目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 私はそもそも、「キャスティング」は監督の役割だと勘違いしていたし、「キャスティング・ディレクター」の重要性を本作を観るまでまったく知らずにいた
- マリオン・ドハティは、監督・役者の誰もが驚愕する凄まじい配役をし続けたにも拘わらず、長らく評価されなかった
- テレビの世界からキャリアをスタートさせたマリオンが関わってきた、スター俳優たちの初配役のエピソード
マリオン・ドハティのことはまるで知らなかったが、想像以上に凄まじい創造性を発揮した、まさに伝説と評すべき人物だと理解できた
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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とても面白い映画である。まさか、「配役」という仕事によってハリウッドを一変させた女性がいたなんて、私はまったく知らなかった。
恐らくだが、「キャスティング・ディレクター」という職種のことを私は、本作によって初めて知ったと思う。私はそれぐらい、映画に詳しくない。「キャスティング・ディレクター」とはその名の通り、「配役を考え、差配する人」だ。そして本作で描かれるのは、「キャスティングの仕事を一変させた」と評価されているマリオン・ドハティという女性である。正直私は、「キャスティング・ディレクター」がそこまで重要な仕事だとは認識出来ておらず、彼女の来歴や成果を知り、認識を大いに改めさせられた。
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さて、本作の内容に触れる前にまず、「配役」「キャスティング」という仕事に対して私がどんな印象を抱いていたのかについて書いておくことにしよう。
映画制作は基本的に分業制だ。脚本・音楽・美術・衣装・VFXなどの様々な専門家が関わり、1つの作品としてまとめ上げられる。そして、その全体を指揮・統括するのが監督というわけだ。映画制作について詳しいわけではないが、この認識で間違っていないだろうと思う。
さてその上で私は、「映画制作において、『配役』は非常に重要だ」と考えている。もちろん、他のどんな要素も必要不可欠なわけだが、脚本や美術や音楽が揃っていたところで、役者がいなければ映画は撮れない。なので私は、「映画制作において最も重要な要素」だと考えているのだ。脚本も同程度に重要なのだろうが、脚本の場合は、「映画を撮る」と決まった時点であらかた手配が済んでいるものではないだろうか。監督自身が脚本を書くこともあるだろうし、プロデューサーが誰かに頼んだりもするだろうが、「脚本があるから映画制作が始まる」と言えるように思うので、実際の制作においてはやはり、「配役」が最も重要になるのではないかと私は考えている。
そしてだからこそ私は、「配役は監督の仕事だ」とずっと思い込んでいたのである。出演する役者全員を監督が差配するのは恐らく難しいだろう。しかし、作中の重要な役柄については、役者への依頼等の実務は別の人がやるにしても、「どの役者に頼むのか決める」のは「監督の仕事」だと考えていたのだ。
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しかし本作『キャスティング・ディレクター』を観て、そうではないことを知った。そのことを最も印象的に語っていたのが、映画監督のウディ・アレンだ。彼は作中ではっきりと、「キャスティングは嫌い」と明言していたのである。彼曰く、「そもそも人見知りだし、スター俳優がオーディションに来ると緊張しちゃうし、同じくらい有能な役者から1人だけを選ぶのも気が引ける」のだそうだ。もちろん、すべての映画監督がウディ・アレンのようなタイプではないと思うが、「配役を決めるのは得意じゃない」と考えている映画監督は実際には多いのだという。
正直なところ、私にはそもそもこの点がとても意外だった。そしてだからこそ、「キャスティング・ディレクター」という職種の重要性を改めて認識出来たというわけだ。
キャスティング・ディレクターであるマリオン・ドハティへの高い評価と、過小評価され続けた歴史
本作『キャスティング・ディレクター』には、映画にまったく詳しくない私でも名前を知っているような有名な人たちが多数登場し、彼らが口々にマリオンの仕事を称賛する。一部ではあるが抜き出してみよう。
マリオン・ドハティはキャスティングを革新した。
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マリオンのキャスティングは芸術だ。
手掛けた映画の量と質に圧倒される。どれも、アメリカ文化を語る上で外せない映画ばかりだ。
映画制作のパートナーだと思う。
中でも印象的なことを言っていたのが、映画監督のマーティン・スコセッシである。彼は本作の冒頭で、マリオンの仕事を次のような言い方で大絶賛していたのだ。
映画の9割以上はキャスティングで決まる。
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このように、「キャスティング・ディレクター」という仕事は現在、その重要性が高く評価されている。しかしかつてはそうではなかった。マリオンを始めとするキャスティング・ディレクターは、その存在がずっと過小評価され続けてきたのだ。
その最も印象的なエピソードとして、映画『真夜中のカーボーイ』におけるキャスティングの話が作中で紹介されている。
キャスティングを担当したマリオンは、主演にジョン・ヴォイトを推した。彼は当時まだ無名で、しかも、かつてマリオンのお陰でテレビの仕事をもらえたにも拘らず、酷い芝居をし結果を出せなかったことがある。それでもジョンはマリオンに直談判し、マリオンも「過去は過去よ」とかつての失敗を水に流してジョンを推すことに決めたのだ。本作にはジョン・ヴォイトも出演しており、当時のマリオンの決断について、
マリオンの度胸は凄い。
と話していた。本人がそう感じてしまうほどに、当時のジョン・ヴォイトには実績も、分かりやすくアピール出来る部分もなかったのだろう。
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さて、マリオンはジョンを推したのだが、結局、オーディションで制作側が高評価をつけていた別の俳優に主演が決まった。しかしその俳優が、2週間後のリハーサルを拒否したのである。このため主演を再考する必要に迫られた。マリオンはもちろんジョンを推す。そして、このような経緯で映画『真夜中のカーボーイ』の主演はジョン・ヴォイトに決まり、その後この作品は、アカデミー賞作品賞他、様々な賞を受賞するに至ったというわけだ。
しかしそんな作品に他の反対を押しのけてジョン・ヴォイトを推したマリオンは、単独ではクレジットされず、他のアシスタントと同列の表記になると決まってしまう。彼女はこの時点で既に、映画業界に欠かせない存在として認識されていたし、彼女自身も、自分は単独でクレジットされて当然だと考えていたので、監督にそのように申し出た。しかし監督は、「それは無理だ」と答えたという。そのような扱いは許容できないと考えたマリオンは、「だったら私の名前は外してほしい」と伝えたところ、なんと監督は本当に彼女の名前をクレジットしなかったそうなのだ。マリオンはこの件について、
私のキャリアにおいて最悪の出来事。
と語っていた。
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本作には映画『真夜中のカーボーイ』の監督も出演している。そして当時のことについて、次のように言っていた。
今考えれば、彼女を単独でクレジットすべきだった。45年間、そのことを後悔している。
いずれにせよ、この時点ではまだ、「クレジットから外しても問題ない程度の存在」ぐらいに扱われていたというわけだ。
その存在が認められ、絶対的な存在になって以降も、不遇は続く
マリオンは1949年にテレビ業界でキャスティングの仕事を始め、その後映画界でも活躍、誰もが知る絶対的な存在となった。しかしそれでも、映画のクレジットに彼女の名前が単独で載ったのは、映画『真夜中のカーボーイ』の3年後、1972年に公開された映画『スローターハウス5』でのことだったという。それほどまでに「キャスティング・ディレクター」という職は、テレビ・映画の世界で軽視されていたというわけだ。
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さて、クレジットの話に関しては、テレビ時代のエピソードもなかなかインパクトがある。マリオンはキャスティングを始めてから8年以上、500話を超えるドラマのキャスティングを手掛けてきたにも拘わらず、一度もクレジットされなかった。しかし、1960年に始まった伝説の刑事ドラマ『裸の町』で、初めてマリオンの名前がクレジットされたという。
しかしその2週間後、ある問題が持ち上がる。全米監督協会からクレームが入ったのだ。もちろんそれは、「マリオンが『キャスティング・ディレクター』としてクレジットされたこと」に対するクレームである。しかし、一体なんの問題があるというのか。協会は、「ディレクター(監督)という表記はおかしい」と指摘してきたのである。
本作には、全米監督協会の会長だと思しき人物も登場し、次のような自説を述べていた。
映画制作において、「監督」は1人である。「撮影監督」という表記も存在するが、実質は「撮影技師」であり、こちらについても「監督」という表記は許容し難い。「監督」というのは、現場スタッフをまとめ上げる重要な役どころだ。だから「監督」と表記したいのであれば、全スタッフをまとめるべきである。
このような問題が持ち上がったからだろう、映画のクレジットでは「Casting by」という表現が使われるようになったというわけだ。個人的には、「なんともせせこましい話だ」と感じられてしまった。
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全米監督協会は、また別の点でもキャスティング・ディレクターの妨害をしている。アカデミー賞には、脚本賞・編集賞など様々な部門が存在するわけだが、「キャスティング賞」は無い。テレビ番組を評価するエミー賞には設けられているが、アカデミー賞には存在しないのだ。そしてその理由が、「全米監督協会が反対している」からだというのである。
