目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:岩井俊二, Writer:岩井俊二, 出演:アイナ・ジ・エンド, 出演:松村北斗, 出演:黒木華, 出演:広瀬すず
¥2,000 (2025/01/06 19:14時点 | Amazon調べ)
ポチップ
著:岩井 俊二
¥750 (2024/06/14 23:26時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
冒頭でキリエが歌い出した瞬間に、もう涙が零れそうになったことにビックリした
アイナ・ジ・エンドの歌声の凄さは知っていたつもりでしたが、それでも圧倒されてしまいました
この記事の3つの要点
- 普通なら出会うはずのない人たちとの関わりを通じて、キリエの辛く苦しい人生が浮かび上がってくる
- 悪意を持って誰かの人生を貶めようとする人物は出てこず、「仕方ないこと」を丁寧に積み上げることによって物語が展開していく
- アイナ・ジ・エンドは歌声だけではなく演技も見事で、また、松村北斗・広瀬すずもやはり絶妙な存在感を放っていた
上映時間が3時間という長大な作品ですが、圧倒されっ放しの凄まじい映画でした
自己紹介記事
あわせて読みたい
ルシルナの入り口的記事をまとめました(プロフィールやオススメの記事)
当ブログ「ルシルナ」では、本と映画の感想を書いています。そしてこの記事では、「管理者・犀川後藤のプロフィール」や「オススメの本・映画のまとめ記事」、あるいは「オススメ記事の紹介」などについてまとめました。ブログ内を周遊する参考にして下さい。
あわせて読みたい
【全作品読了・視聴済】私が「読んできた本」「観てきた映画」を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が『読んできた本』『観てきた映画』を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本・映画選びの参考にして下さい。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
映画『キリエのうた』(岩井俊二監督)は衝撃的な作品だ。主演のアイナ・ジ・エンドの歌声の凄さは知っていたつもりだが、それでも圧倒されてしまった
冒頭、キリエ(アイナ・ジ・エンド)が歌い出した瞬間に泣きそうになった理由がまったく分からない
あわせて読みたい
【あらすじ】大泉洋主演映画『月の満ち欠け』は「生まれ変わり」の可能性をリアルに描く超面白い作品
あなたは「生まれ変わり」を信じるだろうか? 私はまったく信じないが、その可能性を魅力的な要素を様々に散りばめて仄めかす映画『月の満ち欠け』を観れば、「生まれ変わり」の存在を信じていようがいまいが、「相手を想う気持ち」を強く抱く者たちの人間模様が素敵だと感じるだろう
私はもうすぐ41歳になるのですが、視力が落ちてきたなぁと思う以外に、年齢的な衰えを感じることはほとんどありません。ただ、昔と比べて変わったなと感じるのは「涙もろくなったこと」です。本当にちょっとしたことで感動してウルっとしてしまうことが増えたので、そういう時には年齢を感じます。
しかしそれにしたって、本作『キリエのうた』の冒頭で、主人公のキリエ(アイナ・ジ・エンド)が歌い出したその瞬間に涙が零れそうになったのは、自分でも本当に意味が分からないなと思いました。
物語が始まってすぐだったし、ホントにまだ何も展開が無い時のことだからね
純粋に、「歌声」に涙させられたってことなんだろうなぁ
もちろん、アイナ・ジ・エンドのことは映画を観る前から知っていたし、その歌声だって聴いたことがあります。ただ、キリエが歌い出した瞬間の感覚というのは、正直、私がこれまでの人生で感じたことのないものでした。
あわせて読みたい
【表現者】「センスが良い」という言葉に逃げない。自分の内側から何かを表現することの本質:『作詞少…
大前提として、表現には「技術」が必要だ。しかし、「技術」だけでは乗り越えられない部分も当然ある。それを「あいつはセンスが良いから」という言葉に逃げずに、向き合ってぶつかっていくための心得とは何か。『作詞少女』をベースに「表現することの本質」を探る
私は普段、音楽を聴く習慣がほとんどないのですが、様々な場面で耳にする音楽に対して「これは好きだな」みたいに感じることはあります。ただそれは割と、「頭で良いと思っている」という感覚です。「身体が反応している」みたいな感じになったことはありません。また私は、「歌詞」をまったく意識せずに音楽を聴くので、単に「心地いいメロディだな」と頭で考えているということになります。
しかし、キリエの歌の場合は違いました。冒頭のシーンからずっと、キリエが歌っている場面では「身体が反応している」という感覚になったのです。人生で初めて、「音楽を聴いてゾクゾクする」という経験をしたような気がします。それぐらい、私にとっては凄まじい「体感」でした。
まあは、「音楽に身体が反応する」みたいなことは、みんなもっと当たり前に経験しているのかもしれないけどね
ホントに「音楽」の存在が人生において重要だったことがないから、この年になるまでまったく経験してこなかったわ
あわせて読みたい
【諦め】「人間が創作すること」に意味はあるか?AI社会で問われる、「創作の悩み」以前の問題:『電気…
AIが個人の好みに合わせて作曲してくれる世界に、「作曲家」の存在価値はあるだろうか?我々がもうすぐ経験するだろう近未来を描く『電気じかけのクジラは歌う』をベースに、「創作の世界に足を踏み入れるべきか」という問いに直面せざるを得ない現実を考える
音楽との関わりが薄すぎて語彙力に欠けるのですが、アイナ・ジ・エンドの歌声はなんとなく「楽器が鳴っている」みたいな感じがしました。ギターもピアノも他の楽器も大体、複数の音が同時に出て、その重なりや響きによってより深い表現が出来ていると思うのですが、アイナ・ジ・エンドの歌声もそんな感じがします。普通の人の声は「単音」でしかないけれど、アイナ・ジ・エンドの歌声は「複音」に聴こえるみたいなことです。普通の人間の場合、なかなかそんなふうにはならないだろうし、これがアイナ・ジ・エンドの歌声の凄さの一端なのではないかという気がしました。
映画『キリエのうた』は、全体的にとても素敵な作品だったわけですが、やはり圧倒的にアイナ・ジ・エンドの歌声に打ちのめされた感じがします。「同じ映画を何度も観るリピーター」の存在は、「推し活」の一環としてよく聞きますが、本作の場合、「アイナ・ジ・エンド(キリエ)の歌声を聴きたい」という人が何度も繰り返し観に行くかもしれないと思いました。そんな風に感じるぐらい、私にはちょっと衝撃的な歌声だったというわけです。
歌声だけじゃなくて、アイナ・ジ・エンドは演技もちゃんと良かったよね
キリエの設定がアイナ・ジ・エンドに割と近いからやりやすかったってのもあるだろうけど、それにしても初めての演技とは思えなかった
