目次
はじめに
この記事で取り上げる本
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ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- ”例外”だったものが、いつの間にか”前提”として組み込まれている
- そのような社会の変質は、我々自身が望んだものである
- 大多数の支持があれば何をしてもいい、という圧力が強すぎないだろうか
メディアと司法と我々が協調して、社会の”当たり前”を大きく変えていったことがよくわかる
自己紹介記事
ルシルナ
はじめまして | ルシルナ
ブログ「ルシルナ」の犀川後藤の自己紹介記事です。ここでは、「これまでのこと」「本のこと」「映画のこと」に分けて書いています。
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しかし本書は本当にもの凄い作品だ。驚いた。
私が小学生の頃に、地下鉄サリン事件が起こった。確か、小学校の修了式の日だったと思う。子どもだったとはいえ、地下鉄サリン事件を同時代に経験した。だから、そこからの社会の変化も、自身の経験として実感しているつもりだった。
しかし、この作品で明確に指摘されるまで、オウム真理教がどのように社会を変えたのか、私はきちんと認識できていなかった。そのことに、言いようのない衝撃を受けた。
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オウム真理教は、社会の何を変えたのか
きっかけ
著者の森達也は、『A』というドキュメンタリー映画でオウム真理教を内側から撮り衝撃を与えた。
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それからオウム真理教は、森達也にとってライフワークのようなものになった。その後『A2』も撮ったが、『A』も『A2』も興行的に上手くいかず、そのため彼は文章へシフトせざるを得なくなる。
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森達也は、オウム真理教をテーマにしながらも、麻原彰晃の裁判をこれまで一度も傍聴したことがなかった。カメラを持ち込むことができない法廷は、自分のフィールドではないと感じていたからだ。しかし、発表の媒体が雑誌に変わったこともあり、彼は初めて麻原彰晃の裁判を傍聴することに決める。
長かった一審の判決がまさに言い渡される時に傍聴席にいた森達也は、「この裁判は異常だ」という強烈な違和感に襲われる。
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なぜなら、被告人席に座っている麻原彰晃は、明らかに何らかの精神障害の症状を呈していたからだ。同じ動作を反復する仕草が見られ、それどころかオムツまでさせられているようだ。
なんだこれは?
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どうやら麻原彰晃に対しては、これまで一度も精神鑑定が行われたことがないらしい。裁判所が、精神鑑定を退けているからだ。本書には、ある精神科医の引用として、
わかりやすく言えばですね、訴訟中に胃潰瘍が見つかったと。そうしたときに放っておくかということですね。当然内視鏡を入れて出血を止めないといけないですね。そういうことをするべきであるにもかかわらず、どうも裁判官が意味不明なことを言って頑張っている。そういう状態ではないかと思います
というコメントがある。謎めいた状況である。
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しかしそういう状況なのだとして、これまで裁判を傍聴してきただろう記者やジャーナリストは、なぜこの現状を伝えないのか? 明らかに精神障害の状態にある麻原彰晃を被告人席に座らせ、恐らく本人がまったく理解できていないだろう裁判が粛々と進行しているこの異常さに、誰も触れなかったのはなぜだ?
ここが、森達也の出発点だ。
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彼は、こう考える。本当の真相究明を目指すのであれば、麻原彰晃の治療をまず行い、その上できちんと裁判を行うべきではないか、と。
確かに僕も、仮に麻原彰晃が正気を取り戻したとしても、法廷の場で事件の真相が解明されるという全面的な期待はしていない。その可能性はとても低いと考えている。
でもだからといって、手続きを省略することが正当化されてはいけない。「期待できない」という主観的な述語が、あるべき審理より優先されるのなら、それはもう近代司法ではない。裁判すら不要になる。国民の多数決で判決を決めればよい。国民の期待に思いきり応えてやればいい。ただしその瞬間、その国はもはや法治国家ではない。
(中略)
誰かに適正な裁判を受けさせる権利を守ることは、僕らが公平な裁判を受けるための担保でもある。
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森達也は、仮に麻原彰晃が正常な状態であろうが、真相究明がなされる可能性は低いだろうと指摘する。しかしそうだとしても、真相究明が行われる可能性を追求すべきだし、だとすれば、まずは麻原彰晃の治療が優先のはずだ。しかし今は、裁判を真っ当に継続できそうにない麻原彰晃を、人形のようにただ座らせて、形式的に裁判を進めようとしている。
これでいいのだろうか?
