目次
はじめに
この記事で取り上げる映画

「窓辺にて」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報を御覧ください
この記事で伝えたいこと
妻の不倫を知った市川茂巳が抱く感覚を、私は凄く理解できてしまいました
劇中で様々な登場人物が市川茂巳の葛藤を非難するので、世間的にはまったく共感されないことも理解しています
この記事の3つの要点
- 私は「人間としての感情の乏しさ」に怖くなったことがあるし、だからこそ市川茂巳の感覚が理解できる
- 「普通側の人たち」による、「理解できないものは拒絶する」というスタンスが私はとても嫌い
- 「誰かの役に立ちたい」というスタンスが、市川茂巳の人生と映画『窓辺にて』の物語を駆動させる
スローテンポで展開される会話がとにかく見事で、140分という長尺の物語をまったく飽きずに観れました
自己紹介記事
ルシルナ
はじめまして | ルシルナ
ブログ「ルシルナ」の犀川後藤の自己紹介記事です。ここでは、「これまでのこと」「本のこと」「映画のこと」に分けて書いています。
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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それがどんな葛藤なのかについてはすぐ後で触れますが、そのことを知った周囲のほぼ全員が「あり得ない」という反応を示していたのが印象的でした。とにかく、「市川茂巳の葛藤は、世間一般にはまったく共感されない」ということが、劇中のあらゆる場面で示されるというわけです。まあ別に、そのことに対して驚きはありません。きっとそうなんだろうなと私も思っているからです。
ただ、私はもの凄く共感してしまいました。「うわぁ、まったく同じかもしれない」と思ったくらいです。恐らくですが、この映画をそんな視点で観る人はほぼいないでしょう。私はちゃんと、自分の感覚が世間から外れていることを理解しています。
その上で私はこの記事で、「市川茂巳にどんな風に共感したのか」について書いていくつもりです。
私のように感じる人は、多くはいないだろうけど、まったくいないってこともないと思うんだよなぁ
実際にそういう人に出会ったことはほとんどないけどね
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さて、先程少し書きましたが、この記事では「市川茂巳がどんな葛藤を抱えているのか」について触れます。私の中には、本や映画の感想を書く際の「ネタバレ基準」があり、それを踏まえた場合、「市川茂巳の葛藤」について触れることは、私の中で「ネタバレ」です。普段なら書きません。ただこの記事では、まさにその「市川茂巳の葛藤」に言及したいので、普段の「ネタバレ基準」は無視して、作品のネタバレになるような部分に触れながら記事を書いていくつもりです。映画の内容を知りたくないという方は、以下の文章を読まない方がいいと思います。
まずは内容紹介
フリーライターである市川茂巳は、文芸編集者である妻から、発表が間近に迫ったとある文学賞をどの作家が受賞するだろうかと聞かれた。ノミネート作には、妻が編集を担当しているベストセラー作家・荒川円の作品も入っている。
受賞したのは荒川円ではなく、女子高生作家・久保留亜。市川茂巳はライターとして彼女の受賞会見の取材に赴いた。久保留亜は、恐らく受賞作を碌に読んでもいないのだろう記者たちの的外れな質問にウンザリする。だから市川茂巳の、作品の要所を的確に押さえた質問に興味を惹かれた。会見後、控室に彼を呼び、フルーツを食べながら他愛もない話をする。
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そうやって知り合った2人は、久保留亜から誘う形でちょくちょく会うようになった。ある時市川茂巳が、受賞作『ラ・フランス』に登場する、「何でも手に入れられるのに、それをあっさりと手放してしまう人物」にモデルがいるのか聞いてみたところ、「会いたい?」と聞かれる。そんな風にして市川茂巳は、久保留亜が小説のモデルにしたという幾人かの人物に会いに行くことになった。
市川茂巳の妻は、担当作家である荒川円と不倫している。荒川円は本気なのだが、彼女は夫と別れるつもりがない。彼女は、夫にはこの不倫はバレていないと考えているが、実のところ市川茂巳は妻の不倫を知っている。知っていて、何もしていない。
何故か。それは、「妻の不倫を知ってもショックを受けなかった」からだ。
市川茂巳が誰にも話せず抱え続けていた葛藤にメチャクチャ共感できてしまう
