目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:パブロ・ラライン, プロデュース:フアン・デ・ディオス・ラライン, プロデュース:ヨナス・ドルンバッハ, プロデュース:ポール・ウェブスター, プロデュース:パブロ・ラライン, プロデュース:ヤニーネ・ヤツコフスキ, プロデュース:マーレン・アデ, Writer:スティーヴン・ナイト, 出演:クリステン・スチュワート, 出演:ジャック・ファーシング, 出演:ティモシー・スポール, 出演:サリー・ホーキンス, 出演:ショーン・ハリス
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 過去映像のみ、ナレーション無しというかなりチャレンジングなやり方で「熱狂を生んだダイアナ妃の人生」を炙り出す映画『プリンセス・ダイアナ』
- クリスマスイブからの3日間の出来事を通じて、ダイアナ妃の絶望と決意を描き出す映画『スペンサー』
- ダイアナ妃の人気と反比例するかのような英国王室の凋落も描かれ、さらに、チャールズ皇太子の「非人道的振る舞い」も浮き彫りにされる
「住む世界が違う」と言われればそれまでかもしれないが、そういう表現では許容しきれないぐらいの「異様さ」が映し出されていく
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ダイアナ妃が亡くなった時、私は14歳だったようだ。だから正直なところ、その時点では「ダイアナ妃の凄さ」をあまりちゃんとは理解していなかったと思う。彼女に焦点を当てた2作品を観て、改めてその凄まじさが理解できたと言っていいだろう。
また、この2作品を観たことで「知らなかった基本的な事実」も理解できた。14歳だったこともあり、当時その詳細には関心がなかったのだろう。なので、「死亡した時はチャールズ皇太子と離婚が成立していたこと」「事故の際は恋人と一緒で、その恋人と共に亡くなったこと」などは、映画を観て初めて知ったように思う。
そんな「ダイアナ妃について詳しくない人間」が記事を書いているので、以下の記述には何か誤りがあるかもしれない。その場合は、単に私の知識・理解不足から来るものだと理解してほしい。
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ドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』の凄まじい構成
まずは、ダイアナ妃を取り上げたドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』の方から紹介することにしよう。
本作は、まずその構成が凄まじかった。ドキュメンタリー映画の場合は一般的に、「対象となる人や組織に密着する」ことが多いだろうが、ダイアナ妃は既に亡くなっているのでそれは不可能だ。その場合、よくあるのは、「過去映像」と「その人・組織を知る存命人物へのインタビュー映像」などによって構成されるパターンだろう。
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しかし本作は驚くべきことに、「過去映像のみ」で構成されている。これには驚かされた。私はドキュメンタリー映画をよく観るが、なかなかこのような構成の作品は無いように思う。現代であれば、誰もがスマホで映像を撮影できるが、ダイアナ妃が生きていた時代にはそんなことは不可能だった。そんな時代に撮影された映像だけを使って映画を1本作るというのだから、「ダイアナ妃がいかに注目されていたか」が理解できるだろう。
さらに本作には、「ナレーション」や「字幕」も存在しない。「現在視点からの補足情報」は一切存在しないのだ。使われている音声は「映像と共に記録されたもの」のみであり、そこに新たな情報が加えられることはない。普通なら、「この時ダイアナ妃はこのような状態にあった」「彼女があの時こんな風にしていたら、未来はどうなっていただろうか」みたいなナレーションが挿入されたりするだろう。しかし本作には、そんなナレーションはまったく存在しないし、さらに言えば、「いつ撮られた映像なのか」みたいな情報が字幕で表示されることもないのである。よくもまあ、そんなやり方でドキュメンタリー映画を完成させたものだと思う。
さて、そのような構成であるが故に、本作では実に様々な映像が使われている。例えば、冒頭の映像にはかなり驚かされた。流れるのは、バイクに2人乗りをしているカップルらしき男女が撮影した映像だ。彼らはルーブル美術館の前を通り過ぎ、その先にあるリッツホテルの周辺で人だかりを発見した。パパラッチの集団だ。そしてどちらかが、「VIPがいるみたいよ~」と声を上げる。どうやら、ダイアナ妃がそこにいるようだ。しかし、このカップルのカメラにダイアナ妃の姿は映りはしない。そんな、メチャクチャ個人的なプライベート映像から映画がスタートするのである。
