目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル, 出演:エンフトール・オィドブジャムツ, 出演:サラントヤー・ダーガンバト, 出演:バザルラグチャー, 出演:バヤルマー・フセルバータル, 出演:ガンバヤル・ガントグトフ, 出演:ツェルムーン・オドゲレル, Writer:センゲドルジ・ジャンチブドルジ, 監督:センゲドルジ・ジャンチブドルジ
¥550 (2023/11/06 18:33時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
今どこで観れるのか?
この記事で伝えたいこと
「何が面白かったのか上手く捉えきれない」と感じた、奇妙だけど万人に勧められる映画
終盤まで無表情を貫く主人公の存在感が絶妙に興味深い作品でした
この記事の3つの要点
- ひょんなことからアダルトグッズ販売店で働くことになった地味系女子大生の物語リスト
- 自身の身なりも含め、世の中のほぼすべてのことに無関心を貫き通す主人公
- 自分の意思を持たずに無表情で流され続ける主人公が思いがけない成長に至る過程が見どころ
タイトルに「考現学」と入っているので難しそうに思えるかもですが、とにかくキャッチーで楽しい素敵な映画です
自己紹介記事
ルシルナ
はじめまして | ルシルナ
ブログ「ルシルナ」の犀川後藤の自己紹介記事です。ここでは、「これまでのこと」「本のこと」「映画のこと」に分けて書いています。
あわせて読みたい
オススメ記事一覧(本・映画の感想・レビュー・解説)
本・映画の感想ブログ「ルシルナ」の中から、「読んでほしい記事」を一覧にしてまとめました。「ルシルナ」に初めて訪れてくれた方は、まずここから記事を選んでいただくのも良いでしょう。基本的には「オススメの本・映画」しか紹介していませんが、その中でも管理人が「記事内容もオススメ」と判断した記事をセレクトしています。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
映画『セールス・ガールの考現学』は、「なんだか分からないけどメチャクチャ面白い作品」だった!初めて観たかもしれないモンゴル映画
何が面白いのか上手く説明出来ないのに、最初から最後までずっと面白かった、ちょっと変わった物語
凄く面白い作品でした! ほとんど触れたことがないので、イメージの持ちようもない「モンゴル映画」ですが、それでも「イメージとは全然違って面白かった」というのが一番の印象です。モンゴルというと、「雄大な自然」「広大な大地」みたいなイメージしか持てませんが、本作『セールス・ガールの考現学』は実に都会的な作品でした。しかも、主人公サロールを演じた女優の外見がとても日本人っぽいので、そういう意味でも親近感を抱けるかもしれません。
あわせて読みたい
【天才】映画『リバー、流れないでよ』は、ヨーロッパ企画・上田誠によるタイムループの新発明だ
ヨーロッパ企画の上田誠が生み出した、タイムループものの新機軸映画『リバー、流れないでよ』は、「同じ2分間が繰り返される」という斬新すぎる物語。その設定だけ聞くと、「どう物語を展開させるんだ?」と感じるかもしれないが、あらゆる「制約」を押しのけて、とんでもない傑作に仕上がっている
森七菜とか、貴乃花の娘の白河れいとかに似てる感じだったよね
なんとなく「異国の雰囲気の中に日本人がいる」的な見え方になるし、そういう部分も面白いと思えた要素なのかも
物語は、「ひょんなことからアダルトグッズ販売店の店員になった主人公が、色んな人との関わりを経て成長していく」という話で、「アダルトグッズの店員」という部分を除けば、割とありきたりなストーリーと言えるかもしれません。ただ、なんか面白いんですよね。なんか面白かった。
私が言う「面白い」は、基本的には「interesting(興味深い)」という意味であり、その点については後で触れたいと思います。そして本作は、「funny(可笑しい)」という意味でも面白かったです。鑑賞中、随所で客席から笑い声が上がっていました。「クスッと笑わせてくれるポイント」が散りばめられていたという印象です。しかもそれは、「福田雄一や宮藤官九郎的な『狙った可笑しさ』」ではありません。なんというか、「主人公がナチュラルに行動しているその様が『普通』から微妙にズレていて、思わず笑わされてしまう」みたいな感じなのです。
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『四畳半タイムマシンブルース』超面白い!森見登美彦も上田誠も超天才だな!
