目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:サンキュータツオ, 著:春日太一
¥891 (2023/11/03 18:54時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この記事で伝えたいこと
「BL=エロ」という捉え方をまずは捨て去って下さい
「ギャンブラーにとってのお金」と同じように、エロは「欠かせないが、決してメインではない」のです
この記事の3つの要点
- 「社会を動かす力を持つBLを『教養』として身につける」という発想は意外と重要だ
- 本書の表紙に映る「鉛筆」と「消しゴム」に対して、あなたは何を感じるか?
- 「俳句」やねずっちの「整いました」にも似た、実にクリエイティブな行為であることが理解できるはずだ
本書を読めば、「ルールの分からないスポーツを観戦する女性」の動機も理解できるようになるでしょう
自己紹介記事
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言っとくけど、テレビ局の人、映画製作者、出版社の人、みんなBLに対する理解がなさすぎる。愚かです、これ。いや、もう一度言いますよ。「週刊少年ジャンプ」買ってるの誰ですか。女性ですよ。オードリーの人気は誰が支えていますか。腐女子です。ラーメンズのDVD買ってるの誰だ。腐女子です。今、お金を出すのはオタクなんです。なかでも腐女子。行動力だってあるすごい人たちなんです。その存在を無視してマーケティングだなんだと、ふざけたことを言ってるんです。
BL作品を好む女性のことを、一般的に「腐女子」と呼びますが、その「腐女子」こそが様々な購買を支えているというわけです。この点は、もの作りやサービス業に携わる人にとって、十分理解しておくべき「教養」だと言えるのではないかと思います。
私は人生において、「腐女子」の人と結構仲良くなってきた方だと思うけど、確かに、買うし作るし発信するし、みたいな感じだったなぁ
自分の「好き」にメチャクチャ真っ直ぐ突き進んでいくタイプの人たちだよね
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本書は、サンキュータツオと春日太一という男性2人がBLについて語っている本なので、男性が読んでも十分とっつきやすい本だと思います。興味のあるなしは一旦脇において、「教養として学ぶ」と考えてはいかがでしょうか?
私の「BL」との関わり方と、本書の構成
さて、そもそも私は、本書を読む前の時点でそれなりにBL作品を読んでいました。先程書いた通り、人生の中で「腐女子」の方と仲良くなる機会が結構あったからです。腐女子は、同性に対しても「BLが好き」と明かさない人もいるので、異性だとよりそのハードルは高くなると言っていいでしょう。なので、「腐女子の友人がいる男性」はそう多くないと思っています。
そして、その腐女子の友人たちに、「私でも読めそうなBLを教えて」と頼んで、色々と勧めてもらったことがあるのです。一応書いておきますが、私は決して「腐男子」というわけではなく、同性愛に関心があるわけでもありません。そのため、私はどうしても、「主役2人が共にゲイ」という設定には興味が持てなかったので、腐女子の友人には、「ゲイがノンケにアプローチするような作品を勧めてほしい」とお願いしていました。一応書いておくと、「ノンケ」というのは「異性愛者」のことで、「同性愛の気(ケ)が無い(non)人」という意味のようです。
私は基本的に、「自分の趣味・好みによって触れる作品・情報を狭めたくない」っていつも思ってるから、新しい領域に行くのは割と好き
にしてもBLの世界は広いし深いから、自力で探索するのはなかなか難しいよね
このブログでも、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』、ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』、おげれつたなか『エスケープジャーニー』の感想をUPしています。他にも、記事こそありませんが、尾上与一『蒼穹のローレライ』、木原音瀬『箱の中』などは素晴らしい作品でした。
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そしてその中でも、震えるほどの感動を覚えたのが『窮鼠はチーズの夢を見る』です。これは本当に凄かった。詳しくは先にリンクした記事を読んでほしいのですが、何よりも「ノンケの恋愛対象として女性が登場する」という点が凄すぎるのです。普通BL作品には、モブ的な存在以外に女性は出てきません。ノンケの前に「女性」と「ゲイ」がいたら、異性愛者であるノンケは間違いなく「女性」を選ぶからです。しかし『窮鼠はチーズの夢を見る』では、「恋愛対象としての女性」を登場させながらノンケの揺れる葛藤を描くといく、離れ業のような物語を描き出しています。
よくこんな物語を成立させられるものだよなぁって感じだったよね
大倉忠義、成田凌主演の映画も観に行ったけど、映画も凄く良かったし
本書『ボクたちのBL論』の中でもやはり、『窮鼠はチーズの夢を見る』は絶賛されています。春日太一は、
もう完全に純文学です。
と評し、さらにサンキュータツオは、
だから、この作品は男の人に勧めやすいんですよ。
と書いているほどです。『窮鼠はチーズの夢を見る』は全2巻のコミックなので、「何かBLでも読んでみようかな」という方は是非読んでみて下さい。
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さて続いて、本書の構成を紹介しましょう。本書は、芸人であり日本語学者でもあるサンキュータツオが「講師」となり、「生徒」である時代劇研究家・春日太一にBLの魅力を講義していくという内容になっています。
男が男にBLを紹介するっていう構成が斬新だなって思う
サンキュータツオは、独力でBLの世界を渉猟し、友人の腐女子から「あなたは腐女子だ」と認定されたそうで、いわゆる「腐男子」という立ち位置だね
春日太一は「一般読者代表」であり、『ボクたちのBL論』の読者は、春日太一目線でサンキュータツオの講義を受けられるというわけです。その講義は、単に「BLはこのように読むものです」みたいな話に留まるものではなく、「BLがいかに知的な営みであるのか」を明らかにする内容になっています。まさに「教養書」と言っていいでしょう。
それではまず、冒頭に書かれている「本書全体の案内」「サンキュータツオのスタンス」について触れた後、本書の中身を具体的に紹介していきたいと思います。
