【あらすじ】映画『非常宣言』(ソン・ガンホ主演)は、冒頭から絶望的な「不可能状況」が現出する凄まじい作品

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

出演:ソン・ガンホ, 出演:イ・ビョンホン, 出演:チョン・ドヨン, 出演:キム・ナムギル, 出演:イム・シワン, 出演:キム・ソジン, 出演:パク・ヘジュン, Writer:ハン・ジェリム, 監督:ハン・ジェリム
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます

今どこで観れるのか?

この記事の3つの要点

  • 「空飛ぶ密室」でバイオテロを起こされたら、打つ手などあるはずがない
  • バイオテロに冒された機体を世界各国の空港が拒絶する現実
  • この極限状況下だったからこそわだかまりが解消したと言える、ある2人の凄まじい関係性

あらゆる想像を寄せ付けない「常軌を逸した状況下」で下されるある決断に、号泣させられました

自己紹介記事

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冒頭から「絶体絶命」が確定した超絶的な状況の中で、あらゆる可能性を追究し続ける人々の不屈の姿が描かれる映画『非常宣言』

久々にとんでもない映画を観た。これはえげつない。「残虐なシーンがある」みたいな意味では決してなく、とにかく、「凄い」なんて言葉ではとても言い表せないぐらいの作品だった。また、「泣けたから良い映画だ」などと言うつもりはまったくないのだが、これほど号泣させられた映画も久々である。

映画を観ながらずっと、「よくもまあこんな設定の物語を描こうなんて考えたものだ」と感じていた。とにかく、冒頭の冒頭から、「もうこれ無理じゃん」と思わせるような超極限状況なのだ。普通に考えれば、打つ手なしである。冒頭からそんな梟小路に追い込んでいいのだろうかと感じたが、リアリティを逸脱しない範囲内で見事に物語を着地させている。なんとも凄い作品だ。

まずは内容紹介

物語は、空港を起点にスタートする。ある便に搭乗予定の何人かの乗客たちの、搭乗前の様子を追っていくのだ。

ある人物はカウンターの女性に、「乗客が多い便はどれだ?」と質問する。違和感しかない質問にスタッフは名言を避けた。チェックインカウンターには、アトピーを患う少女を連れた男性が並んでいる。少女は父親から離れ1人でトイレに行った際、不可解な行動を取る人物を目撃してしまった。ある女性は、免税店で夫と電話中だ。元々一緒に旅行に出かける予定だったが、刑事である夫は仕事のため行けず、妻だけが搭乗することになったのである。

その後、彼らが乗ったスカイコリア501便は離陸した。そして、男が1人トイレへと向かう。彼は、自身の脇に埋め込んでいたものを取り出すと、それを喘息用の吸引器にセットし、トイレ内に散布した

男が散布したもの、それはウイルスだ。彼は自作したウイルスを機内に持ち込み、バイオテロを実行したのである。

その前日のこと。男はインターネット上に、犯行を予告する動画をアップしていた。妻を見送って出勤した刑事は、「ネットでテロ予告しているのが、近所に住むおじさんだ」と通報があったと報告を受ける。通報は、小学生からのものだそうだ。どうせイタズラだよ。周囲のそんな声を無視して、刑事は小学生に会いに行く。

そのようにして事態は動き出す。なんと、機内でバイオテロが起こったことが発覚する前の時点で、「リュ・ジンソクという男がウイルスを自宅で培養していたこと」、「彼が既に飛行機に乗って飛び立ったこと」が明らかになったのだ。最悪なことに、リュ・ジンソクが乗っているまさにその飛行機に、刑事の妻も搭乗しているのである。刑事の脳裏に、ビデオテープの映像が蘇った。リュ・ジンソクが培養しただろうウイルスに感染したマウスが、血を吐きながら死んでいく動画である。

一刻も早く手を打たなければ。

その頃機内では、乗客の男性が突然出血して倒れ、そのまま死亡するという事態が発生し……。

「機内でのバイオテロ」という想像を絶する状況

先述の内容紹介を読んでもらえれば、登場人物たちが直面した状況がどれだけ「絶体絶命」なのか理解してもらえるとは思うが、もう少し丁寧に説明をしておこう。

そもそもだが、「飛行機の中でバイオテロを起こされたら打つ手がない」という状況がまず絶望的だ。飛行機というのは「空飛ぶ密室」であり、機内で起こっている出来事について外部から物理的に介入することは不可能である。しかし、仮に何らかの方法で外部から介入する方法があったとしても状況は改善しない。何故なら機内で蔓延しているのは「個人が作ったウイルス」だからだ。撒かれたウイルスはそもそも、「潜伏期間が短く、致死率が異常に高いこと」も問題なのだが、何よりもネックになったのは「ウイルスそのものの性質が正確に分からない以上、ワクチンや治療薬などを用意することが出来ない」という点である。既存のウイルスを使用しているのであれば、まだ対処のしようがあるかもしれない。しかし今回は、「個人が作った、現物が手元に存在しないウイルス」に対処しなければならないのだ。

