目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:清水潔
¥584 (2022/12/12 22:27時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「桶川ストーカー殺人事件」における著者の奮闘がきっかけで「ストーカー規制法」が制定された
- 清水潔が警察よりも先に真犯人にたどり着くも、警察は保身のために逮捕せず、あまつさえ「被害者像」までの印象操作さえ行うという酷さ
- 警察情報を垂れ流すだけの「一流のマスコミ」に対する著者の激しい憤り
私たちが生きる社会の底に大きく空いた穴を垣間見せてくれる、全国民必読の恐ろしい1冊
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「桶川ストーカー殺人事件」の存在は知っていた。事件当時私は16歳。テレビでどのように報じられていたのかまで覚えているわけではないし、本書を読むまで事件について詳しく理解していたわけでもない。それでも、「『桶川ストーカー殺人事件』を契機にして『ストーカー規制法』が制定された」という事実は知っていたと思う。今でこそ「『ストーカー』が世の中に存在すること」や、「『ストーカー行為』が犯罪であること」は社会で共有されていると思うが、事件当時はその辺りの社会認知が追いついておらず、法整備もなされていなかった。そういう中で、1つの事件をきっかけにして重大な法律が生まれたというインパクトは、やはり強く印象に残っている。
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本書『桶川ストーカー殺人事件 遺言』を読んで私は、知らなかったことをたくさん知った。それらはどれも、信じがたいものだ。警察が保身のためにいかに嘘をつくのか。マスコミがいかに安易に警察情報を「真実」として発表するのか。そして本書の著者・清水潔がいかに壮絶な取材を行い、「真実」を明らかにしたのか。著者の奮闘がなければ、真相は明らかにされなかったし、恐らく、「ストーカー規制法」も生まれなかっただろうに違いない。
著者は取材の過程で、「桶川ストーカー殺人事件」を所管する警察署に出向き、このように告げた。
取材ではありません。伝えたいことがあったから来ただけです。来週発売のFOCUSで桶川駅前の殺人事件の容疑者について重要な記事を掲載します。すでにその内容は捜査本部が十分にご存知のはずです。締め切りは今週土曜です。このことは必ず署長にお伝えください。以上。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
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この言葉がどのような状況で発されたものなのかは、是非本書を読んでほしい。「権力」に対する著者の凄まじいまでの怒り・憤りが凝縮されたものだと理解できるはずだ。一介の記者の仕事としてあまりに凄まじいと感じる。まして著者は事件当時、記者クラブに出入りできない週刊誌記者だったのだ。どれほどの苦労の末に「真実」に辿り着いたのか、推して知るべしである。
清水潔は後に、有名な冤罪事件である「足利事件」を含む「北関東連続幼女誘拐殺人事件」の取材を行い、未だに未解決のままとなっている事件について調べた成果を『殺人犯はそこにいる』という本にまとめた。「文庫X」として話題になった1冊でもある。長澤まさみ主演の連続ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(カンテレ制作)の参考文献として知っている方も多いかもしれない。こちらも、警察や司法の闇に挑んだ、『桶川ストーカー殺人事件 遺言』以上に信じがたい現実が描かれた作品である。
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「桶川ストーカー殺人事件」「北関東連続幼女誘拐殺人事件」という、どちらか一方だけでも普通の人には不可能と感じられるような取材を、生涯で2つもやり遂げた清水潔の凄まじさを、是非体感してほしい。
「桶川ストーカー殺人事件」の概要
まずは、「桶川ストーカー殺人事件」がどう展開し、著者がどのように関わったのかをまとめておこう。