先に紹介した全米監督協会の会長が、この点についても自説を述べていた。曰く、「配役は最終的に監督が決めているのだから、キャスティングに賞を与えるのはおかしい」のだそうだ。しかし本作中では、様々な人物がこの主張に反論している。「美術・衣装・編集だって、各責任者が案を出して最終的に監督が決定しているのだから、キャスティングだって同じじゃないか」というのだ。私もその通りだと感じる。しかしアカデミー賞の主催団体は、「監督との役割を明確には線引きできない」として、キャスティング賞の創設を見送っているという。
それならばと、マリオンにアカデミー賞の特別賞を与えようという動きが1991年に生まれた。多くの監督や俳優が、マリオンの表彰を支持する手紙を書いたのだが、結局受賞は見送られたそうだ。私の勝手な予想では、彼女が評価されない理由には「マリオンが女性だから」という側面もあるのではないかと思う。マリオンは2011年に亡くなったが、もし現在まで存命であれば、アカデミー賞の動向もまた少しは変わっていたかもしれない。
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「女性だから」という捉え方を補強するような描写もある。マリオンは自ら事務所を立ち上げ、そこで女性だけを雇い、自身のキャスティングの能力を惜しみなく継承してきた。本作には、その薫陶を受けた女性たちも多数登場する。そしてその内の1人が、次のように語っていたのだ。
未だに私たちは秘書と同じように思われている。
ただこの発言に関しては、その背景を正しく認識する必要があるだろう。確かにキャスティングの世界では、マリオンの登場によって革命が起こり、その重要性が高く認識されるようになった。しかし現在、その仕事は再び過小評価されているのだという。先の発言はつまり、そのような時代の変化を受けてのものでもあるというわけだ。
その辺りの背景については次で詳しく触れることにしよう。
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キャスティングが再び過小評価されてしまった経緯には、「映画産業の巨大化」が関係しているのだが、その説明の前にまず、マリオンのキャスティングが何故「芸術」と評されていたのかについて触れておくことにしよう。
彼女の凄さは、「演技力のある役者の適正や素質を的確に見抜けること」「脚本の意図を正確に理解し、ぴったりの俳優を紹介すること」にある。マリオンはなんと、1つの役に対して2~3人しか紹介しないのが常だったという。そう語っていた弟子の女性の話しぶりからすると、キャスティング・ディレクターによっては、1つの役に10人以上の役者を推すこともあるようだ。マリオンは、脚本しか存在しない段階で、最小限の選択肢によってその役に最適な人物を提案でしまうのだから、驚かされるのも当然だろう。
また、マリオン自身が語っていたのが、映画『スティング』のエピソードである。この時はなんと、1つの役に対して1人ずつしか紹介しなかったというのだ。本作に登場するある人物は、彼女のこの仕事を「驚異的」と評していた。また、映画『スティング』の監督はアカデミー賞の授賞式で、「こんなメンバーが揃っているんだから傑作になるに決まっている」と口にした際、マリオンの名前に触れたという。マリオンはこの時のことについて、
キャスティングに言及してくれて嬉しかった。
と語っていた。
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このように、マリオンが追究し続けた「キャスティング」というのは、「作品の質を高めるための行為」だと言っていいだろう。
しかし、映画が巨大産業になるにつれて、キャスティングの基準が「創造性」から「利益」に変わってしまったのだという。「演技ができるかどうか」ではなく、「見栄えが良いかどうか」で配役が決まるようになったのである。そして同時に、脚本の質も下がっていったこともあり、マリオンに求められることも変わっていったのだそうだ。
ある人物が、マリオンから電話を受けた際のエピソードについて語っていた。映画のタイトルは忘れてしまったが、マリオンはある映画でキャスティングの仕事を依頼されたという。しかしマリオンは、自身のキャリアを振り返りつつ、次のように言って電話口で泣き始めたそうだ。
名作が並ぶ実績に、こんな作品を加えたくない。
恐らく、脚本を読んだだけで「駄作」だと判断できたのだろうし、業界全体の「見栄えさえ良ければいい」という風潮も、駄作の可能性に追い打ちをかけたのだろうと思う。このような変化のせいで、マリオンの「神業」のようなキャスティングが発揮される場は少なくなってしまい、結局、50年以上も続けたキャスティングの仕事を辞めざるを得なくなったのである。
さて、「キャスティング」という観点から捉えた場合、現在の映画界は、マリオンがそのキャリアをスタートさせた時と同じような状態にあると言っていいだろう。マリオンが映画界と関わる以前のハリウッドもまた、「見た目」だけで配役が決まっていたからだ。
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マリオンはいかにしてキャスティング・ディレクターになったのか
では、創成期のハリウッドでは、どのように配役が行われていたのだろうか?
そもそも初期のハリウッドでは、かつて日本もそうだったように、スタジオ毎に役者が専属契約を結んでおり、「配役」というのは「所属俳優のリストから誰かを選ぶ」という作業でしかなかった。そして当時、「配役」において重視されていたことは、「見た目から判断可能なタイプ」だけだったそうだ。イケメンにはイケメンの役、美人には美人の役、みたいなことだろうし、あるいは「医者の役が当たれば医者ばかりやらせる」みたいなパターンもあったという。当時を知る人物はハリウッドの役者について、次のようにシンプルに表現していた。
映画スターではあったが、役者ではなかった。
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もしもマリオンが、テレビ界ではなく映画界でそのキャリアをスタートさせていたら、キャスティングに革命を起こすことなど出来なかったかもしれない。
さて、マリオンは大学時代、演劇に興味を抱いたのだが、役者になるのは大変だとも理解しており、とりあえずニューヨークの百貨店でディスプレイの仕事に就くことにした。しかしその2年後の1949年、大学時代の友人がテレビでキャスティングの仕事をすることになり、マリオンはそのアシスタントに誘われたのである。当時のドラマは生放送だった。当時を知る役者は、「毎日が舞台の初日のようなものだった」と語っており、その過酷さが理解できるのではないかと思う。
働き始めてから4ヶ月後、マリオンはキャスティングを任されるようになった。創成期のテレビ局の多くがニューヨークに居を構えていたため、マリオンは良い役者を見つけるために近くの劇場へと足を運んだ。そして、オフ・ブロードウェイやオフオフなどが始まったばかりだったこともあり、マリオンは優れた舞台俳優を次々にテレビの世界へと送り込むようになったのである。
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マリオンは、後に名優となる役者の初配役に多く関わっている。ジェームズ・ディーンもその1人だ。初めて彼をドラマに起用した際、彼が遅刻してしまい、マリオンは監督から「別の役者を寄越せ」と怒鳴られたという。しかしマリオンはジェームズに遅刻しないように言い聞かせ、監督のことも説得した。こうして彼女は、ジェームズ・ディーンをスターにするきっかけを作ったのである。彼女のキャリアにおいては、このような話は枚挙に暇がない。
1960年には、先に紹介したドラマ『裸の町』が始まり、それと同時にドラマ『ルート66』もスタートした。そして彼女は、この2作品の配役を見事にやってのけたのである。本作中で誰かが、この時のマリオンの仕事を次のように絶賛していた。
この2作品の配役をやっていたというだけでも凄い。役者と出演交渉し、予算内で配役を揃えるだけでも相当なものだ。さらに、その役者たちのレベルが驚異的なのだから、マリオンの仕事は凄まじい。
一方で、1950年代に入ってから映画産業が斜陽となり、スタジオが立ち行かなくなり始める。そしてそれに伴って、役者もスタジオとの契約ではなく独立するようになっていった。そのような時代に注目されたのがUAという映画製作会社である。ここは、「予算さえ守れば一切口を出さない」というスタンスを貫いており、だからこそ多くの有能な監督が集まることになった。
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そしてそのような時代を受けて、より一層「キャスティング」が重視されるようになっていくのである。そういうタイミングでマリオンは映画の世界へと飛び込み、その後テレビの世界に戻ることはなかった。
こうしてマリオン・ドハティは、キャスティングを主戦場に一時代を築いたのである。
映画『リーサル・ウェポン』での凄まじいエピソード
マリオンに関する印象的なエピソードは山ほど存在するが、その中でもインパクト抜群だったのが映画『リーサル・ウェポン』についての話である。なにせ、映画『リーサル・ウェポン』の監督が作中で、「マリオンの配役によって人生が変わった」と言っているほどなのだ。
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まず、主演の1人であるメル・ギブソンについて。彼はそれまで3度映画に出演したことがあるものの「鳴かず飛ばず」と言った感じで、まったく注目されていなかったという。本作中にはメル・ギブソン本人も出演しており、当時のことについて、
俳優は辞めて、有機野菜でも作ろうと思っていた。
と語っていたほどの状況だったのだ。
しかしマリオンは、そんなメル・ギブソンに脚本を渡した。そして彼も、「もう一度やってみるか」と考え直してリックス役を引き受け、結果として彼の当たり役になったというわけだ。
しかしより印象的だったのは、リックスとバディを組むマータフの配役についてである。マリオンはこの役に、黒人のダニー・グローヴァーを推した。
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このキャスティングに、監督は驚愕したという。何故なら、脚本で「黒人」などと指定されているわけではなかったからだ。監督が自身の戸惑いをマリオンに伝えると、彼女は「黒人だから何?」と強気の返答をしたという。マリオンは、メル・ギブソンと対比した時に映えるはずだと考え、「黒人」を推したのである。
この時のことについて監督は、
私は偏見から、書かれていないことを見落としていた。
と語り、「この経験によって人生が大きく変わった」とマリオンのことを称賛していた。映画制作のことなどよく知らない素人の私でもその凄まじさが理解できるエピソードだなと思う。
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ある人物が作中で、「キャスティング・ディレクター」の仕事を次のように評していた。
偉大な監督のほとんどが、キャスティング・ディレクターに感謝していると思う。知らない俳優を連れてきてくれて、時には背中を押してくれるんだから。
「キャスティング・ディレクター」の凄さを実感できる機会など、普通なかなかないだろう。しかし私は、本作を通じてマリオンの凄まじい仕事ぶりに触れ、「キャスティングがいかに映画制作を左右するか」について多少は理解できたように思う。そして同時に、「マリオンの『芸術』とまで評されたキャスティングが、現在のハリウッドでは活かされていない」という事実に、とても残念な気持ちにさせられてしまった。
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最後に
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本作は2012年にアメリカで公開された作品である。マリオンが亡くなってすぐということだ。そして、「公開後に、アメリカのアカデミー賞にちょっとした変化があった」と公式HPは伝えている。また2019年には、イギリスのアカデミー賞でキャスティング部門が新設されたそうで、そのことも映画界では話題になっているそうだ。
本作はマリオン・ドハティというキャスティング・ディレクターの来歴を追う作品だが、その歩みはある意味で「ハリウッドの歴史そのもの」とも言えるだろう。また、彼女が担当した作品が名作揃いなこともあり、本作では、誰もが知る有名俳優のデビュー当時の様子が映ったり語られたりもする。そういう点でも非常に価値のある作品と言えるのではないかと思う。
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2016年に閉店した伝説のレコード店に密着するドキュメンタリー映画『アザー・ミュージック』は、「フィジカルメディアの衰退」を象徴的に映し出す。ただ私は、「デジタル的なもの」に駆逐されていく世の中において、「『制約』にこそ価値がある」と考えているのだが、若者の意識も実は「制約」に向き始めているのではないかとも思っている
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日本人初のパリコレトップモデルである山口小夜子と親交があった監督が紡ぐ映画『氷の花火 山口小夜子』は、未だ謎に包まれているその人生の一端を垣間見せてくれる作品だ。彼女を知る様々な人の記憶と、彼女を敬愛する多くの人の想いがより合って、一時代を築いた凄まじい女性の姿が浮かび上がってくる
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