そんなことはまず不可能だろう。つまり『非常宣言』という映画は、「冒頭始まってすぐの段階で、『もはやどうにもならないことが確定している』と言っていい物語」なのだ。「打つ手はあるが、ハードルが高い」ではなく、「そもそも打つ手が思い浮かばない」と思わせるような作りの物語など、そうそうないだろう。

私も、「機内でバイオテロが起こった」後については、物語が一体どう展開していくのかまったく想像できなかった。皆さんは、何か思いつくだろうか? 映画の中では、国土交通大臣も参加する緊急の対策会議が開かれるのだが、当然まともな対応策を講じられる者などいない。だからこそこの映画においては、「妻が機内にいることを知った刑事」の存在が重要になるわけだが、しかしいくら「妻を助ける」という明確な目的があったところで、普通に考えたらどうにもならない。しかし、それをなんとかしてしまうところにこの物語の凄まじさと面白さがあるというわけだ。

最初の時点からある程度の想像はつくものの、物語を追っていくにつれ、やはり「飛行機」であることの困難さが一層浮き彫りになっていく

日本人であれば、コロナウイルスが話題になってすぐ世界的なニュースとなった、豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス号」が思い出されるかもしれない。ちょうど日本に寄港するタイミングだったのだと思うが、そこで船内でのウイルス感染が発覚し、大きな問題となった。

しかし「飛行機」と比べるなら、「船」の方がまだマシだと言えるだろう。ダイヤモンド・プリンセス号にしても、燃料の補給程度のことは出来たはずだし、仮に船内から操縦出来る者が全員いなくなったとしても沈没するようなことはないだろう。しかし「飛行機」はそうはいかない。空中での給油はほぼ不可能だろうし、機長ら操縦士に何か問題が起これば機体は墜落してしまう。また、飛行中は外から何かを持ち込むことなど不可能なのだから、機内にあるものでどうにか対応するしかないのである。

さらに、問題はそれだけではない。そして次で触れるその問題こそが、この映画最大の焦点として扱われるのである。

「着陸」を巡る問題と、聞き馴染みのない「非常宣言」について

「船」の場合は海上に留まることが可能だし、また、港は大体において「陸地の端っこ」にあるだろうから、被害は広範囲には及びにくいと考えて良いだろう。しかし「飛行機」の場合はそうはいかない。空港は多くの場合内陸にあるし、人口密集地との交通アクセスも悪くないはずなので、例えば「バイオテロが発生した飛行機が爆発する」みたいな事態が起こった場合の被害は甚大なものになる可能性がある。

船なら最悪、海上に停泊し続けられるが、飛行機は物理的に飛び続けられはしない。どうしたって、どこかで必ず「着陸」しなければならないのだ。

そしてこの点こそが最大の問題となる。

スカイコリア501便の本来の目的地はホノルルだった。つまり、アメリカである。バイオテロの一報を受けてから、韓国政府はアメリカと着陸を巡る交渉を続けるが、なかなか上手くいかない。無理もないだろう。ダイヤモンド・プリンセス号の時も同じだった。「なんだか分からないウイルス」を受け入れて、何かあったら困る。だからアメリカは受け入れに難色を示すし、それは他の国も変わらない。どの国も、スカイコリア501便を受け入れたくないのだ

地上で奮闘する刑事の物語はまた別で展開されるのだが、バイオテロが発生した飛行機の物語はこの点、つまり「着陸」に焦点が当てられる。なるべく具体的にならないように書くが、とにかく「着陸」を巡るドラマが凄まじかった。非現実的とさえ感じる描写も確かにあったが、しかし、「未知のウイルスに冒された他国籍の飛行機」が存在したら、やはりこのような対応になってしまうのかもしれないとも思う。

この「着陸」を巡る物語には、本当に多くの人たちの「壮絶過ぎる決断」が関わっており、最終的には「まさか」と感じるような展開になる。しかし、「確かに冷静に考えると、それしかないか」とも思わされるのだ。あまりにも凄まじい決断に、私は久しぶりに大号泣させられてしまった

この映画を観て初めて知ったのだが、本作のタイトルになっている「非常宣言」は、実在する航空用語なのだそうだ。冒頭でその説明が字幕で表示されたのだが、公式HPにも同じ文章が載っていたので引用しておこう。

飛行機が危機に直面し、通常の飛行が困難になったとき、パイロットが不時着を要請すること。“これ”が布告された航空機には優先権が与えられ他のどの航空機より先に着陸でき、いかなる命令を排除できるため、航空運行における戒厳令の布告に値する。

この説明を理解しておくことはとても重要だ。その理由は、「観れば分かる」とだけ書いておこう。『非常宣言』なんてタイトルの映画なのだから、当然「非常宣言」は布告される。先程の引用を踏まえれば、「非常宣言」を布告した時点で物語は終わるはずだ。しかし、そうはならないからこそ、この映画は凄まじいのである。

「人間ドラマ」もまた素晴らしい

さて、ここまでは「設定のえげつなさ」や「ストーリーの興味深さ」について触れてきたが、この映画はそれだけの作品ではない。描かれる「人間ドラマ」もまた極上なのである。

映画を観ていれば分かる通り、メインとなる人間関係はいくつか存在するし、また主人公クラスではない者たちの些細なやり取りもとても良い。ただ、やはり私は、ある2人の男性の関係にグッときた。これについても具体的に触れない方がいいと思うのでボカすが、「『ある出来事について何千回も考えた』というほどの悔恨を抱える男」と、「『あれは正しい決断だった』と理解していながらも感情を抑えられずにいる男」の2人である。この極限状況下でなければ解けなかっただろう複雑な絡まりを前にして、2人の男がお互いをさらけ出すようにして奮闘していく様は素晴らしかった。

また、これもボカして書くが、「確かに緊急事態だとはいえ、まさかそんな自分の命を賭けるようなことしちゃうわけ?」みたいな行動を取る人物も凄かった。自分が同じ状況にいたとして、同じような選択が出来るかと言われると自信はない。皆本当に、「普通に生きていたら直面することなどまずない状況」に対峙させられたのだ。その中でどう振る舞うべきかについては、全登場人物に突きつけられていた問いでもあったし、その中で、結果から見れば「最も勇敢な行動を取った」と言っていいだろう。

この映画においては「機内のパニックを描くこと」には重点が置かれないので、「機内でバイオテロが起こった」という設定を聞いて容易に頭に浮かぶだろう「パニックムービー」的な展開にはならない。他にきちんと描くべき物語の軸がいくつもあるので、そういう演出をする必要がないのだ。ただし要所要所で、「極限状況に陥った人々の葛藤や苦悩」をシンプルに描き出しているのはとても上手いと思う。

特に上手いと感じたのが、「ステレオタイプ的な分かりやすいおじさん」を配置したこと。そのおじさんを中心に機内の人間関係を描くことによって、人間の理性や醜悪さをピンポイントで描き出す構成は、見事だったと思う。

そんなわけで、細部の細部までとてもよく考えられた、実に見事な物語だと感じたのだが、だからこそ「これぐらいのことはもうちょっとちゃんとやってくれよ」と感じてしまうシーンもあった。理由は詳しく触れないが、作中には「日本語のセリフ」が出てくるシーンがある。そしてそのシーンで話される日本語が明らかに下手なのだ。どう考えても「日本語ネイティブではない人物が発している」としか受け取れないものだった。せめて日本で公開するバージョンくらい、日本語部分だけでもちゃんと整えてくれたらいいのにと思う。あらゆる点で見事な作品だっただけに、この「日本語のセリフ」があまりにも欠陥として目立ってしまっていた点がとても残念だった。

出演:ソン・ガンホ, 出演:イ・ビョンホン, 出演:チョン・ドヨン, 出演:キム・ナムギル, 出演:イム・シワン, 出演:キム・ソジン, 出演:パク・ヘジュン, Writer:ハン・ジェリム, 監督:ハン・ジェリム
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最後に

物語をひたすら面白く展開させるためにありとあらゆる要素を詰め込んだ結果、「そんな偶然起こらないだろ」と感じてしまいかねない設定・状況が描かれるのだが、しかし、そんなことはまったく気にならないぐらいとにかく物語が面白い。ホントに、冒頭の冒頭からアクセル全開、そのままラストまでジェットコースターのように突き進んでいく、とんでもない映画だった。

また、単に「面白かった」と受け取るだけでもいいのだが、この物語はリアルにも起こり得ることを理解しておく必要があるだろう。日本は「地下鉄サリン事件」が起こった国だ。「この映画みたいなことは起こらない」なんて言えるはずがない。映画を観る限り、ウイルスの培養はともかく、犯行を行う者が死を覚悟しているのなら、同種の事件はいつでも誰でも起こせてしまうように思う。

この映画を観たからといって、バイオテロの際に対抗できるようになるわけではないが、それでも、「こんな現実が起こる可能性も決してゼロではない」という覚悟を持っておくことは決して損にはならないだろう。そういう意味でも役立つ作品だと言えるかもしれない。

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