目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:サンキュータツオ, 著:春日太一
¥891 (2023/11/03 18:54時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この記事で伝えたいこと
「BL=エロ」という捉え方をまずは捨て去って下さい
「ギャンブラーにとってのお金」と同じように、エロは「欠かせないが、決してメインではない」のです
この記事の3つの要点
- 「社会を動かす力を持つBLを『教養』として身につける」という発想は意外と重要だ
- 本書の表紙に映る「鉛筆」と「消しゴム」に対して、あなたは何を感じるか?
- 「俳句」やねずっちの「整いました」にも似た、実にクリエイティブな行為であることが理解できるはずだ
本書を読めば、「ルールの分からないスポーツを観戦する女性」の動機も理解できるようになるでしょう
自己紹介記事
あわせて読みたい
ルシルナの入り口的記事をまとめました(プロフィールやオススメの記事)
当ブログ「ルシルナ」では、本と映画の感想を書いています。そしてこの記事では、「管理者・犀川後藤のプロフィール」や「オススメの本・映画のまとめ記事」、あるいは「オススメ記事の紹介」などについてまとめました。ブログ内を周遊する参考にして下さい。
あわせて読みたい
【全作品読了・視聴済】私が「読んできた本」「観てきた映画」を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が『読んできた本』『観てきた映画』を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本・映画選びの参考にして下さい。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
BLはビジネスにも活かせる”教養”だ!男性著者2人がBLについて熱弁する『ボクたちのBL論』は、初心者向けの超入門書だ
まず、「BLなんて自分の人生には関係ない」と思っている方(特に男性)がいるなら、少し考えを改めた方がいいかもしれません。BLはもちろん「単なる娯楽」に過ぎませんが、今やもう、「単なる娯楽」以上の影響力を持つものになったと言ってもいいからです。本書『ボクたちのBL論』は、BLについて様々な観点から触れる作品ですが、その中に「ビジネスにも役立つ」と指摘されている箇所があります。少し長いのですが、まずはその部分を抜き出してみましょう。
あわせて読みたい
【変革】「ビジネスより自由のために交渉力を」と語る瀧本哲史の”自己啓発”本に「交渉のコツ」を学ぶ:…
急逝してしまった瀧本哲史は、「交渉力」を伝授する『武器としての交渉思考』を通じて、「若者よ、立ち上がれ!」と促している。「同質性のタコツボ」から抜け出し、「異質な人」と「秘密結社」を作り、世の中に対する「不満」を「変革」へと向かわせる、その勇気と力を本書から感じてほしい
たしかに、ヒットするドラマとしないドラマ。「同じイケメン使ってても、なぜだ?」というときに、BL的な要素、無視できないものがあります。あるいは売れているもの、ヒットする商品、あるいはCMに起用される人、人気のあるコンビ、全てBL要素に支えられています。仕掛け手がこのことについて知らなすぎる。BLってものをもっと情報としてだけでも入れてほしい! そして感覚で理解している人を制作サイドにつけてごらんなさい!
言っとくけど、テレビ局の人、映画製作者、出版社の人、みんなBLに対する理解がなさすぎる。愚かです、これ。いや、もう一度言いますよ。「週刊少年ジャンプ」買ってるの誰ですか。女性ですよ。オードリーの人気は誰が支えていますか。腐女子です。ラーメンズのDVD買ってるの誰だ。腐女子です。今、お金を出すのはオタクなんです。なかでも腐女子。行動力だってあるすごい人たちなんです。その存在を無視してマーケティングだなんだと、ふざけたことを言ってるんです。
BL作品を好む女性のことを、一般的に「腐女子」と呼びますが、その「腐女子」こそが様々な購買を支えているというわけです。この点は、もの作りやサービス業に携わる人にとって、十分理解しておくべき「教養」だと言えるのではないかと思います。
私は人生において、「腐女子」の人と結構仲良くなってきた方だと思うけど、確かに、買うし作るし発信するし、みたいな感じだったなぁ
自分の「好き」にメチャクチャ真っ直ぐ突き進んでいくタイプの人たちだよね
あわせて読みたい
【感涙】映画『彼女が好きなものは』の衝撃。偏見・無関心・他人事の世界から”脱する勇気”をどう持つか
涙腺がぶっ壊れたのかと思ったほど泣かされた映画『彼女が好きなものは』について、作品の核となる「ある事実」に一切触れずに書いた「ネタバレなし」の感想です。「ただし摩擦はゼロとする」の世界で息苦しさを感じているすべての人に届く「普遍性」を体感してください
本書は、サンキュータツオと春日太一という男性2人がBLについて語っている本なので、男性が読んでも十分とっつきやすい本だと思います。興味のあるなしは一旦脇において、「教養として学ぶ」と考えてはいかがでしょうか?
私の「BL」との関わり方と、本書の構成
さて、そもそも私は、本書を読む前の時点でそれなりにBL作品を読んでいました。先程書いた通り、人生の中で「腐女子」の方と仲良くなる機会が結構あったからです。腐女子は、同性に対しても「BLが好き」と明かさない人もいるので、異性だとよりそのハードルは高くなると言っていいでしょう。なので、「腐女子の友人がいる男性」はそう多くないと思っています。
そして、その腐女子の友人たちに、「私でも読めそうなBLを教えて」と頼んで、色々と勧めてもらったことがあるのです。一応書いておきますが、私は決して「腐男子」というわけではなく、同性愛に関心があるわけでもありません。そのため、私はどうしても、「主役2人が共にゲイ」という設定には興味が持てなかったので、腐女子の友人には、「ゲイがノンケにアプローチするような作品を勧めてほしい」とお願いしていました。一応書いておくと、「ノンケ」というのは「異性愛者」のことで、「同性愛の気(ケ)が無い(non)人」という意味のようです。
私は基本的に、「自分の趣味・好みによって触れる作品・情報を狭めたくない」っていつも思ってるから、新しい領域に行くのは割と好き
にしてもBLの世界は広いし深いから、自力で探索するのはなかなか難しいよね
このブログでも、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』、ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』、おげれつたなか『エスケープジャーニー』の感想をUPしています。他にも、記事こそありませんが、尾上与一『蒼穹のローレライ』、木原音瀬『箱の中』などは素晴らしい作品でした。
あわせて読みたい
【感想】映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を異性愛者の男性(私)はこう観た。原作も読んだ上での考察
私は「腐男子」というわけでは決してないのですが、周りにいる腐女子の方に教えを請いながら、多少BL作品に触れたことがあります。その中でもダントツに素晴らしかったのが、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』です。その映画と原作の感想、そして私なりの考察について書いていきます
あわせて読みたい
【考察】ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』は、BLの枠組みの中で「歪んだ人間」をリアルに描き出す
2巻までしか読んでいないが、ヨネダコウのマンガ『囀る鳥は羽ばたかない』は、「ヤクザ」「BL」という使い古されたフォーマットを使って、異次元の物語を紡ぎ出す作品だ。BLだが、BLという外枠を脇役にしてしまう矢代という歪んだ男の存在感が凄まじい。
あわせて読みたい
【感想】おげれつたなか『エスケープジャーニー』は、BLでしか描けない”行き止まりの関係”が絶妙
おげれつたなか『エスケープジャーニー』のあらすじ紹介とレビュー。とにかく、「BLでしか描けない関係性」が素晴らしかった。友達なら完璧だったのに、「恋人」ではまったく上手く行かなくなってしまった直人と太一の葛藤を通じて、「進んでも行き止まり」である関係にどう向き合うか考えさせられる
そしてその中でも、震えるほどの感動を覚えたのが『窮鼠はチーズの夢を見る』です。これは本当に凄かった。詳しくは先にリンクした記事を読んでほしいのですが、何よりも「ノンケの恋愛対象として女性が登場する」という点が凄すぎるのです。普通BL作品には、モブ的な存在以外に女性は出てきません。ノンケの前に「女性」と「ゲイ」がいたら、異性愛者であるノンケは間違いなく「女性」を選ぶからです。しかし『窮鼠はチーズの夢を見る』では、「恋愛対象としての女性」を登場させながらノンケの揺れる葛藤を描くといく、離れ業のような物語を描き出しています。
よくこんな物語を成立させられるものだよなぁって感じだったよね
大倉忠義、成田凌主演の映画も観に行ったけど、映画も凄く良かったし
本書『ボクたちのBL論』の中でもやはり、『窮鼠はチーズの夢を見る』は絶賛されています。春日太一は、
もう完全に純文学です。
と評し、さらにサンキュータツオは、
だから、この作品は男の人に勧めやすいんですよ。
と書いているほどです。『窮鼠はチーズの夢を見る』は全2巻のコミックなので、「何かBLでも読んでみようかな」という方は是非読んでみて下さい。
あわせて読みたい
【感想】映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を異性愛者の男性(私)はこう観た。原作も読んだ上での考察
私は「腐男子」というわけでは決してないのですが、周りにいる腐女子の方に教えを請いながら、多少BL作品に触れたことがあります。その中でもダントツに素晴らしかったのが、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』です。その映画と原作の感想、そして私なりの考察について書いていきます
さて続いて、本書の構成を紹介しましょう。本書は、芸人であり日本語学者でもあるサンキュータツオが「講師」となり、「生徒」である時代劇研究家・春日太一にBLの魅力を講義していくという内容になっています。
男が男にBLを紹介するっていう構成が斬新だなって思う
サンキュータツオは、独力でBLの世界を渉猟し、友人の腐女子から「あなたは腐女子だ」と認定されたそうで、いわゆる「腐男子」という立ち位置だね
春日太一は「一般読者代表」であり、『ボクたちのBL論』の読者は、春日太一目線でサンキュータツオの講義を受けられるというわけです。その講義は、単に「BLはこのように読むものです」みたいな話に留まるものではなく、「BLがいかに知的な営みであるのか」を明らかにする内容になっています。まさに「教養書」と言っていいでしょう。
それではまず、冒頭に書かれている「本書全体の案内」「サンキュータツオのスタンス」について触れた後、本書の中身を具体的に紹介していきたいと思います。
あわせて読みたい
【思考】戸田真琴、経験も文章もとんでもない。「人生どうしたらいい?」と悩む時に読みたい救いの1冊:…
「AV女優のエッセイ」と聞くと、なかなか手が伸びにくいかもしれないが、戸田真琴『あなたの孤独は美しい』の、あらゆる先入観を吹っ飛ばすほどの文章力には圧倒されるだろう。凄まじい経験と、普通ではない思考を経てAV女優に至った彼女の「生きる指針」は、多くの人の支えになるはずだ
「壁ドン」と同じく「BL」は近い将来、知る必要のない人間たちに消費されていく言葉となる。無理解に消費され、「これがお前の好きなBLってやつだろ?」的ないじられ方をされていくし、もしかしたらあなたがそっち側に立つかもしれない。そこで、そういういじり方はいけませんよ、そしてもしそういういじり方をされたらこの本をその人に読んでもらってください、という意味で、この本は編まれた。
BL、ボーイズラブというものを語る前に、まず言っておきたいことは、私自身、今思い切りBL作品やBL的に世界を見る愉しみを満喫していますが、おそらく完全には理解しきれていないし、またBL的体験は、誰の話を聞いても非常に個人的な話になっていき、一般化しにくいものでもある、ということです。そしておそらく、この世界のことを完璧に理解している人も、またいないということです。
とにかく、「『BLとはこういうものだ』みたいな雑な要約はしてくれるな」ってことだよね
本書では色んな話が展開されるけど、なんだかんだ言ってやっぱり「単なる娯楽」でしかないからなぁ
あわせて読みたい
【考察】『うみべの女の子』が伝えたいことを全力で解説。「関係性の名前」を手放し、”裸”で対峙する勇敢さ
ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
「BL=エロ」という捉え方の誤り
さて、まず重要な指摘に触れておきましょう。
やっぱり一般の人はさらに、「萌え=エロなんでしょ」「萌えキャラって、結局その子といやらしいことをしたいんでしょ」っていう偏見や思い込みがある。
本書では、BLに限らず「オタク全般」に対してこの指摘がなされるのですが、要するに「BLは決して、エロければいいわけではない」と言っているわけです。もちろんサンキュータツオは、次のようにも認めています。
ただね、本当に行間を読み取っていただきたいんですけど、「必ずしも」というこの4文字、大事なんですよね。じゃあ「ぺろぺろしたくないのか」っていったら、ま、ぺろぺろしたいところもあるんですよ、それはオタクはみんな認めなきゃいけない。
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『夕方のおともだち』は、「私はこう」という宣言からしか始まらない関係性の”純度”を描く
「こんな田舎にはもったいないほどのドM」と評された男が主人公の映画『夕方のおともだち』は、SM嬢と真性ドMの関わりを通じて、「宣言から始まる関係」の難しさを描き出す。「普通の世界」に息苦しさを感じ、どうしても馴染めないと思っている人に刺さるだろう作品
