【特撮】ウルトラマンの円谷プロには今、円谷一族は誰も関わっていない。その衝撃の歴史を紐解く本:『ウルトラマンが泣いている』

目次

はじめに

この記事で取り上げる本

著:円谷英明
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この本をガイドにしながら記事を書いていきます

この記事の3つの要点

  • 米軍関係者に「オアフ島で撮影した映像」だと勘違いされた、円谷英二のとんでもない特撮技術
  • 恐ろしく高い特撮の制作費と、莫大な利益をもたらした「著作権ビジネス」、そして円谷プロの”どんぶり勘定”
  • 「著作権ビジネス」の思わぬ落とし穴と、ファンを蔑ろにした「コンセプトの迷走」

偉大な祖父の名に”恥じる”としか言いようがない、あまりに放漫で適当な経営の実態に驚かされる

自己紹介記事

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

天才・円谷英二の物語……ではなく、「円谷プロ迷走の歴史」を語る衝撃の実話

円谷英二と言えば、「ゴジラ」「ウルトラマン」などに関わった、「特撮の神さま」と評される人物だ。スピルバーグやジョージ・ルーカスにも影響を与えたとされ、世界の映像技術の基礎に多大なる貢献を成した凄まじい人物である。

本書には、円谷英二に関する記述ももちろんあるが、決して作品のメインではない。本書の著者は円谷英二の孫であり、円谷プロ2代目社長の息子である。自身も、ごく短い期間ではあるが、6代目社長を務めた。

そんな人物が一体何を語るのか? それは、「なぜ円谷プロに円谷一族が関わりを持たなくなってしまったのか?」である。

我々円谷一族の末裔は、現存する円谷プロとは、役員はおろか、資本(株式)も含め、いっさいの関わりを断たれています。

本書で著者はこんな風に書いている。創業家が関わっていないという意味では、世界的ブランドGUCCIと同じと言っていいだろう。私は円谷プロのこの現状をまったく知らなかったので、まずそのことに驚かされてしまった。

著者は6代目として、会社をまともな方向へ舵取りしようと奮闘したそうだ。しかし上手くはいかず、結局買収され、円谷一族とは関係のない会社になってしまったのである。

円谷英二が生み出したものは、日本が世界に誇れるものだと言っていいだろう。そんな偉大な祖父を持つ一族としてはあまりにお粗末としか言いようがない顛末を、隠すことなくさらけ出す作品である。

円谷英二と円谷プロの凄まじさ

まずはやはり、偉大なる祖父の凄まじさについて触れていこう。

円谷英二に関するエピソードで、私が最も驚いたのが、映画『ハワイ・マレー沖海戦』についてのものだ。本書の文章を引用しよう。

祖父が制作に参加した第二次世界大戦中の映画「ハワイ・マレー沖海戦」では、東宝のプールに作ったハワイ・真珠湾のセットがあまりにも見事だったため、戦後、日本にやって来た米軍関係者から、
「あれは、いったいオアフ島のどこから撮影したのか」
と、祖父が尋問を受けたという逸話が残っています。

ミニチュアのセットで撮影した映画を観た米軍関係者が、「実際にオアフ島から撮影した映像」だと勘違いした、というエピソードである。しかもなんと、機密事項だからと、軍の資料を見せてもらえない中での制作だった。そんな制約の中で、リアルと見間違うだけの映像を作り上げたのだから、その凄まじさが理解できるのではないだろうか。

円谷英二が存命だった時代、円谷プロは特撮の制作に一切の妥協を許さなかった。そのことは、「ウルトラマンシリーズ」の制作費に関する文章からも想像できるだろう。

初期のウルトラマンシリーズでは、全国ネットの30分子供番組の制作費が200万円程度、一時間ドラマでも500万円を超えなかった時代に、TBSは550万円を円谷プロに支払っていました。しかし、実際の経費は1本1000万円近くかかり、番組を作るたびに借金が積み重なることになりました。

当時としては破格の550万円という制作費をテレビ局からもらいながら、その倍の経費を使って番組を作っていたというのだ。もはや「ビジネス」と呼べるようなものではない。そもそも円谷英二は、映画もテレビ番組も「ビジネス」だとは思っていなかったという。だから採算など度外視、夢を映像化した芸術作品を完璧に作り上げるために金を惜しまずに注ぎ込むスタイルを貫き続けた。

円谷英二のこの「悪い部分」だけが円谷プロという会社の遺伝子に組み込まれたのかもしれない。円谷プロはとにかく「金の使い方がザルだった」そうだ。6代目社長として就任した著者は、まず会社の全経理を徹底的にチェックしたというが、そのあまりの杜撰さに唖然としたと書いている。よくもまあこんな状態で会社がもっていたなと感心するほどだったそうだ

