【あらすじ】趣味も仕事もない定年後の「退屈地獄」をリアルに描く内館牧子『終わった人』から人生を考える

目次

はじめに

この記事で取り上げる本

著:内館牧子
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いか

この本をガイドに記事を書いていくようだよ

この記事で伝えたいこと

昔からずっと、「暇つぶし」だと思って日々を生きてきました

犀川後藤

未だに「どうしても生きていたい」と強くは思えずにいます

この記事の3つの要点

  • やりたいことも欲しいものもない人生を、ただダラダラと生き続けてきた
  • 「こうだったら幸せ」という感覚を持たずに生きて来られたことはとても良かったと思う
  • プライベートをSNSにアップして承認欲求を満たしている人は、主人公・田代壮介の生き方を笑えないかもしれない
犀川後藤

平凡な主張ですが、「人生には良い時もあるし悪い時もある」と考えるのがいいんだと思います

自己紹介記事

犀川後藤

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

内館牧子『終わった人』が描く「定年後の人生の退屈さ」を、現代人の多くは既に感じてはいないだろうか?

とても面白い作品でした。現在40歳の私には、「定年後」はまだまだ先の話ですが、「定年後の人生」をリアルに見せられることで、人生全体について考えさせられたと言っていいでしょう。自分の人生の終着がどうなるのか、まったく想像もつきませんが、既に死ぬほど退屈している私には、定年前だろうが定年後だろうが大差ないのかもしれないと感じたりもしました。

いか

ホント、人生って大体「退屈」だもんね

犀川後藤

生きる気力は、未だに全然湧いて来ないんだよなぁ

「こうだったら幸せ」という価値観を持たずに生きてきた

私はこれまでずっと、「生きているのは暇つぶしだ」と思ってきました。やりたいことも欲しいものも特にありません。それなりに長く生きてはきたので、「どうやったら自分のテンションが上がるのか」についてはそれなりに捉えられるようになってきましたが、あまりにもその対象が狭すぎるため、それが理解出来たところで、自分の人生の豊かさみたいなものに繋がりはしませんでした。

そして私は、割と多くの人がこのような感覚を抱いているんじゃないかと考えているのです。

いか

趣味とか仕事とかで人生が充実している人ももちろんたくさんいると思うけどね

犀川後藤

ただ、「『生きていくストレス』を解消するために趣味とか推し活とかが無いとやってられない」みたいな人も多いだろうなぁ

やりたいことがたくさんありすぎて時間がない」みたいな「自分の欲望を起点に人生を歩んでいける人」を見ると、良いなと思うし、羨ましいと感じます。残念ながら、私はほとんどそんな感覚になれたことがありません「参加の意思表示をした覚えのないゲームにいつの間にかエントリーさせられていて、辞退する方法が分からないからとりあえずステージに残っている」みたいな気分でずっと生きているのです。もちろん、ステージ上にいる以上は、楽しい方がいいに決まっているので、色んなことに手を出してみたり、自分なりにあれこれ探してみたりしてきたつもりです。ただやっぱり、基本的に「別に望んでこのステージにいるわけじゃない」という気持ちが強いので、なかなか楽しいことに出会えません。もし、自殺みたいな手段ではなくこのゲームから降りる方法があるなら、僕はたぶんそれを選択するでしょう。

私のこの感覚は、分からない人にはまったく理解できないものだと思いますが、共感できる人はきっと一定数いると思います。そして私は、自分のこのような状況を「暇つぶし」と呼んでいるわけです。

いか

「暇つぶし」にしては、超長い文章ばっかりのこんなブログを続けてたりするよね

犀川後藤

「暇」なのが嫌いだから「つぶし」に全力を注いでるって感じかな

そんなわけで私には、「こういう人生じゃなきゃ許容できない」みたいな理想・希望がありません。「やりたくないこと」はたくさんあるので、「『やりたくないこと』をやらざるを得ない人生」だけは許容できないのですが、そうでなければ、別になんでもOKです。結婚しようがしまいが、どんな仕事をしていようが、お金があろうがなかろうが、別に問題ありません。社会に迷惑を掛けるような生き方ではなく、かつ、「やりたくないこと」から可能な限り遠ざかっていられる人生であれば、私としてはかなり満足だと言えるでしょう。

私のこのようなスタンスは、ある意味では「生きやすさ」に繋がっているとも言えます。というのも世の中の多くの人が、「こういう人生でなければ許容できない」みたいな理想を抱えているが故に不自由・不幸に陥っているように感じられるからです。

いか

分かりやすいのは、「結婚できないと不幸」みたいな価値観ね

犀川後藤

「結婚すれば幸せになれる」みたいな思考回路って、私にはちょっと理解できないんだよなぁ

もちろん、理想を抱くことで努力できる人もいるだろうし、あるいは、「これさえあれば他に何も要らないぐらい私にとっては大事」という程の強さで何かを望んでいる人もいるでしょう。そういう人はそのままで問題ないと思います。ただ中には、深く考えもせずに、両親や友人、芸能人・YouTuberなどの姿を見て、「自分もこうだったら幸せなのに」と考えているだけの人もいるはずです。そういう理想は、すぐに手放した方がいいんじゃないかと感じてしまいます。

私は常に、「人生ずっとつまんねーな」と思っているので、「私の真似をすれば誰でもハッピーに生きられる」なんて主張をするつもりはもちろんありません。ただ一方で、「こうじゃなきゃ私は幸せになれない」という思い込みこそがあなたを不幸にしているのではないかとも考えているのです。

まあ、人生つまんねーなと思っている私が何を言っても説得力はないでしょうが、「定年後」を描く『終わった人』を読んで、この話は「定年前」にも当てはまるはずだと思ったし、結局のところ「自分のアイデンティティ」みたいなものを何かに依存させないことこそが大事なのだろうとも感じました。

内館牧子『終わった人』の内容紹介

田代壮介は今日、退社の日を迎えた。東大を卒業し、大手のたちばな銀行に就職、順調に出世を果たすも49歳で子会社への出向を命じられ、51歳で転籍となった。もはや出世の見込みもない「終わった人」である。そしてそのまま退社となった。本書の書き出しの文章は、「定年って生前葬だな」である。

仕事一筋で生きていた壮介には、仕事以外の「何か」がない。とにかくやることがまったくないのだ。暇で仕方がない。妻の千草は、43歳の時に突如ヘアメイクの専門学校に通い始め、今は美容師としてサロンで働いている。娘の道子は結婚して家を出た。壮介の相手をしてくれる者などいない。かと言って「ジジババ」が集まるような場所には行きたくないと思っている。謎のプライドがあるからだ。縁戚のトシは、「トシ・アオヤマ」というイラストレーターとして知られており、同世代なのになんとなく若い。自分も、出来ればそういう雰囲気のままでいたい。

カルチャーセンターや図書館に通いつめるなどもっての他だが、かと言って何か仕事するというのも難しい。壮介の華麗すぎる経歴が逆に足枷になり得るからだ。いずれにせよ、今の自分に任される仕事があるとしても大したものではないだろう。そもそも、再雇用を申請すればあと数年は会社にいられた。しかし、給料は大幅に減額されるし、ロクな仕事もないのに若手に気を遣われるのが嫌で延長しなかったのだ。そんな自分が、ハローワークで紹介されるような仕事をするわけにはいかない

しかし、さすがに暇すぎる。もう限界だ。そうなってようやく壮介は、今までプライドが邪魔して手を出せずにいたことを始めてみようと思い立つのだが……。

内館牧子『終わった人』の感想

本書は「定年後」をリアルに描き出す物語ですが、設定としてまず上手いと感じたのは「お金の問題をほぼ排除している」という点です。「定年後」においては当然「お金」のことも問題になってくるでしょうが、壮介の場合まったくそんなことはありません。恐らくですが、かなり裕福な部類だと言っていいでしょう。そういう設定にすると普通、読者からの共感を得られにくくなる気もしますが、『終わった人』の場合はむしろ、「お金には困っていない」という設定が絶妙だと感じました。そうすることで、「お金があったところで悩みから解放されるわけではない」という現実を描くことができるからです。