あわせて読みたい
【感想】映画『竜とそばかすの姫』が描く「あまりに批判が容易な世界」と「誰かを助けることの難しさ」
SNSの登場によって「批判が容易な社会」になったことで、批判を恐れてポジティブな言葉を口にしにくくなってしまった。そんな世の中で私は、「理想論だ」と言われても「誰かを助けたい」と発信する側の人間でいたいと、『竜とそばかすの姫』を観て改めて感じさせられた
映画『キリエのうた』の内容紹介
さて、まずはざっくりと内容の紹介をしておきましょう。本作は、東京・大阪・北海道・宮城など様々な土地を行ったり来たりする構成になっています。物語のメインは「キリエが東京で音楽活動をするパート」なのですが、その合間合間に、キリエが辿ってきた人生や、その過程で関わりを持った人たちの話が挿入されるというわけです。映画を観ながら、「なるほど、それがそう繋がるのか」と感じることも多いと思うので、この記事では東京以外、どこで展開される話なのかに触れないでおこうと思います。
青い髪をしたイッコは、友人たちと飲んだ帰り道、路上でギターを抱えて座っている少女を見かけた。立てかけられた小さな看板には「Kyrie」の文字。イッコはそのまま友人たちと別れ、キリエと名乗るその少女に「何か歌って」とリクエストする。そうしてキリエは、目の前にいるイッコのためだけにその凄まじい歌声を響かせた。
イッコはキリエを食事に誘い、そのまま家へと連れて帰る。そして、「私がマネージャーをやる」と宣言した。キリエは基本的にほとんど声が出せないようで、唯一歌声だけは響かせられるのだという。そこでイッコはキリエと共に行動し、路上ライブに必要なものを揃えたり、ライブの様子をSNSにアップしたりするようになっていく。
あわせて読みたい
【奇妙】映画『鯨の骨』は、主演のあのちゃんが絶妙な存在感を醸し出す、斬新な設定の「推し活」物語
映画『鯨の骨』は、主演を務めたあのちゃんの存在感がとても魅力的な作品でした。「AR動画のカリスマ的存在」である主人公を演じたあのちゃんは、役の設定が絶妙だったこともありますが、演技がとても上手く見え、また作品全体の、「『推し活』をある意味で振り切って描き出す感じ」もとても皮肉的で良かったです
小学校教諭のふみは、クラスの男児からある女の子の噂を耳にする。何を聞いても何も答えないから「イワン」と名付けたというその少女は、いつも古墳の辺りに出没するらしく、男児は「そこに住んでるんじゃない?」と適当なことを言っていた。そんなバカな。しかし、万が一そうだとしたら大問題だ。気になったフミは、意識的に古墳の辺りを覗いてみることにした。確かに女の子の歌声が聴こえてくる。しかし、どうにも人の姿は見えない。
高校生のマオリは、突然勉強をしなければならなくなる。スナック勤めのシングルマザーである母親からは元々、学費的に大学進学は諦めてくれと言われており、彼女は高校を卒業したらアルバイトするつもりでいた。しかしある日、状況が大きく変わる。店のお客さんから、「マオリちゃんの学費を出してあげるよ」と言われたというのだ。しかし、大学などまったく行くつもりのなかったマオリにとっては、学力が大いに問題だった。
そこでマオリの元に派遣されたのがナツヒコである。学費を出すと言った人物に頼まれて、マオリに勉強を教える家庭教師としてやってきたのだ。こんな風にしてナツヒコと勉強するようになったマオリはある日、「ルカっていう後輩のことを知っているか?」と聞かれ……。
「仕方なかったこと」を積み上げていく構成の物語
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『流浪の月』を観て感じた、「『見て分かること』にしか反応できない世界」への気持ち悪さ
私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
それぞれのパートの繋がりが分からないように内容を紹介したので、映画を観ていない方には、個々の物語がどう関わっていくのか想像できないでしょう。フィクションなのでもちろん、都合の良い設定や展開もあったりするわけですが、それでも、リアリティを感じさせるギリギリのラインの絶妙な設定の中で、普通なら出会うはずのない人たちによる関わりが映し出されます。そして、それぞれが様々な葛藤や悲しみや苦しみを抱え込みながら、それでもどうにか無理矢理にでも前進していく、そんな姿が描かれる物語というわけです。
上映時間約3時間の映画だからかなり長いけど、キリエの過去をちゃんと描こうとしたらそれぐらいになるよな、って感じの物語
かなりハードな人生を送ってきたわけだし、その上でさらに、歌手としてのステップアップを描く現在パートもあるからね
時系列も舞台もかなりあっちこっちに飛ぶので、人によっては「苦手」と感じられる物語かもしれません。ただ、薄皮をめくるようにして少しずつキリエの過去が明らかになることで、キリエが背負っているものの重みや、キリエと関わった者たちの想いなどがジワジワと浮かび上がってくる構成はとても良かったと思います。
キリエやその周囲の人たちは、かなり辛い人生を歩んできたわけですが、それら1つ1つは「仕方ない」と感じるものばかりでしょう。少なくとも本作においては、悪意をもって他人を貶めようとする人物は出てこなかったと思います。物語に関わる誰もがその人なりの人生を精一杯生きていて、しかしそれでもどうにもならないことが起こり、積み重なり、それらが結果として、主にキリエという少女に降り掛かることになるというわけです。そういう「仕方なさ」みたいなものが強く浮かび上がる作品で、なんとも言えない感覚に陥りました。
あわせて読みたい
【考察】ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』は、BLの枠組みの中で「歪んだ人間」をリアルに描き出す
2巻までしか読んでいないが、ヨネダコウのマンガ『囀る鳥は羽ばたかない』は、「ヤクザ」「BL」という使い古されたフォーマットを使って、異次元の物語を紡ぎ出す作品だ。BLだが、BLという外枠を脇役にしてしまう矢代という歪んだ男の存在感が凄まじい。
また本作では、東日本大震災も扱われます。まさにこれも、「仕方ないこと」だと言えるでしょう。そして、これは私の曲解かもしれませんが、東日本大震災を含め、本作で描かれる描写の多くが、「『仕方ないこと』はどうしようもなく起こるんだ」というメッセージを含んでいるのではないかと感じました。作中で描かれる出来事の中で、「努力すればどうにかなった」と感じるものはほとんどなかったように思います。努力したかどうかに関係なく、どうしようもなく酷いことは起こってしまうものです。そして、「そういうものには抗えないし、それでも生きていくしかない」というのが、作品全体に通底するメッセージだと私には感じられました。
この文章を書いている今はまさに、北陸で大きな地震が起こったばかりの時期だったりします
災害大国と言われる以上仕方ないとは言え、本当に嫌なことが定期的に起こるよね