先程触れた通り、市川茂巳が抱えている葛藤は、「妻が不倫していることを知ったのに、ショックを受けなかったこと」です。そして、その事実を知った登場人物のほとんどが「あり得ない」と口にします。まあ、そうなのでしょう。「好きな相手が不倫していると知ればショックを受けるはずだし、ショックを受けないとすれば、それは相手のことが好きではないからだ」というのがその理由のようです。
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私は、「そんなことないんだけどなぁ」と感じてしまいます。基本的に市川茂巳とまったく同じ感覚なのですが、だからといって相手のことが「好きではない」なんてことはないと自分では思っているのです。
まあ、理解してもらえなくても仕方ないかなとは思ってるんだけど
私には、付き合っている相手の浮気が発覚したなんて経験は別にないのですが、もしそういう状況になったとしても、市川茂巳と同じように、その事実に対してショックを受けないように思います。20代の頃には既に、自分の中のそういう感覚に気づいていました。
相手の浮気を知ってもショックを受けない理由を言語化してみましょう。私にとっては何よりも、「私と一緒にいる時の振る舞い」が大事です。そして、相手が誰であっても、「自分と一緒にいない時間まで拘束する権利なんかない」と考えてしまうのです。私と一緒じゃない時は、その人が一番良いと思う時間の使い方をしてほしいと本当に思っています。たとえそれが、「別の恋愛対象と会う」みたいなことでも、まあ良いんじゃないかという気がしてしまうのです。
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もちろん、私と一緒にいる時間に「浮気相手」との関わるが発生するのは違うなと思います。例えば、私と一緒にいる時間に浮気相手と会うための服を買うとか、電話をするとか、そういうのはさすがに嫌です。ただ、それを「嫌」だと感じるのは、「浮気相手と関わっているから」ではなく、「私との時間が損なわれているから」だと私は思っています。だから、私と一緒の時間がちゃんと楽しく過ごせていて、さらに、お互いが十分だと感じられるくらいきちんと会う機会を持てていれば、残りの時間は好きに過ごしてくれたらいいと感じてしまうのです。
なんなら、浮気相手との話を聞いたりしたいって思ったりもするんだよなぁ
なかなかそういう話って普段聞けないから、興味あるよね
私のこの感覚は、基本的には理解されないものだと分かっているので、普段人に話すことはありません。ただ、話の流れでそういう話題になった時に、ふと口に出してみることもあります。そういう場合にはやはり、「相手のことがそこまで好きじゃないんじゃないの?」という反応になることが多いです。市川茂巳もやはり、そんな風に言われていました。
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私には、その感覚がイマイチ理解できません。それはつまり、「独占欲こそが愛である」という主張なのでしょうが、本当に「愛」の形にはそれしかないんでしょうか? 私は、恋愛に限らずどんな人間関係に対しても、「相手が無理することなく自分と接してくれること」が何よりも大事だと思っています。私の存在が、相手の何かを変えることを、私は好みません。つまり、「私がいるかどうかに関係なく、自然体でいてほしい」と思っているのです。
また私は、「凄く好きな人が同時に複数人存在すること」は別に自然なことなんじゃないかと考えています。むしろ、「自分が好きだと感じる人を、1人に絞らなければならない」という状況の方が不自然に感じられるのです。「相手には自然体でいてほしい」と思っているのだから、「私以外の人のことも自然と好きになった」のであれば、それを止める理由はありません。これが私の基本的なスタンスです。
これがそこまで変な感覚なのか、私には未だによく分かんないんだよなぁ
「独占欲こそ愛」ってのは、なんとなく思考停止っていうか、信仰みたいな感じがあって、あんまり好きになれないよね
そんなわけで、私は私なりの理屈で「相手のことを好きだと感じている」のですが、その「好き」が世間と異なるせいで理解されないのです。
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市川茂巳もこんな風に口にしていました。
「好き」って気持ちが、他の人と同じような形では自分の中にはないのかもしれない。
これは、映画の中で一番共感させられたセリフです。同じように、次のセリフにも共感してしまいました。
自分の感情の乏しさに怖くなることがある。
凄く分かるなぁ、と思います。
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恋愛の話とはまた違うのですが、私も自身の「感情の乏しさ」を強く実感させられることがありました。祖父母など、身近な人間が死んだ時、「悲しい」という感情を抱けなかったのです。私はこれまで、誰かが死んで「悲しい」と感じたことが一度もありません。「悲しい」という感情自体は私の中にあるのですが、誰かの死によってはそれが喚起されないのです。
このことに気付かされた時は、ちょっと自分に恐ろしさを感じたよね
今では「そういう人間なんだ」って諦めてるけど、最初は「人間としてヤバいんじゃないか」って怖くなった
たぶん私は、普通の人とは「感情スイッチの入り方」が違うのだと思います。そういう人間として生まれてしまったのだから、仕方ありません。そんな風に考えることにして、とりあえずなんとか生きています。
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普通側に立つ者たちによる「理解を拒むスタンス」が凄まじい
そんなわけで私は、市川茂巳の感覚に物凄く共感できてしまうのですが、だからこそ、彼の葛藤に「NO」を突きつける「普通側の人たち」の言動に驚かされる場面が多くありました。
一番印象的だったのは、市川茂巳が友人の有坂に相談をする場面です。有坂は引退を考え始めたプロスポーツ選手で、恐らく市川茂巳の古くからの友人だろうと思われます。引退の相談を、妻よりもまず市川茂巳にするほど関係は深いです。しかしそんな有坂にも、しばらくの間、自身の葛藤について相談しませんでした。また、市川茂巳は恐らく、久保留亜に対して「話が通じる相手」という感覚を抱いているはずですが、そんな彼女に対しても相談しないのです。ある場面で彼ははっきりと、「誰にも相談できない悩みがある」と口にしていました。彼も、こんな感覚は当然誰にも理解されないだろうし、だったら相談しても仕方ないと考えていたのだと思います。
私も、そんな風に思って、悩んでることとか考えてることを人に話さないみたいなこと、結構あるからなぁ
だからこそ、そういう話をしても大丈夫だし、話もちゃんと通じるって感じられる存在は貴重だよね
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しかし、市川茂巳はある場面で、ふと自身の葛藤について口にしてみます。恐らく、相手が「もう2度と会わなそうな人」だったからでしょう。確かに、関わりの薄い人の方が気兼ねなく話せるなんてこともあります。その際彼は、「誰にも相談できない」みたいな話もするのですが、すると相手から、「他人を見下しているから相談出来ないんだ」と指摘されてしまいました。本人としてはそんな自覚はまったくなかったはずですが、同時にどきりとしただろうとも思います。そして、「自分は他人を見下したりなんかしていない」と証明するために、これまで相談できずにいた有坂に対して話をしてみようと決めるのです。
市川茂巳は有坂宅まで出向き、有坂の妻を交えて自身の葛藤について語ります。その際の有坂夫妻の反応が、とても印象的でした。有坂の方は、やはり友人だからでしょう、「お前が何を言っているのか分からない」と困惑しながらも、理解しようという気持ちを見せます。しかし有坂の妻は、すごい剣幕で「そんなのあり得ない」と口にし、市川茂巳に帰るように促すのです。
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彼女の強い反応については、その背景にあるのだろう理由が後々描かれるので、その点も踏まえればまったく理解できないわけではありません。ただやはり、かなり印象的な場面だったことは確かです。
「市川茂巳に共感できないと感じる人」が、有坂の妻の反応をどう捉えるのか私にはなかなか想像出来ないのですが、「彼女がああいう反応をしても仕方ないぐらいのことを市川茂巳は言っている」と感じる人もきっといるでしょう。私にはとても受け入れがたい場面でしたが、これが世間の素直な反応なのかもしれないとは思っています。
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ただやはり私には、「理解できないものを”拒絶する”」という感覚が未だによく分かりません。「私はあなたの言っていることが理解できない」と表明することは別にいいのですが、「分からないから、あなたを拒絶する」という言動がイマイチ理解できないのです。「理解できないもの」に対しては、「無視・放置」といった対応もあると思うのですが、何故か「拒否・拒絶」という反応になることが多い印象があります。なぜ無視することができず、拒絶することになってしまうのでしょうか? 私は、そういう人が、とても嫌いです。
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「理解」については、市川茂巳もこんな発言をしていました。
理解って怖いから。
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どんな状況でこの発言が出てきたのか、説明したいと思います。
先述した通り、市川茂巳はかつて小説を書いていました。売れない小説家というわけではなく、実力を認められた作家だったのです。しかし彼は、『STANDARDS』という作品を最後に、以降まったく小説を書かなくなります。そのことに触れた久保留亜からの、「『もう書かない』って言った時、編集者とかになんて言われたんですか?」という質問に、市川茂巳は「もったいないって言われたよ」と返しました。さらに久保留亜が「凄い不理解ですね」と口にするのですが、それに対して市川茂巳が「それに救われもしたんだよ。理解って怖いから」と返したのです。
これもメチャクチャ分かるなぁって感じのセリフだった
「理解されたい」って気持ちと「理解されたくない」っていう気持ちは、共存し得るんだよね
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市川茂巳がどういう意味で「理解って怖い」と口にしたのかは分かりません。ただ私も、「理解されることへの嫌悪感」みたいなものを抱くことがよくあります。恐らくそれとかなり近い感覚ではないかと思うので、私自身の話を書くことにしましょう。
私は基本的に、会話の中で出てくる「分かるー」という反応があまり好きではありません。もちろん、例外はあります。「この人には話が通じる」と感じる相手からそう言われるのはむしろ嬉しいですし、あるいは、会話を円滑にする「相槌」としての機能しか持たないような「分かるー」も別に嫌ではありません。
私が嫌いなのは、「私が言ったことを絶対に理解なんかしてないだろう」と感じる相手からの「分かるー」です。これは本当に好きになれません。「いや、あなたは分かっていないと思いますよ」と、つい口にしたくなってしまうのです。まあ、そんなことを言ってみたところでどうにもならないで、そういう言葉は飲み込むのですが、心の中ではかなりイライラしています。
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私は、「まったく理解していないのに理解したつもりになっている」より、「何を言っているのか全然理解していない」方がマシだと感じてしまいます。そういう意味で言えば、有坂夫妻の反応はまだマシだったと言ってもいいかもしれません。
市川茂巳が生きていく上で指針にしている「誰かのためになりたい」という感覚
ここまで見てきたように、市川茂巳は基本的に「誰にも理解されないだろう」という気持ちでいます。では、彼は一体どんな指針で人生を歩んできたのでしょうか。
それを示唆するのが、
自分の存在が誰かの役に立ってるのかな。
という感覚にあると私は感じました。それがすべてだとは言いませんが、彼の様々な決断の背景には、このようなスタンスがあるのだろうと思います。
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先のセリフは、妻との会話の中で出てきました。というか、先にそう口にしたのは妻の方です。彼女は仕事のことで悩みを抱えていました。荒川円に、「書きたいと思う小説を好きに書いてほしい」という気持ちを持っているのです。しかし、出版社の社員であるため、彼女はどうしても売上や話題性などを気にしなければなりません。そして、彼女のそういう気持ちを汲み取って、「書きたい小説」ではなく「書きたくはないけど売れる小説」を書いているのではないか、つまり、彼女の存在が荒川円にそうさせているのではないかと考えているのです。
彼女はこんな風に、自身の存在理由について思い悩んでいます。そしてそんな彼女が、「私、誰かの役に立っているのかな」と口にするのです。
同じことばっかり言ってるけど、この感覚も凄く分かるなぁって思った
結局は「承認欲求」ってことなのかもしれないけど、やっぱり「誰かの役に立てている」って実感できると嬉しいよね
その言葉を受けて、市川茂巳も「同じ感覚を持っている」と示唆するわけですが、私の感触では、妻以上に市川茂巳の方が「誰かの役に立っているのか」という感覚を強く持っているのではないかと感じました。というのも、この場面よりもずっと前のことですが、妻の浮気を知った上で、「そんな彼女に、自分がしてあげられることはなんだろうか?」と考えるシーンが描かれるからです。この感覚も、一般的には意味不明でしょう。映画に登場するある若者の言葉を借りれば、「SFとしか言いようがない」かもしれません。
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また、映画『窓辺にて』の物語全体が、「市川茂巳が『誰かのために何かしよう』と考える」ことで展開されていくと言えるだろうとも思います。基本的に市川茂巳には主体性と呼べるものがほとんどありません。彼が自らの意思で行動を起こしたのは、妻の浮気とそれに付随する自身の感覚について有坂夫妻に相談したことぐらいでしょう。それ以外の場面では、彼自身には行動の動機はなく、常に「誰かの意思」に沿うような形で物語が展開していきます。映画全体が、市川茂巳の生き様を体現するような構成になっているというわけです。
私も、自分の意思で動くより、誰かの主体性に乗っかる方が楽だなってなるから凄く分かる
だから、強い主体性を持つ人とは割と相性がいいんじゃないかと思ってるんだよね
映画のラストは、「市川茂巳が小説を書かなくなった理由」について言及される展開となります。この記事ではその点について具体的には触れませんが、この場面で市川茂巳は、ある人物から1つの仮説を提示されるのです。その発想は、小説家ではない私たちにはなかなか理解の及ばないものだと思います。ただ、「市川茂巳は常に『誰かのために何かしよう』と考えて生きてきた」と仮定すれば、提示された推測の蓋然性も高いと言えるのではないかと感じました。そして、その仮説が正しいとするならば、「市川茂巳の中にも彼なりの『好き』がちゃんとある」と言っていいだろうと思います。
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それはこんな側面からも推測できるでしょう。映画の中で市川茂巳は、「嘘をつきたくない人間」として描かれます。例えば、久保留亜の会見での様子をテレビで見ていた妻から「正直すぎ」と笑顔で軽く窘められた時に、「嘘をつくのは嫌だよ、そうする必要がない場面では」と返していました。また、妻から荒川円の小説の感想を求められた際には、「僕には必要のない小説だった」とばっさりぶった切ってもいたのです。
私も普段から、自分の発言が嘘っぽくならないように言動を意識して気をつけてるつもりだから、彼の感じはなんとなく理解できる
「言葉」ってただ発してるだけじゃ「本当」にはならないから、届き方をデザインする必要があるよね
市川茂巳が「嘘をつきたくない人間」なのだとして、さらにある人物が口にする「過去になってしまった」という言葉を併せて考えると、「市川茂巳が小説を書かなかったことは、ある種の愛情である」と捉えてもいいのだろうと思います。小説を書いてしまえば、嘘をつかざるを得ない状況に直面するかもしれないからです。彼のその決断には、「愛情」という名前をつけ得ると私は感じました。
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とにかく、あらゆる点で市川茂巳がとても素晴らしかったです。
市川茂巳だけではなく、久保留亜もとても良かった
とにかく市川茂巳に惹かれる映画なのですが、久保留亜の存在感もとても良かったと思います。
玉城ティナが、「一筋縄ではいかない女子高校生作家」の雰囲気を絶妙に醸し出していたよね
「黙ってると何を考えているのか分からない系の美人」だってことが、役の感じに上手くハマってるんだろうなぁ
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私は誰かと関わる時に、「話が通じるか通じないか」で捉えることが多く、そして大体の場合「通じない」という判断になってしまいます。「話が通じる人」と関われることはほとんどありません。そして、市川茂巳も久保留亜も同じ感覚を持っているんじゃないかと感じました。だからこそ久保留亜は、「記者会見での質問」というかなりオフィシャルなやり取りの中からも、「話が通じる人」の匂いを敏感に感じ取るのだし、市川茂巳も、普通ならなかなか会話が難しいだろうかなり年下の相手とナチュラルに話せるのです。2人は初対面の時点で、もう既に長い時間を一緒に過ごしてきたかのような雰囲気を醸し出していました。そういう感覚で関われる相手と出会うのはなかなか難しいので非常に貴重です。私としては、この2人の出会いはかなりとても羨ましく感じられたし、「話が通じる人」としての久保留亜にもかなり惹かれました。
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そんな久保留亜は、「小説を読むと眠くなる」と言って憚らない、自動車修理工場で働く少年と付き合っています。この2人はなかなか釣り合わないだろうと初めは思っていたのですが、映画を観ながら少しずつ考えが変わりました。
映画全体の雰囲気からすると「異分子」のはずなんだけど、妙に馴染んでたんだよなぁ
先程も触れた通り、久保留亜は恐らく、周囲のほとんどの人間に対して「話が通じない」と感じてしまうはずです。「女子高生」や「小説家」というレッテルも、その状況に拍車をかけるでしょう。市川茂巳のような「話が通じる人」と出会う機会は、非常に少ないのだと思います。
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映画『窓辺にて』の「会話劇」としての素晴らしさ
最後に、映画全体の感想にも触れておきましょう。『窓辺にて』はとにかく、会話が素晴らしい映画だと感じました。ストーリーらしいストーリーが存在しないにも拘わらず、140分もの長尺の作品になっているのは、会話のテンポがかなりゆっくりだからだと思います。そして、そのゆったりした雰囲気が、会話の内容とも相まって、映画全体に自然とハマっている感じがしました。
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この会話の雰囲気を言葉で表現するのはなかなか難しいのですが、私はなんとなく、「相手の発言を聞いた後の反応が、半テンポぐらい遅れている」みたいな印象を受けました。普段の会話にはあまり現れない「間」を感じたというわけです。そう書くと、「不自然な会話」なんじゃないかと思われるかもしれませんが、そんなことは全然ありません。
普段の会話で、こういう「間」を入れて会話するのはちょっと難しそうだよね
お互いが「こういうテンポでいいよね」って諒解してないと無理な気がする
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私はなんとなく、世の中の多くの人が、「本当はこの映画のような『間』で会話をしたいと考えているのではないか」と思っています。観る人によって映画『窓辺にて』のお気に入りポイントはそれぞれ違うでしょうが、会話の雰囲気も評価されていると感じるからです。しかし実際には、この映画のような会話をするのは難しいでしょう。会話の中で「間が空く」のはちょっと怖いからです。どうしても、間を詰めた会話になってしまうのではないでしょうか。
こういう「間のある会話」を理想だと感じつつも、相手も同じ風に考えているか分からないし、そう思わない相手だとしたら、「間を空けたスローテンポな会話」はマイナスに受け取られてしまうかもしれません。そういう意味で、「リアルの世界では試せない会話」だと言えるでしょう。だからこそ余計に、こういう会話が良く見えてしまうという側面もあるのではないかと思います。私の分析が正しいかはともかくとして、とにかくスローテンポで展開される会話がとても心地良かったです。
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また、市川茂巳と久保留亜の会話における「敬語とタメ口のバランス」も絶妙だと感じました。市川茂巳は妻や旧友に対しても基本的に敬語、あるいはそれに近いぐらい丁寧な話し方をするのですが、久保留亜に対しては時折砕けたような口の利き方になります。恐らく、話が通じる相手だからこその気安さを感じているのでしょう。一方、久保留亜も、小説家然りというのか、基本的には丁寧な言葉遣いで会話をするのですが、時々タメ口がポロッと溢れる感じがあります。
どちらも小説家だから、「言葉を大切にしている」っていう雰囲気が凄く出てるし、それが良かったよね
丁寧な言葉遣いで会話してるのに、相手に親しみやすさを感じていることが伝わるところも上手いと思う
恐らく意識せずにこぼれ落ちてしまっているのだろう「タメ口」が丁寧な会話の中に混じることで、会話の印象が一層穏やかなものになっていると言えるでしょう。さらにその「タメ口」が、「急速に距離が縮まったために、礼儀と気安さのバランスがバグっている」というニュアンスも醸し出していて、会話をしているだけなのに、2人の関係性が如実に浮き彫りになるところも良かったと思います。
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映画は本当に、「会話を積み重ねる」ようにして構成されていて、シンプルなのにこれほどまでに深い感動をもたらす作品に仕上がっているという点にとにかく驚かされました。
最後に
全体的にとても素敵な映画でしたが、1つだけ、どうしても気になってしまう点がありました。登場人物の多くが、会話の中で「えっ?」という反応を多用することです。もちろん、脚本にそう書かれているのでしょう。決して役者の演技に文句をつけたいわけではありません。私の感覚では、この「えっ?」という反応がワンパターン過ぎて、もう少し違ったバリエーションがあっても良かったのではないかと思ってしまいました。
まあでも、逆に言えば、それぐらいしか文句のつけようがない作品だと言うことも出来ます。元々まったく観るつもりではなかった映画なのですが、本当に観て良かったと思います。
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