目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:エイドリアン・ブロディ, 出演:フランク・フィンレイ, 出演:モーリン・リップマン, 出演:エミリア・フォックス, 出演:エド・ストッパード, 出演:ジュリア・レイナー, 監督:ロマン・ポランスキー, プロデュース:ロマン・ポランスキー, プロデュース:ティモシー・バーリル, Writer:ロナルド・ハーウッド
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
上映後のトークイベントが思いがけず面白く、映画と併せてとても良い体験となった 実話だと知らずに観ていても驚愕の連続だったが、実話だと知ってさらに驚かされることになった 音楽への情熱のお陰で生き延びられたと言ってもいい、あるピアニストの壮絶すぎる人生とは?
あまりにも悲惨な現実がとても美しい映像で描かれており、その対比にも圧倒されてしまった
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
映画『戦場のピアニスト』は圧倒的なリアルを描き出す作品であり、思いがけずその凄まじさを深く知れる機会にも恵まれた鑑賞だった
実に絶妙なタイミングで鑑賞出来た
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私はいつもの如く、映画『戦場のピアニスト』について鑑賞前にはほとんど何も知らなかった 。「名作として名高い映画」「なんとなくロマン・ポランスキーという監督の名前だけ聞き覚えがある」ぐらいしか知識がなく、正直、観始めてようやく「ユダヤ人の話なのか」と理解した くらいだ。そして、そのような状態で観ているので容易に想像がつくとは思うが、私は本作が「実話を基にした物語」であることも知らずにいた 。
私がようやくそのことを理解したのは映画のラスト だ。本作の主人公はウワディスワフ・シュピルマンというピアニストなのだが、映画の最後に、「彼が2000年7月6日に89歳で亡くなった」という内容の字幕が表示された のである。これでようやく、主人公が実在の人物だったということを知った 。なので私はずっと、フィクションだと思って本作を観ていた というわけだ。
そしてだからこそ、鑑賞後も驚かされてしまった のである。
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私は本作『戦場のピアニスト』の4Kリマスター版を映画館で観たのだが、私が観た回はたまたまトークイベントもセットになっていた 。「上映後にトークイベントがあること」はあらかじめ認識していたものの、いつも詳しいことを調べないので、「トークイベントのゲストとして誰が登壇するのか」は知らなかった のである。
さて映画が終わり、トークイベントが始まった。袖から現れたのは1人の外国人 。壇上には、聞き手の分も含め2脚の椅子が用意されていたのだが、その外国人は「座ると言葉が出なくなる」と言って壇上にさえ上がらず、2人して客席ある床に立って話し始めた 。驚くべきことに、通訳はいない 。何故なら、その外国人は日本語がペラペラ なのである。出てきた時、監督のロマン・ポランスキーなのかと一瞬思ったのだが、「こんなに日本語がペラペラだろうか?」とも感じた。そして彼が何者なのかが紹介され、私はとても驚いた のである。
なんと彼は、映画『戦場のピアニスト』の主人公ウワディスワフ・シュピルマンの息子、クリストファー・シュピルマン だというのだ。映画を観終わる直前まで「実話」だとは思っていなかったのだから、「トークイベントに主人公の息子が出てくる」なんてもちろん想像もしていなかった のである。
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彼は日本に長く住んでおり、また妻が日本人らしい のだが、しかしそれだけの理由では納得できないほど日本語でのトークが面白い 。例えば幼少期の頃のことを問われて、「生まれた時のことはですねぇ、さすがに三島由紀夫のようには覚えていないですが」と、日本人でも知らない人の方が多いかもしれないネタを交えて話したりする (私も知らなかった)。また、そこらの日本人よりよほどちゃんとした日本語を使っており 、会話の中で当たり前のように「嬉しい次第です」「神妙な」みたいな言葉を織り交ぜていた 。さらに妻のことを「家内」と呼称しており、これはある種の「蔑称」と受け取られる表現だろうが、恐らくそういうことも理解した上で、「外国人が『家内』と口にするするのは面白いんじゃないか」的な発想で使っていた ように思う。とにかくその語り口調から、とんでもなく高い知性を感じさせる人 だった。
トークイベントの回を狙って観に行ったわけではなく、もちろん登壇者も知らず、そしてだからこそ「実話を基にしている」ことを最後まで知らずに映画を観れ、その上で息子の軽妙なトークも聞けるという、私としてはとても盛りだくさんで実りある映画鑑賞だった のである。