あわせて読みたい
【愛】ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の“衝撃の出世作”である映画『灼熱の魂』の凄さ。何も語りたくない
映画館で流れた予告映像だけで観ることを決め、他になんの情報も知らないまま鑑賞した映画『灼熱の魂』は、とんでもない映画だった。『DUNE/デューン 砂の惑星』『ブレードランナー 2049』など有名作を監督してきたドゥニ・ヴィルヌーヴの衝撃の出世作については、何も語りたくない
そしてそのような物語だからこそ、キリエが歌の力だけで「しんどい世界」をどうにか生き抜こうとする姿に、シンプルに打たれるのだと思います。観客からすれば「キリエ=アイナ・ジ・エンド」であり、そしてやはり、アイナ・ジ・エンドの歌声は「天性のもの」としか捉えられないでしょう。しかし、キリエに関してはちゃんと「努力」も描かれます(一応書いておきますが、アイナ・ジ・エンドが努力していないなどと言いたいわけではありません)。子どもの頃に出会った路上ライブのおじさん、ギターを教えてくれた人、あるプレゼントをくれた人。こういう出会いによってキリエは歌へと導かれていき、そしてその中で努力もし続けるわけです。作中で描かれる要素のどれか1つでも欠けていたら、「東京の路上で弾き語りをするキリエ」が誕生することはなかったでしょう。そしてさらに、東京での奮闘も描かれるからこそ、「『仕方ないこと』ばかりだった人生を、どうにかして『努力』で切り拓いていく」みたいな見え方になるわけです。
そのような描かれ方も、とても印象的でした。
児童相談所の対応はどうしても許容できない
私は先程、「『仕方ないこと』はどうしようもなく起こるんだ」と書きましたが、1点だけ、「これを『仕方ない』で片付けたくはない」と感じる場面がありました。作中においてはメインとなる描写ではないのですが、私にはとにかく、児童相談所の対応が酷いと感じられたのです。
もちろん、「児童相談所の職員が悪い」なんて言いたいわけではないんだけど
ある意味ではこれも「仕方ない」と言えばその通りなんだけど、でもねぇ、って感じだよね
あわせて読みたい
【評価】映画『ゴジラ-1.0』(山崎貴監督)は面白い!迫力満点の映像と絶妙な人間ドラマ(米アカデミー…
米アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した映画『ゴジラ-1.0』(山崎貴監督)は、もちろんそのVFXに圧倒される物語なのだが、「人間ドラマ」をきちんと描いていることも印象的だった。「終戦直後を舞台にする」という、ゴジラを描くには様々な意味でハードルのある設定を見事に活かした、とても見事な作品だ
どういう状況で児童相談所が関わるのかについては詳しく触れませんが、彼らの対応は恐らく「法律に則ったもの」なのだろうし、そうであれば、職員の対応については「正しいことをした」と受け取るべきなのだと思います。私も、本作中で描かれる「児童相談所が介入し、その結果として引き起こされた状況」については「仕方なかった」という意見です。正直、あまり甘受したくない状況ではあるのですが、法治国家に生きている以上、「法律を遵守した結果」は受け入れるしかないと考えています。
ただ私はどうしても、「『法律に沿って対応してさえいれば自分は正しい』という考えだけで動く人」のことが好きになれません。最終的には、「法に則った対応をしなければならない」のだとしても、そこには「人間的な葛藤」があって然るべきだと感じてしまうのです。
もちろん、作中では描かれていないだけで、児童相談所の職員も見えないところで葛藤しているのかもしれないけどね
だったら良いんだけど、そんな風に微塵も感じない人も世の中にはいるだろうから、怖いなって思っちゃう
「法律」は「社会が物事を決するためのルール」なので、我々国民はそれを受け入れざるを得ないのですが、一方で、「現実」にはありとあらゆる可能性が存在し得るわけで、「法律」がそのすべてを適切にカバー出来ているはずもありません。つまり、「法律」と「現実」は時に残酷なほど乖離するというわけです。例えば、虐待されている子どもを助けたいと考える「血縁は無いが親身になってくれる人物」がいるとしても、法律的には結局、「酷いが血縁のある人物」の方が強いことになります。虐待するような親でも、親は親というわけです。
あわせて読みたい
【考察】A24のホラー映画『TALK TO ME』が描くのは、「薄く広がった人間関係」に悩む若者のリアルだ
「A24のホラー映画史上、北米最高興収」と謳われる『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』は、一見「とても分かりやすいホラー映画」である。しかし真のテーマは「SNS過剰社会における人間関係の困難さ」なのだと思う。結果としてSNSが人と人との距離を遠ざけてしまっている現実を、ホラー映画のスタイルに落とし込んだ怪作
ルールの制定には様々な事情があるのだろうし、すべてを完璧に調整するのは不可能でしょう。もちろん、最終的にはルールに則った対応を取るべきだとも考えています。しかしその一方で、「法律」だけではなく「現実」もちゃんと見た上で、「法を執行すること”だけ”が果たして正義なのだろうか?」と葛藤すべきではないのかと私は思いたいのです。そういう「葛藤」が積み重なることで、もしかしたら「法律」が変わる可能性だってあるでしょう。しかし、法を執行する者がそういう葛藤を抱きもしなければ、現状がそのまま継続されるだけです。
もちろん、児童相談所だって仕事が山積みだろうし、1つ1つにそこまで時間を掛けられないことも理解してるつもりなんだけど
でもやっぱり、「あなたたちが最後の砦なんだよ!」って言いたくもなっちゃうよね
これが、本作『キリエのうた』の中で、私が「仕方ない」で流したくないと感じた、ほぼ唯一と言っていいシーンです。いや、児童相談所の方はホントに大変な仕事をしているんだろうなぁとは思っているんですけど。
あわせて読みたい
【感想】是枝裕和監督映画『怪物』(坂元裕二脚本)が抉る、「『何もしないこと』が生む加害性」
坂元裕二脚本、是枝裕和監督の映画『怪物』は、3つの視点を通して描かれる「日常の何気ない光景」に、思いがけない「加害性」が潜んでいることを炙り出す物語だ。これは間違いなく、私たち自身に関わる話であり、むしろ「自分には関係ない」と考えている人こそが自覚すべき問題だと思う
役者の演技が素晴らしかった
既に触れた通り、アイナ・ジ・エンドは初めてとは思えないくらい演技が上手かったのですが、他の役者もやはり見事でした。特に私は、松村北斗が素晴らしかったなと思います。以前から松村北斗には注目していて、凄いなと思っていたのですが、映画『キリエのうた』でも改めて彼の演技の上手さに感心させられました。
