目次
はじめに
著:久坂部 羊
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この記事で伝えたいこと
「どう死ぬか」を決めることが「どう生きるか」に繋がる
「治療を諦めること」が、ポジティブな選択肢として認識されるのがベストではないかと思う
この記事の3つの要点
- 抗がん剤は、思ったほど効かない
- 「治療ができない」=「死ね」という宣告に聞こえてしまう
- ありもしない希望を患者に抱かせる医師こそ「悪医」ではないだろうか?
真面目に患者のことを考える医師が「悪医」と判断されてしまう現実は辛い、と感じます
この記事で取り上げる本
著:久坂部 羊
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
私は医療関係者ではありませんので、この記事の記述は完全に「小説」からの受け売りです。この記事に書かれていることを鵜呑みにするのではなく、是非自分でも調べたり、医者に聞いたりするなどしてください。
ガンは治療しない方が長生きすると、久坂部羊『悪医』では主張されている
全国民が読むべき小説
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私は、自分がガンになったことはありませんし、周りにもいたことはないと思います。ガンという病気とは縁が薄く、実体験として知っていることはほとんどありません。それでも、本書で指摘される現実について「多くの人が理解するべきではないか」と感じましたし、「患者の無理解によって、患者自身が悪い状況に追い込まれている」という事実は、もっと広く知られるべきだろうと感じます。
もちろん、医療の進歩によって、この小説に書かれる「現実」はどんどんと変化するでしょう。しかし、ガンという病を直接的に撲滅できる未来がやってくるまで、状況は大きくは変わらないだろうと考えています。だからこそ、「どう生きるか」を考える上で、本書は読んでおくべきではないかと思うのです。
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「正しい患者になるための手引」だと私は思っています
でも、自分がガンになった時、ちゃんと「正しい患者」でいられるかね?
この現実を知った上でどう行動するかはそれぞれの生き方次第です。しかし知らないまま、自らの思い込みに囚われて誤った選択をしてしまうことは残念だなと感じます。
ちなみに本書は「小説」ですが、著者は現役の医師なので、根本的に誤ったことは書かないだろうと思っています。
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抗がん剤は、思ったほど効かない
実際、抗がん剤は一般の人が思うよりはるかに効かない
主人公の医師は、こんな風に考えています。私が本書を読んで一番驚いたのは、実はこの点でした。
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確かに、抗がん剤がすべての人に効くなんて考えていません。しかし、「もの凄く苦しい治療を、多くの人が選択しているのだから、それなりには効果があるのだろう」となんとなく考えてもいました。治療の効果が低いのに、わざわざそんな苦しい思いをしないだろう、と。
「抗がん剤の治療効果が低い」っていうのは、ちょっと嫌な事実だね
しかし、本書の医師によれば、そこには治療側の思惑もある、そうです。
さらに森川が疑問に思うのは、抗がん剤ではがんは治らないという事実を、ほとんどの医師が口にしないことだ(中略)
しかし、大半の患者は、抗がん剤はがんを治すための治療だと思っているだろう。治らないとわかって薬をのむ人はいない。この誤解を放置しているのは、ある種の詐欺ではないか
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こんなことを言われたら、医師はきっと反論したくなるでしょう。私はそんなあくどいことはしていない、と。ただ、悪い医者もいるということもまた事実です。そして本書ではまさにこの点、つまり「何をもって良い医者とするのか?」が問われます。
「先生は、私に死ねと言うんですか」
主人公の医師は、
がんの治療はある段階を越えたら、何もしないほうが長生きするんだ
ということを理解しています。だからこそ患者に対して、「これ以上の治療は止めて、残りの時間を有意義に使いましょう」と伝えるのです。この選択が患者にとって最善であり、つまりこれは、「良い医者」でありたいという彼自身の思いからくる発言です。
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しかし残念ながら、患者はそうは受け取りません。
「先生は、私に死ねと言うんですか」
患者にとっては、「治療を止める」=「死の宣告」でしかないのです。
確かに、自分が患者の立場だったら、そういう受け取り方になるかもしれない、って思う
ホント、この点は、メチャクチャ難しいなぁって、この作品を読みながら感じたよ
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この患者は、
先生。私は完全にがんを治したいんです。がんが消える薬に替えてください。そのためなら、どんなつらい副作用にも音を上げませんから。お願いします。この通りです
と懇願します。
この溝は、とても深いと言わざるを得ないでしょう。
テレビや書籍などでは、余命宣告されながらも長生きした人の話が取り上げられます。患者としては、可能性があると信じて進みたいでしょう。
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しかし医師には、学んできた知見も、自分が行ってきた経験もあります。もちろん、ある一人の医師の判断がすべてではありませんし、セカンドオピニオンを求める自由のも自由です。医師としては、様々な情報を総合し、治療するメリットとデメリットを比較して、患者にとって最適な判断を下すことしかできません。そして、残念ながらその結果が「治療しない方がいい」となってしまう場合もあるのです。
患者には、知見も経験もありません。そして、「今の医学ならガンぐらい治せる」という思いもあるでしょう。世の中にはガンを克服したという人がたくさんいるじゃないか、自分だってまだ可能性があるはずだ、先生こんなところで諦めないでください、頑張りますから。患者としては、そういう気持ちになって当然でしょうし、それでも「治療できない」と言われれば、そう主張する医師を「悪い医者」と思いたくもなってしまうでしょう。
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こんな風に、医師と患者の思いはすれ違います。
最善の選択肢を提示しているつもりだろうから、それを「手抜き」みたいに受け取られるのはしんどいだろうなぁ
何もしないでいることの方が辛い
さらにややこしいのは、そんな患者に「救いの手」を差し伸べる人物が現れることです。医師から「治療できない」と宣告された患者は、治療してくれる病院を探し、そして見つけます。患者はその医師を「良い医者」だと感じますが、読者には「悪い医者」にしか見えません。なぜなら、「ガンが治る」という希望を感じさせてお金をむしり取ろうとするからです。
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患者のためを思って「治療しないこと」を宣告する医師が「悪い医者」だと思われ、患者から金を取ろうとするだけの悪徳医師が「良い医者」と判断されてしまうというのは、非常に捻れた現象だと感じます。そして恐らく、このような現実が、日本中のあちこちで実際に起こっているのだろうと思うのです。
しかし、患者の、
副作用より、何も治療しないでいることのほうがつらい
という気持ちも分からなくはありません。病気に限りませんが、何か大きな不安に囚われている時に、「もはや成すすべはない」と思わされるのは辛いものがあります。そんな状態でいるよりは、「効果があるかもしれない何かを行うことで、僅かでもいいから希望を感じていたい」という気持ちが理解できる人は多いかもしれません。
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私は、セカンドオピニオンは求めるかもしれないけど、それでダメなら諦めるかなぁ
と頭では思ってても、実際そういう状況に直面したらどうなるか分からんよね
主人公の医師は、妻とも議論することになりますが、その妻もこんな風に言っています。
やっぱり無駄じゃないわよ。効果がなくても、治療をしている間は希望が持てるもの。希望は生きていく支えでしょ。それなしに時間を有意義に過ごせないわ。だって、好きなことをするといっても、絶望してたらだめでしょう
医師は、「残りの時間を有意義に過ごすべき」と主張しますが、妻は「希望がなければ有意義になんて過ごせない」と反論するのです。
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このジレンマを解決する方法は、実はあると私は思っています。それは、「抗がん剤だと偽って、無害な薬を出す」というものです。医師がガン治療に反対するのは、「抗がん剤の副作用がキツくて、それによって体調を悪くし、結果的に治療前より状態が悪化してしまうから」です。しかし、「偽抗がん剤」を与えればその問題はクリアできます。患者としても、「自分は今ガンの治療をしている」と希望が持てますし、お互いにメリットがあるでしょう。
しかし現実には、実行できないだろうと思います。というのも、「偽抗がん剤」だとバレたら大問題になるからです。このリスクを背負ってまで、「偽抗がん剤」を与える病院は存在しないでしょう。というわけで結局、医師と患者の溝は埋まらないまま、ということになってしまうのです。
一体、どうすればこの問題は解消されるのでしょうか?
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久坂部羊『悪医』の内容紹介
ここで改めて本の内容を紹介します。
著:久坂部羊
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物語は、35歳の外科医である森川良生と、52歳の胃がん患者である小仲辰郎の視点が交互に繰り返されることで進んでいく。
森川は2年前、小仲の胃がんを早期に発見し手術したが、11ヶ月後に再発、肝臓への転移が見つかってしまう。森川は可能性のある抗がん剤をいくつか試すのだが、どれも効果がなく、結局小仲に、これ以上の治療はできないと告げることになる。
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しかし小仲は、その言葉を「死の宣告」と受け取り、森川の態度を「医療放棄」と受け取った。まだ何かできることはあるはずだ。そう思った小仲は、治療してくれる病院を探す。
一方森川は、小仲に対してどうすべきだったかを考えていた。森川は、自分が最善の治療・選択をしたと考えていた。しかしそれなのに、小仲には受け入れられなかった。自分は、正しくないと分かっていながら小仲の治療を続けるべきだったのか? それが小仲の寿命を縮める結果になるかもしれないと分かっていても、別の抗がん剤を試すべきだったのか?
現状を受け入れないガン患者と、医療者としての正しいあり方に悩む医師の葛藤を描く物語。
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そしてやはり、医師の方に正義があるというのが今の私の感覚です。「死ねと言うんですか」という患者の気持ちも理解できなくはありませんが、しかしそれでも、真っ当な言動を取っているのは医師だよなぁ、と感じます。
自分がもっと「死」に近づけば、また感じ方が変わるかもしれません。それは分かりませんが、気分的にも、小仲のような患者にはなりたくないよなぁ、と考えてしまいました。
そもそも、「長生きしたい」とも思ってないんだけどね
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恐らく医療はこれからも進歩するでしょうし、いずれ人類はガンを克服するのではないかと思います。しかしその時にはまた、その時点での医療では対処しきれない病に人類は直面することになるでしょう。この作品で問われていることは、ガンの場合に限らず、人類が永遠に向き合わなければならない問題なのだと感じます。
だからこそ、そんな病に罹ってしまうずっと前に、本書を読んで自分に問いかけ、自分の考えを固めておくことは大事ではないかと感じます。
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最後に
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本書を読んで改めて、「どう死ぬか」は「どう生きるか」に直結すると感じさせられました。この小説で描かれている通り、抗がん剤ではガンは治らず、状態が余計悪化するだけなのであれば、残りの時間を有意義に過ごす方がやはり良いでしょう。
そしてそのためには、「避けられない死をどう受け入れるか」という点が非常に重要なのだと感じます。
「死」が意識される状況にいる人も、そうではない人も、「諦め」とは少し違う、死と向き合う「覚悟」を持つことの重要性を、改めて考えるきっかけになる一冊です。
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