いか

まあ、今の若い世代は特に、「お金があれば解決」なんて発想をそもそもしないとは思うけどね

犀川後藤

近いうちに定年を迎えるだろう世代の人はそんな風に考えてそうだから、刺さるだろうなぁ

結局のところ、壮介の抱える問題は「人生のすべてを『仕事』に全振りしてきた」という点にあります。これもまた、割と上の世代の人たち特有の問題という感じはするでしょう。若い世代の多くは恐らく、「仕事」を軸に人生を組み立てたりはしていないと思います。

しかしだからと言って、若い世代が定年を迎える頃に問題が無くなるかと言えばそんなことはないでしょう。何故なら、結局のところ壮介が抱えていた問題は、「『仕事』に全振りすることで、周りから『凄い』と思われたかった」という点にあるからです。地方出身で東大から大手銀行に就職するという、誰もが羨むような人生を歩んできた壮介は、そういう生き方に自負を抱いていたし、そのことがアイデンティティにもなっています。だから、出向や転籍などに直面した際、地元の友人たちにその話を出来ずにいました。彼はずっと「たちばな銀行でエリートコースを歩んでいる」という風に思われたかったのです。

犀川後藤

壮介の場合は「仕事」だったけど、今の時代はプライベートをSNSに上げることで同じような状況に陥っている人はたくさんいそう

いか

「『こんな生活が送れている私は凄い』みたいな見せ方をし続けることが、人生のアイデンティティになっている」みたいなね

定年後に地元に戻り、高校時代の同級生たちと再び関わりを持つようになった壮介は、少しずつ考えが変わっていくことになります。特に、高校時代に目立つ存在ではなかった奴が、今では自分なりの生き方を見つけており、「終わった人」になってしまった自分とは違って、これからも静かに輝き続けるだろう姿を目にした壮介の心は大きく揺れるのです。過去には戻れないし、自分が辿ってきた道を否定したいわけでもありません。ただ、「もっと別の人生があったのかもしれない」という感覚を拭いきれないのです。

壮介はある意味でとてもステレオタイプ的な存在と言っていいでしょうが、しかしそういうステレオタイプをど直球に描き出すことで、「人生の善し悪しは簡単には決まらない」と感じられるんじゃないかと思います。壮介の人生は、その一部を切り取るのなら間違いなく「輝かしいもの」だと言えるでしょう。しかし、人生をトータルで捉えた時に、果たして壮介自身がそんな風に思えるのかは疑問と言えるかもしれません。ありきたりな話ですが、結局「良い時も悪い時もある」のが人生というわけです。だからこそ、「こうだったら幸せ」という感覚を持ちすぎない方がいいのだろうとも思います。

犀川後藤

さらにありきたりなことを言うと、結局のところ「隣の芝生は青く見える」って話でしかないよなぁ

いか

どんな人生にも、その人生なりの大変さがあるものだし、「何も不満がない人生」なんてホント一握りの人だけ
だよね

作品全体としては、著者が女性だからでしょう、男性主人公の作品でありながら、女性らしい視点が印象に残りました。具体的に何がどうという説明は難しいのですが、女性ならではの描写の鋭さみたいなものが作品をきちんと支えている感じがします。「定年後」という、どうしたってドラマティックには成り得ない題材の作品を面白く読ませる上で、細かな心理描写や物事の繊細な捉え方は非常に重要でしょう。動的な要素があまりない作品において、静的な要素を丁寧に積み上げることで読者を飽きさせない工夫がとても良かったと思います。

著:内館牧子
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最後に

昔から「50歳ぐらいで死にたい」と言い続けてきたのですが、現実にはなかなか難しいでしょう。今40歳の私は、なんだかんだ身体もとても健康なので、結局ずるずると生き続けてしまう気がします。「どうしても生きていたい」という強い想いを抱く人には申し訳ありませんが、やはり私には、人生を真剣に有意義に生きていこうという気力はどうしても湧いてきません常に「ダルっ」と思いながら生きています

ただまあ、ある意味で「定年後」を先取りしている人生と言えるでしょうし、そう考えれば、「定年」を迎えてもさほど変化なく生きていけるのかもしれません。それが良いことなのかどうなのか、今の私にはよく分かりませんが。

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