【前進】誰とも価値観が合わない…。「普通」「当たり前」の中で生きることの難しさと踏み出し方:『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(花田菜々子)

目次

はじめに

この記事で伝えたいこと

「常識的な考え方」に馴染めなくても、一歩ずつ前進していくことはできる

犀川後藤

自分が間違ってる、劣ってるなんて思わずに生きていたいですよねぇ

この記事の3つの要点

  • 「当たり前」に”合わせたくない”のではなく”合わせられない”
  • コロナ禍で、誰もが「当たり前」から遠ざかった
  • 「普通」に囚われず、かといって迎合もしないまま、進みたい方向に足を踏み出すために
犀川後藤

私もまだまだ迷い中なので、大したことは言えませんけど

この記事で取り上げる本

いか

この本をガイドに記事を書いていくようだよ

自己紹介記事

犀川後藤

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

「普通」「当たり前」の中で生きることの難しさと踏み出し方

自覚なしに価値観を”強要”する世の中

私が突き付けられているような気がしていた普遍的な議題――例えば「独身と結婚しているのとどちらがいいのか?」「仕事と家庭のどちらを優先すべきか?」「子どもを持つべきか持たないべきか?」――そもそもの問いが私の人生の重要な議題とずれていたのだ。こんな問いに立ち向かわされているとき、いつも自分の輪郭は消えそうで、きちんと答えられなくて不甲斐ない気分になることは、自分がいけないのだと思っていた。でも今夜、この今、自分の輪郭は電気が流れそうなほどにくっきりとしてぴかぴかと発光していた。

こんな問いに、今まさに立ち向かわされているという人もいるのではないでしょうか?

私も著者と同じく、これまでずっとこのような問いに違和感を覚えてきました。「目の前に選択肢がいくつかあります。どれか選んでください」と言われている気がする時、「どうしてその選択肢の中からしか選べないのだろう」と感じます。

子どもの頃は、何か違うと感じながらも、そういう状況に違和感を覚えていなそうなクラスメートを見ながら、「おかしいのは自分なんだ」と思うしかありませんでした。

犀川後藤

まあ、時々先生に反抗したりして、その違和感を表に出すこともあったんだけど

いか

ホントたまにね

学校でも会社でも家庭でも、「こうするのが当然だよね」「こんな風にしないなんて考えられない」「あれ?◯◯しない人だっけ?」みたいな言い回しで、「普通」や「当たり前」が”強要”されます。非常に難しいと感じるのは、相手には「強要している」という意識はないということ。著者も本書で、そういう違和感をたびたび綴っています。

例えば著者は、出会い系サイトで知り合った中年以上の男性から、「出会い系サイトで見知らぬ人と会うなんて危ないよ」と忠告を受けることが多くあったと言います。

まさかこちらが気分を害するとは思わず、何も考えずに、なんなら私が気づいていなかった危険点を教えてあげた、くらいの気持ちでいるのだろう。自分の方が世の中を知っていると思っているのだ

いか

自分だってまさに出会い系サイトを使って著者と出会っているのにね

こういう人は、非常に不愉快ですが、どこにでもいます。

「普通」に馴染めない時、自分が劣っていると感じてしまう

世の中の「当たり前」と合わず、少数派だと自覚させられる時、自分が間違っている、劣っているような感覚に陥ります。私も本当に、20代中盤を過ぎるぐらいまでずっと、その感覚にかなり苛まれていました。今でも決して消えてはいませんが、昔よりはだいぶマシになっています。

いか

本や映画などから、世の中にはメチャクチャ色んな価値観があると知れたのが大きかったよね

犀川後藤

肯定でも否定でもなく、色んな価値観が「存在する」って知ることはホント大事

とある出会い系サイトで本を勧めまくるまでの著者は、「ヴィレッジヴァンガード」という奇跡的な環境で穏やかに生きていられました。

今の会社は変わった人たちばかりだから、その中では生き生きとすることができたけど、会社の外に出たら、いわゆる『普通』の人たちの間ではやっていけないんです。昔からずっとそうなんです。普通の人たちに合わせることが嫌なんじゃなくて、本当にできないんです