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「壁ドン」と同じく「BL」は近い将来、知る必要のない人間たちに消費されていく言葉となる。無理解に消費され、「これがお前の好きなBLってやつだろ?」的ないじられ方をされていくし、もしかしたらあなたがそっち側に立つかもしれない。そこで、そういういじり方はいけませんよ、そしてもしそういういじり方をされたらこの本をその人に読んでもらってください、という意味で、この本は編まれた。
BL、ボーイズラブというものを語る前に、まず言っておきたいことは、私自身、今思い切りBL作品やBL的に世界を見る愉しみを満喫していますが、おそらく完全には理解しきれていないし、またBL的体験は、誰の話を聞いても非常に個人的な話になっていき、一般化しにくいものでもある、ということです。そしておそらく、この世界のことを完璧に理解している人も、またいないということです。
とにかく、「『BLとはこういうものだ』みたいな雑な要約はしてくれるな」ってことだよね
本書では色んな話が展開されるけど、なんだかんだ言ってやっぱり「単なる娯楽」でしかないからなぁ
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「BL=エロ」という捉え方の誤り
さて、まず重要な指摘に触れておきましょう。
やっぱり一般の人はさらに、「萌え=エロなんでしょ」「萌えキャラって、結局その子といやらしいことをしたいんでしょ」っていう偏見や思い込みがある。
本書では、BLに限らず「オタク全般」に対してこの指摘がなされるのですが、要するに「BLは決して、エロければいいわけではない」と言っているわけです。もちろんサンキュータツオは、次のようにも認めています。
ただね、本当に行間を読み取っていただきたいんですけど、「必ずしも」というこの4文字、大事なんですよね。じゃあ「ぺろぺろしたくないのか」っていったら、ま、ぺろぺろしたいところもあるんですよ、それはオタクはみんな認めなきゃいけない。
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「『エロ要素』はもちろん必要なのだが、しかし決してそれが前面にくるわけではない」と理解しておく必要があるというわけです。
ちなみに、一応書いておくと、私はマンガ・ゲーム・アニメ等に基本的にほぼ触れないので、いわゆる「オタク」ではないと思ってる
元乃木坂46の齋藤飛鳥をずっと推してはいるけど、握手会とかライブに言ったりもしなかったしね
さて、「エロが前面には来ない」ことの良さについて、本書ではこんな風に書かれています。
すぐ「性」にいきたくないですよね。
「腐」は、すぐには性にいきつかない。「性行為」はむしろご褒美であり、おまけであり、クライマックス。
この辺りの話は、このような世界に触れる機会がない人ほど誤解しているポイントだと思うので、正しく認識しておく必要があるでしょう。当たり前の話ですが、「エロければ食いつくんでしょ?」程度の世界が、これほどの広がりを見せることなどなかったはずです。本当は、「もっと違う何か」がメインであり、エロはご褒美なわけですが、その「もっと違う何か」が外部からは見えにくいために、「エロに食いついてるんでしょ?」という認識になってしまうのだと思います。
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そう捉えられるようになれば、「じゃあ何がメインなの?」っていう理解もしやすくなるし
さて、春日太一はこの「エロはあくまでご褒美である」という点について、次のように書いています。
それで、同時に男でいることのつまらなさをすごく実感するんですよ。男ってすぐ「口説く、口説かない」の話になるじゃないですか。「じゃあ口説いちゃいなよ」「やっちゃいなよ」みたいな。ホントつまんねえなって。突きつめると「勃つか勃たないか」「出すか出さないか」、そういうゲスな二元しかないわけですよ。
この点は、BLかどうかに関係なく、私もとても共感できます。私は40年間生きてきた中で、「同性の友人」がほぼいません。ここで言う「友人」というのは、いつ出会ったかとか、どれぐらい会うかとかに関係なく、「『メチャクチャ話が通じるなぁ』と感じる相手」という意味です。私は、男と喋っていて「話が通じる」という感覚になれたことがほとんどないのです。そしてその一端が、この「セックス出来るか否か」みたいな感覚にあると思っています。ほとんどの男が、女性との関係を「セックス出来るか否か」のみで捉えている感じがして、私も「男はつまらないなぁ」とよく感じていました。
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昔は「そういう会話に馴染まなきゃ」みたいに思ってたけど、いつの頃からかやらなくなったなぁ
「女性と喋ってる方が話が合うし、気が楽」って気づいてからは、余計にそうなったよね
「エロはあるけど、エロがメインなわけではない」という感覚は、もしかしたらギャンブルで説明すると男性にも理解しやすいかもしれません。ただ、私はギャンブル的なことを一切やらないので、今から書くことはあくまでも想像です。競馬でもパチンコでも何でもいいですが、「お金を賭ける」と要素が必ずあるでしょう。そして、ギャンブルをやらない私のような人間からは、「いくらお金が戻ってくるか」がメインであるように見えるわけです。
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「BL」と「エロ」の関係も、まさにこれと同じだと言えるでしょう。「エロそのものが目的なのではなく、エロに至る過程こそが大事なのだが、じゃあエロが無くてもいいのかというとそんなことはない」というのは、ギャンブラーの主張とまったく同じに聞こえます。このように捉えると、「BL」と「エロ」を上手く切り離せるのではないでしょうか。
どうでも良い話だけど、競馬とパチンコは、それぞれ人生で1回だけやったことある
「ギャンブラー体質じゃなさそうだ」って気づいただけだったよね
さて、このように「BL」と「エロ」を切り離して考えると、「じゃあ腐女子は一体、BLの何を楽しんでいるんだ?」と分からなくなってしまう人が多いでしょう。本書は、そんな人に対して「BLの文法」を丁寧に説明することによって、「BLとは何か?」を明らかにしていく作品なのです。
世の中のありとあらゆる「関係」を、一旦「恋愛」として捉えてみる
さてここからは、「BLとは『解釈』である」という話をしていくわけですが、その前に1つ。本書を読んで「なるほど、そういうことだったのか」と理解できたことがありました。それは、「私の周りにいる腐女子たちは、どうして異性である私にBLの話をするのか」に関するものです。
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私は、BLのことなど一切何も知らない頃には既に、周りの腐女子からBLの話をよく聞いていました。ただ、「同じBLが好きな人同士で話した方が楽しいだろう」と考えるのが普通ではないかと思います。なので、「BLのことなど何も知らない私に話して、果たして楽しいんだろうか」とも感じていたのです。しかし本書を読んで、その疑問が氷解しました。
私は元々異性の友人が多いし、「話しやすさ」については自分なりに結構自信があるのもあって、実はそこまで疑問に感じてはいなかったんだけど
「こいつには何を話しても大丈夫」みたいな雰囲気を常に醸し出せるように頑張ってるもんね
本書では、BLは「宗教戦争」に喩えられています。どういうことか。例えばですが、キリスト教やイスラム教などの場合、「原典をいかに解釈するか」によって宗派がいくつにも分かれているでしょう。そしてそれと同じようなことが、BLの世界でも常に起こっているというわけです。たとえ同じ作品が好きだとしても、その作品の「解釈」が異なる相手だと、「戦争」が勃発してしまいます。だから、腐女子同士の会話は慎重にならざるを得ないのです。そのように考えると、「BLについて何も知らない私のような人間」は、話し相手として最適なのだろうと思います。
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さてそれでは、BLにおける「解釈」について、シンプルにまとまっている文章を抜き出してみましょう。
「腐」とは、いろんな人間関係を、ひとまず「恋愛」と解釈してみること。
この文章は、その世界から遠い人には何だか分からないだろうBLを、非常に端的に定義しているように思います。ただ、これだけではなかなか分かりづらいでしょう。もう少し具体的に触れている文章がこちらです。
それで、女性が男性同士の友情や「なんなのか分からない関係」を全て「恋愛という関係」に置き換える作業が「腐る」という知的遊戯なんだと考えました。「友情、ライバル、一目置いてる、気持ち悪い、気になる、憧れ、かわいい後輩」みたいな、このへんの意識っていうものが、異性同士だと、もう早くも恋愛の何らかの段階に入っちゃうんです。ですけど、同性同士だとそうじゃない。そうしたら、BLを愛する人からしたら、「これ恋愛って解釈したほうが分かりやすくね?」みたいな話になる。
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こう説明されると、大分イメージが湧くのではないかと思います。
「同性同士だからこその距離感の近さ」を「恋愛」というモードで捉えるってことね
で、「恋愛」で捉えるからこそ、最終的には「エロ」まで含まれることになるわけだ
例えば、マンガなどでよく描かれる「男同士のライバル関係」は、女性にはなかなか上手く捉えられないそうです。私はマンガをほぼ読まないので断言は出来ませんが、確かに「女性同士のライバル関係」が描かれることはあまり多くないように思います。女性同士の場合、なんとなく「ライバルは敵」みたいな感じになりそうですが、男同士の場合は「ライバルは、敵でもあり同士でもある」みたいになることが多いでしょう。そして、このような関係性を上手く理解できない女性が、「だったら、『恋愛』って解釈したらよくない?」という風に考えるようになったのではないか、というわけです。
本書には、それをさらに広く捉えたこんな文章もあります。
このBLとかやおいといわれているものの根本にあるものっていうのは、「余白と補完」なんだと思うんですよね。
これは本当に「わびさび」とかを愛するすごく日本人的な発想だなとも思うんです。たとえば今まで語ってきたように、二つのものとそれに関して分かってる限られた情報の中から――たとえば表情一つ変わったところに――何があったのかを、つまり、まず余白を見つけますよね。で、それに対して自分なりの解釈で補完をするんですよね。その作業のおもしろさなんですよ。
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このように捉えると、「BL的発想」をさらに押し広げることが出来ることになります。次では、そのことを明確に示す、本書の表紙とも関係する話を展開していきましょう。
確かに、「BLの本なのに変な表紙だな」とは思ったよね
「BLっぽくない」から買いやすくはあるんだけど、「何で鉛筆と消しゴム?」ってのは謎だった
BLとは要するに、「関係性の想像と創造の営み」である
先程の説明をまとめると、BLは「関係性の想像と創造の営み」と言えるだろうと思います。「余白を発見する行為」が「想像」で、「余白を補完する行為」が「創造」というわけです。
さて、この点に関連させる形で、本書の表紙の話をしていくことにしましょう。本書では、BLの話が展開される本にマッチするとはとても思えない、鉛筆と消しゴムの写真が表紙として採用されています。しかし、BLの世界から遠い人にはまず理解できないでしょうが、この表紙実は、本書の内容の本質と関わる重要なものなのです。
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本書冒頭で、サンキュータツオは春日太一に、
鉛筆は消しゴムのことをどう思っていますか?
と質問しています。そして、この問いに答えることこそが「BLという営みそのもの」であると、本書では指摘されるのです。
まあ正確に言うと、「BLとは何か」ではなく「やおいとは何か」って話なんだけど
この記事では、その辺りは別に深掘りする必要はないよね
さて脳内に「BL回路」が存在する人なら、「鉛筆は消しゴムのことをどう思っていますか?」という問いだけで何らかの答えを返せるでしょうが、私たち初心者はそうはいきません。というわけで本書では、とりあえずこの問いの話は一旦保留にして講義が進んでいきますが,中盤で改めてサンキュータツオから問いが投げかけられるのです。しかしそれは、先程とは少しだけ違います。
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2Bの鉛筆と、HBの鉛筆と、シャープペンがあります。2Bの鉛筆は、消しゴムのことをどう思っていますか?
さて、「BL回路」が無くても、「この問いになら答えられる」という人はいるでしょう。私もすぐに思いつきました。それは、春日太一の答えと同じで、「いつもごめんね」です。何故なのか理解できるでしょうか? それは、「2Bの鉛筆はHBより濃いため、消しゴムに余計に負担を掛けてしまうから」です。これこそが「余白の発見と補完」というわけです。
腐女子が「人間以外のモノ」にも萌えたりしてるのが、理屈では理解できた感じする
この指摘によって、「『BL=エロ』ではない」という理由がより深く理解できるのではないかと思います。「消しゴムに余計な負担を掛けている」という風にまず「余白」を見つけ、その上で「『いつもごめんね』と思っている」と「補完」を行う行為こそが「BL(やおい)」の本質なのであり、そこに「エロ要素」が「ご褒美」として振りかけられているに過ぎないのです。春日太一はこのような発想について、
これって、(ねずっちの)「ととのいました」に近いことなんですね。
と評していますが、まさにその通りでしょう。BLの営みというのは、実にクリエイティブなものなのです。
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「余白」をどう見つけ、それをどう「補完」するかは人それぞれだから、「解釈」が多様になるのも当然だよね
本書ではそのクリエイティビティを、「俳句」や「宮中歌会」などに重ねる指摘も出てきます。どちらも「わびさび」の世界と言っていいでしょう。
で、この余白の見つけ方とか、その補完の仕方、行間の埋め方って、たとえば俳句の味わいとかに似ているとも思うんです。
想像天下一武道会ですよ。これもう昔の宮中での歌会と同じようなもんです。みんなで同じ自然の風景や人間関係に触れて、それをどう出力するのかの仲間内での発表会。伝統的にこういう文化が根付く土壌があったんじゃないかとすら思えてくるわけです。
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このように捉えると、「BL」の世界がイメージとはまるで異なったものに感じられるのではないかと思います。
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さて、ここまで見てきた考えを踏まえると、「BLの対象は何でもいい」ということが理解できるでしょう。「何か2つのものの間にある関係性」をいかに見出すかという知的遊戯なわけで、本書でも「地球上の全てが原作」と表現されています。確かに、「鉛筆」と「消しゴム」で出来る知的遊戯なのだから、地球上に存在するすべてのもの、あるいはもしかしたら、現時点では存在さえしない架空のものも含め、ありとあらゆるものが対象になり得ると言えるはずです。
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さて、このように何でも対象になり得るわけですが、やはり「人間」同士の関係の方が広く支持・関心を集めるだろうことは理解できるでしょう。そして、「人間」に対して「余白の発見と補完」を行う場合、「性」の話が絡んでくるのも自然だと思います。BLの上級者ともなれば、「イヤホン」と「イヤホンジャック」で性的な妄想が出来るそうですが、まあそれは例外です。ともかく、「人間」に対して何らかの「解釈(妄想)」が加われば、やはり最終的には「性」の話に行き着くことになるでしょう。
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その理由については本書ではいくつか触れられているのですが、まずは、本書を読む以前に私が理解していた点について書いていきましょう。それについて本書では、
自分とは関係ない世界がいいんです!
と説明されています。どういうことでしょうか?
例えばBLではなく、少女マンガを読むとしましょう。この場合、読者が女性であればやはり、マンガの中のヒロインに感情移入して作品を読むことになるはずです。しかしその場合どうしても、「”現実の自分”との比較」が避けられません。そして、「私はヒロインほど可愛くもないし、王子様みたいな男性に出会えてもいない……」のように、マンガのヒロインと自分自身を比較してしまうせいで、純粋に恋愛を楽しめないというのです。このように考えてしまう人はなかなか少女マンガを読めないだろうし、私の周りの腐女子も同じようなことを言っていました。
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もちろん、「仮想的にヒロインになりきって、少女マンガの世界を堪能したい」みたいなスタンスの人もいるだろうけどね
そういう読み方が出来るかどうかで、腐女子になるかどうかの分岐が生まれそうな気がする
だからこそ腐女子の人たちは、「感情移入する対象が作中に出てこない作品で純粋に『恋愛』を楽しみたい」と考えるのです。このように捉えると、「何故女性が『男同士の恋愛』を求めるのか」が理解しやすくなるでしょう。
しかし、理由は決してそれだけではありません。
「妄想のバリエーションが多い」「同性だからこそ理解し合える」「男同士だから大丈夫」という側面
本書では、今まで私が理解していなかった「何故『男同士の恋愛』なのか」の理由についても紹介されていました。
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最も重要なポイントとしては、「男女の関係性の場合、妄想のバリエーションが少ないこと」が挙げられるでしょう。
まず男性と女性では受け入れるほうが確定してしまうので関係性のバリエーションが狭い。
少女マンガを女性が読む場合、自分と同じ性の人間が主人公として出てくるわけですよね、ほとんど。自分と近かろうが遠かろうが、自分と同性の人がいて、で、彼女が結局「受け入れる」側に回るという結論はもう出てるわけです。
確かに「解釈(妄想)すること」こそがメインなのだから、バリエーションが狭いことは致命的だよね
「必要な制約」もあるだろうけど、この点に関しては「制約が一切無い」ことが重要になるわけだ
「受け入れる」というのは要するに「セックス」のことをイメージしてもらえればいいでしょう。BLの世界には「受け」「攻め」、あるいは「ネコ」「タチ」という言葉が出てきますが、これは要するに「挿入される側」「挿入する側」という意味です(セックス的な描写がない場合でも、両者の関係性を表現するのにこれらの言葉が使われる)。そして男女の関係の場合、「女性が『挿入される側』であることは、最初から確定済」だと言えます。これが「バリエーションが狭い」の意味です。
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BLにおいては「余白の発見と補完」がメインになるのだから、バリエーションは広いに越したことはありません。しかし男女の関係では、「挿入する/される」の関係は固定されてしまっているため、どうしたって広くなりようがないわけです。一方BLの場合、「どちらが『受け』『攻め』になるか」によって可能性が広がるし、さらにその上で、「誘い受け」「総攻め」「鬼畜攻め」のような様々なバリエーションも知られています。男女のように関係性が固定されていないだけではなく、「『受け』『攻め』のどちらにもなり得る」ことによる多様な属性の存在によって、さらに妄想のバリエーションが格段に広がるというわけです。
「誘い受け」「総攻め」「鬼畜攻め」が何なのかは別に知る必要はないよね
さて、別の理由については、春日太一が『窮鼠はチーズの夢を見る』について言及する中で触れられています。
もう一つ言えるのは、「同性である意味」も分かりました。同性だから感覚的な壁なくお互いが分かり合えるんですよね。どうしても異性、男と女の物語だと最終的に「男と女は分かり合えない」というところに帰結してしまう。ところが、男と男だから、こいつら分かり合えちゃうんですよ。そして、分かり合えるからこそ内面の地獄に入り込んじゃう。お互いがお互いの痛みを理解し合っている状態で、互いにまた傷つけ合ってくっていう、この内面地獄。
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こちらの方が理解しやすいのではないかと思います。確かに男女の関係の場合、最終的には「異性のことは分からないよね」という「行き止まり」に行き着いてしまうはずです。しかし、同性の場合にはそのような障壁はありません。もちろん、同性だとしても分かり合えないことは多々あるわけですが、大事なのは「外野からどう見えるか」でしょう。外野は「同性同士だから理解できるはず!」と素直に感じられるし、そのようなスタンスで関係性を妄想出来るというわけです。
春日太一の「内面地獄」っていう表現は、まさに『窮鼠はチーズの夢を見る』を的確に捉えるものだよね
しかし、「挿入する/される」の話は一旦置いておくとして、「同性同士だから理解できるはず!」という点だけ捉えれば、「女性同士の恋愛(百合)」でも良いように感じます。では何故「女性同士」ではなく「男同士」なのでしょうか?
この点についても本書では明確に説明されます。それが「『男は大丈夫だから安心』理論」です。
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男なら精神的にも肉体的にもかわいそうではない。これが結構大きい。だから、攻め受けの両方が成り立つ。
これは本当に「なるほど!」と感じる指摘でした。
実際的な話で言うなら、恐らくこの指摘が一番重要なんじゃないかなって思った
これも、「妄想のバリエーション」に関する話です。例えば「女性同士の恋愛」について考える場合、「暴力的な行為は可哀想」「罵り合いなんかさせたら傷つくかもしれない」という、「妄想するには不必要な思考」も一緒に浮かんでしまう可能性があります。しかし「男同士」であればそんな配慮は必要ありません。殴らせても罵り合わせても、「男なら大丈夫」と思えるため、妄想に「制約」が課されないのです。
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このように本書では、「何故『男同士の恋愛』が取り上げられるのか」について、非常に説得力のある説明がなされます。もちろん、腐女子の先人たちがこのようなことを殊更に意識してBLの世界を作り上げてきたなんてことはないでしょう。ただこのように言語化されると、BLというものの本質をより捉えやすくなるように思います。
ホント、説明されればされるほど、「良く出来た世界だよなぁ」って感じる
「俳句」みたいな創作活動と重ね合わせたくなる気持ちも理解できるよね
「女性には『男同士の関係』が理解できない」からこそ、BLという知的遊戯が発達した
では、腐女子の先人たちはどのように「BL」というジャンルを発展させてきたのでしょうか? この点について本書では、サンキュータツオが「『男同士の関係』の理解出来なさ」に重点を置いた説明をしています。
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そうすると、そういうメガネを手に入れた女性からすると、「男性的」ともいえる関係性のある社会っていうのは憧れの、まさにファンタジーの対象になりうる……と。「友情って言われても、私たちの感情にないから、そんなの」となる。それでは、代わりに「なんだろう」って言われたら、「付き合ってる」って思えば理解出来る、というか楽しめる……みたいな。
「そういうメガネを手に入れる」ってのは要するに、「BL回路を獲得する」って意味だね
本書の中でそれを「BLメガネを掛ける」みたいに表現する箇所があった
先程も少し触れましたが、私は「男同士の関係」に苦手意識を抱いていることもあり、私も女性たちと同様、「男同士の関係」を外から客観的に眺めているような意識を持っています。だから、「『男同士の関係』が女性からどのように見えているのか」が少しは分かるつもりです。
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まず、私が思う「女性同士の関係」について説明してみましょう。女性同士の場合まず、「うちら」と「うちら以外」という区分がかなり明確に存在するように思います。そしてさらに、その「うちら」が絶えず揺れ動いているという印象です。小説などで女子同士のいじめが扱われる場合、「同じグループ内で無視される相手がコロコロと入れ替わる」みたいな状況が描かれたりしますが、これも、「『同じグループ』という意味での『うちら』は固定的だけど、その『うちら』の関係性は常に揺れ動いている」と捉えられるだろうと思います。
ただ最近は、若い世代の間で趣味趣向がバラバラになりすぎて、「クラスの中に『グループ』さえ出来ない」みたいな感じらしいけど
ネットの記事で読んだだけだからどこまで実態に即してるか分かんないけど、確かにイメージ出来る話ではあるよね
「女性同士の関係」の場合、「うちら」はかなり厳密な区分であり、「排他的」と言ってもいいように思います。そして、個人の視点から見れば、「『うちら』に留まる」か「『うちら』から抜けるか」という選択しか存在しないように私には感じられるのです。ただこれは、あくまでも「女性全般」で捉えた場合の見え方であり、このような捉え方からはみ出る人ももちろんいるでしょう。しかし、全体の話と考えれば大きくは捉え間違ってはいないと思っています。
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一方「男同士」の場合は、確かに女性と同様「うちら」みたいな区分は存在するのですが、女性同士の場合ほど「排他的」ではないと言えるでしょう。男の場合は、特定の「うちら」だけで閉じていることはあまりなく、色んな種類の「うちら」の中に同時に存在できるのだと思います。様々な「うちら」を行き来しながら、どの「うちら」の境界も壊れることなく存在し続けているという感じでしょうか。少なくとも、「うちら」という単位で関係性を捉える女性視点では、男同士の関係はそのように見えているのではないかと思います。
この辺りの話は、本書『ボクたちのBL論』に書かれているわけではなく、私の個人的な考察だから、的外れだったら教えてほしい
メチャクチャ外してはないと思うんだけど、やはり男だから理解できない部分は絶対あるよね
さてそうだとすると、女性からすれば「男同士の関係」はとても不思議なものに見えるはずでしょう。女性同士の場合には、「『うちら』から出ること」は、「そこにはもう戻れないこと」を意味するはずだからです。それなのに男同士の場合は、女性同士の場合には明確に存在する「境界」をあっさり飛び越えているような感じになります。それは、女性の世界にはなかなか存在しない関係性だと言えるでしょう。
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だから女性はそこに、「恋愛」という枠組みを嵌め込もうとします。「女性同士の場合には成り立たない関係が成立しているように見えるのは、彼らが『付き合っている』からだ」と考えてみるのです。このような発想が積み重なり、深められることで、「BL」という世界が芳醇になっていったのだろうと指摘されています。
男の場合、女性同士の関係が謎めいて見えても、「あー、訳分からん」で終わらせちゃう人が多いだろうからね
そういう意味でも、男の方が劣ってるって言えるだろうなぁ
また本書には、次のような記述もあります。
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女性コミュニティから抜け出したいという人もBLややおい志向が強い。要するに、いつも似た者同士だけだと同調圧力がある。でも、あくまで作品を読むときだけはそういう世界から抜け出したいという人が、やおいを読んだりするということらしいです。
この感覚は、私の実感としてもとても理解できます。全員とは言いませんが、私が仲良くなる女性は、結果的に「腐女子」であることが多かったからです。そして確かに、「女性同士のコミュニティには上手くハマりきれていない」と感じるタイプでもありました。普段はもちろん、ちょっと頑張って「うちら」の関係性に馴染もうとしているのですが、そういう関係性を本質的には求めていないんだろうと思います。だからこそ、異性の私とも仲良くなったり、あるいはBL作品に触れたりするみたいな行動になるのだろうと感じました。逆に、これも人によるとは思いますが、女性同士のコミュニティに特に不満がないという人は、BL作品にもハマらないのかもしれません。
まあもちろん、「女性同士のコミュニティに馴染めなさを感じてるけど腐女子じゃない人」も周りにいるし
ただ、腐女子だってまだカミングアウトしてないだけって可能性もあるけどね
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しかし考えてみると面白い構図だなと思います。「女性同士の特有の関係性」が男同士のそれと違うからこそ「BL」という文化が生まれたと言える一方で、「女性同士の特有の関係性」に窮屈さを感じる人たちが「BL」を好んで消費していくのです。ちょっと捻れが生じているようにも思えます。そのような「訳の分からなさ」もまた、興味深いと感じました。
腐女子はいかに世界を捉えているか
さて、ここまでの説明を踏まえれば、男にはなかなか理解し難い女性の行動が捉えやすくなるでしょう。例えば、「ルールを理解していないスポーツを観戦する」というのは、男にはちょっと意味が分からない行動と言えます。しかし、「余白の発見と補完」という観点から捉えれば、彼女たちがどのようにスポーツを観ているのかが、次のように理解できるというわけです。
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で、「野球の何がそんなにおもしろいの」って言ったら、「やってることは同じなのに、昨日とちょっと違うんです」って言うんですよね。たとえば、昨日のピッチャーには一塁手は同じシチュエーションで駆け寄らなかったのに、今日のこの同じシチュエーションでなんか駆け寄ったぞ。これ、何があったんだと。
そういう細かいディテールとか。昨日はバットの端っこ持ってたのに、なんで今日はちょっと短めに持ってるんだろうとか、なんでキャッチャーは昨日はこういう指示出してたのに、同じシチュエーションで、とか。
これって興味のない人にはそんな小さな違いって思われるかもしれないんですけど、興味のある人にとっては……。
違いに大きいも小さいもない、「違う」っていうことがもう大きいんですよ。そこに何があったのかっていう余白ですよね。だから実はルーティーンの中のほうが余白が見えやすい、違いが見えやすいっていう。
だから俺それ聞いたときにもうガッテン、そういうことかと! ちっちゃな違いを見つけることが、そこに何があったのかという想像する余白をつくる。で、余白ができればあとは補完という作業なんで、やっぱ観察なんだなって。
確かにこれなら、ルールを知らなくても楽しめるだろうなぁ
しかも、観察力が半端ないから、知識を身に着けたらたぶん、男よりもメチャクチャ分析とか出来そうだよね
さて、このような観戦の仕方に共感できるかどうかは一旦置いておくとして、「余白の発見と補完」という観点から考えれば、「なるほど、こういう見方もあり得るのか」と感じるのではないかと思います。腐女子はまさに普段から「BLメガネ」を掛けて物事を捉え、日々「関係性の解釈」の訓練を積んでいるわけです。本書には、
腐女子はどんな本でも1冊を無人島に持って行ったら一生楽しめる。
と書かれているのですが、大げさではないと理解できるでしょう。
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また、このような感覚を知れば、「萌え」という概念もより広く捉えられるようになります。
だから、日常の見方も違う。たとえば、男って、女の人が髪の毛切ったとか変わったとかって気づかないじゃないですか。
だけど女性は、そういうところに気づける人が多いわけですよ。それは「ディテールに意味がある」ということがよく分かってるから。で、そのディテールが違うっていうことが何を意味するのかって余白を見つけて、そこを補完する作業をしている。
萌えっていうのは「観察」にその醍醐味がある。「萌えとは無作為の覗き見である」と僕は定義している。誰にも見られてない、カメラもないなかで彼が本当にどういうことをしているのか、彼女がどんな行動をしてるのかっていうね、それを人物として介入するんじゃなくて、定点カメラで観察することが、実は「萌え」なんです。
「自分が介入すること」に価値を見出すわけじゃないっていうところが重要だよね
だから、腐女子的な観点で言えば、「推しと恋愛関係になりたいわけじゃない」ってことになるんだろうなぁ
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さらに、その「萌え」が、現実世界ではなくマンガ・アニメの世界でより強く発揮されるのには、当たり前と言えば当たり前ですが次のような理由があるわけです。
なぜこういうのに萌えるのか。現実世界では半信半疑なものも、神の視点が可能な二次元世界では、彼らの確固たる信頼が確認できる。つまりですね、「AくんがBくんのことをどう思っているか」とか、日常世界では、「あの人が私のことをどう思っているか」って正確なとこ分かんないですよね、言葉で言われても嘘かもしんないし、自分が見ていないところではほかの女と遊んでいるかもしれないし。これ男女とも言えることですけど、常に不安を抱えてる。ただ、彼らを観察している守護霊の目線に立てばですね、確実なことが分かるわけです! 目に見えない信頼、口に出さなくても信頼がそこにあるというのは、マンガを読めば描かれているわけですよね。
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そういうのはホント、妄想には邪魔過ぎるから、それで2次元に行っちゃうってのはあるんだろうなぁ
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その難しさについては、次のように触れられています。
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私も、周りの腐女子にアドバイスしてもらわなかったら、やっぱりBL作品を読むには至らなかっただろうからなぁ
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さて、男がBLの世界に入っていくことはやはり簡単ではないのですが、本書にはその方向性を示す次のようなアドバイスが書かれています。
BLってファンタジーなんです。ガンダムが動く。ロボットが動く。あるいは宇宙人がいる。男同士が愛し合ってる。全て、同じファンタジーなんです。って理解するとわりと割りきって読めるじゃないですか。
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「そんなこと言われてもなぁ」と感じる人もいるでしょうが、「手に取ってみる」という障壁を取っ払う上ではこれで十分とも言えるかもしれません。いずれにせよ、「全人類が『良い』と感じる創作物」など存在しないはずです。別に、触れてみて「ダメ」だったらそれでいいと思います。腐女子のように「余白の発見と補完」が出来る必要もありません。次で触れますが、私も「余白の発見と補完」を意識してBLを読んだりはしていませんでした。独自に面白さを見つけて楽しんでいただけです。
BLをそういう風に読むかは別として、「余白の発見と補完」の能力はシンプルに欲しいなって思う
ただ本書のように「BLの文法」を細かく説明してくれると、「楽しむための方向性」がクリアになってとっつきやすくなることは確かだと思います。冒頭でも触れた通り、「ビジネスに活かせる教養」と捉えれば、なおのこと「何か読んでみようかな」という気持ちになるかもしれません。まあ確かに、
多くの男が入りにくいのは、「男同士が交わる絵」に対する男の中での生理的な嫌悪感があるからなんですよ。そこを突破するかどうかってすごく大きい。
という障壁はありますが、どうにか頑張って乗り越えて下さい。
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では最後に、本書を読む前の私が、BLをどう捉えていたのかに触れて終わりたいと思います。
私はBLを、「日常に絶望を持ち込む装置」だと考えていました。
例えば「男女の恋愛」の場合、その関係性に「絶望」を持ち込むには、なかなか大仰な設定を用意する必要があるでしょう。確かに、「難病に冒された」「身分に差があって許されない」などのように、「恋愛を継続させるための困難さ」を設定することは可能です。しかし、どうしてもそれらは「日常」からかけ離れたものになってしまいます。日常的な設定の中に「絶望」を持ち込むのは、かなり難しいと言えるでしょう。
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まあ、「絶望」がなかったら「男女の恋愛物語」が面白くならないかっていったら、そんなこともないだろうけどね
ただやっぱり創作者は、「どうやって障壁を作るか」で頭を悩ませるんじゃないかな
しかしBLであれば、日常の中に「絶望」を持ち込むことが容易になります。ただそれは、すべてのBLに同じことが言えるわけではありません。「私が好きなタイプのBL」だけです。冒頭で少し触れた通り、私は「ゲイがノンケにアプローチするような作品」が好きでして、こういうタイプのBLには当てはまります。
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私は本当に、この「日常に絶望を持ち込む装置」っていう要素が、メチャクチャよく出来てるなぁって感じたんだよなぁ
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私はこのような観点から、「BLは『男女の恋愛』では描けない世界を切り取ることが出来る」と考えているし、春日太一の言う「内面地獄」のような作品が生み出せる背景にもなっていると考えています。私のような読み方もまた、1つの側面として面白いと言えるのではないでしょうか。
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この本を読んで腐女子に対する接し方をもう少し変えてもらいたいなと思いますね。いちばんは「そっとしていく」ことだと思います。
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Kindleで本を出版しました。タイトルは、『天才・アインシュタインの生涯・功績をベースに、簡単過ぎない面白科学雑学を分かりやすく書いた本:相対性理論も宇宙論も量子論も』です。科学や科学者に関する、文系の人でも読んでもらえる作品に仕上げました。そんな自著について紹介をしています。
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古代から現代に至るまで、「宇宙」は様々な捉えられ方をしてきた。そして、新たな発見がなされる度に、「宇宙」は常識から外れた不可思議な姿を垣間見せることになる。サイモン・シン『宇宙創成』をベースに、「ビッグバンモデル」に至るまでの「宇宙観」の変遷を知る
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【挑戦】社会に欠かせない「暗号」はどう発展してきたか?サイモン・シンが、古代から量子暗号まで語る…
「暗号」は、ミステリやスパイの世界だけの話ではなく、インターネットなどのセキュリティで大活躍している、我々の生活に欠かせない存在だ。サイモン・シン『暗号解読』から、言語学から数学へとシフトした暗号の変遷と、「鍵配送問題」を解決した「公開鍵暗号」の仕組みを理解する
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【限界】有名な「錯覚映像」で心理学界をザワつかせた著者らが語る「人間はいかに間違えるか」:『錯覚…
私たちは、知覚や記憶を頼りに社会を生きている。しかしその「知覚」「記憶」は、本当に信頼できるのだろうか?心理学の世界に衝撃を与えた実験を考案した著者らの『錯覚の科学』から、「避けられない失敗のクセ」を理解する
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【天才】科学者とは思えないほど面白い逸話ばかりのファインマンは、一体どんな業績を残したのか?:『…
数々の面白エピソードで知られるファインマンの「科学者としての業績」を初めて網羅したと言われる一般書『ファインマンさんの流儀』をベースに、その独特の研究手法がもたらした様々な分野への間接的な貢献と、「ファインマン・ダイアグラム」の衝撃を理解する
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【使命】「CRISPR-Cas9」を分かりやすく説明。ノーベル賞受賞の著者による発見物語とその使命:『CRISPR…
生物学の研究を一変させることになった遺伝子編集技術「CRISPR-Cas9」の開発者は、そんな発明をするつもりなどまったくなかった。ノーベル化学賞を受賞した著者による『CRISPR (クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見』をベースに、その発見物語を知る
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【研究】光の量子コンピュータの最前線。量子テレポーテーションを実現させた科学者の最先端の挑戦:『…
世界中がその開発にしのぎを削る「量子コンピューター」は、技術的制約がかなり高い。世界で初めて「量子テレポーテーション」の実験を成功させた研究者の著書『光の量子コンピューター』をベースに、量子コンピューター開発の現状を知る
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【未知】タコに「高度な脳」があるなんて初耳だ。人類とは違う進化を遂げた頭足類の「意識」とは?:『…
タコなどの頭足類は、無脊椎動物で唯一「脳」を進化させた。まったく違う進化を辿りながら「タコに心を感じる」という著者は、「タコは地球外生命体に最も近い存在」と書く。『タコの心身問題』から、腕にも脳があるタコの進化の歴史と、「意識のあり方」を知る。
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【課題】原子力発電の廃棄物はどこに捨てる?世界各国、全人類が直面する「核のゴミ」の現状:映画『地…
我々の日常生活は、原発が生み出す電気によって成り立っているが、核廃棄物の最終処分場は世界中で未だにどの国も決められていないのが現状だ。映画『地球で最も安全な場所を探して』をベースに、「核のゴミ」の問題の歴史と、それに立ち向かう人々の奮闘を知る
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【感想】映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を異性愛者の男性(私)はこう観た。原作も読んだ上での考察
私は「腐男子」というわけでは決してないのですが、周りにいる腐女子の方に教えを請いながら、多少BL作品に触れたことがあります。その中でもダントツに素晴らしかったのが、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』です。その映画と原作の感想、そして私なりの考察について書いていきます
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【天才】『三島由紀夫vs東大全共闘』後に「伝説の討論」と呼ばれる天才のバトルを記録した驚異の映像
1969年5月13日、三島由紀夫と1000人の東大全共闘の討論が行われた。TBSだけが撮影していたフィルムを元に構成された映画「三島由紀夫vs東大全共闘」は、知的興奮に満ち溢れている。切腹の一年半前の討論から、三島由紀夫が考えていたことと、そのスタンスを学ぶ
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【意外】自己免疫疾患の原因は”清潔さ”?腸内フローラの多様性の欠如があらゆる病気を引き起こす:『寄…
人類は、コレラの蔓延を機に公衆衛生に力を入れ、寄生虫を排除した。しかし、感染症が減るにつれ、免疫関連疾患が増大していく。『寄生虫なき病』では、腸内細菌の多様性が失われたことが様々な疾患の原因になっていると指摘、「現代病」の蔓延に警鐘を鳴らす
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【称賛?】日本社会は終わっているのか?日本在住20年以上のフランス人が本国との比較で日本を評価:『…
日本に住んでいると、日本の社会や政治に不満を抱くことも多い。しかし、日本在住20年以上の『理不尽な国ニッポン』のフランス人著者は、フランスと比べて日本は上手くやっていると語る。宗教や個人ではなく、唯一「社会」だけが善悪を決められる日本の特異性について書く
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【驚嘆】人類はいかにして言語を獲得したか?この未解明の謎に真正面から挑む異色小説:『Ank: a mirror…
小説家の想像力は無限だ。まさか、「人類はいかに言語を獲得したか?」という仮説を小説で読めるとは。『Ank: a mirroring ape』をベースに、コミュニケーションに拠らない言語獲得の過程と、「ヒト」が「ホモ・サピエンス」しか存在しない理由を知る
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【終焉】資本主義はもう限界だ。インターネットがもたらした「限界費用ゼロ社会」とその激変
資本主義は、これまで上手くやってきた。しかし、技術革新やインターネットの登場により、製造コストは限りなくゼロに近づき、そのことによって、資本主義の命脈が断たれつつある。『限界費用ゼロ社会』をベースに、これからの社会変化を捉える
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【意外】思わぬ資源が枯渇。文明を支えてきた”砂”の減少と、今後我々が変えねばならぬこと:『砂と人類』
「砂が枯渇している」と聞いて信じられるだろうか?そこら中にありそうな砂だが、産業用途で使えるものは限られている。そしてそのために、砂浜の砂が世界中で盗掘されているのだ。『砂と人類』から、石油やプラスチックごみ以上に重要な環境問題を学ぶ
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【加虐】メディアの役割とは?森達也『A』が提示した「事実を報じる限界」と「思考停止社会」
オウム真理教の内部に潜入した、森達也のドキュメンタリー映画『A』は衝撃を与えた。しかしそれは、宗教団体ではなく、社会の方を切り取った作品だった。思考することを止めた社会の加虐性と、客観的な事実など切り取れないという現実について書く
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【情報】日本の社会問題を”祈り”で捉える。市場原理の外にあるべき”歩哨”たる裁き・教育・医療:『日本…
「霊性」というテーマは馴染みが薄いし、胡散臭ささえある。しかし『日本霊性論』では、「霊性とは、人間社会が集団を存続させるために生み出した機能」であると主張する。裁き・教育・医療の変化が鈍い真っ当な理由と、情報感度の薄れた現代人が引き起こす問題を語る
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【驚愕】日本の司法は終わってる。「中世レベル」で「無罪判決が多いと出世に不利」な腐った現実:『裁…
三権分立の一翼を担う裁判所のことを、私たちはよく知らない。元エリート裁判官・瀬木比呂志と事件記者・清水潔の対談本『裁判所の正体』をベースに、「裁判所による統制」と「権力との癒着」について書く。「中世レベル」とさえ言われる日本の司法制度の現実は、「裁判になんか関わることない」という人も無視できないはずだ
ルシルナ
普通って何?【本・映画の感想】 | ルシルナ
人生のほとんどの場面で、「普通」「常識」「当たり前」に対して違和感を覚え、生きづらさを感じてきました。周りから浮いてしまったり、みんなが当然のようにやっているこ…
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