目次
はじめに
この記事で取り上げる映画

「この夏の星を見る」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「コロナ禍」と「スターキャッチコンテスト」という組み合わせは見事すぎました
本作で初めて知った「スターキャッチ」は、茨城の高校が生み出した新競技です
この記事の3つの要点
- 「青春」とは程遠くならざるを得ない「コロナ禍」において、「ギリギリ青春」を目指そうとする若者たちの奮闘を描き出す物語
- 「離れた場所にいる人を単にオンラインで繋ぐだけじゃない」と実感させてくれる「スターキャッチコンテスト」の魅力
- 「コロナ禍」によって変容してしまった日常や人間関係の中で、どう前を向いて進んでいくべきかが描かれる
主演の桜田ひよりを始め、役者の演技も素晴らしく、とにかく最高すぎる1本でした
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「コロナ禍の青春を描く」という無理難題に対する圧倒的すぎる正解
本作『この夏の星を見る』では「コロナ禍における青春」が描かれています。主軸となるのはもちろん学生たち。コロナ禍についてはまだまだ記憶に新しいでしょうが、特に学生たちは「ありとあらゆる理不尽な制約」に晒され、「ほとんど身動きが取れない」みたいな状況に置かれていたはずです。もちろん、そんな日常は「青春」などと呼べるようなものにはならないでしょう。だから「コロナ禍」と「青春」は、基本的には取り合わない要素だと考えていいと思います。
しかし本作では、そんな「不可能」としか思えない「コロナ禍における青春」が「完璧すぎる!」と言いたくなるような形で描かれているのです。いやもちろん、私が知らないだけで、他にも「コロナ禍における青春」を描いた物語は色々と存在するのでしょう。しかし本作が素晴らしかったのは、「離れているのに繋がっている」という、「コロナ禍における青春」を描く上で絶対に避けては通れない難題を完璧にクリアしていることです。
そして私は、その「繋がっている」の演出がとにかく素晴らしいなと感じました。
正直、「これ以外に正解って存在する?」って思ったぐらいだよね
実在のモチーフを扱ってることも含めて、よくこんな物語が生まれたものだよなって感じする
さて、本作『この夏の星を見る』にももちろん、「離れた人同士をオンラインで繋ぐ」という状況が出てきます。コロナ禍を描く場合、これは避けられないでしょう。しかし本作は、単に「リアルの世界で繋がれないのでオンラインを使いました」なんて話ではありません。というのも彼らは、「空というリアルな空間で繋がっている」からです。つまり、「オンラインで繋がる」というのは「『リアルな空間で繋がっている』という状況をより明確に実感させるためのプラスアルファ」に過ぎないということになります。
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これは本当に見事だなと感じました。普段私たちは、「他者と空で繋がっている」などと実感することはないでしょう。しかし本作では、そんな広すぎて「共有している」などとは実感できない「空」が「人々を繋ぐ物理空間」としてはっきりと認識され、そしてそんな「空」を通じて「私たちは繋がっている」と実感できるような状況が描き出されているのです。この設定は、ちょっと完璧すぎるだろと感じました。
とはいえ、単に「みんなで星を観察しましょう」ってだけではこうはならないと思うんだよね
「同じ空を観てるんだ」って実感がちゃんと得られる設定が素晴らしかった
さて、本作で描かれるのは「スターキャッチ」という競技です。「手作りの望遠鏡を使って、指定された星を素早く望遠鏡内に”導入”する」というもので、私は本作を観てその存在を初めて知りました。ただ、まあそれも仕方ないかと思うぐらい、割と最近誕生したものらしく、どうやら2015年に茨城の高校で始まったのだそうです。
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しかし、この2015年というのは実に絶妙なタイミングだなと思います。本作では、コロナ禍に突入した2020年を主な舞台にしているのですが、その時点で「スターキャッチ」がそれなりには知られていないとなかなか物語としては成立しにくいんじゃないかと思うからです。そう考えると、2015年に生まれ、5年間の活動実績があるお陰で、「今までリアルでしかやったことのないスターキャッチをオンラインでやろう」みたいな話に説得力が生まれるなという感じがしました。