上手く説明できないのですが、松村北斗にはどことなく「普通に喋ってる」みたいな印象があります。上手い役者は皆そういうものなのかもしれませんが、「演技をしている」みたいな感じが全然ないのです。松村北斗を見ていると、「長期密着を続けたことで被写体がカメラの存在を気にしなくなり、『自然体』に近い雰囲気で喋っているように感じられるドキュメンタリー」を観ているような感覚になります。彼のようなフラットさを出せる若手の俳優をあまりパッとは思いつかないので、私にとってかなり印象的な存在です。
松村北斗の存在を初めてきちんと認識したのはたぶん、声優を務めた映画『すずめの戸締まり』だったと思う
声優初挑戦のはずだけど、メチャクチャ上手くてビックリしたよね
あわせて読みたい
【感想】映画『すずめの戸締まり』(新海誠)は、東日本大震災後を生きる私達に「逃げ道」をくれる(松…
新海誠監督の『すずめの戸締まり』は、古代神話的な設定を現代のラブコメに組み込みながら、あまりに辛い現実を生きる人々に微かな「逃げ道」を指し示してくれる作品だと思う。テーマ自体は重いが、恋愛やコメディ要素とのバランスがとても良く、ロードムービー的な展開もとても魅力的
また、広瀬すずが演じる役は本作においては非常に「曲者」であり、私がなんとなく抱いている「広瀬すず像」とは大分異なる役柄でしたが、メチャクチャハマっていたと思います。広瀬すずは大抵「物語の主軸」として配されることが多いように思いますが、映画『キリエのうた』においては「『曲者』として物語をかき乱す」という役回りであり、なんとなくですが、彼女にとって新境地だったんじゃないかという気がしました。
特に、物語全体を時系列で捉えた場合の「前半」と「後半」で、彼女が演じたキャラクターが全然違うのもとても良かったなと思います。その変化の理由についてはっきり描かれるわけではありませんが、ただ「それぐらいの激変を強いられるほど大変な状況にあった」ということは伝わってきました。そしてそう感じさせることが、ラストのある展開に納得感を与えてもいると言えるでしょう。かなりの難役だったと思いますが、さすが広瀬すずという感じでした。
広瀬すずが演じた役ってたぶん、「主役も張れる」みたいな存在感がある役者じゃないとなかなか務まらない気がする
そういう意味でも、広瀬すずはピッタリって感じするよね
あと、自分ではまったく気づかなかったのですが、俳優ではない人がかなり出演しているのだとエンドロールを観て知りました。「大塚愛」や「石井竜也」は、どの役だったのか全然分からなかったので鑑賞後に調べましたが、「なるほどこの役でしたか」と思ったり。個人的に一番不思議だったのは「樋口真嗣」です。どうして役者で出演してるんだろう?
あわせて読みたい
【正義】復讐なんかに意味はない。それでも「この復讐は正しいかもしれない」と思わされる映画:『プロ…
私は基本的に「復讐」を許容できないが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』の主人公キャシーの行動は正当化したい。法を犯す明らかにイカれた言動なのだが、その動機は一考の余地がある。何も考えずキャシーを非難していると、矢が自分の方に飛んでくる、恐ろしい作品
監督:岩井俊二, Writer:岩井俊二, 出演:アイナ・ジ・エンド, 出演:松村北斗, 出演:黒木華, 出演:広瀬すず
¥2,000 (2025/01/06 19:14時点 | Amazon調べ)
ポチップ
著:岩井 俊二
¥750 (2024/07/04 11:25時点 | Amazon調べ)
ポチップ
あわせて読みたい
【全作品視聴済】私が観てきた映画(フィクション)を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が観てきた映画(フィクション)を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非映画選びの参考にして下さい。
最後に
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『アンダーカレント』(今泉力哉)は、失踪をテーマに「分かり合えなさ」を描く
映画『アンダーカレント』において私は、恐らく多くの人が「受け入れがたい」と感じるだろう人物に共感させられてしまった。また本作は、「他者を理解すること」についての葛藤が深掘りされる作品でもある。そのため、私が普段から抱いている「『他者のホントウ』を知りたい」という感覚も強く刺激された
3時間という、映画としては長い部類に入る作品ですが、私はまったく飽きずに観られました。やはりそれは、アイナ・ジ・エンドの存在によるところが大きいと思います。歌声の凄さももちろんなのですが、彼女にはどことなく、「場にいるだけで空気を変えられる強い存在感」があるような気がするのです。だから、ほとんど喋らない役柄にも拘らず、その佇まいだけで場を支配しているみたいな見え方になったのだと思います。
本当に、とても素敵な作品でした。
あわせて読みたい
【感想】のん主演映画『私をくいとめて』から考える、「誰かと一緒にいられれば孤独じゃないのか」問題
のん(能年玲奈)が「おひとり様ライフ」を満喫する主人公を演じる映画『私をくいとめて』を観て、「孤独」について考えさせられた。「誰かと関わっていられれば孤独じゃない」という考えに私は賛同できないし、むしろ誰かと一緒にいる時の方がより強く孤独を感じることさえある
あわせて読みたい
Kindle本出版しました!「それってホントに『コミュ力』が高いって言えるの?」と疑問を感じている方に…
私は、「コミュ力が高い人」に関するよくある主張に、どうも違和感を覚えてしまうことが多くあります。そしてその一番大きな理由が、「『コミュ力が高い人』って、ただ『想像力がない』だけではないか?」と感じてしまう点にあると言っていいでしょう。出版したKindle本は、「ネガティブには見えないネガティブな人」(隠れネガティブ)を取り上げながら、「『コミュ力』って何だっけ?」と考え直してもらえる内容に仕上げたつもりです。
次にオススメの記事
あわせて読みたい
【青春】映画『リンダリンダリンダ』はほぼ何も起こらないのに超素敵!(あとペ・ドゥナが超良い)(監…
映画『リンダリンダリンダ』は、「学園祭直前に組んだ急造バンドでブルーハーツを歌う」ってだけの話で、ストーリーらしいストーリーは別にないのだが、それでもメチャクチャ魅力的な作品だった。主人公の4人は皆素敵だったが、その中でもペ・ドゥナと関根史織は最高で、共に絶妙な雰囲気を醸し出していたなと思う
あわせて読みたい
【切実】映画『ミーツ・ザ・ワールド』圧巻!杉咲花の演技は圧倒的だし、人間の描き方が最高(監督:松…
映画『ミーツ・ザ・ワールド』は、まずは何よりも主人公・由嘉里を演じた杉咲花が最高すぎました。そしてその上で、「希死念慮を抱えたキャバ嬢・ライを中心に、様々な人物の葛藤や人生観が描かれる」というストーリーも興味深かったです。「見ている世界を永遠に共有できない」ことの絶望に、由嘉里はいかに立ち向かうのか?