ヨーロッパ企画の演劇『サマータイムマシン・ブルース』の物語を、森見登美彦の『四畳半神話大系』の世界観で描いたアニメ映画『四畳半タイムマシンブルース』は、控えめに言って最高だった。ミニマム過ぎる設定・物語を突き詰め、さらにキャラクターが魅力的だと、これほど面白くなるのかというお手本のような傑作
サロールが、ほとんどの場面で「無表情」だったのも良かったよね
「目の前で起こっていることすべてに無関心です」みたいな基本姿勢が、笑いを生み出すベースになってた感じがする
店番をするアダルトグッズ販売店で何か凄い事件が起こるわけでもないし、私の琴線に触れるようなセリフが出てくるわけでもないのに、どうしてこんなに面白かったのか、正直上手く捉えきれていません。ただ、誰が観ても「なんか楽しい気分になれる作品」だと思うので、機会があれば観てみて下さい。
映画の内容紹介
主人公のサロールは、大学で原子力工学を学ぶ地味な学生だ。そんな彼女はある日、そこまで仲が良いわけではないクラスメートからあるお願いをされた。そのクラスメートはバナナの皮で滑って足の骨を折ってしまい、しばらくバイトを休まなければならなくなったのである。そしてオーナーから「代わりを見つけないとクビにする」と言われ、サロールに声が掛かったというわけだ。
あわせて読みたい
【感想】世の中と足並みがそろわないのは「正常が異常」だから?自分の「正常」を守るために:『コンビ…
30代になっても未婚でコンビニアルバイトの古倉さんは、普通から外れたおかしな人、と見られてしまいます。しかし、本当でしょうか?『コンビニ人間』をベースに、多数派の人たちの方が人生を自ら選択していないのではないかと指摘する。
そのバイトが「セックス・ショップの店員」だった。
無気力に成り行き任せで生きているサロールは、その仕事内容に特段驚くでもなく、店内でクラスメートから仕事の説明を受ける。そして最後に、「店を閉めたら、オーナーのカティアさんのところに売上を届けるように」と、オーナーの家の鍵も預かった。
初日の仕事を終えたサロールは、売上を持ってオーナーの家へと向かう。そして、初めてサロールと顔を合わせたオーナーは驚き、すぐに怪我をしたクラスメートに電話をした。「正気なの? 子どもを連れてくるなんて。あたしを逮捕させるつもり?」、そう大声を張り上げている。オーナーが驚くのも無理はない。サロールは、成人しているようには見えないほどの童顔なのだ。
あわせて読みたい
【欠落】映画『オードリー・ヘプバーン』が映し出す大スターの生き方。晩年に至るまで生涯抱いた悲しみ…
映画『オードリー・ヘプバーン』は、世界的大スターの知られざる素顔を切り取るドキュメンタリーだ。戦争による壮絶な飢え、父親の失踪、消えぬ孤独感、偶然がもたらした映画『ローマの休日』のオーディション、ユニセフでの活動など、様々な証言を元に稀代の天才を描き出す
こうしてサロールはその後も、淡々と「セックス・ショップでのアルバイト」を続けていく。
オーナーと関わるのは、基本的に売上を届ける時だけなのだが、カティアはどうもサロールのことが気に入ったようだ。次第に、オーナーが誘う形で一緒に食事をしたり、出かけたりするようになっていく。自分の意思がなさそうなサロールは、やはりどの誘いも断ることはなかったが、しかし無表情であることに変わりはない。
そうやって、特段何が変わるわけでもない日常を過ごしていたのだが、実はサロールの内面は少しずつ変化していたようで……。
あわせて読みたい
【あらすじ】大泉洋主演映画『月の満ち欠け』は「生まれ変わり」の可能性をリアルに描く超面白い作品
あなたは「生まれ変わり」を信じるだろうか? 私はまったく信じないが、その可能性を魅力的な要素を様々に散りばめて仄めかす映画『月の満ち欠け』を観れば、「生まれ変わり」の存在を信じていようがいまいが、「相手を想う気持ち」を強く抱く者たちの人間模様が素敵だと感じるだろう
映画の感想
あらゆることに無関心であり続けるサロール
作品全体の面白さの源泉を的確に掴めている自信はありませんが、映画を観ながら私がずっと面白いと感じていたポイントは、「サロールの無反応さ」です。とにかくサロールは、どんな状況になろうとも、ほとんど何の反応も示しません。一度、警察に拘束されるような状況にも陥るのですが、それでも無反応のままでした。普通だったら「うわ、どうしよう」「それはちょっと……」「えっ、困ります」みたいな反応になるのが当たり前だろう場面であっても、サロールは「私はその状況に関与していません」とでも言わんばかりに、無表情のまま流されていくのです。
主演を演じた女優は、本作が映画デビューで初主演らしいから、「無表情を貫かせる」という演出は、そういう意味でも上手く機能したのかも
