目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「ビヨンド・ユートピア 脱北」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 脱北者支援を行うキム牧師の凄まじい経歴・情熱と、脱北ルートにカメラが密着するというあり得ない撮影手法
- 北朝鮮を知る様々な人が北朝鮮の現状を語ったり、隠し撮りされた衝撃映像が挟み込まれたりもするリスト
- 「北朝鮮による壮絶な洗脳」を実感させられる、脱北一家の祖母の驚くべき発言について
北朝鮮の酷さについてはそれなりに理解していたつもりだったが、本作によって改めてその悲惨さが突きつけられた
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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しかも驚くべきは、映画の撮影隊が脱北の過程に同行してカメラを回していることだろう。通常であれば、脱北者自身や同行するブローカーにカメラを渡して撮ってもらうぐらいが関の山に思える。しかし本作では、全ての映像がそうというわけではなさそうだが、基本的には本作の撮影クルーが脱北者に同行し、自らカメラを回しているのだ。あまりにも危険すぎるだろう。
また冒頭で、「本作で使われる映像は、実際の脱北の道程で撮影されたものである」という内容の字幕が表記された。これはつまり、「再現映像は含まれていない」という意味である。そのすべてが「リアルの映像」であり、この撮影に関わった全員が、まさに危険と隣り合わせで挑んだと言っていいと思う。
この事実を知るだけでも、どれほど凄まじいドキュメンタリー映画なのかが伝わってくるのではないだろうか。
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ちなみに、本作中で映し出されるのは、コロナのパンデミックによって世界中が国境を閉ざす直前までの状況である。後で詳しく触れるが、北朝鮮の国境を越えた者は、陸路でタイまで行かなければ安全を確保出来ない。そのためにはいくつもの国境を越える必要があるのだが、パンデミックによってこの陸路のルートが封じられてしまったのである。本作は、脱北を果たしたある家族の7ヶ月後の様子で終わるのだが、その時点では既に、脱北者の支援を断らざるを得ない状況になっていたようだ。映画公開時点で状況がどのように変化したのかは分からないが、いずれにせよ厳しい状況が続いていることに変わりはないだろう。
作中で映し出される2家族と、北朝鮮の現状について
本作『ビヨンド・ユートピア 脱北』は、脱北者支援を行う韓国人牧師キム・ソンウンの活動を追う作品なのだが、彼の紹介は後に回すことにしよう。まずは、本作で取り上げられる2家族に触れておこうと思う。
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一方は、10年前に脱北を果たし、今は韓国に住んでいるソヨンという女性。彼女は、今も北朝鮮に残っている息子の脱北を牧師に依頼した。ソヨンは脱北以来10年間息子と会っておらず、そのため現在の風貌さえ分からない状態だ。そして本作では、17歳になった息子の脱北の日程が決まり、その後の進捗状況が電話で伝えられる様子が映し出されていく。
そして本作のメインとなるのが、もう一方の家族の話だ。こちらも、先に1人で脱北していたヒョクチャンという男性からの依頼である。
北朝鮮では少し前に、「過去3年以内に脱北者を出した家族は、全員『追放リスト』に入れられる」ことが決まった。もちろん、ヒョクチャンの家族もその対象である。では、追放されるとどうなるのか。追放が決まった者は、何も無い雪深い山へと連れて行かれ、何も持たない状態で放置される。「その状態でここに住め」ということなのだが、もちろん生きていられるはずもない。つまり追放とは、実質的に「死刑」を意味するのだ。
北朝鮮にいるヒョクチャンの家族5人(母親と妹一家)は、この決定を知り絶望した。そして、このまま北朝鮮にいたらマズいと焦り、脱北を決断したというのだ。5人は既に、北朝鮮と中国の国境である鴨緑江を渡っており、中国の山中で立ち往生しているという。そのような状態でヒョクチャンがキム牧師に助けを求めたというわけだ。
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そして本作『ビヨンド・ユートピア脱北』においては、この家族の脱北の過程が中心的に映し出されるのである。両親と2人の娘、そして80代の祖母の5人は、50人以上のブローカーの協力を得て、4つの国境を違法に越える1万2000キロもの長大な旅に出ることになったのだ。
さらに本作では、そんな「リアルな脱北の映像」の合間に、「北朝鮮の現状を伝える映像」が挟み込まれていく。また、脱北後に『7つの名前を持つ少女』という本を出版し北朝鮮の悲惨さを世界に訴えるイ・ヒョンソを始めとする脱北者、あるいは元CIAや元北朝鮮駐在員などが登場し、北朝鮮の状況について様々に語る映像も挿入されるのだ。その中のある人物は、次のように語っていた。
著:イ・ヒョンソ, 翻訳:夏目大
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北朝鮮の行いは、現代史の中でも類を見ないものだ。唯一近いのはナチスドイツだけである。
日本人からすれば、「北朝鮮の酷さ」など分かりきったことでしかない。しかしそれは、北朝鮮が日本の周辺国だからであり、世界にはその酷さが伝わっていないこともあるのだと思う。そういう部分を、様々な映像や証言によって補強しているということなのだろう。
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そんなわけで本作を観れば、「北朝鮮の酷さ」を誰もが再認識できるのではないかと思う。
本作で映し出される脱北ルートと、キム牧師の情熱の源泉について
さてまずは、多くの人が抱くのではないかと思われる疑問を先に1つ潰しておくことにしよう。
本作では、北朝鮮から韓国への脱北が描かれる。しかし私は先程、「タイまで行かなければ安全が確保できない」と書いた。北朝鮮と韓国は陸続きなのだから、単純に考えれば、北朝鮮と韓国の国境を越えれば済むはずだ。なのに、どうしてタイまで行かなければならないのだろうか?
私は本作を観るまで知らなかったのだが、北朝鮮と韓国の間には、実に200万個もの地雷が埋められているのだそうだ。朝鮮半島が統一を果たしたらこの地雷を一体どうするのか気になるところだが、ともかくそのような理由から、直接韓国に渡ることは不可能なのである。そのため、北朝鮮からの脱北者は中国との国境を越えなければならないのだ。
では、そこからどのように安全なタイまで向かうのだろうか。
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まずそもそもだが、中国は脱北者にかなり厳しい対応を取っている。脱北者が中国国内で捕まった場合、拘束された後、北朝鮮へ強制送還されてしまうのそうだ。そして北朝鮮では、酷い拷問が待っている。命を落とすほどの拷問であり、仮に死ななかったとしても、「一生出られない収容所」へと送られて人生が終わってしまう可能性が高いという。だから、何があっても中国国内で見つかるわけにはいかないのだ。
しかし、中国を抜けたとしてもまだ安心は出来ない。中国を出た後は、ミャンマー、ラオス、ベトナムなどの国を経由するのだが、これらは中国や北朝鮮と同じ共産主義の国であり、やはり北朝鮮との関わりが密接だからだ。そのため、それらの国をどうにかかい潜り、安全なタイを目指さなければならないのである。
つまりこういうことだ。中国との国境を越えた脱北者は、広大な中国をどうにか通り抜けてベトナム入りし、それから夜中にジャングルを抜けてラオスへ入国する。そしてその後、麻薬の密輸を監視するタイ警察に銃で撃たれる覚悟をしつつ船に乗り、川を渡ってタイを目指さなければならないのだ。あまりに危険な、1万2000キロの旅路である。
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本作を観て驚いたのは、キム牧師がこの道程に途中から同行していることだ。普通に考えれば、脱北者支援の司令塔であるキム牧師は、韓国国内に留まって指示・決断・調整などをしている方が良いように思う。しかし恐らく、自身が同行することで依頼人や脱北者を安心させたいという気持ちがあるのだろう。あるいは、ブローカーが金だけ掠め取っていくようなことにならないように、自ら交渉の窓口に立つみたいな意図もあるのかもしれない。いずれにせよ、キム牧師も真っ暗なジャングルをひたすら彷徨ったり、銃で撃たれる覚悟で船に乗ったりと、この危険な旅路を共に進んでいくのである。
そんなキム牧師の来歴はなかなか凄まじい。彼は以前、鴨緑江を渡る脱北者に同行していた際に転倒し、首の骨を折ったことがあるという。9時間半にも及ぶ壮絶な手術を経て無事生還を果たしたものの、今も首には7本ものボルトが入っているそうだ。また、かつて北朝鮮で仲間が捉えられ、その際に拷問を受けキム牧師の名前を出してしまったことがあるという。恐らく、北朝鮮からそのような情報が中国へと伝わっているのだろう、キム牧師は「中国に入国したら命の保証は無い」と中国政府から直々に警告されているそうだ。そのため彼は中国国内の移動には同行せず、ベトナム辺りから合流することにしているのである。
しかしベトナム以降の国への入国が安全かというと、そうとも言えない。というのもキム牧師は、韓国政府から「ベトナム、ラオス、ミャンマー、タイには入国しないでもらいたい」と懇願されているからだ。どういう事情があるのか詳しく語られはしなかったが、恐らく、キム牧師に関して韓国政府がどこかから圧力めいたものを受けているのだと思う。しかしそのような状況にあってもキム牧師は、脱北者の支援を止めようとはしない。それほどの情熱がどこから来るのかと不思議に感じはしないだろうか?
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その背景についても彼自身が口にしている。キム牧師は22年前、キリスト教の布教のために中国入りし、その際に、北朝鮮と国境を接する町も訪れた。その時点では、「北朝鮮を『同じ言語を話す国』とは認識していなかった」のだそうだ。しかしその国境の町で、自分と同じ言語を話す幼い子が物乞いをしているのを見て衝撃を受けた。それが、北朝鮮の孤児だったのである。その時に見た光景が、彼の原動力の一端になっていることは間違いないだろう。
しかしより重要な点がある。なんとキム牧師の妻は脱北者なのだ。出会いについての詳しい説明はなかったはずだが、恐らく中国への宣教の際に出会ったのだろう。2人はお互いに一目惚れだったそうだ。しかし、解決しなければならない大きな問題があった。中国へ脱北してきた妻を、韓国まで安全に連れ帰らなければならなかったのだ。そこでキム牧師は周辺の国を綿密に調べ上げ、中国側へ逃れてきた脱北者が移動可能なルートを見つけ出したのである。この時の経験が、脱北者支援を行うキム牧師の原点になっているというわけだ。
その事実を知ってもなお、キム牧師の情熱には驚かされてしまうが、このような背景を持つ人物だからこそ、より安心して脱北の依頼を任せられるとも言えるだろう。本当に、凄まじい人物だなと思う。
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脱北に関わる様々な困難さ
さて、容易に想像出来るとは思うが、脱北者支援はとてつもない困難を伴うものである。
そもそもだが、脱北の手助けを行うブローカーは、単にビジネスとしてしか捉えていない。キム牧師も、「彼らは脱北者を金としか見ていない」と語っていた。若い女性の脱北者の場合、ブローカーが性産業などに売り飛ばすこともあるそうだ。一方で、本作で映し出される家族5人のように「売っても金にならない脱北者」もいる。そのような場合には、キム牧師のような「脱北者支援を行っている者」に連絡し、支援団体から金をもらうことでブローカーは収益を得ているというわけだ。ブローカーももちろん危険と隣り合わせなわけで、金をもらわなきゃやってられないというのも理解できるが、それにしても暗澹たる現実である。
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お金の話を続けると、中国はなんと「脱北者狩り」に報奨金を設けているのだそうだ。北朝鮮との国境に近い地域は農村が多く、中国政府が掲げている報奨金1万5000元は、地方の農村の半年分の収入に相当するという。となれば、脱北者狩りに躍起になるのも当然だろう。そのような「金に目がくらんだ者たち」をかい潜る必要があるわけで、この点もまた脱北の困難さを増す要素だと言える。
またブローカーに関しては、息子の脱北を依頼したソヨンの方でこのような言及がなされていた。彼女は随時、脱北に関わる様々な人物と電話で連絡を取り合うのだが、ある時連絡員の1人から、「このような状況になっており、対処するのにブローカーに金を払う必要ある」と告げられる。そこでソヨンは言われたまま金を送るのだが、その後カメラの前で次のように語っていた。
詐欺かもしれないけれど、ブローカーを信じるしかない。仕方ない。
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電話でしかやり取り出来ないのだから、金だけ奪って何もしていない可能性も十分にある。しかしそれが分かっていても、細い細い希望を託して金を送るしかないというわけだ。これらの描写からも、脱北がいかにビジネスになっているのかがよく分かるだろうと思う。
さて、本作を観て初めて知ったのが北朝鮮の電話事情である。ソヨンは頻繁に様々な人物から電話を受けるし、キム牧師も同様なのだが、その電話の多くは北朝鮮からのものである。つまり、北朝鮮国内にブローカーやキム牧師の協力者が多数存在しているというわけだ。どうやってそんな状況を成立させているのかは分からないが、とにかくそのような協力者が、警備の状況を伝えたり、賄賂を役人に渡して交渉するなどして、脱北に必要な状況を整えていくのである。
そしてその進捗状況が電話で随時伝えられるのだが、北朝鮮から電話してくる者は大体、「もう切らないと」「長くは話せない」みたいなことを口にしていた。初めはその理由がよく分からなかったのだが、この辺りの事情についても作中で説明されている。そもそもだが、北朝鮮には「携帯電話サービス網」のようなものは存在しないらしい。というか、「電話をすること」自体が違法とされているようである。そのため、「電話をしている姿」を誰かに見られるだけでもアウトなのだ。そりゃあ、すぐに切りたくもなるだろう。
