目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「彼女はなぜ、猿を逃したか?」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事で伝えたいこと
「すべての言動には意図があるはず」という考え方には、違和感を覚えてしまう
「そういう思い込みを他人に押し付けないでほしい」と強く感じてしまった
この記事の3つの要点
- 冒頭からしばらくは「訳の分からない奇妙さ」に支配されていく
- 「炎上」という現代的なテーマを分かりやすく打ち出しすぎているように感じられた点が少し残念だった
- 「猿を逃がした女子高生」と「彼女を取材する週刊誌記者」の噛み合わないやり取りがとても素敵
不穏に始まり、奇妙に展開していくのだが、最後は爽やかに着地するという、予測不能な物語に驚かされた
自己紹介記事
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途中まで、本当にどうなることかと思っていました。というのも、設定や展開を含め、何から何まで全然意味が分からなかったからです。
物語の前半はホント、「???」って感じが強かったよなぁ
何が展開されてるのかさっぱり理解できない、みたいな感じだったからね
しかし中盤以降少しずつ、「なるほど、もしかしたらこういうことなんだろうか」という可能性が見えてきます。そしてしばらくして、「やっぱりこの捉え方で合っていたのか」という風に感じられるようになりました。まあ、本作で描かれている「物語の設定」はかなりムチャクチャな感じがするのですが、最終的には割とリアリティを感じられるライン上に着地します。もちろん、人それぞれ好き嫌いはあるでしょうが、私は「物語としてはきちんと成立している」と感じました。
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さて、恐らくですが、映画を観ていく中で、「『彼女はなぜ、猿を逃がしたか?』というタイトルに絡む事件については、たぶん描かれないのだろう」みたいに風に感じるんじゃないかと思います。少なくとも私は、物語の中盤ぐらいで、「事件そのものにはきっと触れないのだろう」と考えていました。しかし、その予想は良い意味で裏切られます。「そんな展開になっていくのか!」と感じさせる終盤を迎えるのです。このラストの展開も含めて、とても良かったなと思います。
冒頭からしばらく不安な感じで観てたから、それもあって余計に良く思えたのかもね
それまでの展開からは想像もつかない終わり方にビックリしたわ
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「炎上」「バズり」が主なテーマとして組み込まれている
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映画『雨降って、ジ・エンド。』では、「SNSでのバズり」がメインで扱われています。主人公の「まぐれ当たりでバズったカメラマン志望の女性」が、その「バズり」を自分のステップアップに上手く使おうと考え、さらなるバズを求めて奇妙な人間関係の中に自ら飛び込んでいくという物語です。そしてそんな女性の人生を追いかけることで、「ネットのバズりなんかに人生を左右されない方が健全ではないか」というメッセージが伝わってくるような感じがしました。
映画『雨降って、ジ・エンド。』はホント、古川琴音がメチャクチャ良かったよね
「彼女にしか成立させられないんじゃないか」とさえ感じさせる物語だった
一方、本作『彼女はなぜ、猿を逃したか?』では、「週刊誌やネットでの炎上」が扱われます。『彼女はなぜ、猿を逃したか?』という奇妙なタイトルはそのまま主人公の行動を表しており、彼女は実際に動物園から猿を逃がし、そのことで週刊誌に取り上げられました。そして、そのことによって人生が大きく変わってしまった女性の姿を、かなり奇妙な構成・展開で描き出す物語です。
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正直に言えば、本作では「炎上」というテーマがちょっと分かりやすく強調されすぎている感じがあって、その点はあまり好きではありませんでした。「真実は捻じ曲げられて届く」みたいな「テーマを強調する分かりやすいセリフ」が何度も出てくるし、あるいは「匿名性の陰で騒いでいるだけの連中」を揶揄するようなセリフもあります。それらは確かに現代的なテーマだと思うのですが、もう少しスマートに組み込んでも良かったのかなと感じはします。
ただ、後半である人物が自己言及的に「こういうの、クドいかぁ」みたいに口にする場面があったりするから、分かった上で敢えてやってるって可能性もあるかも
もしそうだとしたら、そのことがもう少し伝わるようにしてほしかったかなとは思うけどね
「すべての言動には意図があるはず」という発想への違和感と、「噛み合わない会話」の面白さ
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さて、そういう現代的なテーマを据えつつ展開される物語なのですが、個人的にはむしろ、「猿を逃がした女子高生を取材する男性記者の振る舞い」の方が気になりました。敢えて「男性記者」と書いたのは、本作中で描かれる「思い込み」については、男性の方がより強く持っている印象を抱いているからです。
