目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:ローラ・ポイトラス, 出演:ナン・ゴールディン
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 自身もオキシコンチンの被害に遭ったナン・ゴールディンが、アーティストとしてのキャリアを捨てる覚悟で超巨大資本に闘いを挑んだ
- アウトサイダー的人生から「どの美術館も作品を欲しがる」と言われる写真家になったナン・ゴールディンの数奇な来歴
- ナン・ゴールディンが設立した団体「PAIN」の奮闘によって、何が変わったのか?
薬害事件は決して対岸の火事ではないし、私たちもその必要がある時には彼女のように立ち上がるべきだと感じさせられた
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
ドキュメンタリー映画『美と殺戮のすべて』は、薬害事件に端を発した美術館内でのデモを主導した写真家ナン・ゴールディンの生涯を追う作品である
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少し前に発覚し、今なお尾を引いているだろう小林製薬の紅麹問題。死者も出す大騒動となり、日本では久しぶりに大きく報じられた薬害事件と言えるのではないかと思う。もちろん、薬害事件とは一般的に「医師が処方した薬による問題」のことを指すはずなので、サプリメントが原因の事件は含まないのかもしれないが、一般の消費者からしたら同じだろう。
さて、本作『美と殺戮のすべて』で扱われている薬害事件はしかし、ちょっと比較にならないぐらいの規模のものだ。なにせ「オキシコンチン」というオピオイド鎮痛薬の一種により50万人以上が亡くなったというのである。そして映画公開時点でも、その被害はまだ広がっているそうなのだ。日本の薬害事件の場合、私がざっくり調べた限りではあるが、死者数が500人を越えるものはほとんどなく、被害者数でも数千人という単位ではないかと思う。もちろん、数が少なければいいという話ではなく、「死者数50万人」というのがいかに比較にならない規模なのかを示したいだけである。何よりもまず、その被害の大きさに驚かされてしまった。
しかし何故、その薬害事件が「美術館内でのデモ活動」に繋がっていくのだろうか? そこには、「オキシコンチン」を開発した製薬会社パーデュー・ファーマの創業者が関係している。創業したのはサックラーという有名な一家なのだが、彼らは「オキシコンチンによって得た莫大な利益」を、美術館・大学など様々な施設に寄付していたのだ。それこそ、誰もが知っている有名な美術館、例えばルーブル美術館やメトロポリタン美術館にも、サックラーの名を冠したスペースが存在する。「サックラー家と言えばアート」と言うぐらい、絶大な影響力を持っているというわけだ。
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つまり、「オキシコンチンを作ったサックラー家を美術の世界から追放し、その名声を剥ぎ取る」というのが、このデモの目的なのである。
そして、そんな超巨大資本に立ち向かったのが、写真家のナン・ゴールディンだ。彼女もまた、オキシコンチンの被害者である。「オキシコンチン」は中毒症状をもたらすことが知られており、彼女も処方された薬を飲んだことでその症状に苦しんだのだが、幸いにも命は落とさずに済んだ。そして彼女はその後、そんな自身の経験を「アートフォーラム」という雑誌に語った。
その反響は凄まじかったようだ。そして「アートフォーラム」誌の記事をきっかけにして、彼女は「PAIN」という団体を立ち上げた。「Prescription Addiction Intervention Now:処方薬中毒への介入を今」の略である。そして彼女は、自身もアーティストとして美術館と関わる立場であるにも拘らず、そんな美術館に絶大な影響力を持つサックラー家を相手に真っ向勝負を挑むことにしたというわけだ。これが「美術館内でのデモ活動」に繋がるのである。
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その効果は凄まじかった。「彼女たちのデモによってどんな成果が生み出されたか」については本作の後半で取り上げられるので、そういう意味ではそれを明らかにすることはネタバレといえるかもしれない。しかし、実際に起こったことであり、既に報じられていることでもある。さらに、その成果は広く知られるべきことだとも思うので、ここでは触れることにしたいと思う。
「PAIN」のメンバーは様々な美術館内で抗議活動を行ったが、最初の1年間は特に何の反応もなかった。美術界は、ナン・ゴールディンの活動を無視したというわけだ。さて一方で、当時ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーがナン・ゴールディンの回顧展を企画していた。そして同館もまた、サックラー家から130万ドルの寄付を受け取っていたのである。
そこでナン・ゴールディンは、「サックラー家からの寄付を拒否しなければ回顧展の開催を撤回する」と通告した。これは相当に勇気ある行動と言っていいだろう。確かに、ナン・ゴールディンはその時点で、「どの美術館も彼女の作品を欲しがる」と言われるほどの地位を獲得していた。しかしそれにしたって、「美術界に甚大な影響を及ぼすサックラー家」との比較となると、美術館としてもやはり躊躇してしまうのではないだろうか。
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しかしナショナル・ポートレート・ギャラリーは決断した。サックラー家ではなくナン・ゴールディンを取ったのだ。そして同館のこの決断以降、世界中の美術館が次々に追随した。テート美術館、グッゲンハイム美術館、メトロポリタン美術館などの有名どころが、相次いで「サックラー家からの寄付を拒否する」と表明したのである。またルーブル美術館は他の美術館に先駆けて、館内から「サックラー」の名を消した。ナン・ゴールディンのある意味で捨て身の闘いは、現実に影響を与えたのだ。
そんな凄まじい抗議活動を先導したナン・ゴールディンを追うのが本作『美と殺戮のすべて』である。と書くと、「サックラー家との闘い」がメインの物語であるように感じられるかもしれない。もちろん、軸の1つとしてそれは明確に存在するのだが、本作はどちらかと言えば、「ナン・ゴールディンが歩んできた道のり」を振り返るような内容になっていると言えるだろう。
そして、そちらの話も実に興味深いのである。
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ナン・ゴールディンはいかにして「影響力を持つアーティスト」になったのか?