作中ではこの「スターキャッチ」について、女子高生の1人が「無課金でこんなに楽しめる星、推せるよね」と言っていて面白かったです。「凄く現代的で面白い捉え方」という感じじゃないでしょうか。しかし本作において「スターキャッチ」は、もっと切実なものとして扱われます。「何かしたいのに、何かしようとすることすべてを制約され続けた若者」にとって「『そんな制約下においても手応えを感じられる青春』として成立し得るだけの強度を持つもの」として登場するのです。
言い方が適切か分からないけど、「コロナ禍」と「スターキャッチ」という組み合わせ、相性良すぎる
「スターキャッチ」だけだと物語の要素としては正直弱い気がするけど、その背景に「コロナ禍」があることで見え方が全然変わるよね
ある状況で主人公の1人が、「今この瞬間に◯◯が観れたら、あまりに酷かったこの1年をギリギリ良かったって思えるかもしれない」みたいなことを言うシーンがあります。本作では様々な場面で「コロナ禍を生きる若者の実感」が挿入されるのですが、「スターキャッチ」に関係するものとしてはこのシーンが一番印象的でした。また作品全体においては、予告編でも使われていた「これ以上、私たちからもう、なんにも奪わないでほしい」というセリフの印象がとても強かったです。さらに、「そんな若者たちの『絶望』を、何十億年も昔から存在している星々の光が救っている」みたいな構図も、とても素敵だなと思います。
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作中には出てこなかったはずですが、予告でも公式HPでも「最高で、二度と来ないでほしい夏」というフレーズが使われていて、本当にその通りだなという感じです。ただ、登場人物の1人が「コロナ禍じゃなかったら、他の地域の人と(スターキャッチを通じて)知り合うこともなかった」と言っていたのも印象的でした。もちろん、全体としては「最悪」でしかありません。しかしそういう中でも良い点を探そうと思えば見つかるものだし、そういうささやかな「希望」が本作全体に散りばめられているところも凄く良かったなと思います。
私はホントに運良く、コロナ禍でも「ほぼノーダメージ」と言っていいような状況だったけど、コロナ禍に学生だったらたぶん詰んでたと思う
自分がどうにか状況に対応できてた自信はないし、だからコロナ禍をくぐり抜けざるを得なかった学生はホント凄いよね
映画『この夏の星を見る』の内容紹介
亜紗は子どもの頃から、ラジオで天文の話を聞くのが大好きだった。質問のハガキもよく送っていて、「月はどうしていつもついてくるの?」という自分が出したハガキが読まれたこともある。その日ももちろんリアルタイムで聞いていた亜紗は、スタジオから電話がかかってきて驚く。そして、ラジオパーソナリティでもある、高校の天文部の顧問・綿引先生と直接話が出来ることになったのだ。先生は「どんな紙でも、42回折ったら月まで届くんだよ」と興味深い話を色々としてくれて、亜紗の宇宙への興味はますます募るばかりである。
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だから亜紗は、綿引先生がいる茨城の高校に入学し、当然、天文部に入部した。彼女は、女性宇宙飛行士である花井うみかに憧れていることもあり、「天文部ノート」に「卒業までに達成すること」として「花井うみかに追いつく」と書いたほどだ。一方、同じく新入部員である凛久は同じノートに「ナスミス式望遠鏡を作る」と書いた。「座って観れるのがいい」のだそうだ。
しかしその翌年、コロナウイルスが世界を直撃する。2年生になった亜紗と凛久は、天文部の活動がほぼ行えない状況に陥ってしまった。観測はもちろんのこと、ナスミス式望遠鏡を作っていた凛久にしても、フレームの制作を依頼していた工場から「いつ再開できるか分からない」という連絡が来て進む気配がない。天文部は毎年、夏に合宿とスターキャッチコンテストを行っているのだが、その開催も絶望的だ。