しかし、お金に杜撰なそんな経営で、どうして円谷プロは長きにわたり存続し続けられたのか。その理由は、円谷プロが生み出したとされるビジネスモデルにある。

円谷プロの「収益の源泉」と、長期ビジョンの欠如

「膨大な支出」と「杜撰な金勘定」のままどうにか会社が成立していた理由は、後に「円谷商法」と呼ばれる著作権ビジネスにある。テレビ番組などで放送したキャラクターをグッズにして収益を上げるという、現代では当たり前すぎるやり方だが、これを生み出したのが円谷プロなのだそうだ。

その勢いは凄まじかった。なんと、「円谷商法」が上手く行き過ぎたが故に、ウルトラマンシリーズの新作が国内で16年間も作られなかったなんてこともあるほどだ。3代目社長・円谷皐の時代の経営陣は、こんな風に言っていたという。

慢性的な持ち出しが続いていたレギュラー番組の制作を止めれば、毎年の著作権、商品化権収入だけで少なくとも二億円は見込めるから、それだけで会社は存続できる。

つまり、「番組制作を止めて、著作権ビジネスだけにすれば、会社はそれだけで存続できる」という意味だ。円谷英二がこの言葉を聞いていたら、どう感じただろうか。

いずれにせよ、それぐらい上手く行っていたというわけだ。

「円谷商法」は、怪獣ブームが来る度にもの凄い勢いを見せたそうで、たった1度の振込で10億円を超えることもあったという。だから著者は、「お金の流れをきちんと把握していない人間は、『会社は上手く行っている』と錯覚してしまった」と手厳しく指摘している。

著者は社長就任後、世間的には成功と発表されていた「平成3部作」の収入と支出を精査してみたそうだ。結果は残念ながら、3作品すべてにおいて赤字だったことが判明したという。やはり特撮にはお金が掛かる。どれだけ見かけの収入が多くても、出ていくお金も多いため、収支を成り立たせることはかなり難しいのだという。

また著者は、

率直に言って、かつての円谷プロはいつの時代も長期の経営ビジョンなどはありませんでしたから、必ず来るであろう沈滞期に備えて、財務を強化しておこうというような発想はほとんどありませんでした。

とも書いている。短期的に収支を成り立たせることが難しくても、長期的な視野を持てば無理ではなかったはずだ。それをやらなかった経営陣の責任を著者は痛感している。

収益としては大成功だった「円谷商法」の意外な落とし穴、そして「コンセプトの迷走」という最大の失敗

キャラクターの商品化という「打ち出の小槌」を得た円谷プロだが、この「打ち出の小槌」が逆に円谷プロを苦しめることとなる。もちろんこの点についても、長期的な展望を持って準備していれば当然避けられたはずの事態であり、基本的には経営陣の失策と言っていいだろう。

円谷プロは、高額な制作費や杜撰な金の管理が原因で、慢性的に赤字体質だった。それ故に、ウルトラマンの玩具をほぼ独占販売していたバンダイの介入を防ぎきれなくなってしまうのである。

そしてこのことが、「ウルトラマン」という作品自体の魅力を損なう事態を引き起こす。

映画監督の実相寺昭雄さんは、後の著作の中で、ウルトラマンが輝きを失った原因として、こんなことを語っています。
「第一の強敵は制作費であり、第二の難敵は商品化権だ。商品化権が優先し、番組がデパートに並ぶ玩具を充実させるために、奉仕させられるようになってしまった」

それまでは当然、「円谷プロが作りたい/作るべきと考えるもの」を制作してきた。しかし「商品化権」の要求に応えるために、バンダイ側の要望を聞かざるを得なくなったというのだ。

どの程度介入を受けていたのかわかる文章がある

それまでは、番組に登場するあらゆるもののデザインを、円谷プロのデザイン室と、その下請けの美術会社が一手に引き受けていましたが、この番組(※ウルトラマンティガ)からは、隊員のユニフォームや怪獣のデザインなどのベースを円谷プロが作り、その他の戦闘機や、隊員が携帯する銃などの小物は、バンダイ側が提案し、双方納得したうえで決めるようになりました。

要するに、「バンダイ的に『売れるもの』『制作しやすいもの』を作る」という基準が、「作品として良いものを作る」よりも優先されるようになってしまったというわけだ。確かにこれは、「円谷プロの屋台骨」を揺るがす大きな変化と言っていいだろう。

しかし、著者が「円谷プロ最大の失敗」と呼ぶものは他にある。それが「コンセプトの迷走」だ。本書にはこんな風に書かれている。

ウルトラシリーズが徐々に魅力を失い、視聴率低下や子供たちの怪獣離れを招いたのは、ウルトラマンという基本名称は変わらないのに、キャラクターや舞台設定など、番組コンセプトのめまぐるしい変転が、視聴者をとまどわせたという面もあったと思います。その背景には、テレビ業界に根強い「テレビは時代を映す鏡でなければならない」という考え方がありました。

