【救い】自殺を否定しない「笑える自殺本」。「自殺したい」ってもっと気軽に言える社会がいい:『自殺』(末井昭)

目次

はじめに

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この記事で伝えたいこと

死にたいと感じてしまうのは、あなたが優しい人だから。

犀川後藤

そんな風に言ってもらうと、ちょっとホッとしませんか?

この記事の3つの要点

  • 「死にたい」ってもっと気楽に口に出せる世の中の方がいい
  • 著者は、自殺を悪いことだと思っていない、と考えている
  • 「死にたい」と感じてしまう人のことを、他人事だと思わないでほしい
犀川後藤

死にたいと思う人にも、そう思わない人にも、響く言葉に溢れています

この記事で取り上げる本

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いか

この本をガイドに記事を書いていくようだよ

自己紹介記事

犀川後藤

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

生きるのがしんどい人は末井昭『自殺』を読んでほしい。著者の優しい眼差しに救われたような気分になれるんじゃないかと思う

自殺の話を気軽には話せない状況は、あまり健全ではないと思う

私は大学生の時に、遺書を書いたことがあります。自殺しようと考えていました

今でも私は、生きていく気力があまり見いだせずにいます。昔からずっと、そんなガス欠状態でした。当時も今も、何か特別死にたい理由があったわけではありません。それでも、生きていくにはあまりにもしんどくて、実際に死を決意したことが一度だけあります。

遺書はキャンパスノートに手書きしました。今も、部屋のどこかに埋もれていると思います。

犀川後藤

今読むとさすがに恥ずかしいだろうけど

いか

だろうね。でも、気持ち的には今だって大差ないでしょ?

その時は結局死にませんでしたし、その後は、「自殺は思った以上に勇気がいることで、簡単にはできないから、『どうせ自殺すればいいや』という最後の手段的扱いをするのは止めよう」と考えるようになりました。

「遺書を書いたことがある」とか「自殺しようと思ったことがある」というエピソードは、そういう流れになれば自分から話すこともあります。ただやはり、「自殺」というのはなかなか日常的な話題になりにくいものです。

誰に話すかにもよりますが、そういう話をすると、ちょっと場の空気が変わるのを感じることもあります。「そんな話するなよ」的な雰囲気になってしまうんですね。

以前知り合いの女性と「遺書を書いたことがある」という話で盛り上がったことがあります。そしてその女性も、似たような話をしていました。

友人との会話の中で、軽い感じで「死にたい」みたいなことを言ったら、「死ぬなんて言わないで!」「悩んでることがあるなら相談に乗るから!」というような反応になってしまったと言います。そういう大げさな反応をされてしまうと、むしろ余計に話しにくくなってしまうものです

犀川後藤

だから私は、他人のそういうエピソードを、面白い話みたいな感じで聞くようにしています

いか

それぐらいの方が、相手も話しやすいしね

私は、「死にたい」とか「自殺を考えたことがある」みたいな話を、もう少しフラットに、当たり前に話せる世の中の方がいいのではないかと考えています。良かれ悪しかれ、過剰な反応をされると、話題として出しにくくなってしまうからです。

心配してもらうことより、面白がって聞いてもらおう方が、「良かった。こういう話をしても大丈夫なんだ」と感じられて、自分の話がもっとしやすくなるのにな、と。

そんな風に感じる方も、結構いるのではないかと思います。

本書『自殺』は「笑える自殺本」という点が非常に特異的

ざっくりと本書の説明をしてみましょう。

著者はなかなか凄い経験の持ち主で、なんと母親が「ダイナマイト心中」で亡くなっているのです。「ダイナマイト心中」というパワーワードはなかなかのインパクトですよね。

著者自身は自殺を考えたことがないのですが、周りに自殺未遂をしたり自殺したいと考える人が結構いるそうです。そういう人たちから話を聞いたり、そういう人たちに伝えたいことをまとめたりするようなウェブ連載をスタートさせることになり、それを書籍化したのが本書です。

この本の最大の特徴は、「自殺の話なのに笑える」ということです

自殺というとどうしても暗くなりがちです。だから余計にみんな目をそむけてしまいます。自殺のことから逸脱したところも多分にあると思いますが、笑える自殺の本にしよう、そのほうがみんな自殺に関心を持ってくれる、と思いながら書きました。この本を読んで、ほんの数人でもいいから自殺していく人のことを考えてくだされば、少しは書いた意味があるのではないかと思っています

この点が、何よりも素晴らしいと思います。

いか

自殺の話で「笑える」ってイメージできないよ

犀川後藤

だよね。まあ「読んでくれ」って感じなんだけどさ

この作品には、著者の周りにいる「とんでもない人たち」の話が様々に語られます。死にたいと思っている人もそうでない人もいるのですが、彼らのぶっ飛んだエピソードを読んでいると、「こんな無茶苦茶な人だって生きてるんだから、自分だってなんとかなるかも」と感じられるんじゃないかと思います。

