目次
はじめに
著:立川 談春
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ポチップ
この記事で伝えたいこと
両親から勘当されながら落語立川流の門を叩いた立川談春の壮絶・爆笑の修行時代
落語界の本流を外れた世界だからこその”異常な日々”がメチャクチャ面白い
この記事の3つの要点
- 「落語協会」を抜けた立川談志が創設した「落語立川流」だからこその2つの大きな特徴
- 「前座はアルバイト禁止」が不文律の落語界で堂々と働いていた立川談春
- 立川談志の異端児っぷり満載の、弟子にとっては壮絶な日々
破天荒でありながら、非常に理知的でもある「立川談志」の姿を、本書で初めて知りました
この記事で取り上げる本
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私は以前、立川談春の落語を聞いたことがあります。というか、初めて聞いた落語が立川談春でした。既に『赤めだか』を読んでいましたが、落語に関する素養はまったくなく、立川談春の落語についても「凄かった」という記憶はあるものの、具体的にはほとんど覚えていません。
せっかく聞く機会があったのだから、ちゃんと面白さが分かるぐらいにもう少し知識を持っていればよかったと後悔しています。自分が生きている間に、また聞く機会があるでしょうか。
どうせ取れないんだろうなぁとか思って試しもしてないんだけど
本書は、「天才」と呼ばれる落語家・立川談春が、さらなる天才・立川談志に弟子入りし、真打ちに駆け上がるまでのドタバタの日常を描いたエッセイです。二宮和也主演で映画化もされたのでご覧になった方もいるかもしれません。
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本書の内容に触れる前に、立川談春役を演じた二宮和也について少し書きたいと思います。この話は、「日曜日の初耳学」(TBS系)での林修との対談に立川談春が登場した際に語られていたものです。
映画を観た誰か(誰か忘れた)が、「立川談春を演じる二宮和也の落語」に驚いてしまいます。あまりに、昔の立川談春にそっくりだったからです。そこでその人物は立川談春に、「お前が稽古つけたの?」と聞きました。そうでもなければ理解できないと考えたのでしょう。
しかし立川談春は二宮和也に稽古などつけていません。映画のプロデューサーから、「談春さんの落語のテープを渡してください」とだけ言われたと語っており、彼が二宮和也に対して行ったのはたったそれだけのことでした。つまり二宮和也は、落語など経験したことがないはずなのに、立川談春が落語をやっているテープの音声だけを聞いて、「立川談春としか思えない」と言わしめるだけの完成度まで持っていってしまった、というわけです。
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凄まじいエピソードだなと感じました。
二宮和也は、演技の直前までゲームしてるとかで、それなのに演技になるとすぐに役に入れるって中島健人が驚いてた
この話、もちろん一番凄いのは二宮和也ですが、私はプロデューサーも凄いなと感じました。プロデューサーは、二宮和也から「テープがあれば大丈夫」と言われていたわけではないと思います。プロデューサー自身の判断で、「テープがあれば、彼は大丈夫だろう」と判断したはずです。その絶大な信頼感と、それに応える二宮和也の才能にちょっと驚かされました。
記事の冒頭から関係ない話で申し訳ありません。それでは『赤めだか』の内容の紹介に入ろうと思います。
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立川談志のあまりの異端さ
私は本書を読むまで、落語界の仕組みをほとんど理解していませんでした。その仕組みを知ると、なおさら「立川談志」という人物の異端さが理解できるようになるでしょう。
落語の世界には「落語協会」が存在し、落語家になりたい人は基本的にここに所属する形になります。落語協会に所属する落語家の中から師匠になってくれる人を探して弟子入りし、その後は「前座」として寄席に出て経験を積むわけです。それから、「二ツ目」「真打ち」と昇進していくのですが、その昇進を決めるのは落語協会ということになります。
これが一般的な落語の世界です。
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これはまあ、なんとなくイメージした通りではあったかな
もちろん、立川談志も元々は落語協会に所属していました。しかし彼は、色々あって落語協会を飛び出してしまうのです。そして、自ら「落語立川流」という新たな団体を作り、「落語協会」とは関係のない落語界を作り上げていくことになります。
立川談志がどんな落語をやっているのか知らなくても、この事実だけでいかに異端児であるかが理解できるでしょう。
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さて、落語協会を飛び出したことにより、落語立川流の弟子は落語協会に属する落語家と比べて大きく2つの点で違いが生まれることになりました。
1つは、弟子にとってはプラスの変化です。「二ツ目」への昇進基準が明確になりました。
落語協会に所属している場合、「どういう条件なら『二ツ目』や『真打ち』に昇進できるのか」が分からないそうです。これは、努力する側としてはなかなか難しい環境と言えるでしょう。しかし落語立川流の場合は昇進基準がとにかく明確にされています。それは、
古典落語を50席覚えること
だけです。これさえクリアできれば、弟子入りした順番も年齢も経験も一切関係なく、「二ツ目」に昇進できます。
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こんな風にしてくれると、「何を頑張ればいいか」がはっきりするからやりやすいよね
伝統芸能だからといって別に、お客さんから見えない部分まで古いままでいる必要はないしね
さてもう1つの変化の方は、弟子たちにとってはかなり大変なものでした。「寄席がない」のです。例えば東京には、浅草・上野・池袋などに「寄席」がありますが、これらは当然のことながら「落語協会に所属している落語家が出る場」です。落語協会を飛び出してしまった落語立川流には当然「寄席」に出る機会がありません。
落語家の弟子というのは普通、「前座」として様々な「寄席」に出ながら実力をつけていくものです。しかし落語立川流に試す場はありません。しかしそれ以上に、「やることがない」というのが大変です。もちろん、師匠である立川談志のお世話はするわけですが、それ以外に「やらなければならないこと」はありません。落語協会の弟子はとにかく時間がないものですが、落語立川流の弟子はとにかく時間が有り余っています。つまり、自ら生活を律し、自分の頭ですべきことを考えて落語家としての研鑽を積んでいかなければならないのです。
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立川談春は、そんな異端児・立川談志の元に弟子入りしたもんだから相当苦労することになります。そんな日々を描いたのがこのエッセイです。
できたばっかりの落語立川流に入ったから、大変さが分かってなかっただろうなぁ
ネットで調べると、落語立川流の設立が1983年、そして翌1984年に立川談春が弟子入りしてるね
立川談春の苦労
立川談春は、通っていた高校を中退し、17歳で立川談志に弟子入りします。両親からは勘当同然で追い出されたそうです。まあ、「落語家になる」と言って高校を中退するのは相当ヤンチャだと思うので、そのような厳しい扱いを受けても仕方ないかもしれません。
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ただ、「両親に勘当された」という事実は、立川談春にとって大きな苦労の元となってしまいました。
立川談志はそもそも「内弟子」を取りたがらなかったといいます。落語家の師弟関係というのは、「師匠の家に住み込んで家事など手伝いながら修行する」という内弟子スタイルが普通だそうですが、他人が生活に関わってくることを嫌った談志は、内弟子を取らなかったのです。
また立川談志はさらに、「弟子入りには親の承諾が必要」という条件もつけていました。未成年であれば当然の扱いでしょう。しかし立川談春は、勘当同然で飛び出してきてしまっています。それでもどうにか弟子入りの許可だけはもらえたものの、「内弟子を取らない」という立川談志のスタンスがさらに困難さに拍車をかけることになります。
というのも落語の世界には、「前座の身分ではアルバイト禁止」という、凄まじい不文律が存在するからです。師匠の家に住み込みできるならまだ生活も成り立つでしょうが、「内弟子」を嫌う立川談志の場合はそうもいきません。勘当されているので親元から通うわけにもいかず、立川談春には「働きながら落語家の修行をする」という選択肢しかなかったのです。
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そもそもアルバイトなんかしてる余裕がないぐらい忙しいってのもあるだろうけどね
本書を読んでると、「前座は人間じゃない」みたいな扱いをされてる印象があるんだよなぁ……
立川談春は、新聞配達の住み込みのアルバイトを見つけ、特例として働くことが認められます。しかし、なんだかんだすぐに辞めてしまいました。その後なぜか、「修行」と称して立川談志から築地で働けと命じられるなど、落語立川流の弟子の中でもなかなか経験がないだろう弟子時代を過ごしているのです。
ちなみに、立川談志の一番弟子として知られる立川志の輔は、脱サラして落語家を目指しました。当然、前座の間は無収入です。既に結婚していたというのですから、凄まじい決断だと言えるでしょう。立川志の輔は、2年という驚異的なスピードで「古典落語を50席覚える」という条件をクリアし、二ツ目に昇進しました。彼もまた、凄まじい落語家だと言っていいでしょう。
さて、立川談志は「内弟子」を取りませんでしたが、弟子はやはり師匠のお世話をします。にしても立川談志という男は、落語以外の部分でも常軌を逸していると言わざるを得ません。例えば本書には、立川談志が弟子に命じた指示の例が載っています。
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二階のベランダ側の窓の桟が汚れている、きれいにしろ。葉書出しとけ。スーパーで牛乳買って来い。庭のつつじの花がしぼんで汚ぇ、むしっちまえ。留守の間に隣の家に宅配便が届いてる、もらってこい。枕カバー替えとけ。事務所に電話して、この間の仕事のギャラ確認しとけ。シャワーの出が良くない上にお湯がぬるい。原因を調べて直せ。どうしてもお前達で直せないなら職人を呼ぶことを許すが、金は使うな。物置に写真が大量にある。外枠の白い部分が俺は嫌いだ、キレイにカットしろ。豚のコマ切れ百グラム買ってこい。スリッパの裏が汚ぇ、きれいにふいとけ。家の塀を偉そうな顔して猫が歩きやがる。不愉快だ、空気銃で撃て。ただし殺すな。重傷でいい。庭の八重桜に毛虫がたかると嫌だから、薬まいとけ。何か探せばそれらしきものがあるだろう。なきゃ作れ。オリジナリティとはそうやって発揮してゆくもんだ。
立川談志は、これをバーっと一息で言い切るんだそうです。しかも自分が言ったことを正確に覚えていて、後ですべてチェックするのだとか。いかに弟子たちが振り回されたのか、想像できるだろうと思います。
親元を飛び出して落語家を目指したこと、そしてあまりに異端すぎる師匠の存在、そういったことに翻弄されながらも、立川談春は落語修行に邁進していくことになるわけです。
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立川談志の凄まじさ
立川談春がどのようなドタバタ修行時代を過ごしたのかは、是非本書を読んでください。ホントにこんなこと起こったのだろうかと感じてしまうようなムチャクチャな世界が描かれており、落語のことを詳しく知らなくても楽しめると思います。
この記事では最後に、落語家としての立川談志の凄まじさに少し触れて終わろうと思います。
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まず、立川談春が師匠から落語の稽古をつけてもらった際のこんな言葉を紹介しましょう。
ま、こんなもんだ。今演ったものは覚えんでもいい。テープも録ってないしな。今度は、きちんと一席教えてやる。プロとはこういうものだということがわかればそれでいい。よく芸は盗むものだと云うがあれは嘘だ。盗む方にもキャリアが必要なんだ。最初は俺が教えたとおり覚えればいい。盗めるようになりゃ一人前だ。時間がかかるんだ。教える方に論理がないからそういういいかげんなことを云うんだ。いいか、落語を語るのに必要なのはリズムとメロディだ。それが基本だ。ま、それをクリアする自信があるなら今でも盗んでかまわんが、自信あるか?
このエピソードを読んで、立川談志というのは「教育者」としても非常に優れていたのだと実感させられました。「長嶋茂雄は選手としては天才だったけれど、指導者としては優秀ではなかった」みたいな話がありますが、これはまさに、「教える側に論理があるか否か」の違いなのでしょう。自身がプレイヤーであれば、その論理を掴めていなくてもセンスや感覚で出来てしまうことでも、「教える」となるとそうもいきません。立川談志は、「論理」をきちんと掴んだ上で落語をやっているからこそ、教育者としても優秀だったのだろうと感じました。
何かを教わるんであれば、こういう人に教えてもらいたいもんだね
世の中には、「◯◯コンサルタント」とか「〇〇コーディネーター」みたいな「自称」的な人が多いからなぁ
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また、「嫉妬とは何か?」に対する立川談志の考え方も非常に印象的でした。
己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱みを口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです。一緒になって同意してくれる仲間がいればさらに自分は安定する。本来なら相手に並び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。しかし人間はなかなかそれができない。嫉妬している方が楽だからな。芸人なんぞそういう輩のかたまりみたいなもんだ。だがそんなことで状況は何も変わらない。よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで仕方ない。現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う。
私は本書を読んでから、「現実は正解なんだ」という彼の言葉をよく思い出すようになりました。非常に真理を衝く、良い言葉だと感じます。確かに、ウダウダ文句を言ったところで何かが変わるわけではありません。「目の前の現実を『起こるべきではなかった不正解』」と捉えていても何も変わらないのですから、「目の前の現実は『起こるべくして起こった正解』」なんだと受け取って物事を考える方が健全でしょう。
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私はそもそも、「過去を振り返って後悔する」ってことがほとんどないんだよなぁ
後悔したところで意味がないって分かってるから、ほとんど振り返りもしないよね
立川談志は、非常に破天荒でハチャメチャに見えるのですが、本書を読んで、芯の部分は非常に真っ当な論理で組み上げられているという印象を強く抱きました。芸事の天才には、「論理などない、無鉄砲な破天荒さ」を発揮する人もいるでしょうし、そういう人はそういう人で興味深いと感じることもあります。ただ私は、「実はメチャクチャ考えている」というタイプの破天荒さの方が好きなので、立川談志に対してのプラスイメージが増しました。
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本書で描かれているのは、落語立川流が創設されたばかりの時代の話で、当然立川談志は存命でした。立川談志が亡くなった後、落語立川流がどんな風に変わったのか私は知りませんが、当然『赤めだか』で描かれているような世界ではないことだけは確かでしょう。その時その瞬間にしか成立し得なかった、いい意味でも悪い意味でも「奇跡」みたいな世界だったのだと思います。
そんな「特異な青春」を過ごした立川談春の凄まじいエピソードを是非読んでみてください。
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ルシルナ
文化・芸術・将棋・スポーツ【本・映画の感想】 | ルシルナ
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