演技が上手い女優なのかは判断できないけど、無表情なら少なくとも、「下手さ」はバレにくくなるからね
人によっては、「どんな状況になろうと対処出来る自信があるからこそ無表情を貫ける」みたいなタイプもいるでしょう。しかしサロールは明らかにそのようなタイプではありません。はっきりと、「人生なんかどうでもいい」と思っているような雰囲気を醸し出すのです。目の前で何が起ころうと、それは彼女にとって「どうでもいいこと」でしかありません。なので、アダルトグッズ販売店で働こうが、良く分からないオーナーと食事をすることになろうが、警察に拘束されようが、「私には関係ない」みたいなスタンスで居続けられるというわけです。
あわせて読みたい
【漫画原作】映画『殺さない彼と死なない彼女』は「ステレオタイプな人物像」の化学反応が最高に面白い
パッと見の印象は「よくある学園モノ」でしかなかったので、『殺さない彼と死なない彼女』を観て驚かされた。ステレオタイプで記号的なキャラクターが、感情が無いとしか思えないロボット的な言動をする物語なのに、メチャクチャ面白かった。設定も展開も斬新で面白い
しかしそんな彼女にも、「どうでもいいとは思えないこと」があります。実際、それに関する描写は作中の随所にあったのですが、正直私は、彼女にとってそれが重要なのだとは理解できていませんでした。物語のラストに至って、「あぁ、なるほど、そういう物語だったのか!」と気づいたぐらいです。もしかしたら私と同じように感じる人もいるかもしれないので、彼女にとっての「どうでもいいとは思えないこと」については、具体的には触れないでおくことにします。
ホント、最後まで観てようやく「それだったんかい!」って思えたんだよなぁ
そういう部分もひっくるめて、サロールってホント謎めいた女性だよね
さて、一方で彼女は、その「どうでもいいとは思えないこと」を「見ないようにしている」と言ってもいいでしょう。
「モンゴルという国で『女性』として生きること」にどのような制約があるのか、知識がないので分かりませんが、少なくとも、原子力工学を専攻したことは彼女の意思ではありません。カティアからの質問に答える形で、「母の勧めだ」と明かしているからです。授業中の様子などを見ていても、彼女が原子力工学に何の興味も持っていないことが伝わってきます。
あわせて読みたい
【価値】どうせ世の中つまらない。「レンタルなんもしない人」の本でお金・仕事・人間関係でも考えよう…
「0円で何もしない」をコンセプトに始まった「レンタルなんもしない人」という活動は、それまで見えにくかった様々な価値観を炙り出した見事な社会実験だと思う。『<レンタルなんもしない人>というサービスをはじめます。』で本人が語る、お金・仕事・人間関係の新たな捉え方
「だったら『どうでもいいとは思えないこと』の方に進んだらいいじゃないか」と感じるかもしれませんが、恐らくそこに何らかの制約があるのでしょう。それが、モンゴルという国の特徴なのか、サロールの性格なのか、家族との関わり方から来るものなのかは分かりませんが、とにかく「興味を持てることには蓋をして、関心のない原子力工学を頑張らなければ」と考えているのです。
恐らくサロールは、「何かに関心を抱いても、それがダメになってしまう」みたいなことを幾度か経験してきたのではないかと思います。だから、あらゆることに無関心になっていったのでしょう。その無関心さは、自身の身なりにさえ及びます。例えば、サロールがカティアから「眉毛がボーボー」と指摘される場面がありました。髪もボサボサのままだし、服装も暗色系が多いと言えるでしょう。「自分がどのように見られているのか」あるいは「自分をどのように見せたいのか」みたいなことに、かなり無頓着なのです。
少なくとも、「SNSでいかに映えるか」ばかり考えている人よりは、圧倒的に良いよね
あわせて読みたい
【辛い】こじらせ女子必読!ややこしさと共に生きるしかない、自分のことで精一杯なすべての人に:『女…
「こじらせ」って感覚は、伝わらない人には全然伝わりません。だからこそ余計に、自分が感じている「生きづらさ」が理解されないことにもどかしさを覚えます。AVライターに行き着いた著者の『女子をこじらせて』をベースに、ややこしさを抱えた仲間の生き方を知る
このようなスタンスこそが、主人公サロールの「スタート地点」というわけです。
「サロールの変化」が、一筋縄ではいかない感じで描かれる面白さ
さて、映画『セールス・ガールの考現学』では、最終的にサロールが大きな変化を遂げるという展開になります。しかし、本作の面白さは、そこに至るまでの過程だと言っていいでしょう。とにかく「一筋縄ではいかない」という印象がかなり強いです。というか、「先の展開がまったく読めない」と言えばいいでしょうか。