それでは、内容について簡単に説明をした上で、その中身に触れていきたい と思う。
ざっくりと内容紹介
ポーランドに住むウワディスワフ・シュピルマンは、ピアニストとして広く知られる存在 だった。普段は、ワルシャワのラジオ局のブース内でピアノ演奏を行い、ラジオを通じてその音色を届ける など、芸術家として活躍していたのだ。
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しかし1939年に第二次世界大戦が勃発したことで状況は大きく変わる 。演奏中にラジオ局の近くが爆撃に遭うなど、身近な生活にも戦争の陰が押し寄せる ようになったのだ。一家はもちろん、逃げることを考えていた 。しかしラジオ放送で、「イギリスがナチス・ドイツに宣戦布告した」「フランスも近く参戦するだろう」と伝えられると一転、彼らの気分は変わる 。ポーランドに侵攻したドイツ軍を、彼らが抑え込んでくれると期待した からだ。
しかし状況は、望んだ通りには好転しなかった 。そして、シュピルマン一家は一層悪い状況に置かれてしまう 。居住区の変更を強いられたのだ 。ユダヤ人だった一家は、ゲットー(ユダヤ人特別区)に押し込められた 。さらにゲットー全体が壁で覆われ、周囲との行き来が制限されてしまう。監視するドイツ兵が気まぐれにユダヤ人を殺すような酷い日常 の中でシュピルマンは、今までやったことのない力仕事をこなしながら、どうにか生き延びようと奮闘した 。
しかししばらくして、「ユダヤ人が東部に送られる」という噂 が流れる。さらに、「ドイツ人のために働いていることを示す雇用証明書」が手に入ればその移送を回避できるかもしれない というのだ。そのため、どうにか書類集めに奔走するのだが、やはりそう簡単ではない。シュピルマン一家も結局、他のユダヤ人と同じく列車にぎゅうぎゅうに押し込まれる ことになるのだが……。
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「ピアノに対する情熱」のお陰で、主人公は生き延びることが出来た
実話だとは思わずに観ていたわけだが、ユダヤ人の扱われ方に関しては、「こういうことが現実に起こったのだろう」という捉え方をしていた 。本当に酷い世界 だと思う。ホロコーストについてはこれまでも、映画や本で様々に触れてきたつもりだが、やはりその現実を知る度に、「本当に起こったことだとは到底信じられない」みたいな感覚を抱かされてしまう 。
本作を観て改めて感じたことだが、人間の尊厳を根こそぎ奪い取るような酷い現実は、「その『酷さ』に、当事者が反応できなくなる」という形で浮き彫りになる のだと思い知らされた。彼らの日常では日々狂気的な現実が展開される のだが、しかしそれらに対してユダヤ人は感情を表出できなくなっていく 。眼の前で仲間が殺されても、それが「当たり前のこと」みたいに処理されていく のだ。そしてその事実は観客に、「このような『酷さ』が日常茶飯事なのだ」と伝える ことになる。
それに加えて恐らく、「周りと違う反応をすれば、すぐに殺されてしまい得る」という状況 でもあったのだと思う。例えば本作では、「私たちはどこに行くんですか?」とドイツ兵に質問しただけの女性が即座に殺されてしまう場面 があった。そういう日常を生きていれば、「何にも反応しない」という振る舞いが常態になるのは当然 と言えるだろう。
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そんな状況にあって、主人公が生き延びられた理由の1つは、やはり「家族」だった と思う。両親・兄弟姉妹は、かなり厳しい状況に置かれながらも皆で協力し、どうにか助け合って生きていた 。間違いなく、「家族がいたから頑張れた 」という部分はかなり大きかっただろう。
しかし、どうしてそうなったのかには触れないことにするが、シュピルマンはある時点から家族とは離れ離れになってしまう 。そうなって以降は本当に、「生きる希望」を見出すのがかなり難しかったのではないか と思う。もちろん、それでも彼はどうにか生き延びようとあらゆる方策を探る 。しかし、家族との再会の望みもほぼ無い状況で、それでも彼が「生きよう」と思えた理由については、正直なところ映画を観ているだけでは上手く捉えきれなかった 。
この点に関しては、トークイベントで語られた話を補助線にすると見えてきやすくなる かもしれない。息子のクリストファー氏が、父親について次のように語っていた のである。
父はユダヤ人だったが、宗教的な観点から言えば「ほぼ無宗教」と言っていいと思う。 しかし強いて言うのであれば、「音楽」こそが宗教だった。
そしてそのことを示す次のようなエピソードを話していた 。