先述した通り、現在ではどこの美術館も彼女の作品を欲しがっているそうだし、本作の公式HPには、「同世代で最も重要かつ影響力のあるアーティストの一人」とも書かれている。私は本作を観るまで彼女の存在を知らなかったが、恐らくアートの世界では知らない者がいないほどの存在なのだと思う。しかし、彼女が作品を発表し始めた当初は、「酷評しかない」というような状況だったそうだ。
若い頃から彼女が撮り続けていたのが「私生活」である。ナン・ゴールディンは昔から様々なアーティスティックな人たちと共同生活を行い、「セックス」と「麻薬」に塗れた日々を送っていたのだという。そしてそんな生活を写真に収めていたというわけだ。別に写真家になろうと思っていたわけではない。単に写真を撮ることが好きだっただけだ。ただ、美術館でのデモ活動を率いている姿からは想像もできないが、若い頃の彼女は内気で、対人恐怖症をさらに悪化させたような状態だったという。そして、そんな状況を写真が変えてくれたと話していた。「カメラ」を手にしたことで初めて「声」が手に入り、そのお陰で「存在価値」を感じられるようになったのだそうだ。
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そんな彼女は、「フィルム代を稼ぐ」という目的のために、割の良い仕事をするようになった。ダンサーとして腰を振ったり、あるいは売春宿で働いていた時期もあったそうだ。売春宿で働いていた経験については、本作で初めて語ったと言っていた。「売春への偏見を無くしたいから」だという。そんなわけで彼女は、「奔放な生活をし、その奔放な生活を写真に収める」という日々を過ごしていたのである。
当然、撮った写真を発表するつもりなどなかった。しかしたまたま、彼女が住んでいた辺りでギャラリーがオープンしたり展覧会が開かれたりするようになったという。そして当時は「持ち込み」が基本だった。そこで彼女は、撮り溜めた写真を20枚ほどギャラリーに持ち込んでみることにしたのである。ポートフォリオと呼べるようなものではなく、何なら色褪せたり破れたりしている写真もあったという。
しかし、その写真を見た担当者のマーヴィンはすぐに惹きつけられたようで、彼女は「もっと見せてほしい」と言われた。そこで彼女は、これまで撮り溜めた写真を箱に詰めて持っていったそうだ。ちなみに、その時持ち合わせがなかったのか、「運び賃としてタクシーの運転手にフェラをした」みたいな話をしていた。「私はそんな風にして美術界に潜り込んだの」と語る彼女は、まさに「アウトサイダーの極み」みたいなところから世に出てきたというわけだ。
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しかし、そんな風にして始まった展覧会は酷評だったという。そこには、今とはまるで違う時代背景も関係していた。当時はまだ、「女性は優れた芸術家にはなれない」みたいなことが平然と語られていたのである。また、男性の評論家や美術商からは、「私生活の撮影は芸術にはならない」とも言われていたそうだ。今どの程度改善されているのか知っているわけではないが、少なくとも一昔前のアートの世界はこんな有り様だったのである。
とはいえ、拒絶反応を示したくなる気持ちも分からないではない。というのもナン・ゴールディンは、「セックスの様子」も撮っていたからだ。当初は「共同生活をしている人たちのセックス」を撮っていたのだが、友人から「展示として使うのは止めてほしい」と言われてしまった。まあ、当然だろう。そのため彼女は「自分がセックスをしている様子」を写真に収めるようになったと言っていた。まさに「私生活そのもの」を撮り続けていたというわけだ。そんな彼女は当時について、「過激なものが受け入れられない時代だった」と表現していた。
また、「受け入れられなかった」という繋がりで言えば、こんな話もある。ナン・ゴールディンがそれなりにキャリアを重ねてからの出来事だ。その当時、アメリカではエイズが大問題になり始めていた。
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その頃の彼女は、薬物依存のために隔離入院させられていたのだそうだ。もちろん、友人たちもと会えなかった。しかし彼女は、「入院が終わったら、また元の場所に戻ってそれまでと変わらない生活が出来るだろう」と考えていた。まあ、これは当然の感覚だろう。
しかし残念ながらそうはならなかった。友人たちの多くが、若くしてエイズで命を落としてしまっていたのである。奔放な生活をする者が多かっただろう彼女の周りには、エイズ患者がより多くいた可能性もあるだろう。しかしこれは決して、狭い範囲の問題などではなかった。というのもアメリカの場合、日本とは保険制度が違うこともあり、「エイズだと分かっても、保険に入っていないせいで治療を受けられない」みたいな問題が多発していたのである。そのため、政治を巻き込んだ社会問題にさえ発展していたのだ。
そのような状況下でナン・ゴールディンは、「エイズ」をテーマにした展覧会を企画することにしたのである。「エイズ」をテーマにしたアート作品など、当時前例がなかったそうだ。そしてそのことも関係しているのだろう、展覧会の準備を進めていく中で、「NEA(全米芸術基金)からの助成金が撤回される」という話に発展していくのである。「アートに前例主義を持ち込んでどうするんだ」と私は感じるが、それほど社会問題化していたと捉えるべきなのだろう。
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この時は、彼女の企画そのものも問題視されたわけだが、実はそれ以上に、彼女が友人に依頼して書いてもらったパンフレットの序文の方が大騒動を引き起こしていたようだ。しかしいずれにせよ、ナン・ゴールディンが生み出すアートは論争を引き起こすことが多かったそうである。そしてそんな彼女が、今では「どの美術館も欲しがる」と言われるアーティストになっているのだから、まさに「時代が彼女に追いついた」という感じなのだろうと思う。
さて実は、本作中に「時代が追いつく」に近い表現が出てきたので、ちょっと紹介しておくことにしよう。どちらも、「こんな生き方が出来たらいいだろうな」と感じさせるものである。
まずは、ナン・ゴールディンがドラァグクイーンとの共同生活を始めた頃のことについて彼女はこんな風に話していた。
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先駆者だとか反逆者だとかいう自覚はまったくなかった。
生きるのに必死で、外の世界の反応には興味が無かったの。
もう1つは、「友人のクッキーがこんなことを言っていた」という話の中で出てきたものである。
私は奔放じゃないわ。
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「こんなこと言ってみたい」と思わせるような生き方ではないだろうか。
姉や両親との関わり
さて、本作『美と殺戮のすべて』はそんなナン・ゴールディンを取り上げる作品なのだが、意外にも、彼女の姉バーバラの話から始まる。バーバラについては冒頭で、「1歳の時点で既に文章でのコミュニケーションが取れていたが、その後1年半ものあいだ口を閉ざした」みたいに紹介されていた。ナン・ゴールディンはそんな姉ととても仲が良かったそうだ。また、姉自身は親の愛を知らずに育ったにも拘らず、妹の世話はとても上手かったとも言っていた。そして彼女は、「そんな姉のお陰で『郊外での生活の退屈さ』に気づいた」とも話す。幼い頃からナン・ゴールディンの人生にかなり強い影響を与える存在だったようだ。
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また、姉の性的指向も同様に大きく影響しただろう。姉は性に対して奔放で、さらに同性への恋心についても明かしてくれていたという。しかし、今以上に性に抑圧的な時代だったこともあり、自身のあり方に悩んでもいたそうだ。また姉は自分自身を「やせっぽっちの猛獣」と表現しており、その言葉通り、親との関係が上手くいっていなかった。両親は姉に「精神疾患」というレッテルを貼り、何度も施設に預けていたほどだ。とにかく、幼い妹の目からも、果てしない生きづらさを抱えた存在に見えていたのである。
そしてそんなことが続いたからだろう、姉は若くして命を絶ってしまった。ナン・ゴールディンが11歳の時のことである。彼女が、いわゆる「マイノリティ」と呼ばれる人たちと共に暮らし、自身もその一員として社会の”底辺”から世の中を眺め続けた背景には、この姉の存在が大きかったのではないかと思う。
そして映画の後半では、そんな姉の話が再び取り上げられている。ナン・ゴールディンは父親に頼んで、姉の診療記録を取り寄せてもらったのだ。父親は、中を読みもせずに彼女に転送してきた。そしてその診療記録には、「入院すべきは母親の方である」「バーバラはいたって普通の女の子」みたいに書かれていたそうなのだ。本作のタイトルも実は、この診療記録に書かれたフレーズから採られている。「バーバラは、この世の美と殺戮のすべてが見えている」みたいな記述があるのだそうだ。
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父と母は親に向いていなかった。
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少し本作の内容から離れるが、私もこのような感覚を抱くことがある。特に、児童虐待が報じられる時などに考えてしまう。私は昔から、「自分はまともな親にはなれないだろう」という自覚を持っていて、だから「子どもが欲しい」と思ったことは一度もない。また、同じような話を友人から聞いたこともある。その友人も、「私は子どもを産んじゃいけない人だと思う」と、「親になることの不適格さ」をはっきりと自覚していた。
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本作を観ながら、改めてそんなことを考えさせられた。
サックラー家やオキシコンチンを取り巻く様々な状況について
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そんなわけで本作は、ナン・ゴールディンの来歴を追うような内容になっているのだが、その辺りの話はこれぐらいにして、もう少し抗議活動周りの話にも触れておこうと思う。
本作『美と殺戮のすべて』は、メトロポリタン美術館の「サックラー・ウィング」と呼ばれる場所から始まる。2018年3月10日に行われた「PAIN」の抗議活動を収めた映像だ。彼女たちは、オキシコンチンの空容器を大量にばら撒き、その後床に寝そべって「死」を表現するという形で抗議の意思を示した。もちろん、他の来館者がいる開館中のデモ活動である。参加者たちは、「嘘で儲けた一族」「死の宮殿」などと叫びながら、サックラー家とその寄付を受け取っているメトロポリタン美術館の両方を批判しているというわけだ。
その後も抗議活動を続けるのだが、ナン・ゴールディンはなんと、「彼女の作品を収蔵している美術館」をメインのターゲットにしていたそうだ。相当強気の姿勢と言えるだろう。このことからも、ナン・ゴールディンがどれほどこの薬害事件に怒りを覚えているのかが伝わってくるし、さらに、「それぐらいの覚悟を示さなければ超巨大資本とは戦えない」という意思表示でもあったのだろうと感じた。
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なにせ、ネットで調べた情報なのでどこまで正確かは分からないものの、パーデュー・ファーマはオキシコンチンの販売だけで350億ドル(当時のレートで約3.4兆円)以上の売上を得たとされているのである。不正な手段で得た金だとはいえ、個人が立ち向かえるとは思えないほどの超巨大資本であることは確かだろう。彼女は、そんな無謀とも思える闘いに挑んでいたのである。
オキシコンチンは「史上最も売れた処方薬」と評されているそうだ。それもそのはず、パーデュー・ファーマは医師に直接営業をかけ、「処方量に応じてキックバックする」というやり方を取っていたのである。恐らくだが、そんなやり方は異例だったのだと思う。そして医師からすれば、処方すればするほどキックバックが戻ってくるのだから、そりゃあいくらだって出すだろう。製薬会社(パーデュー・ファーマ)が「この薬は依存性が低い」と喧伝していたのだから、なおさら抵抗もなかったはずだ。
しかし、「依存性が低い」というのは真っ赤な嘘だった。そして、まさにその依存性によって、甚大な被害がもたらされてしまったのだ。
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またナン・ゴールディン自身も、オキシコンチン中毒について語っていた。彼女は、手術後に処方されたオキシコンチンを飲んだことで、たった一晩で中毒状態になってしまったそうだ。最初は1日3錠だったが、やがて18錠にまで増えたという。そしてそれでも満足出来ずストロー(覚醒剤か何かだろう)に手を出してしまい、その中毒症状にも苦しめられたそうだ。
そんな彼女は作中で、「薬物依存に対する偏見」についても言及していた。当然ではあるのだが、アメリカでもやはり、薬物依存に対しては「失格の烙印を押される」みたいな感じがあるようだ。しかしナン・ゴールディンは、「そのように主張する人は、『薬物を断つことの難しさ』を理解していない」と語り、彼女自身はその辛さを、「耐え難い苦痛」「地獄のどん底」のように表現していた。自ら薬物を使ったのならまだしも、オキシコンチンによる中毒から薬物依存になってしまうケースもあるわけで、私も、それらが同一視されてしまうのは問題だと感じた。そんなわけで、ナン・ゴールディンは抗議活動のみならず、「『オピオイド拮抗薬』の使用方法を学ばせる」など、中毒症状に対する対処法を広める活動にも力を入れているのである。
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また、薬物依存に対しては、「すべてのクスリを止めなければ『回復』と見なされない」という偏見も存在するのだという。確かにそれは厳しすぎるし、そのような厳しい視線が薬物依存からの脱却を妨げているとも言えるのではないかと思う。そのためナン・ゴールディンらは「ハーム・リダクション」、つまり「使用量がゼロにならないとしても、健康や社会生活に大きな影響を及ぼさない状態まで減らす」ことを目指そうと呼びかけているそうである。そのような「相互理解」の観点からも様々な問題が存在しているというわけだ。
さて、「PAIN」は抗議活動と並行して、オキシコンチンを製造・販売したパーデュー・ファーマを訴えることに決めた。有志の弁護士と協働してどうにかここまで漕ぎ着けたのである。その結果として、パーデュー・ファーマは3000件近い訴訟を抱えることになったのだが、その後彼らはなんと破産の道を選択した。破産した場合に法的責任がどのような扱いになるのか分からないが、恐らく「訴訟に対応するより破産した方がメリットが大きい」という判断からそのような決断に至ったのだろう。
しかも、破産申請する前にサックラー家が会社の資産を引き出していたことも後に明らかになった。その額なんと100億ドル以上。何をどうしたらそんなことが可能になるのかよく分からないが、とにかく、「訴訟回避のために破産を選び、しかし破産の前に資金だけは引き上げていた」というわけだ。勝手な想像でしかないが、国と結託しているとしか考えられない。本当に、そんなふざけた状況が許されていいはずがないと思う。
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それでも「PAIN」の面々は奮闘し、最終的に60億ドル以上の和解金を勝ち取ることができた。経営者が持ち出したお金の半分以上を手にしたのだから、金額だけで判断するなら上出来と言えるだろうか。しかし、最終的な結論はやはり納得行かないものとなってしまった。司法の判断により、パーデュー・ファーマは刑事司法で有罪が確定したのだが、恐らく顧問弁護士などが手を尽くしたのだろう、創業家であるサックラー家はお咎め無しとなったのである。そんなことでいいはずがないだろう。
問題は今も継続中だ。オキシコンチンの販売自体は既に停止された(しかしそれでも2020年1月のことである。1996年から実に15年近くも販売され続けたというわけだ)。しかし、服用してすぐに死をもたらすような薬ではないからだろう、オキシコンチンによる死者数は今も増え続けている。作中では、2022年3月末までの1年間で10万9000人が命を落とし、年間死亡者数としては過去最大となったというデータが表示された。オキシコンチンによるこれまでの被害は1兆ドルを超えているという試算もある。2024年に閣議決定された日本の予算案が112兆円だそうなので、1年間の国家予算を上回る被害額というわけだ。信じがたい数字だろう。
そんなあまりに凄まじい現実に、圧倒されてしまった。
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監督:ローラ・ポイトラス, 出演:ナン・ゴールディン
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最後に
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なんて面白いんだろうか。哲学・科学を初心者にも分かりやすく伝える飲茶氏による『正義の教室』は、哲学書でありながら、3人の女子高生が登場する小説でもある。「直観主義」「功利主義」「自由主義」という「正義論」の主張を、「高校の問題について議論する生徒会の話し合い」から学ぶ
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徳間書店から成り行きでジブリ入りすることになったプロデューサー・鈴木敏夫が、宮崎駿・高畑勲という2人の天才と共に作り上げたジブリ作品とその背景を語り尽くす『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』。日本のアニメ界のトップランナーたちの軌跡の奇跡を知る
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戦争写真として最も有名なロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」には、「本当に銃撃された瞬間を撮影したものか?」という真贋問題が長く議論されてきた。『キャパの十字架』は、そんな有名な謎に沢木耕太郎が挑み、予想だにしなかった結論を導き出すノンフィクション。「思いがけない解釈」に驚かされるだろう
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「オウム真理教は特別だ、という理由で作られた”例外”が、いつの間にか社会の”前提”になっている」これが、森達也『A3』の主張の要点だ。異常な状態で続けられた麻原彰晃の裁判を傍聴したことをきっかけに、社会の”異様な”変質の正体を理解する。
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三権分立の一翼を担う裁判所のことを、私たちはよく知らない。元エリート裁判官・瀬木比呂志と事件記者・清水潔の対談本『裁判所の正体』をベースに、「裁判所による統制」と「権力との癒着」について書く。「中世レベル」とさえ言われる日本の司法制度の現実は、「裁判になんか関わることない」という人も無視できないはずだ
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