ミステリやSFなら理解できるけど、日常を舞台にした物語で「先の展開がまったく読めない」ってなかなか異常だよね
ホント、自分でも変だなって思うけど、でもそう表現するしかないよなって感じもする
そう思わせる最大の要因はやはり、主人公のサロールにあると言えるでしょう。というのもこの映画では、「サロールが自発的に行動する場面」がほとんどないからです。中盤以降は徐々にそういう状況も増えていくわけですが、序盤ではとにかく、サロールが自らの意思を何らかの行動に反映させるみたいなことが全然ありません。
あわせて読みたい
【感想】人間関係って難しい。友達・恋人・家族になるよりも「あなた」のまま関わることに価値がある:…
誰かとの関係性には大抵、「友達」「恋人」「家族」のような名前がついてしまうし、そうなればその名前に縛られてしまいます。「名前がつかない関係性の奇跡」と「誰かを想う強い気持ちの表し方」について、『君の膵臓をたべたい』をベースに書いていきます
それを象徴するシーンが、「父親から『お茶を持ってきて』と頼まれる場面」でしょう。とにかく彼女は家族に対しても、意思を見せるでも何か反発するでもなく、他人から言われた通りに動くのです(またこのお茶のシーンは、後に観客に笑いを引き起こす伏線としても機能します)。あるいは、それがどれだけおかしな状況であっても、カティアの誘いや命令を断ったりもしません。
主人公がある程度自発的に動かないと、普通は物語が展開していかないだろうからなぁ
さらに、結果としてサロールを大きく揺さぶることになるオーナーのカティアもまた、かなり謎めいており、「どんな行動を取るのか分からない」と思わせる人物なのです。実際にカティアがサロールに対して行う提案は、かなり突飛なものが多いと言えるでしょう。しかしそれに対してもサロールは、特に驚きを見せるわけでもなく淡々と無表情で付き従っていくわけです。その奇妙さが、作品全体の奇妙さに繋がっている感じがしました。
あわせて読みたい
【感動】円井わん主演映画『MONDAYS』は、タイムループものの物語を革新する衝撃的に面白い作品だった
タイムループという古びた設定と、ほぼオフィスのみという舞台設定を駆使した、想像を遥かに超えて面白かった映画『MONDAYS』は、テンポよく進むドタバタコメディでありながら、同時に、思いがけず「感動」をも呼び起こす、竹林亮のフィクション初監督作品
そして、そのような「訳の分からなさ」を積み上げていくことで、「いつの間にかサロールに変化の時がやってくる」みたいな展開になっていくというわけです。映画館で観ている時には、「サロールが突然変わった!」という印象だったのですが、しかしそれまでの描写を色々と思い返してみると、「なるほど、こういう結末に向けて物語が紡がれていたんだなぁ」と改めて全体を捉え直すことが出来ました。
ホント、大分変わった展開の物語だったなぁって気がする
あわせて読みたい
【感想】映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)の稲垣吾郎の役に超共感。「好きとは何か」が分からない人へ
映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)は、稲垣吾郎演じる主人公・市川茂巳が素晴らしかった。一般的には、彼の葛藤はまったく共感されないし、私もそのことは理解している。ただ私は、とにかく市川茂巳にもの凄く共感してしまった。「誰かを好きになること」に迷うすべての人に観てほしい
さて、劇中では定期的に、サロールが仲良さげに会話をする同世代だろう男の子が登場します。彼についてはこれと言って何も説明がなされないので、サロールとの関係性はちょっと良く分からないのですが、恐らく「幼馴染」なのでしょう。2人が会話を交わす場所はいつも同じで、お互いにタバコを吸いながら、特段意味があるとは思えないダラダラした会話を交わしているというわけです。
彼と話している時のサロールは、他の場面と比べて少しだけ雰囲気が違いました。「緩んでいる」とでも言えばいいでしょうか。無表情かどうかで言うなら、相変わらず無表情ではあるのですが、ただ他の場面における無表情とは少し意味が違うはずです。「気心知れた仲だから、無表情でも違和感がないし、むしろそれが親愛の情を示すことにも繋がっている」みたいな雰囲気を感じました。彼とどんな会話を交わしていたのか、その中身は忘れてしまいましたが、話している時の雰囲気の違いは結構印象的だったと言っていいでしょう。
あわせて読みたい
【映画】ストップモーションアニメ『マルセル 靴をはいた小さな貝』はシンプルでコミカルで面白い!
