目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:メル・ギブソン, 出演:ショーン・ペン, 出演:ナタリー・ドーマー, 出演:エディ・マーサン, 出演:ジェニファー・イーリー, 出演:スティーヴ・クーガン, Writer:P.B.シェムラン, Writer:トッド・コマーニキ, 監督:P.B.シェムラン
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- すべての「偉人」は偉業を成し遂げる前は「狂人」だったはずだ
- オックスフォード大学は、辞書編纂に「敗北」していた
- 「辞書編纂」は決して、この物語の「核」ではない
あり得ないような人間ドラマが、「辞書」という地味な存在の陰に潜んでいたことに驚かされる
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
映画『博士と狂人』が示すように、「狂人」こそが新たな歴史を生み出せるのだ
この映画に登場する、2人の「狂人」
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この映画は、実話を元に作られている。
そう知ると、誰もが驚愕するだろう。
世界最高峰の辞書の誕生に、「殺人犯」が”刑務所”から関わっていた、と知ったら。
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この映画に登場する「狂人」は、2人いる。1人は、今挙げた「殺人犯」だ。元エリートだが、精神的な疾患のせいもあって殺人を犯してしまい、”刑務所”に収容中の人物である。
そしてもう1人が、「学士号を持たない独学者」だ。大学で学ぶのではなく、まったくの独学で様々な言語を身に着け、言語学者になった男である。
さて、「殺人犯」も「学士号を持たない独学者」も、ともに「狂人」と呼んでいいだろう。そしてこの2人が”出会った”時、世界が大きく動き出すことになる。
この映画の面白さは、この「狂人」2人のやり取りが物語の核なわけでは決してない、という点にあるのだが、とりあえずもう少し「狂人」の話を続けよう。
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2人の「狂人」は何を成し遂げたのか?
当時、オックスフォード大学は「白旗」を揚げていた。何に対してか。「辞書編纂」に対してだ。常に変化する言葉を追いかけ編纂する作業に、「絶望的な敗北」を喫しているという状態であった。
これは、よりざっくばらんに言えばこういうことだ。オックスフォード大学という組織全体で立ち向かっても、英語の辞書の編纂というのは不可能な挑戦だったのだ、と。
そこに現れたのが、2人の「狂人」だ。彼らが、オックスフォード大学が諦めた「辞書編纂」を成し遂げたのである。
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もちろん、この2人以外にも数多くの人間の協力があってのことだ。しかし、この2人が出会うことがなければ、まず実現しなかっただろう。
そして、私が何よりも凄まじいと感じるのは、「大組織が諦めたことを、個人が成し遂げてしまった」という点だ。「独学者」はオックスフォード大学に所属する形で取り組むのだが、組織力を動員できる立場ではなく、映画で観る限りはこじんまりしたチームで挑んでいる。
もちろん、そこには様々な事情があるだろう。映画ではそこまで詳しく描かれないが、組織ゆえのまとまりのなさが実現を阻んでいた可能性もあると思う。しかしだからといって、個人の力で容易にひっくり返せるような話でもないだろう。
それでも、情熱とアイデアと狂気によって成し遂げてしまうのである。
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人間の想像力は無限大
人類の歴史は、「不可能を可能にする挑戦」の歴史であったとも言えるだろう。
万里の長城やピラミッド、月着陸を実現したアポロ計画、エベレストや北極点への初到達、人類初の飛行など、今では「当たり前」あるいは「当たり前のように思える」ことは、当時は「狂気」と捉えられていたはずだ。当然、「できるはずがない」「不可能だ」という声が無限に存在していただろうと思う。
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しかし、そんな声に耳を貸さず、自分の信念を貫き、あり得ない偉業を成し遂げた者たちが、人類の歴史を作ってきた。成功することで「偉人」と呼ばれるようになるが、そうなる以前の彼らは全員「狂人」でしかなかったはずだ。
そしてますます、「狂人」しか「偉人」になれない時代になっている、と私は感じる。どんな時代にも、「人跡未踏の地」「誰も思いつかなかった発想」というのは存在するものだが、それにしても人類は、もの凄いスピードで様々なことを成し遂げたきたはずだ。残っている領域というのは、それこそ「そんなことをやろうと考えるなんて信じられない」と思われるような、ぶっ飛んだものしかないだろう。
そういうところに敢えて足を踏み入れ、長い時間をかけて挑戦し続ける人物でなければ、もはや「偉業」と呼ばれるような成果を残すことが難しくなっている、と感じる。
だからこそ、何かに挑む者は「狂人」でなければならないと、この映画を観て改めて実感させられた。
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そして世の中のこの変化は、逆に言えば、「普通に馴染めない人には楽園だ」と捉えられる余地があるとも言えるだろう。
常識から外れた生き方を認めてほしいのです。
自分らしく生きることを罰しないでほしいのです。
意識して「狂気」に飛び込む者ももちろんいるだろうが、それが当たり前だと思ってやっていることが「狂気」と捉えられてしまう人もいる。そういう人はどうしても生きづらさを抱えることになってしまうが、「狂気」しか「偉業」を成し遂げられないと意識できれば、また違った生き方を志向することが可能にもなるだろう。
この映画は、「狂気」と共にしか生きられない者と、その人物を許すべきか否かで葛藤させられる者との、苦しみの物語でもあるのだ。
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映画『博士と狂人』の内容紹介
スコットランド生まれの言語学者・マレーは、仕立て屋の息子という恵まれているとは言えない生まれのため、14歳で学校を辞めざるを得なくなったが、独学で世界中の言語を学び精通するまでになった。そして彼は今、オックスフォード大学の教授陣の前で熱弁を振るっている。
当時オックスフォード大学は、辞書編纂など不可能と諦め顔だった。あらゆる英語の、これまでの意味の変遷をすべて追いかけながら定義するなど、土台無理な話だと悟ったのだ。しかし辞書編纂を使命と考える同大学は、何か次なる一手を考える必要があり、そこでマレーに託すことに決めたのだ。
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マレーには、勝算があった。世界中の英語を話す者に、辞書に載せて欲しい単語と、その単語が載っている本の引用を送ってほしい、と呼びかけたのだ。
こうして世界中の”ボランティア”の手を借りればなんとかなる、と意気込んでいたのだが、「A」から始まる単語の収集・整理・意味の変化の追跡だけでも膨大な作業量で、先の見えない状況に結局頭を抱えることになった。
さて一方、元軍医であるアメリカ人のマイナーは、刑事犯精神病院に収容されている。彼は、ある男が自分を襲撃に来るという妄想に囚われていた。そして通りがかった人を襲撃者だと勘違いし射殺してしまったのだ。
当初は他の患者と同等の扱いだったのだが、病院内で事故が起こったことで状況が変わった。病院スタッフが重傷を負ったのだが、マイナーの適切な処置により一命を取り留めたのだ。それ以降マイナーは、「仲間を救った恩人」として特別な待遇を受けることとなる。
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そんなマイナーはある日、病院スタッフからクリスマスプレゼントをもらった。プレゼントは本であり、そしてその中に、辞書編纂のために単語を収集しているから協力してほしい、という案内が挟み込まれているのを見つけたのだ。そのメッセージに感化されたマイナーは、病室内に様々な本を取り寄せ、膨大な本の中から適切な単語と引用例を抜き出すという作業に没頭し始めるようになる。
作業が停滞していたマレーの辞書編纂室は、マイナーからの膨大な単語リストが届くと活気を取り戻した。マイナーのリストは、まさに辞書編纂室が求めていた、足りない欠損を補うものだったのだ。ついにマレーは、マイナーの協力によって、「A」と「B」から始まる単語の編纂を終え、出版にこぎつけた。
文通を続け友人となった2人であるが、やがて「オックスフォード大学の辞書に殺人犯が関わっていること」が明るみに出てしまい、マレーは窮地に追い込まれることになる……。
編纂開始から70年を経てようやく完成した、183万の引用例と、41万4000語を収録した、オックスフォード英語辞典の初版12巻。その裏に隠された、悲惨で愛に満ちた物語。
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映画『博士と狂人』の感想
さて、ここまでの文章を読んで、どんな物語だと思っただろうか? 辞書編纂のドキュメンタリー的な作品だとイメージした方が多いのではないかと思う。
私はこの映画を観て泣いた。そしてそれは、「辞書編纂」ではない部分でだ。まさか泣くような映画だと思っていなかったので驚かされた。
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この映画で最も重要なキーパーソンとなるのが、マイナーに夫を殺された未亡人・イライザだ。彼女の存在のお陰で、ともすれば無味乾燥に思われがちな「辞書編纂」の物語が、感涙の映画に仕上がっている。
イライザがどのように物語に絡んでくるのか、ここでは詳しく触れないことにするが、イライザの存在が、間接的にではあるが辞書編纂にも強く影響を与えていくことになる。「赦し難い人間とどう関わるか」という難しいテーマを織り交ぜながら、ドキュメンタリーの部分とヒューマンドラマの部分を上手く融合させているのである。
またこの映画では、「膨大な単語リストを送ってくるのが殺人犯である」という事実にどう対峙するかも問われていく。これについては、我々も真剣に考えなければならないだろう。
日本でも世界でも、「過去の過ち」によって永遠に責め続けられるという状況は起こる。もちろん、絶対に許されない過ちもあるだろうし、過ちに対して加害者がどのように向き合ってきたかも関係するので一概には結論を出せない話だ。
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しかし何にせよ私は、「どんな過ちを犯した者にも、やり直す機会が与えられるべきだ」と考えている。たとえ許されないような過ちを犯したとしても、その人物が再び社会復帰できるような道筋は、たとえそれが細く厳しいものだとしても、視界に入る範囲に存在すべきだと思う。
確かにマイナーは殺人犯である。しかし同時に彼は、世界初の辞書編纂には無くてはならない人物である。つまり、他の誰にも再現不可能な驚異的な才能がある、ということだ。才能があれば過去の罪は水に流すべきだ、などと言いたいのではない。そうではなく、現在を評価しながら過去の過ちも捉える人間であるべきではないか、と提起したいのだ。
誰もが、一人で生きているわけではない。誰もが、誰かに支えられているし誰かを支えている。だから、過去の過ちだけで誰かを判断すべきではない。改めてそう実感させられる映画だった。
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出演:メル・ギブソン, 出演:ショーン・ペン, 出演:ナタリー・ドーマー, 出演:エディ・マーサン, 出演:ジェニファー・イーリー, 出演:スティーヴ・クーガン, 監督:P.B.シェムラン, Writer:P.B.シェムラン, Writer:トッド・コマーニキ
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予告や内容紹介からでは、「辞書編纂」や「殺人犯が関わっている」という部分しか伝わりにくいかもしれない。実は「人間」の複雑さ・業・やるせなさみたいなものを深く抉り出す作品であり、「辞書編纂」に興味がない人間でも楽しめる作品と私は思う。
そして、彼らの凄まじい奮闘から、「狂気こそが偉業へと繋がっていくのだ」と改めて実感してほしい。
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徳間書店から成り行きでジブリ入りすることになったプロデューサー・鈴木敏夫が、宮崎駿・高畑勲という2人の天才と共に作り上げたジブリ作品とその背景を語り尽くす『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』。日本のアニメ界のトップランナーたちの軌跡の奇跡を知る
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学校の勉強では常に「課題」が与えられていたが、「学び」というのは本来的に「問題を見つけること」にこそ価値がある。研究者の日常を描く小説『喜嶋先生の静かな世界』から、「学びの本質」と、我々はどんな風に生きていくべきかについて考える
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「北九州連続監禁殺人事件」という、マスコミも報道規制するほどの残虐事件。その「主犯の息子」として生きざるを得なかった男の壮絶な人生。「ザ・ノンフィクション」のプロデューサーが『人殺しの息子と呼ばれて』で改めて取り上げた「真摯な男」の生き様と覚悟
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戦争写真として最も有名なロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」には、「本当に銃撃された瞬間を撮影したものか?」という真贋問題が長く議論されてきた。『キャパの十字架』は、そんな有名な謎に沢木耕太郎が挑み、予想だにしなかった結論を導き出すノンフィクション。「思いがけない解釈」に驚かされるだろう
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「世界中に存在する電波望遠鏡を同期させてブラックホールを撮影する」という壮大なEHTプロジェクトの裏側を記した『アインシュタインの影』から、ブラックホール撮影の困難さや、「ノーベル賞」が絡む巨大プロジェクトにおける泥臭い人間ドラマを知る
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一躍その名が知れ渡ることになった「チバニアン」だが、なぜ話題になり、どう重要なのかを知っている人は多くないだろう。「チバニアン」の申請に深く関わった著者の『地磁気逆転と「チバニアン」』から、地球で起こった過去の不可思議な現象の正体を理解する
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「フェルマーの最終定理」は、問題の提示から350年以上経ってようやく証明された超難問であり、その証明の過程では様々な人間ドラマが知られている。『哲学的な何か、あと数学とか』をベースに、数学的な記述を一切せず、ドラマティックなエピソードだけに触れる
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私には、「謝罪すること」が「誠実」だという感覚がない。むしろ映画『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』では、「謝罪しない誠実さ」が描かれる。被害者側と加害者側の対話から、「謝罪」「贖罪」の意味と、信じているものを諦めさせることの難しさについて書く
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歴史・文明・人類【本・映画の感想】 | ルシルナ
現在、そして未来の社会について考える場合に、人類のこれまでの歴史を無視することは難しいでしょう。知的好奇心としても、人類がいかに誕生し、祖先がどのような文明を作…
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