そういう「面白いエピソードを持ってる人がたくさん出てくるよ」という意味で、本書は「笑える自殺本」と言えるでしょう。

「自殺の話をもっと気軽に話せる社会」をみんなで目指した方がいい

著者は本書で、「当たり前のように死について喋れる方がいいのでは?」というスタンスを取ります。まさに私が、この記事の冒頭で書いた通りです。

世の中、自殺について冷めているような気がします。交通事故死者の三倍も多いのに「最悪ベース」を報じる新聞の記事もあまり大きくなかった。おおかたの人は自分とは関係ない話だと思ってるんでしょう。もしくは、自殺の話題なんか、縁起悪いし、嫌だと目を背けてる。結局ね、自殺する人のこと、競争社会の「負け組」として片づけてるんですよ。「負け組だから死んでもしょうがない」「自分は勝ち組だから関係ない」と。「ああはなりたくないね」と。 死者を心から悼んで、見て見ぬふりをしないで欲しいと思います。

確かに私も、「負け組だから死んでもしょうがないって考えてるんだろうな」という雰囲気を感じてしまうことがあります。そこまで強くはなくても、「自分とは違う世界の話だ」と思っている人は多くいることでしょう。

犀川後藤

私は、人生で一度も「死の誘惑」に引きずられたことのない人とは、うまく関われる気がしません

いか

楽しそうにしてる人も、案外何か抱えてたりするから分からないよね

気持ちが凄く強い人であれば、自分は自殺とは無縁だと考えていてもいいでしょうが、私は、世の中の多くの人は、「『死にたい』と思わずに済む人生を運良く生きられている」と考えています。

性格や生まれた環境などの要因も大きく関係するでしょうが、それだけではなく、今の自分を取り巻く様々な環境が「ラッキー」だったから「死の誘惑」に囚われずに済んでいるに過ぎないのではないか、と。

コロナウイルスの蔓延で、生活が一変した方も多いでしょう。それまで「死にたい」などとまったく考えたことのなかった人が、環境の激変によって初めて「死の誘惑」を意識するというのは想像に難くありません。

だから、他人事だと思わないでもらえるといいな、と考えています。

著者・末井昭は決して、自殺を「悪いこと」とは捉えていない

以後、こうして自殺についていろいろ話すようになったのですが、僕は必ずしも「自殺はダメ」とは思っていません。もちろん死ぬよりは、生きていた方が良いに決まってます。でもしょうがない場合もあると思います。人間社会は競争だから、人を蹴落とさなければならない。時には人をだますこともあるでしょう。でも、そんなことをしてまで生きたくないって思うまじめな人、優しい人に「ダメ」と、分かったようなことは言えないですよ。まじめで優しい人が生きづらい世の中なんですから。

僕は、自殺が悪いこととも、もちろん、いいこととも思っていません。どうしても生きることがつらくて自殺しようとする人に、「頑張って生きようよ」と言うつもりはありません。ただ、競争社会から脱落して自殺する人に対しては、自分も加害者の一人ではないかという気持ちが、少しはあります

こんな風に言ってくれる人が周りにいてくれると救われるなぁ、と感じてしまいました。

社会的には、「自殺はダメ」ということになっています。もちろん、その気持ちも分かるつもりです。そりゃあ、自殺があるよりない方が良いに決まっています。

しかしそんなことを言ったって、「死にたい」という気持ちが消えるわけではありません。「自殺はダメだ」と言われる時、それがどれだけ優しさから来る言葉であっても、自分の感覚が否定されたような気持ちになってしまいます。そしてますます、自分の気持ちを表に出しにくくなるのです。

犀川後藤

あと、酷い言い方だけど、「お前に何が分かるんだ」って気持ちにもなっちゃうかな

また著者の、「優しいから自殺したくなるのだ」という言い方も、ホッとさせてくれる言葉です。より直接的にそういう主張をしている箇所もあります。

自殺する人は真面目で優しい人です。真面目だから考え込んでしまって、深い悩みにはまり込んでしまうのです。感性が鋭くて、それゆえに生きづらい人です。生きづらいから世の中から身を引くという謙虚な人です。そういう人が少なくなっていくと、厚かましい人ばかりが残ってしまいます。
本当は、生きづらさを感じている人こそ、社会にとって必要な人です。そういう人たちが感じている生きづらさの要因が少しずつ取り除かれていけば、社会は良くなります。取り除かれないにしても、生きづらさを感じている人同士が、その悩みを共有するだけでも生きていく力が得られます。だから、生きづらさを感じている人こそ死なないで欲しいのです。
もしいまあなたが、自殺しようかどうしようか迷っているのでしたら、どうか死なないでください。そこまで自分を追い込んだらもう十分です。あなたはもう、それまでの自分とは違うのです。いまがどん底だと思えば、少々のことには耐えられます。そして、生きていて良かったと思う日が必ず来ます。
それでも自殺を思い留まることができなかったら、とりあえず明日まで待ってください。その一日が、あなたを少し変えてくれます。時間にはそういう力があります。ほんのすこし、視点が変わるだけで、気持ちも変わります。そして、いつか笑える日が来ます。
きっと――