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「オウム真理教は特別」が、「社会の当たり前」を作り出す
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この疑問から出発した森達也は、オウム真理教がもたらした社会の変化について、概ね以下のような主張をする。
オウム真理教は特別だ、という理由で作られた様々な”例外”が、やがて”前提”として組み込まれるようになり、社会が変わっていく
表現を変えながら、本書では繰り返しこのことが主張される。
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オウムは特別である。オウムは例外である。暗黙の共通認識となったその意義が、不当逮捕や住民票不受理など警察や行政が行う数々の超法規的(あるいは違法な)措置を、この社会の内枠に増殖させた。つまり普遍化した。だからこそ今もこの社会は、現在進行形で変容しつつある。
私は、具体的に何がどうとは指摘できないが、確かに感覚としては「なるほど」と感じられる。それほどまでに、地下鉄サリン事件やオウム真理教に関する報道は日本中に衝撃を与えたし、「オウム真理教をどうにかするためだったら、多少のことはしょうがない」という雰囲気は、確かに存在していたように思う。
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オウム真理教とは関係ないかもしれないが、街中に当たり前のように防犯カメラが増えている現実に驚くことがある。これは「防犯カメラ」と呼ばれているように、建前上は「防犯のため」だが、実情は「監視カメラ」である。何か事件が起こると、その事件に関連する防犯カメラの映像がニュースで流れることがあるが、それを見る度に「どこにでもあるのだな」と改めて感じさせられる。
そして「防犯のためなら仕方ない」という雰囲気から「監視カメラ」が社会に山ほど設置されたのと同じように、オウム真理教が与えたインパクトがいつの間にか社会を変えている、ということである。
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同じような例を、9.11同時多発テロでも聞いたことがある。9.11以降アメリカは、「テロ対策だ」という理屈で様々な法律や仕組みが導入されたという。国民も、「また9.11のようなことが起こるよりは」と受け入れていくのだが、結果的には個人の自由をかなり侵害するような状況になっている、という話をテレビで見た記憶がある。
また本書では、こんな指摘もされる。
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なぜなら地下鉄サリン事件以降、主語を被害者に置き換えることで自由にものが言えなくなるこの傾向は、北朝鮮拉致問題などでさらに加速して、結果としてこの国の現状とこれからの方向に、とても歪で大きな影響を与えているからだ
私は正直、地下鉄サリン事件以前はこうではなかったのか、つまり、「主語を被害者に置き換えた主張が少なかった」のかどうか、覚えていない。しかし確かに、地下鉄サリン事件というのは、誰もがオウム真理教に怒りを抱き、その反動で誰もが被害者を慮る、という状況を生み出すインパクトを持っていたと思う。地下鉄サリン事件によって、「主語に被害者に置き換えた主張」が多くなった可能性は、充分にあるだろう。
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社会の変質は、我々が望んだもの
しかしこの変化は、我々がそう望んでいるから引き起こされている、という側面もある。
それはこの社会の願望である。なぜなら、もしも彼らが普通であることを認めるならば、あれほどに凶悪な事件を起こした彼ら「加害側」と自分たち「被害側」との境界線が不明瞭になる。それは困る。あれほどに凶悪な事件を起こした彼らは、邪悪で凶暴な存在であるはずだ。いや邪悪で凶暴であるべきだ。
社会のこの願望にマスメディアは抗わない。
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鶏が先か卵が先かは分からないが、情報の発信者であるマスコミと受信者である我々が、共同でこの変化を作り出している。我々は、「あいつらは、自分たちとはまったく違う、凶悪な連中だ」と判明することを望む。そうであればあるほど、「自分とあいつらは違う人間だ」と安心できるからだ。
そしてマスコミは、我々のそういう望みを汲み取る。そうでなければ、報道を見てもらえないからだ。だからマスコミは、我々が望む情報を探し出し、報じる。するとそれを見て我々は、「やっぱりあいつらは邪悪だ。こらしめてやればいい」と感じることになる。
