【究極】リサ・ランドールが「重力が超弱い理由」を解説する、超刺激的なひも理論の仮説:『ワープする宇宙』

目次

はじめに

この記事で取り上げる本

著:リサ・ランドール, 写真:ムコウヤマ シンジ, 写真:シオバラ ミチオ, 翻訳:向山 信治, 翻訳:塩原 通緒
¥2,074 (2021/08/06 06:11時点 | Amazon調べ)

この本をガイドにしながら記事を書いていきます

この記事の3つの要点

  • 一般相対性理論と量子力学は相容れない
  • ひも理論は、一般相対性理論・量子力学を融合させる可能性がある
  • ひも理論から導かれる「ワープする余剰次元」は、「重力の階層性問題」を解決しうる

一般相対性理論や量子力学など、現代科学の最前線の大本について深く理解できる一冊でもあります

自己紹介記事

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

リサ・ランドール『ワープする宇宙』から、「ワープする余剰次元」を理解する

本書『ワープする宇宙』の構成について

まずは、本書がどのような構成になっているのかから触れていこう。

本書は、科学者であるリサ・ランドールが1999年に提唱した「ワープする余剰次元」という仮説について、自ら説明する本だ。仮説そのものが書かれているのは、全6章のうち1章のみ。第1章から第4章で事前知識の説明をし、第5章が本題、そして第6章がまとめの章という形になっている。

そして本書は、もちろん本題の第5章も面白いのだが、第1章から第4章も見事なのである。

事前知識として、一般相対性理論・量子力学・ひも理論など、物理学における非常に大きな発見とその流れについて概説される。ある程度これらの知識がなければ「ワープする余剰次元」を理解できないのだが、本書を頭から読めば、本題である第5章を”一応”理解できるようにはなっている。

”一応”と書いたのは、事前知識として語られる部分が、非常に「難しい」からだ

しかしこの「難しさ」は、リサ・ランドールに責任はない。リサ・ランドールの説明が下手だから難しく感じられる、ということではないのである。むしろ、リサ・ランドールはこれほどわかり易く説明できるのか、と感じるぐらいだ。

一般向けの科学書では、「最新の科学理論は難しいから、喩えや簡略化などによって、簡易的に説明する」という方法を取らざるを得ない。ちゃんと理解しようと思ったら、やっぱりかなり難しいのだ。しかしリサ・ランドールは、可能な限り「簡易的な説明」を避け、難しい概念を難しいものとしてどう伝えるかに苦心していると感じられる。

そういう意味で本書は、「リサ・ランドールの仮説を知る」だけではなく、「一般相対性理論・量子力学・ひも理論などについて本格的に学ぶ入り口」としても非常に有効な一冊だと思っている。

一般相対性理論と量子力学の矛盾をひも理論が解消する?

この記事では、第1章から第4章の事前知識の部分に関してはほとんど触れない。しかし、まったく触れずに説明するのも難しいので、まずは、「ひも理論」と呼ばれる仮説がどのような立ち位置にいるのかを理解しよう。

20世紀物理学の至宝と呼ばれているのが、「一般相対性理論」と「量子力学」だ。非常に大雑把に説明すると、「一般相対性理論」は「天体などのメチャクチャ大きなものに適用できる理論」であり、一方の「量子力学」は「原子などのメチャクチャ小さなものに適用できる理論」である。

「一般相対性理論」と「量子力学」は、それぞれは非常に完成された理論だ。天体に一般相対性理論を適用して問題が起こることはないし、原子に量子力学を適用して問題が起こることもない。一般相対性理論はGPSなどに、量子力学は電子機器などに使われており、実用的な意味でも不可欠な理論と言える。

しかしこの2つの理論には、大きな問題があった。それは、「一般相対性理論と量子力学を同時に適用すると矛盾が生じる」というものだ。それぞれは完璧な理論なのに、この2つを同時に適用すると上手くいかないのである。

ちなみにこれは余談。アインシュタインが生み出した「相対性理論」には「特殊」と「一般」が存在する。そして、「特殊相対性理論」と「量子力学」については、ディラックという天才科学者が、同時に適用しても大丈夫な方程式を作り出し、科学界をザワつかせた。しかし、「一般相対性理論」と「量子力学」を融合することには、まだ誰も成功していないというわけだ。

ここで「ひも理論」と呼ばれる仮説が登場する。「理論」と名前がついているが、まだ実験・観測によってで正しいと検証されているものではない。本来的には「ひも仮説」とでも呼ぶべきだろうが、一般的には「ひも理論」と呼ばれている。

さらに再び余談だが、この「ひも理論」は「弦理論」とも呼ばれている。これは、呼び方が違うだけで同じものだと思ってもらっていい。また、「超ひも理論」「超弦理論」という名称も存在するのだが、これについては、「ひも理論」の発展版が「超ひも理論」だと思ってもらえればいいだろう。ただし「超」は「前の理論を超えている」という意味ではなく、「超対称性」の「超」から取られている。

「ひも理論」は、一般相対性理論や量子力学とはまったく関係ない分野から発展したものだが、やがて、「一般相対性理論と量子力学を融合させられる唯一の理論かもしれない」と期待されるようになる。その辺りの流れは是非本書で読んでほしいが、「ひも理論」は、「一時期衰退しながらも華麗な復活を遂げている」「しかし、実験での検証が不可能と考えられており、科学ではないという批判もある」など、様々な議論を巻き起こす存在だ。

リサ・ランドールは素粒子物理学と呼ばれる分野の研究もしており、その中に「ひも理論」も含まれている。彼女が提唱した「ワープする余剰次元」も、「ひも理論」の考え方から生まれたものだ。そういうわけで本書では、事前知識として「一般相対性理論」「量子力学」「ひも理論」が説明されることになる。

「重力」の重要難問「階層性問題」とは?

それらの事前知識を学んでいく中で、「重力」に関する非常に重大な問題が解説される。それが「階層性問題」だ。そして、この「階層性問題」を解消するためのモデルとして「ワープする余剰次元」を提唱した、という流れになっていく。

そこで継ぎはこの「階層性問題」について触れていこう。

まず、宇宙に存在する4つの力について説明する。宇宙には「重力」「電磁気力」「弱い力」「強い力」という4つの力が存在する(というか、この4つしか存在しない)とされている。「弱い力」「強い力」というのは変な名前だと感じるだろうが、どちらも正式名称である。

そして、現在の科学の「希望」として、「宇宙が始まった当初はこの4つの力が1つの力として存在しており、時間経過と共に徐々に分裂し、4つになったのだ」と考えられている。あくまでもこれは仮説であり、まだ科学者の妄想にすぎない。

この妄想を最初に提唱したのはアインシュタインであり、当時は「何を馬鹿なことを」といって非難された。しかし今では「科学における聖杯」、つまり「4つの力を統一することが科学の究極の目標」とさえ考えられている。

当初はアインシュタインの妄想にすぎなかったこの考え方は徐々に支持者を増やし、やがて「電弱理論」が生み出されるに至った。これは名前の通り「電磁気力」と「弱い力」が宇宙初期は同じ力だったことを証明した理論であり、この「電弱理論」が発表されたことで、「4つの力の統一も夢ではない」と受け取られるようになっていくのである。

しかし、4つの力の統一には、大きな大きな難問が存在する。それが「階層性問題」である。

4つの力が元々は同じ力だった、とするには、それぞれの力の大きさが極端に違っていると困る。例えば「体長1mの生物」と「体長1億×1億mの生物」が、元々同じ生き物でした、と考えるのは結構無理があるだろう。さすがに、もう少し同じぐらいの体長じゃないと、かつて同じだったとはなかなか信じ難いし、説明も難しい。

しかし、「重力」と「弱い力」の関係がまさにこうなのだ。重力は「プランクスケール質量」、弱い力は「ウィークスケール質量」と呼ばれるものでその大きさが決まるのだが、「プランクスケール質量」と「ウィークスケール質量」はなんと、「10の16乗(1億×1億)倍」も違う

科学者は、4つの力を統一するために、当然「重力と弱い力もかつて同じだった」と説明しなければならないが、そのためには、これほど大きさの違うものが同じ力だったと説明しなければならないのだ。

このように「重力」は、他の3つの力と比べて笑ってしまうぐらい弱い。この「重力があまりにも弱い」というのが「重力の階層性問題」と呼ばれているものである。

「ワープする余剰次元」の説明

「ブレーン」とは何か

それではここから「ワープする余剰次元」について説明していこう。しかし繰り返すが、この記事では事前知識に触れていないので、一般相対性理論・量子力学の知識がない人にはちんぷんかんぷんな単語が出てきたりもするだろう。その点はご容赦いただきたい。

「ワープする余剰次元」を要約すると、

二枚の性質の異なるブレーンによって、5番目の時空(バルク)を挟み込んだ余剰次元が存在する

となる。

まず「ブレーン」とは何かだが、これは「ひも理論」から導き出されるものだ。イメージとしては「膜」である(「ブレーン」とは「膜」という意味)。私が常にイメージしているのは、最近はあまり見かけない「ウォーターベッド」である。もう少し一般的なものでいえば「風船」だろう。

さて、本書で説明される「ブレーン」は実際のところ、「4次元のブレーン」である。しかし我々は4次元を思い浮かべられないので、1つ次元を下げて「3次元のブレーン」を考えよう。この場合は「風船」のイメージでいい。風船には内部の空間があり、それが風船で区切られ、その外側にも別の空間があるという捉え方だ。以下、この「風船」のイメージを使って説明していくが、本当は「4次元のブレーン」なのだということは理解しておいてほしい。

「ブレーン」は、力と粒子をその内部に留めておく性質を持つ。そして一方で、「我々が生きているこの宇宙そのものは、ブレーンの内部にある」と考えることができる。我々人間も「粒子」でできているので、我々を含めたこのブレーンの内部にあるほとんどのものは、ブレーンの外側に出ることはできないということになる。

要するにメチャクチャでかい風船の中に、我々が生きている宇宙(地球ではなくて宇宙)がすっぽり入っている、というイメージをしてもらえればとりあえずいい。

さて、この「ブレーン」を唯一すり抜けることができるものがある。それが「重力」である。先に書いておくと、これは「階層性問題を解消するための都合の良い設定」というわけではない。「ひも理論」において「ブレーン」の性質を調べると、「重力だけはブレーンの外に染み出すことができる」ということが分かった、ということだ。ここには、「閉じたひも」と「開いたひも」という2つの性質が関係しているのだが、この記事では省略する。

ここまでの話をまとめておく。力と粒子は「ブレーン」の内部から出ることができない。しかし「重力」だけは「ブレーン」をすり抜けることができる。そういう性質を持つ「ブレーン」という存在が、「ひも理論」から自然に導かれる、ということだ。

いかに「階層性問題」を解決するか

次に、この「ブレーン」が2つ向き合っているとする。ここでは、「風船」のような丸い形だと都合が悪いので、「風船」のイメージから離れてもらい、板状の「ブレーン」が2枚向かい合わせに置かれているような状況を想像してほしい。2個のドミノをちょっと離して置いている、というような感じだ。

この状況において、2枚のブレーンの間に「5番目の次元」が存在していると理解できるだろうか? 先程から繰り返している通り、1つ1つのブレーンは「4次元」である。そして一方のブレーンからもう一方ブレーンへと向かう「5番目の次元」がある。上手くイメージできないかもしれないが、とにかくそういうものだとして、この「5番目の次元」は「バルク」と呼ばれている。

そして、一般相対性理論の効果を考えることで、この2つのブレーンの間の空間(バルク)は、トランペットの口のような形に時空が歪曲(ワープ)していることが分かっている。ブレーンそのものが帯びているエネルギーが時空を歪ませるために、バルクはトランペットの口のような形になってしまう、ということだ。

これが、リサ・ランドールが考えた「ワープする余剰次元」のモデルだ。そしてこの構造を考えることで、重力がなぜこんなに弱いのかという「階層性問題」を解消することができる。その理屈はこうだ。