あわせて読みたい
【日記】友人のZINE『点点』(矢口莉子)が紡ぐ「恋愛できなさ」「生き方・働き方」への悩み
『点点(てんふたつ)』(矢口莉子)は、2023年7月からの2年間を綴った日記をベースにした友人のZINEだ。神奈川県・三崎や香川県・豊島などを”転々”とする日常を様々に切り取っているのだが、その中でも「恋愛の受け入れ難さ」と「生き方・働き方への悩み」がメインとなる。進むべき道に悩む人にオススメしたい1冊だ
あわせて読みたい
【恋?】映画『早乙女カナコの場合は』が描く、「自然な自分でいるために隣にいるべき人」の話(監督:…
映画『早乙女カナコの場合は』は、「『絶対に選ぶべきじゃない相手』の隣にいる時の自分が一番良い」というややこしさをフルスロットルで描き出す作品だ。長津田はダメ男なのだが、しかしカナコはそんな長津田の隣にいる時こそ自分が最も自然体でいられることを知っている。その場合、あなたなら長津田みたいな人を選ぶだろうか?
あわせて読みたい
【想い】映画『水の中で深呼吸』を観て「自分の中の『好き』を確認する作業」について考えさせられた(…
映画『水の中で深呼吸』は、「『同性』に向いた感情は『好き』ってことでいいのか?」と確認する作業を丁寧に描写する場面が多く、「確かにそういうステップは存在し得るよな」と感じさせられた。「他者の評価が気になる」「自分の感覚を他者に押し付けない」といった現代性が反映された繊細な人間関係や葛藤が実に興味深い作品
あわせて読みたい
【最高】映画『この夏の星を見る』は、「コロナ禍の青春」という難題への”完璧すぎる正解”だ(監督:山…
映画『この夏の星を見る』は、「コロナ禍の青春を描く」という、「ほぼ不可能」と言ってもいいんじゃないかという難題に対して、「これしかない!」と感じさせるほど完璧な”正解”を突きつける作品だ。「物理的な空間で繋がっている」という実感をもたらす「競技天体観測」をメインに、「最高で、二度と来ないでほしい夏」を描き出す
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『愛されなくても別に』超良い!毒親からの歪な”愛”に翻弄される少女たちの葛藤(監督…
映画『愛されなくても別に』は、「クソみたいな親」に人生をぶち壊されている3人の少女の日常や葛藤をリアルに描きながら、様々な問いを突きつける作品だ。まったく違う理由で「他者を寄せ付けない雰囲気」を放つ宮田と江永の「出会い」と「その関係性の深化」が素敵で、「この2人だったらずっと観ていられる」と感じるほどだった
あわせて読みたい
【感想】実写映画『からかい上手の高木さん』(今泉力哉)は「あり得ない関係」を絶妙に描く(主演:永…
私は実写映画『からかい上手の高木さん』を「今泉力哉の最新作」として観に行った。常に「普通には成立しないだろう関係性」を描き出す今泉力哉作品らしく、本作でもそんな「絶妙にややこしい関係」が映し出されている。「正解がない」からこそ「すべてが正解になる」はずの「恋愛」をベースに、魅力的な関わりを描き出す物語
あわせて読みたい
【レビュー】実写映画『秒速5センチメートル』が描く「魂が震える人と出会うこと」の煌めきと残酷さ(監…
実写映画『秒速5センチメートル』は、何よりもまず「雰囲気」が最高に素晴らしい作品でした。「人生の早い段階で『魂が震える人』と出会ってしまったこと」の煌めきと残酷さが深く描かれていて、観ている間じゅう色んなことを考えさせられたし、会話も役者の演技も主題歌もすべてが完璧で、とにかく観て良かったなと思います
あわせて読みたい
【相違】友人の友人が作ったZINE『our house』には様々な「恋愛に惑う気持ち」が詰まっている
ひょんなことから知り合った女性が制作したZINE『our house』は、「恋愛」や「友情」に対して私が以前から抱いていた感覚にかなり近い内容で、実に興味深い。特に「恋愛においても、自分のことを性別で捉えられたくない」という感覚は新鮮で、そこから「男性は『恋愛的に惹かれている』という感覚を持たないかも」とも考えた
あわせて読みたい
【あらすじ】驚きの設定で「死と生」、そして「未練」を描く映画『片思い世界』は実に素敵だった(監督…
広瀬すず・杉咲花・清原果耶という超豪華俳優が主演を務める映画『片思い世界』は、是非、何も知らないまま観て下さい。この記事ではネタバレをせずに作品について語っていますが、それすらも読まずにまっさらな状態で鑑賞することをオススメします。「そうであってほしい」と感じてしまうような世界が“リアル”に描かれていました
あわせて読みたい
【あらすじ】「夢を追い求めた先」を辛辣に描く映画『ネムルバカ』は「ダルっとした会話」が超良い(監…
映画『ネムルバカ』は、まず何よりも「ダルっとした会話・日常」が素晴らしい作品です。そしてその上で、「夢を追い求めること」についてのかなり現代的な感覚を描き出していて、非常に印象的でした。「コスパが悪い」という言い方で「努力」を否定したくなる気持ちも全然理解できるし、若い人たちは特に大変だろうなと思います
あわせて読みたい
【切実】映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』は河合優実目当てだったが伊東蒼が超最高!(…
映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』は、伊東蒼演じるさっちゃんがひたすらに独白し続けるシーンがとにかく圧巻で、恋しさとせつなさと心強さが無限に伝わる最高すぎるシーンだった!「想いを伝えたい気持ち」と「伝えることの暴力性」の間で葛藤しながら、それでも喋らずにはいられない想いの強さが素敵すぎる
