる映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』は、ちゃちなデジカメ1つでひたすら撮り続ける異端児の姿と、50年前の処女作復活物語が見事に交錯する
あわせて読みたい
【感想】「献身」こそがしんどくてつらい。映画『劇場』(又吉直樹原作)が抉る「信頼されること」の甘…
自信が持てない時、たった1人でも自分を肯定してくれる人がいてくれるだけで前に進めることがある。しかしその一方で、揺るぎない信頼に追い詰められてしまうこともある。映画『劇場』から、信じてくれる人に辛く当たってしまう歪んだ心の動きを知る
あわせて読みたい
【変人】学校教育が担うべき役割は?子供の才能を伸ばすために「異質な人」とどう出会うべきか?:『飛…
高校の美術教師からアーティストとして活動するようになった著者は、教育の現場に「余白(スキマ)」が減っていると指摘する。『飛び立つスキマの設計学』をベースに、子どもたちが置かれている現状と、教育が成すべき役割について確認する。
あわせて読みたい
【救い】耐えられない辛さの中でどう生きるか。短歌で弱者の味方を志すホームレス少女の生き様:『セー…
死にゆく母を眺め、施設で暴力を振るわれ、拾った新聞で文字を覚えたという壮絶な過去を持つ鳥居。『セーラー服の歌人 鳥居』は、そんな辛い境遇を背景に、辛さに震えているだろう誰かを救うために短歌を生み出し続ける生き方を描き出す。凄い人がいるものだ
あわせて読みたい
【諦め】「人間が創作すること」に意味はあるか?AI社会で問われる、「創作の悩み」以前の問題:『電気…
AIが個人の好みに合わせて作曲してくれる世界に、「作曲家」の存在価値はあるだろうか?我々がもうすぐ経験するだろう近未来を描く『電気じかけのクジラは歌う』をベースに、「創作の世界に足を踏み入れるべきか」という問いに直面せざるを得ない現実を考える
あわせて読みたい
【継続】「言語化できない」を乗り越えろ。「読者としての文章術」で、自分の思考をクリアにする:『読…
ブログやSNSなどが登場したことで、文章を書く機会は増えていると言える。しかし同時に、「他人に評価されるために書く」という意識も強くなっているだろう。『読みたいことを書けばいい』から、「楽しく書き”続ける”」ための心得を学ぶ
あわせて読みたい
【感想】努力では才能に勝てないのか?どうしても辿り着きたい地点まで迷いながらも突き進むために:『…
どうしても辿り着きたい場所があっても、そのあまりの遠さに目が眩んでしまうこともあるでしょう。そんな人に向けて、「才能がない」という言葉に逃げずに前進する勇気と、「仕事をする上で大事なスタンス」について『羊と鋼の森』をベースに書いていきます
あわせて読みたい
【表現者】「センスが良い」という言葉に逃げない。自分の内側から何かを表現することの本質:『作詞少…
大前提として、表現には「技術」が必要だ。しかし、「技術」だけでは乗り越えられない部分も当然ある。それを「あいつはセンスが良いから」という言葉に逃げずに、向き合ってぶつかっていくための心得とは何か。『作詞少女』をベースに「表現することの本質」を探る
この記事を読んでくれた方にオススメのタグページ
ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
文化・芸術・将棋・スポーツ【本・映画の感想】 | ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
知識や教養は、社会や学問について知ることだけではありません。文化的なものもリベラルアーツです。私自身は、創作的なことをしたり、勝負事に関わることはありませんが、…
タグ一覧ページへのリンクも貼っておきます
ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント