目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:大泉洋, 出演:有村架純, 出演:目黒蓮, 出演:伊藤沙莉, 出演:田中圭, 出演:柴咲コウ, Writer:橋本裕志, 監督:廣木隆一
¥2,500 (2023/10/02 20:41時点 | Amazon調べ)
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この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
大切な人とのかけがえのない時間を丁寧に描き出す魅力的な映画です
徹底して「生まれ変わり」の存在を否定し続ける主人公の振る舞いこそが、この映画を普遍的なものにしていると感じました
この記事の3つの要点
- 「生まれ変わり」をメインに据えたことで、結果的に「スマホのない時代の恋愛」を違和感なく描くことが出来ている
- 目黒蓮、有村架純、大泉洋、柴咲コウ、伊藤沙莉など、主要な役を演じる俳優の存在感がとにかく見事
- 私は「生まれ変わり」は信じないが、『月の満ち欠け』で描かれる現象の存在を否定するつもりもない
きっと、「こんな恋がしたい」「こんな夫婦でありたい」みたいに感じてしまう物語なのではないかと思います
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
「生まれ変わり」なんて一切信じていない私でも楽しめた映画『月の満ち欠け』の魅力
映画全体の良かった点について
とても素敵な映画でした。この映画は、物語の構成だけ取り出したら実は結構複雑で、場面によっては「回想シーンの中に、さらに回想シーンが含まれる」なんていう入れ子構造のような状態になっていたりします。かなり上手く構成しないと置いてけぼりにするような物語だと思いますが、実際に観れば、そんな複雑さを感じることはないでしょう。時系列が凄まじく入れ替わる物語でありながら、恐らく大体の観客は無理なく物語を追えるのではないかと思います。
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また、この映画のメインとなる設定は「生まれ変わり」ですが、この扱いも非常に上手かったです。世の中には私と同じように、「『生まれ変わり』なんて信じない」と考える人もたくさんいると思いますが、実は主人公の1人である小山内堅(大泉洋)も否定派なのです。徹底的に、「俺はそんなこと信じない」という立場を貫き続けています。そんな人物が主人公なので、「『生まれ変わり』なんて信じない」という立場の人でもすんなり物語を受け入れられるでしょう。物語は全体として、「『生まれ変わり』を一切信じようとしない小山内堅をいかに説得するか」というスタンスで描かれているので、どういうスタンスの人でも抵抗なく受け入れられるのではないかと思います。
一方で私は、「科学で説明し切れないものは、否定も出来ない」っていう立場なんだけど
「『生まれ変わり』を否定する根拠」も、今のところきっとないだろうしね
そしてこの物語の良さは、「『生まれ変わり』という設定を受け入れなくても、描かれる人間関係が素敵に感じられる」という点にあります。「『生まれ変わり』という現象を受け入れないとその良さが伝わらない関係性」が描かれているのであれば受け取り方は難しくなるでしょうが、決してそんなことはありません。小山内堅と梢の夫婦の物語も、その娘である瑠璃と親友ゆいの物語も、あるいはもう1人の瑠璃と三角哲彦の物語も、とても素敵です。そしてその素敵な関係性が、「もしかしたら『生まれ変わり』という可能性で繋がっているのかもしれない」と仄めかす設定や展開が、とても上手かったと思います。
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また、「生まれ変わり」を描くことで、副次的なメリットもあったと言えるでしょう。「生まれ変わり」を描く以上、どうしても長い年月を描く物語にならざるを得ませんが、だからこそ、「スマホのない時代の恋愛」を違和感なく組み込めていると言えるからです。スマホがあることによって生まれるドラマももちろんあるでしょうが、スマホがないからこそのシチュエーションもありますし、それらは「恋愛物語」を描く上で非常に重要な要素になったりもするでしょう。そこまで意図していなかったかもしれませんが、「生まれ変わり」という要素を組み込むことによって、結果として物語全体が芳醇になっていると言えると思います。
「人気だけではなく、実力も兼ね備えた俳優」をズラリと揃えた点も含め、「大ヒットが求められる系の映画」の中では、かなり良質な作品に仕上がっていると感じました。
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映画『月の満ち欠け』の内容紹介
小山内堅は、東京の大学に進学し、そのまま就職したのだが、その後地元・青森県八戸市の実家に戻ってきた。高齢の母をヘルパーに見てもらいつつ、漁港での仕事に従事している。
何故地元に戻ってきたのか。それは、愛する妻と娘を交通事故で喪ったからだ。高校時代にはほとんど関わりのなかった後輩・梢と東京の大学で再会した小山内は、ジョン・レノンが殺された年に梢と結婚し、その後一人娘の瑠璃をもうける。「瑠璃」という名前は梢が決めた。いや、正確には瑠璃が決めたのだそうだ。梢は小山内に、「夢の中でこの子が、『瑠璃って名前にして』と言ってきたの」と話す。「『瑠璃も玻璃も照らせば光る』の瑠璃だよ」と。
まだ小さい時に、瑠璃は高熱を出した。病院で診てもらっても原因がまったく分からなかったが、その後無事回復する。しかし、瑠璃の様子がおかしい。そのことに、梢は気づいた。知っているはずのない英語の歌を口ずさんでいたり、ジッポのライターの石を交換してみせたりしたのだ。さらにその後、小学生になった瑠璃が、1人で電車に乗り、高田馬場まで行ってしまうという事件が起こった。とあるレコード店をめがけて行き着いたというが、高田馬場など訪れたことがないはずなのに、どうしてそのレコード店の存在を知っていたのか分からないことは多い。
いずれにせよ、小山内は瑠璃に、高校を卒業するまで1人では遠くに行かないと約束させた。その後は、瑠璃の周りでおかしなことが起こったことはない。そして高校を卒業する直前、梢は妻と共に事故に遭い、この世を去った。
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八戸へと戻った小山内を訪ねてきた者がいる。男は三角哲彦と名乗った。そして、ジョン・レノンが殺された年に出会った1人の女性の話を語り始める。
大学生だった三角は、とあるレコード店で働いていた。そしてある雨の日、店先で雨宿りしていた名も知らぬ女性に一目惚れする。連絡先の交換をしないまま別れたが、その後偶然再会した。三角はやはり彼女に惹かれていることを自覚する。しかし、瑠璃というその女性は何かのっぴきならない事情を抱えているようで、それが障害になっているのか、三角の想いはなかなか彼女に伝わらない。
小山内は、目の前に座る青年の告白に面食らう。その話が自分とどう関わるのかまったく分からなかったからだ。そこで三角は驚くべきことを口にする。なんと、梢と瑠璃が事故に遭ったのは、2人が自分に会いに来る途中のことだったというのだ。三角は、梢から連絡をもらったのだという。
そんな馬鹿なことがあるはずがない。ジョン・レノンが殺された年に結婚した2人の間に生まれた娘と、ジョン・レノンが殺された年に大学生だった青年の間に、どんな繋がりがあるというんだ。
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三角はこう添える。「あなたの娘さんは、瑠璃の生まれ変わりなのではないか」と。
映画『月の満ち欠け』の感想
著:佐藤 正午
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この映画は、佐藤正午の小説が原作です。私は原作は読んでいませんし、映画がどこまで原作に忠実なのかも分かりませんが、映画を観て「さすが佐藤正午だな」と感じました。佐藤正午の小説は何作かしか読んでいないし、そのすべてが好きなわけでもありませんが、緻密な構成と繊細な人間の描き方はやはり絶妙だと思います。
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また、冒頭でも書いた通り、全体の構成がかなり複雑です。小説であればこれぐらい複雑な構成はあるでしょうが、映像で描くにはかなりハードだと思います。恐らく映画化にあたって、物語を理解してもらうための映像的な工夫をかなりしているのではないかと感じました。原作の良さと、映画化に際しての工夫が、絶妙に噛み合った作品なのではないかと思います。
小説の映画化は、上手くいかないことの方が多い印象あるけど、この作品は恐らく大成功と言っていいんじゃないかと思う
まあ、原作を読んでないからはっきりとは分からないけどね
作中で描かれる中で一番魅力的なのは、やはり三角哲彦(目黒蓮)と正木瑠璃(有村架純)の関係性でしょう。正木瑠璃については映画の後半で詳しく描かれるものの、三角哲彦視点で描かれる物語においては、正木瑠璃はとにかく「謎の女性」でしかありません。彼女が「何かを抱えている」ことは分かるものの、それが何かははっきりしないのです。大学生の三角哲彦にとっては、「自分が住んでいる世界の理屈ではきっとどうにもならない話なんだろう」と理解する以外にはなかったでしょう。しかしそれでも、「彼女のために何かしてあげられることはないだろうか」と考えてしまうのです。
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「何かを秘めている」が故に正木瑠璃は一層魅力的に映るわけで、「そりゃあ大学生だったらころっといっちゃうだろうなぁ」という感じが凄く伝わりました。また、近づきたいけど近づけない2人の関係性は演技からも見事に醸し出されています。たぶん、三角哲彦と正木瑠璃の話だけでも1本の映画を作れてしまうんじゃないでしょうか。とても素敵だと感じました。
また、小山内堅(大泉洋)と梢(柴咲コウ)の夫婦もとても素敵です。何よりも柴咲コウが良いなと感じました。なんとなく柴咲コウには、クールだったり厳しかったりする役のイメージがあるのですが、この映画の役はもの凄く柔らかい雰囲気の女性で、柴咲コウがその役にとてもハマっていたと思います。梢のそういう明るい存在感は、物語のラスト(この記事では触れません)にも直結する部分であり、とても重要だと言っていいでしょう。また、夫である小山内堅との関係性は、「幸せ」と題をつけて額縁に飾りたくなるぐらいのもので、「幸せの象徴としての『梢』」みたいな存在感を、柴咲コウがとにかく絶妙に演じていたと感じました。
柴咲コウってホント、あんまり笑ってない役が多い印象だったから、『月の満ち欠け』ではとにかく笑顔が印象的だった
変な話だけど、「柴咲コウが笑うと、こんなに柔らかい雰囲気になるんだ」ってちょっとビックリしたよね
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そんな梢と幸せな時間を過ごす小山内堅もとても良く、「幸せな家族」みたいな雰囲気が特別好きなわけではない私でも、「これは良い夫婦だなぁ」と感じるような存在でした。また小山内堅は、「妻と娘と共に幸せな時間を過ごす」のと、「妻と娘を共に喪って絶望の時間を過ごす」という両極端な状況を経験するわけですが、その振れ幅を大泉洋が絶妙に演じています。さらに、冒頭でも触れましたが、小山内堅というのは「『生まれ変わり』をまったく信じない人物」であり、そのスタンスが「生まれ変わり」に忌避感を抱く観客を物語に引き留める役割を担っていると思うので、そういう意味でも重要な存在と言えるでしょう。そのような難しい存在感を、大泉洋が見事に醸し出しています。
また、瑠璃の親友である緑坂ゆい(伊藤沙莉)も良かったです。物語が始まってしばらくの間は、彼女がそこまで重要な存在だとは思っていなかったのですが、物語を最後まで観ると、実は緑坂ゆいこそがすべての「起点」だったことが分かるでしょう。かなりの重要人物だと言っていいと思います。
ここで重要なのは、「そんな『緑坂ゆい』を誰が演じるのか」です。緑坂ゆいが重要な存在であるいう事実は、物語の冒頭の段階で観客が知る必要はありません。むしろそれを伏せておいた方が、物語的な起伏は大きくなると言えるでしょう。一方、物語は次第に「小山内堅 対 緑坂ゆい」という状況になっていきます。つまり、「大泉洋と対抗できるだけの存在感を持つ女優でなければならない」というわけです。
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そういう意味で、主役も張れるし脇役でも輝ける伊藤沙莉という選択は絶妙だったと感じました。もし緑坂ゆいを、常に主役を張るような女優が演じたとしたら、その重要性が最初の段階で明らかになってしまいます。かといって、知名度の低い女優では、後半の大泉洋との対立で釣り合いが取れなくなるでしょう。緑坂ゆいを伊藤沙莉が演じることで、そのどちらの要素もきちんと満たすことが出来るわけで、完璧な配役だったなと感じました。
伊藤沙莉って元々好きな女優だけど、この映画ではホント「絶妙!」って感じだった
伊藤沙莉以外に、緑坂ゆいを演じるのに適した女優って、ちょっとパッとは思い浮かばないよね
さて、映画には田中圭も出てきます。公式HPを見ればどんな役なのか書いてあるので伏せる必要はないのですが、この記事では一応、具体的な役には触れないでおきましょう。しかし田中圭の役がとにかく酷かったです。『哀愁しんでれら』でも酷い系でしたが、田中圭ってホントこういう役がハマるよなぁ。『月の満ち欠け』では、田中圭に対して「全部お前なんじゃん!」みたいに言いたくなってしまうような酷さがあります。しかし同時に、その「酷さ」がある意味では物語を成立させるのに不可欠な要素でもあるわけで、田中圭の役の存在感もまた重要になってくるわけです。しかし、何度も言いますが、田中圭の役は酷かったなぁ。
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『月の満ち欠け』はとにかく、「もしかしたら本当に『生まれ変わり』なんて現象が起こり得るのかもしれない」という可能性をじわじわと仄めかしていく作品です。そして、そこに説得力をもたせるには、「客観的な証拠」が必要になるでしょう。「誰かがこんなことを言っていた」とか、「私はあの時にこういうものを見た」のような、主観的な描写だけでは説得力がありません。だからこそ、客観的な要素が必要なのです。
『月の満ち欠け』にはそういう要素が散りばめられているわけですが、その使い方が非常に上手いと言えるでしょう。ビデオカメラ、写真、絵、テープレコーダーなど様々なツールを組み合わせながら、登場人物や観客を「こんな証拠があるってことは、『生まれ変わり』が起こったとしか考えられない」という思考へと導いていくのです。また、冒頭で「スマホがない時代の恋愛を描いている」と書きましたが、「客観的な証拠」という意味でもスマホのない時代を舞台にしたことは正解と言えるでしょう。今はスマホで何でも記録できる時代になりましたが、それでは少し味気ない感じがするからです。ビデオカメラ、テープレコーダー、カメラなど、様々な記録媒体に頼らなければならなかった時代を描いているからこそ、物語に「厚み」が出ているのではないかと感じました。
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仕方ないことだとはいえ、「スマホ」の登場は、色んな意味で「物語の面白さ」を破壊していくなぁって感じするよね
もちろん、スマホを上手く使う物語も存在するだろうけど、やっぱり「スマホがなかった不便さ」が生む物語の方が魅力的に感じちゃう
さてこのように、「客観的な証拠」によって「生まれ変わり」の傍証を積み上げていくわけですが、さらに、「客観的ではない要素」を提示することで観客の心を揺さぶる構成も上手いと感じました。作中には、「駅前でずっと待ってる」「心配させてごめんね」など、「客観性などない、誰かの記憶の中にしかない傍証」も多数出てきます。そして結果としてそれらが、「『生まれ変わり』が起こったかどうか」みたいな議論を超越したところで登場人物の心を揺さぶり、さらに観客の心を震わせることになるのです。
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これはもちろん、「客観的な証拠」によって「生まれ変わり」の傍証が丁寧に積み上げられていくからこそ機能する演出だと言えるでしょう。普通なら陳腐にも受け取られかねない要素を、ここぞという場面で絶妙な形で使い、理屈や信念を超越したところで心を震わせていくような展開が、実に上手いと感じました。
「生まれ変わり」についての私の考え方
さて最後に、「生まれ変わり」という現象について私がどのような認識を抱いているのかに触れて終わりにしたいと思います。
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冒頭でも書いた通り、私は「生まれ変わり」という現象の存在は信じていません。ただ、「『月の満ち欠け』で描かれているような状況が成り立つ可能性はゼロではない」とも考えています。何故なら、「人類がまだ認識できていない『記憶』のメカニズムが存在する可能性」を考慮しているからです。
「人跡未踏のフロンティアは『深海』『宇宙』『脳』ぐらいしか残されていない」みたいな話を聞いたことがある
「脳」ってホント謎の器官らしいし、だから「記憶」についてもどんなことが起こってもおかしくない気がしちゃうよね
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例えば私は、「誰かの記憶が、丸ごと(あるいは一部)別の人に移動する」みたいな現象が存在していても不思議ではないと思っています。何故なら、科学の世界では、「そんなことあり得ないだろう」と感じずにはいられない、不可思議で信じがたい現象が様々に知られているからです。
