目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:東出昌大, 出演:三浦貴大, 出演:吉岡秀隆, 出演:渡辺いっけい, 出演:吹越満, 出演:吉田羊, Writer:岸建太朗, 監督:松本優作, プロデュース:伊藤主税, プロデュース:藤井宏二, プロデュース:金山
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- Winnyを開発した金子勇は、ビットコインを生み出したサトシ・ナカモトなのか?
- 親告罪である著作権法違反で起訴された金子勇の裁判の原告は、なんと「警察」だった
- プログラミングへの深い知識を持つ弁護士・壇俊光がいなければ、日本のプログラム開発は今以上に衰退していたかもしれない
「どのような社会に生きていたいか」についても考えさせられる、骨太の物語
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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私は「実話を基にした洋画」をかなり観ている。何故わざわざ「洋画」と書いたかというと、邦画ではあまりこの種の映画が多くない印象があるからだ。本作『Winny』や、あるいは最近観た『福田村事件』(森達也監督)など、まったく無いわけではないが、やはり少ないと思う。もちろん、「闘病」や「スポーツ」など「感動系」の物語には実話ベースのものが多いと思うが、洋画でよくある「社会正義を実現した」「劣悪な事件が起こった」みたいな事実が映画化されることは少ないだろう。
そういう意味で映画『Winny』は、私が普段から観ているような「実話を基にした洋画」に近い印象のある作品だった。個人的には、このようなタイプの邦画が増えてほしいと思うのだが、やはり残念ながら、あまり需要がないんだろうなぁ、と思う。
さて、あと1点、先に伝えておきたいことがある。それは、「興味のあるなしに拘らず、こういう映画は観ておいた方がいい」ということだ。「こういう映画」というのは、「冤罪(やそれに類する状況)を扱った作品」という意味である。
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別に本でもネット記事でもなんでもいいのだが、「逮捕された場合、どのような状況に置かれるのか」という知識は持っておいた方がいいと私は思う。もちろん、「何もしていない自分が逮捕されるわけがない」と考えるのは当然だが、しかし、これまで本や映画で様々な実話に触れてきた私は、「なんてことないきっかけで、無実の人間が逮捕されてしまうことがある」と理解している。「何もしていないんだから、ちゃんと話せば刑事さんも分かってくれるよ」なんて考えは甘い。現実は、そうあっさりとは進まないのである。
万が一にも逮捕されてしまった場合、「ググって情報を検索する」ことなどまず不可能だ。確かに現代においては、調べれば何でも分かるし、知識を覚えておく必要はないかもしれない(私はそうは思わないが)。ただ、逮捕された場合など、検索が不可能な状況も一定数存在する。
うっかり「犯罪者」の烙印を押されずに済むように、「警察はどんな手段を講じてくるのか」「裁判は何を目的とする場で、どのように進行するのか」などの知識は、それなりに持っておいた方がいいと思う。
そういう意味でも、本作『Winny』は観た方がいい作品と言えるだろう。
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金子勇=サトシ・ナカモト説について
さて、まずは映画の内容とはほぼ関係のない話から始めよう。以前テレビ番組で知った知識であり、これから書く話は、映画『Winny』の中で語られるものではない。ただ、まったく無関係というわけでもないだろう。というのも私は、『Winny』を観たお陰で、これから紹介するある「仮説」の信憑性がさらに高まったと感じたからだ。
さて、その「仮説」とは、「『ビットコインを生み出したサトシ・ナカモト』は実は、『Winnyを生み出した金子勇』なのではないか」というものである。ちなみに、「ビットコイン」「Winny」が何か分からない方はネットで調べてほしい。以下に私が調べたリンクを貼っておく。
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「ビットコイン」も「Winny」も、「よほどの天才にしか作れない」と言われる、生み出された当時はあまりにも画期的だった技術である。しかし、「Winny」の作者は金子勇と分かっているものの、「ビットコイン」の作者は未だに不明だ。ネット上で「サトシ・ナカモト」と名乗っていたため、その名で知られているが、日本人なのかどうかも含めて、一切の正体が分かっていない。
そして、そんな金子勇とサトシ・ナカモトが同一人物かもしれないという仮説が存在するのだ。「ネット上の履歴で確認できるサトシ・ナカモトの年表」と「金子勇の年表」を突き合わせてみると、そこに相当の整合性が存在するというのである。確かに、よほどの天才でなければ作れない技術なのだから、同じ人物が作ったと考える方が合理的かもしれない。ただ、その仮説を紹介するテレビ番組を観た時はまだ、私は半信半疑だった。「都合の良い情報を上手く繋ぎ合わせただけだろう」と考えていたからだ。
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しかし、映画『Winny』を観て、「金子勇=サトシ・ナカモト」説の信憑性が高まったと感じた。
