目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「チョコレートな人々」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報を御覧ください
この記事の3つの要点
- 大学時代、障害者の給与の実態を知り衝撃を受けた夏目浩次は、「障害の有無に関係なく、誰もが同じように働ける職場作り」を身銭を切って目指すようになる
- 「チョコレート」という商材に出会ったことで、困難な道のりに一筋の可能性を見い出せるようになった
- 「環境に人を合わせる」のではなく、「人に環境を合わせる」というやり方を貫く凄まじさ
記事中に詳しく書いた通り、映画のタイトルは良くないのですが、内容はとても素晴らしかったです
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
”凄い会社”の”凄い社長”の物語!久遠チョコレート・夏目浩次が覚悟を持って臨む「障害者雇用への挑戦」を映し出す映画『チョコレートな人々』
物凄く良い映画だった! 思いがけず素敵な作品に出会えたという感じである。しかし理由は後で書くが、こんな素晴らしい映画を危うく見逃すところだった。映画のタイトルが、非常に悪いのだ……。
映画『チョコレートな人々』は東海テレビ制作のドキュメンタリーである。そして、東海テレビ制作の映画は配信やDVD化がなされていない。本作上映後に監督の舞台挨拶があったのだが、その中で「東海テレビのドキュメンタリー映画は映画館での上映しかやらない」と語っていた。ポレポレ東中野というミニシアターとの縁でドキュメンタリー映画の制作を始めることになったらしく、そのこともあって配信等はやらないのだ、と。
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つまり、観るためには劇場上映されるのを待つしかない。なので、もしも観られる機会があるなら是非観て欲しいと思う。とんでもない人物がとんでもない挑戦を成し遂げ、さらにそれを押し広げようとしている様が映し出される作品であり、なかなか異端的な改革者である。このような人物のことは、知識として知っておいた方がいいだろう。
「障害者雇用」のために奮闘し続ける夏目浩次の凄まじさ
映画『チョコレートな人々』は、夏目浩次という人物を追う作品だ。彼は「久遠チョコレート」というチョコレートブランドを展開している。
Magic of Chocolate|QUONチョコレ…
彼が手掛ける会社の凄まじさは、なんと言っても障害者雇用の数だろう。なんと、全従業員の6割が障害者なのだ。また、シングルマザーなど女性の雇用にも力を入れており、全従業員の9割が女性であるという。恐らく従業員のほぼすべてが、「男性の障害者」「女性の障害者」「女性」のいずれかに分類されるのではないかと思う。
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会社の規模は決して小さなものではない。今では、全国の福祉事業所と提携しながら、北は北海道から南は鹿児島まで57の拠点を持ち、年間16億円の売上を有する企業になっている。それを、ほぼ「障害者」と「女性」だけで成り立たせているのだ。もちろん搾取などしていない。全従業員に対し、それぞれの都道府県における最低賃金を保証しているのである。
夏目浩次はとにかく、「障害のあるなし関係なく、誰もが同じように働ける環境をどう作ればいいか」を日々考えている人物なのだ。なにせ、彼が「チョコレート」という商材に辿り着いた理由がなんと、「障害者を雇用する場を作るため」だったというのだから、その信念たるや凄まじいものがあると思う。
彼が障害者雇用に力を入れるきっかけとなったのが、大学時代の経験だ。彼はバリアフリー建築について学んでいたのだが、その過程で障害者の低賃金の実態を知った。なんと、1ヶ月働いても5000円程度しかもらえないというのだ。その現実を知った夏目浩次は、「そんな世界はおかしい」と考える。そして、「だったら、障害があっても働ける場を自分で作ればいい」と決断したのだという。
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彼が最初に始めたのはパン屋だった。3人の障害者を雇い、夏目浩次を含めた6人で店を回して最低賃金の給料を出すという計画だ。しかし、やはり現実は厳しかった。彼は結局最後まで、自分の分の給料を出すことが出来なかったそうだ。銀行がお金を貸してくれなかったため、消費者金融のカードを6~7枚持ち、数千万円の借金を抱えてもいた。とてもまともな状態とは言えない。その後も、障害者雇用が実現出来るようにと様々な事業に挑戦するも、なかなか上手く行かずにいた。
そのような状況にあった2014年、彼はようやくチョコレートに辿り着く。トップショコラティエ・野口和男と出会ったのである。そして、彼からチョコレートについて学ぶことで、「これこそ、障害者雇用に最適の商材だ」という考えに行き着いたのだ。
まず、チョコレートの製造にはかなりの工程数があり、それぞれに異なる技術が必要とされる。もちろん、それをすべて1人でやろうとすれば大変だ。しかし、すべての工程を分業制にして、それぞれの障害者の特性に合った配置をしながら得意なことをやってもらえれば、誰もが働ける職場が作れるはずである。
さらにチョコレートは、工夫次第でいかようにも付加価値を付けることが可能な商材なのだ。パンはどうしても値段を上げて販売するのが難しい商材で、だから利益率が低かった。しかしチョコレートならやりようがある。
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その力がフルに発揮されたのが、大阪・北新地に出店した際の営業活動だろう。北新地は日本有数の歓楽街だが、そのすぐ傍には貧困で苦しむ人が多く住む西成区がある。そこで夏目浩次は、「売上の一部を使って子ども食堂を開く」ことを考えるのだ。
しかしそのためにはまず、北新地の店でチョコレートをたくさん売らなければならない。そこで夏目浩次は、「座って1万円」と言われるような北新地の店へと出向き、「子ども食堂を開きたいから、店のお客さんに『あそこの店のお菓子がほしい』みたいなことを言ってくれるとありがたいです」と営業する。余裕のある金持ちから金を”奪い”、その金で子ども食堂を開こうというわけだ。
こういう戦略が可能なのも、チョコレートという商材の持つ可能性と言えるだろう。
あらゆる観点から”理想的”と言える「チョコレート」に出会ったことで、夏目浩次の計画は大きく進む。「障害者を適正な給料で雇用する」という、普通にはなかなか実現出来ないだろう難題をクリア出来る可能性が拓けてきたのだ。
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このように夏目浩次は、首尾一貫して「障害者のための職場作り」を目標に掲げ、どんな困難があろうとその信念を曲げず、さらに苦労の末に軌道に乗るようになってからも当初の目標を見失うことなく、自らの信念をさらに広げようと事業を展開していくのである。
本当にこんな人がいるものなのかと驚愕させられてしまった。
障害者一人ひとりに合わせた対策を細かく考える
そんな凄まじい事業を展開している夏目浩次だが、やはり批判的な意見を浴びせられることも多いという。「障害者雇用」など絵空事だと考えている人たちから心無い言葉が届くのだ。
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その中に、「障害者って言っても、軽度の人たちを雇っているだけなんでしょ?」というものがある。この意見は、かなり多く寄せられるそうだ。夏目浩次はそういう捉えられ方を払拭すべく、新たに「パウダーラボ」と名付けた場所を作った。ここは、重度の障害を持つ人たちが働く場所である。映画では、そこで働く障害者の人たちにもカメラを向けたり話を聞いたりするのだが、確かに「本当に働けるのだろうか?」と感じてしまうような、見た目にも分かるほど重度の障害を持った人たちだ。
夏目浩次の凄い点は、「環境に人を合わせる」という発想を基本的にしないことだと言えるだろう。徹底的に「人に環境を合わせる」というスタンスを貫いていくのだ。
例えば、自分では抑えられない「チック症状」によって突発的な行動を取ってしまう青年がいる。彼は衝動的に、床をドンと蹴る行動を取ってしまうのだ。そのパウダーラボは2階にあったため、1階のテナントの人から「もう少し静かにやってもらえないか」と要望が来てしまったのだという。
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これに対して夏目浩次はどのような対策を取ったのか。なんと、「新たに別のパウダーラボを作った」のである。そこは1階に位置していたため、彼がどれだけ床を蹴ろうが問題ない。まあ、確かに「そりゃそうだけど」と感じる対策ではあるが、普通はなかなかここまで出来ないだろう。このレベルで「人に環境を合わせる」を実行するのが夏目浩次なのである。
彼はまた、観察力も凄まじい。そのチック症状を抱える障害者がクリスマスパーティーに参加した際、「ある音楽を聞いている時だけはチック症状が落ち着いているように見えた」と彼は考えたそうだ。そこで、作業スペースの近くにiPadを置き、その音楽を常時流しながら作業が出来る環境を整えたりもしたのである。
あるいはこんなこともあった。あるダウン症患者に、「ボウルに入れたお茶っ葉をすりこぎ棒で潰す」という作業をやってもらうのだが、どうも上手く出来ない。そこで新たに「石臼」を導入し、ハンドルを回せばお茶っ葉を細かく出来るようにした。しかしそのダウン症患者の場合、その作業さえも上手く出来ているとは言えない。お茶っ葉を細かくは出来るのだが、どうしても身体中が粉まみれになってしまうのだ。そこで夏目浩次は彼のために、3万円を掛けて「石臼」に変わる新たな道具を作ってしまったのである。彼はこのようなことを当たり前のようにやっていくのだ。
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夏目浩次は、
排除するのは簡単だが、そうではなく、どうすれば上手くやれるかをみんなで考えることで成長できる。
と話していた。まあ、言葉だけ聞けば「確かにその通り」と感じるだろう。
あるいは映画の冒頭では、
失敗しても問題ない。大事なことは、目標に向かってみんなでもがいていることだ。
とも話していた。これも、「そうかもしれない」と感じる話だと思う。しかしいずれにしても、それをきちんと実行に移しているという点が凄い。そしてちゃんと成果も出しているからこそ、彼の言葉は正しく響くのだ。
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「理想を語る人」は多いだろうし、「『理想を語る人』が増えること」自体は良いことだとも思っている。やはり、口に出したり発信したりすることで変わっていくことも多いはずだからだ。しかし、成果が出ているかどうかはともかくとして、やはり行動に移していなければ、理想を語っても弱い。理想に向かっているなら、まだ成果が出ていなくても十分評価できるが、「口では良いことを言いながら、実際には何もしない」みたいなのは嫌だなと感じてしまう。
夏目浩次は、上手く行かなかった時期も長かったが、理想を見失わずに突き進み続けたからこそ、普通なら「無理でしょ」と言いたくなってしまうような状況を見事に実現させることが出来た。本当に、その信念と行動力には圧倒させられる想いである。
上手く行かなかった過去を、これまでにたくさん積み重ねてきた
映画『チョコレートな人々』では、夏目浩次の「ダメな部分」「ダメだった部分」も隠さずに映し出していく。この点もまた印象的だった。いわゆる「成功者」と呼ばれる人たちは、自分の失敗を敢えて見せたりしない人が多い気がするが、彼はそうではない。恐らく、同じような志を持つ人たちに向けて、「現実は決して厳しくないから、覚悟を持って臨んでしい」と伝えるような気持ちでさらけ出しているのではないかと思う。
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映画で描かれる「ダメだった部分」は、パン屋時代のあるエピソードである。当時、店の「看板娘」と評判だったミカさんという店員がいたのだが、彼女は「プラダー・ウィリー症候群」という病気を抱えていた。自傷行動を伴う病気であり、そのため、一緒に働く他の人たちとの関係性の中でどうしてもトラブルが生まれてしまうのだ。当時の彼には上手く対処できず、泣く泣く店を辞めてもらうことにした。夏目浩次はこの時のことを、今も強く後悔しているようだ。そんなミカさんとの現在の関わりについても、映画の中では少し取り上げられている。
また、リアルタイムのドタバタも描かれていた。「久遠チョコレート」はある時、某有名保険会社から1万個の発注を受けた。もちろん発注自体はありがたいが、ただ、基本的に手作業が中心であり、なおかつ障害者に働いてもらっている会社なので、期日までに1万個用意するというのは結構な大仕事なのである。とにかく出荷ギリギリまでドタバタが続き、観ているこっちがハラハラさせられるような状況が映し出されていく。夏目浩次としてもヒヤヒヤだっただろう。
さて、そんな1万個の発送が一段落ついた後、彼がこんなことを言っていたのが印象的だった。
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生産管理をやってる人なんかを採用すれば、パパっと出来ちゃうんでしょうけど、そういう採用をしようとは思わないんです。僕は人で採用するというか、良い人だから一緒に働きたいみたいな感じで働く人を決めたい。まあ、だから時々こういうことが起こるんですけどね。
正直なところ、こういう発想は「資本主義」的には間違いなのだと思う。以前ある本で読んだのだが、「資本主義」の本質とは「究極のブラック企業」だからだ。経営者が労働者から極限まで搾取するというのが「資本主義」の本質であり、それを上手く規制して真っ当な状態を保つために、様々な法律やルールが存在しているのである。そう考えると、「良い人だから一緒に働きたい」みたいなスタンスは「資本主義」の理屈からはかなり遠いと言えるはずだ。
しかし個人的には、「夏目浩次が目指している世界の方が、『資本主義』より良いよなぁ」と感じてしまう。もちろん、「死ぬほど頑張って成長を目指す人たち」がいてくれるからこそ「資本主義社会」全体も成長出来るわけだが、みんながそれを目指さなくたっていいだろうとも思っている。同じく、映画の最後に彼が口にしていた次のような言葉も、力強くて素晴らしいと感じた。
色んな経済人から「凄いことやってるね」みたいなことを言われるんですけど、やっぱりその口調がどうしても「他人事」なんですよね。僕だけが頑張っててもしょうがないというか、みんなが「自分事」だと思ってやらなきゃいけないはずなんですけど。とにかく僕は、「一昔前は障害者が月に5000円で働かされてたみたいよ」って言える社会を作りますよ。まあ、見ててください。
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本当に今は、夏目浩次が1人だけルールの異なるゲームに参加しているみたいな状態になっているわけだが、SDGsやESG投資が広がっている社会の変化を捉えれば、彼のやり方がデファクトスタンダードみたいになっていく可能性だってゼロではないだろう。そんな期待をしつつ、彼を応援していきたいと感じた。
夏目浩次の底知れぬ原動力は一体どこにあるのか?
私が観た上映回は、監督による舞台挨拶付きだった。質疑応答の時間もあり、その中である観客から、「夏目浩次の原動力は一体どこにあるのか?」という質問が上がる。まさに私も同じことを聞こうと思っていた。映画を観ているだけでは、その辺りのことが正直良く分からなかったからだ。「学生時代にバリアフリー建築を学び……」というような説明はなされるものの、あくまでもそれは「問題を認識した」ということに過ぎない。そこから「その問題に身銭を投じてでも取り組もう」と考えるに至った、その原動力が何なのかまったく分からなかったのだ。
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監督はそれに対して、「夏目浩次はとにかく、『不条理が許せない』というタイプの人なのだ」と説明していた。父親が市議会議員であり、その背中を見て育ったこと。また、父親が政治家だったために、保育園時代に保育士から酷いイジメに遭っていたこと。そのような記憶が深く結びつき、彼の人格形成に関わったのだろうと語っていたのだ。
その話を聞きながら私は、以前瀧本哲史の本で読んだあるエピソードを思い出した。今ではかなりメジャーな存在になった「オーディオブック」に関する話である。
まだ「オーディオブック」が世の中にほぼ存在していなかった頃、とある企業でオーディオブックの開発コンペが開かれた。そのコンペには名だたる大手企業もエントリーしていたのだが、最終的にコンペを勝ち抜いたのはある個人だったのだそうだ。しかし、並み居る企業を差し置いてどうして個人のプレゼンが評価されたのか。
それは、「オーディオブックを作りたい動機」が明確だったからだ。その人物はコンペで、「視覚に障害のある祖父に本を聴かせてあげたい」とプレゼンしたのだという。彼にはもちろん、大企業が持っているような技術も信頼も何も無かった。しかし、その動機がずば抜けて強かったから、その「情熱」に賭けたというわけだ。その人物が、オトバンクの創業者・上田渉である。
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ビジネスに限る話ではないが、やはり「個人の情熱」に勝るものはないと思わせるエピソードだし、同じことを夏目浩次にも感じさせられた。このような個人がきちんと活躍出来て評価される世の中であってほしいと強く願っている。
とても素晴らしい映画なのだが、とにかくタイトルが悪いと思う
さて、ここまで書いてきたように、映画『チョコレートな人々』はとにかく内容が素晴らしい。是非多くの人に観てほしい作品である。
しかし、冒頭でも少し触れた通り、この映画はタイトルがとても悪いと思う。私がこの映画を危うく見逃すところだったのも、タイトルとポスタービジュアルに問題があるからだと考えている。
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映画を観れば、『チョコレートな人々』というタイトルがまさにぴったりだということはきっと誰もが理解できると思う。その点は私も全然認める。「チョコレート」が障害者雇用実現のための完璧な商材だったこと。さらに、チョコレートの「温めれば何度でも作り直せる」という性質が、失敗を何度繰り返そうが障害者と一緒に歩んでいくという夏目浩次のスタンスを的確に表現していること。それらを踏まえれば、『チョコレートな人々』というタイトルはまさに完璧だと言えるだろう。
しかし、これは映画に限る話ではないが、作品の「タイトル」というのは基本的に、「お金を払ってそれを享受する前に目にするもの」である。確かに、「『タイトル』が作品内容に合っていること」も重要だろう。しかしそれは、「享受し終わった人」にしか関係がない。「タイトル」が果たすべき最も重要なポイントは、「享受する前の人」にアピールすることであるはずだ。私は長いこと書店で働いていたこともあり、「本のタイトルが作品に合っているか」よりも、「このタイトルだったら売れるのか」という視点から判断することが多かった。そして、そのような販促的観点から考えれば、『チョコレートな人々』というタイトルは0点だと感じる。
何故ならこのタイトルでは、「夏目浩次という凄まじい人物を取り上げた物語」であることがまったく伝わらないからだ。『チョコレートな人々』というタイトルは、映画で描かれる障害者たちに焦点が当たっていると考えていいだろうが、やはり強くアピールすべきは夏目浩次の方だと私は感じた。「チョコレートな人々」を副題にし、映画のタイトルとしてはもう少し別なものを付けるべきだったのではないかと思う。
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私は、公開される以前から『チョコレートな人々』という映画の存在を知ってはいたのだが、観るつもりはまったくなかった。『チョコレートな人々』というタイトルから伝わる情報がほとんどなかったし、ポスタービジュアルからも私の興味を惹くような作品だとは思えなかったからだ。正直なところ、単に「チョコレート」をメインにした映画なのだと思っていた。その認識のままだったら、まずこの映画を観ることはなかっただろう。
その後いくつかきっかけがあった。まず、映画レビューサイトFilmarksでの評価が高いことを公開後に知ったのだが、ただ私は普段から、「単に評価が高い」というだけで観る映画を決めることはしない。しかしその後さらに、映画『チョコレートな人々』が、『ヤクザと憲法』『人生フルーツ』などを制作した東海テレビによる作品だと知った。それで初めて「観てみよう」と思えるようになったのだ。「障害者雇用を扱った話」だと理解したのは、上映前にポレポレ東中野の壁に貼られていた映画の案内を読んでいた時である。その時まで、映画の主題についてはまったく知らなかった。
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「夏目浩次」や「久遠チョコレート」の存在を元から知っている人であれば、『チョコレートな人々』というタイトルでも反応出来るかもしれない。しかしこの映画は、「夏目浩次」「久遠チョコレート」のことを知らない人に届かなければ意味がないだろう。それはかなり困難なことではあるが、しかしそれを目指して努力する必要はあると思う。そして私には、『チョコレートな人々』というタイトルは、その努力をまったく放棄したものであるように見えてしまったのだ。私はそういう意味で、このタイトルは0点だと考えている。
まあ、タイトルやポスタービジュアルに込めた想いが、まったく理解できないわけではない。恐らく、全体的に「柔らかめ」の雰囲気を出して、「ドキュメンタリーをあまり観ない人にも届かせたい」みたいに考えたのではないかと思う。しかし結果としてそのやり方は、「ドキュメンタリーをよく観る人」を遠ざける結果に繋がったと私は考えている。少なくとも、ドキュメンタリー映画をよく観る私には、まったく響かなかった。
「ドキュメンタリーをあまり観ない人にも届かせたい」という気持ちはもちろん大事だが、それによって「ドキュメンタリーをよく観る人を遠ざける」という結果になっているとしたら本末転倒だろう。かなり長々と文句を書いたが、それぐらい私には、『チョコレートな人々』というタイトルはどうにも許容できなかった。
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この映画を観る少し前、私は、障害者手帳を持っている、当時大学4年生だった人と知り合った。映画で描かれている障害者と比べれば「軽度」と言っていいだろうが、しかしやはり、通常の正規雇用で働くには色んな意味で困難があるそうで、障害者雇用での就職を考えているみたいな話をしていたのだ。だから映画『チョコレートな人々』を観終えてすぐ、「『久遠チョコレート』のことを調べてみたら」と連絡してみた。それぐらい、働く環境として素晴らしいと感じたからだ。
本当に、世の中には凄い人がいるものだと、改めて実感させられた作品である。
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