例えば「脳」についてならこんな話があります。恐らく多くの人は、「何かしよう(ペンを拾おう)」と意識した後で脳から行動の指令が出され、そして、「実際にその行動をする(ペンを拾う)」という順番で思考・行動が機能していると考えているでしょう。しかし脳の研究によってそうではないことが明らかになっています。実は、私たちが「何かしよう(ペンを拾おう)」と考える以前に、既に脳の中で「ペンを拾え」という指令が出ていることが明らかになったのです。つまり、「ペンを拾え」という指示を脳が出した後で「ペンを拾おう」という意識が生まれ、それから「ペンを拾う」という行動に繋がる、というわけです。
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では、「ペンを拾え」と指令を出したのは一体誰なのでしょうか? 「ペンを拾え」と指示が出た後で「ペンを拾おう」と意識するのだから、私たちの意識がその指令を出したわけではないことは明らかでしょう。正解は「無意識が指示を出した」です。私たちの「意識」は「無意識」に支配されているわけで、それは、「人間には『自由意志』など存在しない」ことを示唆してもいます。
あるいはこんな話も紹介しておきましょう。私たち人間は、世界を0.5秒遅れで捉えていることが明らかになってきています。つまり、実際に「テレビ画面が点いた」瞬間から0.5秒遅れて、私たちは「テレビ画面が点いた」と認識する、というわけです。
このような仕組みでも日常生活には特に影響を及ぼしませんが、スポーツではそうはいきません。例えば、時速140kmほどのボールが、ピッチャーマウンドからバッターボックスに到達するのに、約0.5秒掛かるそうです。つまり、私たちが0.5秒遅れで世界を認識しているのであれば、「『ボールがキャッチャーミットに収まった瞬間』にようやく『ピッチャーがボールから手を離した』と認識できる」ということになります。
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普通に考えて、これではバッターがボールを打てるはずもありません。しかし実際にバッターはボールを打ち返すことが出来ています。これもまた、脳の不可思議な性質を示すものと言えるでしょう。
この「原理的には、バッターはピッチャーが投げたボールを打てないはず」って話を知った時は驚いたよなぁ
科学者も、よくもまあ「人間は0.5秒遅れで世界を認識している」なんて事実に気づいたもんだよね
このように、「常識的な考え方から逸脱した現象」が様々に知られているので、「何らかのメカニズムで、誰かの記憶が別の人の脳へと移動する」なんて現象が起こっていても、私は特に驚かないと思います。そして、もしもそんな「記憶の移動」が起こっているとすれば、それは「生まれ変わり」としか表現できない状況を生み出すでしょう。
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私はこんな風にして、世の中で「不思議」とされている出来事が、何らかの形で科学的に解明される日が来るのではないかと考えているのです。そんなわけで私は、『月の満ち欠け』で描かれているような現象を否定するつもりはありません。
「記憶」に関しても興味深い話は色々とあります。例えば、以前テレビで、「科学者が驚いた事例」としてあるイギリス人女性の話が紹介されていました。その女性は、明らかに自分のものではない記憶を持っていることに気づきます。そして、その記憶の中の風景や家族構成などを頼りに実際に調査したところ、「本来その記憶を持っているはずの女性」の存在にたどり着きました。彼女が持っていた記憶から、その記憶を持っているはずの女性は亡くなっていることが推定されており、実際に亡くなっていたのですが、その女性の子どもたちと会うことが出来たのです。子どもたちは、「母親の記憶を持っているらしい、自分たちよりも年下の女性」と話す度に、「そこに母親の存在を感じる」と言っていました。詳しくは触れられていませんでしたが、恐らく彼女は子どもたちと、母親しか知らないはずの記憶について話したりもしていたのだと思います。
そんなわけで私は、映画『月の満ち欠け』のようなことだって、十分起こり得るだろうと考えているのです。
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「生まれ変わり」という非現実的な設定を中心に据えながら、その周辺に「魅力的な人間関係」を配置する構成の物語は、とても素敵なものでした。本当に「生まれ変わり」が起こっていたのかどうかはどうでもよくて、それは結局のところ「誰かを想う強い気持ち」を惹起するものとして描かれるわけで、その「想いの強さ」みたいなものがとても魅力的に映るのではないかと思います。
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