私が抱いていた疑問の1つは、「何故サトシ・ナカモトは正体を現さないのか」である。別に、犯罪行為に加担したわけでもなく、というか、世界を激変させる素晴らしい発明を成し遂げたのだから、身元を伏せる必要などまったくない。「世間に広く知られたくない」という気持ちは理解できるが、そうだとしても、例えばバンクシーのように、「世間一般には正体が知られていないが、協力者や仲間など、その正体を知る一定の関係者がいる」という状態を作り出すことはさほど難しくなかったと思う。
また、サトシ・ナカモトはビットコインの生みの親なので、もちろん「ビットコインの世界最大の保有者」でもある。しかし、彼が保有するビットコインは、これまで一度も動かされたことがないというのだ。彼が保有するビットコインの価値は、天文学的なものになっている。お金にまったく興味がないだけかもしれないが、それにしたって基金を作るとか寄付するとか何か使い道ぐらいあるだろう。
このような点に説明が付かないと、仮説にはなかなか説得力が生まれないと思う。
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しかし、金子勇には実は、上述の違和感を説明できる状況が存在したのだ。
彼は「Winny」を作ったことを契機に逮捕されてしまうのだが、後に保釈されている。しかしその保釈条件として、「プログラム開発の禁止」が盛り込まれた。つまり、もしも新たなプログラムを開発していることが発覚すれば、刑務所に逆戻りとなるのである。映画『Winny』で描かれていた金子勇は、とにかく「プログラムさえ出来れば、他のことはどうでもいい」という人物だったので、そんな彼が「プログラム開発」を禁じられたのだから、相当の痛手だっただろう。
さて、金子勇が保釈期間中にこっそりプログラム開発をしていたのかどうか、もちろんそれは分からない。しかしもししていたとしても、「金子勇が作った」と大っぴらには言えないのだとすれば、別人の名前で発表し、「金子勇が作ったわけではない」という見せ方にしようとするのは当然の判断と言えるだろう。
また金子勇は、42歳という若さで亡くなっている。「プログラム開発の禁止」が解かれてから半年後ぐらいのことだった。ビットコインは、そのあまりに堅牢なシステム故、本人以外にアクセスすることは不可能だ。とすれば、サトシ・ナカモトのビットコインが動かされていないのは、既に亡くなっているからだとも考えられるのではないか。またその事実は、現在に至るまで「サトシ・ナカモト」の正体が明らかになっていない理由にも通ずると言えるだろう。
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これが「金子勇=サトシ・ナカモト」説の概略である。その真偽の程はもちろん不明だが、映画の中で、金子勇がいかに天才だったかを示すセリフが出てくる。「普通なら3年掛かる開発を、たった2週間でリリース出来る」と紹介されるのだ。次元を超えた天才だったと言っていいだろう。
GoogleもYouTubeもFacebookも、すべてアメリカ発である。日本発で世界を席巻したWebサービスは、現時点では存在していないように思う。そして、「金子勇がもしもWinny事件で逮捕されていなかったら、日本からとんでもないサービスが生み出されていたかもしれない」とさえ言われているのだ。
このように考えることで、「Winny事件」の規模の大きさやその影響力を間接的に理解することが出来るだろうと思う。はっきり言って、日本のその後の命運を大きく左右してしまった「失態」と言っていいだろう。
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一般的に、サービスの「開発者」が逮捕されることはない
さて、映画『Winny』の中でも説明されることではあるが、まずは一般的な事実の理解に努めよう。
金子勇は「著作権法違反」の罪で逮捕された。「Winny」というのは、あらゆる情報を他者と共有できるというサービスであり、そのサービスを悪用した者たちが、ネット上に違法コンテンツをバラまきまくったのだ。この状況を作り出したとして金子勇は逮捕されてしまった。
しかし、「プログラムの開発者が責任を取らされることはない」というのが世界的にも一般的な理解である。Winny事件以前にも、アメリカで「ナップスター事件」が起こるなど、「個人が生み出したプログラムを悪用する犯罪」は存在していた。そのようなケースでは、「悪用した人物」はもちろん逮捕されるのだが、「開発者」が逮捕されることはなかったのだ。Winny事件が起こった当時も、このような理解が国際標準だったのだと思う。
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この点を理解しやすくするために、作中でなされる説明を紹介しておこう。金子勇の弁護を担当することになる壇俊光が冒頭で、食事中に「ナイフ」を使ってこんな例を出すのだ。仮にそのナイフを使って誰かを殺すとする。この場合、逮捕されるのは当然「殺人を犯した者」だ。まかり間違っても、「ナイフを作った人物」が逮捕されるなんてことはあり得ない。まあ、確かにその通りだろう。
これと理屈は同じ、というわけだ。どんなサービスを生み出そうとも、それを悪用する人間が悪いのであって、それを作り出した人間が悪いわけではない。当然、このような理解が中心にあるべきだと誰もが感じるはずだ。
では、金子勇は何故逮捕されたのか?
映画を観ても、その理由ははっきりとは分からなかった。恐らく、実際にその理由ははっきりしていなかったのだろう。ただ、漠然とではあるが、「警察や国からの強い働きかけがあったのだろう」という描写がなされる。要するに、「『Winnyは国家にとって都合の悪いプログラムだから、作った人間を懲らしめてやろう』という判断がベースに存在していたのではないか」というわけだ。
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このような背景は、Winny事件の裁判の原告が「警察」だったことからも理解できるだろう。どういうことか。「著作権法違反」はそもそも「親告罪」である。要するに、「告訴が無ければ、逮捕や起訴がなされない犯罪」という意味だ。殺人や強盗などは、被害者が訴え出るかどうかに関係なく警察が動き、逮捕・起訴されるが、「親告罪」の場合は、まず誰かからの「告訴」があって初めて逮捕・起訴という流れになるのである。
警察が「原告」になったのだから、「金子勇を告訴した者」は他にいなかったと考えていいだろう。つまりこの事件では、”わざわざ”警察が「原告」の立場についてまで金子勇を起訴しているのだ。そこにはやはり、警察なり国家なりの強い働きかけがあったと考えるべきだろう。
警察のあまりに酷いやり方
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既に金子勇が亡くなっていることを考えると、弁護士・壇俊光が関わっていない部分については、どこまで真実なのかもはや確かめようがない。ただ、映画で描かれていることが事実だとするなら、警察のやり方は「酷い」の一言に尽きるだろう。
Winnyを巡ってはまず、「Winnyを悪用して著作権侵害を行った者たち」が日本中で次々と逮捕されていった。そして、その動きと並行するような形で、開発者である金子勇も警察から聴取を受けることになる。ただ、この時点ではまだ、金子勇は逮捕されてはいなかったのだ。
後に弁護団は、最初の時点では任意聴取だった理由について、「恐らく警察は、逮捕の要件を満たす証拠を押さえられなかったのだろう」と推測していた。これは、告訴のあるなしとは関係ない話である。金子勇を逮捕するには、「著作権侵害を蔓延させる目的でWinnyを開発した」ことを示さなければならないのだ。そして当然、そんな証拠が得られるわけもなく、だから「逮捕の要件」が満たされるはずもないことになる。
しかし警察は、どうしても金子勇を逮捕したかったのだろう。そこでこんな悪どい手を使ってきた。「偽の供述調書」を書かせたのだ。
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取調室で刑事の1人が金子勇に、「『2度とWinnyの開発をしない』という誓約書を書いてくれたら、今日はもう帰れるから」と提案する。もちろん、刑事の狙いは別にあるのだが、プログラム開発以外のことにはあまりにも無知だった金子勇は、刑事の提案を素直に受け入れてしまう。そして、「これをそのまま書き写してくれたらいいから」と刑事から提示された「作文」をそのまま書き写し、そこに署名してしまうのだ。
その「作文」には、「私は著作権侵害を目的としてWinnyを開発した」みたいな一文が含まれていた。もちろん金子勇も、書き写している時に違和感を覚えたので、「この文章って、後から訂正できるんですか?」と確認する。刑事は「もちろんだよ」と嘘をつくのだが、金子勇はそれをそのまま信じてしまった。そして刑事に言われるがまま、本人は「誓約書」だと思っている「供述調書」を書き上げてしまうのだ。
警察はとにかく、このような汚い手を幾度も繰り返すことで、なんとしてでも「金子勇の有罪」を目指すのである。
金子勇の裁判は彼だけに関係するのではなかったため、弁護士・壇俊光の存在が非常に重要だった
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警察の執念が実り、金子勇を法廷に立たせることに成功した。さて、裁判というのは普通、被告人やその家族、そして被害者に大きな影響を与えるが、そうではない人たちにその影響が及ぶことは少ないだろう。しかし金子勇の裁判は、そうではなかった。この裁判の行く末が、日本の未来を決すると言っても過言ではなかったのだ。
というのも、もし金子勇が有罪になれば、「日本でのプログラム開発」が大いに萎縮する可能性があったのである。
金子勇の弁護で苦労したポイントの1つは、「金子勇の行動のどの部分が『著作権侵害』に当たると判断されたのか」について検察が明確に示さなかったことだ。恐らくだが、実際には「示せなかった」というのが正解だろう。世界的にも「開発者に罪はない」という判断が妥当とされていたのだから、金子勇を「著作権侵害」で訴える根拠はそもそも見つけられなかったと考えるのが自然だと思う。