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そしてまさに、司法も、我々のそんな声に応えようとするのだ。
ヒトラーは自殺した。だから戦後世界は、彼の言葉がないままにナチスを解析せねばならなかった。麻原は不在ではない。法廷で語らせることができる。ところが今、まさしくその法廷(裁判所)が、彼の言葉を封じようとしている。彼を放置してさらに壊そうとしている。でもこの国の多くの人は、これを異常なこととして捉えない。
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これも結局、我々の希望に沿っている、というわけだ。
我々には、メディアにどんなことを報じてほしいと伝えたつもりも、司法に忖度してほしいとお願いしたつもりもないはずだ。しかし、オウム真理教を取り巻く我々の感情は凄まじく、社会全体を覆い、メディアも司法も無視できなくなる。
そんな風にして社会は変わっていく。
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我々の感情が先なのか、メディアや司法の忖度が先なのかは分からない。分からないが、いずれにせよ我々は、ある意味で一体となって社会を少しずつ変えている。自分たちが変えている実感などないままに、かつてどんな社会にいたのかさえ忘れてしまうほどの変化をもたらしているのだ。
森達也は、その現状に警鐘を鳴らす。「オウム真理教は特別だ、という理由で作られた”例外”が”前提”として組み込まれた社会」に、我々は生きているのだ、ということを思い出させてくれるのである。
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大多数の支持があれば何をしてもいい、という圧力が社会を歪めていないだろうか?
というものだ。
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この傾向は特に、SNSの登場によって加速したと感じる。
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「大多数の支持があれば何をしてもいい」という社会では、「大多数の支持を獲得すること」が大きな目的の一つになる。そしてその目的の達成のために、「考える力」を奪ったり、「情報」を隠したりするようになるだろう。
例えば、消費税込みの総額表示が法律で義務付けられた。これは、「消費者としては、税込みの値段の方が分かりやすいよね?」という建前で制度化されているが、ここには、「増税をしても気づかれにくくするため」という目的があるのではないか、と指摘されている。これはまさに、「分かりやすい情報」を隠すことによって大多数の支持を獲得しようとする行為と言えるのではないかと思う。
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このような不利益が、我々の気づかないところで密かに進行しているだろう。気づいた時には手遅れだった、という状況はいくらでも起こりうるのではないか、と私は考えている。
そしてこれはまさに、本書で森達也が指摘する、オウム真理教が社会にもたらした変化と相似形を成すだろう。我々が強く望めば、精神障害を持っているだろう麻原彰晃を治療せずに裁判にかけるという異常事態を、裁判所が許容してしまうのである。
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最後に
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本書で指摘されていることは、とても恐ろしい。しかし裏を返せば、同じ点に希望も見いだせる。
何故なら、我々が関心を持ちさえすれば、社会は大きく動く可能性がある、ということだからだ。
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一方、私もそうだが、若い世代になればなるほど政治や社会に関心を持っていないだろう。私は、ニュースを見たりノンフィクションを読んだりしてそれなりに関心を向けているつもりだが、しかしそれでも不十分だろうと感じる。
だからこそ我々は、もっと政治や社会について関心を持ち、行動を起こさなければならないのだと改めて感じさせられる一冊だった。
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第二次世界大戦で最も過酷な戦場の1つと言われた「前田高地(ハクソー・リッジ)」を、銃を持たずに駆け回り信じがたい功績を残した衛生兵がいた。実在の人物をモデルにした映画『ハクソー・リッジ』から、「戦争の悲惨さ」だけでなく、「信念を貫くことの大事さ」を学ぶ
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