目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:ケイト・ハドソン, 出演:チョン・ジョンソ, 出演:エド・スクライン, 出演:クレイグ・ロビンソン, 監督:アナ・リリ・アミリプール, Writer:アナ・リリ・アミリプール
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
主人公のモナ・リザを演じたチョン・ジョンソがとにかく素晴らしすぎた
普通には成立しないだろう「狂人」を、リアルな存在として打ち出した演技が凄まじい
この記事の3つの要点
- 細部をまったく説明せず、「主人公には、とにかくこういう特殊能力があります」という設定だけで突き進む清々しさがとても素敵
- 「『モナ・リザがアジア人』という設定にちゃんと意味がある」という要素が、ポリコレ的な意味においても重要である理由
- 10歳から精神病院に入院していたために、「普通」という感覚を持っていない主人公の行動がとても興味深い
「ナチュラルに『善悪の判断基準』が歪んでいるモナ・リザ」の行動に、ずっと惹きつけられっ放しでした
自己紹介記事
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これは面白い映画だったなぁ! 冒頭から清々しいほどにぶっ飛んでて、正直「意味不明だな」と感じさえしました。ただ、ここまで突き抜けてると、「もうちょっと説明してほしいなぁ」なんて思う暇もなく振り回されているみたいな感覚もあって、個人的にはとても素敵な鑑賞体験になったなと思っています。
「なんでそうなるの?」みたいな部分がほぼ説明されないからね
シンプルにストーリーだけ取り出すと「は?」って感じになるだろうけど、それでもメチャクチャ惹きつけられたなぁ
映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』の内容紹介
とある精神病院。その奥には、厳重に施錠された「特別警戒区域」がある。重度の患者が収容されている場所だ。そこに、1人のアジア系の少女いる。彼女は拘禁服を着せられ、身動きが取れない。室内にはベッドぐらいしかなく、そこで日々何をするでもなく過ごしている。後で分かることだが、彼女は「モナ・リザ・リー」という名前の韓国人であり、10歳からこの精神病院にいるという。およそ10年以上も、隔離された生活を続けているというわけだ。
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そんなモナ・リザの部屋に、ガムを噛みながら女性職員が近づいていく。中に入ると職員は、モナ・リザの爪を切り始めた。拘禁服を着せられているため、モナ・リザは自分では何も出来ないのだ。職員はモナ・リザに、「調子はどう? バカ」「お前の爪を切って得た金で、私はネイルに行くんだ」などと口にしては、彼女のことをとても雑に扱う。とはいえ、モナ・リザにとっても職員にとっても、このような状態は日常茶飯事だったはずだ。
しかし、その日はいつもとは違い、実に不可思議なことが起こった。職員がモナ・リザと目を合わせると、なんとモナ・リザの首の動きに合わせるようにして、職員が爪切りを持つ手を自身の太ももに突き立てたのだ。「助けてくれ」と懇願する職員にモナ・リザは「拘禁服を解け」と命じ、そのまま彼女はあっさり精神病院から抜け出すことに成功したのである。
その夜は、とても綺麗な満月だった。
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10歳から精神病院に閉じ込められていたモナ・リザは、当然、社会のことなど何も知らない。そのため、夜の街に屯する「危なそうな人たち」にフラフラと近づいては、ほとんど何も喋らないまま、靴やらTシャツやら食べ物やらを手に入れたりする。あるいは、通りかかったハンバーガーショップで、「彼女自身にもよく分からない理由で突然覚醒した『超能力』」を駆使して人助けもした。そしてそのお礼にと、ハンバーガーを奢ってもらうのだ。
奢ってくれたのは、ストリップ嬢として働くボニー・ベル。彼女は、「モナ・リザの『特殊能力』を使えば、楽に金が稼げるはずだ」と考え、そんな悪巧みに利用するつもりで、モナ・リザをしばらく家に住まわせることに決めた。そしてモナ・リザはそこで、ボニーの幼い息子チャーリーと出会うことになる。
一方、「酔っぱらいに対処するように」との出動命令を受けて出向いたハロルド巡査は、そこでたまたま見かけた不審な少女を保護しようと追跡していた。しかし、少女に声を掛け、安全のためにと伝えた上で手錠を掛けようとした時、巡査は操られるようにして拳銃を抜き、そのまま自らの膝に発砲した。
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もちろん、モナ・リザの仕業である。
この件でハロルドは大怪我を負い、杖をつかなければ歩けない身になってしまった。しかし、自身が遭遇した”悪魔”をどうにか追い詰めるべく捜査を開始するのだが……。
チョン・ジョンソ演じる、絶妙な雰囲気を醸し出すモナ・リザが「アジア人」である必然性
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とにかく素晴らしい作品でした。しかし、まず伝えておくべきは、本作には細部の説明が一切無いということでしょう。「モナ・リザは何故覚醒したのか?」「そもそも彼女はなぜ超能力を持っているのか?」などについて、まったく触れられていないのです。
普通だと、そのような「投げっぱなし」の物語はまとまりを欠き、「作品として成立している」とはとても言えないような状態になりがちでしょう。しかし本作の場合、そんな印象にはなりませんでした。恐らくその最大の要因が、モナ・リザを演じたチョン・ジョンソにあるのではないかと思っています。
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本作においてはとにかく、彼女の存在感が半端ではありませんでした。モナ・リザは、「統合失調症のため10歳から精神病院に入院し続けている」という役柄であり、演じる難易度がかなり高いように思います。しかしチョン・ジョンソは、「本当にそういう人なのだろう」と感じさせるくらいの強い存在感を放っていました。精神病院にいた頃は「生きた死人みたい」と職員に言われるほどで、人間らしい感情など持っていないように見えるのですが、その状態のまま社会に飛び出して様々な経験をしたことで、知識や価値観が蓄えられて少しずつ人間っぽくなっていくのです。その過程がとても魅力的で、その演技力にも驚かされました。
モナ・リザは本当に、最後の最後まで「何を考えているのか分からない」という雰囲気のまま突っ走っていきます。そして、そう感じさせる演技力に、とにかく圧倒させられてしまったというわけです。
私はなかなか「役者個人」を好きになることってないんだけど、チョン・ジョンソはちょっと注目しておこうかなって思う
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しかも本作の場合、「モナ・リザがアジア人である」という設定が、とても重要なものに感じられました。その理由についてはあまり上手く説明はできないのですが、例えばモナ・リザが白人だとしたら、悪い意味でかなり違った印象の作品になっていたのではないかと思います。黒人でも上手くハマった可能性はありますが、私にはやはり、アジア系であることによってモナ・リザの「ミステリアス感」がグッと上がっているように感じられたのです。同じアジア人の私がそのように感じるというのも変な話だとは思いますが。
そしてさらに、「『モナ・リザがアジア人』という設定にちゃんと意味がある」という要素は、また別の意味で本作にとって大事なポイントになっていると感じます。それについて説明するためにまず、私が「ポリティカル・コレクトネス」に対して抱いてしまう違和感について触れておきましょう。
映画の感想の中でよく書くことなのですが、私はどうしても、「『ポリティカル・コレクトネスに配慮していますよ』という意識が透けて見える作品」が好きになれません。ここ最近、ダイバーシティやインクルージョンなど「様々な個性を認めよう」という社会的な風潮がかなり強くなっていると思います。もちろん、それ自体はとても歓迎すべきことなのですが、それを創作物に対しても”過剰”に反映させようとする流れは、はっきり言って嫌いです。特に最近は、白人がメインとなる作品において、アジア人や黒人を”満遍なく配置する”みたいな配慮がなされているように感じられてしまいます。恐らくですが、そうしないと「世の中的に受け入れてもらえない」「アカデミー賞の選考で不利になる」など色んな理由があるのでしょう。ただ個人的にはいつも、「ちょっとどうなんだろうなぁ」と感じてしまうというわけです。
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もちろん、「ポリコレのことなど考えておらず、そのような配役が最適だと思っただけ」っていう理由もあるとは思うんだけど
時代の変化もあって、受け取る側も”過剰”になっちゃう部分はあるよね
しかし本作の場合、「モナ・リザ役はアジア人で大正解」だと私は思ったので、「ポリコレへの配慮だろ」みたいな感覚にはなりませんでした。そういう意味でも「『モナ・リザがアジア人』という設定にちゃんと意味がある」という要素は、とても重要だと感じました。
長いこと精神病院にいたモナ・リザ視点では、「善悪の判断」があっさり歪んでいく
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本作において、非常に皮肉的で興味深いと感じたのは、「モナ・リザを手助けする者の多くが、社会から『はみ出し者』と見做され得る人物」だということです。恐らくですが、この点はかなり意識的にやっているのではないかと思います。
色んな捉え方が出来るだろうけど、例えば、「良識ある人間はモナ・リザを助けない」って見方も可能だよね
つまり逆説的なんだけど、本作のような描き方によって「はみ出し者」が良く見えることになる
精神病院を抜け出したモナ・リザは当初、もちろん裸足だったわけですが、敷地を出てすぐの夜道で酒を飲んでいた3人の若者が靴をくれました。夜間もやっている、日本のコンビニのような雑貨店の前に屯していたパンクロック的な見た目の男性は、お金を持っていないモナ・リザの代わりに支払いをしてあげます。また彼は、「奪われた」という表現の方が正確ですが、モナ・リザにTシャツも差し出していました。モナ・リザにハンバーガーを奢り、家に住まわせることに決めたボニーの職業はストリップ嬢であり、やはりアウトサイダー的な職業だと言えるでしょう。そしてさらに、ストリップ劇場内でもバチクソに嫌われていたりするのです。
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そして、このような「『はみ出し者』がモナ・リザを助ける」という設定によって、彼女のある特徴が自然と浮かび上がってきます。彼女は「善悪の判断基準を持っていない」のです。10年以上、ベッドしかない部屋に拘束され続けていたのだから、「世間の普通」を知れる機会など無かったでしょう。だから彼女には、「人を見た目で判断する」みたいな偏見がまったくありません。そのため、成り行きで関わることになった、私たちからすれば「ちょっとヤバそうな人たち」のこともあっさり信用して、そのままスッと入り込めるというわけです。
”無垢”なモナ・リザの行動によって「善悪の判断基準」が歪んでいく感じがとても面白いよね
結果として、「私たちが何を『普通』『当たり前』と感じているのか」も浮かび上がってくるし
しかし1つだけ、彼女が「悪」と判断するものがあります。それが、「長い間自身を拘束し続けた『精神病院』を連想させる状況」です。唯一この点だけが、彼女にとって「明確に判断できる良し悪し」だと言えるでしょう。そしてだからこそ、「市民を守る警察」が、彼女には「悪」に映ることになります。手錠を使って”拘束”しようとするからです。
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このように、モナ・リザの視点で物事を見ることで、現実の捉え方があっさりと反転していく感じが非常に面白いと思いました。彼女にはとにかく、「普通」という感覚がまったく無いので、観客が「普通に考えて危ない」と感じる状況にも躊躇無く踏み出していくのです。しかもそれを、「何も考えていない」ように見える無表情で行っていることも、一層クールに感じさせる要素だと言えると思います。
「設定や展開の訳の分からなさ」の背景に、このような「軸」がきちんとあるから、「意味不明」でも全然許容出来たんだと思う
「モナ・リザ視点での『価値観の歪み』ってテーマが通底しているから、「ま、他のことはどうでもいいや」って思えるんだよね
もちろんモナ・リザには、「自身が持つ特殊能力を使えば最悪どうとでもなる」みたいな感覚もあるのかもしれないし、だからどんな場面でも躊躇無しに進んでいけるという可能性もあるでしょう。まあそれはともかくとして、映画を観ながら私は、「全世界の人が、彼女のように”ほぼノールック”みたいな感じで他人と関われたら、世の中はもっと平和かもしれない」と考えたりしました。「偏見の無い社会」って、こういう感じなのかもしれません。作中でモナ・リザは「状況を混沌とさせる悪魔」みたいな存在として描かれるのですが、見方を変えれば、ある意味で彼女は「世界を平和へと導く天使」だったりするのかもしれません。
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「痛快さ」でいえば、映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』が近いと言えるでしょうか。なかなか経験しないだろう感覚を抱かされた、とても興味深い作品でした。
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映画のラスト、空港での展開が行き着く「物語の終着点」は、実になんとも言えない感覚をもたらすものでした。チャーリーがあの場でした決断は、恐らく観る人によって様々な捉え方が可能だろうと思います。私は「モナ・リザのためを思っての行動」だと受け取っているのですが、「怖くなって直前で逃げた」と解釈する人もいるはずです。こうやって解釈に差が生まれるのも、モナ・リザが「何を考えているのか分からないキャラクター」であるが故だろうし、作品の随所でそのような「揺らぎ」が散りばめられている点もとても良かったなと思います。
繰り返しになりますが、本作はとにかくチョン・ジョンソが抜群に素晴らしかったです。「何がどうなっていくのかさっぱり想像できないストーリー」ももちろん魅力的でしたが、「どう考えても現実離れしすぎたモナ・リザの存在感」と、「そんなモナ・リザをリアルな存在として成立させたチョン・ジョンソ」に圧倒させられてしまいました。
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ルシルナ
進化・生命・脳【本・映画の感想】 | ルシルナ
人類は、我々自身を理解するための知見を積み重ねてきました。生物の進化の過程、生命を司るDNAの働きや突然変異、高い知能を持つ人間の脳の仕組みや不思議など、面白い話…
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