週刊誌記者としての責務みたいなものもあるのでしょうが、この記者は女子高生に対して執拗に「なぜ猿を逃がしたのか?」と問い続けます。そのこと自体は別にいいのですが、問題なのは、「『猿を逃がすという行為』には何か明確な意図があったはずだ」という信念を記者が持ち続けていたことです。女子高生は何を聞かれても、「はぐらかしている」としか受け取れないようなやり取りを続けます。少なくとも、「本心を喋っているんだな」と感じられるような受け答えにはなっていないということです。そのような「的外れなやり取り」が本作の面白さの1つと言えるわけですが、週刊誌の記者としてはやはり腹立たしさが募るのでしょう。そして彼は、どうにかして彼女から「本心」を引き出そうと奮闘するのです。
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さて私は、その記者が持つ「すべての言動には意図があるはず」という考え方に強く違和感を覚えてしまいました。もちろん、「そうである方が望ましい」ぐらいの感覚は自然だと思います。しかしこの記者のように、「『猿を逃がす』なんて大それたことをしたんだから、そこには何かしらの理由があるはずだ!」みたいに決めつけるスタンスは、どうにも好きになれません。
もちろん、「意図はちゃんとあるけれども、言語化能力が低いために『意図がない』ように見えてしまう」みたいなケースもあるでしょう。なので、包括的に議論をするのは難しいのですが、いずれにせよ私は、「『意図がない』という状態は不自然だ」みたいな決めつけが好きになれません。まあ、「そんな風に感じてしまう人は、『理由がないという状態』に耐えられないのだろう」と思ってはいるのですが。
「つまんない」って感覚が伝わるのかもよく分かんないけど
そしてそういう意味で言うと、猿を逃がした女子高生の受け答えはとても素敵だったなと思います。例えば映画の冒頭で、「猿を逃がした日の天気」について聞かれた彼女は、「空が焦げたようなオレンジ色だった」と答えました。「それはきっと朝焼けだろう」という話になった後で、さらに「じゃあ、朝焼けを見てどう感じた?」と問われるのですが、彼女にはその質問の意味がよくわからなかったのでしょう。そのため、「『元気が出た』とか『楽しい気分になった』とか」みたいに水を向けられるのですが、それに対して彼女は、「そういうことであれば、『オレンジ色だな』『焦げてるな』って思いました」と返すのです。
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この返答はメチャクチャいいなぁと感じました。もちろん、私が彼女と直接話をしていてそんな受け答えになった場合には、本作の記者と同じくやはりイラッとしてしまうかもしれません。ただ、第三者的にこのやり取りを聞いている分にはとても興味深いし、先程触れた「『意図がない』という状態は不自然」みたいな感覚と併せて考えるとより色々と考えさせられるんじゃないかと思います。質問する側には「朝焼けを見たら何か気持ちが動くはずだ」という思い込みがあるわけですが、女子高生はそんな「当たり前」を爽快にぶった切っていくからです。実に痛快だなと感じました。
「こう聞いたらこう返ってくるだろう」って想定できちゃう人とは会話する気が無くなるよね
なんとなく想像できるでしょうが、主人公の女子高生は、冒頭からしばらくずっと「変な奴」として描かれます。「動物園の猿を逃がす」なんてことをしたわけで、そりゃあ「変わってる」と思われて当然でしょう。そしてその「変さ」は、他者とのやり取りの中でも発揮されるのです。そのため観客は当面、「彼女の奇妙さ」に惹きつけられるような形で物語を追っていくことになるでしょう。
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しかし、冒頭でも触れましたが、本作では最後に「なぜ猿を逃がしたのか?」が明らかになる展開が描かれます。そして、そこでの彼女はとても魅力的に映るのです。それまでずっと「ただの変な人」でしかなかった女子高生が、一転、とても素敵な女性に見えてくるでしょう。そしてそのことによって、映画全体の雰囲気もガラッと一変する感じがあるのです。ずっと奇妙さが支配し続けてきた作品が、最後に爽やかさを放つ展開になっていくので、そんな構成もまた素敵だなと感じました。
冒頭からは想像も出来ない爽やかな展開になるんだよなぁ
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最後に
私は古川琴音を推しているので、そういう意味でどうしても『雨降って、ジ・エンド。』の方が好ましく感じられるのですが、本作もとても素敵な作品でした。冒頭でも書きましたが、「猿を逃がした理由」をちゃんと描いていたところがポイントだったように思います。ともすれば「タイトルのインパクト」に内容が負けてしまうようにも思えますが、私は「『タイトルのインパクト』に負けない物語を構築出来ている」と感じました。
配信で観る場合、途中で止めたくなるかもしれませんが、最後まで観ることをオススメします。最初の印象とはかなり違う展開になるので楽しみにしていて下さい。
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