あわせて読みたい
【煌めき】映画『HAPPYEND』が描く、”監視への嫌悪”と”地震への恐怖”の中で躍動する若者の刹那(監督:…
映画『HAPPYEND』は、「監視システム」と「地震」という「外的な制約条件」を設定し、その窮屈な世界の中で屈せずに躍動しようとする若者たちをリアルに描き出す物語である。特に、幼稚園からの仲であるコウとユウタの関係性が絶妙で、演技未経験だという2人の存在感と映像の雰囲気が相まって、実に素敵に感じられた
あわせて読みたい
【天才】映画『アット・ザ・ベンチ』面白すぎる!蓮見翔の脚本に爆笑、生方美久の会話劇にうっとり(監…
役者も脚本家も監督も何も知らないまま、「有名な役者が出てこないマイナーな映画」だと思い込んで観に行った映画『アット・ザ・ベンチ』は、衝撃的に面白い作品だった。各話ごと脚本家が異なるのだが、何よりも、第2話「回らない」を担当したダウ90000・蓮見翔の脚本が超絶面白い。あまりの衝撃にぶっ飛ばされてしまった
あわせて読みたい
【葛藤】映画『きみの色』(山田尚子)は、感受性が強すぎる若者のリアルをバンドを通じて描き出す(主…
山田尚子監督作『きみの色』は、これといった起伏のないストーリー展開でありながら、「若い世代の繊細さに満ちた人間関係」をとてもリアルに描き出す雰囲気が素敵な作品。「悩み・葛藤を抱えている状態が日常である」という雰囲気をベースにしつつ、「音楽」を起点に偶然繋がった3人の緩やかな日々を描き出す物語に惹きつけられた
あわせて読みたい
【繊細】映画『ぼくのお日さま』(奥山大史)は、小さな世界での小さな恋を美しい映像で描く(主演:越…
映画『ぼくのお日さま』は、舞台設定も人間関係も実にミニマムでありながら、とても奥行きのある物語が展開される作品。予告編で「3つの恋」と言及されなければ、描かれるすべての「恋」には気付けなかっただろうと思うくらいの繊細な関係性と、映像・音楽を含めてすべてが美しい旋律として奏でられる物語がとても素敵でした
あわせて読みたい
【孤独】映画『ナミビアの砂漠』は、自由だが居場所がない主人公を演じる河合優実の存在感が圧倒的(監…
映画『ナミビアの砂漠』は、とにかく「河合優実が凄まじい」のひと言に尽きる作品だ。彼女が演じたカナという主人公の「捉えどころの無さ」は絶妙で、一見すると凄まじく「自由」に羽ばたいている感じなのに、実際には全然「自由」には見えないというバランスが見事だった。特段の物語はないのに、137分間惹きつけられてしまうだろう
あわせて読みたい
【記憶】映画『退屈な日々にさようならを』は「今泉力哉っぽさ」とは異なる魅力に溢れた初期作品だ(主…
今泉力哉作品のオールナイト上映に初めて参加し、『退屈な日々にさようならを』『街の上で』『サッドティー』を観ました。本作『退屈な日々にさようならを』は、時系列が複雑に入れ替わった群像劇で、私が思う「今泉力哉っぽさ」は薄い作品でしたが、構成も展開も会話も絶妙で、さすが今泉力哉という感じです
あわせて読みたい
【?】現代思想「<友情>の現在」を読んで、友達・恋愛・好き・好意などへのモヤモヤを改めて考えた
「現代思想 <友情>の現在」では、「友情」をテーマにした様々な考察が掲載されているのだが、中でも、冒頭に載っていた対談が最も興味深く感じられた。「『友達』というのは、既存の概念からこぼれ落ちた関係性につけられる『残余カテゴリー』である」という中村香住の感覚を起点に、様々な人間関係について思考を巡らせてみる
あわせて読みたい
【絶妙】映画『水深ゼロメートルから』(山下敦弘)は、何気ない会話から「女性性の葛藤」を描く(主演…
高校演劇を舞台化する企画第2弾に選ばれた映画『水深ゼロメートルから』は、「水のないプール」にほぼ舞台が固定された状態で、非常に秀逸な会話劇として展開される作品だ。退屈な時間を埋めるようにして始まった「ダルい会話」から思いがけない展開が生まれ、「女として生きること」についての様々な葛藤が描き出される点が面白い
あわせて読みたい
【感想】映画『夜明けのすべて』は、「ままならなさ」を抱えて生きるすべての人に優しく寄り添う(監督…
映画『夜明けのすべて』は、「PMS」や「パニック障害」を通じて、「自分のものなのに、心・身体が思い通りにならない」という「ままならなさ」を描き出していく。決して他人事ではないし、「私たちもいつそのような状況に置かれるか分からない」という気持ちで観るのがいいでしょう。物語の起伏がないのに惹きつけられる素敵な作品です
あわせて読みたい
【衝撃】広末涼子映画デビュー作『20世紀ノスタルジア』は、「広末が異常にカワイイ」だけじゃない作品
広末涼子の映画デビュー・初主演作として知られる『20世紀ノスタルジア』は、まず何よりも「広末涼子の可愛さ」に圧倒される作品だ。しかし、決してそれだけではない。初めは「奇妙な設定」ぐらいにしか思っていなかった「宇宙人に憑依されている」という要素が、物語全体を実に上手くまとめている映画だと感じた
あわせて読みたい
【感想】アニメ映画『パーフェクトブルー』(今敏監督)は、現実と妄想が混在する構成が少し怖い
本作で監督デビューを果たした今敏のアニメ映画『パーフェクトブルー』は、とにかくメチャクチャ面白かった。現実と虚構の境界を絶妙に壊しつつ、最終的にはリアリティのある着地を見せる展開で、25年以上も前の作品だなんて信じられない。今でも十分通用するだろうし、81分とは思えない濃密さに溢れた見事な作品である
あわせて読みたい
【映画】ウォン・カーウァイ4Kレストア版の衝撃!『恋する惑星』『天使の涙』は特にオススメ!
