目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:遠藤雄弥, 出演:津田寛治, 出演:仲野太賀, 出演:イッセー尾形, 出演:松浦祐也, Writer:アルチュール・アラリ, Writer:ヴァンサン・ポワミロ, 監督:アルチュール・アラリ, プロデュース:ニコラ・アントメ
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今どこで観れるのか?
この記事の3つの要点
- 誰もが「異なる現実」を生きている
- 他人に大きな迷惑を掛けないのであれば、「現実の解釈」に齟齬があっても問題はない
- 「君が生きる現実は間違いだ」と指摘することは正しいと言えるか?
「小野田寛郎は、『戦争は終わっていない』という現実の中で死ぬ方が幸せだったのではないか」とも感じさせられた
自己紹介記事
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はじめまして
ブログ「ルシルナ」の犀川後藤の自己紹介記事です。ここでは、「これまでのこと」「本のこと」「映画のこと」に分けて書いています。
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
「解釈し誤った現実」の中で生き続けることは間違いか?小野田寛郎の人生から「生き方」について考える
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初めて「小野田寛郎」という人物について知ったのがいつだったのか覚えてはいない。しかしその存在を知った時からずっと、私は違和感を拭えないでいた。
「そんなことあり得るのか?」と感じてしまうのだ。
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私が小野田寛郎について知っていた知識は、非常に初歩的なものだけだ。「戦争が終結したことを信じず、30年近くフィリピンの山中で生活を続け、その後日本へと帰還した」ぐらいのことしか知らない。そして、これらの事実だけから判断し、「本当にそんな人がいるのか?」「そんな生き方あり得るだろうか?」と感じてしまったのだ。
映画を観て、その印象は大分変わった。この映画で描かれる小野田寛郎は、「彼なりの現実を真っ当に生きている人」だったからだ。そして、小野田寛郎があまりに極端なだけで、彼と相似形を成すスタンスで生きている人は、現代日本にもいるだろうと感じた。
そんな風に考えてみると、この作品は単なる戦争映画ではないとも言えるだろう。
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小野田寛郎は、どんな風に現実を解釈し、どんな世界観の中で生き続けたのか
私たちは、同じものを見て同じものを食べて同じように生きているように感じていても、まったく違う世界を生きている。分かりやすいように極端な例を挙げよう。「ジハード」と称して自爆テロを行うイスラム過激派は、「死ねば天国に行ける」という世界観の中で生きているそうだ。つまり、「戦闘によってこの世の自分は命を落とすが、死後は天国で素晴らしい生活を送ることができる」と信じているのである。あるいは、トランプ元大統領を支持する「Qアノン」と呼ばれる人たちは、「世界は秘密結社が支配しており、ドナルド・トランプはその組織と密かに戦っている人物だ」と信じているらしい。
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別に悪い例ばかりではない。例えばライト兄弟は、「空を飛ぶなんて不可能」だと思われていた時代に、「自分たちは空を飛べる」と信じて偉業を成し遂げた。彼らも、「同じ世界にいながら、まったく違う現実を生きていた」と言っていいだろう。
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もっと身近な例で言えば、「今日のラッキーカラーは『赤』だって占いで言っていたから赤い靴で出かけよう」なんて行動も、他人とは異なる世界で生きていることの実例だと思う。少なくとも私は、「占いになんと言われようが自分の人生には何の影響もない」と考えるが、「占いに従うことで自分の人生は上手くいく」と信じたい人もいる。そういう人もやはり、まったく違う現実を生きていると言っていいだろう。
「どんな現実を生きようが、他人に大きな迷惑を掛けなければ問題はない」と私は考えている。自爆テロやQアノンは他人に多大な迷惑を及ぼすから、彼らのような「現実の解釈」は許容できないが、ライト兄弟や占いを信じる人は、迷惑を掛けるとしても大したレベルではないから問題はない。
こんな風に私は、社会に生きるすべての人が「異なる現実」を生きていると考えている。
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では、小野田寛郎はどんな現実を生きていたのか? そのことを分かりやすく示す場面を紹介しよう。
小野田寛郎は潜伏中、「父親と思しき人物」が拡声器を持ち、自分に対して呼びかけを行っている姿を山の上から目撃する。父親には彼の姿は見えていない。「この辺りにいるはずだ」という情報を基に、当てずっぽうで声を掛けているのだ。この場面の時点で、既に終戦から10年が経過している。父親の口から「戦争は終わった」と伝えることで日本へ連れ戻そうという作戦だ。