「『エロ要素』はもちろん必要なのだが、しかし決してそれが前面にくるわけではない」と理解しておく必要があるというわけです。
ちなみに、一応書いておくと、私はマンガ・ゲーム・アニメ等に基本的にほぼ触れないので、いわゆる「オタク」ではないと思ってる
元乃木坂46の齋藤飛鳥をずっと推してはいるけど、握手会とかライブに言ったりもしなかったしね
さて、「エロが前面には来ない」ことの良さについて、本書ではこんな風に書かれています。
すぐ「性」にいきたくないですよね。
「腐」は、すぐには性にいきつかない。「性行為」はむしろご褒美であり、おまけであり、クライマックス。
この辺りの話は、このような世界に触れる機会がない人ほど誤解しているポイントだと思うので、正しく認識しておく必要があるでしょう。当たり前の話ですが、「エロければ食いつくんでしょ?」程度の世界が、これほどの広がりを見せることなどなかったはずです。本当は、「もっと違う何か」がメインであり、エロはご褒美なわけですが、その「もっと違う何か」が外部からは見えにくいために、「エロに食いついてるんでしょ?」という認識になってしまうのだと思います。
あわせて読みたい
【実話】映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』(杏花主演)が描く、もの作りの絶望(と楽しさ)
実在したエロ雑誌編集部を舞台に、タブーも忖度もなく業界の内実を描き切る映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』は、「エロ雑誌」をテーマにしながら、「もの作りに懸ける想い」や「仕事への向き合い方」などがリアルに描かれる素敵な映画だった。とにかく、主役を演じた杏花が良い
そう捉えられるようになれば、「じゃあ何がメインなの?」っていう理解もしやすくなるし
さて、春日太一はこの「エロはあくまでご褒美である」という点について、次のように書いています。
それで、同時に男でいることのつまらなさをすごく実感するんですよ。男ってすぐ「口説く、口説かない」の話になるじゃないですか。「じゃあ口説いちゃいなよ」「やっちゃいなよ」みたいな。ホントつまんねえなって。突きつめると「勃つか勃たないか」「出すか出さないか」、そういうゲスな二元しかないわけですよ。
この点は、BLかどうかに関係なく、私もとても共感できます。私は40年間生きてきた中で、「同性の友人」がほぼいません。ここで言う「友人」というのは、いつ出会ったかとか、どれぐらい会うかとかに関係なく、「『メチャクチャ話が通じるなぁ』と感じる相手」という意味です。私は、男と喋っていて「話が通じる」という感覚になれたことがほとんどないのです。そしてその一端が、この「セックス出来るか否か」みたいな感覚にあると思っています。ほとんどの男が、女性との関係を「セックス出来るか否か」のみで捉えている感じがして、私も「男はつまらないなぁ」とよく感じていました。
あわせて読みたい
【苦しい】「恋愛したくないし、興味ない」と気づいた女性が抉る、想像力が足りない社会の「暴力性」:…
「実は私は、恋愛的な関係を求めているわけじゃないかもしれない」と気づいた著者ムラタエリコが、自身の日常や専門学校でも学んだ写真との関わりを基に、「自分に相応しい関係性」や「社会の暴力性」について思考するエッセイ。久々に心にズバズバ刺さった、私にはとても刺激的な1冊だった。
昔は「そういう会話に馴染まなきゃ」みたいに思ってたけど、いつの頃からかやらなくなったなぁ
「女性と喋ってる方が話が合うし、気が楽」って気づいてからは、余計にそうなったよね
「エロはあるけど、エロがメインなわけではない」という感覚は、もしかしたらギャンブルで説明すると男性にも理解しやすいかもしれません。ただ、私はギャンブル的なことを一切やらないので、今から書くことはあくまでも想像です。競馬でもパチンコでも何でもいいですが、「お金を賭ける」と要素が必ずあるでしょう。そして、ギャンブルをやらない私のような人間からは、「いくらお金が戻ってくるか」がメインであるように見えるわけです。
しかしギャンブルをやっている人は恐らく、「確かに、最終的なお金のリターンは重要だが、それよりも、その過程で得られる興奮こそが何物にも代えがたい」みたいに感じているのではないかと思います。だったら、「お金を賭ける」という要素を除いても良さそうに思えますが、やはりそれは違うのでしょう。麻雀をやる友人から前に聞いた記憶がありますが、「少額でもいいから、金を賭けないと面白くない」のだそうです。
あわせて読みたい
【妄執】チェス史上における天才ボビー・フィッシャーを描く映画。冷戦下の米ソ対立が盤上でも:映画『…
「500年に一度の天才」などと評され、一介のチェスプレーヤーでありながら世界的な名声を獲得するに至ったアメリカ人のボビー・フィッシャー。彼の生涯を描く映画『完全なるチェックメイト』から、今でも「伝説」と語り継がれる対局と、冷戦下ゆえの激動を知る
「BL」と「エロ」の関係も、まさにこれと同じだと言えるでしょう。「エロそのものが目的なのではなく、エロに至る過程こそが大事なのだが、じゃあエロが無くてもいいのかというとそんなことはない」というのは、ギャンブラーの主張とまったく同じに聞こえます。このように捉えると、「BL」と「エロ」を上手く切り離せるのではないでしょうか。
どうでも良い話だけど、競馬とパチンコは、それぞれ人生で1回だけやったことある
「ギャンブラー体質じゃなさそうだ」って気づいただけだったよね
さて、このように「BL」と「エロ」を切り離して考えると、「じゃあ腐女子は一体、BLの何を楽しんでいるんだ?」と分からなくなってしまう人が多いでしょう。本書は、そんな人に対して「BLの文法」を丁寧に説明することによって、「BLとは何か?」を明らかにしていく作品なのです。
世の中のありとあらゆる「関係」を、一旦「恋愛」として捉えてみる
さてここからは、「BLとは『解釈』である」という話をしていくわけですが、その前に1つ。本書を読んで「なるほど、そういうことだったのか」と理解できたことがありました。それは、「私の周りにいる腐女子たちは、どうして異性である私にBLの話をするのか」に関するものです。
あわせて読みたい
【苦しい】恋愛で寂しさは埋まらない。恋に悩む女性に「心の穴」を自覚させ、自己肯定感を高めるための…
「どうして恋愛が上手くいかないのか?」を起点にして、「女性として生きることの苦しさ」の正体を「心の穴」という言葉で説明する『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』はオススメ。「著者がAV監督」という情報に臆せず是非手を伸ばしてほしい
私は、BLのことなど一切何も知らない頃には既に、周りの腐女子からBLの話をよく聞いていました。ただ、「同じBLが好きな人同士で話した方が楽しいだろう」と考えるのが普通ではないかと思います。なので、「BLのことなど何も知らない私に話して、果たして楽しいんだろうか」とも感じていたのです。しかし本書を読んで、その疑問が氷解しました。
私は元々異性の友人が多いし、「話しやすさ」については自分なりに結構自信があるのもあって、実はそこまで疑問に感じてはいなかったんだけど
「こいつには何を話しても大丈夫」みたいな雰囲気を常に醸し出せるように頑張ってるもんね
本書では、BLは「宗教戦争」に喩えられています。どういうことか。例えばですが、キリスト教やイスラム教などの場合、「原典をいかに解釈するか」によって宗派がいくつにも分かれているでしょう。そしてそれと同じようなことが、BLの世界でも常に起こっているというわけです。たとえ同じ作品が好きだとしても、その作品の「解釈」が異なる相手だと、「戦争」が勃発してしまいます。だから、腐女子同士の会話は慎重にならざるを得ないのです。そのように考えると、「BLについて何も知らない私のような人間」は、話し相手として最適なのだろうと思います。
あわせて読みたい
【感想】人間関係って難しい。友達・恋人・家族になるよりも「あなた」のまま関わることに価値がある:…
誰かとの関係性には大抵、「友達」「恋人」「家族」のような名前がついてしまうし、そうなればその名前に縛られてしまいます。「名前がつかない関係性の奇跡」と「誰かを想う強い気持ちの表し方」について、『君の膵臓をたべたい』をベースに書いていきます
さてそれでは、BLにおける「解釈」について、シンプルにまとまっている文章を抜き出してみましょう。
「腐」とは、いろんな人間関係を、ひとまず「恋愛」と解釈してみること。
この文章は、その世界から遠い人には何だか分からないだろうBLを、非常に端的に定義しているように思います。ただ、これだけではなかなか分かりづらいでしょう。もう少し具体的に触れている文章がこちらです。
それで、女性が男性同士の友情や「なんなのか分からない関係」を全て「恋愛という関係」に置き換える作業が「腐る」という知的遊戯なんだと考えました。「友情、ライバル、一目置いてる、気持ち悪い、気になる、憧れ、かわいい後輩」みたいな、このへんの意識っていうものが、異性同士だと、もう早くも恋愛の何らかの段階に入っちゃうんです。ですけど、同性同士だとそうじゃない。そうしたら、BLを愛する人からしたら、「これ恋愛って解釈したほうが分かりやすくね?」みたいな話になる。
あわせて読みたい
【共感】「恋愛したくない」という社会をリアルに描く売野機子の漫画『ルポルタージュ』が示す未来像
売野機子のマンガ『ルポルタージュ』は、「恋愛を飛ばして結婚すること」が当たり前の世界が描かれる。私はこの感覚に凄く共感できてしまった。「恋愛」「結婚」に対して、「世間の『当たり前』に馴染めない感覚」を持つ私が考える、「恋愛」「結婚」が有する可能性
こう説明されると、大分イメージが湧くのではないかと思います。
「同性同士だからこその距離感の近さ」を「恋愛」というモードで捉えるってことね
で、「恋愛」で捉えるからこそ、最終的には「エロ」まで含まれることになるわけだ
例えば、マンガなどでよく描かれる「男同士のライバル関係」は、女性にはなかなか上手く捉えられないそうです。私はマンガをほぼ読まないので断言は出来ませんが、確かに「女性同士のライバル関係」が描かれることはあまり多くないように思います。女性同士の場合、なんとなく「ライバルは敵」みたいな感じになりそうですが、男同士の場合は「ライバルは、敵でもあり同士でもある」みたいになることが多いでしょう。そして、このような関係性を上手く理解できない女性が、「だったら、『恋愛』って解釈したらよくない?」という風に考えるようになったのではないか、というわけです。
本書には、それをさらに広く捉えたこんな文章もあります。
このBLとかやおいといわれているものの根本にあるものっていうのは、「余白と補完」なんだと思うんですよね。
これは本当に「わびさび」とかを愛するすごく日本人的な発想だなとも思うんです。たとえば今まで語ってきたように、二つのものとそれに関して分かってる限られた情報の中から――たとえば表情一つ変わったところに――何があったのかを、つまり、まず余白を見つけますよね。で、それに対して自分なりの解釈で補完をするんですよね。その作業のおもしろさなんですよ。
あわせて読みたい
【感想】湯浅政明監督アニメ映画『犬王』は、実在した能楽師を”異形”として描くスペクタクル平家物語
観るつもりなし、期待値ゼロ、事前情報ほぼ皆無の状態で観た映画『犬王』(湯浅政明監督)はあまりにも凄まじく、私はこんなとんでもない傑作を見逃すところだったのかと驚愕させられた。原作の古川日出男が紡ぐ狂気の世界観に、リアルな「ライブ感」が加わった、素晴らしすぎる「音楽映画」
このように捉えると、「BL的発想」をさらに押し広げることが出来ることになります。次では、そのことを明確に示す、本書の表紙とも関係する話を展開していきましょう。
確かに、「BLの本なのに変な表紙だな」とは思ったよね
「BLっぽくない」から買いやすくはあるんだけど、「何で鉛筆と消しゴム?」ってのは謎だった
BLとは要するに、「関係性の想像と創造の営み」である
先程の説明をまとめると、BLは「関係性の想像と創造の営み」と言えるだろうと思います。「余白を発見する行為」が「想像」で、「余白を補完する行為」が「創造」というわけです。
さて、この点に関連させる形で、本書の表紙の話をしていくことにしましょう。本書では、BLの話が展開される本にマッチするとはとても思えない、鉛筆と消しゴムの写真が表紙として採用されています。しかし、BLの世界から遠い人にはまず理解できないでしょうが、この表紙実は、本書の内容の本質と関わる重要なものなのです。
あわせて読みたい
【映画】今泉力哉監督『ちひろさん』(有村架純)が描く、「濃い寂しさ」が溶け合う素敵な関係性
今泉力哉監督、有村架純主演の映画『ちひろさん』は、その圧倒的な「寂しさの共有」がとても心地よい作品です。色んな「寂しさ」を抱えた様々な人と関わる、「元風俗嬢」であることを公言し海辺の町の弁当屋で働く「ちひろさん」からは、同じような「寂しさ」を抱える人を惹き付ける力強さが感じられるでしょう
本書冒頭で、サンキュータツオは春日太一に、
鉛筆は消しゴムのことをどう思っていますか?
と質問しています。そして、この問いに答えることこそが「BLという営みそのもの」であると、本書では指摘されるのです。
まあ正確に言うと、「BLとは何か」ではなく「やおいとは何か」って話なんだけど
この記事では、その辺りは別に深掘りする必要はないよね
さて脳内に「BL回路」が存在する人なら、「鉛筆は消しゴムのことをどう思っていますか?」という問いだけで何らかの答えを返せるでしょうが、私たち初心者はそうはいきません。というわけで本書では、とりあえずこの問いの話は一旦保留にして講義が進んでいきますが,中盤で改めてサンキュータツオから問いが投げかけられるのです。しかしそれは、先程とは少しだけ違います。
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『流浪の月』を観て感じた、「『見て分かること』にしか反応できない世界」への気持ち悪さ
私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
2Bの鉛筆と、HBの鉛筆と、シャープペンがあります。2Bの鉛筆は、消しゴムのことをどう思っていますか?