1999年10月26日、女子大生の猪野詩織さんが桶川駅前で刺殺された。清水潔は、写真週刊誌「FOCUS」の記者として事件取材を開始するが、「FOCUS」は記者クラブに所属していないため、警察からの情報を入手できない。事件直後は通り魔による犯行だと思われていたものの、警察情報がないので詳しい情報が分からなかった。しかし著者は、いつものことだと諦め、独自取材を行うことにする。
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しかし、いくら取材を続けても状況が一向にはっきりしてこない。どうやら通り魔による犯行ではなさそうだということだけは理解できた。詩織さんが執拗なストーカー被害に遭っていたことが少しずつ分かってきたからだ。しかし、彼女の周辺にいる人たちは皆口が重く、なかなか取材が進まない。
しかしようやく、詩織さんから相談を受けていたという男女から話が聞けることになる。彼らが口にしたことは、想像を遥かに超える信じがたいものだった。その時のことを著者はこんな風に書いている。
私は、あのカラオケボックスの中で、言葉以外の「何か」を受け取ってしまったような気がしていた。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
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詩織さんは生前、周囲の人に「私は殺される」と何度も話していたという。警察に相談しても、まともに取り合ってもらえなかった。「ストーカー規制法」制定以前の時代背景においては、警察が詩織さんの訴えに耳を貸さなかったことについて多少は仕方ない面もある。何故なら、いわゆる「つきまとい行為」を罰する法律が存在しなかったため、「ストーカー被害」を訴えられても警察に出来ることは何もなかったからだ。しかしそうだとしても、警察の詩織さんに対する対応は酷いものだった。
詩織さんは、警察が助けてくれないことに落胆しつつ、それでも日々前向きに生きようと努力していたという。ストーカー行為は日増しに酷くなっていった。彼女は外に出ることも怖かったはずだ。そんな中でも詩織さんは、亡くなる当日まで愛犬の散歩を続けていた。ストーカーの嫌がらせに屈せず、普通の当たり前の日常を過ごそうと、精一杯の努力をしていたのである。
しかし詩織さんは、周囲の人たちに漏らしていた「遺言」の通り殺されてしまった。こんなことが、許されていいはずがない。
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清水潔の怒りはまず、当然「犯人」に向けられた。そこで彼は、マスコミの中で「三流」を自認する週刊誌記者でありながら壮絶な執念を燃やし、警察よりも先に犯人を特定、その居場所も押さえた。これだけでも十分称賛に値する奮闘だ。
そして著者の怒りはさらに、「一流のマスコミ」へも向けられていく。記者クラブに所属する彼らは、自分の足で取材することよりも、警察発表を垂れ流すだけに終始している。そんなことでいいのだろうか? さらに著者の怒りは「警察」にも向けられる。取材を進める中で、埼玉県警が不正を隠蔽した可能性に気づいたからだ。清水潔は、「警察」という巨大な権力と闘うべく、ペンを執る決意をし……。
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信じ難いかもしれないが、清水潔はその取材によって、埼玉県警のとんでもない不正を明らかにすることになった。警察は、「自らの非を認めない」ために、事件の構図を歪めようとしたのだ。
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詩織は小松と警察に殺されたんです。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
彼女が警察に相談していたことを知る者は、このように語る。確かに警察には、武器となる法律がなかった。事件当時「ストーカー規制法」が存在していれば、何か違っていたかもしれない。しかし、そんな弁解の余地など無いほどに警察の対応は酷かった。詩織さんの訴えを無視したのである。
私は別に詩織さんを神聖視などしない。聖女のような人だったと言うつもりもない。私が言いたいのは、彼女は本当に普通の、あなたの周りにいるような、善良な一市民だったということだ。彼女は、私やあなたの娘がそうであるように、あらゆる意味で無実なのだ。ストーカー達は彼女を殺した。警察は告訴状を無視し、改竄した。彼女はなにをした?
