目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:シドニー・スウィーニー, 出演:ジョシュ・ハミルトン, 出演:マーチャント・デイヴィス, 監督:ティナ・サッター, Writer:ティナ・サッター
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 一言一句”正確に再現したやり取りを、ほぼリアルタイムの時間経過で描き出す、凄まじい構成の作品
- 実際の音声データを基にしているのだから当然だが、交わされるやり取りがとてもリアルである
- 主人公を”自白”に追い込むきっかけとなった印象深いやり取りについて
私は本作を観るまでリアリティ・ウィナーのことを知らなかったが、アメリカでは本作とは別に伝記映画の制作も決定しており、注目されているようだ
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
映画『リアリティ』は、「FBIが実際に録音した音声データ」を完全再現したという異色作。何故彼女は”反逆者”となったのか?
恐らく前代未聞だろう、衝撃的な構成の作品
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なかなかに凄まじい映画だった。特に調べたわけではないからあくまでも予想でしかないが、恐らく「前代未聞」と言っていい構成の作品ではないかと思う。
なにせ本作は、「FBI捜査官が録音していた音声データのやり取りを一言一句完全に再現した映画」なのである。そんな作品、まず存在しないだろう。
この音声データをどのような経緯で入手したのかは不明である。流出したのか、あるいはFBIが公開したのかなどについては分からないという意味だ。ただ、本作中でFBI捜査官から尋問を受けるリアリティ・ウィナーは、本国アメリカではかなり注目の存在だそうで(その理由は、本作を観れば理解できるだろう)、彼女への関心が悪い方向に向かないようにFBIが敢えて公開した、みたいな可能性もあるのではないかと感じた。
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そう感じた理由の1つは、音声の一部が意図的に”消されている”からだ。作中には、音声データを文字起こしした文面も時々表示されるのだが、音声が消されている部分は文面の方でも黒塗りになっている。となると、「FBIがオフィシャルに公開した音源で、一部都合の悪い部分だけ伏せている」と考えるのが自然ではないかと思う。とはいえ、音声が消されている箇所は本当にごく僅かである。ほぼすべてのやり取りが音声データとして公開されていると考えていいだろう。
本作のような試みがこれまで存在したことがないとは言い切れないが、普通に考えてなかなか存在し得ない作品と言えるだろう。本作は、分類上は「フィクション」なのだと思うが、実質的には「ドキュメンタリー」と呼んでいい作品だと私は考えているのである。
リアリティ・ウィナーは一体何をしたのか?
では、本作の主人公リアリティ・ウィナーは、一体何の嫌疑でFBI捜査官から尋問を受けているのだろうか? まずはその辺りの話から始めていこう。ちなみに公式HPによると、本作とは別に彼女の伝記映画の制作が決定しているそうだ。彼女は恐らく、アメリカでは「知らぬ者のいない人」なのだろう。しかし、私は本作を観るまで彼女の存在をまったく知らなかったし、恐らく多くの人も同じではないかと思う。ちなみに、「第2のスノーデン」とも呼ばれているそうで、その呼称から何をしたのか想像出来る人もきっといるだろう。
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25歳のリアリティ・ウィナーは当時、アメリカ国家安全保障局(NSA)の契約社員だった。諜報に関わる言語専門官のような立場で、普段はペルシャ語を英訳する仕事に従事している。他にも、ダリー語やパシュトー語なども得意だという。本当はアフガニスタンに派遣されるような仕事に就きたいと考えているのだが、その希望はなかなか叶わない。そのため、今はNSAで働いているというわけだ。
そしてそんな彼女はある日、ある情報をNSAから持ち出しメディアにリークした。リークしたのは、「2016年のアメリカ大統領選に、ロシアのハッカーが介入したかもしれない」という趣旨の報告書である。2016年の大統領選といえば、世界中が驚いた「ドナルド・トランプが大統領に選出された」時のものだ。そして彼女がリークした情報によって、「トランプ大統領の誕生は、ロシア政府によって仕組まれたものだったのではないか」という疑惑が生まれ、アメリカ中を大騒ぎさせることになったのである。彼女が、同じくかつてNSAに在籍していたエドワード・スノーデンにちなんだ呼ばれ方をされているのも納得と言えるだろう。
そんな彼女の元にFBI捜査官がやってきたのが2017年6月3日のこと。スーパーで買い物を終えたリアリティを、2人の男性捜査官が待ち受けていたのである。彼らはリアリティに、「君は機密情報の扱いを誤った可能性がある」と最初に伝えた。しかしそれからしばらくの間、核心となる話をしようとはしない。「令状はあるが、任意で協力してもらいたい」「ここで話してもいいし、我々のオフィスが近いからそこでもいい」「この犬は噛むか?」「食料品は、後で我々が冷蔵庫に入れておこう」「武器は持っているか?」など、世間話に近いやり取りが記録されていた。
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2人の捜査官以外にもFBIの人間が大挙して押し寄せており、令状を元に家宅捜索が進んでいる。どうやらそれが落ち着くまでは、直接的な尋問は行わないと決めているようだ。そして家宅捜索が一段落したタイミングで、本人の希望通り、彼女の家のほぼ使用していない部屋で事情を聞くことになるのである。
とてもリアルな臨場感が記録されている
本作ではまず、本格的な尋問に入る前のやり取りがなかなか興味深かった。そういうマニュアルがあるのかどうかは知らないが、これから話を聞こうとしている相手の気持ちをほぐそうと考えているのだろう、FBIとの会話とは思えないやり取りが展開されるのである。飼っている犬が保護犬であることや、ジムでウエイトリフティングをやっていることなど、事件そのものとはまったく関係ない話であり、当然、尋問の際にこの時の話題が蒸し返されることもない。本当に、「単なる雑談」という感じである。
しかしだからこそ、凄まじくリアルだとも思う。この冒頭のやり取りは特に「映画的ではない」と感じたのだが、やはりそれは「実際の音声データを再現している」からだろう。冒頭ではとにかく、「核心に触れない形で少し会話の糸口を探ろう」「可能な限り威圧感を抱かせないように関わろう」という、FBI捜査官のスタンスがよく表れていたように思う。
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もちろん、この録音はFBIによるものなわけで、となれば、「やり取りのすべてが記録されている状況で、問題になるような行動を取るはずがない」という穿った見方になってしまうのも当然だろう。しかし、これはあくまでも私の個人的な印象に過ぎないが、彼らは「記録されているから大人しくしている」というよりは、「本心を喋ってほしい」という気持ちでリアリティと接しているように感じられた。
実際、彼らがそのような考えを抱いていることは、リアリティにも直接的に伝えている。これは本格的に尋問が始まってからの話だが、「私たちは、ただ理由が知りたいだけなんだ」「君が黒幕だなんて思ってない」「してしまった行為は邪悪だと思うが、出来心だったのだろうと信じている」みたいなことを繰り返し口にしているのだ。この点もかなり印象的だった。
恐らくだが、FBIは本当に、「どうして”普通の女性”が、こんな大それたことをしたのだろうか?」と困惑していたのではないかと思う。作品全体から、そのような雰囲気が伝わってきた。本作の主人公は確かにリアリティ・ウィナーなのだが、「戸惑うFBI捜査官」もまた、陰の主人公と言っていいのではないかと思う。
FBIが彼女を追い詰めるきっかけとなったやり取り
さて、FBI捜査官がどんなやり取りの末にリアリティ・ウィナーを“自白”に追い込んだのか、その過程については是非映画を観てほしいと思う。ただ、彼らのやり取りの中で、後から振り返ってみて「なるほど」と感じる箇所があったので、その点には触れておくことにしよう。
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冒頭で触れた通り、私はリアリティ・ウィナーのことを本作で始めて知ったので、当然、彼女がどのように情報を流出させたのかについても知らなかった。FBI捜査官は、本格的な尋問が始まってからも核心を一気に衝くようなことはせず、かなり回りくどく話を聞き出そうとする。なので、私には「どうしてそんなことを聞くのだろう?」と理解できないやり取りもあった。ただ、映画を最後まで観た後思い返してみて、ようやく得心がいった場面がある。
捜査官はリアリティと最初に会った時点で「機密情報の取り扱いの話」だと告げている。そして本格的な尋問が始まると、「何か心当たりがあったら話してみてくれないか」みたいな感じで話を聞き出そうとするのだ。リアリティは、本当に思い出せないのか、あるいは忘れたフリをしているだけなのか何とも言えない雰囲気を醸し出しつつ答えをはぐらかしていく。そしてその上で、捜査官たちは改めて「機密情報の扱いで、何か過ちを犯さなかっただろうか?」と問うのである。
それに対してリアリティが、「そういえば少し前に、印刷した紙を持ってうっかりカフェに行ってしまった」という話をし始めた。情報の管理が厳しいだろうNSAには恐らく、「情報を印刷し、外部に持ち出してはいけない」というルールがあるのだと思う。彼女は、戻って来る際に警備員に見つかってしまったことに触れ、さらに「それ以降は、機密情報以外は『可愛い紙』に印刷することで区別出来るようにした」と語っていた。
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その後も捜査官は、「何か他に心当たりはないか?」と問うていく。リアリティは、一旦は「特に無い」と答えるのだが、それから思い出したようにポツリポツリと「仕事柄、印刷することは頻繁にある」「一度、ネットの記事を印刷して云々」みたいなことを口にするのである。
そのようなリアリティの返答を聞いていた捜査官は、次のように聞き返すのだ。
セキュリティについての話をしているのに、何故紙の話ばかりするのか?
この場面で私は、「なるほど、確かにそうだ」と感じた。「機密情報の取り扱い」と言われたら普通、「デジタルデータ」をイメージするだろう。しかし彼女は「『機密情報の取り扱い』に関して思い当たること」を聞かれているのに、ひたすら「紙」の話ばかりしていたのだ。捜査官の指摘は納得である。ただ正直なところ、私はこの時点でもまだ捜査官の真意が理解できておらず、これが重要なやり取りだとは認識できていなかった。
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そしてその後、「リアリティが、印刷した紙を外部に持ち出す形で機密情報を流出させた」という事実を知る。この時点で私はようやく、「リアリティは、自分の行動をきちんと覚えていたからこそ『紙』の話ばかりしてしまったのだろう」と理解できたのだ。このような展開も含め、とにかくリアルなやり取りが積み上げられていく作品なのである。
その他の気になったポイント
映画を最後まで観てもイマイチ理解できなかったのが、「令状があるにも拘らず、何故『任意』を強調していたのか」という点だ。あまり重要なポイントではないとは思うのだが、少し気になった。私が想定していたのは、「『任意である』と伝えることで、『あなたから無理やり話を聞き出そうと思っているわけではない』と意思表示しているつもりなのだろうか」ということだ。あるいはもしかしたら、日米の取り調べ等におけるルールの差だったりするのかもしれない。
あと、これこそどうでもいい話だが、「リアリティ・ウィナー」が本名であることに驚かされた。英語表記だと「Reality Winner」なので、直訳すると「現実 勝者」となるのだ。どことなく、彼女が犯した罪と重ね合わせて考えてしまいたくなるような名前ではないだろうか。また、人名から取った『リアリティ』という映画のタイトルが、作品が持つ「圧倒的なリアリティ」という性質をも表現しており、そういう意味でも「完璧」な名前だと感じた。
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リアリティ・ウィナーは逮捕・起訴され、最終的に、個人の情報漏洩罪としては史上最長となる懲役5年が言い渡されたという。本作のラストには実際のニュース映像が組み込まれており、そのニュース映像の中である人物が、「懲役刑の長さは恐らく、国民を萎縮させる目的があるのだろう」と語っていた。そのような邪推が生まれるのも当然と言えるだろう。
そして仮にその邪推が正しいのであれば、むしろ「逆効果」でしかないのではないかと感じた。
アメリカでリアリティ・ウィナーの伝記映画が制作される予定であることから考えても、彼女は国内で、ある種の”ヒーロー”的な扱いになっている可能性もあるだろうと思う。そしてもしそうなら、見せしめのように長い懲役刑を課すことは、「私たちのヒーローを懲らしめている」みたいな見え方にもなり得るのではないだろうか。そのような不満が堆積することで、より大きな動きが生まれてもおかしくはないように私には思えるのだ。
考えすぎだろうか?
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最後に
「FBIの音声データが使用可能だった」「主人公の本名がリアリティ・ウィナーである」なども含め、あらゆる要素が本作の成立を後押ししている感じもあり、まさに「生まれるべくして生まれた作品」という印象だった。そして、”一言一句正確に”など難しい制約を乗り越えた制作陣や役者の奮闘も見事だったと思う。色んな意味で、かなり奇跡的な作品と言っていいだろうし、何よりも「リアリティ」が凄まじい作品だった。
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東田直樹の著作を英訳し世界に広めた人物(自閉症児を育てている)も登場する映画『僕が跳びはねる理由』には、「東田直樹が語る自閉症の世界」を知ることで接し方や考え方が変わったという家族が登場する。「自閉症は知恵遅れではない」と示した東田直樹の多大な功績を実感できる
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どれだけ「天賦の才能」に恵まれていても「努力できる才能」が無ければどこにも辿り着けない。そして「努力できる才能」さえあれば、仮に絶望の淵に立たされることになっても、立ち上がる勇気に変えられる。映画『マイ・バッハ』で知る衝撃の実話
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「強盗や立てこもり事件などにおいて、人質が犯人に好意・共感を抱いてしまう状態」を「ストックホルム症候群」と呼ぶのだが、実はそう名付けられる由来となった実際の事件が存在する。実話を基にした映画『ストックホルムケース』から、犯人に協力してしまう人間の不可思議な心理について知る
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