目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「サクリファイス」HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報を御覧ください
この記事で伝えたいこと
「外部の何かとても大きな力」が、自分のこのつまらない日常を動かしてくれることを願っている
安易で不謹慎な考えかもしれませんが、そんな「何か」を望んでしまいます
この記事の3つの要点
- 「生きること」は「普通」や「つまらなさ」との闘い
- 「普通」と適切な距離を取れるようになるまで苦労した
- 「東日本大震災」をある種の「背景」として描き出す挑戦的な姿勢
沖田を演じた青木柚が絶妙な雰囲気を醸し出していたと感じました
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
映画『サクリファイス』を観て改めて、「『つまらない日常を押し流す何か』を、いつでも求めてしまっていること」に気付かされた
立教大学の学生が撮った映画
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映画を観る前にきちんと理解していたわけではありませんが、この映画は、立教大学の学生が撮った映画なのだそうです。
そんな映画だと、まったく想像してもいなかったから驚きました。「大学生が撮ったにしては凄い」なんていう話ではまったくなく、映画としてとても好きです。
立教大学には、映画製作に関する学科が存在するらしく、プロの映画監督が教壇に立ち講義を行います。実際に、プロの映画監督も輩出しているとのこと。この映画は、「第一回立教大学映像身体学科研究室スカラシップ作品」として作られ、映画賞を受賞し、映画館で公開されるまでになりました。
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映画が生まれたきっかけは、宿題だったそうです。映画監督の篠崎誠のゼミで出された「東日本大震災をテーマにした脚本を書く」という宿題が、この映画として結実したとのこと。
そう、この映画は「東日本大震災」をテーマにしているのですが、その扱い方にも驚かされました。その話は、また後で書きましょう。
立教大学には大学内に立派なスタジオがあり、学生なら使うことができるとも言ってたなぁ
プロの目から見るといろいろ粗はあるのかもだけど、素人目には相当レベルの高い映画だと思うよね
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子どもの頃、台風が来るとワクワクした
子どもの頃、大雨や台風にテンションが上がっていたような気がします。たぶん、「いつもと違う」ということにワクワクしていたのでしょう。子どもの頃は、「台風がどれだけ被害をもたらすのか」なんてことを考えもしないので、無邪気にその「非日常感」に浸っていられる、ということもあります。
大人になった今では、台風やゲリラ豪雨には、めんどくささや恐怖と言った感情が先にきます。出勤で雨に濡れるなとか、窓ガラスが割れないようにしないと、みたいなことを考えるようになるし、土砂崩れや浸水など、甚大な被害をもたらす豪雨が増えているために恐怖も感じます。
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だからもう、台風にワクワクを感じられません。でも、いつも「何か」を待っている気はします。
あの時は、何かが大きく変わる気がしたんだよね
登場人物の一人がこう言いますが、この「何か」と同じものを私もいつも待っている気がします。それが何であるのか具体的には分からないものの、自分の「日常」を吹き飛ばすような「非日常感」をもたらしてくれる「何か」を。
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こういうことを言うと、凄く不謹慎に思われがちだけど
だから、こんな叫びにも共感してしまいました。
置いてかないで! 私も連れてって!
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世の中には、「外的な何か」を待つことなく、自分の力でその「日常と非日常の境界」をひらりと乗り越えてしまう人もいます。私は自分がそういう人間になれないと分かっているからこそ、「境界」を軽々と飛び越えられる人の存在には憧れてしまいますし、同じように「ついていきたい」と思ってしまうでしょう。
「生きること」は「普通に取り込まれること」
こういう感覚を抱いている自分自身に嫌気が差してしまうこともありますが、私は、「生きることは、普通に取り込まれること」だと感じています。
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先に書いておくと、私は自分のことを「普通ではない特別な人間だ」などと思っているわけではありません。「普通ではない人間になりたい」とは常に思っていますが、今の自分が特別だと考えているわけでも、特別になりたいわけでもありません。
ただ、「普通」という集合がどうにも好きになれない、というだけのことです。
ただ生きていると、「普通から外れて生きていく」というのはとても難しいことだと感じます。
子どもの頃から、「普通」「当たり前」みたいな感覚に窮屈さしか感じられなかったので、「大人になれば、『普通』から外れられるはずだ」と思うことで日々をしのいでいたはずです。
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でも、年を重ねていくにつれて、そうじゃないということに気づくことになります。むしろ、大人になればなるほど、「普通でいること」への圧力みたいなものに取り込まれてしまうのだと実感させられることにもなりました。山奥で孤独に生きていくならともかく、社会の中で他人と関わっていくのであれば、仕方ないことではあるでしょう。