彼女はただ訴えたのだ。警察に。助けてくれと。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
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たらればの話をしても意味はないが、もしも警察がストーカー被害を訴える詩織さんの話に耳を傾け、法律の後ろ盾がなくても可能な範囲の対応をしていれば、もしかしたら詩織さんは死なずに済んだかもしれない。そして恐らく警察も、そのような批判にさらされることを恐れたのだろう。彼らは、「ストーカーが殺人犯だった」という形の決着を望まなかった。
小松を筆頭とするストーカーチームを逮捕したら、警察が何と言われるか目に見えている。
「結局犯人はストーカー達だった。ならばどうして被害者が相談に来たり告訴しようとした時にちゃんと対応しなかったのか。警察は何をしていたのか。きちんとやっておけば猪野さんは死なずに済んだ」
そんな結果が待っていると分かっていて、県警が本気で事件を解決する気になどなるだろうか。むしろ警察は、詩織さんの「遺言」通りの構図などでは事件を決して解決させたくないのではないか。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
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ストーカーが殺人犯であることは間違いない。しかし、ストーカーを逮捕すれば警察の怠慢が明るみになってしまう。それは、警察の面子を保つ意味で受け入れ難い。そのように考えたのだろう埼玉県警は、一体どのように動いたのか。
なんと、「ストーカーを逮捕しない」と決断をするのだ。
さて、ここまで触れてこなかったが、詩織さん殺害はストーカー本人の手によるものではない。次で引用する文章を理解するために、犯行に関わった者の名前を整理しておこう。詩織さんの元交際相手が小松和人、その兄が小松武史、そして詩織さん殺害の実行犯が久保田である。
最終的に警察が描いた絵柄がどんなものか見てみればいい。実行犯久保田が小松武史の指示だと自供。武史の動機は、弟和人を苦しめる悪い女を懲らしめてやるつもりだった。よって和人は無関係、というものだ。その絵柄を最後まで押し通したのだ。現在公判もそれで進行している。和人を絵柄の中から外している限り、詩織さんの「遺言」通りになることはない。それが警察の描いた絵だ。
だが、それが何を意味するか分かっているのだろうか。詩織さんは、名指しして警察にその男からの救いを求めたのに、警察はその男だけ無視するのだ。それは警察の面子によるものなのか。だとしたら、その面子が被害者を二度殺すということになぜ気づかないのか。詩織さんの声は最後まで届かぬままなのか。「犯人」が捕まりさえすればいいのか。「真相」なんてものはどうでもいいのか。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
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詩織さんが警察に訴えたのは、「元交際相手・小松和人によるストーカー被害」である。そして当然だが、詩織さん殺害は小松和人の指示で行われたと考えるのが妥当だろう。詩織さんも生前、「元交際相手に殺される」と危機感を周囲に漏らしていたからだ。しかし、小松和人を逮捕してしまえば、「詩織さんの訴えに耳を貸さなかった警察の怠慢」が指摘されてしまう。そこで警察は、「詩織さん殺害は、弟のことを案じた兄・武史が久保田に依頼して実行させたものであり、元交際相手である和人の指示はなかった」と事件の構図を改竄したのである。
この記事の冒頭で、「取材ではありません。」から始まる文章を引用したが、これは、真犯人である小松和人に警察よりも早く辿り着いた清水潔が、情報提供までしているのに小松が一向に逮捕されつ気配のない状況に業を煮やし、怒りが爆発した瞬間のものだ。ちなみに小松和人は、捜査の手が自身に及んでいることを知ってだろう、事件後に自殺している。ストーカーである小松和人が亡くなっているという事実もまた、埼玉県警にとっては「都合が良い状況」だったに違いない。警察が描いた「偽りの構図」のまま、裁判まで持ち込むことが出来ているからだ。
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警察はさらに酷い対応を取っている。事件後、遺族は埼玉県警を相手取り、「警察の捜査怠慢」を訴える国家賠償請求訴訟を起こしたのだが、埼玉県警はなんと、保管している「詩織さんの遺品」を遺族への「攻撃材料」として利用したのだ。
ところがその遺品を、国賠請求で訴えられた県警側はまるで違う目的に使用しているのだ。はっきり言えば自己弁護のために、刑事事件ではなく、民事裁判の証拠として、しかも、被害者と遺族に対する攻撃材料として使っているのだ。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
本来であれば、捜査の対象となった遺品は遺族の元に返されるはずだ。しかし警察は遺品を返却しないだけでなく、保身のために利用しているのである。そんなことが許されていいのだろうか。
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「でも、俺はおじさんみたいにこういう警察の対応を許せないとは思わないよ。彼らは捜査本部なんか存在しなければ、夕方さっと仕事を終えて、駅前の赤ちょうちんで一杯やるか、家に帰って野球中継でも見るか、そんな普通の人達なんだよ」
それはそうだろう。警察官だって人の子だ。普通で悪いとは全然思わない。だが、だからといって事件があるのに捜査をしない、ましてや事件そのものをなくしてしまおうという奴らをかばって嘘をつくなど許されることか。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