本書を読むと、彼女の切実さがすごく伝わってくるでしょう。特に、「普通の人たちに合わせることが嫌なんじゃなくて、本当にできないんです」という表現は、私の心情とも完全に一致します。「スキーが滑れない」というのは、もしかしたら練習次第で変わるかもしれません。しかし、「お酒が飲めない」というのは体質だから変わらないでしょう。それと同じような意味で「できない」んだと、私もいつも感じています。

犀川後藤

でも長年色んな人と関わってきて、多数派の人の多くにはこういう感覚は絶望的に伝わらないと感じてしまいます

いか

違う世界に生きているから仕方ないことなんだけどね

「当たり前」からの「ズレ」を誰もが意識させられるコロナ禍

著者は、夫との別居という環境の変化をきっかけに、自分がいかに特殊な環境にいたのかに気づき、何かを変えたいと思うようになります。しかし、

人生のほとんどをヴィレッジヴァンガードに捧げていて、もはや引き返し方もわからなくなっていた

というほど、「普通」から外れた環境で驚異的な適応をしてしまっているがために、どの方向に足を踏み出したらいいのか分かりません

ある意味では今、多くの人がこういう事態に直面していると言えるかもしれません。コロナウイルスの蔓延は、世界をあっという間に変えていきました。まさに緊急事態の中に我々は生きていますが、そういう時代においては、それまでの社会では許容されていただろう「余白」や「スキマ」や「余裕」みたいなものが失われてしまいます。

それはつまり、「普通」「当たり前」「常識」以外のものがさらりと打ち消されていく世の中でもある、と私は感じています。

いか

「不要不急」って言葉は、結構いろんな行動を縛るしね

多くの人が、今まで感じずに済んでいた「普通」「当たり前」「常識」からの「ズレ」みたいなものをまさに再認識させられているでしょうし、そういう中で前進していくことの難しさを感じているのではないかと思います。

犀川後藤

私はずっと違和感を覚えてきたので、突然直面した、という感じではありませんけど

いか

いいんだか悪いんだか

前進のための一歩をどう踏み出すか

コロナウイルスがある程度収束してからでないと実践は難しいでしょうが、本書はまさに、その難しい一歩を後押しする本だと感じます。普通を遠ざけるでもなく、普通に迎合するでもなく、自分の中の「不要な思い込み」を崩して新しい価値観を取り込んでいく過程がとても丁寧に描かれていくからです。

他人を自分の幸福の根拠にするのは間違っている。自分の幸福の根拠は自分にあるべきで、自立的なものでなくては

出会い系サイトで本を勧めるまで、彼女は頑なにこう考えていました。他人と関わることに喜びを見出すなということではなく、まずは自立的な幸福を確保しなければならないと思い込んでいた、ということです。

しかし、

みんなが不安定さを礼儀正しく交換し、少しだけ無防備になって寄り添ってるみたいな集まりだった

と表現する出会い系サイトでのやり取りを通じて、彼女はこんな風に変わります。

人の人生に一瞬でも関わって、その人の中に存在させてほしいとめちゃくちゃな強さで思うのかもしれない

犀川後藤

他人事なんだけど、その変化に対して「良かったなぁ」と強く感じました

出会い系サイトという、多種多様な人間と関われる空間に飛び込んでいき、それぞれの人の話を聞いて合う本を勧めるという変わった修行を続けた著者。相容れない価値観に出会った時や、この人にどんな本を勧めればいいのかと思案する時、それまで殊更に意識することがなかった自分の考えに触れることになり、著者は少しずつ変わっていきます