靴を履いた体長2.5センチの貝をコマ撮りで撮影したストップモーション映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』は、フェイクドキュメンタリーの手法で描き出すリアリティ満載の作品だ。謎の生き物が人間用の住居で工夫を凝らしながら生活する日常を舞台にした、感情揺さぶる展開が素晴らしい
「会話の中身を覚えていない」ってのも、「どうでもいい話をしていた」ってことだろうから、それはそれで正解って感じだよね
私も、仲が良い人との会話ほど「どうでもいいこと」を喋ってるから、中身をすぐに忘れちゃう
男の子と喋るシーンは、他の場面とは一切接続しない、かなり断絶した形で描かれるので、2人の関係がどんな風に展開していくのか(あるいはしないのか)、全然分からないまま観ていました。そしてラスト付近で、「なるほど、そうなるのか」という展開になっていくのです。映画全体を通して、この場面が一番「funny」だったなと思います。普通ならfunnyになるような状況ではないのですが、サロールのキャラクターもあって、実にfunnyな展開でした。
あわせて読みたい
【世界観】映画『夜は短し歩けよ乙女』の”黒髪の乙女”は素敵だなぁ。ニヤニヤが止まらない素晴らしいアニメ
森見登美彦の原作も大好きな映画『夜は短し歩けよ乙女』は、「リアル」と「ファンタジー」の境界を絶妙に漂う世界観がとても好き。「黒髪の乙女」は、こんな人がいたら好きになっちゃうよなぁ、と感じる存在です。ずっとニヤニヤしながら観ていた、とても大好きな映画
さらに、その幼馴染的男子との関係性の変化こそが、サロール自身の変化における「最後の起爆剤」になったという流れも実に面白かったです。サロールの「無表情のままあらゆる状況に突っ込んでいく」という突拍子も無さが上手く生かされた場面だし、結果として物語がとても上手くまとまった感じもしました。
実に魅力的な物語だと思います。
出演:バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル, 出演:エンフトール・オィドブジャムツ, 出演:サラントヤー・ダーガンバト, 出演:バザルラグチャー, 出演:バヤルマー・フセルバータル, 出演:ガンバヤル・ガントグトフ, 出演:ツェルムーン・オドゲレル, Writer:センゲドルジ・ジャンチブドルジ, 監督:センゲドルジ・ジャンチブドルジ
¥550 (2023/11/06 18:42時点 | Amazon調べ)
ポチップ
最後に
観ながら随所で、「映像の見せ方が上手いなぁ」と感じる場面がありました。例えば、「サロールの両親が、寝ている弟を静かに運んでくる」というシーン。この場面は、「弟を運んできたのがサロールの部屋である」ことを示唆して終わるのですが、それによって観客に「なるほどね」とあることをそれとなく伝えるシーンでもあるのです。直接的な描写を一切せずに観客にある事実を伝えるスマートさは見事だと思うし、そのような「見せ方が上手い」と感じる場面は結構多くありました。
あわせて読みたい
【驚異】映画『RRR』『バーフバリ』は「観るエナジードリンク」だ!これ程の作品にはなかなか出会えないぞ
2022年に劇場公開されるや、そのあまりの面白さから爆発的人気を博し、現在に至るまでロングラン上映が続いている『RRR』と、同監督作の『バーフバリ』は、大げさではなく「全人類にオススメ」と言える超絶的な傑作だ。まだ観ていない人がいるなら、是非観てほしい!
逆に言うと、「さりげなく何かを描いているんだけど、私がそれに気づいていないシーン」もあるかもだけど
また本作では、「音楽が流れるシーンでは、それを歌うバンドも登場する」という、かなり謎な演出がなされます。実際に観ないと、私が何を言っているのか上手くイメージ出来ないかもしれませんが、「サロール」と「音楽を演奏しているバンド」が同じ画面内に存在しているのです。どんな意図があってそんな演出にしたのかよく分かりませんが、私はこの演出、結構好きでした。普通なら違和感を覚えてもおかしくないと思いますが、この作品の雰囲気には合ってる感じがします。特に、草原で音楽が流れるシーンでは、映像の雰囲気も含めて、全体的にとても良いシーンに仕上がっていると思いました。
しかしまあ、なんとも変な映画です。そして、作中には様々な「変さ」が入り混じっているわけですが、そのすべてが見事に良い方向に絡まり合っていて、作品として上手く成立しているのだと感じました。モンゴル映画、侮れません!