『恋する惑星』『天使の涙』で一躍その名を世界に知らしめた巨匠ウォン・カーウァイ作品の4Kレストア版5作品を劇場で一気見した。そして、監督の存在さえまったく知らずに観た『恋する惑星』に圧倒され、『天使の涙』に惹きつけられ、その世界観に驚かされたのである。1990年代の映画だが、現在でも通用する凄まじい魅力を放つ作品だ
あわせて読みたい
【奇妙】映画『鯨の骨』は、主演のあのちゃんが絶妙な存在感を醸し出す、斬新な設定の「推し活」物語
映画『鯨の骨』は、主演を務めたあのちゃんの存在感がとても魅力的な作品でした。「AR動画のカリスマ的存在」である主人公を演じたあのちゃんは、役の設定が絶妙だったこともありますが、演技がとても上手く見え、また作品全体の、「『推し活』をある意味で振り切って描き出す感じ」もとても皮肉的で良かったです
あわせて読みたい
【考察】A24のホラー映画『TALK TO ME』が描くのは、「薄く広がった人間関係」に悩む若者のリアルだ
「A24のホラー映画史上、北米最高興収」と謳われる『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』は、一見「とても分かりやすいホラー映画」である。しかし真のテーマは「SNS過剰社会における人間関係の困難さ」なのだと思う。結果としてSNSが人と人との距離を遠ざけてしまっている現実を、ホラー映画のスタイルに落とし込んだ怪作
あわせて読みたい
【絶望】杉咲花主演映画『市子』の衝撃。毎日がしんどい「どん底の人生」を生き延びるための壮絶な決断…
映画『市子』はまず何よりも主演を務めた杉咲花に圧倒させられる作品だ。そしてその上で、主人公・川辺市子を巡る物語にあれこれと考えさせられてしまった。「川辺市子」は決してフィクショナルな存在ではなく、現実に存在し得る。本作は、そのような存在をリアルに想像するきっかけにもなるだろう
あわせて読みたい
【助けて】映画『生きててごめんなさい』は、「共依存カップル」視点で生きづらい世の中を抉る物語(主…
映画『生きててごめんなさい』は、「ちょっと歪な共依存関係」を描きながら、ある種現代的な「生きづらさ」を抉り出す作品。出版社の編集部で働きながら小説の新人賞を目指す園田修一は何故、バイトを9度もクビになり、一日中ベッドの上で何もせずに過ごす同棲相手・清川莉奈を”必要とする”のか?
あわせて読みたい
【希望】誰も傷つけたくない。でも辛い。逃げたい。絶望しかない。それでも生きていく勇気がほしい時に…
2006年発売、2021年文庫化の『私を見て、ぎゅっと愛して』は、ブログ本のクオリティとは思えない凄まじい言語化力で、1人の女性の内面の葛藤を抉り、読者をグサグサと突き刺す。信じがたい展開が連続する苦しい状況の中で、著者は大事なものを見失わず手放さずに、勇敢に前へ進んでいく
あわせて読みたい
【理解】「多様性を受け入れる」とか言ってるヤツ、映画『炎上する君』でも観て「何も見てない」って知…
西加奈子の同名小説を原作とした映画『炎上する君』(ふくだももこ監督)は、「多様性」という言葉を安易に使いがちな世の中を挑発するような作品だ。「見えない存在」を「過剰に装飾」しなければならない現実と、マジョリティが無意識的にマイノリティを「削る」リアルを描き出していく
あわせて読みたい
【違和感】三浦透子主演映画『そばかす』はアセクシャルの生きづらさを描く。セクシャリティ理解の入り口に
「他者に対して恋愛感情・性的欲求を抱かないセクシャリティ」である「アセクシャル」をテーマにした映画『そばかす』は、「マイノリティのリアル」をかなり解像度高く映し出す作品だと思う。また、主人公・蘇畑佳純に共感できてしまう私には、「普通の人の怖さ」が描かれている映画にも感じられた
あわせて読みたい
【美麗】映画『CLOSE/クロース』はあまりにも切ない。「誰かの当たり前」に飲み込まれてしまう悲劇
子どもの頃から兄弟のように育った幼馴染のレオとレミの関係の変化を丁寧に描き出す映画『CLOSE/クロース』は、「自分自身で『美しい世界』を毀損しているのかもしれない」という話でもある。”些細な”言動によって、確かに存在したあまりに「美しい世界」があっさりと壊されてしまう悲哀が描かれる
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』を観てくれ!現代の人間関係の教科書的作品を考…
映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、私にグサグサ突き刺さるとても素晴らしい映画だった。「ぬいぐるみに話しかける」という活動内容の大学サークルを舞台にした物語であり、「マイノリティ的マインド」を持つ人たちの辛さや葛藤を、「マジョリティ視点」を絶妙に織り交ぜて描き出す傑作について考察する
あわせて読みたい
【感想】映画『すずめの戸締まり』(新海誠)は、東日本大震災後を生きる私達に「逃げ道」をくれる(松…
新海誠監督の『すずめの戸締まり』は、古代神話的な設定を現代のラブコメに組み込みながら、あまりに辛い現実を生きる人々に微かな「逃げ道」を指し示してくれる作品だと思う。テーマ自体は重いが、恋愛やコメディ要素とのバランスがとても良く、ロードムービー的な展開もとても魅力的
あわせて読みたい
【映画】今泉力哉監督『ちひろさん』(有村架純)が描く、「濃い寂しさ」が溶け合う素敵な関係性
今泉力哉監督、有村架純主演の映画『ちひろさん』は、その圧倒的な「寂しさの共有」がとても心地よい作品です。色んな「寂しさ」を抱えた様々な人と関わる、「元風俗嬢」であることを公言し海辺の町の弁当屋で働く「ちひろさん」からは、同じような「寂しさ」を抱える人を惹き付ける力強さが感じられるでしょう
あわせて読みたい
【感想】実業之日本社『少女の友』をモデルに伊吹有喜『彼方の友へ』が描く、出版に懸ける戦時下の人々
実業之日本社の伝説の少女雑誌「少女の友」をモデルに、戦時下で出版に懸ける人々を描く『彼方の友へ』(伊吹有喜)。「戦争そのもの」を描くのではなく、「『日常』を喪失させるもの」として「戦争」を描く小説であり、どうしても遠い存在に感じてしまう「戦争」の捉え方が変わる1冊
あわせて読みたい
【誠実】戸田真琴は「言葉の人」だ。コンプレックスだらけの人生を「思考」と「行動」で突き進んだ記録…
戸田真琴のエッセイ第2弾『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』は、デビュー作以上に「誰かのために言葉を紡ぐ」という決意が溢れた1冊だ。AV女優という自身のあり方を客観的に踏まえた上で、「届くべき言葉がきちんと届く」ために、彼女は身を削ってでも生きる
あわせて読みたい
【苦しい】「恋愛したくないし、興味ない」と気づいた女性が抉る、想像力が足りない社会の「暴力性」:…
「実は私は、恋愛的な関係を求めているわけじゃないかもしれない」と気づいた著者ムラタエリコが、自身の日常や専門学校でも学んだ写真との関わりを基に、「自分に相応しい関係性」や「社会の暴力性」について思考するエッセイ。久々に心にズバズバ刺さった、私にはとても刺激的な1冊だった。
あわせて読みたい
【感想】映画『君が世界のはじまり』は、「伝わらない」「分かったフリをしたくない」の感情が濃密
「キラキラした青春学園モノ」かと思っていた映画『君が世界のはじまり』は、「そこはかとない鬱屈」に覆われた、とても私好みの映画だった。自分の決断だけではどうにもならない「現実」を前に、様々な葛藤渦巻く若者たちの「諦念」を丁寧に描き出す素晴らしい物語
