目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「キリエのうた」公式HP
著:岩井 俊二
¥750 (2024/06/14 23:26時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
冒頭でキリエが歌い出した瞬間に、もう涙が零れそうになったことにビックリした
アイナ・ジ・エンドの歌声の凄さは知っていたつもりでしたが、それでも圧倒されてしまいました
この記事の3つの要点
- 普通なら出会うはずのない人たちとの関わりを通じて、キリエの辛く苦しい人生が浮かび上がってくる
- 悪意を持って誰かの人生を貶めようとする人物は出てこず、「仕方ないこと」を丁寧に積み上げることによって物語が展開していく
- アイナ・ジ・エンドは歌声だけではなく演技も見事で、また、松村北斗・広瀬すずもやはり絶妙な存在感を放っていた
上映時間が3時間という長大な作品ですが、圧倒されっ放しの凄まじい映画でした
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私はもうすぐ41歳になるのですが、視力が落ちてきたなぁと思う以外に、年齢的な衰えを感じることはほとんどありません。ただ、昔と比べて変わったなと感じるのは「涙もろくなったこと」です。本当にちょっとしたことで感動してウルっとしてしまうことが増えたので、そういう時には年齢を感じます。
しかしそれにしたって、本作『キリエのうた』の冒頭で、主人公のキリエ(アイナ・ジ・エンド)が歌い出したその瞬間に涙が零れそうになったのは、自分でも本当に意味が分からないなと思いました。
物語が始まってすぐだったし、ホントにまだ何も展開が無い時のことだからね
純粋に、「歌声」に涙させられたってことなんだろうなぁ
もちろん、アイナ・ジ・エンドのことは映画を観る前から知っていたし、その歌声だって聴いたことがあります。ただ、キリエが歌い出した瞬間の感覚というのは、正直、私がこれまでの人生で感じたことのないものでした。
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私は普段、音楽を聴く習慣がほとんどないのですが、様々な場面で耳にする音楽に対して「これは好きだな」みたいに感じることはあります。ただそれは割と、「頭で良いと思っている」という感覚です。「身体が反応している」みたいな感じになったことはありません。また私は、「歌詞」をまったく意識せずに音楽を聴くので、単に「心地いいメロディだな」と頭で考えているということになります。
しかし、キリエの歌の場合は違いました。冒頭のシーンからずっと、キリエが歌っている場面では「身体が反応している」という感覚になったのです。人生で初めて、「音楽を聴いてゾクゾクする」という経験をしたような気がします。それぐらい、私にとっては凄まじい「体感」でした。
まあは、「音楽に身体が反応する」みたいなことは、みんなもっと当たり前に経験しているのかもしれないけどね
ホントに「音楽」の存在が人生において重要だったことがないから、この年になるまでまったく経験してこなかったわ
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音楽との関わりが薄すぎて語彙力に欠けるのですが、アイナ・ジ・エンドの歌声はなんとなく「楽器が鳴っている」みたいな感じがしました。ギターもピアノも他の楽器も大体、複数の音が同時に出て、その重なりや響きによってより深い表現が出来ていると思うのですが、アイナ・ジ・エンドの歌声もそんな感じがします。普通の人の声は「単音」でしかないけれど、アイナ・ジ・エンドの歌声は「複音」に聴こえるみたいなことです。普通の人間の場合、なかなかそんなふうにはならないだろうし、これがアイナ・ジ・エンドの歌声の凄さの一端なのではないかという気がしました。
映画『キリエのうた』は、全体的にとても素敵な作品だったわけですが、やはり圧倒的にアイナ・ジ・エンドの歌声に打ちのめされた感じがします。「同じ映画を何度も観るリピーター」の存在は、「推し活」の一環としてよく聞きますが、本作の場合、「アイナ・ジ・エンド(キリエ)の歌声を聴きたい」という人が何度も繰り返し観に行くかもしれないと思いました。そんな風に感じるぐらい、私にはちょっと衝撃的な歌声だったというわけです。
歌声だけじゃなくて、アイナ・ジ・エンドは演技もちゃんと良かったよね
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映画『キリエのうた』の内容紹介
さて、まずはざっくりと内容の紹介をしておきましょう。本作は、東京・大阪・北海道・宮城など様々な土地を行ったり来たりする構成になっています。物語のメインは「キリエが東京で音楽活動をするパート」なのですが、その合間合間に、キリエが辿ってきた人生や、その過程で関わりを持った人たちの話が挿入されるというわけです。映画を観ながら、「なるほど、それがそう繋がるのか」と感じることも多いと思うので、この記事では東京以外、どこで展開される話なのかに触れないでおこうと思います。
青い髪をしたイッコは、友人たちと飲んだ帰り道、路上でギターを抱えて座っている少女を見かけた。立てかけられた小さな看板には「Kyrie」の文字。イッコはそのまま友人たちと別れ、キリエと名乗るその少女に「何か歌って」とリクエストする。そうしてキリエは、目の前にいるイッコのためだけにその凄まじい歌声を響かせた。
イッコはキリエを食事に誘い、そのまま家へと連れて帰る。そして、「私がマネージャーをやる」と宣言した。キリエは基本的にほとんど声が出せないようで、唯一歌声だけは響かせられるのだという。そこでイッコはキリエと共に行動し、路上ライブに必要なものを揃えたり、ライブの様子をSNSにアップしたりするようになっていく。
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高校生のマオリは、突然勉強をしなければならなくなる。スナック勤めのシングルマザーである母親からは元々、学費的に大学進学は諦めてくれと言われており、彼女は高校を卒業したらアルバイトするつもりでいた。しかしある日、状況が大きく変わる。店のお客さんから、「マオリちゃんの学費を出してあげるよ」と言われたというのだ。しかし、大学などまったく行くつもりのなかったマオリにとっては、学力が大いに問題だった。
そこでマオリの元に派遣されたのがナツヒコである。学費を出すと言った人物に頼まれて、マオリに勉強を教える家庭教師としてやってきたのだ。こんな風にしてナツヒコと勉強するようになったマオリはある日、「ルカっていう後輩のことを知っているか?」と聞かれ……。
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それぞれのパートの繋がりが分からないように内容を紹介したので、映画を観ていない方には、個々の物語がどう関わっていくのか想像できないでしょう。フィクションなのでもちろん、都合の良い設定や展開もあったりするわけですが、それでも、リアリティを感じさせるギリギリのラインの絶妙な設定の中で、普通なら出会うはずのない人たちによる関わりが映し出されます。そして、それぞれが様々な葛藤や悲しみや苦しみを抱え込みながら、それでもどうにか無理矢理にでも前進していく、そんな姿が描かれる物語というわけです。
上映時間約3時間の映画だからかなり長いけど、キリエの過去をちゃんと描こうとしたらそれぐらいになるよな、って感じの物語
かなりハードな人生を送ってきたわけだし、その上でさらに、歌手としてのステップアップを描く現在パートもあるからね
時系列も舞台もかなりあっちこっちに飛ぶので、人によっては「苦手」と感じられる物語かもしれません。ただ、薄皮をめくるようにして少しずつキリエの過去が明らかになることで、キリエが背負っているものの重みや、キリエと関わった者たちの想いなどがジワジワと浮かび上がってくる構成はとても良かったと思います。
キリエやその周囲の人たちは、かなり辛い人生を歩んできたわけですが、それら1つ1つは「仕方ない」と感じるものばかりでしょう。少なくとも本作においては、悪意をもって他人を貶めようとする人物は出てこなかったと思います。物語に関わる誰もがその人なりの人生を精一杯生きていて、しかしそれでもどうにもならないことが起こり、積み重なり、それらが結果として、主にキリエという少女に降り掛かることになるというわけです。そういう「仕方なさ」みたいなものが強く浮かび上がる作品で、なんとも言えない感覚に陥りました。
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また本作では、東日本大震災も扱われます。まさにこれも、「仕方ないこと」だと言えるでしょう。そして、これは私の曲解かもしれませんが、東日本大震災を含め、本作で描かれる描写の多くが、「『仕方ないこと』はどうしようもなく起こるんだ」というメッセージを含んでいるのではないかと感じました。作中で描かれる出来事の中で、「努力すればどうにかなった」と感じるものはほとんどなかったように思います。努力したかどうかに関係なく、どうしようもなく酷いことは起こってしまうものです。そして、「そういうものには抗えないし、それでも生きていくしかない」というのが、作品全体に通底するメッセージだと私には感じられました。
この文章を書いている今はまさに、北陸で大きな地震が起こったばかりの時期だったりします
災害大国と言われる以上仕方ないとは言え、本当に嫌なことが定期的に起こるよね
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そしてそのような物語だからこそ、キリエが歌の力だけで「しんどい世界」をどうにか生き抜こうとする姿に、シンプルに打たれるのだと思います。観客からすれば「キリエ=アイナ・ジ・エンド」であり、そしてやはり、アイナ・ジ・エンドの歌声は「天性のもの」としか捉えられないでしょう。しかし、キリエに関してはちゃんと「努力」も描かれます(一応書いておきますが、アイナ・ジ・エンドが努力していないなどと言いたいわけではありません)。子どもの頃に出会った路上ライブのおじさん、ギターを教えてくれた人、あるプレゼントをくれた人。こういう出会いによってキリエは歌へと導かれていき、そしてその中で努力もし続けるわけです。作中で描かれる要素のどれか1つでも欠けていたら、「東京の路上で弾き語りをするキリエ」が誕生することはなかったでしょう。そしてさらに、東京での奮闘も描かれるからこそ、「『仕方ないこと』ばかりだった人生を、どうにかして『努力』で切り拓いていく」みたいな見え方になるわけです。
そのような描かれ方も、とても印象的でした。
児童相談所の対応はどうしても許容できない
私は先程、「『仕方ないこと』はどうしようもなく起こるんだ」と書きましたが、1点だけ、「これを『仕方ない』で片付けたくはない」と感じる場面がありました。作中においてはメインとなる描写ではないのですが、私にはとにかく、児童相談所の対応が酷いと感じられたのです。
もちろん、「児童相談所の職員が悪い」なんて言いたいわけではないんだけど
ある意味ではこれも「仕方ない」と言えばその通りなんだけど、でもねぇ、って感じだよね
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どういう状況で児童相談所が関わるのかについては詳しく触れませんが、彼らの対応は恐らく「法律に則ったもの」なのだろうし、そうであれば、職員の対応については「正しいことをした」と受け取るべきなのだと思います。私も、本作中で描かれる「児童相談所が介入し、その結果として引き起こされた状況」については「仕方なかった」という意見です。正直、あまり甘受したくない状況ではあるのですが、法治国家に生きている以上、「法律を遵守した結果」は受け入れるしかないと考えています。
ただ私はどうしても、「『法律に沿って対応してさえいれば自分は正しい』という考えだけで動く人」のことが好きになれません。最終的には、「法に則った対応をしなければならない」のだとしても、そこには「人間的な葛藤」があって然るべきだと感じてしまうのです。
もちろん、作中では描かれていないだけで、児童相談所の職員も見えないところで葛藤しているのかもしれないけどね
だったら良いんだけど、そんな風に微塵も感じない人も世の中にはいるだろうから、怖いなって思っちゃう
「法律」は「社会が物事を決するためのルール」なので、我々国民はそれを受け入れざるを得ないのですが、一方で、「現実」にはありとあらゆる可能性が存在し得るわけで、「法律」がそのすべてを適切にカバー出来ているはずもありません。つまり、「法律」と「現実」は時に残酷なほど乖離するというわけです。例えば、虐待されている子どもを助けたいと考える「血縁は無いが親身になってくれる人物」がいるとしても、法律的には結局、「酷いが血縁のある人物」の方が強いことになります。虐待するような親でも、親は親というわけです。
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ルールの制定には様々な事情があるのだろうし、すべてを完璧に調整するのは不可能でしょう。もちろん、最終的にはルールに則った対応を取るべきだとも考えています。しかしその一方で、「法律」だけではなく「現実」もちゃんと見た上で、「法を執行すること”だけ”が果たして正義なのだろうか?」と葛藤すべきではないのかと私は思いたいのです。そういう「葛藤」が積み重なることで、もしかしたら「法律」が変わる可能性だってあるでしょう。しかし、法を執行する者がそういう葛藤を抱きもしなければ、現状がそのまま継続されるだけです。
もちろん、児童相談所だって仕事が山積みだろうし、1つ1つにそこまで時間を掛けられないことも理解してるつもりなんだけど
でもやっぱり、「あなたたちが最後の砦なんだよ!」って言いたくもなっちゃうよね
これが、本作『キリエのうた』の中で、私が「仕方ない」で流したくないと感じた、ほぼ唯一と言っていいシーンです。いや、児童相談所の方はホントに大変な仕事をしているんだろうなぁとは思っているんですけど。
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役者の演技が素晴らしかった
既に触れた通り、アイナ・ジ・エンドは初めてとは思えないくらい演技が上手かったのですが、他の役者もやはり見事でした。特に私は、松村北斗が素晴らしかったなと思います。以前から松村北斗には注目していて、凄いなと思っていたのですが、映画『キリエのうた』でも改めて彼の演技の上手さに感心させられました。
上手く説明できないのですが、松村北斗にはどことなく「普通に喋ってる」みたいな印象があります。上手い役者は皆そういうものなのかもしれませんが、「演技をしている」みたいな感じが全然ないのです。松村北斗を見ていると、「長期密着を続けたことで被写体がカメラの存在を気にしなくなり、『自然体』に近い雰囲気で喋っているように感じられるドキュメンタリー」を観ているような感覚になります。彼のようなフラットさを出せる若手の俳優をあまりパッとは思いつかないので、私にとってかなり印象的な存在です。