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北朝鮮ではもちろん、住む場所を自由に選択できる人はそう多くはないだろう。つまりそもそもの話、ブローカーに脱北を依頼できる人はほんの一握りしかいないというわけだ。当然、ブローカーに金を払う必要もある。このように考えると、ほとんどの北朝鮮人は脱北など頭の片隅に思い浮かべることもなく死んでいくのだろうと思う。本作は確かに、脱北の壮絶な道程が映し出される作品ではあるのだが、別の見方をすると、そのような状況にたどり着けている時点でかなり幸運だとも言えるのである。この点だけからも、北朝鮮のあまりの酷さが窺えるのではないかと思う。
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作中で語られる「北朝鮮のヤバさ」
さて先ほども少し触れたが、本作では脱北の様子だけではなく、北朝鮮の現状についても様々な形で語られていく。例えば本作では、北朝鮮の実態を捉えた映像が多数使われているのだが、まずそれらに驚かされてしまった。スマホの登場によって隠し撮りはしやすくなっただろうが、それにしても今まで観たことがないような映像ばかりだったのである。本作中の断片的な映像だけからも、「こんな国家が現代に実在しているのか」と信じがたい思いを抱かされてしまうはずだ。
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また、本作では様々な人物が北朝鮮について語っているのだが、その中でもメインで扱われるのが、恐らく世界的にもかなり有名な脱北者なのだろうイ・ヒョンソである。先程、本の著者として紹介した人物だ。彼女は、「北朝鮮に住む者がどのような状況に置かれているのか」について、様々な実例を挙げて説明していた。
印象的だったのは、「日常の中で、どんな時に幸せを感じるか」に関する話である。彼女はこの点について、「他と比較する時」と語っていた。意味が分かるだろうか? 普通に考えれば、北朝鮮はあまりにも悲惨な国なのだから、「他と比較」などしたら、北朝鮮のヤバさが浮かび上がってしまいそうなものだ。しかし北朝鮮では、「アメリカ人は、人を見れば殺そうとする野蛮人だ」「韓国は、住む場所が無い人もたくさんいるような悲惨な国」などと、まったくの嘘が教えられている。そのため子どもたちは、「そんな酷い国と比べたら、北朝鮮は天国だ」と考え、「他と比較する時」に最も幸せを感じるというわけだ。
また彼女は、「北朝鮮で苦しい生活を強いられている者は、『他の国の人も、自分たちと変わらない生活をしているはずだ』と考えている」と語っていた。作中である人物は、北朝鮮のことを、「国外の情報を完全に排除している唯一の国」と表現していたが、そのせいで、「『労働に明け暮れ、食べ物も禄に無く、外の情報も一切入ってこない生活』とは異なる人生が存在する」ことさえ想像出来ずにいるというわけだ。イ・ヒョンソはこのような北朝鮮の現状を次のように表現していた。
北朝鮮の人々は、巨大な仮想刑務所に囚われている。
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写真については、「指導者の写真を、家の一番良い場所に飾らなければならない」という義務の話も出てきた。写真を収めた額縁にホコリが溜まっているなどもっての外で、指導部の人間が時々抜き打ちでやってきては、白い手袋をはめた手で額縁を撫でるチェックが行われるのだという。もちろん、ホコリが溜まっていたら厳しく罰せられるのだ。
また彼女は、「北朝鮮ではウンコを捨てない」とも話していた。農業で使う堆肥を作るのに、国から回収が義務付けられているのだ。簡素なトイレの下に木で出来た桶が置かれており、そこにウンコを溜めていくのである。冬の間に凍らせて指定の場所に運ぶのだが、量が少ないと罰を受けるため、なんと他人のウンコを盗むことさえあるという。比較対象が存在しない北朝鮮の人々がどのように認識しているのか分からないが、我々にはやはりとても悲惨な現実に感じられるだろう。
イ・ヒョンソはまた、日本が韓国併合によって朝鮮半島を厳しい状況に追い込んだ点にも触れている。やはり日本人としては、このような過去の歴史も踏まえた上で北朝鮮との関わりを考える必要があるのだろうと改めて実感させられた。
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北朝鮮による「凄まじい洗脳」
さて、予告でも使われていた場面だが、本作で最も興味深いと感じたのは、脱北を果たした5人家族の祖母に関する話である。
1万2000キロもの道程なので、脱北の過程では随時、支援団体が用意した隠れ家で休息を取っていた。そして恐らくその滞在中に、脱北者の家族それぞれがカメラの前で、北朝鮮についての思いを語るような状況になったのだと思う。本作では祖母のものしか使われていなかったのだが、その祖母の振る舞いが実に興味深かったのだ。
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さて、本作はアメリカ人(かどうかは分からないが、とにかく西洋人)監督による制作であり、恐らく、この撮影の際にも、西洋人のカメラマンやスタッフがその場にいたのだと思う。そして祖母は困惑しつつ、カメラの前で次のように語るのだ。
私は、「アメリカ人は人を見れば殺す人種」だと教わった。昨日私は娘に、「このアメリカ人たちは優しいんだろうけど、急に変わったらどうするの?」と聞いた。正直、私はどうなるのかよくわからない。
でも、あなたたちがこんなに優しいってことは、私の国がこれまでウソをついていたってことなのかと考えてしまう。
彼女は80年以上もイカれた環境下で生きてきたわけで、そう考えれば仕方ないのかもしれない。しかしそれにしても、北朝鮮国外に初めて出て、北朝鮮とは比べ物にならない様々な生活環境を目にした後でも、祖母の認知に変化がなかったことにやはり少し驚かされてしまった。洗脳の恐ろしさを目の当たりにしたという感じである。
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本当に、想像を絶する凄まじい世界だなと思う。
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キム牧師は、脱北者の支援活動を行っている最中、息子を亡くしたと語っていた。人生最大の苦しみだったという。そして、「息子の命の代わりに出来るだけ脱北者を救おう」と決意を新たにしたと口にしていた。息子の死から数えても、既に1000人以上の脱北者の手助けをしてきたそうだ。
本作は、そのような凄まじい人物に密着し、脱北の道程を収めた凄まじい作品である。このような北朝鮮の実態が世界中に広まることで一刻も早く北朝鮮が崩壊してほしいものだし、北朝鮮で今も苦しむ人たちがどうにか救われてほしいものだとも思う。
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弁護士であり、登録者数640万人を超えるYouTuberでもあるアレクセイ・ナワリヌイは、プーチンに対抗して大統領選挙に出馬しようとしたせいで暗殺されかかった。その実行犯を特定する調査をベリングキャットと共に行った記録映画『ナワリヌイ』は、現実とは思えないあまりの衝撃に満ちている
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アフガニスタンを追われた家族4人が、ヨーロッパまで5600kmの逃避行を3台のスマホで撮影した映画『ミッドナイト・トラベラー』は、「『難民の厳しい現実』を切り取った作品」ではない。「家族アルバム」のような「笑顔溢れる日々」が難民にもあるのだと想像させてくれる
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映画『アウシュヴィッツ・レポート』は、アウシュビッツ強制収容所から抜け出し、詳細な記録と共にホロコーストの実態を世界に明らかにした実話を基にした作品。2人が持ち出した「アウシュビッツ・レポート」こそが、ホロコーストについて世界が知るきっかけだったのであり、そんな史実をまったく知らなかったことにも驚かされた
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1964年の東京オリンピックを機に建設された「都営霞ケ丘アパート」は、東京オリンピック2020を理由に解体が決まり、長年住み続けた高齢の住民に退去が告げられた。「公共の利益」と「個人の権利」の狭間で翻弄される人々の姿を淡々と映し出し、静かに「社会の在り方」を問う映画
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在日コリアン4世の監督が、北朝鮮脱北者への取材を元に作り上げた壮絶なアニメ映画『トゥルーノース』は、私たちがあまりに恐ろしい世界と地続きに生きていることを思い知らせてくれる。最低最悪の絶望を前に、人間はどれだけ悪虐になれてしまうのか、そしていかに優しさを発揮できるのか。
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戦後の沖縄で、魚売りのおばぁが起こした「サンマ裁判」は、様々な人が絡む大きな流れを生み出し、最終的に沖縄返還のきっかけともなった。そんな「サンマ裁判」を描く映画『サンマデモクラシー』から、民主主義のあり方と、今も沖縄に残り続ける問題について考える
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「戦争の悲惨さ」は様々な形で描かれ、受け継がれてきたが、「戦争の虚しさ」を知る機会はなかなかない。映画『野火』は、第二次世界大戦中のフィリピンを舞台に、「敵が存在しない戦場で”人間の形”を保つ困難さ」を描き出す、「虚しさ」だけで構成された作品だ
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映画『食の安全を守る人々』では、世界的バイオ企業「モンサント社」が作る除草剤「ラウンドアップ」の問題を中心に、「食の安全」の現状が映し出される。遺伝子組み換え作物や輸入作物の残留農薬など、我々が口にしているものの「実態」を理解しよう
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第二次世界大戦で最も過酷な戦場の1つと言われた「前田高地(ハクソー・リッジ)」を、銃を持たずに駆け回り信じがたい功績を残した衛生兵がいた。実在の人物をモデルにした映画『ハクソー・リッジ』から、「戦争の悲惨さ」だけでなく、「信念を貫くことの大事さ」を学ぶ
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地方紙である「ボストン・グローブ紙」は、数多くの神父が長年に渡り子どもに対して性的虐待を行い、その事実を教会全体で隠蔽していたという衝撃の事実を明らかにした。彼らの奮闘の実話を映画化した『スポットライト』から、「権力の監視」の重要性を改めて理解する
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権力を持つ者のタガが外れてしまえば、市民は為す術がない。そんな状況に置かれた時、私たちにはどんな選択肢があるだろうか?白人警官が黒人を脅して殺害した、50年前の実際の事件をモチーフにした映画『デトロイト』から、「権力による不正義」の恐ろしさを知る
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「爆弾事件の被害を最小限に食い止めた英雄」が、メディアの勇み足のせいで「爆弾事件の犯人」と報じられてしまった実話を元にした映画『リチャード・ジュエル』から、「他人を公然と批判する行為」の是非と、「再発防止という名の正義」のあり方について考える
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【権利】衝撃のドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』は、「異質さを排除する社会」と「生きる権利」を問う
「ヤクザ」が排除された現在でも、「ヤクザが担ってきた機能」が不要になるわけじゃない。ではそれを、公権力が代替するのだろうか?実際の組事務所(東組清勇会)にカメラを持ち込むドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』が映し出す川口和秀・松山尚人・河野裕之の姿から、「基本的人権」のあり方について考えさせられた
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一時期メディアを騒がせた、佐村河内守の「ゴースト問題」に、森達也が斬り込む。「耳は聴こえないのか?」「作曲はできるのか?」という疑惑を様々な角度から追及しつつ、森達也らしく「事実とは何か?」を問いかける『FAKE』から、「事実の捉え方」について考える
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NSA(アメリカ国家安全保障局)の最高機密にまでアクセスできたエドワード・スノーデンは、その機密情報を持ち出し内部告発を行った。「アメリカは世界中の通信を傍受している」と。『シチズンフォー』と『スノーデン』の2作品から、彼の告発内容とその葛藤を知る
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『八月十五日に吹く風』は小説だが、史実を基にした作品だ。本作では、「終戦直前に原爆を落としながら、なぜ比較的平穏な占領政策を行ったか?」の疑問が解き明かされる。『源氏物語』との出会いで日本を愛するようになった「ロナルド・リーン(仮名)」の知られざる奮闘を知る
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インドの高級ホテルで実際に起こったテロ事件を元にした映画『ホテル・ムンバイ』。恐ろしいほどの臨場感で、当時の恐怖を観客に体感させる映画であり、だからこそ余計に、「逃げる選択」もできたホテルスタッフたちが自らの意思で残り、宿泊を助けた事実に感銘を受ける
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我々の日常生活は、原発が生み出す電気によって成り立っているが、核廃棄物の最終処分場は世界中で未だにどの国も決められていないのが現状だ。映画『地球で最も安全な場所を探して』をベースに、「核のゴミ」の問題の歴史と、それに立ち向かう人々の奮闘を知る
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