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本作ではこのように、「よくこんな映像を集めてきたな」と感じるような映像が流れていく。他にも、「スーパーマーケットでの買い物中に、店内アナウンスでダイアナ妃の懐妊が伝えられる様子」や、「UNOに興じている男たちが、ダイアナ妃の事故を報じるテレビを観ている様子」などが収められた映像が使われている。そしてそのような作品には、「ダイアナ妃が生きていた時代のリアルをそのまま届ける」という制作陣の強い意思が込められているように感じられた。
ダイアナ妃への注目度は凄まじかった
さて、先程も触れたが、このような構成の作品が作れるということは、ダイアナ妃の人気が凄まじかったことを示していると言えるだろう。もちろん当時も、「ダイアナ妃への熱狂」を冷めた目で見る人がいたようだ。使われていた映像の中でも、「マスコミが騒ぎすぎ」と語る一般人の姿がよく映し出されていたし、ダイアナ妃の死を悼む人々が集まった公園のベンチには、「みんな騒ぎすぎだ。頭が腐ってるんじゃないか」と暴言を吐く男性がいたりもした。まあ、「頭が腐ってるんじゃないか」という言い方もどうかとは思うが、熱狂を遠巻きに見ている人も当然いたというわけだ。
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しかしそうだとしてもやはり、その熱狂ぶりにはちょっと驚かされてしまう。例えばテレビのナレーションは、チャールズ皇太子と共に歩くダイアナ妃を次のように評していた。
皇太子は2番手に甘んじています。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
皇太子はまるでエスコート役。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
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本来は主役であるはずのチャールズ皇太子が完全に影に隠れてしまっていたというわけだ。チャールズ皇太子自身もあるインタビューの中で、次のように語っていた。
妻が2人いてくれたら楽だ。右と左両側を歩いてもらい、私は真ん中で指示を出すだけ。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
かなり自虐的な言い回しだが、そんな風にも言いたくなるような状況だったのだろう。あるいは作中には次のような言及もあった。
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世間の注目を集めることに慣れていたが、突如それをダイアナ妃が独占した。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
チャールズ皇太子、いや英国王室は、イギリス国内外から常に多くの関心を向けられ続けてきたわけだが、その関心をダイアナ妃が一気に奪い去っていったというわけだ。このような表現からも、ダイアナ妃の人気の凄まじさが理解できるだろうと思う。
もちろん現代でも、王室や日本の皇室が話題に上ることはある。しかしそれらは概ね、「ヘンリー王子と結婚したメーガン妃の来歴や、2人の王室離脱」や「女性皇族との婚約を発表した男性の金銭トラブル」など、一般的には「スキャンダル」と呼ばれるようなものだと思う。しかしダイアナ妃の場合はそうではない。チャールズ皇太子との結婚によって、チャールズ皇太子を凌ぐほどの人気を獲得して話題になったのだ。日本でも、私にはあまり記憶はないものの、雅子様が皇室入りする際にはかなり話題になったような気がする。しかしだからと言って、雅子様が世界的な人気を獲得したかというとそんなことはないだろう。そういう意味でダイアナ妃は、ちょっと比較対象を見つけられないぐらいの存在と言えるのではないかと思う。
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作中の映像では、チャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚について、「英国王室の男性が一般女性と結婚するのは300余年ぶり」「さらに恋愛結婚」と、その特異さが説明されていた。詳しくは知らないが、普通はやはり「それなりの血筋の人との結婚がお膳立てされている」みたいな感じなんだろうし、時代を遡ればそれは「政略結婚」みたいにも言われるのだろうが、そういう時代が長く続いたということなのだろう。そしてそれ故に、ダイアナ妃の「一般女性」「恋愛結婚」という特異さが注目されたという側面は間違いなくあるとは思う。しかし、やはりそれだけであれだけの熱狂が生まれることはないだろうとも感じる。
もちろん、結婚直後の熱狂は「一般女性が王室入りした」という驚きあってのものだったと思う。ただ、本作で使われている結婚後の映像は、「『王室らしからぬフランクさで人々と会話をする姿』に市民が感動しているもの」が多い。私の目にも、福祉施設や病院を訪れて患者と接したり、街中で子どもたちと話したりしている姿がとても印象的に映った。彼女は離婚後もボランティアで慈善事業に関わっていたそうで、「そのような活動が彼女のアイデンティティになっていたのではないか」と語る人もいたぐらいだ。そして恐らく、そうした姿が人々に受け入れられていったのだろうと思う。
燻っていた「王室への批判」を、ダイアナ妃の死が吹き飛ばした?