松村北斗の存在を初めてきちんと認識したのはたぶん、声優を務めた映画『すずめの戸締まり』だったと思う
声優初挑戦のはずだけど、メチャクチャ上手くてビックリしたよね
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また、広瀬すずが演じる役は本作においては非常に「曲者」であり、私がなんとなく抱いている「広瀬すず像」とは大分異なる役柄でしたが、メチャクチャハマっていたと思います。広瀬すずは大抵「物語の主軸」として配されることが多いように思いますが、映画『キリエのうた』においては「『曲者』として物語をかき乱す」という役回りであり、なんとなくですが、彼女にとって新境地だったんじゃないかという気がしました。
特に、物語全体を時系列で捉えた場合の「前半」と「後半」で、彼女が演じたキャラクターが全然違うのもとても良かったなと思います。その変化の理由についてはっきり描かれるわけではありませんが、ただ「それぐらいの激変を強いられるほど大変な状況にあった」ということは伝わってきました。そしてそう感じさせることが、ラストのある展開に納得感を与えてもいると言えるでしょう。かなりの難役だったと思いますが、さすが広瀬すずという感じでした。
広瀬すずが演じた役ってたぶん、「主役も張れる」みたいな存在感がある役者じゃないとなかなか務まらない気がする
そういう意味でも、広瀬すずはピッタリって感じするよね
あと、自分ではまったく気づかなかったのですが、俳優ではない人がかなり出演しているのだとエンドロールを観て知りました。「大塚愛」や「石井竜也」は、どの役だったのか全然分からなかったので鑑賞後に調べましたが、「なるほどこの役でしたか」と思ったり。個人的に一番不思議だったのは「樋口真嗣」です。どうして役者で出演してるんだろう?
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著:岩井 俊二
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3時間という、映画としては長い部類に入る作品ですが、私はまったく飽きずに観られました。やはりそれは、アイナ・ジ・エンドの存在によるところが大きいと思います。歌声の凄さももちろんなのですが、彼女にはどことなく、「場にいるだけで空気を変えられる強い存在感」があるような気がするのです。だから、ほとんど喋らない役柄にも拘らず、その佇まいだけで場を支配しているみたいな見え方になったのだと思います。
本当に、とても素敵な作品でした。
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【あらすじ】映画『アンダーカレント』(今泉力哉)は、失踪をテーマに「分かり合えなさ」を描く
映画『アンダーカレント』において私は、恐らく多くの人が「受け入れがたい」と感じるだろう人物に共感させられてしまった。また本作は、「他者を理解すること」についての葛藤が深掘りされる作品でもある。そのため、私が普段から抱いている「『他者のホントウ』を知りたい」という感覚も強く刺激された
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【絶望】杉咲花主演映画『市子』の衝撃。毎日がしんどい「どん底の人生」を生き延びるための壮絶な決断…
映画『市子』はまず何よりも主演を務めた杉咲花に圧倒させられる作品だ。そしてその上で、主人公・川辺市子を巡る物語にあれこれと考えさせられてしまった。「川辺市子」は決してフィクショナルな存在ではなく、現実に存在し得る。本作は、そのような存在をリアルに想像するきっかけにもなるだろう
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【嫌悪】映画『ドライビング・バニー』が描く、人生やり直したい主人公(母親)のウザさと絶望
映画『ドライビング・バニー』は、主人公であるバニーのことが最後まで嫌いだったにも拘わらず、全体的にはとても素敵に感じられた珍しいタイプの作品だ。私は、「バニーのような人間が世の中に存在する」という事実に嫌悪感を抱いてしまうのだが、それでも、狂気的でぶっ飛んだラストシーンによって、作品全体の印象が大きく変わったと言える
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【絶望】人生どん底から生き方を変える。映画『シスター 夏のわかれ道』が描く中国人女性の葛藤と諦念
両親の死をきっかけに、「見知らぬ弟」を引き取らなければならなくなった女性を描く映画『シスター 夏のわかれ道』は、中国の特異な状況を背景にしつつ、誰もが抱き得る普遍的な葛藤が切り取られていく。現状を打破するために北京の大学院を目指す主人公は、一体どんな決断を下すのか。
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【闘争】映画『あのこと』が描く、中絶が禁止だった時代と、望まぬ妊娠における圧倒的な「男の不在」
中絶が禁止されていた1960年代のフランスを舞台にした映画『あのこと』は、「望まぬ妊娠」をしてしまった秀才の大学生が、「未来を諦めない」ために中絶を目指す姿が描かれる。さらに、誰にも言えずに孤独に奮闘する彼女の姿が「男の不在」を強調する物語でもあり、まさに男が観るべき作品だ
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【助けて】映画『生きててごめんなさい』は、「共依存カップル」視点で生きづらい世の中を抉る物語(主…
映画『生きててごめんなさい』は、「ちょっと歪な共依存関係」を描きながら、ある種現代的な「生きづらさ」を抉り出す作品。出版社の編集部で働きながら小説の新人賞を目指す園田修一は何故、バイトを9度もクビになり、一日中ベッドの上で何もせずに過ごす同棲相手・清川莉奈を”必要とする”のか?
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【驚愕】本屋大賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)は凄まじい。戦場は人間を”怪物”にする
デビュー作で本屋大賞を受賞した『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)は、デビュー作であることを抜きにしても凄まじすぎる、規格外の小説だった。ソ連に実在した「女性狙撃兵」の視点から「独ソ戦」を描く物語は、生死の境でギリギリの葛藤や決断に直面する女性たちのとんでもない生き様を活写する
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【天才】映画音楽の発明家『モリコーネ』の生涯。「映画が恋した音楽家」はいかに名曲を生んだか
「映画音楽のフォーマットを生み出した」とも評される天才作曲家エンリオ・モリコーネを扱った映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』では、生涯で500曲以上も生み出し、「映画音楽」というジャンルを比べ物にならないほどの高みにまで押し上げた人物の知られざる生涯が描かれる
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【共感】斎藤工主演映画『零落』(浅野いにお原作)が、「創作の評価」を抉る。あと、趣里が良い!
かつてヒット作を生み出しながらも、今では「オワコン」みたいな扱いをされている漫画家を中心に描く映画『零落』は、「バズったものは正義」という世の中に斬り込んでいく。私自身は創作者ではないが、「売れる」「売れない」に支配されてしまう主人公の葛藤はよく理解できるつもりだ
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【伝説】映画『ミスター・ムーンライト』が描くビートルズ武道館公演までの軌跡と日本音楽への影響
ザ・ビートルズの武道館公演が行われるまでの軌跡を描き出したドキュメンタリー映画『ミスター・ムーンライト』は、その登場の衝撃について語る多数の著名人が登場する豪華な作品だ。ザ・ビートルズがまったく知られていなかった頃から、伝説の武道館公演に至るまでの驚くべきエピソードが詰まった1作
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【希望】誰も傷つけたくない。でも辛い。逃げたい。絶望しかない。それでも生きていく勇気がほしい時に…
2006年発売、2021年文庫化の『私を見て、ぎゅっと愛して』は、ブログ本のクオリティとは思えない凄まじい言語化力で、1人の女性の内面の葛藤を抉り、読者をグサグサと突き刺す。信じがたい展開が連続する苦しい状況の中で、著者は大事なものを見失わず手放さずに、勇敢に前へ進んでいく
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【理解】「多様性を受け入れる」とか言ってるヤツ、映画『炎上する君』でも観て「何も見てない」って知…
西加奈子の同名小説を原作とした映画『炎上する君』(ふくだももこ監督)は、「多様性」という言葉を安易に使いがちな世の中を挑発するような作品だ。「見えない存在」を「過剰に装飾」しなければならない現実と、マジョリティが無意識的にマイノリティを「削る」リアルを描き出していく
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【感想】是枝裕和監督映画『怪物』(坂元裕二脚本)が抉る、「『何もしないこと』が生む加害性」
坂元裕二脚本、是枝裕和監督の映画『怪物』は、3つの視点を通して描かれる「日常の何気ない光景」に、思いがけない「加害性」が潜んでいることを炙り出す物語だ。これは間違いなく、私たち自身に関わる話であり、むしろ「自分には関係ない」と考えている人こそが自覚すべき問題だと思う
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【違和感】三浦透子主演映画『そばかす』はアセクシャルの生きづらさを描く。セクシャリティ理解の入り口に
「他者に対して恋愛感情・性的欲求を抱かないセクシャリティ」である「アセクシャル」をテーマにした映画『そばかす』は、「マイノリティのリアル」をかなり解像度高く映し出す作品だと思う。また、主人公・蘇畑佳純に共感できてしまう私には、「普通の人の怖さ」が描かれている映画にも感じられた
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【衝撃】これが実話とは。映画『ウーマン・トーキング』が描く、性被害を受けた女性たちの凄まじい決断
映画『ウーマン・トーキング』の驚くべき点は、実話を基にしているという点だ。しかもその事件が起こったのは2000年代に入ってから。とある宗教コミュニティ内で起こった連続レイプ事件を機に村の女性たちがある決断を下す物語であり、そこに至るまでの「ある種異様な話し合い」が丁寧に描かれていく
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【高卒】就職できる気がしない。韓国のブラック企業の実態をペ・ドゥナ主演『あしたの少女』が抉る
韓国で実際に起こった「事件」を基に作られた映画『あしたの少女』は、公開後に世論が動き、法律の改正案が国会を通過するほどの影響力を及ぼした。学校から実習先をあてがわれた1人の女子高生の運命を軸に描かれる凄まじい現実を、ペ・ドゥナ演じる女刑事が調べ尽くす
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子どもの頃から兄弟のように育った幼馴染のレオとレミの関係の変化を丁寧に描き出す映画『CLOSE/クロース』は、「自分自身で『美しい世界』を毀損しているのかもしれない」という話でもある。”些細な”言動によって、確かに存在したあまりに「美しい世界」があっさりと壊されてしまう悲哀が描かれる
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とある映画会社で働く女性の「とある1日」を描く映画『アシスタント』は、「働くことの理不尽さ」が前面に描かれる作品だ。「雑用」に甘んじるしかない彼女の葛藤がリアルに描かれている。しかしそれだけではない。映画の「背景」にあるのは、あまりに悪逆な行為と、大勢による「見て見ぬふり」である
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宮崎駿最新作であるジブリ映画『君たちはどう生きるか』は、宮崎アニメらしいファンタジックな要素を全開に詰め込みつつ、「生と死」「創造」についても考えさせる作品だ。さらに、「自分の頭の中から生み出されたものこそ『正解』」という、創造物と向き合う際の姿勢についても問うているように思う
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映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、私にグサグサ突き刺さるとても素晴らしい映画だった。「ぬいぐるみに話しかける」という活動内容の大学サークルを舞台にした物語であり、「マイノリティ的マインド」を持つ人たちの辛さや葛藤を、「マジョリティ視点」を絶妙に織り交ぜて描き出す傑作について考察する
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新海誠監督の『すずめの戸締まり』は、古代神話的な設定を現代のラブコメに組み込みながら、あまりに辛い現実を生きる人々に微かな「逃げ道」を指し示してくれる作品だと思う。テーマ自体は重いが、恋愛やコメディ要素とのバランスがとても良く、ロードムービー的な展開もとても魅力的
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今泉力哉監督、有村架純主演の映画『ちひろさん』は、その圧倒的な「寂しさの共有」がとても心地よい作品です。色んな「寂しさ」を抱えた様々な人と関わる、「元風俗嬢」であることを公言し海辺の町の弁当屋で働く「ちひろさん」からは、同じような「寂しさ」を抱える人を惹き付ける力強さが感じられるでしょう
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実在したエロ雑誌編集部を舞台に、タブーも忖度もなく業界の内実を描き切る映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』は、「エロ雑誌」をテーマにしながら、「もの作りに懸ける想い」や「仕事への向き合い方」などがリアルに描かれる素敵な映画だった。とにかく、主役を演じた杏花が良い
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2022年に劇場公開されるや、そのあまりの面白さから爆発的人気を博し、現在に至るまでロングラン上映が続いている『RRR』と、同監督作の『バーフバリ』は、大げさではなく「全人類にオススメ」と言える超絶的な傑作だ。まだ観ていない人がいるなら、是非観てほしい!
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【感想】実業之日本社『少女の友』をモデルに伊吹有喜『彼方の友へ』が描く、出版に懸ける戦時下の人々
実業之日本社の伝説の少女雑誌「少女の友」をモデルに、戦時下で出版に懸ける人々を描く『彼方の友へ』(伊吹有喜)。「戦争そのもの」を描くのではなく、「『日常』を喪失させるもの」として「戦争」を描く小説であり、どうしても遠い存在に感じてしまう「戦争」の捉え方が変わる1冊
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戸田真琴のエッセイ第2弾『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』は、デビュー作以上に「誰かのために言葉を紡ぐ」という決意が溢れた1冊だ。AV女優という自身のあり方を客観的に踏まえた上で、「届くべき言葉がきちんと届く」ために、彼女は身を削ってでも生きる
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「実は私は、恋愛的な関係を求めているわけじゃないかもしれない」と気づいた著者ムラタエリコが、自身の日常や専門学校でも学んだ写真との関わりを基に、「自分に相応しい関係性」や「社会の暴力性」について思考するエッセイ。久々に心にズバズバ刺さった、私にはとても刺激的な1冊だった。
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「キラキラした青春学園モノ」かと思っていた映画『君が世界のはじまり』は、「そこはかとない鬱屈」に覆われた、とても私好みの映画だった。自分の決断だけではどうにもならない「現実」を前に、様々な葛藤渦巻く若者たちの「諦念」を丁寧に描き出す素晴らしい物語
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映画館で観た予告が気になって、それ以外の情報を知らずに観に行った映画『WANDA』なんと70年代の映画だと知って驚かされた。まったく「古さ」を感じなかったからだ。主演だけでなく、監督・脚本も務めたバーバラ・ローデンが遺した、死後評価が高まった歴史的一作
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【欠落】映画『オードリー・ヘプバーン』が映し出す大スターの生き方。晩年に至るまで生涯抱いた悲しみ…
映画『オードリー・ヘプバーン』は、世界的大スターの知られざる素顔を切り取るドキュメンタリーだ。戦争による壮絶な飢え、父親の失踪、消えぬ孤独感、偶然がもたらした映画『ローマの休日』のオーディション、ユニセフでの活動など、様々な証言を元に稀代の天才を描き出す
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【純愛】映画『ぼくのエリ』の衝撃。「生き延びるために必要なもの」を貪欲に求める狂気と悲哀、そして恋
名作と名高い映画『ぼくのエリ』は、「生き延びるために必要なもの」が「他者を滅ぼしてしまうこと」であるという絶望を抱えながら、それでも生きることを選ぶ者たちの葛藤が描かれる。「純愛」と呼んでいいのか悩んでしまう2人の関係性と、予想もつかない展開に、感動させられる
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観るつもりなし、期待値ゼロ、事前情報ほぼ皆無の状態で観た映画『犬王』(湯浅政明監督)はあまりにも凄まじく、私はこんなとんでもない傑作を見逃すところだったのかと驚愕させられた。原作の古川日出男が紡ぐ狂気の世界観に、リアルな「ライブ感」が加わった、素晴らしすぎる「音楽映画」
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【あらすじ】映画化の小説『僕は、線を描く』。才能・センスではない「芸術の本質」に砥上裕將が迫る
「水墨画」という、多くの人にとって馴染みが無いだろう芸術を題材に据えた小説『線は、僕を描く』は、青春の葛藤と創作の苦悩を描き出す作品だ。「未経験のど素人である主人公が、巨匠の孫娘と勝負する」という、普通ならあり得ない展開をリアルに感じさせる設定が見事
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のん(能年玲奈)脚本・監督・主演の映画『Ribbon』。とても好きな作品だった。単に女優・のんが素晴らしいというだけではなく、コロナ禍によって炙り出された「生きていくのに必要なもの」の違いに焦点を当て、「魂を生き延びさせる行為」が制約される現実を切り取る感じが見事
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