目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:ジョエル・サットン, 出演:マイケル・ササキ, 出演:ブランディン・ステニス, 出演:エミリー・ヘレス, 監督:清水ハン栄治
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- ストーリー自体はフィクションだろうが、映画で描かれる「世界」は「実話」なのだと思う
- 政治犯とその家族を押し込める強制収容所のあまりに凄絶な環境』
- 人間はどれほど悪虐になれるのか、そしてそんな環境でも優しく振る舞えるものなのか
この現実が、現在進行形で起こっているという事実には改めて震撼させられる思いがする
自己紹介記事
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この映画を私は「実話」として扱う。
「過去に起こった出来事をそのまま映画にしている」という意味ではない。映画を最後まで観れば、そのドラマチックさ故に、ストーリーそのものはフィクションだと分かるだろう。
しかし重要なことは、「この映画で描かれている世界が、私たちが生きているのと同時代にこの地球上に存在している」ということだ。そして、その点においてこの映画は紛れもなく「実話」なのだと思う。エンドロールでは、この映画の制作に協力しただろう脱北者たちの名前が表示され、名前を明かせない人も含め、その勇敢さが讃えられていた。彼らの存在もまた、この映画の「リアル」を担保すると言っていいだろう。
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こんなクソみたいな世界を、私たちは「知らない」か「無視している」かのどちらかなのだ。もちろん知ったところで、具体的に何かできるのかと言えば、なかなか難しい。しかし、「関心を持ち、広め、世界全体の声として増幅させる」というその一端を担うことはできるはずだ。
私もそういう1人でありたいものだと切に思う。
映画『トゥルーノース』の内容紹介
北朝鮮の首都・平壌で何不自由なく暮らす、恐らく一般の北朝鮮人よりも裕福な生活を送っていた少年・ヨハン。両親と妹のミヒの4人家族で、父親は日系人だ。父親は、家族に隠れて国家や党に歯向かう計画を仲間たちと推し進めているのだが、そんなことヨハンには知る由もなかった。
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しばらくして、父親の行方が分からなくなる。母に聞いても知らないという。すると突然、自宅に党の人間が大挙して押しかけ、父親が裏切り行為を犯したと通告、そのまま家宅捜索が始まった。そして3人は最低限の荷物だけまとめ、行き先も分からないままトラックに乗せられてしまう。
長く揺られた果てにたどり着いたのが、政治犯とその家族を押し込める強制収容所だ。幼いヨハンは、父の言葉を思い出し、母と妹を守る決意をするのだが……。
強制収容所の凄絶な現実
上述の内容紹介は、映画の冒頭に過ぎない。映画のほとんどが、強制収容所内のクソみたいな現実を描き出すことに費やされていると言っていいだろう。
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強制収容所は、「人間はここまで醜悪になれるものだろうか」と嘆息したくなるほどの酷さに満ち溢れている。
看守は囚人に、日々厳しい労働を課す。囚人は「労働によってのみその罪が贖える」と言われ、苛烈な労働にひたすら従事させられるのだ。病気になっても薬は与えられず、食事は最低限しか提供されない。死んでも、遺体は適当な場所に放り投げられてお終いだ。
一方、「国家に歯向かう政治犯」を閉じ込めておく強制収容所の看守は、南朝鮮(韓国)のアイドルの映像を見て饗宴にふける。南朝鮮の文化に触れることは罪になるが、看守は「自分たちはいい」とばかりに楽しんでいるのだ。
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さらに酷いのは、看守が「気に入った囚人」を見繕って犯すこと。当然避妊などしないが、看守のレイプで子どもを身籠った場合、女性の側が罰として射殺されてしまう。
クズとしか言いようがない。
僅かな看守で大勢の囚人を管理するのは困難なのだろう、強制収容所には「看守寄りの囚人」もいる。同じ囚人という立場でありながら、囚人を管理する側に回るのだ。言うことを聞かない囚人を殴る一方、自分たちは平然と禁じられているタバコを吸う。自分の立場を守るために他人を密告し、自分さえ生き抜けるなら後はどうでもいいという態度を取るのである。
彼らもまた、胸くそ悪い連中だ。
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同じ環境にいたとして、自分はどう振る舞うことができるだろうか?
しかし、安全圏から常識で物事を判断してはいけないとも思う。もし自分が、あの最低最悪な収容所に閉じ込められ、未来が見えない中で絶え間ない苦痛に晒されている場合、「看守寄りの囚人」にならないとは断言できない。あるいは、あの収容所で看守として働くことを強いられた場合、自分の心を守るために、「囚人は人間ではない」と思い込んで残虐な振る舞いをしてしまう可能性だってある。
「絶対にそんなことはしない」と、断言はできない。それぐらい彼らは、「最低」を何度も煮詰めたような酷すぎる環境にいるのだ。
映画の中では、労働中にがけ崩れが起き、多数の囚人が生き埋めになるという甚大な被害が発生する。「看守寄りの囚人」は事前に、「危険だから修繕した方がいい」と収容所のトップに訴えていたのだが、まったく聞く耳をもってもらえなかった。つまり、起こるべくして起こった事故だと言っていい。
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がけ崩れの被害に遭わずに済んだ囚人は当然、助けを求める仲間を救うべく奮闘する。しかしそこへ収容所のトップが車でやってきて、「持ち場へ戻れ!」と一喝するのだ。仲間を助ける暇があるなら働け、というわけである。
どうせお前たちは使い捨てなんだ。
あまりにも過酷だ。脱獄しようとすればもちろん撃たれ、歯向かっても撃たれる。そんな環境に長期間いれば、他人に優しくできなくなってしまうのも仕方ないと感じてしまう。
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そしてだからこそ、そんな環境に置かれてもなお他人に優しくできる人間の凄さが実感できる。
僅かな食料を他人に分け与える者、「死」があまりに軽い世界でも死にゆく者をきちんと見送る者、どれだけ辛い状況でもお互い支え合って踏ん張る者。あまりにも辛い環境だからこそ、そんな優しさが身に染みる。
この映画のような世界を経験したくはない。しかしそれが避けられないのだとしたら、私自身も、どうにか人間としての理性を忘れず、他人のことも考えられる者としてあり続けたいと切に感じた。
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出演:ジョエル・サットン, 出演:マイケル・ササキ, 出演:ブランディン・ステニス, 出演:エミリー・ヘレス, 監督:清水ハン栄治
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最後に
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世界では、それが広く報じられるかどうかはともかく、恐ろしく酷いことが常に起こっている。そういう時、現場に行くなり、SNSで発信するなり、様々な形でフットワーク軽く支援を行える人は素晴らしいと感じるが、自分1人を生き延びさせるために必死な私はなかなかそんな行動を取れない。
私と同じように、何かしたいと思いながら、様々な理由で踏み出せない人もたくさんいるだろうと思う。
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そういう時、とにかく私は「『知る』だけでも十分だ」と考えるようにしている。その「最悪」を知る者が多ければ多いほど、世界が変わる可能性はほんの僅か高くなると思うからだ。そう信じて、私はこれからも、とにかく「知ること」だけは頑張っていこうと考えている。
この映画が訴えかける「真実」を、私たちはどう受け止め、その上でどう生きていくべきか。強く考えさせられる作品だと思う。
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