『殺人犯はそこにいる』でも、「公権力が自己保身のために巨悪を隠蔽する」という凄まじい現実が描かれる。確かに、誰だってミスをする。SNSが広まったことで、昔よりも一層ミスが認められにくい社会になっているだろうが、それでも、まったくミスをしない人などいるはずがないし、ある程度過ちが認められる社会であるべきだとも思う。しかしいずれにせよ、ミスがあったからといってそれを隠してしまえば何も変わらない。ましてそれが社会の秩序を守る公権力であればなおさらだ。非常に残念なことではあるが、私たちは、「公権力も嘘をつく」と理解した上で社会を生きなければならないのである。
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清水潔は「桶川ストーカー殺人事件」の取材に際して様々な人と関わった。何度も取材に行き詰まるが、その度に新たな「何か」をもたらしてくれる人と出会い、少しずつ前進していく、そんな取材だったという。そうやって多くの人の話を聞いた著者は、こんな風に書いている。
私のところに情報を提供してくれた人達は口を揃えてこう言うのだ。
「最初は警察に連絡したんです。でももう嫌です。何から何まで聞くだけで、こちらには何も教えてくれない。向こうが困った時だけ呼び出されるんです。それなのになんであんなに偉そうな態度なんでしょうか……。」
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
法律によってあらゆる暴力が禁止されている民主主義国家において、唯一警察だけが「暴力を許容されている存在」だと言っていいだろう。そしてその暴力は当然、社会の秩序を安定させるために行使されるべきだ。にも拘らず、「桶川ストーカー殺人事件」においては、その暴力が「警察の保身」のために使われた。最低最悪の状況だと言っていいだろう。このような現実が過去にあったという事実を、私たちは正しく理解しなければならないのである。
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「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
令和の時代には想像出来ないかもしれないが、昭和や平成の初期ぐらいまで、「マスコミによる事件取材」はとにかく酷いものだった。被害者の卒業アルバムや文集などを引っ張り出してきたり、被害者遺族のプライバシーや社会生活を無視したような取材が平然と行われていたのだ。「報道被害」という言葉が生まれるほど酷い状況だった。
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『殺人犯はそこにいる』でも同じだったが、取材に向き合う清水潔のスタンスは常に一貫している。「弱い者の声を拾え」だ。『殺人犯はそこにいる』の中で、著者は明確にそう記している。
そもそも報道とは何のために存在するのか――。
この事件の取材にあたりながら、私はずっと自分に問うてきた。(中略)
権力や肩書き付きの怒声など、放っておいても響き渡る。だが、小さな声は違う。国家や世間へは届かない。その架け橋になることこそが報道の使命なのかもしれない、と。
「殺人犯はそこにいる」(清水潔/新潮社)
そして何より、「一番小さな声を聞け」――。それは私の第一の取材ルールであり、言い方を換えれば「縛り」とすら言えるものだ。
「殺人犯はそこにいる」(清水潔/新潮社)
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清水潔は常に、「一番小さな声」を拾うことに全力を尽くしている。放っておいても拡散されるような「声」に耳を傾ける必要はない。大事なのは、自分が拾わなければそのまま埋もれてしまうような「声」を捉えて広めることだ。その信念を曲げずに貫き通しているからこそ、警察よりも早く真相に辿り着き、公権力の不正を暴くような取材が出来たのだろう。
ありがとうございます。詩織のことをひどく書かないでくれて……。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
詩織さんについての詳細な情報を提供した男女が、清水潔の報道に対してこんな風に感謝する場面がある。これは普通には理解し難い言葉ではないだろうか。この感謝はつまり、「他のマスコミは詩織のことを悪く書いているけれども、清水さんだけは酷い書き方をしないでくれた」という意味だ。ということは、他のマスコミは詩織さんのことを悪く報道していたことになる。
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一体何故なのか。
その話はすぐ後で書くが、著者が「真実」を報じることができたのは、皮肉ではあるが「記者クラブに加盟していなかった」からなのだ。テレビのニュースなどでよく見る「警察による記者発表会見」には、「記者クラブ」と呼ばれる組織に属していないと出席が許されない。警察に都合の悪い報道をするマスコミは、この「記者クラブ」から排除される力学が働く仕組みになっており、何かと過激な報道を行う写真週刊誌は基本的に加盟できない。いわゆる「一流のマスコミ」だけが記者クラブへの所属を許され、警察からの情報を手に入れられるというわけだ。
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しかし、警察情報を手にすることが出来なかった著者は、自らの足で詩織さんの取材を行った。そして、その過程で得られた情報をそのまま報じたのだ。清水潔には、詩織さんが親思いで誰からも好かれる女性だったということが理解できた。「一流のマスコミ」が報じるような「遊び歩いている女性像」などまったく浮かんでこなかったのだ。
では、何故そのような「悪しき被害者像」が生み出されてしまったのだろうか?
警察情報を垂れ流すだけの「一流のマスコミ」の酷さ
警察は記者会見で、被害者である詩織さんについて、「高価なブランド物を所有していた」「風俗店で働いていた」などと発表した。これらは確かに、まったくの事実無根というわけではない。しかし、自ら取材を行った清水潔からすれば、「悪意を持って大きく歪めた情報」に過ぎなかった。「ブランド物」「風俗店」というキーワードは、猪野詩織という女性を評するのにまったく適さないものなのだが、警察は敢えてこのような強い言葉を使って「被害者像」を歪めようとしたのである。
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そしてその印象操作に加担したのが「一流のマスコミ」であるというわけだ。「記者クラブ」に所属するマスコミは基本的に、警察発表をそのまま報じる。これは、「警察発表は揺るぎない真実だ」という大前提があるからこその振る舞いだ。しかし「桶川ストーカー殺人事件」においては、警察が保身のために情報操作を行った。そして、警察発表を垂れ流すだけの「一流のマスコミ」は、結果として警察の保身に加担することになってしまったのだ。本書には、「三流」を自認する週刊誌記者・清水潔が、「記者クラブ」制度にあぐらを書いて「真実」を明らかにしようとしない「一流のマスコミ」を強く非難する描写も多く登場する。
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派手な見出し、愚にもつかないスキャンダル、強引な取材。イメージで言えばそういうことだ。実際にはそうやって雑誌が作られているわけではないのだが、官庁広報型の「公的なメディア」でないというだけで、そういうイメージが作られてしまっているところが嫌いだ。そういう社会のあり方が嫌いだ。
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その上で著者は、「桶川ストーカー殺人事件」がその「構図」に風穴を開けたのではないかと考えている。
だが、この桶川の事件に関わってみて私の思ったことの一つは、その分類の弊害が如実に現れたのがこの事件だったのではないか、ということだ。官庁などが発表する「公的な」情報をそのまま流して「一流」と呼ばれることに甘んじているメディアの報道が、その情報源自身に具合が悪いことが起こったときにどれだけ歪むか。情報源に間違った情報を流されたとき、「一流」メディアの強大な力がいかに多くのものを踏み潰すか。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
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「官公庁に認められるマスコミが『一流』だ」という捉え方をマスコミ自身さえもしている。そしてそんな認識こそが、「桶川ストーカー殺人事件」においては逆手に取られてしまったのだ。「『一流のマスコミ』は公的な情報を無条件に『真実』として報じる」というあり方が、まさに悪用されたのである。そして私たちは、そういう状況がもたらす悪影響がどれほど大きなものなのかを、清水潔の取材によって知ることになったというわけだ。
清水潔の取材によって真実を知ったのは、一般市民だけではない。他のマスコミも「FOCUS」を読んで初めて事件の全体像を知ったという。
詩織さん殺害の実行犯・久保田が逮捕された後、「FOCUS」は清水潔が調べた事実を掲載した。それを読んで同業他社は度肝を抜かれたそうだ。それはそうだろう。警察発表を鵜呑みにし続けていた「一流のマスコミ」は、「ストーカー被害」などを含む事件の概要をまったく把握していなかったのだ。「桶川ストーカー殺人事件」の取材は、「FOCUS」の独擅場となった。事件取材を行う記者たちが、「FOCUS」が発売されるやすぐに買い求め情報を得たというのだから、どれほど異常な状態だったか理解できるだろう。
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しかし、ただそれだけのことであれば、「自分たちの足で取材しなかったメディアが単に損をした」というだけの話に過ぎない。「損」という言い方は下品だが、マスコミの理屈からすれば、重大事件の報道において1つの写真週刊誌だけが独占状態にあるという状況は、きっと「損」という感覚になるだろう。
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しかし話はそれだけでは終わらない。それまで警察の発表を鵜呑みにし、警察の嘘に加担し続けた「一流のマスコミ」が、一転「警察批判」に躍起になったのである。
メディアの流れは急変した。被害者側の訴えなど、知っていてもほとんど記事にしなかった大手マスコミが、狂喜したように県警叩きに躍起になっていた。「桶川事件」がいきなり一面トップであった。しかもその根拠たるやさんざん嘘をついてきた県警が「これが事実です」と発表したことなのだから、ブラックジョークとしか思えなかった。警察の発表だと、どうしてこんなに簡単に信用するのだろうか。それまで県警は嘘を並べ続けてきたのに、それでも県警の発表の方が被害者の父親の会見より真実味があるというのか。詩織さんの「遺言」は記事に出来なくても、警察から文書が配布された瞬間に警察官の行為は犯罪として報じられ、突然事実となるのか……。あまりの変貌ぶりに、私は驚くしかなかった。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
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これこそまさに下品の極みだろう。要するにマスコミ各社は、「実行犯の逮捕」という警察発表があったからこそ、「FOCUS」の情報を受け入れたということになる。つまり、「『一流のマスコミ』による『警察批判』」は、「『警察からのお墨付き』を得たから出来た」のである。そんな状態では、どれだけ「警察批判」を行おうが状況に変化はないだろう。結局、「警察のフィルターを通ったもの」しか「真実」であると受け取れないのであれば、「報じる者」としての機能を果たすことなどできないからだ。そのような憤りを、清水潔は強く感じたのである。
それでは記者クラブの構造と同じだ。事件がどんなものかではなく、警察が何を発表するかが大事だというクラブと、「犯人」さえ逮捕すればいいという警察に何の違いがあるのか。
「桶川ストーカー殺人事件 遺言」(清水潔/新潮社)
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「桶川ストーカー殺人事件」は20年以上も前の事件だが、日本のマスコミの状況はより悪化していると言っていいだろう。というのも、「国境なき記者団」が毎年発表している「報道の自由度ランキング」で、日本は順位を落とし続けているからだ。2022年の順位は71位である。そして、ランキングの発表が始まった2002年のランキングは26位だった。
ELEMINIST
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だからこそ私たちは、マスコミの報道に一層注意して接しなければならない。清水潔が抱いた危機感は、現代を生きる私たちにも共通するものなのである。
冒頭で紹介したドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』は、地上波のドラマでありながら、清水潔が抱いた「一流のマスコミ」に対する危機感を、その「一流のマスコミ」であるテレビ局が取り上げるという非常に野心的な作品だ。
「連ドラで描くのは無理」と企画が一旦潰れたものの、プロデューサーが転職してまで実現にこぎつけたという壮絶な裏話を知り、私は十数年ぶりに連ドラを観ることにした。非常に面白い。このドラマが実現した背景を、脚本を担当した渡辺あやが語るインタビューも実に興味深いので是非読んでみてほしい。
FRaU | 講談社
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最後に
『殺人犯はそこにいる』もそうだが、清水潔のノンフィクションには、単に「社会を揺るがすような事件を取材した」というだけに留まらない凄まじさがある。どちらも、「私たちが生きる社会の底に空いた『見えない巨大な穴』の存在」を示唆するものであり、私たちの生活がどれほど脆弱な足元の上に成り立っているのかが実感できるだろうと思う。
「真実」がいかに人為的に、悪意と共に生み出されてしまうのか、その信じがたい現実を抉る作品であり、『殺人犯はそこにいる』と合わせて、社会に生きるすべての人が読んでおくべき作品だと感じた。
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ルシルナ
事件・事故・犯罪・裁判【本・映画の感想】 | ルシルナ
私は、ノンフィクションやドキュメンタリーに多く触れますが、やはりテーマとして、トラブルなどが扱われることが多いです。単純にそれらに興味があるということもあります…
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