「普通」を手放せば手放すほど、社会の中で生きていくことの「めんどくささ」が増していくんだよなぁ
当たり前だけど、社会のルールは多数派に合うように作られているからね
その後私は、自分なりに転落や努力や忍耐を経験して、自分の中で悪くないと思える程度には「普通」と距離を取ることができるようになりました。長い奮闘のお陰で、今では「普通であること」への葛藤をそこまで強く感じずに生きられていると言えるでしょう。
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だけど、やはりこんな風にも考えてしまうこともあります。「普通」と適切な距離を取るのにこれほど苦労するなら、何か「外部の力」にサクッと押し流されたかったな、と。自分の意思で「普通」から外れるのではなく、否応なしに「普通」から外れざるを得なかったという方が、結果的には楽だったんじゃないかな、と。
「外部の力」として「東日本大震災」を描く
この流れで「東日本大震災」に触れるのはなかなか勇気が要りますが、まさに本作は、「否応なしに異なる環境に自分を押し出す何らかの外的な要因」として「東日本大震災」が描かれる作品です。
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この点についての私の考えを書く前に、映画鑑賞後の舞台挨拶で、福島県出身だという役者が語っていた話に触れたいと思います。福島出身の方の言葉だからこそ、私とは違ってきちんと重みを感じられると思うので、利用させていただこうと。
僕は、いわゆる「震災モノ」の物語って、どちらかっていうと嫌いなんですよね。どうしても震災を扱う時、”希望”とか”喜び”みたいなものに話が収束していく感じがあると思うんですけど、そういう展開って苦手なんです。東日本大震災は、”希望”とか”喜び”の踏み台のためにあるわけじゃないぞ、って思っちゃうんですよね
なるほど、と感じた言葉です。私は、親族を含めても東日本大震災の被災地と特別関わりのある人間ではありませんが、「東日本大震災」の扱われ方に似たような印象を抱いていました。もっと言うと、「東日本大震災を扱っておけば文句のつけようがないでしょ」みたいな穿った見方さえしてしまうほどです。
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「東日本大震災は美談として描くことしか許容しない」みたいな、行き過ぎた同調圧力のようなものを感じてしまうこともありますし、そういう中で、「東日本大震災を些末な背景として描く」みたいな決断が難しいと感じるのも当然だと思います。
そしてだからこそ、この映画はちょっと衝撃的でした。「東日本大震災」というものを明確に扱いながら、それをある種の「背景」としてしか描かないという決断は、なかなかできるものではないでしょう。
この映画では、「東日本大震災」でなければならない必然性はほぼ存在せず、「これまでに起こった中でも最大級の災害」という、固有名詞を廃したような描かれ方がなされます。そして、だからこそ余計に、「東日本大震災」という存在がくっきりと浮かび上がってくるような、そんな印象さえ受けました。
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最初から劇場での公開を想定してたわけじゃなかったみたいだから、それも良かったのかもね
大手であればあるほど、批判を恐れてなかなかチャレンジングなことが出来なかったりすることもあるだろうし
ソースを見つけられなかったので映画名は伏せますが、以前ある映画の監督インタビューで、こんな話を読みました。東日本大震災が発生したことで脚本を変え、震災直後の被災地で撮影を行ったのですが、その際被災者の方から、「最後に自分の家を記録してくれて良かった」という言葉をもらえた、という話です。
勝手なイメージだけで考えると、震災直後の被災地で映画の撮影なんて不謹慎だ、となりかねませんが、被災者には被災者なりの想いがあり、当事者じゃなければ分からない感覚があるのだと実感させられたエピソードとして印象に残っています。
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被災者や障害者など、「ある一面的な見方しか許容されないような雰囲気」をまとわされている対象というのは存在します。実情をよく知らないまま、印象やイメージだけで語ることの愚かさについても感じさせられる映画でした。
映画『サクリファイス』の内容紹介
2011年3月7日。新興宗教<汐の会>の施設内で母親と共に生活する少女「アプ」は、自分が見た夢の話をする。巨大なミミズが蠕動し、恐ろしい津波がすべてを飲み尽くすという夢だった。その数日後、その夢は現実のものとなる。
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7年後。彼女は大学生となり、新興宗教の施設で「アプ」として暮らしていたという過去を隠し、本名の翠として、ごく普通の生活を送っている。
翠と同じ大学に通う塔子は、1つ上の先輩・正哉と付き合っている。彼は今まさに就活中であり、毎日大変そうだが、塔子は「物分りの良い彼女」というスタンスで正哉を気遣ったり優しい言葉を掛けてあげたりする。
そんな塔子は、同じ大学の沖田に興味を惹かれている。沖田のバッグに入っていたスクラップブックには、最近巷で話題になっている猫殺しの記事が切り抜かれており、それをネタに塔子は沖田につきまとう。