あわせて読みたい
【思考】戸田真琴、経験も文章もとんでもない。「人生どうしたらいい?」と悩む時に読みたい救いの1冊:…
「AV女優のエッセイ」と聞くと、なかなか手が伸びにくいかもしれないが、戸田真琴『あなたの孤独は美しい』の、あらゆる先入観を吹っ飛ばすほどの文章力には圧倒されるだろう。凄まじい経験と、普通ではない思考を経てAV女優に至った彼女の「生きる指針」は、多くの人の支えになるはずだ
あわせて読みたい
【評価】のん(能年玲奈)の映画『Ribbon』が描く、コロナ禍において「生きる糧」が芸術であることの葛藤
のん(能年玲奈)脚本・監督・主演の映画『Ribbon』。とても好きな作品だった。単に女優・のんが素晴らしいというだけではなく、コロナ禍によって炙り出された「生きていくのに必要なもの」の違いに焦点を当て、「魂を生き延びさせる行為」が制約される現実を切り取る感じが見事
あわせて読みたい
【感涙】映画『彼女が好きなものは』の衝撃。偏見・無関心・他人事の世界から”脱する勇気”をどう持つか
涙腺がぶっ壊れたのかと思ったほど泣かされた映画『彼女が好きなものは』について、作品の核となる「ある事実」に一切触れずに書いた「ネタバレなし」の感想です。「ただし摩擦はゼロとする」の世界で息苦しさを感じているすべての人に届く「普遍性」を体感してください
あわせて読みたい
【感想】綿矢りさ原作の映画『ひらいて』は、溢れる”狂気”を山田杏奈の”見た目”が絶妙に中和する
「片想いの相手には近づけないから、その恋人を”奪おう”」と考える主人公・木村愛の「狂気」を描く、綿矢りさ原作の映画『ひらいて』。木村愛を演じる山田杏奈の「顔」が、木村愛の狂気を絶妙に中和する見事な配役により、「狂気の境界線」をあっさり飛び越える木村愛がリアルに立ち上がる
あわせて読みたい
【正義】復讐なんかに意味はない。それでも「この復讐は正しいかもしれない」と思わされる映画:『プロ…
私は基本的に「復讐」を許容できないが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』の主人公キャシーの行動は正当化したい。法を犯す明らかにイカれた言動なのだが、その動機は一考の余地がある。何も考えずキャシーを非難していると、矢が自分の方に飛んでくる、恐ろしい作品
あわせて読みたい
【中絶】望まない妊娠をした若い女性が直面する現実をリアルに描く映画。誰もが現状を知るべきだ:『17…
他の様々な要素を一切排し、「望まぬ妊娠をした少女が中絶をする」というただ1点のみに全振りした映画『17歳の瞳に映る世界』は、説明もセリフも極端に削ぎ落としたチャレンジングな作品だ。主人公2人の沈黙が、彼女たちの置かれた現実を雄弁に物語っていく。
あわせて読みたい
【考察】『うみべの女の子』が伝えたいことを全力で解説。「関係性の名前」を手放し、”裸”で対峙する勇敢さ
ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
あわせて読みたい
【考察】生きづらい性格は変わらないから仮面を被るしかないし、仮面を被るとリア充だと思われる:『勝…
「リア充感」が滲み出ているのに「生きづらさ」を感じてしまう人に、私はこれまでたくさん会ってきた。見た目では「生きづらさ」は伝わらない。24年間「リアル彼氏」なし、「脳内彼氏」との妄想の中に生き続ける主人公を描く映画『勝手にふるえてろ』から「こじらせ」を知る
あわせて読みたい
【助けて】息苦しい世の中に生きていて、人知れず「傷」を抱えていることを誰か知ってほしいのです:『…
元気で明るくて楽しそうな人ほど「傷」を抱えている。そんな人をたくさん見てきた。様々な理由から「傷」を表に出せない人がいる世の中で、『包帯クラブ』が提示する「見えない傷に包帯を巻く」という具体的な行動は、気休め以上の効果をもたらすかもしれない
あわせて読みたい
【逃避】つまらない世の中で生きる毎日を押し流す”何か”を求める気持ちに強烈に共感する:映画『サクリ…
子どもの頃「台風」にワクワクしたように、未だに、「自分のつまらない日常を押し流してくれる『何か』」の存在を待ちわびてしまう。立教大学の学生が撮った映画『サクリファイス』は、そんな「何か」として「東日本大震災」を描き出す、チャレンジングな作品だ
あわせて読みたい
【映画】『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』で号泣し続けた私はTVアニメを観ていない
TVアニメは観ていない、というかその存在さえ知らず、物語や登場人物の設定も何も知らないまま観に行った映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』に、私は大号泣した。「悪意のない物語」は基本的に好きではないが、この作品は驚くほど私に突き刺さった
あわせて読みたい
【感想】映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を異性愛者の男性(私)はこう観た。原作も読んだ上での考察
私は「腐男子」というわけでは決してないのですが、周りにいる腐女子の方に教えを請いながら、多少BL作品に触れたことがあります。その中でもダントツに素晴らしかったのが、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』です。その映画と原作の感想、そして私なりの考察について書いていきます
あわせて読みたい
【あらすじ】「愛されたい」「必要とされたい」はこんなに難しい。藤崎彩織が描く「ままならない関係性…
好きな人の隣にいたい。そんなシンプルな願いこそ、一番難しい。誰かの特別になるために「異性」であることを諦め、でも「異性」として見られないことに苦しさを覚えてしまう。藤崎彩織『ふたご』が描き出す、名前がつかない切実な関係性
あわせて読みたい
【考察】世の中は理不尽だ。平凡な奴らがのさばる中で、”特別な私の美しい世界”を守る生き方:『オーダ…
自分以外は凡人、と考える主人公の少女はとてもイタい。しかし、世間の価値観と折り合わないなら、自分の美しい世界を守るために闘うしかない。中二病の少女が奮闘する『オーダーメイド殺人クラブ』をベースに、理解されない世界をどう生きるかについて考察する
あわせて読みたい
【覚悟】人生しんどい。その場の”空気”から敢えて外れる3人の中学生の処世術から生き方を学ぶ:『私を知…
空気を読んで摩擦を減らす方が、集団の中では大体穏やかにいられます。この記事では、様々な理由からそんな選択をしない/できない、『私を知らないで』に登場する中学生の生き方から、厳しい現実といかにして向き合うかというスタンスを学びます
ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
才能・センスがない【本・映画の感想】 | ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
子どもの頃は、自分が何かの才能やセンスに恵まれていることを期待していましたが、残念ながら天才ではありませんでした。昔はやはり、凄い人に嫉妬したり、誰かと比べて苦…
ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント