目次
はじめに
著:村田 沙耶香
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ポチップ
この記事で伝えたいこと
古倉さんは「コンビニ」を選んだ。あなたは、何かを選びました?
実は古倉さんこそ、きちんと人生を選んで生きている人なのだと思います
この記事の3つの要点
- 周りの人とどうしても感覚が合わない
- 「この場のルール」を、みんなどうやって捉えているの?
- 「多数派」が「正常」である保証などどこにもない
古倉さんを「異常」と感じる人こそ「異常」かもしれませんよ
この記事で取り上げる本
「コンビニ人間」(村田沙耶香)
自己紹介記事
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周囲と感覚が合わない
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古倉さんは子どもの頃から、自分が「こうだ」と思う行動をすると、それが周囲を惑わせてしまう、という経験をずっと重ねてきました。自分にとってそれが当たり前で自然な行為なのに、なぜか周りの人は気持ち悪がったり、拒否反応を示したりするのです。親からもそんな扱いを受けていた古倉さんは、小学生の時点で既に、
皆の真似をするか、誰かの指示に従うか、どちらかにして、自ら動くのは一切やめた
と決断しました。
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私は、ここまで極端ではありませんが、古倉さんの感覚が凄く分かります。私も子どもの頃は、どうも周りと感覚が合わないらしいぞ、と感じることが多く苦しんできたからです。特に印象的に覚えているのは、「周りの人が笑っている時、その理由が分からない」という瞬間で、たびたびこういう状況に置かれました。
だから、「たぶんこの後みんな笑うんだろうな」って予想して笑ってたんでしょ?
そうそう。だから時々予想を外して、私しか笑ってないことがあって困った
古倉さんほどのズレ方ではありませんでしたが、私も似たような感覚をずっと味わっていて、だから古倉さんの苦労が分かるつもりです。とにかく本書を読んで、古倉さんにメチャクチャ共感してしまいました。
「普通」のルールが分からない
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この作品を読みながら、歌人の穂村弘のエッセイの一文を思い出しました。
文化祭でもキャンプでも大掃除でも会社の仕事でも、いつも同じことが起きる。全ての「場」の根本にある何かが私には掴めないのだ。現実世界に張り巡らされた蜘蛛の巣のようなルールがみえない。何のための穴なのかよくわからないままに、どこまでも掘ってしまう。だが、わかっていないということは熱心さではカバーできないのだ』
穂村弘「蚊がいる」
この感覚は、今でもよく感じます。みんな、この場のルールをいつ知ったんだろう? と。「これをしないと空気が読めてない」とか、「こういう時はこうするのが当たり前」とか、「こんなことするなんてありえないだろ」みたいなことを、当然のように口にできる人が凄いと思います。
「伝統的なしきたり」とかならまだ、指摘されてもしょうがないと思えるんだけど
すべてを「ノリが悪い」で片付ける人とかは、やっぱ好きになれないなぁ
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大人になるにつれて、私は少しずつ「世間のルールブック」みたいなものをインストールしていったんだと思います。未だに違和感を覚えることはありますが、とりあえず対処法は分かるという感じです。そんな風にして少しずつ、「当たり前」とか「当然」に対応できるようになりました。
そして同時に、「世間のルールには従いませんよ」という雰囲気を少しずつ醸し出すことで、「当たり前」「当然」をなるべく押し付けられない存在になろう、という振る舞いも意識してやっています。
そんな風に私は、「馴染めない感」を強く抱いてしまう社会と関わってきました。
世間のルールから多少外れててもなんとか許容される、みたいな振る舞いは、かなり研究してきたつもり
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しかし古倉さんは、まったく違う選択をするのでした。
「人間」である以前に「コンビニ店員」である
古倉さんは、「世間のルールが分からなくて立ち止まってしまうなら、完璧なルールが存在する世界に行けばいい」と考えます。そして目をつけたのが「コンビニ」です。
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早くコンビニに行きたいな、と思った。コンビニでは、働くメンバーの一員であることが何よりも大切にされていて、こんなに複雑ではない。性別も年齢も国籍も関係なく、同じ制服を身に付ければ全員が「店員」という均等な存在だ
コンビニというのは、お客さんからすれば名前の通り非常に便利ですが、働く環境としては決して恵まれているとは言えないでしょう。しかし、「完璧なルールが存在する世界」としてコンビニを捉える古倉さんにとって、コンビニは天国のような空間です。
泉さんと菅原さんの表情を見て、ああ、私は今、上手に「人間」ができているんだ、と安堵する。この安堵を、コンビニエンスストアという場所で、何度繰り返しただろうか。
古倉さんは、コンビニのルールを完璧に覚えることで、「完璧なコンビニ店員」になれます。そして、その姿を見た人は彼女を「普通の人」と受け取ることでしょう。普通の人だから、普通にコンビニ店員ができている、と当然のように考えます。そして古倉さんは、そう見られることに安堵するのです。
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本当は、ちゃんとした人間でいられないから、完璧なルールの存在するコンビニで完璧なコンビニ店員をやろうと決めただけなのに、完璧なコンビニ店員でいることでちゃんとした人間に見てもらえます。古倉さんはこの点に価値を見出し、コンビニこそ自分の居場所だと考えるのです。
「コンビニで働くこと」をこれほどまでにポジティブに捉える人って、なかなか想像できないからね
「いらっしゃいませ!」
私はさっきと同じトーンで声をはりあげて会釈をし、かごを受け取った。
そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、たしかに誕生したのだった。
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彼女は「人間である以上にコンビニ店員だ」とも言っています。
「コンビニ」という空間を、このように屈折的な捉え方をする主人公の視点が非常に面白く、興味深い作品です。
恐らく多くの読者が、古倉さんを「変な人」だと感じるでしょう。そして、珍獣を見るような見方で、古倉さんの物語を読むのではないかと思います。
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しかし、果たして本当にそのような捉え方でいいのでしょうか?
「異常」なのは、多数派の方ではないのか?
作中の登場人物は、古倉さんのことを「異常」だと捉えます。就職も結婚もせず、恋愛もしたことがなく、ひたすらコンビニでアルバイトをしているだけ、というのは、世の中の「当たり前」を生きる「多数派」の人たちからは、「おかしなこと」だと受け取られてしまうのです。
しかし本書を読みながら、私はこんなことを考えました。今の世の中の「多数派」の人たちが戦時中に生きていたら、どう振る舞っただろうか、と。
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戦時中に生きる多数派は恐らく、お国のために節約し、大本営発表を信じ、特攻へと向かう息子を栄誉だと見送り、竹槍の訓練を受けていたでしょう。
別に、そういう生き方を悪いと言いたいわけではありません。ただ当時は、そういう生き方が「正常」だったはずで、当時の「多数派」の人たちは疑いなくこんな風に生きていたのではないか、と言いたいのです。
高度経済成長期であれば、過労死レベルで働き、パワハラ・セクハラは当たり前という世の中だっただろうし、公害なども今より激しかったでしょう。
何が言いたいかというと、「多数派」の側にいるからと言って、その生き方が「正常」とは限らない、ということです。
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多数派側にいる人間は、なんか、自分たちが正しいって雰囲気出してくるよね
多少薄れているとはいえ、やはり今の時代にも、「ある程度の年齢になったら結婚すべき。していないのはおかしい」という価値観が、特に地方ではまだ残っていると思います。しかし、あと50年も経てば、「え? 結婚するのが当然みたいな空気が世の中にあったの? 信じられない」という時代になるかもしれません。
さてでは、古倉さんはどうでしょうか。古倉さんは、戦時中だろうが、高度経済成長期であろうが、恐らく自分のスタンスを変えずに生きるのではないかと思います。古倉さんは、その時代その時代の「これが当たり前だよね」という雰囲気に流されることなく、「自分はきっとこう生きるのがいいだろう」という選択をして生きられるはずです。
さて、こう考えた時、「正常」なのはどちらでしょうか?
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民主主義国家では、数が多い側が勝つという考えが当たり前のように浸透しています。しかし、「多数派」が「正常」だという保証はどこにもありません。私は、時代の雰囲気に流されず、自分が最も心地よく生きられる人生を自ら選び取っている古倉さんの方が、「正常」に相応しいのではないかと感じてしまいます。
ほとんどの人は、多勢に流されるように生きて、「こう生きる」という決断をしてないように見えるしね
それを非難するわけじゃないけど、そういう人が古倉さんを否定するのは違うと思う
古倉さんは、自分に最適な居場所として自ら「コンビニ」を選びました。そしてその行為は、「どう生きるべきか」を真剣に考えるということでもあります。
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だからこそ、本書を読んだ人間は、この問いに気づかなければなりません。
あなたにとっての「コンビニ」はなんですか?
もしこの問いに答えられないのだとすれば、それは、古倉さんよりもレベルの低い生き方をしている、という証かもしれません。
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村田沙耶香『コンビニ人間』の内容紹介
ここで改めて本の内容を紹介します。
著:村田 沙耶香
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ポチップ
古倉さんは子どもの頃から周囲に馴染めなかった。だから、自分の意思で行動することを諦めることにした。
大学一年生の時にたまたま、コンビニのオープニングスタッフの募集を見かけた古倉さんは、コンビニでのアルバイトを始める。そしてそこは思いがけず、古倉さんにとっては快適な空間だった。これまでは、自分がどう行動すべきかの指針が分からず、自分の判断で動いて間違えることばかりだったが、コンビニには完璧なマニュアルがある。これに従ってさえいれば、完璧なコンビニ店員でいられるのだ。
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そんな風にして古倉さんは、「コンビニ店員」として生まれ直すことになった。
それから18年、古倉さんはずっと同じコンビニでアルバイトを続けている。店長は既に8代目、当然働き始めた時のスタッフはもういない。しかし古倉さんは、完璧なコンビニ店員であるために、コンビニにいない時間もコンビニのことを考えている。コンビニのことを考えることで、自分は正しく世界の部品になれていると実感でき、それで十分だと感じられるのだ。
そんな平穏な環境は、白羽というやる気のないアルバイトスタッフが入ってきたことで変わっていく……。
村田沙耶香『コンビニ人間』の感想
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たまにこういうのがあるから、ベストセラーも侮れない
とにかく、「コンビニ」という舞台設定が見事だと思います。
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一方、「いい年してコンビニなんかでアルバイトを続けている」と批判する人たちは、本書の中で、非常にのっぺりとした「画一的」な存在として描かれます。
この対比に皮肉が利いていて、非常に痛快だと感じます。この皮肉を感じ取れない人は、自分が考えて人生を選び取っていないかもしれない、ということについて向き合った方がいいかもしれません。
また、古倉さんの生活を揺さぶる白羽も非常に興味深い存在です。完璧な穏やかさと共に生きていられた古倉さんの「日常」を思わぬ形で壊しにかかってくる存在に対し、古倉さんがどのような関わりを見せるのか、是非読んでみてください。
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著:村田 沙耶香
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最後に
古倉さんを「異常」だと感じる人間の「異常さ」をあぶり出す、そんな意図さえ感じるような作品で、非常に面白く読みました。また、古倉さんに共感できてしまう人にとっては、古倉さんが「コンビニ」という居場所を見つけ、どんな考えで世の中と向き合っているのかを知るのは、楽しい経験でしょう。
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短い物語ながら、非常に深みを感じさせる作品でした。
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【狂気?】オウム真理教を内部から映す映画『A』(森達也監督)は、ドキュメンタリー映画史に残る衝撃作だ
ドキュメンタリー映画の傑作『A』(森達也)をようやく観られた。「オウム真理教は絶対悪だ」というメディアの報道が凄まじい中、オウム真理教をその内部からフラットに映し出した特異な作品は、公開当時は特に凄まじい衝撃をもたらしただろう。私たちの「当たり前」が解体されていく斬新な一作
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【純真】ゲイが犯罪だった時代が舞台の映画『大いなる自由』は、刑務所内での極深な人間ドラマを描く
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【思考】森博嗣のおすすめエッセイ。「どう生きるかべきか」「生き方が分からない」と悩む人に勧めたい…
エッセイも多数出版している説家・森博嗣が、読者からの悩み相談を受けて執筆した『自分探しと楽しさについて』は、生きていく上で囚われてしまう漠然とした悩みを解消する力を持っている。どう生きるべきか悩んでしまう若者に特に読んでもらいたい1冊
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涙腺がぶっ壊れたのかと思ったほど泣かされた映画『彼女が好きなものは』について、作品の核となる「ある事実」に一切触れずに書いた「ネタバレなし」の感想です。「ただし摩擦はゼロとする」の世界で息苦しさを感じているすべての人に届く「普遍性」を体感してください
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【抵抗】西加奈子のおすすめ小説『円卓』。「当たり前」と折り合いをつけられない生きづらさに超共感
小学3年生のこっこは、「孤独」と「人と違うこと」を愛するちょっと変わった女の子。三つ子の美人な姉を「平凡」と呼んで馬鹿にし、「眼帯」や「クラス会の途中、不整脈で倒れること」に憧れる。西加奈子『円卓』は、そんなこっこの振る舞いを通して「当たり前」について考えさせる
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私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
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ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
普通って何?【本・映画の感想】 | ルシルナ | 映画と本の感想ブログ
人生のほとんどの場面で、「普通」「常識」「当たり前」に対して違和感を覚え、生きづらさを感じてきました。周りから浮いてしまったり、みんなが当然のようにやっているこ…
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ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
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