あわせて読みたい
Kindle本出版しました!「それってホントに『コミュ力』が高いって言えるの?」と疑問を感じている方に…
私は、「コミュ力が高い人」に関するよくある主張に、どうも違和感を覚えてしまうことが多くあります。そしてその一番大きな理由が、「『コミュ力が高い人』って、ただ『想像力がない』だけではないか?」と感じてしまう点にあると言っていいでしょう。出版したKindle本は、「ネガティブには見えないネガティブな人」(隠れネガティブ)を取り上げながら、「『コミュ力』って何だっけ?」と考え直してもらえる内容に仕上げたつもりです。
次にオススメの記事
あわせて読みたい
【映画】ストップモーションアニメ『マルセル 靴をはいた小さな貝』はシンプルでコミカルで面白い!
靴を履いた体長2.5センチの貝をコマ撮りで撮影したストップモーション映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』は、フェイクドキュメンタリーの手法で描き出すリアリティ満載の作品だ。謎の生き物が人間用の住居で工夫を凝らしながら生活する日常を舞台にした、感情揺さぶる展開が素晴らしい
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『四畳半タイムマシンブルース』超面白い!森見登美彦も上田誠も超天才だな!
ヨーロッパ企画の演劇『サマータイムマシン・ブルース』の物語を、森見登美彦の『四畳半神話大系』の世界観で描いたアニメ映画『四畳半タイムマシンブルース』は、控えめに言って最高だった。ミニマム過ぎる設定・物語を突き詰め、さらにキャラクターが魅力的だと、これほど面白くなるのかというお手本のような傑作
あわせて読みたい
【実話】映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』(杏花主演)が描く、もの作りの絶望(と楽しさ)
実在したエロ雑誌編集部を舞台に、タブーも忖度もなく業界の内実を描き切る映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』は、「エロ雑誌」をテーマにしながら、「もの作りに懸ける想い」や「仕事への向き合い方」などがリアルに描かれる素敵な映画だった。とにかく、主役を演じた杏花が良い
あわせて読みたい
【天才】映画『リバー、流れないでよ』は、ヨーロッパ企画・上田誠によるタイムループの新発明だ
ヨーロッパ企画の上田誠が生み出した、タイムループものの新機軸映画『リバー、流れないでよ』は、「同じ2分間が繰り返される」という斬新すぎる物語。その設定だけ聞くと、「どう物語を展開させるんだ?」と感じるかもしれないが、あらゆる「制約」を押しのけて、とんでもない傑作に仕上がっている
あわせて読みたい
【感動】円井わん主演映画『MONDAYS』は、タイムループものの物語を革新する衝撃的に面白い作品だった
タイムループという古びた設定と、ほぼオフィスのみという舞台設定を駆使した、想像を遥かに超えて面白かった映画『MONDAYS』は、テンポよく進むドタバタコメディでありながら、同時に、思いがけず「感動」をも呼び起こす、竹林亮のフィクション初監督作品
あわせて読みたい
【驚異】映画『RRR』『バーフバリ』は「観るエナジードリンク」だ!これ程の作品にはなかなか出会えないぞ
2022年に劇場公開されるや、そのあまりの面白さから爆発的人気を博し、現在に至るまでロングラン上映が続いている『RRR』と、同監督作の『バーフバリ』は、大げさではなく「全人類にオススメ」と言える超絶的な傑作だ。まだ観ていない人がいるなら、是非観てほしい!
あわせて読みたい
【感想】のん主演映画『私をくいとめて』から考える、「誰かと一緒にいられれば孤独じゃないのか」問題
のん(能年玲奈)が「おひとり様ライフ」を満喫する主人公を演じる映画『私をくいとめて』を観て、「孤独」について考えさせられた。「誰かと関わっていられれば孤独じゃない」という考えに私は賛同できないし、むしろ誰かと一緒にいる時の方がより強く孤独を感じることさえある
あわせて読みたい
【考察】映画『哀愁しんでれら』から、「正しい」より「間違ってはいない」を選んでしまう人生を考える
「シンデレラストーリー」の「その後」を残酷に描き出す映画『哀愁しんでれら』は、「幸せになりたい」という気持ちが結果として「幸せ」を遠ざけてしまう現実を描き出す。「正しい/間違ってはいない」「幸せ/不幸せではない」を区別せずに行動した結果としての悲惨な結末
あわせて読みたい
【あらすじ】ムロツヨシ主演映画『神は見返りを求める』の、”善意”が”悪意”に豹変するリアルが凄まじい
ムロツヨシ演じる田母神が「お人好し」から「復讐の権化」に豹変する映画『神は見返りを求める』。「こういう状況は、実際に世界中で起こっているだろう」と感じさせるリアリティが見事な作品だった。「善意」があっさりと踏みにじられる世界を、私たちは受け容れるべきだろうか?
あわせて読みたい
【感想】湯浅政明監督アニメ映画『犬王』は、実在した能楽師を”異形”として描くスペクタクル平家物語
観るつもりなし、期待値ゼロ、事前情報ほぼ皆無の状態で観た映画『犬王』(湯浅政明監督)はあまりにも凄まじく、私はこんなとんでもない傑作を見逃すところだったのかと驚愕させられた。原作の古川日出男が紡ぐ狂気の世界観に、リアルな「ライブ感」が加わった、素晴らしすぎる「音楽映画」
あわせて読みたい
【無謀】園子温が役者のワークショップと同時並行で撮影した映画『エッシャー通りの赤いポスト』の”狂気”
「園子温の最新作」としか知らずに観に行った映画『エッシャー通りの赤いポスト』は、「ワークショップ参加者」を「役者」に仕立て、ワークショップと同時並行で撮影されたという異次元の作品だった。なかなか経験できないだろう、「0が1になる瞬間」を味わえる“狂気”の映画
あわせて読みたい
【抵抗】西加奈子のおすすめ小説『円卓』。「当たり前」と折り合いをつけられない生きづらさに超共感
小学3年生のこっこは、「孤独」と「人と違うこと」を愛するちょっと変わった女の子。三つ子の美人な姉を「平凡」と呼んで馬鹿にし、「眼帯」や「クラス会の途中、不整脈で倒れること」に憧れる。西加奈子『円卓』は、そんなこっこの振る舞いを通して「当たり前」について考えさせる
あわせて読みたい
【おすすめ】「天才」を描くのは難しい。そんな無謀な挑戦を成し遂げた天才・野崎まどの『know』はヤバい
「物語で『天才』を描くこと」は非常に難しい。「理解できない」と「理解できる」を絶妙なバランスで成り立たせる必要があるからだ。そんな難題を高いレベルでクリアしている野崎まど『know』は、異次元の小説である。世界を一変させた天才を描き、「天才が見ている世界」を垣間見せてくれる
あわせて読みたい
【感想】映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、「リアル」と「漫画」の境界の消失が絶妙
映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、「マンガ家夫婦の不倫」という設定を非常に上手く活かしながら、「何がホントで何かウソなのかはっきりしないドキドキ感」を味わわせてくれる作品だ。黒木華・柄本佑の演技も絶妙で、良い映画を観たなぁと感じました
あわせて読みたい
【生きる】しんどい人生を宿命付けられた子どもはどう生きるべき?格差社会・いじめ・恋愛を詰め込んだ…
厳しい受験戦争、壮絶な格差社会、残忍ないじめ……中国の社会問題をこれでもかと詰め込み、重苦しさもありながら「ボーイ・ミーツ・ガール」の爽やかさも融合されている映画『少年の君』。辛い境遇の中で、「すべてが最悪な選択肢」と向き合う少年少女の姿に心打たれる
あわせて読みたい
【世界観】映画『夜は短し歩けよ乙女』の”黒髪の乙女”は素敵だなぁ。ニヤニヤが止まらない素晴らしいアニメ
森見登美彦の原作も大好きな映画『夜は短し歩けよ乙女』は、「リアル」と「ファンタジー」の境界を絶妙に漂う世界観がとても好き。「黒髪の乙女」は、こんな人がいたら好きになっちゃうよなぁ、と感じる存在です。ずっとニヤニヤしながら観ていた、とても大好きな映画
あわせて読みたい
【考察】生きづらい性格は変わらないから仮面を被るしかないし、仮面を被るとリア充だと思われる:『勝…
「リア充感」が滲み出ているのに「生きづらさ」を感じてしまう人に、私はこれまでたくさん会ってきた。見た目では「生きづらさ」は伝わらない。24年間「リアル彼氏」なし、「脳内彼氏」との妄想の中に生き続ける主人公を描く映画『勝手にふるえてろ』から「こじらせ」を知る
あわせて読みたい
【あらすじ】濱口竜介監督『偶然と想像』は、「脚本」と「役者」のみで成り立つ凄まじい映画。天才だと思う
「映画」というメディアを構成する要素は多々あるはずだが、濱口竜介監督作『偶然と想像』は、「脚本」と「役者」だけで狂気・感動・爆笑を生み出してしまう驚異の作品だ。まったく異なる3話オムニバス作品で、どの話も「ずっと観ていられる」と感じるほど素敵だった
あわせて読みたい