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さて、本作で使われている映像は「ダイアナ妃の凄まじい人気」を示すものと言えるが、その一方で「英国王室の不人気さ」を映し出しているとも言えるだろう。確かテレビのアナウンスだったと思うが、ダイアナ妃が王室に加わったことを「王室にとって数世紀ぶりの吉事」と表現していたと思う。他にもテレビでは、こんな言い方がされていた。
時代遅れの王室が、愛すべき存在になりそうです。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
王室の結婚がこれほど騒がれるのは初めてです。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
そう、日本にいるとなかなか分からないものだが、英国王室はどうやら長く国民からの支持を失っていたそうなのだ。
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私が本作『プリンセス・ダイアナ』を観たのは、エリザベス女王が亡くなった少し後のことだった。日本のみならず世界中で彼女の死が報じられただろうし、その扱われ方を見ていると、「英国王室には、国民から愛されていない時代があった」などとはなかなか想像しにくいだろう。しかし本作で使われている映像では、割と多くの人がカメラの前で当たり前のように王室批判を行っていたのである。それらは主に「チャールズ皇太子の不倫」に対する失望の言葉と共に語られることが多かったのだが、それと同時に、多くの市民が「君主制」にも言及しており、そのことがとても印象的だった。
君主制の礎は、国民からの好意だ。それを失った今、君主制は消えつつある。女王も、それは分かっているはずだ。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
これはテレビのナレーションだが、街頭インタビューでも、「君主制なんて古臭い制度を維持すること」への不満を口にする男性が出てくる。あるいは、ダイアナ妃とチャールズ皇太子の夫婦関係が誰の目から見ても明らかなくらい悪化している頃には、テレビでこんな言及もなされていた。
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現代人が古い制度の中に放り込まれると、人は壊れてしまいます。誰もが壊れてしまうのです。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
ここで言う「古い制度」とは、恐らく「君主制」のことなのだろうと思う。このように英国王室は、「時代遅れの『君主制』を引きずる存在」として、批判の対象にもなっていたのである。
しかし、実に皮肉なことではあるが、「ダイアナ妃の死」が「王室への信頼」を復活させたかもしれないのだ。しかもそれは、王室が上手く立ち回ったからではなく、単なる「偶然」である。
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ダイアナ妃が亡くなった後、国民はもちろん大いに落胆し、悲しみに暮れていた。しかし一方で、王室は半旗を掲げることもなく、というか何もしなかったのである。もちろん、チャールズ皇太子とは既に離婚が成立していたので、その対応が間違っていたわけではないと私は思うが、国民の怒りは収まらなかった。「王室はダイアナ妃の死に対して何か行動を起こすべきだ」と考える人が多くいたのである。テレビでは、この時の状況を次のように語っていた。
この国の問題は、王室を重視しすぎていることにある。王室の無関心に、人々は怒りを抱いている。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
良かれ悪しかれ、国民にとって「王室」が重要な存在であることに変わりはない。だからこそ、離婚し王室と関わりがなくなったとはいえ、亡くなったダイアナ妃に対して何もしない王室への批判が日増しに高まっていったのである。
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そのような世論の声に押されたのだろうか、その後エリザベス女王とその夫が、ダイアナ妃のために手向けられた膨大な花束が並ぶ公園に足を運んだ。そして、その映像を流すテレビが、次のようなナレーションをつけていたのである。
悲しむ人々は、誰かに怒りをぶつけたくなる。今回は王室がその標的となった。しかし、これで人々の気持ちも変わるだろう。君主制は、救われたかもしれない。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
王室は恐らくこのような効果を狙っていたわけではないと思うが、「王室が何もしない」という批判を国民が抱き、その気持ちを王室に向けたことで、ある種の「ガス抜き」になった可能性があるというわけだ。本当にそうだとしたら、王室としては「幸運だった」としか言いようがないだろう。
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あるいは、「ダイアナ妃の死が”功を奏した”」と言えるもっと分かりやすい状況を挙げることも出来る。
結婚から12年後ぐらいだったと思うが、ダイアナ妃とチャールズ皇太子は別居を決めた。離婚ではなく別居である。これは私の勝手な憶測だが、ダイアナ妃は離婚を望んだけれども、王室がそれを認めなかったのではないかと思う。
そしてその後2人は、タブロイド誌を使って「夫婦喧嘩」を始めることになる。ダイアナ妃は、パパラッチなどに追われ続けたこともありタブロイド誌を憎んでいたのだが、背に腹は代えられなかったのだろう。チャールズ皇太子も、「結婚当初からカミラ夫人と不倫しており、ダイアナ妃とはお世継ぎを産むための結婚だった」とタブロイド誌に語るなど、「ヘンリー王子・メーガン妃の王室離脱」と比べても遥かにスキャンダラスな話が世間の話題になっていたのである。
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そんな騒動の最中、ダイアナ妃はBBC2に出演し、次のように発言した。
私たちの結婚は、当初から3人が関わっており、複雑だった。
「プリンセス・ダイアナ」(監督:エド・パーキンズ)
彼女ははっきりとは名前を出さなかったものの、聞けば誰もがカミラ夫人のことだと分かる話をぶちまけたのである。また、彼女はとある少佐との恋がマスコミに報じられており、インタビューアーから「不倫は?」と水を向けられた。それに対して彼女は、「彼のことを愛していましたから」と、暗に関係を持ったことを示すような発言をしていたのである。
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このような報道は、夫婦仲の悪さが知られるようになった頃からなされていたのだが、世間に別居を発表した後でさらに加速することになった。まさに「泥仕合」といったような状況である。そしてもちろん、これらの報道は王室にもダメージを与えることになった。このようなスキャンダルによっても、「王室の権威」は失墜していったのではないかと思う。
そしてダイアナ妃が死亡したことで、結果としてこのようなスキャンダルの報道も収まり、それ故王室の評判が下げ止まったと受け取ることも出来る。このような見方があるからこそ、ダイアナ妃の事故には「陰謀説」が生まれたりもするのだと思う。
このように映画『プリンセス・ダイアナ』は、ダイアナ妃の圧倒的な人気とイギリス国民の「王室」に対する複雑な感情を、「過去映像」のみを使って再構築するという凄まじい作品なのである。
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映画『プリンセス・ダイアナ』で使われていたBBC2のインタビューの中で、ダイアナ妃ははっきりと「王室に陥れられた」と発言していた。また、「あの人たちは、私を『役立たず』と決めたのです」とも口にしており、彼女が秘め続けた怒りが露わになった場面だと言っていいだろう。
チャールズ皇太子との離婚は、表向きには「不倫」が原因とされているだろうし、もちろんその要素が大きかっただろうと思うが、実はダイアナ妃には「王室とは反りが合わない」という強い感覚もあったのである。彼女は「伝統的な王室のやり方」に反する行動ばかり取り続けていたため、王室内部から常に批判を浴びせられていたのだ。そのことが「王室離脱」という決断に繋がったことは間違いないだろう。
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そして映画『スペンサー』は、そんなダイアナ妃がどれほど王室に苦しめられていたのか、その実情を浮き彫りにしようとする作品なのだ。
本作では冒頭で、「実際の悲劇を基にした寓話」と表記される。「寓話」という表記にどんな意図があるのかについては、正確には知らない。もしかしたら、王室からの批判を恐れて「実話だ」という表記を避けただけという可能性もあるだろう。ただ私はとりあえず、「3日間で起こった出来事ではない」という意味ではないかと考えることにした。
本作『スペンサー』では、クリスマスイブからボクシングデー(クリスマスの翌日)までの3日間の出来事が描かれる。そして私は、「本作で描かれていることはどれも概ね事実だが、『3日間で起こった』という部分だけはフィクション」だと考えているのである。「ダイアナ妃の人生の様々なタイミングで起こった出来事を『3日間の物語』としてまとめた」という意味で「寓話」という表記にしたのではないかというわけだ。この点については特段調べてはいないので的外れかもしれないが、気になる方はググってみてほしい。
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ちなみに、本作『スペンサー』は、ダイアナ妃に関する基本的な知識を持っていない人には「説明不足」と感じられる作品かもしれない。私は、映画『プリンセス・ダイアナ』を観た後で『スペンサー』にを鑑賞したので、『スペンサー』では触れられていない情報が補完できた状態で観ることが出来た。それはとても良かったなと思う。
本作を観る上では、以下のようなことは理解しておいた方がいいだろう。
- (恐らく)この時点で2人は別居していた
- ダイアナ妃は摂食障害や自傷行為に悩まされていた
- チャールズ皇太子はカミラ夫人と不倫関係にあり、その事実をダイアナ妃も知っていた
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このようなことを知らずに観ると、「ダイアナ妃がエリザベス女王の私邸に向かう途中で道に迷っている理由」や「度々トイレに籠る理由」、あるいは「真珠のネックレスに怒りを抱いている理由」などが理解できないだろうと思う。本作は「ダイアナ妃に関する基礎知識は持っている」という前提で作られている気がするので、人によっては「理解しにくい」と感じられるかもしれない。
というわけで、描かれていることが受け取りやすくなるように、本作でダイアナ妃がどのような「狂気」に接することになるのかざっくり触れておくことにしよう。「伝統」という名の「パワハラ」もあれば、「世間とズレている」ことによる「異常さ」もある。「とにかく、こんなところにいたら、そりゃあ気も狂うだろう」と感じてしまうような世界だった。
ダイアナ妃は、3日間かけて行われるクリスマスパーティーに呼ばれて顔を出すのだが、なんとこの期間の衣装はあらかじめすべて決められている。しかも「日単位」ではなく、「朝食用、昼食用、教会用」など、1日の中で何度も着替えなければならない。そして、定められた衣装以外の服を着ると、やんわりと指摘されてしまうのである。また、エリザベス女王の邸宅(サンドリンガム・ハウス)に着くや、ダイアナ妃と子どもたちは体重を測らなければならない。これは1847年から続く伝統であり、「クリスマスパーティーで楽しんで1kg太ること」が望ましいとされているのだ。
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こうして酷い3日間が始まる。チャールズ皇太子は「伝統だから」という理由で、嫌がる息子にキジ狩りを無理やりやらせる。ダイアナ妃にあてがわれた部屋はとても寒いのだが、どれだけ「暖房を入れて」と言っても毛布しか与えてもらえない。あまりに広大な敷地を有するサンドリンガム・ハウスではいくらでも一人になれそうなものなのに、その中での行動はすべて筒抜けになっている。何を話しても決まり切った返答をする者ばかりで、まともな会話が成立する相手がいない。そしてチャールズ皇太子からは、不倫相手に贈ったのとまったく同じ真珠のネックレスをプレゼントされる。
そりゃあ、気も狂うだろう。
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例えば、チャールズ皇太子とビリヤード台を挟んで向き合うダイアナ妃が、「息子にキジ狩りをさせないでほしい」と頼む場面。そのやり取りの中でチャールズ皇太子は、「私も昔はキジ狩りが嫌いだった」と口にする。しかしそれに続けて彼は、「でもやるしかない」と言う。その理由は、「国家のため」である。
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そしてそれに続けてチャールズ皇太子は、「知ってると思ってた」と口にするのである。これはつまり、「王室入りを決めたのだから、それぐらいのことは理解してくれていると思っていた」みたいな意味だろう。しかし、ダイアナ妃がチャールズ皇太子と婚約したのは19歳の時のことだ。チャールズ皇太子が直接説明したわけではないなら(「知ってると思ってた」という表現からは、そう強く推察されるだろう)、19歳の少女にそれを求めるのは酷だと個人的には思う。だから、私には「深い断絶」を感じさせる言葉に思えたし、恐らくダイアナ妃の絶望も一層深まったに違いない。
このような「気遣いの無さ」は、他の場面でも発揮される。ダイアナ妃は当時「摂食障害」を患っており、食べたものを吐き出すことが習慣になっていた。もちろん、チャールズ皇太子もそのことを知っている。その上で彼は、朝食の席でダイアナ妃に「君に1つ頼みがある」と切り出し、「朝食を吐き出さないでほしい」と口にするのだ。これは別に、ダイアナ妃の体調を気遣ってのものではない。「出てくる料理には多くの人の手が加わっているから」というのがその理由である。つまり、「妻が食べたものを吐いていることを知られるのは、自身の体面を悪くする」と考えているというわけだ。だから、「せめて教会に行くまででいいから、朝食をトイレに吐き出さないでほしい」と頼むのである。体調不良の妻に掛ける言葉としては、あまりにも不適当だろう。
そんな彼女はある場面で、「私にもキジにも希望はない」と口にするのだが、この発言には次のような前段があった。
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映画『GUNDA/グンダ』は、「カメラの存在」「撮影者の意図」を介在させずにドキュメンタリーとして成立させた、非常に異端的な作品だと私は感じた。ドキュメンタリーの「デュシャンの『泉』」と呼んでもいいのではないか。「家畜」を被写体に据えたという点も非常に絶妙
キジ狩りは、屋敷の敷地内で行われる。そしてその際に的として使われるキジは、キジ狩りに供される用として育てられたものだ。屋敷には、ダイアナ妃が「まともに会話できる」と認める数少ない人物である料理長のダレンがいるのだが、彼はダイアナ妃に、「もしキジ狩りで撃たれなくても、頭が悪いから車に轢かれて死ぬだけだ」と伝える。ダレンとしては、ダイアナ妃の気持ちを下げないようにという配慮からの発言だっただろう。
しかしダイアナ妃は、そんなダレンの言葉を思い出し、「無惨に頭を撃たれて殺されてしまう頭の悪いキジ」と自身とを重ね合わせるのである。王室入りした彼女は確かに、「撃たれるのを待つだけのキジのような存在」と言えるかもしれない。しかしそれにしても、非常に残酷な自己認識だなと思う。
さて、本作ではアン・ブーリンという人物が頻繁に取り上げられる。かつての王ヘンリー8世の2番目の王妃であり、ダイアナ妃は彼女に自身を重ね合わせているのだ。ダイアナ妃にあてがわれた部屋には何故かアン・ブーリンの自伝が置かれており(これも事実なのかは不明である。映画的な演出かもしれない)、彼女はことある毎にこの本を開いていた。
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本作中でダイアナ妃が語るところによれば、彼女の生家であるスペンサー家はアン・ブーリンの系譜と繋がるのだそうだ。またアン・ブーリンには、「自身の不貞を棚に上げたヘンリー8世から罪をなすりつけられ処刑された」という過去がある。そしてそのような境遇を踏まえた上でダイアナ妃は、アン・ブーリンと自身とを重ねて捉えているというわけだ。さらに彼女は、次のような言葉で自身の覚悟を示してもいた。
私はアン・ブーリンのように優雅に首を差し出すことなどできない。
「スペンサー ダイアナの決意」(監督:パブロ・ラライン、主演:クリステン・スチュワート)
そして、このような強い想いが物語のラストで綺麗に収斂していく展開は、とても見事だったなと思う。
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そのような環境でダイアナ妃が安らげるのは、基本的に2人の息子と一緒にいる時だけなのだが、もう1人、彼女が絶大な信頼を寄せる人物がいる。それが、衣装係のマギーである。ダイアナ妃の中では、ダレンと共に「話せる相手」と認識されている人物だ。そして本作では、ダイアナ妃とマギーの関わりについても非常に興味深い展開が描かれるのである。いずれにせよ、”魔窟”で正気を保つためには、マギーのような人物の存在は非常に大きかっただろうと思う。
2作品に関するその他の話