著者と同じことをやれというのはほとんどの人にとって難しいでしょう。

犀川後藤

私もやったことがあるけど、即興で本を勧めるのはホント難しい

ただ、今自分がいる場所から、どの方向にどんな風に足を踏み出したらいいのかについては、読んで実感できるのではないかと思います。

本の内容紹介

ここで改めて本の内容を紹介します。

花田菜々子は彷徨っていた。夫との生活に限界を感じ、家を飛び出してきたからだ。深夜のファミレスや簡易宿泊所、スーパー銭湯、カプセルホテルと、様々な場所を転々とした。友人宅、という選択肢はなかった。「ヴィレッジヴァンガード」の店長をしていて休みは合わず、趣味が読書か書店巡りしかないこともあってそもそもよく会う友達がいないのだ。

放浪生活は長くは続かなかった。しかしその日々は彼女の何かを変えた。夫と話し合いをし、別々に住むことに決めた直後、彼女は「X」という出会い系サイトの存在を知る。「知らない人と30分だけ会って、話してみる」というサービスらしい。よく分からなかったがなんとなく登録をしてみた。

そこから彼女の世界は大きく広がっていくことになる。想像もしていなかった世界だった。それまで彼女の中にあった「出会い系サイト」というものに対する後ろ暗いイメージはまったくなく、手軽に、ファッショナブルに、関わるはずのなかった人たちと出会える環境に驚かされた。

そこで彼女は思いつく。そうか、この「X」で、あれをやってみたらいいんじゃないか。昔から漠然と頭の中にあったアイデアを、実行する時だ。

「変わった本屋の店長をしています。1万冊を超える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます」

プロフィール欄にそう書き、会う人会う人に本を勧めまくるという武者修行が始まる

本の感想

本を読んでの感想

もの凄く面白い作品でした

いか

読む前は期待してなかったんでしょ?

犀川後藤

タイトルとか表紙の感じから面白いだろうなって予感は結構あって、でもハードルを上げすぎないように意識してたって感じ

タイトルは非常に長く、それでいてキャッチーで、本書の内容を的確に表現しているのですが、ただ、このタイトル通りの内容しか書かれていなかったらさほど面白くはなかっただろうなとも感じます。「出会い系サイトで知り合った人に本を勧めました」という部分ではなく、この物語の比重は、花田菜々子という人間のアンバランスさとそのリバランスの過程にあると感じるからです。

犀川後藤

自分のことをかなり客観視して、ちゃんと言葉にしているところが素晴らしい

いか

そういう人、好きだよな

本書は「実録私小説」と謳われています。これは、「書かれている内容は事実ベースだけど、すべてが本当のコトなわけじゃありませんよ」という意味でしょう。とはいえ私は、彼女がその時々で考えていること・感じていることまで創作ではないだろう、と受け取っています。

犀川後藤

しかしよく覚えてるなと思う

いか

すぐ忘れちゃうもんね

その時々の思考を丁寧に拾い上げつつ、物語としても面白く構成している点が素晴らしいと思います

男女の関係が“恋愛だけ”なのはつまらない

読んでいて感じるのは、彼女の”フラットさ”です。元々そういう人だったようですが、男だからとか女だからということは関係なしに、目の前にいる人とどう関係を築いていくかに集中していく感じが面白いなと思います。

私は男ですが、女性との方が話が合うし、女性の友人の方が圧倒的に多いです。女性の部屋に泊めてもらって特に何も無い、というのも私には当たり前の話なんですが、そういうことを男性に話すと「ありえない」という反応が返ってきます。

犀川後藤

一番驚いた反応は、「セックスしてあげないのは可哀相」です

いか

意味不明だよね

著者もこんな風に書いています。

出会いに慣れていないその人にとっては「まったく知らない女と会う」が「セックスできる可能性」に直結していて、それ以外の発想が持てないのだろう。Xで私が見てきた世界を見せてあげたい、と思う。知らない男女が1対1で出会っても、セックスのことじゃない普通の喜びがごろごろ転がっているし、人は人にやさしくできるんだよ。私はこの数ヶ月、自分の身をもって体験してきたのだ。いいことも悪いことも

凄く分かるなぁ、と思いました。男女だからという理由で、恋愛やセックスの方向にしか関係性が意識されないのはもったいないといつも感じています。

私の印象では、若い世代ほど「男女=恋愛」という感覚が薄れている感じがしていて、ある程度時間が経てばそういう時代が当たり前になってくるんじゃないかなと考えています。

コミュ力モンスターへの変貌

著者は「X」と出会う以前こそ、

なんて狭い人生だろう。自分には何もないんだ

と考えていました。「ヴィレッジヴァンガード」という狭い世界だけで人生のほとんどが完結していて、友人も少なく、コミュニケーションに長けてもいませんでした

しかし、「X」での武者修行を通じて、

だって無機質で居心地が悪いとしか思ってなかった街は、少し扉を開けたらこんなにも面白マッドシティだったのだ。なんて自由なんだろう。やりたいようにやればいいんだ。

と感じられるようになり、どんどんとレベルが上がっていきます。その過程も非常に面白いです。

犀川後藤

著者が「ラスボス戦」と呼ぶ展開も凄くいいよね

いか

最終的にはそのコミュ力が仕事にも繋がっていくしな

しかし一方で、こんな問題も起こります。著者が合コンに顔を出した時のことです。

正直「4対4で話すなんて、どんだけぬるいんだ」と思うくらい、人と会うことになったときの戦闘力が仕上がってしまっていた。「『学生時代の部活当てクイズ~』とかほんとどうでもいい! もっと斬り込みたい!」という気持ちでいっぱいになり、「これが1対1だったらこうやってこうやって斬り込めるのに……でも、この平和的空間を乱してはいけないんだろうな」と我慢し、ニコニコと話を聞いたり、ほどほどの平和なツッコミをして、合コンでの振る舞いを勉強して帰ることになった

これも凄く分かるなぁ、と思いました。まあ著者とはちょっと違う理由なんですが。

私はそもそも、大人数での人間関係があまり得意ではありません。そういう理由もあって、学生時代はしんどかったのかなと思います。1対1で話す方が楽だと気づけるようになったのは、20代中盤ぐらいからだったでしょうか。1対1で話せば割とどんな相手でも結構深くまで斬り込んでいける、と分かってからは余計に、大人数での関わりへの苦手意識が強くなりました。

というように、著者とはまったく違った生き方をしてきたはずなのに、感覚が非常に近いと感じます。ところどころ、私自身の話であるかのように感じる部分もあって、親近感を抱きました。

犀川後藤

変な言い方だけど、こんな人でも生きていけるんだ、と思えて、多少の希望になります

いか

ちょっと失礼な言い方っぽいけどな

本を読みたくなる、勧めたくなる

本書最大の特徴は、著者が作中で(実際には「X」で)実在の本を勧めていることでしょう。

本の勧め方にもいろいろありますが、やはり一般的なのは、「この本は面白いから読んで」という本が主役になる紹介の仕方でしょう。しかし著者は、本ありきではなく、「この本は今のあなたに合うだろうから読んで」と勧める相手が主役の紹介をします

もちろん、勧めた本がすべて相手にハマるわけではありませんし、ハマらなかった理由を分析しながら著者は少しずつ改善していくわけですが、やはりこの「相手に合わせて本を選ぶ」という特殊さは魅力ではないかと思います。

犀川後藤

本勧めるの、ホントに難しいのよ

紹介されている本を読みたくなるでしょうし、また、自分でも本を勧めたくなるかもしれません

最後に

「普通」への馴染めなさというのはは、簡単に解消されるものではありませんし、解消しなければならないわけでもありません。ただ、そのままではどうしても生きづらさが勝ってしまうでしょう。

違和感を覚えてしまうような”強要”はさらりとかわしつつ、自分が良いと感じられる方向へと一歩踏み出すための勇気が手に入る作品だと思います。

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