一方、長崎・五島列島のある島では佐々野が苦しんでいた。コロナ禍以降、実家の民宿が「外からコロナを持ち込むな」と島民から非難されているからだ。そしてそのせいで、佐々野自身も学校などで敬遠されてしまっている。
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特に、幼馴染の小春から距離を置かれているのがきつかった。姉が介護施設で勤務、さらに祖父母と同居していることもあり、家族から「佐々野さんとこの娘とあまり仲良くするな」と言われているらしいのだ。2人とも吹奏楽部なのだが、小春からそんな風に言われてしまった佐々野は部活にも顔を出しづらくなり、ある日の放課後、1人で泣こうと自転車を飛ばして海岸までやってきた。
そこで、ランニング中の野球部の武藤と遭遇する。そして彼が、「来週、天文台で星を観る会があるから来いよ」と声を掛けてくれた。「島内で邪魔者扱いされている」と思っている佐々野は、フードで顔を隠しながら恐る恐る天文台へと足を運ぶ……。
東京では、サッカーを続けられなくなった1人の中学生がやるせない時間を過ごしていた。安藤は何故か、その年の新入生で唯一の男子だったようで(理由は分からない)、そして恐らく男子生徒が少ないせいだろう、サッカー部が無くなってしまったのだ。そのため彼は放課後の時間を、空き地で壁にボールを蹴って潰すしかなかった。
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そんな安藤に「理科部に入らない?」としつこく声を掛け続けたのが中井である。彼女はどうやら宇宙や天体に興味があるらしい。ただ、理科部への入部を希望する新入生が今のところ自分しかいないようで、それでどうにか安藤を引き入れようとしているのだ。
中井の勧誘には全然惹かれなかったものの、安藤はちょっとしたきっかけがあって理科部への入部を決めた。しかし、元々興味があったわけでもないから、何をしたらいいか全然分からない。そんな時、顧問の教師から様々なチラシを見せられつつ「興味があるものはないか?」と聞かれた。そしてその中に「スターキャッチコンテスト」のチラシがあったのだ。安藤はチラシを手に取った理由を「中井が興味持ちそうだなと思って」と話すが、その中井から「安藤がやるなら私もやる」と言われる。そこで意を決して、そのチラシに書かれた番号に電話してみることにしたのだが……。
「東京」と「茨城」の物語について
本作『この夏の星を見る』は、茨城・五島列島(長崎)・東京の3ヶ所で展開される物語なのですが、コロナ禍が舞台なので当然、個々の物語は直接的には交じりません。もちろん彼らは皆「スターキャッチコンテンツ」に参加し競い合うわけですが、そもそも物理的に距離が離れていることもあり、ルールや望遠鏡の組み立て方などの説明はすべてオンラインで行われます。そして彼らの物語は基本的に「スターキャッチコンテスト」でしか交錯しません。なので、本作では個々の物語が独立に展開されるという捉え方でいいでしょう。
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というわけで、まずは東京の物語から。ここでは、主人公の安藤と中井が中学生ということもあり、深刻すぎる話にはならないし、恋愛的な雰囲気もそこまでありません。そしてそういう感じが凄く良いなと感じました。「性差をあまり感じずに関われるギリギリの世代」だろうし、東京の物語では、安藤と中井の関係性がそういうシンプルなものとして提示されていたという感じです。
また、様々な状況において、大体の場合は「東京が有利」であることが多いはずですが、本作ではそれが逆転するのも面白いポイントだなと思います。東京は明るすぎて、「星を観測する」という意味では良い環境とは言えないからです。星には明るさの基準があって、1等級から数字が大きくなるにつれて「暗い星」ということになります。そして暗い星を見つけるほど点数が高くなるスターキャッチコンテストでは、東京はどうしても不利になるのです。
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ただそんな中でも、図鑑で見つけたある星(名前は忘れてしまいました)を絶対に導入したいと、中井が気合いを入れて練習していたのが印象的でした(そう、スターキャッチは競技なので、「練習の余地がある」というのもスポーツ的で面白いポイントです)。その星は暗いのでどうしても東京からは見えにくくなります。でも彼女は「茨城・長崎には負けない」という気合いで猛練習を重ねるのです。本作全体においては、安藤も中井も「競技としてのスターキャッチに純粋に向き合っている存在」として描かれている感じがあって、東京パートではそのシンプルさやピュアさが印象に残りました。
では次は茨城の物語。スターキャッチコンテストを生み出した高校が舞台であり(茨城だし、実在する高校をモデルにしているのでしょう)、本作における起点のパートになります。メインで描かれる亜紗と凛久の間にはなんとなく「恋愛っぽい雰囲気」があったりしますが、これについてははっきりとは描かれません(原作ではどうなんだろう)。2人には恋愛よりもまず「天文部でやりたいこと」が明確にあって、それに突き進んでいく姿が描かれるというわけです。
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そしてそういう中で少しずつ、「凛久には何かあるんだな」という描写が積み上がっていきます。しかし、それが何なのかはしばらく分かりません。近くにいた亜紗は恐らく、何かしらの違和感を覚えることもあったでしょう。でも、彼が置かれた状況について詳しく知らなかったが故に、ちょっとキツい当たり方をしてしまったこともあります。そのことを後悔した亜紗が、「私に何が出来ますか?」とずぶ濡れにまま訴えている姿はとても印象的でした。
全体的にだけど、主演の桜田ひよりの存在感が強かったよね
「顔の強さ」みたいなのもあるとは思うけど、それだけじゃないよなって感じ
そしてこの茨城パートでは、顧問の綿引先生も凄く良かったです。というか、綿引先生を演じた岡部たかしが絶妙なんだよなぁ。岡部たかしは私が見るドラマに出ていることが多くて(そりゃあ色んな作品に出てるだろうから当然だけど)、『エルピス―-希望、あるいは災い―』(カンテレ)や『キャスター』(TBS)なんかも凄く良かったです。ホント、「絶妙」としか言いようがない存在感を醸し出すんですよね。
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本作でも、決して出番の多い役ではないのですが、「強い印象を残しつつ、場面によっては空気にもなれる」みたいな押し引きが見事だなと感じました。失礼な言い方になるかもしれないけど、「いてもいなくてもいいような気がするけど、いたらその場の雰囲気が引き締まる」みたいな不思議な存在感を持っているという印象です。私が役者に詳しくないだけかもしれませんが、似たようなタイプをパッとは浮かべられないような役者だなと思います。
長崎の物語が一番好き
本作中で個人的に最も好きだったのが長崎(五島列島)のパートです。本作全体の背景となっている「コロナ禍」が最も如実に描き出されているパートでもあり、これは本当に嫌な状況だなと感じさせられました。
改めて、「コロナ禍って最悪だったな」って感じだよね
なんか「悪意を発露しても良い」的な雰囲気の社会だった気がするし、全体の空気がとにかく悪かったなって思う
民宿の娘である佐々野は、コロナ禍に突入したことで環境がガラリと変わります。民宿の壁には、島民によるものでしょう、「いつまで営業を続けるつもりだ」みたいな文言が書かれた貼り紙がびっしり貼られており、母親と2人で剥がしていました。コロナ禍には本当に様々なことが起こったけど、どちらの側にも「それまでの生活の延長線上にある正義」があったはずで、それらが対立してしまうからこその難しさがあったなと思います。
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ただ恐らく、それだけであれば佐々野にはそこまで大きなダメージではなかったはずです。よりしんどかったのは間違いなく、幼馴染の小春に距離を置かれてしまったことでしょう。これは本当に辛い状況だっただろうなと思います。
もちろん、小春の主張にも誰だって共感できるでしょう。私たちはコロナ禍で、「自分が感染すること」への恐怖も感じていたはずですが、それ以上に「自分のせいで他の誰かを感染させてしまうこと」をより恐れていたように思います。しかも、そうやって感染させてしまった人がもしも命を落としたとしたら、悔やんでも悔やみきれないでしょう。私はとにかく、それだけは避けたいと考えていました。多くの人も同じではないかと思います。だから、小春の判断に対しても「それは仕方ないよね」みたいな感覚になれるでしょう。同居する祖父母が、あるいは姉を通じて介護施設のお年寄りが感染してしまったら……。
全然レベルが違うのは分かってて言うけど、「ホロコーストってこんな感じなのかも」って思ったりもする
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さて、その後の展開はこんな感じです。天文台でのイベントの後、佐々野と、離島留学制度で県外から来ている男子2人の3人でスターキャッチコンテストへの参加を決めるのですが、その後開かれたオンラインでの説明会に、何故か小春もログインしていました。小春からは何も聞いていないけど、彼女も参加するのかな? ただ、野球部の練習で忙しい男子2人はそもそもあまり集まれないし、佐々野と小春の関係も特に修復されないままで、長崎チームはコンテストに向けた準備が全然進みません。
とはいえ、コロナ禍ってこともあって小春の方も身動きが取れないしなぁ
観ながら感じていたのは、東京・茨城の物語は「コロナ禍が『外的変化』を誘発し、それによって日常が激変した」という内容なのに対して、長崎の物語は「コロナ禍が『内的変化』を誘発し、それによって日常が激変した」という展開だったなということです。どちらの方が良い/悪いみたいな話ではありませんが、個人的には長崎パートが最も「コロナ禍」に焦点を当てているように感じられました。
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さて、そんな彼女たちのやり取りの中で一番好きだったのが、「夏休みが終わったら、一緒に部活戻ろうね」です。これは泣いたなぁ。この記事では、このセリフが出てくる状況について詳しくは触れないので、何がどう良いのか伝わらないと思いますが、メチャクチャ良かったです。
それで、この場面に影響するシーンとして、客席からかなり笑い声が上がっていた「佐々野と興のオンラインでのやり取り」を紹介しておきましょう。興は元々、佐々野と同じ高校に通っていた離島留学生だったのですが、休校中に東京の実家に戻った後で、「県外からの入県制限」に引っかかって五島列島に戻れなくなってしまいました。そのため彼は、東京のあるチーム(安藤・中井とは別)に合流する形でスターキャッチコンテストに参加するのです。
みんな笑ってた会話は今から説明する話と直接は関係ないけど、メチャクチャ良かったよね
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で、そんな興が、準備の進んでいない長崎チームの状況を心配して佐々野に電話するシーンがあります。そしてその中で佐々野について「グループ分けで1人余っちゃったみたいな場合にも、すぐに自分から動いてグループを代わったりする」みたいなことを言っていたのです。「なるほど、元からそういう性格だったからこそ、あの場面でああいうセリフが出てきたんだろうな」と感じました。とにかくメチャクチャ良かったです。
そんなわけで、全体的に素晴らしすぎる作品でした。
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最後に
どうでもいい話を1つ。「小春を演じていた女優に見覚えがあるなぁ」と感じつつ思い出せなかったのですが、エンドロールで「早瀬憩」と表示されてようやく、「なるほど、映画『違国日記』の人か!」となりました。ただ、東京の中学生を演じた女優(星乃あんなというらしい)も見覚えがあるのですが、こちらはどうにも思い出せず。残念。
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本作を観た時点で私は42歳。恐らく、「コロナ禍に学生時代を過ごさざるを得なかった気持ち」は永遠に理解できないでしょう。とはいえ、同じように「コロナ禍」を経験したことは確かだし、あの時突きつけられた様々な「制約」もちゃんと覚えています。なので、「そういう厳しい状況でも、『ギリギリ青春だと思えるような日々』を過ごそうと奮闘し続ける姿」は素晴らしかったし、とにかくグッと来る作品でした。
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