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しかしこの場面で小野田寛郎はなんと、父親に向けて銃を構える。私は知らなかったのだが、そもそも小野田寛郎はたった1人でフィリピンの山中にいたのではなく、当初は4人で行動していた。そして、父親に銃を向けた場面では、仲間に取り押さえられ事なきを得る。
その後小野田寛郎は、先程の状況をどう解釈したのかを仲間に語っていた。なんと彼は、拡声器を持っていたのは父親ではなく、「父親に似た人物を探し、声帯模写の訓練をさせた」と受け取っていたのだ。そしてそう判断したことで彼は、「やはり戦争は続いている」と結論付けた。声帯模写の訓練には時間が掛かるからだ。相手は、そんな手間を掛けてまで自分を投降させることに価値を見出している。つまりそれは、この島が今後の戦略上非常に重要であることを示唆しているのではないか。
小野田寛郎はこのように考えるのである。
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私はこの場面を観て、「なるほど」と感じた。確かに実際には、彼の解釈はまったくの間違いだった。しかし、彼は彼なりに”正しく”物事を判断しようとしている。自分がもしも小野田寛郎の立場にいたとしたら、同じ思考をしないとは断言できない。私の場合は、仮にそう考えたとしても、ジャングルでの生活が辛すぎて諦めてしまうと思うが、小野田寛郎には強靭な精神力があった。自分が「現実」だと信じる世界で生きるための能力が備わってしまっていたのだ。
だから彼は30年間もフィリピンの密林で生活し続けることができたのである。
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「結果的に『多くの人が信じる現実』とあまりに乖離していた」というだけで、小野田寛郎の生き方は、結局のところ「占いを信じる人」と大差ないと言っていいだろう。もちろん、私も何らかの形で他人と違う現実を生きているだろうし、だから私自身も小野田寛郎と同じだと考えている。ちょっと極端だったというだけで、みんな同じベクトルの上に乗っているというわけだ。
映画を観てそう実感できたことが、一番の収穫だったと思う。
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「その現実は間違っている」と指摘することに意味はあるか?
結果として小野田寛郎は、大勢が「現実」だと認める世界に戻ってきた。しかしそのことは、果たして小野田寛郎にとって幸せな決断だったのだろうか。
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その話を深めていく前に、まず書いておくべきことがある。小野田寛郎がフィリピンの山中に潜み続けていたせいで、その周辺住民が多大な迷惑を被っていたという事実についてだ。小野田寛郎が誤った現実認識をしていたことにより悪影響が及ぼされていたのだから、その観点からは明らかに、「君が生きる現実は間違いだ」と認識させなければならないと言える。それは仕方ないことだ。
しかし仮に、小野田寛郎がフィリピンの山中で、誰にも迷惑を掛けずにひっそりと大人しく暮らし続けていたとしたらどうだろう。それでも私たちは、彼に「君が生きる現実は間違いだ」と指摘すべきだろうか?
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そんな問いが成立する背景として、「”終戦後”も彼は人を殺していた」という事実がある。彼が認識している通り、まだ戦争が続いているのであれば、彼の行為は「犯罪」とはならない可能性が高いだろう。しかし実際には、彼は、戦争が終わっているにも拘わらず人を殺してしまっている。だからこそ、「戦争がずっと続いている」という現実の中で生きている方が幸せだったのではないかと感じてしまうのだ。
心理学の世界では、「認知的不協和」と呼ばれる状態が知られている。これは、自分が元々抱いていた認識と異なる認知に直面した時、その「不協和」に対して不快感を覚えてしまう状態を指す。そして人間が「認知的不協和」の状態に置かれた時は、その不協和を解消するために自らの行為・行動を正当化することが知られている。
私たちは「認知的不協和」を抱えた状態に耐えられないというわけだ。
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小野田寛郎は、「戦争は終結している」と口にする人物に出会う度に、この「認知的不協和」にさらされたことだろう。そして、その不協和に耐えられないからこそ、彼は「フィリピンに潜伏する」という自身の選択を補強する考え方を一層強く保持することになってしまったのだ。「認知的不協和」は、「健康に悪いと分かっているが煙草を止められない」などが分かりやすい例として知られている。このように考えることで、彼の生き方が私たちの人生と無縁ではないと捉えやすくなるだろう。
また、そもそもだが、小野田寛郎がフィリピンの山中で他人に迷惑を掛けずひっそりと生きているとしたら、どのような現実の中で生きているのか知りようがない。つまり、間違いだと指摘もできないことになる。「現実の解釈」に対する是非の判断は、他人の解釈との間に齟齬が生じた時にしか生まれないからだ。
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私たちは、小野田寛郎の「現実の解釈」が誤りだと知っている。しかし、そのことを小野田寛郎に伝えるべきかは状況次第だろう。例えば占いの場合も、大金を注ぎ込みすぎて破産しそうになっていたり、一種の洗脳状態になってまともな判断ができなくなっていたりする人がいれば指摘するが、そうでなければ、占いを信じていることを咎める必要は特にない。それと同じだ。
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実際には、「君が生きる現実は間違いだ」と小野田寛郎に指摘した。そうせざるを得なかったのだ。しかし、もし彼が他人に迷惑を掛けずに山奥に潜んでいるだけだったとしたら、「解釈を誤った現実」の中で生きていく方が幸せだったのではないか。そんな風に考えさせられた。
映画の内容紹介
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航空兵を目指していた小野田寛郎は、自分が高所恐怖症だと気づき、自暴自棄になっていた。そんな時に出会ったのが、陸軍中野学校の谷口義美だ。陸軍中野学校は、スパイを要請するための特殊な教育機関である。「秘密戦」を行うために、通常とは異なる訓練に明け暮れる、非常に特殊な存在だ。
陸軍中野学校で小野田寛郎は、「死ぬ権利はない」「玉砕はするな。どんなことがあっても生き残るための選択肢を探れ」「3年でも5年でも、椰子の実しか食うものがなくても生き延びろ。私が必ず迎えに行く」と散々叩き込まれた。この時の教えは間違いなく、小野田寛郎をフィリピンの山中での孤独な生活へと駆り立てるきっかけとなったはずだ。
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その任務中に一度、現地の者と戦闘に陥った。そこで相手が「war over(戦争は終わった)」と繰り返しているのを耳にしたが、小野田寛郎はその言葉を信じない。そして他の3人にも、日本兵としての使命を改めて認識させ、「援軍がやってくるまでルバング島全体を把握し、援軍到着と共に即座に情報提供を行える状態にする」という彼らなりの任務を続けていく。
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映画の感想
小野田寛郎については本当に知らないことが多く、この映画を観て驚かされることばかりだった。この記事中で、「『小野田寛郎に仲間がいたこと』を知らなかった」と書いたが、他にも「小野田寛郎が日本に帰還するきっかけとなった経緯」もまったく知らなく驚かされた。
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僕はね、「野生のパンダ」「小野田さん」「雪男」の順に見つけようと思ってたんですよ。でもホント、小野田さんに会えるとは、本当に思ってなかったです。
彼のこの言葉から、日本国内で小野田寛郎がどのように扱われていたのか概ね理解できるだろう。「雪男」と同じぐらい、存在しない可能性が高いと思われていたというわけだ。公式HPによると、小野田寛郎は1959年の時点で既に死亡が認定されていたという。誰も生きているなんて考えもしなかったのだろうし、当然の判断だと思う。
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驚くのはまだ早い。なんと、「私はまだ任務解除の命令を受けていない」と頑強に主張する彼を説得するために、鈴木紀夫は帰国後に谷口義美を探し出し、フィリピンまで連れてきたのである。そこで谷口義美から任務解除が告げられたことで、ようやく小野田寛郎は日本への帰国を決心したのだ。
にわかには信じがたい話だろう。鈴木紀夫が、「雪男」と同レベルの小野田寛郎を探そうと決意し、ジャングルの中でたまたま見つけ、さらに谷口義美を説得してフィリピンまで連れて来る、このどれか1つでも実現しなかったら、小野田寛郎は日本へ戻って来なかったかもしれないのだ。
もしこれがフィクションなら、「そんなこと起こるはずがない」と一蹴されて終わりだろう。そんなあり得ない出来事が現実に起こっていたのだと実感できる、凄まじい映画なのである。
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最後に
私が観ても分かるぐらいCGがチープだったりと、映画としてはちょっと劣る部分もあったが、内容は非常に興味深かった。小野田寛郎役を、青年期と成年期に分けて2人の役者で演じるというやり方も斬新だと思う。
現実の凄まじさを実感させてくれる映画だ。
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私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
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1964年の東京オリンピックを機に建設された「都営霞ケ丘アパート」は、東京オリンピック2020を理由に解体が決まり、長年住み続けた高齢の住民に退去が告げられた。「公共の利益」と「個人の権利」の狭間で翻弄される人々の姿を淡々と映し出し、静かに「社会の在り方」を問う映画
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