さて、「BL回路」が無くても、「この問いになら答えられる」という人はいるでしょう。私もすぐに思いつきました。それは、春日太一の答えと同じで、「いつもごめんね」です。何故なのか理解できるでしょうか? それは、「2Bの鉛筆はHBより濃いため、消しゴムに余計に負担を掛けてしまうから」です。これこそが「余白の発見と補完」というわけです。
腐女子が「人間以外のモノ」にも萌えたりしてるのが、理屈では理解できた感じする
この指摘によって、「『BL=エロ』ではない」という理由がより深く理解できるのではないかと思います。「消しゴムに余計な負担を掛けている」という風にまず「余白」を見つけ、その上で「『いつもごめんね』と思っている」と「補完」を行う行為こそが「BL(やおい)」の本質なのであり、そこに「エロ要素」が「ご褒美」として振りかけられているに過ぎないのです。春日太一はこのような発想について、
これって、(ねずっちの)「ととのいました」に近いことなんですね。
と評していますが、まさにその通りでしょう。BLの営みというのは、実にクリエイティブなものなのです。
あわせて読みたい
【奇跡】鈴木敏夫が2人の天才、高畑勲と宮崎駿を語る。ジブリの誕生から驚きの創作秘話まで:『天才の思…
徳間書店から成り行きでジブリ入りすることになったプロデューサー・鈴木敏夫が、宮崎駿・高畑勲という2人の天才と共に作り上げたジブリ作品とその背景を語り尽くす『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』。日本のアニメ界のトップランナーたちの軌跡の奇跡を知る
「余白」をどう見つけ、それをどう「補完」するかは人それぞれだから、「解釈」が多様になるのも当然だよね
本書ではそのクリエイティビティを、「俳句」や「宮中歌会」などに重ねる指摘も出てきます。どちらも「わびさび」の世界と言っていいでしょう。
で、この余白の見つけ方とか、その補完の仕方、行間の埋め方って、たとえば俳句の味わいとかに似ているとも思うんです。
想像天下一武道会ですよ。これもう昔の宮中での歌会と同じようなもんです。みんなで同じ自然の風景や人間関係に触れて、それをどう出力するのかの仲間内での発表会。伝統的にこういう文化が根付く土壌があったんじゃないかとすら思えてくるわけです。
あわせて読みたい
【救い】耐えられない辛さの中でどう生きるか。短歌で弱者の味方を志すホームレス少女の生き様:『セー…
死にゆく母を眺め、施設で暴力を振るわれ、拾った新聞で文字を覚えたという壮絶な過去を持つ鳥居。『セーラー服の歌人 鳥居』は、そんな辛い境遇を背景に、辛さに震えているだろう誰かを救うために短歌を生み出し続ける生き方を描き出す。凄い人がいるものだ
このように捉えると、「BL」の世界がイメージとはまるで異なったものに感じられるのではないかと思います。
「地球上のすべてのものが対象になり得る」のに、何故「男同士」ばかりが注目されるのか?
さて、ここまで見てきた考えを踏まえると、「BLの対象は何でもいい」ということが理解できるでしょう。「何か2つのものの間にある関係性」をいかに見出すかという知的遊戯なわけで、本書でも「地球上の全てが原作」と表現されています。確かに、「鉛筆」と「消しゴム」で出来る知的遊戯なのだから、地球上に存在するすべてのもの、あるいはもしかしたら、現時点では存在さえしない架空のものも含め、ありとあらゆるものが対象になり得ると言えるはずです。
「森羅万象に神を見出す」みたいな、凄く日本的な発想って感じだよね
一神教の国では「人型ロボット」を作る抵抗感が凄く強いって話を聞いたことあるけど、同じように、BLも一神教の国からは生まれなかったのかも
あわせて読みたい
【異端】「仏教とは?」を簡単に知りたい方へ。ブッダは「異性と目も合わせないニートになれ」と主張し…
我々が馴染み深い「仏教」は「大乗仏教」であり、創始者ゴータマ・ブッダの主張が詰まった「小乗仏教」とは似て非なるものだそうだ。『講義ライブ だから仏教は面白い!』では、そんな「小乗仏教」の主張を「異性と目も合わせないニートになれ」とシンプルに要約して説明する
さて、このように何でも対象になり得るわけですが、やはり「人間」同士の関係の方が広く支持・関心を集めるだろうことは理解できるでしょう。そして、「人間」に対して「余白の発見と補完」を行う場合、「性」の話が絡んでくるのも自然だと思います。BLの上級者ともなれば、「イヤホン」と「イヤホンジャック」で性的な妄想が出来るそうですが、まあそれは例外です。ともかく、「人間」に対して何らかの「解釈(妄想)」が加われば、やはり最終的には「性」の話に行き着くことになるでしょう。
しかし、ここで疑問なのが、「どうして男同士の恋愛ばかりが取り上げられるのか?」です。「BLって、男同士の恋愛を描くものを指すんでしょ?」と感じた方には何を問題視しているのか理解できないかもしれませんが、思い出してほしいのは、「BLとはそもそも知的遊戯だ」という点です。「2人の間の関係性を解釈すること」が重要なのであれば、それが「男同士」に限定されている理由はないように思います。
あわせて読みたい
【純真】ゲイが犯罪だった時代が舞台の映画『大いなる自由』は、刑務所内での極深な人間ドラマを描く
男性同士の恋愛が犯罪であり、ゲイの男性が刑法175条を理由に逮捕されてしまう時代のドイツを描いた映画『大いなる自由』は、確かに同性愛の物語なのだが、実はそこに本質はない。物語の本質は、まさにタイトルにある通り「自由」であり、ラストシーンで突きつけられるその深い問いかけには衝撃を受けるだろう
その理由については本書ではいくつか触れられているのですが、まずは、本書を読む以前に私が理解していた点について書いていきましょう。それについて本書では、
自分とは関係ない世界がいいんです!
と説明されています。どういうことでしょうか?
例えばBLではなく、少女マンガを読むとしましょう。この場合、読者が女性であればやはり、マンガの中のヒロインに感情移入して作品を読むことになるはずです。しかしその場合どうしても、「”現実の自分”との比較」が避けられません。そして、「私はヒロインほど可愛くもないし、王子様みたいな男性に出会えてもいない……」のように、マンガのヒロインと自分自身を比較してしまうせいで、純粋に恋愛を楽しめないというのです。このように考えてしまう人はなかなか少女マンガを読めないだろうし、私の周りの腐女子も同じようなことを言っていました。
あわせて読みたい
【世界観】映画『夜は短し歩けよ乙女』の”黒髪の乙女”は素敵だなぁ。ニヤニヤが止まらない素晴らしいアニメ
森見登美彦の原作も大好きな映画『夜は短し歩けよ乙女』は、「リアル」と「ファンタジー」の境界を絶妙に漂う世界観がとても好き。「黒髪の乙女」は、こんな人がいたら好きになっちゃうよなぁ、と感じる存在です。ずっとニヤニヤしながら観ていた、とても大好きな映画
もちろん、「仮想的にヒロインになりきって、少女マンガの世界を堪能したい」みたいなスタンスの人もいるだろうけどね
そういう読み方が出来るかどうかで、腐女子になるかどうかの分岐が生まれそうな気がする
だからこそ腐女子の人たちは、「感情移入する対象が作中に出てこない作品で純粋に『恋愛』を楽しみたい」と考えるのです。このように捉えると、「何故女性が『男同士の恋愛』を求めるのか」が理解しやすくなるでしょう。
しかし、理由は決してそれだけではありません。
「妄想のバリエーションが多い」「同性だからこそ理解し合える」「男同士だから大丈夫」という側面
本書では、今まで私が理解していなかった「何故『男同士の恋愛』なのか」の理由についても紹介されていました。
あわせて読みたい
【恋愛】モテない男は何がダメ?AV監督が男女共に贈る「コミュニケーション」と「居場所」の話:『すべ…
二村ヒトシ『すべてはモテるためである』は、タイトルも装丁も、どう見ても「モテ本」にしか感じられないだろうが、よくある「モテるためのマニュアル」が書かれた本ではまったくない。「行動」を促すのではなく「思考」が刺激される、「コミュニケーション」と「居場所」について語る1冊
最も重要なポイントとしては、「男女の関係性の場合、妄想のバリエーションが少ないこと」が挙げられるでしょう。
まず男性と女性では受け入れるほうが確定してしまうので関係性のバリエーションが狭い。
少女マンガを女性が読む場合、自分と同じ性の人間が主人公として出てくるわけですよね、ほとんど。自分と近かろうが遠かろうが、自分と同性の人がいて、で、彼女が結局「受け入れる」側に回るという結論はもう出てるわけです。
確かに「解釈(妄想)すること」こそがメインなのだから、バリエーションが狭いことは致命的だよね
「必要な制約」もあるだろうけど、この点に関しては「制約が一切無い」ことが重要になるわけだ
「受け入れる」というのは要するに「セックス」のことをイメージしてもらえればいいでしょう。BLの世界には「受け」「攻め」、あるいは「ネコ」「タチ」という言葉が出てきますが、これは要するに「挿入される側」「挿入する側」という意味です(セックス的な描写がない場合でも、両者の関係性を表現するのにこれらの言葉が使われる)。そして男女の関係の場合、「女性が『挿入される側』であることは、最初から確定済」だと言えます。これが「バリエーションが狭い」の意味です。
あわせて読みたい
【正義】復讐なんかに意味はない。それでも「この復讐は正しいかもしれない」と思わされる映画:『プロ…
私は基本的に「復讐」を許容できないが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』の主人公キャシーの行動は正当化したい。法を犯す明らかにイカれた言動なのだが、その動機は一考の余地がある。何も考えずキャシーを非難していると、矢が自分の方に飛んでくる、恐ろしい作品
BLにおいては「余白の発見と補完」がメインになるのだから、バリエーションは広いに越したことはありません。しかし男女の関係では、「挿入する/される」の関係は固定されてしまっているため、どうしたって広くなりようがないわけです。一方BLの場合、「どちらが『受け』『攻め』になるか」によって可能性が広がるし、さらにその上で、「誘い受け」「総攻め」「鬼畜攻め」のような様々なバリエーションも知られています。男女のように関係性が固定されていないだけではなく、「『受け』『攻め』のどちらにもなり得る」ことによる多様な属性の存在によって、さらに妄想のバリエーションが格段に広がるというわけです。
「誘い受け」「総攻め」「鬼畜攻め」が何なのかは別に知る必要はないよね
さて、別の理由については、春日太一が『窮鼠はチーズの夢を見る』について言及する中で触れられています。
もう一つ言えるのは、「同性である意味」も分かりました。同性だから感覚的な壁なくお互いが分かり合えるんですよね。どうしても異性、男と女の物語だと最終的に「男と女は分かり合えない」というところに帰結してしまう。ところが、男と男だから、こいつら分かり合えちゃうんですよ。そして、分かり合えるからこそ内面の地獄に入り込んじゃう。お互いがお互いの痛みを理解し合っている状態で、互いにまた傷つけ合ってくっていう、この内面地獄。
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』を観てくれ!現代の人間関係の教科書的作品を考…
映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、私にグサグサ突き刺さるとても素晴らしい映画だった。「ぬいぐるみに話しかける」という活動内容の大学サークルを舞台にした物語であり、「マイノリティ的マインド」を持つ人たちの辛さや葛藤を、「マジョリティ視点」を絶妙に織り交ぜて描き出す傑作について考察する
こちらの方が理解しやすいのではないかと思います。確かに男女の関係の場合、最終的には「異性のことは分からないよね」という「行き止まり」に行き着いてしまうはずです。しかし、同性の場合にはそのような障壁はありません。もちろん、同性だとしても分かり合えないことは多々あるわけですが、大事なのは「外野からどう見えるか」でしょう。外野は「同性同士だから理解できるはず!」と素直に感じられるし、そのようなスタンスで関係性を妄想出来るというわけです。
春日太一の「内面地獄」っていう表現は、まさに『窮鼠はチーズの夢を見る』を的確に捉えるものだよね
しかし、「挿入する/される」の話は一旦置いておくとして、「同性同士だから理解できるはず!」という点だけ捉えれば、「女性同士の恋愛(百合)」でも良いように感じます。では何故「女性同士」ではなく「男同士」なのでしょうか?
この点についても本書では明確に説明されます。それが「『男は大丈夫だから安心』理論」です。
あわせて読みたい
【驚異】映画『RRR』『バーフバリ』は「観るエナジードリンク」だ!これ程の作品にはなかなか出会えないぞ
2022年に劇場公開されるや、そのあまりの面白さから爆発的人気を博し、現在に至るまでロングラン上映が続いている『RRR』と、同監督作の『バーフバリ』は、大げさではなく「全人類にオススメ」と言える超絶的な傑作だ。まだ観ていない人がいるなら、是非観てほしい!