ウルトラマンのコンセプトは、どうしてここまで変える必要があったのかと思えるほどコロコロ変わりました。円谷プロが、そうせざるを得なかった一番の理由は、新シリーズが始まるごとに、あるいは始まった後も、テレビ局から、
「設定やストーリーなどの内容は、今の時代に合わせたものにしてほしい」
という要求が、繰り返されたからでした。

テレビ番組として制作されているのだから、テレビ局の要望にある程度沿わなければならないのは仕方ないだろう。しかし、その要求を唯唯諾諾と受け入れてしまうのもいただけない。どんな「クリエイティブ」であれ、「求められること」と「やりたいこと」の折り合いをどうつけるかの問題がつきまとうはずだが、円谷プロは「求められること」を優先しすぎるあまり失敗してしまったというわけだ。

そこには、「どうせ子ども番組だから」という考え方があったと著者は書いている。

結局、ウルトラシリーズには、その時々で適当に変えてしまうご都合主義=「しょせん子供番組なのだから何をしても許される」という言い訳が、常に付随していました。ウルトラシリーズの変遷を見て、大人になったファンは次第に離れていきました。時には嫌悪感すら抱かせてしまったことが、円谷プロ「最大の失敗」だったと思います。子供は親の表情を常に見ていて、親の感じ方に敏感に反応するものです。
ファンのこだわりを軽んじ、子供の感性をも軽んじたことで、しっぺ返しをくらったのだと思います。

私はウルトラマンシリーズをリアルタイムで観たことがない。それどころかたぶん、1話通して最後までまともに観たことがないと思う。だから「ときには嫌悪感すら抱かせてしまった」という著者の感覚に実感を持てないのだが、短期間とはいえ円谷プロの社長として関わった人物がそう言っているのだから間違いないのだろう。最終的には、ファンさえ裏切らなければどうにかなったかもしれない。しかし円谷プロは、最も大事にするべきファンを軽視してしまった。そのことが、円谷プロが瓦解してしまう大きな要因だったと著者は考えているのだ。

円谷プロが辿った顛末と現在の状況

本書では、円谷プロを取り巻いていた様々な問題が包み隠さず描かれていく。例えば、タイの会社とのトラブルから発展した裁判によって、円谷プロは海外戦略における致命的な不利を背負うことになってしまった。また、ウルトラマンのデザインを担当した成田了との関係悪化や、円谷一族がなかなか1つにまとまれなかったことが、円谷プロを徐々に悪い方向へと進ませることとなる。そして最終的にはあっさり買収され、著者は社長を解任、円谷プロは円谷一族とは一切関係のない会社として新たに歩んでいくことになったというわけだ。

日本人なら誰もが知っているだろう偉大な祖父が設立し、祖父の生み出した様々な”遺産”が莫大な利益を生んでいたはずの会社が、あっさりと人手に渡ってしまった。本書によれば、ウルトラマンは何度も瀕死の状況に陥りながらも生き残り続けてきたコンテンツなのだという。その資産を上手く活かせなかった子孫たちの「愚かさ」を強く感じてしまった

ちなみに、映画『シン・ウルトラマン』について、庵野秀明は「成田了が生み出したウルトラマンに原点回帰する」とコメントしている

成田了は2002年に他界しているが、円谷一族によって傷つけられた名誉が、死後ではあるが回復されたと言っていいかもしれない。

社長を追放された著者のその後についても触れておこう。著者は社長就任前、円谷プロ傘下の企業で中国展開を目論んでいた。そこで社長を解任された後、そのプロジェクトの再開に取り掛かる。しかし、中国という「異界」での奮闘虚しく上手く進まなかった。現在は映像の世界からは完全に足を洗っており、本書執筆時点では、ブライダル会社で衣装を運ぶ仕事に従事しているそうだ。なんとも寂しい顛末だと感じてしまった。

著:円谷英明
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最後に

著者は本書の冒頭で、

今もウルトラマンを愛してくださる皆さんにとって、あまり知りたくないエピソードも含まれているかもしれません。

と書いている。私は特撮に対する思い入れを特に持っていないが、思い入れを持っている人が本書を読むと、私なんかとは比べ物にならないほど「寂しさ」を感じるのかもしれない。

「現在の円谷プロに、円谷一族が関わっていない」という事実を知らない方も多いだろう。私も本書を読むまでまったく知らなかった。あまりにも有名な祖父の活躍の裏で、放漫な経営が招いてしまった悲劇を是非読んでみてほしい。

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