クリストファー氏は幼い頃、父親にではなく女性教師からピアノを習っていた という。ただし、6~7歳頃の彼には、ピアノはどうにもつまらないもの にしか感じられず、いつしかレッスンを止めてしまう 。しかしその後14歳頃に、自身の内側から音楽への興味が沸々と湧いてきた のだそうだ。そのため父親に「もう一度ピアノを習いたい」と相談したのだが、その時彼は「ダメだ」と断られてしまった のである。その理由については、あくまでもクリストファー氏の想像ではあるが、「恐らく父親は、『遊びでピアノをやるのはけしからん』と考えていたのではないか 」とのことだった。
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「ピアノを真剣にやるのであれば、6~7歳から叩き込むしかない。しかしその時点階で諦めてしまったのだから、もうお前はピアノに触れるのに相応しい人間ではないし、だから習わせられない 」みたいな発想なのだろう。クリストファー氏は、「別に楽しみのためにピアノを始めてもいいと思うんですけどね 」と言っていて、私もその意見には賛成だ 。しかし父親にとって音楽は「神聖なもの」 であり、息子のようには考えられなかったのだろう。
また、「我が家には『音楽を聴く時は会話をしてはならない』というルールがあった 」という話もしていた。そのため、他の子の家に行った際に、音楽をBGMにみんながお喋りしている光景に驚いた という。これもまた、シュピルマンが音楽を神聖視していたことの現れ と言えるだろう。
そしてこれこそが、あまりにも厳しい状況に置かれたシュピルマンが「生きる希望」を失わずに済んだ理由 だとも感じたのである。
シュピルマンは、寒さで身体が震え、また食料が無く空腹にあえいでいる時でさえ、「ピアノを弾くこと」への情熱を失うことがなかった 。作中には、そのように示唆される場面が幾度も映し出される。そしてさらに、これが実話だとはとても信じられないのだが、物語の中で「ピアノを介した驚くべき展開」が待っている のだ。この状況は、まさに「ピアノが弾けたから生き延びられた」と言っていい場面 だと思う。
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冒頭で書いた通り、私は本作が「実話」だとは思っていなかった ため、「最終的にこういう展開で物語を閉じるのか」みたいな受け取り方をしていた。つまり、「あり得ないが、まあフィクションなら許容されるだろう」みたいな解釈 である。しかしその後、実話を基にしていたことを知り、改めて驚かされてしまった 。そんなこと、あり得るんだなぁ。
主人公が体験した、あまりにも絶望的すぎる状況
当たり前だが観客は、シュピルマンが体験したことを飛び飛びで細切れに追っている に過ぎない。しかしそれでも、そのあまりの壮絶さに観ているこっちが絶望してしまう ような状況が続いていく。ましてシュピルマンは、このような状況をほぼ5年に渡って経験し続けた のだ。家族と離れ離れになってから数えても2年に及ぶ 。最後の最後、本当の意味で一人ぼっちになってしまってからだって、少なくとも2週間以上はその状態が継続していた はずだ。その凄まじさには、やはり圧倒させられてしまう 。
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クリストファー氏はトークイベントの中で、「ほぼ5年に渡って『自分がいつ死ぬか分からない状況』に置かれ続けるというのは、私には想像が及ばない 」と話していたが、本当にその通り だなと思う。父親は生前、戦時中のことについてほとんど話すことがなかった そうだ。しかし、80歳でピアニストをやめた後は時間と気持ちに余裕が出たのか、ぽつりぽつりと話をするようになった という。そしてその中で父親が、「僕もみんなと一緒に死ぬべきだった」と口にした ことを覚えていると言っていた。もちろん、それが本心だったのかは分からない 。ただ、映画を観ているだけの観客でさえ「死んだ方がマシ」だと思えるような状況 だったのだから、当事者がそう感じたとしても不思議ではない だろう。
さて、本作中のいくつかの描写について、「実話を基にしている」という事実を知って納得できた ものがある。1つは、ゲットーに押し込められたシュピルマンが、ユダヤ人が集うレストランでピアノを弾く仕事をしていた時の出来事 だ。彼は店内にいた2人組の男性客から、「ピアノを弾くのを止めてくれ」と頼まれる 。何故なのか見てみると、2人はテーブルクロスをめくり、木材の部分に複数の金貨を落として音を聴いていた のだ。恐らく、本物の金貨なのか音で確かめていた のだと思う。
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このシーンを観た時に私は、「凄いリアリティの描き方だな 」と感じた。「金貨の音を聴き分けるためにピアノ演奏を止めさせる」という描写は、想像ではなかなか生み出せない 感じがしたからだ。だから鑑賞後に、本作が実話を基にしていると知り、このシーンにも納得できた のである。恐らく、彼が実際に経験したことなのだろう。