本当に、こういうことこそ言ってほしい、と感じるような言葉です。私も、自殺しようと思ったり、生きていくのがしんどいと感じる時、「自分が悪いんだ、ダメなんだ」と考えてしまうことがよくあります。でも、著者は「そうじゃない」と言ってくれるのです。自分は「優しい」からこんな気持ちになってしまうんだ、と思えれば心は軽くなるでしょう

いか

やっぱり、自分で自分を追い詰めてしまうのが、一番辛かったりするしね

犀川後藤

「こんな自分はダメなんだ」っていう感覚からは簡単には逃れられないしなぁ

「死の誘惑」に一度囚われてしまうと、まともな思考ができなくなります。

私も、もう死ぬしかないと考えていた時の自分を振り返ると、ぞっとします。答えの出ない問いが頭の中をぐるぐるとただ駆け巡っているだけで、自分が何も思考していないことに気づいているのに、その状態を自分の力では止めることができません。はっきり言って、自分自身をまともにコントロールすることができていない状態でした。

そんな状態で、「まともな思考」が要求されるような言葉を掛けられても、まったく耳に入りません。自分の頭の中にある絡まった糸をほぐすのに精一杯で、他のことに目を向ける余裕など一切ないのです。

自己嫌悪は、自意識が作り出したブラックホールのようなものです。意識が全部そこに吸い込まれてしまって、なかなか抜け出せません。そこから抜け出すためには、自分のことを真剣に聞いてくれる誰かが必要です。

この人にだったら、私が考えていることを理解してもらえるかも」と感じられる誰かの存在は、本当に大事です。

私は、自殺しようと思っていたまさにその時には、そういう人には出会えていませんでした。その後なんとか踏ん張って生きていく中で、同じような感覚を持つ人と少しずつ関われるようになり、今では、自分が辛いと感じることを臆面もなく話せる人がいます。

いか

ホント良かったね

犀川後藤

自分の弱い部分をさらけ出せる人って、ホントに大事

しんどい話を誰かに話せるのはとても大事

私は、基本的にはずーっと「生きているのはめんどくさい」と感じていますし、だからこそ、いつまた「死の誘惑」に囚われてしまうか分からない状態です。そんな自分のことをきちんと理解しているので、モヤモヤを感じたら早い段階でそれを人に話すようにしています

だから、まず「死のうと思っている」と周囲に言いふらして、窓を開けることです。死のふちで迷っている人の話は、みんな真剣に聴いてくれるはずです。話しているうちに、何とかなるのに、その発想がなかっただけだった、と気づくこともあるんじゃないかな

「死の誘惑」に囚われたことがない人も、いつ自分がそういう状態に陥るか分かりません。また、あなたはそういう状態に陥らなくても、あなたの大切な誰かがそういうしんどさを抱えているということだってあり得るでしょう。

だから、死や自殺の話は、決して「他人事」だと考えないでほしいと思っています。

犀川後藤

私の経験上、思ってる以上に、辛さを隠して楽しそうにしてる人っています

いか

「どうせこの人に言っても伝わらない」って人には、何重にも仮面を被って接するから気づけないんだよね

この作品は、死にたいと感じたことがある、もしくは今まさにそう感じている人には、まさに救いの言葉が詰まっていると言えるでしょう。自殺することは決して悪いことではありません。ただ、死のうと思う前に、一旦この作品を読んでみるというのはどうでしょうか。もしかしたら、「まだなんとかなるかも」と思い直すことができるかもしれません。

そして、「死の誘惑」とは無縁だという人も、あなたの周りにいるかもしれない「しんどさを抱えた人」の助けになるために、読んでおいていい一冊だと感じます。

死にたいと感じてしまう優しい人間こそ、誰かに助けを求めるのが苦手だったりします。そういう時に、「辛いことがあるなら話聞きますよ」という雰囲気を感じられる誰かが近くにいてくれると安心できます。すぐに相談はしないかもしれません。でも、「本当にヤバいってなったらあの人に話を聞いてもらおう」と思える誰かの存在を感じられるだけで、心が軽くなることもあるのです。

著:末井 昭
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最後に

どうせロクでもない社会なんだから、真面目に自分を突き詰めるんじゃなくて、もっといい加減に生きたらいいのに、と思う僕は強い者だからでしょうか

凄く甘い意見に聞こえるでしょうが、本当に、世の中はもう少し優しくなってくれるといいな、と思います。私のように、「自分はダメなんだ」と感じ、この社会では上手く生きていけない、と思ってしまうような人間が、もう少し穏やかに生きられる社会だといいな、と。

いか

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