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発見される猫には赤文字で数字が書かれている。最初に見つかった猫には「311」、そしてそれから、1つずつカウントダウンのように数字が減っていく。世間では、311匹の猫が殺された時何かが起こるという噂が飛び交っている。
そんな猫殺しの記事をスクラップし、誰にでも愛想良く振る舞うが他人に関心を抱こうとしない沖田が何を考えているのか、塔子は突き止めたいと思う。
他にもキナ臭いことは様々に起こる。同じ大学に通う神埼ソラという学生が川辺で死体となって発見された。<しんわ>という新興宗教が学内にはびこっており、学生をリクルートしては中東に送っているのだというまことしやかな噂もある。
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そして翠は、施設から脱走した際に一緒だった男の子からもらったお守りを学内で落としてしまったことで、厄介な出来事に巻き込まれていく……。
映画『サクリファイス』の感想
映画を観て感じた、「外部の大きな力によって押し流されたい」という感覚については、冒頭で書いた通りです。ある種の人たちからは、「甘えている」「なめてる」と思われるような人生との向き合い方かもしれないですが、今の時代感覚には凄く合っていると思うし、共感できる人も多いのではないかと感じました。
私は、かなり好きな映画です。
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メジャーな作品ではないために、役者の演技についてはどうしても、商業映画と比べればちょっと劣る部分はあるかもしれません。ただ、「沖田」役を演じていた青木柚は非常に印象的で良かったです。映画『うみべの女の子』の予告を観た時に、この俳優に見覚えがあると思って調べたら、この『サクリファイス』に出ている役者だと気づいて驚きました。また、映画『MINAMATA』にも出ていたことを、鑑賞後に知ることになります。映画を観ている時にはまったく気づかず、その演技に衝撃を受けました。
映画の中で描かれる「沖田という人物」は、日常生活の中ではそうそう出会うことがないだろう「異質な存在」だと思います。でも、その「異質な雰囲気」を、青木柚は非常に良く醸し出していると感じました。沖田役の役者は最後まで決まらなかったと舞台挨拶で話していましたが、彼を選んだことは正解だったと思います。
沖田という人物像が映画の中できちんと存在できるかが、映画の成否を分ける部分は大きかっただろうから、なおさら重要だったと思う
日常感と非日常感の狭間にいる雰囲気を見事に出してて良かったよね
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それでもやはり、まだ、「自分を押し流してくれる『何か』」を求める気持ちは、完全には消えてくれません。
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生きるって厄介なことだなぁ、と改めて感じます。
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男性同士の恋愛が犯罪であり、ゲイの男性が刑法175条を理由に逮捕されてしまう時代のドイツを描いた映画『大いなる自由』は、確かに同性愛の物語なのだが、実はそこに本質はない。物語の本質は、まさにタイトルにある通り「自由」であり、ラストシーンで突きつけられるその深い問いかけには衝撃を受けるだろう
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実業之日本社の伝説の少女雑誌「少女の友」をモデルに、戦時下で出版に懸ける人々を描く『彼方の友へ』(伊吹有喜)。「戦争そのもの」を描くのではなく、「『日常』を喪失させるもの」として「戦争」を描く小説であり、どうしても遠い存在に感じてしまう「戦争」の捉え方が変わる1冊
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「実は私は、恋愛的な関係を求めているわけじゃないかもしれない」と気づいた著者ムラタエリコが、自身の日常や専門学校でも学んだ写真との関わりを基に、「自分に相応しい関係性」や「社会の暴力性」について思考するエッセイ。久々に心にズバズバ刺さった、私にはとても刺激的な1冊だった。
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ドキュメンタリー映画だと思って観に行った『解放区』は、実際にはフィクションだったが、大阪市・西成区を舞台にしていることも相まって、ドキュメンタリー感がとても強い。作品から放たれる「異様さ」が凄まじく、「自分は何を観せられているんだろう」という感覚に襲われた
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『あなたの孤独は美しい』というエッセイでその存在を知ったAV女優・戸田真琴の初監督映画『永遠が通り過ぎていく』。トークショーで「自分が傷つけられた時の心象風景を映像にした」と語るのを聞いて、映画全体の捉え方が変わった。他者のために創作を続ける彼女からの「贈り物」
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村上春樹の短編小説を原作にした映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)は、村上春樹の小説の雰囲気に似た「自然な不自然さ」を醸し出す。「不自然」でしかない世界をいかにして「自然」に見せているのか、そして「自然な不自然さ」は作品全体にどんな影響を与えているのか
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