2つのブレーンが向き合っていると書いたが、両者の性質は異なる。一方は我々が生きているブレーン(これを「ウィークブレーン」と呼ぶ)だが、もう一方は「重力ブレーン」である。そして、「ウィークブレーン」で感じる「重力」は、実はこの「重力ブレーン」で生み出されていると考えるのだ。

その両者を繋ぐ空間は、トランペットの口のように歪曲している。これはつまり、「重力ブレーンでどれだけ大きな重力が作られても、その歪曲している空間を通ることで指数関数的に減少していく」ということだ。

だからこそ、「ウィークブレーン」で感じる「重力」は弱いのだ、という説明である。

もしこれが本当であれば、4つの力の統一の障害となっていた「階層性問題」は問題ではなくなる。確かに「ウィークブレーン」で感じる「重力」はメチャクチャ弱い。しかし、「重力ブレーン」で元々生み出される「重力」は、他の3つの力と比べて遜色ないぐらい大きいのだ。リサ・ランドールはこのように考え、「階層性問題」を解決しようとしているのである。

この仮説は検証できるのか?

ここで問題となるのが、「この仮説は検証可能なのか?」ということだ。そしてこれは、「ひも理論」そのものが常に受け続けている問いでもある。

「ワープする余剰次元」を検証するのは非常に難しいだろう。仮に世界がリサ・ランドールの言うような形になっていたとしても、我々は普通には「重力ブレーン」の存在を感知できない

なぜなら、先程書いたように、「ブレーン」からは重力以外出られないからだ。

私たちが何かを「見る」「観測する」方法は様々に存在する。自分の目で見たり、顕微鏡や望遠鏡などを使ってもいい。赤外線カメラや電波望遠鏡など、普通の可視光線以外のもので捉える方法もある。

しかしいずれにしても「見る」「観測する」ためには、「可視光線や電磁波などが物体に当たり、その反射光を捉える」必要がある

しかし、「ブレーン」からは重力以外出ることができない。可視光線も電磁波も、ブレーンの外に出ることはできないのだから、「重力ブレーンに可視光線や電磁波を当てて、その反射光を捉える」みたいなやり方では観測できないことになる。

しかし、可能性がゼロなわけではない。「重力で見る方法」が残されている

アインシュタインが予言し、100年近く経って初めて観測された「重力波」は、可視光線や電磁波と同じような働きが可能だ。可視光線や電磁波が届きにくい宇宙の領域というのは存在し、「重力波望遠鏡」によってこれまで見られなかったものを見る計画も進んでいる。

重力だけが「ブレーン」を出ることができるなら、「重力波を当てて、その反射光を捉える」というやり方で「重力ブレーン」を捉えられる可能性はあるかもしれない。

しかしそうだとしても相当難しいだろう。

このように「ひも理論」は、非常に斬新で魅力的な仮説を多数提唱するのだが、「実験での検証ができそうにない」という大きな問題を抱えている。しかし科学の歴史は、不可能を覆す歴史でもある。いずれ人類が、「ひも理論」の検証を行う実験に着手できることを期待している。

著:リサ・ランドール, 写真:ムコウヤマ シンジ, 写真:シオバラ ミチオ, 翻訳:向山 信治, 翻訳:塩原 通緒
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最後に

一般向けの科学書を結構読むが、現役の科学者自らが執筆することはそう多くないと思う(多くは、サイエンスライターと呼ばれる人の手によるものだ)。しかも、研究者が書いた本となると、専門用語だらけで難しいそうだとイメージするかもしれないが、まったくそんなことはない

一般相対性理論や量子力学そのものが非常に難解なので本書の記述も難しく感じるだろうが、リサ・ランドールの筆致は非常に易しいと感じる。記述のレベルを可能な限り落とさないまま、説明を可能な限り易しくしている一冊だと言えるだろう。

600ページを超える大著であり、雑学的な知識を得るためではなく、現代科学についてちょっと深入りしてみたいと感じる人がその一歩を踏み出す一冊として、非常に適切だと私は感じる。

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