【感想】映画『若おかみは小学生!』は「子どもの感情」を「大人の世界」で素直に出す構成に号泣させられる
ネット記事を読まなければ絶対に観なかっただろう映画『若おかみは小学生!』は、基本的に子ども向け作品だと思うが、大人が観てもハマる。「大人の世界」でストレートに感情を表に出す主人公の小学生の振る舞いと成長に、否応なしに感動させられる
あわせて読みたい
【情熱】映画『パッドマン』から、女性への偏見が色濃く残る現実と、それを打ち破ったパワーを知る
「生理は語ることすらタブー」という、21世紀とは思えない偏見が残るインドで、灰や汚れた布を使って経血を処理する妻のために「安価な生理用ナプキン」の開発に挑んだ実在の人物をモデルにした映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』から、「どう生きたいか」を考える
あわせて読みたい
【漫画原作】映画『殺さない彼と死なない彼女』は「ステレオタイプな人物像」の化学反応が最高に面白い
パッと見の印象は「よくある学園モノ」でしかなかったので、『殺さない彼と死なない彼女』を観て驚かされた。ステレオタイプで記号的なキャラクターが、感情が無いとしか思えないロボット的な言動をする物語なのに、メチャクチャ面白かった。設定も展開も斬新で面白い
あわせて読みたい
【無知】映画『生理ちゃん』で理解した気になってはいけないが、男(私)にも苦労が伝わるコメディだ
男である私にはどうしても理解が及ばない領域ではあるが、女友達から「生理」の話を聞く機会があったり、映画『生理ちゃん』で視覚的に「生理」の辛さが示されることで、ちょっとは分かったつもりになっている。しかし男が「生理」を理解するのはやっぱり難しい
あわせて読みたい
【あらすじ】天才とは「分かりやすい才能」ではない。前進するのに躊躇する暗闇で直進できる勇気のこと…
ピアノのコンクールを舞台に描く『蜜蜂と遠雷』は、「天才とは何か?」と問いかける。既存の「枠組み」をいとも簡単に越えていく者こそが「天才」だと私は思うが、「枠組み」を安易に設定することの是非についても刃を突きつける作品だ。小説と映画の感想を一緒に書く
あわせて読みたい
【正義】マイノリティはどう生き、どう扱われるべきかを描く映画。「ルールを守る」だけが正解か?:『…
社会的弱者が闘争の末に権利を勝ち取ってきた歴史を知った上で私は、闘わずとも権利が認められるべきだと思っている。そして、そういう社会でない以上、「正義のためにルールを破るしかない」状況もある。映画『パブリック』から、ルールと正義のバランスを考える
あわせて読みたい
【自由】幸せは比較してたら分からない。他人ではなく自分の中に「幸せの基準」を持つ生き方:『神さま…
「世間的な幸せ」を追うのではなく、自分がどうだったら「幸せ」だと感じられるのかを考えなければいけない。『神さまたちの遊ぶ庭』をベースに、他人と比較せずに「幸せ」の基準を自分の内側に持ち、その背中で子どもに「自由」を伝える生き方を学ぶ
あわせて読みたい
【現代】これが今の若者の特徴?衝撃のドキュメンタリー映画『14歳の栞』から中学生の今を知る
埼玉県春日部市に実在する中学校の2年6組の生徒35人。14歳の彼らに50日間密着した『14歳の栞』が凄かった。カメラが存在しないかのように自然に振る舞い、内心をさらけ出す彼らの姿から、「中学生の今」を知る
あわせて読みたい
【前進】誰とも価値観が合わない…。「普通」「当たり前」の中で生きることの難しさと踏み出し方:『出会…
生きていると、「常識的な考え方」に囚われたり、「普通」「当たり前」を無自覚で強要してくる人に出会ったりします。そういう価値観に合わせられない時、自分が間違っている、劣っていると感じがちですが、そういう中で一歩踏み出す勇気を得るための考え方です
ルシルナ
多様性・ダイバーシティ【本・映画の感想】 | ルシルナ
私は、子どもの頃から周囲と馴染めなかったり、当たり前の感覚に違和感を覚えることが多かったこともあり、ダイバーシティが社会環境に実装されることを常に望んでいます。…
ルシルナ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント