目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:奥崎謙三, 監督:原一男
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
この記事の3つの要点
- 奥崎謙三のことは好きになれないし、絶対に関わりたくないが、嫌いにもなりきれない不思議さがある
- 「行動」そのものはムチャクチャだが、シンプルに「行動原理」や「価値観」だけを取り出せば納得感はある
- 原一男監督によるトークショーによって、映画の印象が大きく変わった
ちょっと信じがたいラストも含め、あらゆる意味で「衝撃的」だった、ドキュメンタリー映画の名作
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記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
奥崎謙三という元兵士を描き出す異端のドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』の衝撃
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『ゆきゆきて、神軍』というドキュメンタリー映画の存在は知っていた。「名作ドキュメンタリー映画」のようなランキングでは必ず名前が挙がる作品だし、私も名前だけは度々目にしていたのだ。しかし、基本的に「映画館で上映している映画」しか観ないと決めている私にはなかなか観る機会のない映画でもあった。
しかし映画館で上映されると知り、これは観るしかないと思ったのだ。
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とにかく凄い映画だった。正直、映画のタイトルを知っていた程度で、どんな映画なのかも、奥崎謙三の名前さえも知らなかったので、冒頭からずっと圧倒されっぱなしだったと言っていい。とんでもなくヤバい人がいて、そんな人がカメラの前でとんでもなくヤバいことをしている。「そんなものを映像に収めてもいいのだろうか」というビクビクした気持ちを勝手に抱きながら鑑賞したという感じだ。
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映画が終わった後に行われた、原一男監督のトークショーも非常に面白かった。しかも、映画を観ているだけでは絶対に分からない点についても触れており、映画を観終わった時の印象と、トークショーを聞き終わった時の印象が大分違う。その点も非常に興味深かった。
そこでこの記事では、まず「映画を観た直後の感想」について触れ、その後、トークショーを聞いた上でその感想がどう変化したのかを書いていこうと思う。
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内容紹介(というか、奥崎謙三の紹介)
まず、映画で焦点が当てられる奥崎謙三という人物について触れておこう。『ゆきゆきて、神軍』は、彼に密着する「情熱大陸」のような映画だと表現すると分かりやすい。
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戦時中、彼は36連隊の兵士として激戦地ニューギニアに送られた。しかし、本人曰く「兵士の中で誰よりも上官を殴った」そうで、そのため日本へ帰還させられ、結果として戦死を免れる。
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終戦後は、神戸市でバッテリー商を始めた。しかしその一方で、1人でアナーキストとしての活動もスタートさせる。彼は「たったひとりの神軍平等兵」を名乗り、天皇の戦争責任を追及したり、車に「田中角栄を殺す」とはっきり記して自説を主張するなど、かなり過激な活動家として日々を過ごしているのだ。
刑務所にも幾度も収監されている。昭和31年に不動産業者の傷害致死罪で懲役10年、昭和44年に天皇に対してパチンコ玉を発射した罪で懲役1年6ヶ月、昭和51年にビルの屋上から「天皇ポルノビラ」を撒いた罪で懲役1年2ヶ月と、かなり長期に渡り刑務所暮らしを経験した。
そんな人物なのだ。
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カメラは、奥崎謙三に密着する。彼の行動は、ムチャクチャだ。撮られていることなどお構いなしに相手を殴る。自分で喧嘩を仕掛け、何故か自分で警察を呼び、自らの正当性を主張する。議論となれば、ハチャメチャとしか思えない理屈を駆使してでも、相手を屈服させるまで絶対に引かない。「人生の当たり屋」みたいな感じの人物だと言っていいだろう。
『ゆきゆきて、神軍』は、我々には”非日常”にしか感じられないそんな奥崎謙三の”日常”を追い続け、「衝撃のラスト」に至るまでの”虚実入り混じった人間像”を描き出す作品だ。
奥崎謙三のことは「嫌い」だが、「嫌いにはなりきれない」という不思議さがある
ここではまず、映画を観終えた時点での感想について触れよう。
まずはっきり言えるのは、奥崎謙三のことが「嫌い」だということだ。こんな人物とは、それがどんな理由であれ関わりたくないし、人間性を許容できない。壮絶にめんどくさい人物だ。
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しかし同時に、「嫌いにはなりきれない」という感覚にもなる。私がそう感じる最大の理由は、奥崎謙三が常に「誰かのため」に行動しているように思えるからだろう。「彼の行動そのものには一切共感できないが、彼の行動原理には共感の余地がある」と判断しているのである。
映画の中でかなりのボリュームで描かれるのが、「終戦後の36連隊兵士処刑事件」だ。奥崎謙三の主張をまとめると以下のようになる。
8月15日に終戦を迎えたという事実を、ニューギニアにいた兵士たちも8月15日の時点で知った。しかし終戦から23日後、既に9月を迎えていた段階で、36連隊の兵士が中隊長に射殺されたという疑惑が存在する。
奥崎謙三は遺族と共に、かつての仲間や上官の元を訪ね歩く。そして、「それは実際に起こった出来事なのか?」「実際に起こったとするなら、指揮命令系統はどうなっていたのか?」「その場には誰がいて、引き金を実際に引いたのは誰なのか?」などについて問いただし、議論しようとするのだ。その過程で相手と揉め、乱闘のような状態になることもある。とにかく、「どんな手段を使ってでも相手の口を割ってやろう」という意気込みが強い。
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彼のやり方はムチャクチャだ。そもそもアポ無しで押しかける。相手の主張に納得がいかないと、手術を終えた病人にも殴りかかる。理由はよく分からなかったが、途中から遺族が同行しなくなり、代わりに自分の妻を遺族と偽って連れ回す。
はっきり言って最悪だ。ただし、それらの行動はすべて、「自分の納得のためではなく、誰かのためを思ってやっている」のであり、その感覚だけは否定しきれないとも感じる。
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さらに、公式HPを読んで衝撃を受けた。「36連隊の兵士を訪ね歩く」というこの映画を支配する行動について、監督がこんな風に書いているのだ。
だが、奥崎さんは、戦場で起きた事件なんかに興味はなかったのだ。「戦後36年経った今、戦争時の話を映画にしても誰も興味を持ってくれませんよ」と言っていた。(中略)「元兵士たちを訪ねてみてください。間違いなく、何かがありますから」と説得する私に、ほとんど関心ないが、そこまで原さんがおっしゃるなら、いいですよ、と渋々OKしてくれたのだ。
『ゆきゆきて、神軍』公式HP
なんと、元々「処刑事件」には興味がなかったというのだ。実際には、元兵士を尋ね歩くことに次第にのめり込み、突っ走っていくことになるわけだが、当初の動機は奥崎謙三自身にはなかったというのである。これもまた「誰かのため」という捉え方でいいだろう。
「自分自身の動機ではない事柄」に対して、あれだけ情熱的に突き進めるというのは、ある意味で人間として凄いことなのではないかと感じるし、その点はプラスに感じた。
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また、映画の随所で彼が語る主張には、純粋にその主張だけを取り出してみればかなり納得できてしまう部分もある。
例えば彼は、
人間が作った法ではなく、神が作った法に反しない者が勇敢だ
「ゆきゆきて、神軍」(監督:原一男、主演:奥崎謙三)
みたいなことを様々な場面で口にする。この発言についてさらに詳しい説明がなされるわけではないし、どのみち奥崎謙三はどんな法に照らそうが「誤り」と判断される行為を行っているので擁護はできないのだが、主張そのものはその通りだと感じさせられた。
要するにこれは、「人定法より自然法を優先しろ」という話だろうし、私自身もそう思っている。私は別に特定の宗教を信仰しているわけではないが、しかし、人間よりも上位の「何らかの意味で『神』的な存在」がいて、それが定めた(と人間が想像し得る)ルールにはやはり優先的に従うべきだ、という感覚がある。日本語には、「お天道様が見ている」なんて言葉があるが、まさにそういう感じで、その主張そのものには納得感がある。
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あるいは、元兵士に対してこのようなことを口にしている場面も印象的だった。
あなたは、他の人が経験しなかったような酷い経験をした。もしあなたと同じ経験をしている人がいるなら、あなたのところへは来ない。別の人のところに行けばいい。ただ、それはあなたしか経験しなかったのだし、それをあなたがきちんと口に出すことで、戦争がいかに愚かなものであるのかが伝わる。二度とあんな戦争を起こさせないために、あなたは話すべきです。
「ゆきゆきて、神軍」(監督:原一男、主演:奥崎謙三)
場面ごとに言い方は変わるが、趣旨としてはこのような内容で相手に迫っていく。もちろんこれも、「相手の口を割らせるための方便」なのかもしれない。奥崎謙三という人物は、本当に何を考えているのか分からないので、口にしている言葉が本心なのかどうか、まったく想像もつかないのだ。しかし本心かどうかは一旦置いておいて、主張内容だけをシンプルに捉えると、確かにその通りだと感じられてしまう。
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他にも、警察官が彼の行動を制止しようとした際に、
お前たちは人間の顔をしていない。命令か法律に従うだけだからだ。
「ゆきゆきて、神軍」(監督:原一男、主演:奥崎謙三)
みたいな暴言を口にする場面もあった。そもそも彼は、「自宅の屋上に独居房を作ろうと決め、実寸を測るために神戸拘置所に侵入しようとする」という、まったく意味不明な行動を起こそうとして警察官に制止される。その行動自体はまったく理解できないが、「命令か法律に従うだけだからだ」という彼の公権力批判みたいな主張は的を射ていると感じるし、確かになと思わされてしまう。
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こんな風に、「行動」ベースで考えると拒絶反応が非常に強い人物なのだが、「行動原理」や「主張」を捉えると決してその限りではないという感覚になる。「絶対に関わりたくはない」という気持ちは揺るがないが、「嫌いにはなりきれない」という感覚がどうしても付きまとう、変な魅力を持つ人物なのだ。
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監督よりも「編集マン」が強かった
それではここから、トークショーで監督が語っていた話に触れていくことにしよう。
まず監督は、「この映画を見ても、奥崎謙三についてはよく分からないはずだ」と言っていた。そしてその理由の1つについて、「編集マンの意向が強い編集になっているから」と語るのである。
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意味がよく分からないだろう。私も、監督がこの話をし始めた当初は、何を言っているのか理解できなかった。映画というのは「監督のもの」であり、基本的には「監督の意向」が最優先されるはずだと私は思っている。恐らく、大体の映画ではそうなのだろう。しかし『ゆきゆきて、神軍』は違ったのだという。
何故なら、編集を担当した鍋島淳という人物が、ドキュメンタリーの世界で非常に有名な人物だったからだ。『ゆきゆきて、神軍』を制作している時点での監督のキャリアと較べて、鍋島淳の存在感は圧倒的だったという。少なくとも、監督自身がそう語っていた。だから、監督がどれほど強い口調で指示をしても、鍋島淳はその指示を完全に無視し、自分が繋ぎたいように映像を繋いでいったそうだ。
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この話だけでも相当な衝撃ではないだろうか。そしてこのような事情があったことで、「撮影しながら感じていた『奥崎謙三』像」と「完成した映画を観て感じた『奥崎謙三』像」がまったく違ったのだそうだ。そのことに誰よりも原一男監督自身がもの凄く驚かされたという。
では、鍋島淳はどのような価値観を元に編集を行ったのか。監督はそれを、「日共(日本共産党)的世界観」と呼んでいた。平たく説明すると、「素朴な民主主義」という感じになるそうだ。
鍋島淳は奥崎謙三を、「天皇制にたった1人で立ち向かっている人」だと捉えたという。原理的な話でいえば、「民主主義」と「天皇制」は相容れない。そして奥崎謙三は、その現実と戦う闘志だというのが鍋島淳の捉え方であり、そのような価値観に沿って映画は編集されているそうだ。私が「奥崎謙三を嫌いにはなりきれない」と感じた理由も、この編集マンの意向が強く影響していると言えるかもしれない。
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監督自身が、「『映画の奥崎謙三』と『実際の奥崎謙三』の印象が全然違う」と言っているのだから、この映画を観て「奥崎謙三」という人物を判断するのは明確に誤りなのだろう。それがどんなメディアであれ、長いとは言えない限られた時間で1人の人間について余すところなく伝えることは不可能なのだし、どうしたって誤解や不一致を生じさせる可能性はある。しかしこの映画の場合はそういうレベルの話ではない。そもそも完成時点で監督が違和感を覚えているというのだから、観客に正しい捉え方が出来るはずもないだろう
監督は、『ドキュメント ゆきゆきて、神軍[増補版]』の中で、自分が感じた「奥崎謙三」の実像について触れた、と語っていた。私は読んでいないが、そちらも併せて読んでみると面白いだろう。
著:原一男, 著:疾走プロダクション
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奥崎謙三の「暴力」に対する考え方
さてそんな監督が、鍋島淳との議論の末に、鍋島淳の意向に反して勝ち取ったシーンがある。それが映画のかなりラスト近く、病院前で「暴力」について語る場面だ。トークショーを聞く前から、このシーンは非常に印象的だと感じていた。
奥崎謙三はこんな風に話す。
良い結果をもたらす暴力であれば、私はこれからも躊躇なくやる。
「ゆきゆきて、神軍」(監督:原一男、主演:奥崎謙三)
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そして鍋島淳は、このシーンを映画に組み込むことに猛反対したそうだ。
確かに、鍋島淳の価値観からすれば当然だろう。暴力を肯定する発言は、「素朴な民主主義」には向かないからだ。そもそも、その発言を入れようが入れまいが、奥崎謙三が「暴力的な人物」だという印象に変わりはないのだが、はっきり口にするかどうかでさらにイメージが変わりもするだろう。監督自身も、この場面を入れない方が全体の構成がスッキリするだろう、と認めていた。
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さて、私は私でこの場面を印象的だと感じたわけだが、その理由は、「奥崎謙三にとって暴力は『手段』なのだな」と感じた点にある。
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冒頭からずっと、「奥崎謙三は、頭に血が上り、カッとなって相手に手を出してしまうタイプだ」という印象を持っていた。シンプルに、「短絡的な人間」だと判断していたのだ。しかし「暴力」について語るこの場面のお陰で、彼が計算で暴力を行使していると、少なくとも彼自身がそう認識しているということが理解できた。
この捉え方については監督自身も、「奥崎謙三は、今ここで暴力を行使することで、どのような効果が得られるのか間違いなく計算していた」と補強する。私の捉え方はかなり正確だったと言っていいだろう。
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監督は「スッキリさせたくなかった」と考えてこのシーンを入れたと言っていたが、私としてはこのシーンがあったお陰で、「奥崎謙三」という人間の捉え方が少しスッキリした感じもあった。そういう意味でも私にとっては必要な場面だったなと思う。
トークショーは20分間と短い時間だったが、「監督が捉えた『奥崎謙三』像」が非常に複雑だということがよく伝わった。編集マンの意向が強かったという点も合わせ、「映画を観て素直に感じた印象を手放さなければ、奥崎謙三という人間を正しく捉えきれないのかもしれない」とも感じる。トークショーと併せて、「異様な多面性を持つ奥崎謙三」の複雑さに驚かされるばかりだった。
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出演:奥崎謙三, 監督:原一男
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この映画に関する事前知識をほぼ持っていなかったので、映画のラストには度肝を抜かれた。こんなドキュメンタリー映画、今じゃなかなか撮れないだろう。この衝撃のラストに関する裏話もトークショーで語っており、「奥崎謙三が生きている世界」の凄まじさを改めて実感させられた。
奥崎謙三という人間があまりにトリッキーなので、映画の他の点が霞んでしまう。しかし忘れてはならないことは、「何もかもすべて『戦争』が悪い」ということだ。そう主張することで奥崎謙三を擁護する意図はまったくないのだが、「大前提として戦争が悪い」と考えておかなければ、映画で描かれる物事を捉え間違ってしまうかもしれない。
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そんな印象もまた、鍋島淳の編集によるものなのだろうか。「ドキュメンタリー映画」の捉え方が変わるような話も含め、非常に印象的な映画だった。
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