最後に、2作品に対するその他の話に触れてこの記事を終えることにしよう。
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映画『プリンセス・ダイアナ』の公式HPには、「彼女を本当に”殺した”のは誰?」という一文が載っている。本作は決して、「ダイアナ妃の死の真相」に迫るような内容ではないが、やはりそのテーマを避けては通れないだろう。そして作品全体としては、「『加熱するばかりのマスコミ報道』に非はなかったのか?」と突きつける内容になっていると言える。
作中で使われる映像には、とにかくよくパパラッチが登場し、ダイアナ妃を撮影していた。そしてそんな映像の中に、「パパラッチに直接話を聞く」ものがある。その中でパパラッチの1人は、次のように語っていた。
俺たちは撮るだけだ。それをお金を出して買うのは編集者。編集者が何故買うかと言えば、読者が求めるからだ。だから、読者が悪い。
「スペンサー ダイアナの決意」(監督:パブロ・ラライン、主演:クリステン・スチュワート)
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まあ、主張そのものが間違っているとは思わない。確かに、「大衆が悪い」という意見も一理あるだろう。しかし当たり前の話だが、「だからと言って、勝手に写真を撮っていいことにはならない」はずだ。ダイアナ妃が死亡した事故は、「パパラッチに追い回されていた」ことが原因の1つとされている。そんな悲惨な事故を引き起こしたイギリスのマスコミは何か変わったのだろうか? この点については日本でも長く問題視されているはずだが、何にせよ、「表に出る人間が過度に不利益を被らない社会」が早く実現してほしいと思う。
また本作では、エンドロールで何故か突然日本語の曲が流れたことに驚かされた。観客席も、少しざわついていたように思う。ZARDの『Forever you』という曲のようなのだが、どのような意図でこの曲が採用されたのかは分からない。個人的には、要らない演出に感じられた。ちょっと謎の選曲だったなと思う。
映画『スペンサー』に関してはまず、ダイアナ妃を演じた女優クリステン・スチュワートに驚かされた。ダイアナ妃にしか見えないのだ。公式HPには、「本作では実在のダイアナのアクセントや眼差し、立ち居振る舞いを完璧にマスターするのはもちろん、(略)」と書かれていたので、本人も相当に努力したのだと思うが、それにしても驚きである。ダイアナ妃を見続けてきたイギリス人の目にどう映るのか分からないが、日本人の感覚からすれば「ほぼ同じ」ぐらいの見た目ではないかと思う。
また、もう1つ驚かされたのは映画撮影の舞台についてだ。物語上はサンドリンガム・ハウス(エリザベス女王の邸宅)が舞台なのだが、英国王室を良く描いていない作品であることを踏まえても、サンドリンガム・ハウスで撮影したとは思えない。しかしだとすると、あんな広い土地とバカでかい建物をどうやって用意したのか疑問である。この点は調べてみたのだが、撮影に使われたのは「シュロスホテル クロンベルク」という、ドイツにある英国調古城ホテルだそうだ。このような「映画の撮影に使用可能な場所」が存在したこともまた、本作の制作には決定的に重要だっただろうと思う。
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監督:パブロ・ラライン, プロデュース:フアン・デ・ディオス・ラライン, プロデュース:ヨナス・ドルンバッハ, プロデュース:ポール・ウェブスター, プロデュース:パブロ・ラライン, プロデュース:ヤニーネ・ヤツコフスキ, プロデュース:マーレン・アデ, Writer:スティーヴン・ナイト, 出演:クリステン・スチュワート, 出演:ジャック・ファーシング, 出演:ティモシー・スポール, 出演:サリー・ホーキンス, 出演:ショーン・ハリス
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最後に
映画『スペンサー』の中でダイアナ妃は、王室との関わりについて「地雷原を歩く」という表現を使っていた。そして『プリンセス・ダイアナ』『スペンサー』は両作とも、ダイアナ妃が歩んだそんな壮絶な日々を対照的な形で描き出していたように思う。一般人には想像の及ばない世界ではあるが、その中で孤軍奮闘した女性の生涯を通じて、その「異様さ」が大いに理解できる作品だった。
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