同じようなことは、別のシーンでも感じた 。例えば、映画冒頭の「お金のことで家族がちょっと揉める場面」 でのこと。彼らの手元には今、5003ズウォティスのお金がある (ネットで調べると、ポーランドの通貨の単位は「ズウォティ」らしいが、本作の字幕では「ズウォティス」となっていた気がする)。しかし当局の決定により、ユダヤ人は2000ズウォティスしか持てないという制約があった のだ。そのため、「残り3003ズウォティスをどこに隠すのか 」という話になる。そしてこちらについても、「5003ズウォティス」という中途半端な金額に、リアリティを感じた というわけだ。
どうやって撮っているのかまったく分からないシーン
本作のある場面では、「戦争によって壊滅的な状態になったワルシャワの街」が映し出される 。しかしこのシーン、どのように撮影したのか、私にはまったく分からなかった 。
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映画を観ていない人にはなかなかイメージしにくいと思うので、「戦場のピアニスト」で画像検索してほしい (このブログは著作権侵害にならないように運営しているので、画像そのものは載せない)。「全体的に暗青色で、構図の中央に消失点がある」という廃墟みたいな場面 がそれだ。奥の奥まで、どこまでもひたすらに「壊れた家屋」が連なっている ような感じで、セットだとしたらちょっと大規模すぎる ように思う。
ネットでも調べてみたのだが、正直良くわからなかった 。「CGで作った」「戦争で実際に破壊された街を探し出して撮った」などいくつかの説がヒットしたのだが、どの情報も決定打に欠ける ような気がする。真相を知っている方は是非教えてほしい 。
どう撮られたのかはよく分からなかったものの、この「廃墟のシーン」には、「『生』に繋がりそうなものが一切無い場所で、『ピアニスト』という属性以外に何も持たない男が生き延びなければならない」という絶望を一瞬で伝える破壊的な効果があった と思う。全体の中でも、特に印象的なシーン だった。そしてこのシーンの後もなお、「ただ『生きる』ためだけに生きている」みたいな、「身体だけがかろうじて生存している」というような凄まじい状況が続く のである。
どこかで気持ちが切れてしまってもおかしくなかった はずだと思う。私なら、とっくに諦めてしまっていただろう。しかしそういう状況でも、どうにか「生き延びるための希望」を手繰り寄せそうとする主人公の姿には圧倒された し、改めてこれが「現実に起こったこと」だという事実に驚愕させられてしまった 。
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本作は「4Kリマスター版」での上映であり、専用のHPが作られている 。そしてそこでは、「監督のロマン・ポランスキーも幼い頃にゲットーで過ごした経験があり、さらに母親を収容所で亡くしている」という事実が紹介されていた 。このこともまた、本作のリアリティに大きく寄与している と言えるだろう。やはり、経験した者のの言葉や記憶に勝るものはない からだ。そして、そのような「残酷さ」が、とても美しい映像で乗せて描かれていることもまた、強い皮肉を感じさせる点 だと思う。
映画化に至るまでの経緯
クリストファー氏は子どもの頃、シュピルマンのことを「つまらない父親」と感じていた そうだ。しかし今なら、「長く後遺症に苦しんでいた」と理解できる という。神経質でよく悪夢を観ていたらしく、戦争が終わってから大分経っても、そのような状態に変わりはなかった そうだ。
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そんな父親が1946年に、自身の経験を元に本を書いた 。クリストファー氏はトークイベントの中でそのタイトルを『ある都市の死』と言っていたが、検索しても何もヒットしないので、恐らく「ポーランド語のタイトルを邦訳するとそのような意味になる」ということなのだと思う。この本は、ポーランドでベストセラーになった そうだ。そして映画『戦場のピアニスト』は、その本の記述をベースにして作られている というわけだ。
その後1998年にドイツでの出版が実現した 。クリストファー氏の弟が奔走し、ようやく出版にこぎ着けた のだという。その際、「このような本がどうして今まで埋もれていたんだ」という声が多数上がった そうだ。弟は、「共産主義が父親の本を潰したからだ」と言っていた そうだが、クリストファー氏はこの点について、「恐らく単に『本を売るための宣伝文句』に過ぎず、正しい理解ではないだろう 」と話していた。ドイツでの出版に50年以上も掛かった理由 については結局よく分からないようだが、理由の1つとして、「父親がそのことを望んでいなかったのではないか」とクリストファー氏は考えている という。
父親は恐らく、「『自分が経験したこと』を頭の中から出し切りたい」という思いから本を執筆した はずだ。しかしそうやって出し切った後はむしろ、「自身が出版した本に関わることで、辛い記憶が蘇ってくる可能性」を恐れたのではないか 。クリストファー氏はそのように話していた。その傍証になるのかは分からないが、自宅の本棚には父親が出版した本は並んでいなかった という。また、クリストファー氏は12歳の時に父親の本を見つけたのだが、なんと屋根裏部屋にあった そうだ。
