目次
はじめに
この記事で伝えたいこと
人間関係の難しさの要因の一つは、関係性に名前がついてしまうからではないか?
私は、名前がつかない関係をいつも目指していますし、多少は実現できている、かな。
この記事の3つの要点
- 「多数派」の理屈なんかに飲み込まれる必要はない
- お互いを「必要」としても「依存」しない関係性
- 誰かを想う強い気持ちは、その人の人生を一変させうる
とても”歪”だけどとても”美しい”二人の関係性が、私はとても羨ましいです
この記事で取り上げる本
「君の膵臓をたべたい」(住野よる/双葉社)
自己紹介記事
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これは私が普段感じている感覚とまったく同じだと思いました
特に日本はそういう国民性のようですが、「みんながしてるからそうする」という感覚がとても強いと感じます。この性質が良い風に働く場面もあります。コロナウイルスのパンデミック下において、みんなが当たり前のようにマスクをしたり、家から出ずに自粛したりといった行動を取ったことは、国民性がプラスに働いた好例だと感じます。
しかし当然、逆のパターンもあり得るでしょう。それこそ、「三十人も集まれば人も平気で殺してしまう」なんてことは起こりえます。
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かといっていじめを止めようとすると自分が被害者になっちゃうってこともあるから難しいんだけれど
「みんながしてるから」という無言の圧力が強いために、みんなと違う振る舞いをする人間はすぐにはみ出してしまいます。これは、みんなの当たり前になかなか馴染めない人間にとってかなり辛い状況です。しかし実は、多数派に自然と馴染める人間であっても状況はさほど変わらなかったりするのです。
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「君だけが私と”日常”をやってくれる」
この作品における人間関係の根幹となる文章を引用したいと思います。
君は、きっとただ一人、私に真実と日常を与えてくれる人なんじゃないかな。お医者さんは、真実しか与えてくれない。家族は、私の発言一つ一つに過剰反応して、日常を取り繕うのに必死になってる。友達もきっと、知ったらそうなると思う。君だけは真実を知りながら、私と日常をやってくれるから、私は君と遊ぶのが楽しいよ
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この発言をするのは、高校生にして余命幾ばくもない女の子です。治らない病気にかかり、生きられるのはあと僅か。この女の子は、クラスの人気者で友達も多く、誰とでも別け隔てなく関わる優等生です。そしてそんな女の子が、クラスの中で存在感を消している、誰とも関わりを持とうとしない主人公と、とあるきっかけで関わりを持つことから物語が始まります。
もうすぐ死んでしまうという女の子が目の前にいる場合、どういう振る舞いが「多数派」だと言えるでしょうか。恐らく彼女が予想する通り、「日常を取り繕う」ような感じになってしまうでしょう。女の子は、そうなることを嫌がります。だから、周囲には自分の余命があと僅かであることを告げません。
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しかし主人公は、そんな事実を知ってしまったにも拘わらず、女の子に対してこれといった興味も持たなければ、取り繕うような振る舞いもしません。それは、主人公の生来の性質です。基本的に、それが誰であっても他人には無関心で、本ばかり読んでいます。他人と関わることに価値を見い出せず、自ら望んで他人を遠ざけているような、そんな人物です。
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しかしこの二人が、実は完璧な関係性なのです。
ホントに、お互いにとってお互いが存在してくれて良かった、って思う
最初はともかく、最終的にはホントに、どちらにとっても無くてはならない存在、って感じになるもんね
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名前がつかない関係性
主人公と女の子の関係性には、これといった名前がつきません。「家族」では当然ありませんし、「恋人」とも違います。ただの「クラスメート」というには関係が深いし、「友達」や「親友」という表現では零れ落ちてしまうものが多い気がします。
そして私は、この「名前がつかない関係性」こそ、人間関係の究極のあり方だと考えています。
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友達でも恋人でも家族でもない感じで関われる相手って貴重だなって思う
だから私は、この主人公と女の子の関係が、とても羨ましいと感じます。「多数派」の理屈では、彼らの関係性を理解することはできないでしょう。お前らどういう関係なわけ? と、何かの枠組みに押し込めようとする圧力さえ出てくるはずです。
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でも、はっきり言ってそんなことはどうでもいい。女の子にとって主人公は、他のどんな人にも不可能な「”日常”を与えてくれる」という稀有な存在なわけです。一方、主人公にとっても、女の子の存在は非常に重要なものとなります。
主人公にとっての重要さは、物語の後半まで進まないと理解できない部分があるのでここでは触れません。何にせよ主人公にとっても、女の子と普通ではない形で関わることができたことは、人生にとってかけがえのない時間となったのです。
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「必要」とするけれど「依存」はしない
二人の関係が、名前がつかない完璧なものであり続けたのには、お互いに「依存」しなかったからだと感じます。
お互いがお互いの存在を「必要」とするけれども、「依存」まではしません。もちろん、若さ故の衝動や、不安故の躊躇など、「依存」してしまうギリギリまで踏み込む場面もあります。そのことが物語の良い起伏になっているのですが、彼らは基本的には、「依存」すべきではないというスタンスで関わるのです。
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そういう風に関わることができたのはやはり、女の子がそう遠くないうちに死んでしまうという特殊さ故だと思います。「今この瞬間」にお互いを「必要」とすることはできても、「この先までずっと」お互いに「依存」することは、最初から彼らには許されていなかったのです。
そういう意味で、普通には成立し得ない「奇跡的な関係」だと感じました
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恐らくですが、彼らのどちらかが、あるいは両方ともが、相手に対して強く寄りかかってしまうようであれば、その瞬間に彼らの関係性は、「友達」や「恋人」など、既存の名前のつくものに取り込まれてしまうだろうと思います。
多くの人は、関係の不安定さに耐えられなくて、名前のつく関係になろうとするのでしょう。しかし彼らは、「女の子が死んでしまう」という絶対的な条件の中で、その不安定さに耐えるしかなかったのです。
そんな関係性を、私はとても”歪”で、そして”美しい”と感じました。
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自分が主人公だったらどうだっただろう?
読みながら、自分が主人公と同じ立場にいたらどうだっただろう? と考えてしまいました。
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私もこの主人公と同じように、「必要」としながらも「依存」しない、名前のつかない関係にはなれそうだな、と感じました。「もうすぐ死んじゃう女の子」と、”日常を過ごす”ことはきっとできるだろうな、と。
しかし関わる中で、女の子を失ってしまうことへの恐怖がどんどんと募っていくだろう、とも感じました。名前のつかない関係を理想だと感じているからこそ、そういう関わり方ができる相手を失ってしまうことの怖さに、果たして自分が耐えられるのだろうか、と。
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いずれ失われることが分かっているものって、あんまり得意じゃないんだよなぁ
だから、女の子の隣にいるのが主人公で良かった、と強く感じました。私じゃなくて良かった。たぶん私が与えられるのは、”ニセモノの日常”でしかないと思います。主人公の方が、より強く人生に絶望していて、より深く人生を諦めているからこそ、「相手に依存しない強度」を私なんかよりもずっと強く持っているのでしょう。
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そして、そう感じさせる主人公だからこそ、最後の最後の場面が強く響きます。
女の子にとって主人公がかけがえのない存在だったように、主人公にとっても女の子がかけがえのない存在であったということを、否応なしに理解させられる瞬間。そして、そうまでして女の子が何を伝えたかったのかを理解した瞬間。その時の主人公の、「慟哭」と呼んでいいほどの強い感情には打たれました。
そしてその後の変化を見て、主人公の傍にいてくれたのが女の子で良かったと、強く感じもしたのでした。
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本の内容紹介
ここで改めて本の内容を紹介します(実写映画は、小説と若干違う設定になっています)。
著:住野よる
¥690 (2021/05/25 06:33時点 | Amazon調べ)
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出演:浜辺美波, 出演:北村匠海, 出演:大友花恋, 出演:矢本悠馬, 出演:桜田通, 出演:森下大地, 出演:上地雄輔, 出演:北川景子, 出演:小栗旬, 監督:月川翔, Writer:吉田智子
¥2,500 (2021/05/25 06:34時点 | Amazon調べ)
ポチップ
出演:高杉真宙, 出演:Lynn, 出演:藤井ゆきよ, 出演:内田雄馬, 出演:福島潤, 出演:田中敦子, 出演:三木眞一郎, 出演:和久井映見, 監督:牛嶋新一郎, Writer:牛嶋新一郎, プロデュース:三田圭志
¥495 (2021/05/25 06:37時点 | Amazon調べ)
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高校生の主人公は、他人と関わらずに生きている。教室の隅で本ばかり読み、生身の人間と関わりを持たず、当然友人もいない。そして別に、その状態になんの不満もない。そんな人間だ。
ある日彼は、クラスメートの秘密を知ってしまう。いつも明るく元気で誰とでも仲が良いクラスの人気者・山内桜良は、肝臓の病気でそう遠くない未来に死んでしまうというのだ。しかしそれを知ったところで、主人公の世界には関係がない。元々関わりのなかった人物なのだし、その秘密を知ったところで、誰かに言いふらすつもりもない。
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しかしそれから、主人公の予想を覆す展開が待っていた。桜良はなぜか、主人公と積極的に関わりを持つようになったのだ。まったく意味が分からなかったが、強引な桜良に連れ出されるようにして主人公は、これまで経験したことがないような日々を過ごすことになる。桜良は、主人公と同じ図書委員になって放課後を共に過ごし、休日にも連れ出し、さらには二人きりで旅行にも行く。
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本の感想
もの凄く好きな作品です。主人公と桜良は、現実には存在しなそうなリアリティの薄いキャラクターではあるのですが、そういう人物像だからこそ描ける特別な人間関係がこの物語の中にはあります。そして私にとっては、その歪で美しい関係性こそが、この物語を読む価値だと感じられました。
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特に、桜良が何を考えていたのか明かされる場面は、涙なしでは読めません。
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その関係性は、やっぱり「完全」で、素晴らしいなと感じてしまいます。
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¥2,500 (2022/02/03 23:25時点 | Amazon調べ)
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最後に
主人公や桜良と同じ状況になることはなかなかないでしょうし、この物語は「死」が強く意識されることによって奇跡的に成立しているので、二人と同じような形では、誰かが誰かのことを強く想う気持ちが正しく相手に届く機会は多くはないかもしれません。
しかしそれでも、彼らの物語は、こういう美しい関係性がありうるのだという希望を感じさせてくれるのではないかと私は思います。
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ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまうリアルを映し出す
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「どこにでもいる普通の女性」が「横領」に手を染める映画『紙の月』は、「日常の積み重ねが非日常に接続している」ことを否応なしに実感させる。「主人公の女性は自分とは違う」と考えたい観客の「祈り」は通じない。「梅澤梨花の物語」は「私たちの物語」でもあるのだ
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日本政府の方針に逆らってまでユダヤ人のためにビザを発給し続けた外交官を描く映画『杉原千畝』。日本を良くしたいと考えてモスクワを夢見た青年は、何故キャリアを捨てる覚悟で「命のビザ」を発給したのか。困難な状況を前に、いかに決断するかを考えさせられる
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厳しい受験戦争、壮絶な格差社会、残忍ないじめ……中国の社会問題をこれでもかと詰め込み、重苦しさもありながら「ボーイ・ミーツ・ガール」の爽やかさも融合されている映画『少年の君』。辛い境遇の中で、「すべてが最悪な選択肢」と向き合う少年少女の姿に心打たれる
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実際に起こった衝撃的な事件に着想を得て作られた映画『ルーム』は、フィクションだが、観客に「あなたも同じ状況にいるのではないか?」と突きつける力強さを持っている。「普通」「当たり前」という感覚に囚われて苦しむすべての人に、「何に気づけばいいか」を気づかせてくれる作品
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「死は特別なもの」と捉えてしまうが故に「日常感」が失われ、普段の生活から「排除」されているように感じてしまうのは私だけではないはずだ。『湯を沸かすほどの熱い愛』は、「死を日常に組み込む」ことを当たり前に許容する「家族」が、「家族」の枠組みを問い直す映画である
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【考察】生きづらい性格は変わらないから仮面を被るしかないし、仮面を被るとリア充だと思われる:『勝…
「リア充感」が滲み出ているのに「生きづらさ」を感じてしまう人に、私はこれまでたくさん会ってきた。見た目では「生きづらさ」は伝わらない。24年間「リアル彼氏」なし、「脳内彼氏」との妄想の中に生き続ける主人公を描く映画『勝手にふるえてろ』から「こじらせ」を知る
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【博覧強記】「紙の本はなくなる」説に「文化は忘却されるからこそ価値がある」と反論する世界的文学者…
世界的文学者であり、「紙の本」を偏愛するウンベルト・エーコが語る、「忘却という機能があるから書物に価値がある」という主張は実にスリリングだ。『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』での対談から、「忘却しない電子データ」のデメリットと「本」の可能性を知る
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「元々持ってた価値観とは違う考えに触れ、それを理解したいと思う場面」でしか「考える」という行為は発動しないと著者は言う。つまり我々は普段、まったく考えていないのだ。『14歳からの哲学』をベースに、「考えること」と自由・孤独・人生との関係を知る
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村上春樹の短編小説を原作にした映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)は、村上春樹の小説の雰囲気に似た「自然な不自然さ」を醸し出す。「不自然」でしかない世界をいかにして「自然」に見せているのか、そして「自然な不自然さ」は作品全体にどんな影響を与えているのか
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「障害者だから◯◯だ」という決まりきった捉え方をどうしてもしてしまいがちですが、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の主人公・鹿野靖明の生き様を知れば、少しは考え方が変わるかもしれません。筋ジストロフィーのまま病院・家族から離れて“自活”する決断をした驚異の人生
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ルシルナ
孤独・寂しい・友達【本・映画の感想】 | ルシルナ
孤独と向き合うのは難しいものです。友達がいないから学校に行きたくない、社会人になって出会いがない、世の中的に他人と会いにくい。そんな風に居場所がないと思わされて…
ルシルナ
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