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しかしこの状況は、一層ややこしい問題を抱えていたと言える。というのも、もしも金子勇が裁判で有罪となれば、「具体的な問題点が指摘されないまま、プログラム開発が著作権侵害とみなされる」という前例が生まれることになるからだ。つまり、裁判の結果次第では、「どんな目的で作られたサービスでも、悪用されたら開発者は逮捕され得る」というメッセージが広く伝わってしまう可能性があったのである。
そんな国で、プログラム開発を行おうとする者などいるはずがないだろう。このような背景があったからこそ、金子勇の裁判は多くのプログラマーにとって他人事ではなかったし、日本の未来にとっても重大な岐路だったというわけだ。金子勇は、自身のためにも闘ったが、より大きなものを背負ってこの裁判に挑んでいたのである。
金子勇にとって幸運だったのは、壇俊光という弁護士と出会えたことだろう。というのも彼は、プログラミングに関してかなり深い知識を有していたのだ。劇中では、拘置所での面会の場面で、金子勇が滔々と「Winnyの改善案」を語る場面が描かれる。そこでは壇俊光が、金子勇と対等な感じでやり取りをしていた。Winny事件が起こったのは2004年前後のことであり、今から20年近く前のことだ。今でこそ、プログラミングの知識を持っている人は多いだろうが、20年前にはそのような状況にはなかったはずだろう。そういう中にあって、特殊な知識に明るかった壇俊光の存在は、金子勇にとっても、そして結果的には日本にとっても、非常に重要だったと言っていいと思う。
Winny事件当時、私は20歳前後だった。だから、当時の報道のことはなんとなくだが覚えている。とにかくテレビなどでは、「Winnyは悪だ」という論調が凄まじかったように思う。実際本作でも、当時の報道についてはそのように描かれている。今でこそ「悪用した人物が悪い」と理解できるが、当時は「使ったら危ないサービスなんだ」という風に捉えていたと思う。実際、私はWinnyを使ったことがない。
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そのような状況にあったことは、「金子勇を弁護する壇俊光の周辺にも彼への疑いを抱く者がいた」という描写からも理解できるだろう。噂で聞いた、みたいな話ではあるものの、「本当に著作権侵害を蔓延させるために開発したのではないか」「某国のテロリストなんじゃないか」みたいなことを言う人物が出てくるのである。
実際のところ、「どのような意図を持って開発したのか」は「気持ち」の問題なので、本来的には理解し得ないはずだと私は思う。ただ壇俊光は、プログラミングに関する知識に明るかったこともあり、金子勇とやり取りする中で、「彼は単に、『そこに山があったから登っただけ』でしかない」と直感したのである。この辺りの理解についてはやはり、知識のない者には難しかっただろう。そして、早い段階で金子勇の「動機」を理解できたお陰で、壇俊光の弁護方針も揺るがずに済んだのだ。
まさに、壇俊光だったからこそ立ち向かえた状況だと言えるかもしれない。
金子勇の弁護に全力を尽くすと決めた壇俊光が、実に良いことを言う場面がある。
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私はこれからの5年間を金子さんに捧げます。だから金子さんは、日本の技術者の未来のために、残りの人生を使って下さい。
このような気概を持つ弁護士との出会いこそが、最大の僥倖だったと言っていいだろう。
映画『Winny』の感想
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金子勇を演じたのは、東出昌大だ。そして、私が今まで観たどの東出昌大よりも良かった。
私はもちろん、実際の金子勇がどんな人物なのか知らない。だから当然、東出昌大の演技が金子勇を上手く捉えているのかの判断など出来ないわけだが、ただ、東出昌大演じる金子勇が、「地に足のつかない、どこかふわふわした感じの印象」を絶妙に醸し出していたことは確かだ。この点が、なんとなく勝手にイメージする「天才プログラマー」っぽくてとてもよかった。金子勇は、逮捕されているというのに、まるで自身が置かれている状況を理解できていないかのように振る舞うのだ。確かにこのような人物なら、「捜査に協力して、誓約書を書いて下さいよ」と言われて、疑問も抱かずに書いてしまいそうだと感じる。傍から見れば非常にイライラさせられる人物だと思うのだが、リアリティはとても強かったと思う。
そして本作は、東出昌大がそのような「掴みどころの無さ」を絶妙に醸し出している点がとても良かった。普通からは明らかに逸脱しているのだが、一方で「こういう人、いそうだよね」と感じさせるライン上の存在感を見事に演じていたと思う。
さて、映画を観ながら驚いたのは、「仙波敏郎」という人物が出てくることだ。私は以前、彼が書いた本を読んだことがあるので、彼の物語で何が描かれるのかは分かっていた。しかし、それがどう「Winny」と関係するのかは知らなかったのだ。だから、「Winny事件の陰で、このような出来事が起こっていたのか」と驚かされてしまった。
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しかし、仙波敏郎に関してだけ言えば、まさに絶妙なタイミングで行動を起こしたと言っていいだろう。映画では、金子勇が法廷で、
Winnyの開発は早すぎたのでしょうか、あるいは遅すぎたのでしょうか。
と口にする場面がある。その判断については何とも言いようがないが、仙波敏郎との関わりだけで言うなら、早すぎも遅すぎもしない、まさにそのタイミングしかなかったという状況だったのだ。実にフィクショナルな展開ではあるが、これが実話だというのもまた興味深い。
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実話の興味深さと言えば、壇俊光と共に弁護団の一員を務める秋田真志が関わる場面もまた印象的だった。公式HPには、秋田真志を演じた吹越満のコメントが載っているので、引用しよう。
シーン74の証人尋問も、実際の裁判記録を元に構成しています。なのに、まるで映画の台本みたいな流れでした、笑。
まさにその通りで、彼が関わる法廷でのやり取りは実に魅力的だった。完全なフィクションだとしたら「やり過ぎ」なぐらいの場面であり、これもまた、実話を基にしているからこその描写と言っていいのかもしれない。
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当然、秋田真志も実在する人物であり、彼もまた凄まじい弁護士だ。「刑事事件での無罪判決は、一生に一度あればいい方」と言われるほど、日本では有罪率が高いのだが、彼はWinny事件を担当する時点で既に、10回以上も「刑事事件での無罪判決」を勝ち取っているのである。まさに「伝説の弁護士」というわけだ。そんな人物が有する「鋭さ」と「軽妙さ」を、吹越満が見事に演じており、とても素晴らしいと感じた。
最後に。どうでもいいことだが、「法廷シーンに、阿曽山大噴火みたいな奴がいるなぁ」と思っていたら、やはりエンドロールに「阿曽山大噴火」とクレジットされていた。やはりそうだったか。
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私の感覚では、日本ではあまり無いタイプだと言える骨太の「実話を基にした映画」であり、かなり見応えのある作品と言えると思う。様々な見方で楽しめる映画であり、「凄まじい才能を潰した警察の無能さ」「天才として生きることのある種の苦悩」「不可能を成し遂げようとする弁護団の奮闘」などなど、捉え方は色々ある。そしてやはり、冒頭でも書いた通り、「万が一逮捕された場合に、何が起こるのか」を知れるという意味でも興味深い作品と言えるだろう。
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日本からも「GoogleやYouTubeのようなサービス」が生まれたかもしれないと想像させる程の「天才」を、直接的に潰したのは確かに警察ではあるが、同時に、「情報を正しく受け取ろうとしない世の中」もまた、それに加担していたと言っていいかもしれない。現代では、Winny事件の時ほどマスコミの力は強くないと思うが、今はそれ以上に、インターネットが大きな影響を持つ時代になった。ネット上のデマは、様々な問題を引き起こす。私たちは今、「なんとかして『正しい情報』を手に入れるための努力をしなければならない社会」に生きているのである。
そして映画を観れば、まさに金子勇は、「『正しい情報』を誰もが手に入れられる社会」を作ろうとして「Winny」を生み出したのだと理解できるだろう。金子勇について知れば知るほど、「惜しい人物を失ってしまった」という感覚にさせられるはずだ。
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才能・センスがない【本・映画の感想】 | ルシルナ
子どもの頃は、自分が何かの才能やセンスに恵まれていることを期待していましたが、残念ながら天才ではありませんでした。昔はやはり、凄い人に嫉妬したり、誰かと比べて苦…
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