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さてそのようにして、長らく絶版だった本がドイツで発売された わけだが、そのお陰で、改めてシュピルマンの物語に光が当たることになった のである。そして、恐らくロマン・ポランスキーは復刊されたその本を読んだのだろう、1999年に監督がシュピルマンに会いに来て、そこで映画化の話が決まった そうだ。
クリストファー氏曰く、その時の話し合いの中で、「主演俳優が決まったら会わせます」という約束が交わされていた という。しかしその後、父親の体調が思いがけず急変し、そのまま入院する ことになった。病院からは「心配ないです」と連絡をもらっていたのだが、容態が急変、入院から1週間後ぐらいに亡くなってしまった そうだ。父親は結局、完成した映画を観ていないどころか、主演俳優が誰なのかも知らないままこの世を去った ことになる。
その主演俳優の演技を観たクリストファー氏は、「懐かしい気分がした」という感想を抱いた そうだ。父親は背が低く、一方主演俳優はとても高かったので、見た目だけで言えばあまり似ていない という。それでも、仕草や雰囲気に父親を感じさせるものがあった そうだ。ただ先程書いた通り、主演俳優は結局父親と会ったことがない わけで、クリストファー氏は「ただの偶然だろう」と言っていた 。いずれにせよ、実の息子にそう思わせる演技をしているというのは、凄いこと だと思う。
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最後に
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クリストファー氏が日本にやってくることになったのも、大元を辿れば父親の影響が大きい と言える。
ピアニストである父親は、日本の「歌謡曲」のような一般向けの作曲も行っており、ポーランド国内ではヒットを飛ばす作曲家として知られていた そうだ。そのため、クリストファー氏は子どもの頃、自己紹介をして名前が知られると「あの曲の息子だ」という反応ばかり経験した という(「シュピルマン」というのがポーランド国内でどの程度珍しい苗字なのかは分からないが)。そのことに嫌気が差したことが、ポーランドを出る決断をした理由の1つ だと語っていた。
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こんな感じで最後までトークイベントは面白かったし、もちろん映画も素晴らしかった 。実に素晴らしい鑑賞体験 だったと言える。
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イスラエルのヨルダン川西岸地区内の集落マサーフェル・ヤッタを舞台にしたドキュメンタリー映画『ノー・アザー・ランド』では、「昔からその場所に住み続けているパレスチナ人の住居をイスラエル軍が強制的に破壊する」という信じがたい暴挙が映し出される。そんな酷い現状に、立場を越えた友情で立ち向かう様を捉えた作品だ
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【異様】映画『聖なるイチジクの種』は、イランで起こった実際の市民デモを背景にした驚愕の物語である
「家庭内で銃を紛失した」という設定しか知らずに観に行った映画『聖なるイチジクの種』は、「実際に起こった市民デモをベースに、イランという国家の狂気をあぶり出す作品」であり、思いがけず惹きつけられてしまった。「反政府的な作品」に関わった本作監督・役者・スタッフらが処罰されるなど、人生を賭けて生み出された映画でもある
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【解説】映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、凄まじい臨場感で内戦を描き、我々を警告する(…
映画『シビル・ウォー』は、「アメリカで勃発した内戦が長期化し、既に日常になってしまっている」という現実を圧倒的な臨場感で描き出す作品だ。戦争を伝える報道カメラマンを主人公に据え、「戦争そのもの」よりも「誰にどう戦争を伝えるか」に焦点を当てる本作は、様々な葛藤を抱きながら最前線を目指す者たちを切り取っていく
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【実話】株仲買人が「イギリスのシンドラー」に。映画『ONE LIFE』が描くユダヤ難民救出(主演:アンソ…
実話を基にした映画『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』は、「イギリスに住むニコラス・ウィントンがチェコのユダヤ人難民を救う」という話であり、仲間と共に669名も救助した知られざる偉業が扱われている。多くの人に知られるべき歴史だと思うし、また、主演を務めたアンソニー・ホプキンスの演技にも圧倒されてしまった
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【絶望】知られざる「国による嘘」!映画『蟻の兵隊』(池谷薫)が映し出す終戦直後の日本の欺瞞
映画『蟻の兵隊』は、「1945年8月15日の終戦以降も上官の命令で中国に残らされ、中国の内戦を闘った残留日本軍部隊」の1人である奥村和一を追うドキュメンタリー映画だ。「自らの意思で残った」と判断された彼らは、国からの戦後補償を受けられていない。そんな凄まじい現実と、奥村和一の驚くべき「誠実さ」が描かれる作品である
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【あらすじ】原爆を作った人の後悔・葛藤を描く映画『オッペンハイマー』のための予習と評価(クリスト…
クリストファー・ノーラン監督作品『オッペンハイマー』は、原爆開発を主導した人物の葛藤・苦悩を複雑に描き出す作品だ。人間が持つ「多面性」を様々な方向から捉えようとする作品であり、受け取り方は人それぞれ異なるだろう。鑑賞前に知っておいた方がいい知識についてまとめたので、参考にしてほしい
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【衝撃】ウクライナでのホロコーストを描く映画『バビ・ヤール』は、集めた素材映像が凄まじすぎる
ソ連生まれウクライナ育ちの映画監督セルゲイ・ロズニツァが、「過去映像」を繋ぎ合わせる形で作り上げた映画『バビ・ヤール』は、「単一のホロコーストで最大の犠牲者を出した」として知られる「バビ・ヤール大虐殺」を描き出す。ウクライナ市民も加担した、そのあまりに悲惨な歴史の真実とは?
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【狂気】ホロコーストはなぜ起きた?映画『ヒトラーのための虐殺会議』が描くヴァンゼー会議の真実
映画『ヒトラーのための虐殺会議』は、ホロコーストの計画について話し合われた「ヴァンゼー会議」を描き出す作品だ。唯一1部だけ残った議事録を基に作られた本作は、「ユダヤ人虐殺」をイベントの準備でもしているかのように「理性的」に計画する様を映し出す。その「狂気」に驚かされてしまった。
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【驚愕】本屋大賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)は凄まじい。戦場は人間を”怪物”にする
デビュー作で本屋大賞を受賞した『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)は、デビュー作であることを抜きにしても凄まじすぎる、規格外の小説だった。ソ連に実在した「女性狙撃兵」の視点から「独ソ戦」を描く物語は、生死の境でギリギリの葛藤や決断に直面する女性たちのとんでもない生き様を活写する
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【傑物】フランスに最も愛された政治家シモーヌ・ヴェイユの、強制収容所から国連までの凄絶な歩み:映…
「フランスに最も愛された政治家」と評されるシモーヌ・ヴェイユ。映画『シモーヌ』は、そんな彼女が強制収容所を生き延び、後に旧弊な社会を変革したその凄まじい功績を描き出す作品だ。「強制収容所からの生還が失敗に思える」とさえ感じたという戦後のフランスの中で、彼女はいかに革新的な歩みを続けたのか
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【実話】ソ連の衝撃の事実を隠蔽する記者と暴く記者。映画『赤い闇』が描くジャーナリズムの役割と実態
ソ連の「闇」を暴いた名もなき記者の実話を描いた映画『赤い闇』は、「メディアの存在意義」と「メディアとの接し方」を問いかける作品だ。「真実」を届ける「社会の公器」であるべきメディアは、容易に腐敗し得る。情報の受け手である私たちの意識も改めなければならない
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【あらすじ】蝦夷地の歴史と英雄・阿弖流為を描く高橋克彦の超大作小説『火怨』は全人類必読の超傑作
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ナチスドイツナンバー2だった宣伝大臣ゲッベルス。その秘書だったブルンヒルデ・ポムゼルが103歳の時にカメラの前で当時を語った映画『ゲッベルスと私』には、「愚かなことをしたが、避け難かった」という彼女の悔恨と教訓が含まれている。私たちは彼女の言葉を真摯に受け止めなければならない
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