男なら精神的にも肉体的にもかわいそうではない。これが結構大きい。だから、攻め受けの両方が成り立つ。
これは本当に「なるほど!」と感じる指摘でした。
実際的な話で言うなら、恐らくこの指摘が一番重要なんじゃないかなって思った
これも、「妄想のバリエーション」に関する話です。例えば「女性同士の恋愛」について考える場合、「暴力的な行為は可哀想」「罵り合いなんかさせたら傷つくかもしれない」という、「妄想するには不必要な思考」も一緒に浮かんでしまう可能性があります。しかし「男同士」であればそんな配慮は必要ありません。殴らせても罵り合わせても、「男なら大丈夫」と思えるため、妄想に「制約」が課されないのです。
あわせて読みたい
【あらすじ】蝦夷地の歴史と英雄・阿弖流為を描く高橋克彦の超大作小説『火怨』は全人類必読の超傑作
大げさではなく、「死ぬまでに絶対に読んでほしい1冊」としてお勧めしたい高橋克彦『火怨』は凄まじい小説だ。歴史が苦手で嫌いな私でも、上下1000ページの物語を一気読みだった。人間が人間として生きていく上で大事なものが詰まった、矜持と信念に溢れた物語に酔いしれてほしい
このように本書では、「何故『男同士の恋愛』が取り上げられるのか」について、非常に説得力のある説明がなされます。もちろん、腐女子の先人たちがこのようなことを殊更に意識してBLの世界を作り上げてきたなんてことはないでしょう。ただこのように言語化されると、BLというものの本質をより捉えやすくなるように思います。
ホント、説明されればされるほど、「良く出来た世界だよなぁ」って感じる
「俳句」みたいな創作活動と重ね合わせたくなる気持ちも理解できるよね
「女性には『男同士の関係』が理解できない」からこそ、BLという知的遊戯が発達した
では、腐女子の先人たちはどのように「BL」というジャンルを発展させてきたのでしょうか? この点について本書では、サンキュータツオが「『男同士の関係』の理解出来なさ」に重点を置いた説明をしています。
あわせて読みたい
【青春】二宮和也で映画化もされた『赤めだか』。天才・立川談志を弟子・談春が描く衝撃爆笑自伝エッセイ
「落語協会」を飛び出し、新たに「落語立川流」を創設した立川談志と、そんな立川談志に弟子入りした立川談春。「師匠」と「弟子」という関係で過ごした”ぶっ飛んだ日々”を描く立川談春のエッセイ『赤めだか』は、立川談志の異端さに振り回された立川談春の成長譚が面白い
そうすると、そういうメガネを手に入れた女性からすると、「男性的」ともいえる関係性のある社会っていうのは憧れの、まさにファンタジーの対象になりうる……と。「友情って言われても、私たちの感情にないから、そんなの」となる。それでは、代わりに「なんだろう」って言われたら、「付き合ってる」って思えば理解出来る、というか楽しめる……みたいな。
「そういうメガネを手に入れる」ってのは要するに、「BL回路を獲得する」って意味だね
本書の中でそれを「BLメガネを掛ける」みたいに表現する箇所があった
先程も少し触れましたが、私は「男同士の関係」に苦手意識を抱いていることもあり、私も女性たちと同様、「男同士の関係」を外から客観的に眺めているような意識を持っています。だから、「『男同士の関係』が女性からどのように見えているのか」が少しは分かるつもりです。
あわせて読みたい
【考察】世の中は理不尽だ。平凡な奴らがのさばる中で、”特別な私の美しい世界”を守る生き方:『オーダ…
自分以外は凡人、と考える主人公の少女はとてもイタい。しかし、世間の価値観と折り合わないなら、自分の美しい世界を守るために闘うしかない。中二病の少女が奮闘する『オーダーメイド殺人クラブ』をベースに、理解されない世界をどう生きるかについて考察する
まず、私が思う「女性同士の関係」について説明してみましょう。女性同士の場合まず、「うちら」と「うちら以外」という区分がかなり明確に存在するように思います。そしてさらに、その「うちら」が絶えず揺れ動いているという印象です。小説などで女子同士のいじめが扱われる場合、「同じグループ内で無視される相手がコロコロと入れ替わる」みたいな状況が描かれたりしますが、これも、「『同じグループ』という意味での『うちら』は固定的だけど、その『うちら』の関係性は常に揺れ動いている」と捉えられるだろうと思います。
ただ最近は、若い世代の間で趣味趣向がバラバラになりすぎて、「クラスの中に『グループ』さえ出来ない」みたいな感じらしいけど
ネットの記事で読んだだけだからどこまで実態に即してるか分かんないけど、確かにイメージ出来る話ではあるよね
「女性同士の関係」の場合、「うちら」はかなり厳密な区分であり、「排他的」と言ってもいいように思います。そして、個人の視点から見れば、「『うちら』に留まる」か「『うちら』から抜けるか」という選択しか存在しないように私には感じられるのです。ただこれは、あくまでも「女性全般」で捉えた場合の見え方であり、このような捉え方からはみ出る人ももちろんいるでしょう。しかし、全体の話と考えれば大きくは捉え間違ってはいないと思っています。
あわせて読みたい
【覚悟】人生しんどい。その場の”空気”から敢えて外れる3人の中学生の処世術から生き方を学ぶ:『私を知…
空気を読んで摩擦を減らす方が、集団の中では大体穏やかにいられます。この記事では、様々な理由からそんな選択をしない/できない、『私を知らないで』に登場する中学生の生き方から、厳しい現実といかにして向き合うかというスタンスを学びます
一方「男同士」の場合は、確かに女性と同様「うちら」みたいな区分は存在するのですが、女性同士の場合ほど「排他的」ではないと言えるでしょう。男の場合は、特定の「うちら」だけで閉じていることはあまりなく、色んな種類の「うちら」の中に同時に存在できるのだと思います。様々な「うちら」を行き来しながら、どの「うちら」の境界も壊れることなく存在し続けているという感じでしょうか。少なくとも、「うちら」という単位で関係性を捉える女性視点では、男同士の関係はそのように見えているのではないかと思います。
この辺りの話は、本書『ボクたちのBL論』に書かれているわけではなく、私の個人的な考察だから、的外れだったら教えてほしい
メチャクチャ外してはないと思うんだけど、やはり男だから理解できない部分は絶対あるよね
さてそうだとすると、女性からすれば「男同士の関係」はとても不思議なものに見えるはずでしょう。女性同士の場合には、「『うちら』から出ること」は、「そこにはもう戻れないこと」を意味するはずだからです。それなのに男同士の場合は、女性同士の場合には明確に存在する「境界」をあっさり飛び越えているような感じになります。それは、女性の世界にはなかなか存在しない関係性だと言えるでしょう。
あわせて読みたい
【選択】特異な疑似家族を描く韓国映画『声もなく』の、「家族とは?」の本質を考えさせる深淵さ
喋れない男が、誘拐した女の子をしばらく匿い、疑似家族のような関係を築く韓国映画『声もなく』は、「映画の中で描かれていない部分」が最も印象に残る作品だ。「誘拐犯」と「被害者」のあり得ない関係性に、不自然さをまったく抱かせない設定・展開の妙が見事な映画
だから女性はそこに、「恋愛」という枠組みを嵌め込もうとします。「女性同士の場合には成り立たない関係が成立しているように見えるのは、彼らが『付き合っている』からだ」と考えてみるのです。このような発想が積み重なり、深められることで、「BL」という世界が芳醇になっていったのだろうと指摘されています。
男の場合、女性同士の関係が謎めいて見えても、「あー、訳分からん」で終わらせちゃう人が多いだろうからね
そういう意味でも、男の方が劣ってるって言えるだろうなぁ
また本書には、次のような記述もあります。
あわせて読みたい
【無知】映画『生理ちゃん』で理解した気になってはいけないが、男(私)にも苦労が伝わるコメディだ
男である私にはどうしても理解が及ばない領域ではあるが、女友達から「生理」の話を聞く機会があったり、映画『生理ちゃん』で視覚的に「生理」の辛さが示されることで、ちょっとは分かったつもりになっている。しかし男が「生理」を理解するのはやっぱり難しい
女性コミュニティから抜け出したいという人もBLややおい志向が強い。要するに、いつも似た者同士だけだと同調圧力がある。でも、あくまで作品を読むときだけはそういう世界から抜け出したいという人が、やおいを読んだりするということらしいです。
この感覚は、私の実感としてもとても理解できます。全員とは言いませんが、私が仲良くなる女性は、結果的に「腐女子」であることが多かったからです。そして確かに、「女性同士のコミュニティには上手くハマりきれていない」と感じるタイプでもありました。普段はもちろん、ちょっと頑張って「うちら」の関係性に馴染もうとしているのですが、そういう関係性を本質的には求めていないんだろうと思います。だからこそ、異性の私とも仲良くなったり、あるいはBL作品に触れたりするみたいな行動になるのだろうと感じました。逆に、これも人によるとは思いますが、女性同士のコミュニティに特に不満がないという人は、BL作品にもハマらないのかもしれません。
まあもちろん、「女性同士のコミュニティに馴染めなさを感じてるけど腐女子じゃない人」も周りにいるし
ただ、腐女子だってまだカミングアウトしてないだけって可能性もあるけどね
あわせて読みたい
【LGBT】映画『リトル・ガール』で映し出される、性別違和を抱える8歳の”女の子”のリアルと苦悩
映画撮影時8歳だった、身体は男の子、心は女の子のサシャは、スカートを履いての登校が許されず、好きなバッグもペンケースも使わせてもらえない。映画『リトル・ガール』が描く、「性別違和」に対する社会の不寛容と、自分を責め続けてしまう母親の苦悩
しかし考えてみると面白い構図だなと思います。「女性同士の特有の関係性」が男同士のそれと違うからこそ「BL」という文化が生まれたと言える一方で、「女性同士の特有の関係性」に窮屈さを感じる人たちが「BL」を好んで消費していくのです。ちょっと捻れが生じているようにも思えます。そのような「訳の分からなさ」もまた、興味深いと感じました。
腐女子はいかに世界を捉えているか
さて、ここまでの説明を踏まえれば、男にはなかなか理解し難い女性の行動が捉えやすくなるでしょう。例えば、「ルールを理解していないスポーツを観戦する」というのは、男にはちょっと意味が分からない行動と言えます。しかし、「余白の発見と補完」という観点から捉えれば、彼女たちがどのようにスポーツを観ているのかが、次のように理解できるというわけです。
あわせて読みたい
【偉業】「卓球王国・中国」実現のため、周恩来が頭を下げて請うた天才・荻村伊智朗の信じがたい努力と…
「20世紀を代表するスポーツ選手」というアンケートで、その当時大活躍していた中田英寿よりも高順位だった荻村伊智朗を知っているだろうか?選手としてだけでなく、指導者としてもとんでもない功績を残した彼の生涯を描く『ピンポンさん』から、ノーベル平和賞級の活躍を知る
で、「野球の何がそんなにおもしろいの」って言ったら、「やってることは同じなのに、昨日とちょっと違うんです」って言うんですよね。たとえば、昨日のピッチャーには一塁手は同じシチュエーションで駆け寄らなかったのに、今日のこの同じシチュエーションでなんか駆け寄ったぞ。これ、何があったんだと。
そういう細かいディテールとか。昨日はバットの端っこ持ってたのに、なんで今日はちょっと短めに持ってるんだろうとか、なんでキャッチャーは昨日はこういう指示出してたのに、同じシチュエーションで、とか。
これって興味のない人にはそんな小さな違いって思われるかもしれないんですけど、興味のある人にとっては……。
違いに大きいも小さいもない、「違う」っていうことがもう大きいんですよ。そこに何があったのかっていう余白ですよね。だから実はルーティーンの中のほうが余白が見えやすい、違いが見えやすいっていう。
だから俺それ聞いたときにもうガッテン、そういうことかと! ちっちゃな違いを見つけることが、そこに何があったのかという想像する余白をつくる。で、余白ができればあとは補完という作業なんで、やっぱ観察なんだなって。
確かにこれなら、ルールを知らなくても楽しめるだろうなぁ
しかも、観察力が半端ないから、知識を身に着けたらたぶん、男よりもメチャクチャ分析とか出来そうだよね
さて、このような観戦の仕方に共感できるかどうかは一旦置いておくとして、「余白の発見と補完」という観点から考えれば、「なるほど、こういう見方もあり得るのか」と感じるのではないかと思います。腐女子はまさに普段から「BLメガネ」を掛けて物事を捉え、日々「関係性の解釈」の訓練を積んでいるわけです。本書には、
腐女子はどんな本でも1冊を無人島に持って行ったら一生楽しめる。
と書かれているのですが、大げさではないと理解できるでしょう。
あわせて読みたい
【感想】のん主演映画『私をくいとめて』から考える、「誰かと一緒にいられれば孤独じゃないのか」問題
のん(能年玲奈)が「おひとり様ライフ」を満喫する主人公を演じる映画『私をくいとめて』を観て、「孤独」について考えさせられた。「誰かと関わっていられれば孤独じゃない」という考えに私は賛同できないし、むしろ誰かと一緒にいる時の方がより強く孤独を感じることさえある
また、このような感覚を知れば、「萌え」という概念もより広く捉えられるようになります。
だから、日常の見方も違う。たとえば、男って、女の人が髪の毛切ったとか変わったとかって気づかないじゃないですか。
だけど女性は、そういうところに気づける人が多いわけですよ。それは「ディテールに意味がある」ということがよく分かってるから。で、そのディテールが違うっていうことが何を意味するのかって余白を見つけて、そこを補完する作業をしている。
萌えっていうのは「観察」にその醍醐味がある。「萌えとは無作為の覗き見である」と僕は定義している。誰にも見られてない、カメラもないなかで彼が本当にどういうことをしているのか、彼女がどんな行動をしてるのかっていうね、それを人物として介入するんじゃなくて、定点カメラで観察することが、実は「萌え」なんです。
「自分が介入すること」に価値を見出すわけじゃないっていうところが重要だよね
だから、腐女子的な観点で言えば、「推しと恋愛関係になりたいわけじゃない」ってことになるんだろうなぁ
あわせて読みたい
【あらすじ】「愛されたい」「必要とされたい」はこんなに難しい。藤崎彩織が描く「ままならない関係性…
好きな人の隣にいたい。そんなシンプルな願いこそ、一番難しい。誰かの特別になるために「異性」であることを諦め、でも「異性」として見られないことに苦しさを覚えてしまう。藤崎彩織『ふたご』が描き出す、名前がつかない切実な関係性
さらに、その「萌え」が、現実世界ではなくマンガ・アニメの世界でより強く発揮されるのには、当たり前と言えば当たり前ですが次のような理由があるわけです。
なぜこういうのに萌えるのか。現実世界では半信半疑なものも、神の視点が可能な二次元世界では、彼らの確固たる信頼が確認できる。つまりですね、「AくんがBくんのことをどう思っているか」とか、日常世界では、「あの人が私のことをどう思っているか」って正確なとこ分かんないですよね、言葉で言われても嘘かもしんないし、自分が見ていないところではほかの女と遊んでいるかもしれないし。これ男女とも言えることですけど、常に不安を抱えてる。ただ、彼らを観察している守護霊の目線に立てばですね、確実なことが分かるわけです! 目に見えない信頼、口に出さなくても信頼がそこにあるというのは、マンガを読めば描かれているわけですよね。
リアルの世界では、「解釈(妄想)のための土台」はどうしても不安定になってしまいますが、マンガ・アニメであれば、「普通なら見えない部分」も描いてくれるわけで、「土台は盤石」と言えるでしょう。だからこそ、安心して妄想の世界に浸れるというわけです。
あわせて読みたい
【映画】『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』で号泣し続けた私はTVアニメを観ていない
TVアニメは観ていない、というかその存在さえ知らず、物語や登場人物の設定も何も知らないまま観に行った映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』に、私は大号泣した。「悪意のない物語」は基本的に好きではないが、この作品は驚くほど私に突き刺さった
生身の人間は特に、熱愛とか不祥事なんかが明るみに出ちゃうからねぇ
そういうのはホント、妄想には邪魔過ぎるから、それで2次元に行っちゃうってのはあるんだろうなぁ
男はいかにしてBLの世界に入っていけば良いのか
さて、ここまでの説明で、腐女子の方々がBLをどのように楽しみ、また世の中をどのように捉えているのか理解してもらえたことでしょう。そして『ボクたちのBL論』を銘打たれた本書は、さらにその先まで目指しています。つまり、「男はどうやってBLの世界に入っていけばいいのか」についてです。
その難しさについては、次のように触れられています。
あわせて読みたい
【感想】綿矢りさ原作の映画『ひらいて』は、溢れる”狂気”を山田杏奈の”見た目”が絶妙に中和する
「片想いの相手には近づけないから、その恋人を”奪おう”」と考える主人公・木村愛の「狂気」を描く、綿矢りさ原作の映画『ひらいて』。木村愛を演じる山田杏奈の「顔」が、木村愛の狂気を絶妙に中和する見事な配役により、「狂気の境界線」をあっさり飛び越える木村愛がリアルに立ち上がる
男が入って行くときの二重、三重の障壁があるっていうね、それを突破するための処方箋をこの本はいろいろと言っているはずなので、たぶん女性の書いたBL論とはちょっと違うのはそこだろうと。男が入っていくときにどうしても障壁がある。でも、その障壁を突破した先にはすごく輝かしい世界があるよっていう、そこは最低限、俺も見させてもらったとこだから。そこがこのテーマだと思っています。
私も、周りの腐女子にアドバイスしてもらわなかったら、やっぱりBL作品を読むには至らなかっただろうからなぁ
「BL」と呼ばれる領域が広すぎるから、MAP無しでは探索不可能って感じするよね
さて、男がBLの世界に入っていくことはやはり簡単ではないのですが、本書にはその方向性を示す次のようなアドバイスが書かれています。
BLってファンタジーなんです。ガンダムが動く。ロボットが動く。あるいは宇宙人がいる。男同士が愛し合ってる。全て、同じファンタジーなんです。って理解するとわりと割りきって読めるじゃないですか。
あわせて読みたい
【感想】映画『竜とそばかすの姫』が描く「あまりに批判が容易な世界」と「誰かを助けることの難しさ」
SNSの登場によって「批判が容易な社会」になったことで、批判を恐れてポジティブな言葉を口にしにくくなってしまった。そんな世の中で私は、「理想論だ」と言われても「誰かを助けたい」と発信する側の人間でいたいと、『竜とそばかすの姫』を観て改めて感じさせられた
「そんなこと言われてもなぁ」と感じる人もいるでしょうが、「手に取ってみる」という障壁を取っ払う上ではこれで十分とも言えるかもしれません。いずれにせよ、「全人類が『良い』と感じる創作物」など存在しないはずです。別に、触れてみて「ダメ」だったらそれでいいと思います。腐女子のように「余白の発見と補完」が出来る必要もありません。次で触れますが、私も「余白の発見と補完」を意識してBLを読んだりはしていませんでした。独自に面白さを見つけて楽しんでいただけです。
BLをそういう風に読むかは別として、「余白の発見と補完」の能力はシンプルに欲しいなって思う
ただ本書のように「BLの文法」を細かく説明してくれると、「楽しむための方向性」がクリアになってとっつきやすくなることは確かだと思います。冒頭でも触れた通り、「ビジネスに活かせる教養」と捉えれば、なおのこと「何か読んでみようかな」という気持ちになるかもしれません。まあ確かに、
多くの男が入りにくいのは、「男同士が交わる絵」に対する男の中での生理的な嫌悪感があるからなんですよ。そこを突破するかどうかってすごく大きい。
という障壁はありますが、どうにか頑張って乗り越えて下さい。
あわせて読みたい
【考察】ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』は、BLの枠組みの中で「歪んだ人間」をリアルに描き出す
2巻までしか読んでいないが、ヨネダコウのマンガ『囀る鳥は羽ばたかない』は、「ヤクザ」「BL」という使い古されたフォーマットを使って、異次元の物語を紡ぎ出す作品だ。BLだが、BLという外枠を脇役にしてしまう矢代という歪んだ男の存在感が凄まじい。
「日常に絶望を持ち込む装置」という、私なりのBLの捉え方
では最後に、本書を読む前の私が、BLをどう捉えていたのかに触れて終わりたいと思います。
私はBLを、「日常に絶望を持ち込む装置」だと考えていました。
例えば「男女の恋愛」の場合、その関係性に「絶望」を持ち込むには、なかなか大仰な設定を用意する必要があるでしょう。確かに、「難病に冒された」「身分に差があって許されない」などのように、「恋愛を継続させるための困難さ」を設定することは可能です。しかし、どうしてもそれらは「日常」からかけ離れたものになってしまいます。日常的な設定の中に「絶望」を持ち込むのは、かなり難しいと言えるでしょう。
あわせて読みたい
【感想】綿矢りさ原作の映画『ひらいて』は、溢れる”狂気”を山田杏奈の”見た目”が絶妙に中和する
「片想いの相手には近づけないから、その恋人を”奪おう”」と考える主人公・木村愛の「狂気」を描く、綿矢りさ原作の映画『ひらいて』。木村愛を演じる山田杏奈の「顔」が、木村愛の狂気を絶妙に中和する見事な配役により、「狂気の境界線」をあっさり飛び越える木村愛がリアルに立ち上がる
まあ、「絶望」がなかったら「男女の恋愛物語」が面白くならないかっていったら、そんなこともないだろうけどね
ただやっぱり創作者は、「どうやって障壁を作るか」で頭を悩ませるんじゃないかな
しかしBLであれば、日常の中に「絶望」を持ち込むことが容易になります。ただそれは、すべてのBLに同じことが言えるわけではありません。「私が好きなタイプのBL」だけです。冒頭で少し触れた通り、私は「ゲイがノンケにアプローチするような作品」が好きでして、こういうタイプのBLには当てはまります。
あわせて読みたい
【奇妙】映画『鯨の骨』は、主演のあのちゃんが絶妙な存在感を醸し出す、斬新な設定の「推し活」物語
映画『鯨の骨』は、主演を務めたあのちゃんの存在感がとても魅力的な作品でした。「AR動画のカリスマ的存在」である主人公を演じたあのちゃんは、役の設定が絶妙だったこともありますが、演技がとても上手く見え、また作品全体の、「『推し活』をある意味で振り切って描き出す感じ」もとても皮肉的で良かったです
ゲイがノンケにアプローチする場合、同性同士なので、最初の段階はあっさりと乗り越えられるでしょう。相手に対する恋心など見せずに、友人として接すればいいからです。しかし、そこから一気に難しくなります。もし、「相手がノンケである」と知っているのであれば、ゲイの側は、「自分が恋心を伝えても、恋愛関係になれる可能性は低い」と感じてしまうでしょう。しかも、既に「仲の良い友人」としての関係性が築けている場合、告白して失敗したら、その友人関係さえも失ってしまうことになるのです。
これはかなりの障壁だと言っていいと思います。大仰な設定を用意する必要もないので、日常的な物語でも「絶望」を描くことが出来るというわけです。
あわせて読みたい
【感想】おげれつたなか『エスケープジャーニー』は、BLでしか描けない”行き止まりの関係”が絶妙
おげれつたなか『エスケープジャーニー』のあらすじ紹介とレビュー。とにかく、「BLでしか描けない関係性」が素晴らしかった。友達なら完璧だったのに、「恋人」ではまったく上手く行かなくなってしまった直人と太一の葛藤を通じて、「進んでも行き止まり」である関係にどう向き合うか考えさせられる
私は本当に、この「日常に絶望を持ち込む装置」っていう要素が、メチャクチャよく出来てるなぁって感じたんだよなぁ
「仲の良い友人で留めておく」か、「友人関係を失う可能性があっても告白するか」の葛藤は、結構大きいよね
私はこのような観点から、「BLは『男女の恋愛』では描けない世界を切り取ることが出来る」と考えているし、春日太一の言う「内面地獄」のような作品が生み出せる背景にもなっていると考えています。私のような読み方もまた、1つの側面として面白いと言えるのではないでしょうか。
あわせて読みたい
【考察】生きづらい性格は変わらないから仮面を被るしかないし、仮面を被るとリア充だと思われる:『勝…
「リア充感」が滲み出ているのに「生きづらさ」を感じてしまう人に、私はこれまでたくさん会ってきた。見た目では「生きづらさ」は伝わらない。24年間「リアル彼氏」なし、「脳内彼氏」との妄想の中に生き続ける主人公を描く映画『勝手にふるえてろ』から「こじらせ」を知る
著:サンキュータツオ, 著:春日太一
¥891 (2023/11/03 18:57時点 | Amazon調べ)
ポチップ
あわせて読みたい
【全作品読了済】私が読んできたノンフィクション・教養書を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が読んできたノンフィクションを様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本選びの参考にして下さい。
最後に
「BLは知的遊戯である」という主張は、ただそれだけを耳にすればなかなか理解し難いかもしれませんが、本書を読むとかなり納得できるのではないかと思います。相当にレベルの高い営みだと感じさせられたし、2次元世界に留まらず3次元世界の捉え方にも影響を与えているという意味で、社会に生きるあらゆる人にとって無視できない存在であるとも言えるでしょう。その奥深さ故に、そのすべてを探索し切ることは恐らく誰にとっても不可能でしょうが、まずは本書を通じてその一端に触れてみてほしいと思います。
あわせて読みたい
【改革】AIは将棋をどう変えた?羽生善治・渡辺明ら11人の現役棋士が語る将棋の未来:『不屈の棋士』(…
既に将棋AIの実力はプロ棋士を越えたとも言われる。しかし、「棋力が強いかどうか」だけでは将棋AIの良し悪しは判断できない。11人の現役棋士が登場する『不屈の棋士』をベースに、「AIは将棋界をどう変えたのか?」について語る
また本書には、こんな記述もありました。
この本を読んで腐女子に対する接し方をもう少し変えてもらいたいなと思いますね。いちばんは「そっとしていく」ことだと思います。
世の中では、「理解できないものに対して攻撃を加える」という振る舞いが何故か当たり前みたいな風潮が存在している気がしますが、私はそのような雰囲気が好きではありません。著者が言う「理解できなければ、そっとしておけばいい」みたいな振る舞いが何故出来ないのかとても不思議です。
「教養」としてその世界に触れてみるのもいいし、あるいは、「分からない」と諦めたっていいと思います。ただいずれにせよ、「純粋に楽しんでいる人のことはそっとしておこう」というスタンスは忘れるべきではないでしょう。とにかく、まずは本書を読んで、その奥深さを体感してもらえたらと思います。
あわせて読みたい
Kindle本出版しました!『天才・アインシュタインの生涯・功績をベースに、簡単過ぎない面白科学雑学を…
Kindleで本を出版しました。タイトルは、『天才・アインシュタインの生涯・功績をベースに、簡単過ぎない面白科学雑学を分かりやすく書いた本:相対性理論も宇宙論も量子論も』です。科学や科学者に関する、文系の人でも読んでもらえる作品に仕上げました。そんな自著について紹介をしています。
次にオススメの記事
あわせて読みたい
【感想】映画『ルックバック』の衝撃。創作における衝動・葛藤・苦悩が鮮やかに詰め込まれた傑作(原作…
アニメ映画『ルックバック』は、たった58分の、しかもセリフも動きも相当に抑制された「静」の映画とは思えない深い感動をもたらす作品だった。漫画を描くことに情熱を燃やす2人の小学生が出会ったことで駆動する物語は、「『創作』に限らず、何かに全力で立ち向かったことがあるすべての人」の心を突き刺していくはずだ
あわせて読みたい
【奇妙】映画『鯨の骨』は、主演のあのちゃんが絶妙な存在感を醸し出す、斬新な設定の「推し活」物語
映画『鯨の骨』は、主演を務めたあのちゃんの存在感がとても魅力的な作品でした。「AR動画のカリスマ的存在」である主人公を演じたあのちゃんは、役の設定が絶妙だったこともありますが、演技がとても上手く見え、また作品全体の、「『推し活』をある意味で振り切って描き出す感じ」もとても皮肉的で良かったです
あわせて読みたい
【映画】『キャスティング・ディレクター』の歴史を作り、ハリウッド映画俳優の運命を変えた女性の奮闘
映画『キャスティング・ディレクター』は、ハリウッドで伝説とされるマリオン・ドハティを描き出すドキュメンタリー。「神業」「芸術」とも評される配役を行ってきたにも拘わらず、長く評価されずにいた彼女の不遇の歴史や、再び「キャスティングの暗黒期」に入ってしまった現在のハリウッドなどを切り取っていく
あわせて読みたい
【映画】『街は誰のもの?』という問いは奥深い。「公共」の意味を考えさせる問題提起に満ちた作品
映画『街は誰のもの?』は、タイトルの通り「街(公共)は誰のものなのか?」を問う作品だ。そしてそのテーマの1つが、無許可で街中に絵を描く「グラフィティ」であることもまた面白い。想像もしなかった問いや価値観に直面させられる、とても興味深い作品である
あわせて読みたい
【共感】斎藤工主演映画『零落』(浅野いにお原作)が、「創作の評価」を抉る。あと、趣里が良い!
かつてヒット作を生み出しながらも、今では「オワコン」みたいな扱いをされている漫画家を中心に描く映画『零落』は、「バズったものは正義」という世の中に斬り込んでいく。私自身は創作者ではないが、「売れる」「売れない」に支配されてしまう主人公の葛藤はよく理解できるつもりだ
あわせて読みたい
【爆笑】ダースレイダー✕プチ鹿島が大暴れ!映画『センキョナンデス』流、選挙の楽しみ方と選び方
東大中退ラッパー・ダースレイダーと新聞14紙購読の時事芸人・プチ鹿島が、選挙戦を縦横無尽に駆け回る様を映し出す映画『劇場版 センキョナンデス』は、なかなか関わろうとは思えない「選挙」の捉え方が変わる作品だ。「フェスのように選挙を楽しめばいい」というスタンスが明快な爆笑作
あわせて読みたい
【傑物】フランスに最も愛された政治家シモーヌ・ヴェイユの、強制収容所から国連までの凄絶な歩み:映…
「フランスに最も愛された政治家」と評されるシモーヌ・ヴェイユ。映画『シモーヌ』は、そんな彼女が強制収容所を生き延び、後に旧弊な社会を変革したその凄まじい功績を描き出す作品だ。「強制収容所からの生還が失敗に思える」とさえ感じたという戦後のフランスの中で、彼女はいかに革新的な歩みを続けたのか
あわせて読みたい
【挑発】「TBS史上最大の問題作」と評されるドキュメンタリー『日の丸』(構成:寺山修司)のリメイク映画
1967年に放送された、寺山修司が構成に関わったドキュメンタリー『日の丸』は、「TBS史上最大の問題作」と評されている。そのスタイルを踏襲して作られた映画『日の丸~それは今なのかもしれない~』は、予想以上に面白い作品だった。常軌を逸した街頭インタビューを起点に様々な思考に触れられる作品
あわせて読みたい
【働く】給料が上がらない、上げる方法を知りたい人は木暮太一のこの本を。『資本論』が意外と役に立つ…
「仕事で成果を出しても給料が上がるわけではない」と聞いて、あなたはどう感じるだろうか?これは、マルクスの『資本論』における「使用価値」と「価値」の違いを踏まえた主張である。木暮太一『人生格差はこれで決まる 働き方の損益分岐点』から「目指すべき働き方」を学ぶ
あわせて読みたい
【苦しい】「恋愛したくないし、興味ない」と気づいた女性が抉る、想像力が足りない社会の「暴力性」:…
「実は私は、恋愛的な関係を求めているわけじゃないかもしれない」と気づいた著者ムラタエリコが、自身の日常や専門学校でも学んだ写真との関わりを基に、「自分に相応しい関係性」や「社会の暴力性」について思考するエッセイ。久々に心にズバズバ刺さった、私にはとても刺激的な1冊だった。
あわせて読みたい
【思考】文章の書き方が分かんない、トレーニングしたいって人はまず、古賀史健の文章講義の本を読め:…
古賀史健『20歳の自分に受けさせたい文章講義』は、「具体的なテクニック」ではない記述も非常に興味深い1冊だ。「なぜ文章を書く必要があるのか」という根本的な部分から丁寧に掘り下げる本書は、「書くからこそ考えられる」という、一般的なイメージとは逆だろう発想が提示される
あわせて読みたい
【考察】ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』は、BLの枠組みの中で「歪んだ人間」をリアルに描き出す
2巻までしか読んでいないが、ヨネダコウのマンガ『囀る鳥は羽ばたかない』は、「ヤクザ」「BL」という使い古されたフォーマットを使って、異次元の物語を紡ぎ出す作品だ。BLだが、BLという外枠を脇役にしてしまう矢代という歪んだ男の存在感が凄まじい。
あわせて読みたい
【驚嘆】「現在は森でキノコ狩り」と噂の天才”変人”数学者グリゴリー・ペレルマンの「ポアンカレ予想証…
数学界の超難問ポアンカレ予想を解決したが、100万ドルの賞金を断り、フィールズ賞(ノーベル賞級の栄誉)も辞退、現在は「森できのこ採取」と噂の天才数学者グリゴリー・ペレルマンの生涯を描く評伝『完全なる証明』。数学に関する記述はほぼなく、ソ連で生まれ育った1人の「ギフテッド」の苦悩に満ちた人生を丁寧に描き出す1冊
あわせて読みたい
【感想】おげれつたなか『エスケープジャーニー』は、BLでしか描けない”行き止まりの関係”が絶妙
おげれつたなか『エスケープジャーニー』のあらすじ紹介とレビュー。とにかく、「BLでしか描けない関係性」が素晴らしかった。友達なら完璧だったのに、「恋人」ではまったく上手く行かなくなってしまった直人と太一の葛藤を通じて、「進んでも行き止まり」である関係にどう向き合うか考えさせられる
あわせて読みたい
【革命】観る将必読。「将棋を観ること」の本質、より面白くなる見方、そして羽生善治の凄さが満載:『…
野球なら「なんで今振らないんだ!」みたいな素人の野次が成立するのに、将棋は「指せなきゃ観てもつまらない」と思われるのは何故か。この疑問を起点に、「将棋を観ること」と「羽生善治の凄さ」に肉薄する『羽生善治と現代』は、「将棋鑑賞」をより面白くしてくれる話が満載
あわせて読みたい
【驚異】数学の「無限」は面白い。アキレスと亀の矛盾、実無限と可能無限の違い、カントールの対角線論…
日常の中で「無限」について考える機会などなかなか無いだろうが、野矢茂樹『無限論の教室』は、「無限には種類がある」と示すメチャクチャ興味深い作品だった。「実無限」と「可能無限」の違い、「可能無限」派が「カントールの対角線論法」を拒絶する理由など、面白い話題が満載の1冊
あわせて読みたい
【挑戦】相対性理論の光速度不変の原理を無視した主張『光速より速い光』は、青木薫訳だから安心だぞ
『光速より速い光』というタイトルを見て「トンデモ本」だと感じた方、安心してほしい。「光速変動理論(VSL理論)」が正しいかどうかはともかくとして、本書は実に真っ当な作品だ。「ビッグバン理論」の欠陥を「インフレーション理論」以外の理屈で補う挑戦的な仮説とは?
あわせて読みたい
【組織】意思決定もクリエイティブも「問う力」が不可欠だ。MIT教授がCEOから学んだ秘訣とは?:『問い…
組織マネジメントにおいては「問うこと」が最も重要だと、『問いこそが答えだ!』は主張する。MIT教授が多くのCEOから直接話を聞いて学んだ、「『問う環境』を実現するための『心理的安全性の確保』の重要性」とその実践の手法について、実例満載で説明する1冊
あわせて読みたい
【悲劇】アメリカの暗黒の歴史である奴隷制度の現実を、元奴隷の黒人女性自ら赤裸々に語る衝撃:『ある…
生まれながらに「奴隷」だった黒人女性が、多くの人の協力を得て自由を手にし、後に「奴隷制度」について書いたのが『ある奴隷少女に起こった出来事』。長らく「白人が書いた小説」と思われていたが、事実だと証明され、欧米で大ベストセラーとなった古典作品が示す「奴隷制度の残酷さ」
あわせて読みたい
【証言】ナチスドイツでヒトラーに次ぐナンバー2だったゲッベルス。その秘書だった女性が歴史を語る映画…
ナチスドイツナンバー2だった宣伝大臣ゲッベルス。その秘書だったブルンヒルデ・ポムゼルが103歳の時にカメラの前で当時を語った映画『ゲッベルスと私』には、「愚かなことをしたが、避け難かった」という彼女の悔恨と教訓が含まれている。私たちは彼女の言葉を真摯に受け止めなければならない
あわせて読みたい
【化石】聞き馴染みのない「分子生物学」を通じて、科学という学問の本質を更科功が分かりやすく伝える…
映画『ジュラシック・パーク』を観たことがある方なら、「コハクの化石に閉じ込められた蚊の血液から恐竜の遺伝子を取り出す」という設定にワクワクしたことだろう。『化石の分子生物学』とは、まさにそのような研究を指す。科学以外の分野にも威力を発揮する知見に溢れた1冊
あわせて読みたい
【危機】災害時、「普通の人々」は冷静に、「エリート」はパニックになる。イメージを覆す災害学の知見…
地震やテロなどの大災害において、人々がどう行動するのかを研究する「災害学」。その知見が詰まった『災害ユートピア』は、ステレオタイプなイメージを一変させてくれる。有事の際には市民ではなくエリートこそが暴走する。そしてさらに、災害は様々な社会的な変化も促しもする
あわせて読みたい
【歴史】『大地の子』を凌駕する中国残留孤児の現実。中国から奇跡的に”帰国”した父を城戸久枝が描く:…
文化大革命の最中、国交が成立していなかった中国から自力で帰国した中国残留孤児がいた。その娘である城戸久枝が著した『あの戦争から遠く離れて』は、父の特異な体験を起点に「中国残留孤児」の問題に分け入り、歴史の大きなうねりを個人史として体感させてくれる作品だ
あわせて読みたい
【変革】「ビジネスより自由のために交渉力を」と語る瀧本哲史の”自己啓発”本に「交渉のコツ」を学ぶ:…
急逝してしまった瀧本哲史は、「交渉力」を伝授する『武器としての交渉思考』を通じて、「若者よ、立ち上がれ!」と促している。「同質性のタコツボ」から抜け出し、「異質な人」と「秘密結社」を作り、世の中に対する「不満」を「変革」へと向かわせる、その勇気と力を本書から感じてほしい
あわせて読みたい
【驚異】『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』って書名通りの本。異端ロックバンドの”稼ぎ方”
日本ではあまり知られていないが、熱狂的なファンを持つロックバンド「グレイトフル・デッド」。彼らは50年も前から、現代では当たり前となった手法を続け、今でも年間5000万ドルを稼いでいる。『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』で「ファンからの愛され方」を学ぶ
あわせて読みたい
【衝撃】『殺人犯はそこにいる』が実話だとは。真犯人・ルパンを野放しにした警察・司法を信じられるか?
タイトルを伏せられた覆面本「文庫X」としても話題になった『殺人犯はそこにいる』。「北関東で起こったある事件の取材」が、「私たちが生きる社会の根底を揺るがす信じがたい事実」を焙り出すことになった衝撃の展開。まさか「司法が真犯人を野放しにする」なんてことが実際に起こるとは。大げさではなく、全国民必読の1冊だと思う
あわせて読みたい
【驚異】「持続可能な社会」での「豊かな生活」とは?「くじら漁の村」で生きる人々を描く映画:『くじ…
手作りの舟に乗り、銛1本で巨大なクジラを仕留める生活を続けるインドネシアのラマレラ村。そこに住む人々を映し出した映画『くじらびと LAMAFA』は、私たちが普段感じられない種類の「豊かさ」を描き出す。「どう生きるか」を改めて考えさせられる作品だ
あわせて読みたい
【抽象】「思考力がない」と嘆く人に。研究者で小説家の森博嗣が語る「客観的に考える」ために大事なこ…
世の中にはあまりに「具体的な情報」が溢れているために、「客観的、抽象的な思考」をする機会が少ない。そんな時代に、いかに思考力を育てていくべきか。森博嗣が『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』を通じて伝える「情報との接し方」「頭の使い方」
あわせて読みたい
【具体例】行動経済学のおすすめ本。経済も世界も”感情”で動くと実感できる「人間の不合理さ」:『経済…
普段どれだけ「合理的」に物事を判断しているつもりでも、私たちは非常に「不合理的」な行動を取ってしまっている。それを明らかにするのが「行動経済学」だ。『経済は感情で動く』『世界は感情で動く』の2冊をベースにして、様々な具体例と共に「人間の不思議さ」を理解する
あわせて読みたい
【要約】福岡伸一『生物と無生物のあいだ』は、「生命とは何か」を「動的平衡」によって定義する入門書…
「生命とは何か?」という、あまりに基本的だと感じられる問いは、実はなかなか難しい。20世紀生物学は「DNAの自己複製」が本質と考えたが、「ウイルス」の発見により再考を迫られた。福岡伸一の『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』の2著作から、「生命の本質」を知る
あわせて読みたい
【驚愕】あるジャーナリストの衝撃の実話を描く映画『凶悪』。「死刑囚の告発」から「正義」を考える物語
獄中の死刑囚が警察に明かしていない事件を雑誌記者に告発し、「先生」と呼ばれる人物を追い詰めた実際の出来事を描くノンフィクションを原作にして、「ジャーナリズムとは?」「家族とは?」を問う映画『凶悪』は、原作とセットでとにかく凄まじい作品だ
あわせて読みたい
【残念】日本の「難民受け入れ」の現実に衝撃。こんな「恥ずべき国」に生きているのだと絶望させられる…
日本の「難民認定率」が他の先進国と比べて異常に低いことは知っていた。しかし、日本の「難民」を取り巻く実状がこれほど酷いものだとはまったく知らなかった。日本で育った2人のクルド人難民に焦点を当てる映画『東京クルド』から、日本に住む「難民」の現実を知る
あわせて読みたい
【危機】シードバンクを設立し世界の農業を変革した伝説の植物学者・スコウマンの生涯と作物の多様性:…
グローバル化した世界で「農業」がどんなリスクを負うのかを正しく予測し、その対策として「ジーンバンク」を設立した伝説の植物学者スコウマンの生涯を描く『地球最後の日のための種子』から、我々がいかに脆弱な世界に生きているのか、そして「世界の食」がどう守られているのかを知る
あわせて読みたい
【アート】「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」(森美術館)と「美術手帖 Chim↑Pom特集」の衝撃から「…
Chim↑Pomというアーティストについてさして詳しいことを知らずに観に行った、森美術館の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」に、思考をドバドバと刺激されまくったので、Chim↑Pomが特集された「美術手帖」も慌てて買い、Chim↑Pomについてメッチャ考えてみた
あわせて読みたい
【新視点】世界の歴史を「化学」で語る?デンプン・砂糖・ニコチンなどの「炭素化合物」が人類を動かし…
デンプン・砂糖・ニコチンなどは、地球上で非常に稀少な元素である「炭素」から作られる「炭素化合物」だ。そんな「炭素化合物」がどんな影響を与えたかという観点から世界の歴史を描く『「元素の王者」が歴史を動かす』は、学校の授業とはまったく違う視点で「歴史」を捉える
あわせて読みたい
【思考】『翔太と猫のインサイトの夏休み』は、中学生と猫の対話から「自分の頭で考える」を学べる良書
「中学生の翔太」と「猫のインサイト」が「答えの出ない問い」について対話する『翔太と猫のインサイトの夏休み』は、「哲学」の違う側面を見せてくれる。過去の哲学者・思想家の考えを知ることが「哲学」なのではなく、「自分の頭で考えること」こそ「哲学」の本質だと理解する
あわせて読みたい
【本質】子どもの頃には読めない哲学書。「他人の哲学はつまらない」と語る著者が説く「問うこと」の大…
『<子ども>のための哲学』は決して、「子どもでも易しく理解できる哲学の入門書」ではない。むしろかなり難易度が高いと言っていい。著者の永井均が、子どもの頃から囚われ続けている2つの大きな疑問をベースに、「『哲学する』とはどういうことか?」を深堀りする作品
あわせて読みたい
【最新】「コロンブス到達以前のアメリカ大陸」をリアルに描く歴史書。我々も米国人も大いに誤解してい…
サイエンスライターである著者は、「コロンブス到着以前のアメリカはどんな世界だったか?」という問いに触れ、その答えが書かれた本がいつまで経っても出版されないので自分で執筆した。『1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』には、アメリカ人も知らない歴史が満載だ
あわせて読みたい
【解釈】詩人が語る詩の読み方。意味や読み方や良さが分からなくて全然気にしなくていい:『今を生きる…
私は学生時代ずっと国語の授業が嫌いでしたが、それは「作品の解釈には正解がある」という決めつけが受け入れ難かったからです。しかし、詩人・渡邊十絲子の『今を生きるための現代詩』を読んで、詩に限らずどんな作品も、「解釈など不要」「理解できなければ分からないままでいい」と思えるようになりました
あわせて読みたい
【書評】奇跡の”国家”「ソマリランド」に高野秀行が潜入。崩壊国家・ソマリア内で唯一平和を保つ衝撃の”…
日本の「戦国時代」さながらの内戦状態にあるソマリア共和国内部に、十数年に渡り奇跡のように平和を維持している”未承認国家”が存在する。辺境作家・高野秀行の『謎の独立国家ソマリランド』から、「ソマリランド」の理解が難しい理由と、「奇跡のような民主主義」を知る
あわせて読みたい
【博覧強記】「紙の本はなくなる」説に「文化は忘却されるからこそ価値がある」と反論する世界的文学者…
世界的文学者であり、「紙の本」を偏愛するウンベルト・エーコが語る、「忘却という機能があるから書物に価値がある」という主張は実にスリリングだ。『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』での対談から、「忘却しない電子データ」のデメリットと「本」の可能性を知る
あわせて読みたい
【異端】「仏教とは?」を簡単に知りたい方へ。ブッダは「異性と目も合わせないニートになれ」と主張し…
我々が馴染み深い「仏教」は「大乗仏教」であり、創始者ゴータマ・ブッダの主張が詰まった「小乗仏教」とは似て非なるものだそうだ。『講義ライブ だから仏教は面白い!』では、そんな「小乗仏教」の主張を「異性と目も合わせないニートになれ」とシンプルに要約して説明する
あわせて読みたい
【感想】池田晶子『14歳からの哲学』で思考・自由・孤独の大事さを知る。孤独を感じることって大事だ
「元々持ってた価値観とは違う考えに触れ、それを理解したいと思う場面」でしか「考える」という行為は発動しないと著者は言う。つまり我々は普段、まったく考えていないのだ。『14歳からの哲学』をベースに、「考えること」と自由・孤独・人生との関係を知る
あわせて読みたい
【飛躍】有名哲学者は”中二病”だった?飲茶氏が易しく語る「古い常識を乗り越えるための哲学の力」:『1…
『14歳からの哲学入門』というタイトルは、「14歳向けの本」という意味ではなく、「14歳は哲学することに向いている」という示唆である。飲茶氏は「偉大な哲学者は皆”中二病”だ」と説き、特に若い人に向けて、「新しい価値観を生み出すためには哲学が重要だ」と語る
あわせて読みたい
【歴史】ベイズ推定は現代社会を豊かにするのに必須だが、実は誕生から200年間嫌われ続けた:『異端の統…
現在では、人工知能を始め、我々の生活を便利にする様々なものに使われている「ベイズ推定」だが、その基本となるアイデアが生まれてから200年近く、科学の世界では毛嫌いされてきた。『異端の統計学ベイズ』は、そんな「ベイズ推定」の歴史を紐解く大興奮の1冊だ
あわせて読みたい
【興奮】世界的大ベストセラー『サピエンス全史』要約。人類が文明を築き上げるに至った3つの革命とは?
言わずと知れた大ベストセラー『サピエンス全史』は、「何故サピエンスだけが人類の中で生き残り、他の生物が成し得なかった歴史を歩んだのか」を、「認知革命」「農業革命」「科学革命」の3つを主軸としながら解き明かす、知的興奮に満ち溢れた1冊
あわせて読みたい
【誤解】世界的大ベストセラー『ファクトフルネス』の要約。我々は「嘘の情報」を信じ込みやすい
世界の現状に関する13の質問に対して、ほとんどの人が同じ解答をする。最初の12問は不正解で、最後の1問だけ正答するのだ。世界的大ベストセラー『ファクトフルネス』から、「誤った世界の捉え方」を認識し、情報を受け取る際の「思い込み」を払拭する。「嘘の情報」に踊らされないために読んでおくべき1冊だ
あわせて読みたい
【知的】文系にオススメの、科学・数学・哲学の入門書。高橋昌一郎の「限界シリーズ」は超絶面白い:『…
例えば「科学」だけに限ってみても、「なんでもできる」わけでは決してない。「科学」に限らず、私たちが対峙する様々な事柄には「これ以上は不可能・無理」という「限界」が必ず存在する。高橋昌一郎の「限界シリーズ」から、我々が認識しておくべき「限界」を易しく学ぶ
あわせて読みたい
【感想】飲茶の超面白い東洋哲学入門書。「本書を読んでも東洋哲学は分からない」と言う著者は何を語る…
東洋哲学というのは、「最終回しか存在しない連続ドラマ」のようなものだそうだ。西洋哲学と比較にならないほど異質さと、インド哲学・中国哲学など個別の思想を恐ろしく分かりやすく描く『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』は、ページをめくる手が止まらないくらい、史上最強レベルに面白かった
あわせて読みたい
【感涙】衆議院議員・小川淳也の選挙戦に密着する映画から、「誠実さ」と「民主主義のあり方」を考える…
『衆議院議員・小川淳也が小選挙区で平井卓也と争う選挙戦を捉えた映画『香川1区』は、政治家とは思えない「誠実さ」を放つ”異端の議員”が、理想とする民主主義の実現のために徒手空拳で闘う様を描く。選挙のドキュメンタリー映画でこれほど号泣するとは自分でも信じられない
あわせて読みたい
【知】内田樹が教育・政治を語る。「未来の自分」を「別人」と捉える「サル化した思考」が生む現実:『…
「朝三暮四」の故事成語を意識した「サル化」というキーワードは、現代性を映し出す「愚かさ」を象徴していると思う。内田樹『サル化する世界』から、日本の教育・政治の現状及び問題点をシンプルに把握し、現代社会を捉えるための新しい視点や価値観を学ぶ
あわせて読みたい
【天才】読書猿のおすすめ本。「いかにアイデアを生むか」の発想法を人文書に昇華させた斬新な1冊:『ア…
「独学の達人」「博覧強記の読書家」などと評される読書猿氏が、古今東西さまざまな「発想法」を1冊にまとめた『アイデア大全』は、ただのHow To本ではない。「発想法」を学問として捉え、誕生した経緯やその背景なども深堀りする、「人文書」としての一面も持つ作品だ
あわせて読みたい
【驚異】ガイア理論の提唱者が未来の地球を語る。100歳の主張とは思えない超絶刺激に満ちた内容:『ノヴ…
「地球は一種の生命体だ」という主張はかなり胡散臭い。しかし、そんな「ガイア理論」を提唱する著者は、数々の賞や学位を授与される、非常に良く知られた科学者だ。『ノヴァセン <超知能>が地球を更新する』から、AIと人類の共存に関する斬新な知見を知る
あわせて読みたい
【人生】「資本主義の限界を埋める存在としての『贈与論』」から「不合理」に気づくための生き方を知る…
「贈与論」は簡単には理解できないが、一方で、「何かを受け取ったら、与えてくれた人に返す」という「交換」の論理では対処できない現実に対峙する力ともなる。『世界は贈与でできている』から「贈与」的な見方を理解し、「受取人の想像力」を立ち上げる
あわせて読みたい
【興奮】飲茶氏が西洋哲学を語る。難解な思想が「グラップラー刃牙成分」の追加で驚異的な面白さに:『…
名前は聞いたことはあるがカントやニーチェがどんな主張をしたのかは分からないという方は多いだろう。私も無知なまったくの初心者だが、そんな人でも超絶分かりやすく超絶面白く西洋哲学を”分かった気になれる”飲茶『史上最強の哲学入門』は、入門書として最強
あわせて読みたい
【思考】「”考える”とはどういうことか」を”考える”のは難しい。だからこの1冊をガイドに”考えて”みよう…
私たちは普段、当たり前のように「考える」ことをしている。しかし、それがどんな行為で、どのように行っているのかを、きちんと捉えて説明することは難しい。「はじめて考えるときのように」は、横書き・イラスト付きの平易な文章で、「考えるという行為」の本質に迫り、上達のために必要な要素を伝える
あわせて読みたい
【権威】心理学の衝撃実験をテレビ番組の収録で実践。「自分は残虐ではない」と思う人ほど知るべき:『…
フランスのテレビ局が行った「現代版ミルグラム実験」の詳細が語られる『死のテレビ実験 人はそこまで服従するのか』は、「権威」を感じる対象から命じられれば誰もが残虐な行為をしてしまい得ることを示す。全人類必読の「過ちを事前に回避する」ための知見を学ぶ
あわせて読みたい
【教養】美術を「感じたまま鑑賞する」のは難しい。必要な予備知識をインストールするための1冊:『武器…
芸術を「感性の赴くまま見る」のは、日本特有だそうだ。欧米では美術は「勉強するもの」と認識されており、本書ではアートを理解しようとするスタンスがビジネスにも役立つと示唆される。美術館館長を務める著者の『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』から基礎の基礎を学ぶ
あわせて読みたい
【社会】学生が勉強しないのは、若者が働かないのは何故か?教育現場からの悲鳴と知見を内田樹が解説:…
教育現場では、「子どもたちが学びから逃走する」「学ばないことを誇らしく思う」という、それまでには考えられなかった振る舞いが目立っている。内田樹は『下流志向』の中で、その原因を「等価交換」だと指摘。「学ばないための努力をする」という発想の根幹にある理屈を解き明かす
あわせて読みたい
【限界】「科学とは何か?」を知るためのおすすめ本。科学が苦手な人こそ読んでほしい易しい1冊:『哲学…
「科学的に正しい」という言葉は、一体何を意味しているのだろう?科学者が「絶対に正しい」とか「100%間違っている」という言い方をしないのは何故だろう?飲茶『哲学的な何か、あと科学とか』から、「科学とはどんな営みなのか?」について考える
あわせて読みたい
【戸惑】人間の脳は摩訶不思議。意識ではコントロールできない「無意識の領域」に支配されている:『あ…
我々は決断や選択を「自分の意思」で行っていると感じるが、脳科学の研究はそれを否定している。我々に「自由意志」などない。「脳」の大部分は「意識以外のもの」に支配され、そこに「意識」はアクセスできないという驚愕の実態を『あなたの知らない脳』から学ぶ
あわせて読みたい
【快挙】「暗黒の天体」ブラックホールはなぜ直接観測できたのか?国際プロジェクトの舞台裏:『アイン…
「世界中に存在する電波望遠鏡を同期させてブラックホールを撮影する」という壮大なEHTプロジェクトの裏側を記した『アインシュタインの影』から、ブラックホール撮影の困難さや、「ノーベル賞」が絡む巨大プロジェクトにおける泥臭い人間ドラマを知る
あわせて読みたい
【快挙】「チバニアン」は何が凄い?「地球の磁場が逆転する」驚異の現象がこの地層を有名にした:『地…
一躍その名が知れ渡ることになった「チバニアン」だが、なぜ話題になり、どう重要なのかを知っている人は多くないだろう。「チバニアン」の申請に深く関わった著者の『地磁気逆転と「チバニアン」』から、地球で起こった過去の不可思議な現象の正体を理解する
あわせて読みたい
【貢献】有名な科学者は、どんな派手な失敗をしてきたか?失敗が失敗でなかったアインシュタインも登場…
どれほど偉大な科学者であっても失敗を避けることはできないが、「単なる失敗」で終わることはない。誤った考え方や主張が、プラスの効果をもたらすこともあるのだ。『偉大なる失敗』から、天才科学者の「失敗」と、その意外な「貢献」を知る
あわせて読みたい
【逸話】天才数学者ガロアが20歳で決闘で命を落とすまでの波乱万丈。時代を先駆けた男がもし生きていた…
現代数学に不可欠な「群論」をたった1人で生み出し、20歳という若さで決闘で亡くなったガロアは、その短い生涯をどう生きたのか?『ガロア 天才数学者の生涯』から、数学に関心を抱くようになったきっかけや信じられないほどの不運が彼の人生をどう変えてしまったのか、そして「もし生きていたらどうなっていたのか」を知る
あわせて読みたい
【誤解】「意味のない科学研究」にはこんな価値がある。高校生向けの講演から”科学の本質”を知る:『す…
科学研究に対して、「それは何の役に立つんですか?」と問うことは根本的に間違っている。そのことを、「携帯電話」と「東急ハンズの棚」の例を使って著者は力説する。『すごい実験』は素粒子物理学を超易しく解説する本だが、科学への関心を抱かせてもくれる
あわせて読みたい
【意外】東京裁判の真実を記録した映画。敗戦国での裁判が実に”フェア”に行われたことに驚いた:『東京…
歴史に詳しくない私は、「東京裁判では、戦勝国が理不尽な裁きを行ったのだろう」という漠然としたイメージを抱いていた。しかし、その印象はまったくの誤りだった。映画『東京裁判 4Kリマスター版』から東京裁判が、いかに公正に行われたのかを知る
あわせて読みたい
【不可思議】心理学の有名な実験から、人間の”欠陥”がどう明らかになっていったかを知る:『心は実験で…
『心は実験できるか 20世紀心理学実験物語』では、20世紀に行われた心理学実験からインパクトのある10の実験を選び紹介している。心理学者でもある著者が「科学であって科学ではない」と主張する心理学という学問で、人間のどんな不可思議さがあぶり出されてきたのかを知る
あわせて読みたい
【神秘】脳研究者・池谷裕二が中高生向けに行った講義の書籍化。とても分かりやすく面白い:『進化しす…
「宇宙」「深海」「脳」が、人類最後のフロンティアと呼ばれている。それほど「脳」というのは、未だに分からないことだらけの不思議な器官だ。池谷裕二による中高生向けの講義を元にした『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』をベースに、脳の謎を知る
あわせて読みたい
【論争】サイモン・シンが宇宙を語る。古代ギリシャからビッグバンモデルの誕生までの歴史を網羅:『宇…
古代から現代に至るまで、「宇宙」は様々な捉えられ方をしてきた。そして、新たな発見がなされる度に、「宇宙」は常識から外れた不可思議な姿を垣間見せることになる。サイモン・シン『宇宙創成』をベースに、「ビッグバンモデル」に至るまでの「宇宙観」の変遷を知る
あわせて読みたい
【挑戦】社会に欠かせない「暗号」はどう発展してきたか?サイモン・シンが、古代から量子暗号まで語る…
「暗号」は、ミステリやスパイの世界だけの話ではなく、インターネットなどのセキュリティで大活躍している、我々の生活に欠かせない存在だ。サイモン・シン『暗号解読』から、言語学から数学へとシフトした暗号の変遷と、「鍵配送問題」を解決した「公開鍵暗号」の仕組みを理解する
あわせて読みたい
【限界】有名な「錯覚映像」で心理学界をザワつかせた著者らが語る「人間はいかに間違えるか」:『錯覚…
私たちは、知覚や記憶を頼りに社会を生きている。しかしその「知覚」「記憶」は、本当に信頼できるのだろうか?心理学の世界に衝撃を与えた実験を考案した著者らの『錯覚の科学』から、「避けられない失敗のクセ」を理解する
あわせて読みたい
【天才】科学者とは思えないほど面白い逸話ばかりのファインマンは、一体どんな業績を残したのか?:『…
数々の面白エピソードで知られるファインマンの「科学者としての業績」を初めて網羅したと言われる一般書『ファインマンさんの流儀』をベースに、その独特の研究手法がもたらした様々な分野への間接的な貢献と、「ファインマン・ダイアグラム」の衝撃を理解する
あわせて読みたい
【使命】「CRISPR-Cas9」を分かりやすく説明。ノーベル賞受賞の著者による発見物語とその使命:『CRISPR…
生物学の研究を一変させることになった遺伝子編集技術「CRISPR-Cas9」の開発者は、そんな発明をするつもりなどまったくなかった。ノーベル化学賞を受賞した著者による『CRISPR (クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見』をベースに、その発見物語を知る
あわせて読みたい
【研究】光の量子コンピュータの最前線。量子テレポーテーションを実現させた科学者の最先端の挑戦:『…
世界中がその開発にしのぎを削る「量子コンピューター」は、技術的制約がかなり高い。世界で初めて「量子テレポーテーション」の実験を成功させた研究者の著書『光の量子コンピューター』をベースに、量子コンピューター開発の現状を知る
あわせて読みたい
【未知】タコに「高度な脳」があるなんて初耳だ。人類とは違う進化を遂げた頭足類の「意識」とは?:『…
タコなどの頭足類は、無脊椎動物で唯一「脳」を進化させた。まったく違う進化を辿りながら「タコに心を感じる」という著者は、「タコは地球外生命体に最も近い存在」と書く。『タコの心身問題』から、腕にも脳があるタコの進化の歴史と、「意識のあり方」を知る。
あわせて読みたい
【課題】原子力発電の廃棄物はどこに捨てる?世界各国、全人類が直面する「核のゴミ」の現状:映画『地…
我々の日常生活は、原発が生み出す電気によって成り立っているが、核廃棄物の最終処分場は世界中で未だにどの国も決められていないのが現状だ。映画『地球で最も安全な場所を探して』をベースに、「核のゴミ」の問題の歴史と、それに立ち向かう人々の奮闘を知る
あわせて読みたい
【感想】映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を異性愛者の男性(私)はこう観た。原作も読んだ上での考察
私は「腐男子」というわけでは決してないのですが、周りにいる腐女子の方に教えを請いながら、多少BL作品に触れたことがあります。その中でもダントツに素晴らしかったのが、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』です。その映画と原作の感想、そして私なりの考察について書いていきます
あわせて読みたい
【天才】『三島由紀夫vs東大全共闘』後に「伝説の討論」と呼ばれる天才のバトルを記録した驚異の映像
1969年5月13日、三島由紀夫と1000人の東大全共闘の討論が行われた。TBSだけが撮影していたフィルムを元に構成された映画「三島由紀夫vs東大全共闘」は、知的興奮に満ち溢れている。切腹の一年半前の討論から、三島由紀夫が考えていたことと、そのスタンスを学ぶ
あわせて読みたい
【意外】自己免疫疾患の原因は”清潔さ”?腸内フローラの多様性の欠如があらゆる病気を引き起こす:『寄…
人類は、コレラの蔓延を機に公衆衛生に力を入れ、寄生虫を排除した。しかし、感染症が減るにつれ、免疫関連疾患が増大していく。『寄生虫なき病』では、腸内細菌の多様性が失われたことが様々な疾患の原因になっていると指摘、「現代病」の蔓延に警鐘を鳴らす
あわせて読みたい
【称賛?】日本社会は終わっているのか?日本在住20年以上のフランス人が本国との比較で日本を評価:『…
日本に住んでいると、日本の社会や政治に不満を抱くことも多い。しかし、日本在住20年以上の『理不尽な国ニッポン』のフランス人著者は、フランスと比べて日本は上手くやっていると語る。宗教や個人ではなく、唯一「社会」だけが善悪を決められる日本の特異性について書く
あわせて読みたい
【驚嘆】人類はいかにして言語を獲得したか?この未解明の謎に真正面から挑む異色小説:『Ank: a mirror…
小説家の想像力は無限だ。まさか、「人類はいかに言語を獲得したか?」という仮説を小説で読めるとは。『Ank: a mirroring ape』をベースに、コミュニケーションに拠らない言語獲得の過程と、「ヒト」が「ホモ・サピエンス」しか存在しない理由を知る
あわせて読みたい
【終焉】資本主義はもう限界だ。インターネットがもたらした「限界費用ゼロ社会」とその激変
資本主義は、これまで上手くやってきた。しかし、技術革新やインターネットの登場により、製造コストは限りなくゼロに近づき、そのことによって、資本主義の命脈が断たれつつある。『限界費用ゼロ社会』をベースに、これからの社会変化を捉える
あわせて読みたい
【意外】思わぬ資源が枯渇。文明を支えてきた”砂”の減少と、今後我々が変えねばならぬこと:『砂と人類』
「砂が枯渇している」と聞いて信じられるだろうか?そこら中にありそうな砂だが、産業用途で使えるものは限られている。そしてそのために、砂浜の砂が世界中で盗掘されているのだ。『砂と人類』から、石油やプラスチックごみ以上に重要な環境問題を学ぶ
あわせて読みたい
【加虐】メディアの役割とは?森達也『A』が提示した「事実を報じる限界」と「思考停止社会」
オウム真理教の内部に潜入した、森達也のドキュメンタリー映画『A』は衝撃を与えた。しかしそれは、宗教団体ではなく、社会の方を切り取った作品だった。思考することを止めた社会の加虐性と、客観的な事実など切り取れないという現実について書く
あわせて読みたい
【情報】日本の社会問題を”祈り”で捉える。市場原理の外にあるべき”歩哨”たる裁き・教育・医療:『日本…
「霊性」というテーマは馴染みが薄いし、胡散臭ささえある。しかし『日本霊性論』では、「霊性とは、人間社会が集団を存続させるために生み出した機能」であると主張する。裁き・教育・医療の変化が鈍い真っ当な理由と、情報感度の薄れた現代人が引き起こす問題を語る
あわせて読みたい
【驚愕】日本の司法は終わってる。「中世レベル」で「無罪判決が多いと出世に不利」な腐った現実:『裁…
三権分立の一翼を担う裁判所のことを、私たちはよく知らない。元エリート裁判官・瀬木比呂志と事件記者・清水潔の対談本『裁判所の正体』をベースに、「裁判所による統制」と「権力との癒着」について書く。「中世レベル」とさえ言われる日本の司法制度の現実は、「裁判になんか関わることない」という人も無視できないはずだ
ルシルナ
普通って何?【本・映画の感想】 | ルシルナ
人生のほとんどの場面で、「普通」「常識」「当たり前」に対して違和感を覚え、生きづらさを感じてきました。周りから浮いてしまったり、みんなが当然のようにやっているこ…
ルシルナ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント