目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:神尾楓珠, 出演:山田杏奈, 出演:前田旺志郎, 出演:三浦獠太, 出演:池田朱那, 出演:渡辺大知, 出演:三浦透子, 出演:磯村勇斗, 出演:山口紗弥加, 出演:今井翼, Writer:草野翔吾, 監督:草野翔吾, クリエイター:「彼女が好きなものは」製作委員会
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この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「ただし摩擦はゼロとする」という単純化された世界に馴染めずにいるすべての人に響く物語
「高い解像度で苦悩を理解してくれる存在」が近くにいるのはとても羨ましいです
この記事の3つの要点
- 「解像度が低い人」にはどうしても苛立ちを感じてしまうし、私は許容できない
- 「解像度が高い」が故に自分を嫌いになってしまう安藤純が抱える「苦しさ」と「長年抱き続けてきた絶望」
- 「問題は問題だよね、私の問題でもあるけど」という形で偏見を乗り越える三浦紗枝の勇敢さ
「よくある学園モノ」っぽく見えるかもしれませんが、まったくそんなことはない、凄まじく感動的な作品でした
自己紹介記事
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私が『彼女が好きなものは』を観ようと考えたのは、山田杏奈が出ていたからだと思います。別に彼女のファンというわけではないのですが、その少し前に映画『ひらいて』を観ており、「山田杏奈の存在が作品を成立させている」と感じたことがありました。その記憶があったからこそ、『彼女が好きなものは』も観てみようと思ったはずです。
とにかく、私としては「普段ならまず観ないだろう映画」という印象でしたし、だからこそ、観る決断をして本当に良かったと思っています。
映画レビューサイトで、「この作品が今年の邦画No.1でした」ってコメントをくれた方がいたなぁ
その人がコメントくれたの、その時が最初で最後だったから、よほど言いたかったんだろうね
「学園モノ」という印象は決して間違っているわけではなく、主人公たちが温泉施設へとダブルデートに行く辺りまでは、よくありがちな「学園モノ」のストーリーという風に進んでいきます。しかしそこから物語は急転、まったく違った雰囲気をまとって展開されていくことになるというわけです。
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それでは物語の中身に触れる前に、この映画では一体何が描かれていて、どんな点に私がグッと来たのかという話をしていきたいと思います。
「ただし摩擦はゼロとする」という欺瞞
この世の中は、「ただし摩擦はゼロとする」に満ちあふれている。
『彼女が好きなものは』(監督:草野翔吾、主演:神尾楓珠、山田杏奈)
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映画の冒頭は、主人公・安藤純のこんな独白から始まります。
「ただし摩擦はゼロとする」は、学生時代の物理の授業でよく出てくるフレーズです。聞き覚えがあるという方もいるでしょう。ざっくり説明すると、「問題を解く際に、『地面との摩擦』を考慮すると複雑になるので、『摩擦はゼロ』として考えること」という意味の注意書きです。学校のテストで出頭するのに相応しいレベルの問題にするために、「摩擦は存在しないものとして考えましょう」というお約束が用意されているというわけです。
私は元々理系だから当然知ってるけど、文系の人も普通に授業で習うようなものだっけ?
こういう一般向けの映画で出てくるぐらいだから、「みんな知ってる」って前提なんだろうけどね
安藤はさらにこんな風に続けます。
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あいつはああだから、と言って世界を簡単にしようとする。
『彼女が好きなものは』(監督:草野翔吾、主演:神尾楓珠、山田杏奈)
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安藤は、まさにこのような「単純化」を、「ただし摩擦はゼロとする」という言葉で表現しているのです。
こういう主張に抵抗したいって感覚はメチャクチャ理解できるよね
自分がそういう風に見られるのも嫌だし、「自分がそういう視線を他者に向けてたりしないか」って常に気をつけてるつもり
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どうして彼はそんな感覚を抱いているのでしょうか。それは彼自身が、「単純化」によっては捉えきれない存在として生きているからです。そして彼は、その状態に恐ろしいほどの苦痛を感じています。
複雑なことを無視して、世界を簡単にしたくないんだ。
『彼女が好きなものは』(監督:草野翔吾、主演:神尾楓珠、山田杏奈)
彼が、もう1人の主人公である三浦紗枝にそんな風に伝える場面があります。「分かった風にしたくないんだ」とも言っていました。どちらの言葉にも、もの凄く共感できてしまいます。
以前、「思考力や言語化力は非常に高いけれど、将棋はまったくやったことのない初心者」が将棋を学んでいる過程における感想で、「盤上に駒が多いと考えることが増えすぎるから、駒をどんどん減らしたいという気分になる」と語っていたことを思い出しました。将棋は単なる娯楽なので好きに指したらいいと思いますが、同じようなスタンスを日常や社会を捉えるやり方に組み込んでしまうのは良くないと感じます。どんな事象にも、関わっている人や置かれた状況によって異なる「固有の何か」があるはずです。そしてそれは、「世界を簡単にする」ことによってあっさり失われてしまいます。「単純化」が有益な状況ももちろんありますが、決して多くはないと私は思っていますし、日常や社会を捉える際には特に適切ではないと私は感じているのです。
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でもホント、「単純化」することでしか状況を捉えられない人が多いような気がして、凄く残念な気分になる
もちろん、あんただって、より高度に状況を捉えている人からすれば「単純だ」って感じかもだけどね
「解像度」という言葉で、主人公・安藤純を捉える
私は普段から「解像度」という言葉を使います。物事を単純化して捉えれば「解像度が低い」、複雑なものを複雑なまま捉えれば「解像度が高い」というわけです。私は、「言葉の解像度」「思考の解像度」「視野の解像度」などのように「解像度」という言葉を使うのですが、安藤純が言う「ただし摩擦はゼロとする」に関わる状況は、「解像度」という観点から捉えられると考えています。
「ただし摩擦はゼロとする」という世界に違和感を覚えない人は、「解像度が低い」と言っていいでしょう。「うちの会社にパワハラなんてありません」みたいなことを平然と言う人がいますが、まさにそれは「自分の周りに存在する『摩擦』を存在しないことにしている」という態度に思えます。「摩擦」に気づいていて無視しているのか、あるいはそもそも気づいていないのか分かりませんが、とにかくそういう「解像度が低い人」は世の中にたくさんいて、私はそういう人に対してとてもイライラしてしまうのです。
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「解像度が低い」って思っちゃった時点で、会話をする気力が失せる
安藤純は、解像度がとても高い人だと言っていいでしょう。私はそういう人がとても好きです。というか、そういう人にしか興味が持てません。
「解像度が高い人」は、「解像度が低い人」には捉えられない「摩擦」が見えてしまいます。そういう人は大体、「見たくないもの」まで見えてしまうでしょう。そしてだからこそ、どんどんと自分で自分を追い詰め、非常に苦しい状況に陥ってしまうことになるのです。
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また、「解像度が高い人」は、些細な言動から相手の気持ちが分かってしまいます。もちろん「勘違い」という可能性もあるでしょう。ただ、自分としてはそんな風に感じてしまうのだからどうしようもありません。そして、相手の気持ちを分かった気になれてしまうが故に、他人に踏み込むことが怖くなります。近づけば近づくほど「見たくないもの」が見えてしまうことが分かっているし、その結果、相手のことを嫌いになってしまい得るからです。
そして、そんな自分のことがどんどん嫌になっていきます。
神尾楓珠が、ここに書いた「どんどん自分を嫌いになっていく」みたいな雰囲気を、凄く上手く演じるんだよね
役柄だけじゃなくて本人からも、「めちゃくちゃイケメンだけど、どことなく陰がある」って雰囲気を感じる
自分で自分のことを嫌いになっていくのは、とてもつらいことです。安藤も、そんな辛さの中にずっと押し込められてしまっていました。誰にも言えない秘密を抱えていたからです。「同志」であれば分かり合えるけれども、「同志」と関わりを持つことはそう簡単なことではありません。そして、「同志」とは全然違う、「ただし摩擦はゼロとする」の世界を当たり前のように生きる者たちと無理やり歩調を合わせながら、どうにか日々を生き抜いているというのが、安藤の置かれた状況です。
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この映画で描かれる安藤の「秘密」と同じ悩みを抱えていなければ共感できない、なんてことはないでしょう。誰だって、「他人に打ち明けるのが難しい」と感じる「秘密」を持ち得るはずだからです。また、私はこれまでに、「外から見ただけでは想像できないような悩み」を抱えている人たちの話を色々と聞いたことがあります。だから、「日常を楽しそうに生きているからといって、『秘密』を抱えていないことにはならない」とも理解しているつもりです。
そんなわけでこの物語は、「核となるテーマ」に自分が関係するかどうかに拘わらず、誰しもが当事者となり得る作品だと私は感じました。
最後でもう少し詳しく書くけど、そういう意図があってこの記事では「核となるテーマ」に触れないことにしてる
どうしても「余計な先入観」を与えがちなテーマだしね
安藤が「ただし摩擦はゼロとする」の世界で生きるためには、「自分の存在を無にする」しかありません。「今ここにいるのは自分ではない」みたいな思考で臨まなければ立ち向かえないのです。しかしそう考えれば考えるほど、彼は「どうして自分のような存在がこの世に生まれてきてしまったのだろうか」という悩みに引き寄せられてしまいます。
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安藤と同形の「秘密」を持っているわけではない私にも、彼の「苦悩」「苦痛」は理解できる気がするし、心の底から「どうにか生き延びてほしい」と感じてしまいました。
「それは私の問題でもあります」と差し伸べられた手が「無意識の偏見」を乗り越える
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この映画の、一番素晴らしく、一番号泣させられた場面で、こんな言葉が出てきます。
彼は、自分のことが大嫌いで、私たちのことが大好きなんです。
『彼女が好きなものは』(監督:草野翔吾、主演:神尾楓珠、山田杏奈)
これはとても素敵な言葉だと感じました。さらにこんな風にも加えます。
彼が築いた壁は、大好きな私たちを守るためのものなんです。
『彼女が好きなものは』(監督:草野翔吾、主演:神尾楓珠、山田杏奈)
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私も日々しみじみ感じる機会があるんだけど、やっぱり「正しく理解してくれる人」が周りにいるって幸運なことだと思う
そういう人に身近な世界で出会えないと、ホント辛いよね
彼女は、自分こそ傷ついているにも拘わらず、必死に言葉を紡いで、安藤純という人間について訴えかけます。彼の振る舞いは「私たちのことが嫌い」だからじゃない、彼は「自分のことが嫌い」で「私たちのことが大好き」なんだと、必死に理解してもらおうとするのです。三浦が賞状を受け取ってからの一連の展開には、とにかく号泣させられてしまいました。
三浦の凄さは、「無意識の偏見」を乗り越えるための、1つの「解決策」のようなものを提示したことだと感じます。
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「私は、偏見は持っていないのよ」
「ええ、分かっています。そう思い込んでいることは」
『ドリーム』(監督:セオドア・メルフィ)
「『他人に偏見を抱いている』と自覚していないこと」ももちろん問題ではあるのですが、「『他人に偏見を抱いていない』と自覚していること」もまた問題だというわけです。先程触れた「解像度」の話で言うなら、「他人に偏見を抱いていない」という自覚は、「解像度の低さ」を示すものとしか受け取られないでしょう。
本当に偏見を抱いていない人なら、「偏見を抱いてない」って口には出さないだろうからね
「それを口にしたらどんな風に受け取られるか」まで理解できてないと意味がないからなぁ
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そういうわけで、「偏見を抱いていない状態」について考えることはとても難しいのです。ただ、映画の中で三浦が口にする「他人事」というキーワードから、「『それは私の問題でもある』と考えること」を「偏見を抱いていない状態」と捉えてもいいのではないかと感じました。
「偏見を抱いていない」という言葉からは、「それを問題視しない」という方向性をイメージさせるでしょうが、三浦のスタンスは、「それは問題であり、さらに私の問題でもある」というメッセージを含んでいると思います。私は、「そんなの全然問題じゃないよ、私には関係ないけど」と言われるのと、「問題は問題だよね、私の問題でもあるけど」と言われるのとでは、後者の方がより「偏見を抱いていない状態」に近いと感じるのですが、どうでしょうか。
そして三浦はまさに、「問題は問題だよね、私の問題でもあるけど」と声高に主張するために立ち上がるのです。ホントに勇敢だと感じました。三浦は、「私の問題でもあるけど」と示すためにメチャクチャ身を削ります。彼女自身が長い間ひた隠しにしてきたある「秘密」を全校生徒の前で語るのです。誰もが三浦のような行動を取るべきだなんて思ったりはしませんが、彼女の行動はとにかく素敵で、泣かずにはいられませんでした。
難しいだろうけど、同じような状況になったら、自分も同じように振る舞えたらいいなって思った
ただこれ、「安藤が100%プラスに受け取ってくれるか分からない」ってリスクがあるから、怖いよねぇ
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安藤は、誰もが当然のように望むことができる「幸せ」について、自分には手が届かないものだという絶望を抱いています。
そういう幸せが欲しいってどうしても思ってしまうんだ。
『彼女が好きなものは』(監督:草野翔吾、主演:神尾楓珠、山田杏奈)
安藤は、「みんなにとっては当たり前の『幸せ』を望めば、間違いなく誰かを傷つけてしまう」という葛藤を抱えて生きてきました。そんな絶望の淵に取り残されていた安藤に、三浦は「それは私の問題でもある」と寄り添うことに決めるのです。
2人の関係性はとても歪なものかもしれませんが、私にはとびきり美しいものに感じられました。
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映画『彼女が好きなものは』の内容紹介
高校2年生の安藤純は、5歳の頃からの幼馴染である亮平とは仲が良いものの、基本的に友達が少なく、いつも1人で本を読んでいるような目立たない存在だ。亮平が、クラス内ヒエラルキートップの小野と仲が良いこともあり、安藤も小野のグループに混じって話をすることもあるのだが、「ただし摩擦はゼロとする」感がもの凄く強い世界のため話を合わせるために日々苦労している。
ある日彼は、存在を知っている程度の、ほとんど話したことがないクラスメート・三浦紗枝のある「秘密」を知ってしまう。彼女は中学時代、その「秘密」のせいで友達を失ったことがずっとトラウマで、高校生になってからは隠し通すと決めていた。それなのに、うっかりクラスメートに知られてしまい、安藤が誰かにバラしたりしないかと気が気じゃない。
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映画『彼女が好きなものは』の感想
私が映画を観て感じたこと、考えたことはここまででかなり書いてきたので、ここでは役者や登場人物について触れていきたいと思います。
まず、神尾楓珠が非常に良い存在感を出していると感じました。冒頭で書いた通り、映画『ひらいて』は山田杏奈が成立させたと思っていますが、映画『彼女が好きなものは』は神尾楓珠が成立させた作品だと言っていいでしょう。
ボートレースのCMに出てたから存在は知ってたけど、役者としてちゃんと演技を見たのはこの作品が初かも
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神尾楓珠が演じる安藤純というキャラクターは、なかなか感情を表に出しません。三浦も当初は安藤のことを、
何考えてるか分かんない系。真顔で人刺しそうな感じ。
『彼女が好きなものは』(監督:草野翔吾、主演:神尾楓珠、山田杏奈)
と評しています。なかなか絶妙な表現で、そんな安藤を神尾楓珠は実に見事に演じていると感じました。表情などで分かりやすく感情を伝えるシーンは非常に少なく、全体的に抑えられているのですが、それでも、安藤純という人物が長い間苦悩を抱えてきたことや、今もなお苦痛を感じ続けていることがよく伝わってきます。
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そしてさらに、普段から感情を表に出さない人物だからこそ、堰を切ったように何かが内側から溢れ出てしまう場面では、観客は大きく感情を動かされてしまうのです。非常に難しい役どころだったと思いますが、「安藤純」という存在を見事に成り立たせていたと感じました。
また、決して主人公的な立ち位置ではないものの、前田旺志郎が演じる亮平も、とても良い存在感を出していたと思います。思い返してみると、物語の重要な場面には大体亮平が絡んでくると言っていいでしょう。安藤と三浦が付き合うことになったのも、絶望のどん底に突き落とされた安藤が学校に戻ってこられたのも、三浦の“魂の演説”が成立したのも、すべて亮平の奮闘あってのものです。物語を成立させるために必要不可欠な「狂言回し」でありつつ、キャラクターとしても魅力を放つ、存在感に溢れる人物でした。
「奮闘」って言葉を使ったけど、全然「奮闘」してる感じを出さないのもいいよね
「当たり前のことをしてますけど何か?」みたいな飄々とした雰囲気が絶妙って感じ
そして、物語の序盤では重要な存在だなんてまったく思ってもいなかった小野もまた、ラストに至る展開で非常に重要な役回りを演じるキャラクターだと言えます。
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先述した表現に倣って書くと、小野が抱く「偏見」は、「問題は問題だよね、俺には関係ないけど」というスタンスであり、世間一般とも三浦紗枝とも違うものでした。字面だけで判断すると、メチャクチャ酷いスタンスに感じられるだろうし、実際のところ、冒頭からずっと「小野は酷い奴」という描かれ方がされるので、さらにその印象を補強すると言えるでしょう。
しかし、映画を最後まで観るとかなり印象が変わります。彼の「俺には関係ないけど」というスタンスは決して、「興味がない」という意味ではなく、「俺はその問題が重要だなんて思ってない」という宣言なのです。そう捉えると、三浦が示した「問題は問題だよね、私の問題でもあるけど」とはまた違った形での「『無意識の偏見』の乗り越え方」であるように感じられました。
小野を「酷い奴」って捉えるのは、「解像度が低い」って感じするから、自分もまだまだだなって反省した
こういう経験を積み重ねることで、より「想像力」を強化していくしかないんだよね
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設定・展開・キャラクター・演技などなど、すべての要素が私にとっては素敵な映画でした。
あと、どうでもいい話ですが、エンドロールを観て驚いたことを2つ挙げてこの記事を終わりにしようと思います。
まず、「誠」という人物を演じた役者について。まさか今井翼だとは。主要なキャストの1人として結構映画の中に出てくるのですが、エンドロールを観るまで今井翼だと気づきませんでした。ホント驚いたなぁ。
あと、磯村勇斗にも気づきませんでした。ってか、使い方が贅沢すぎるだろ。
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出演:神尾楓珠, 出演:山田杏奈, 出演:前田旺志郎, 出演:三浦獠太, 出演:池田朱那, 出演:渡辺大知, 出演:三浦透子, 出演:磯村勇斗, 出演:山口紗弥加, 出演:今井翼, Writer:草野翔吾, 監督:草野翔吾, クリエイター:「彼女が好きなものは」製作委員会
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最後に
さて最後に、私がこの記事で映画の「核となるテーマ」に触れなかった理由について書きたいと思います。
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この映画について調べれば、間違いなく触れられているだろうから、隠す必然性はまったくないんだけどね
そうなんだけど、「私の記事で初めてこの映画の存在を知った」って人もゼロではないはずと期待したい気持ちもあるのよ
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子どもの頃、周りと馴染めない感覚がとても強くて苦労しました。ただし、「普通」から意識的に外れる決断をしたことで、自分が持っている価値観を言葉で下支えすることができたとも感じています。「普通」に馴染めず、自分がダメだと感じてしまう人へ。
もしかしたら、「核となるテーマ」に触れていないことを、「偏見」と受け取る方もいるかもしれません。「私がそれを『マイナスのもの』と捉えており、それに触れることで映画に対する興味を失わせる可能性があると考えている」みたいに解釈する方もいるだろうと思います。
しかし決してそうではありません。私がそれに触れないと決めた理由は、この映画のタイトルと関係があります。
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ヨーロッパ企画の上田誠が生み出した、タイムループものの新機軸映画『リバー、流れないでよ』は、「同じ2分間が繰り返される」という斬新すぎる物語。その設定だけ聞くと、「どう物語を展開させるんだ?」と感じるかもしれないが、あらゆる「制約」を押しのけて、とんでもない傑作に仕上がっている
この映画には原作があるのですが、映画のタイトルは、その原作タイトルの一部で、原作タイトルそのものではありません。映画制作側には、原作タイトルの一部を削った意図があるはずです。そして、私はその意図を勝手に、「『普遍性のあるもの』を描こうとしたから」だと考えています。原作タイトルをそのまま使ってしまうと、「普遍性のあるもの」として作品が受け取られない可能性があると考えて、映画の方は『彼女が好きなものは』というタイトルにしたのだと私は解釈しているのです。そして、その解釈が正しいと仮定して、私もそれに倣って「普遍性のあるもの」としてこの作品を紹介したいと考えました。
そんなわけで、なかなかそんな人はいないと思いますが、もしこの記事を「映画の中身を知らない状態」で読んでくれている人がいるのであれば、これ以降一切何も調べない状態で映画を観ても面白いでしょう。調べればどんなことでもあらかじめ分かってしまう世の中で、「まっさらな状態で作品と向き合うこと」はなかなか難しくなっています。そんな出会い方が面白いと感じられる方は、是非余計なことを調べずにこの作品を観てください。
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そして、その「普遍性」を体感してほしいと思っています。
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映画『アウシュヴィッツ・レポート』は、アウシュビッツ強制収容所から抜け出し、詳細な記録と共にホロコーストの実態を世界に明らかにした実話を基にした作品。2人が持ち出した「アウシュビッツ・レポート」こそが、ホロコーストについて世界が知るきっかけだったのであり、そんな史実をまったく知らなかったことにも驚かされた
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【考察】『うみべの女の子』が伝えたいことを全力で解説。「関係性の名前」を手放し、”裸”で対峙する勇敢さ
ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
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【生きる】しんどい人生を宿命付けられた子どもはどう生きるべき?格差社会・いじめ・恋愛を詰め込んだ…
厳しい受験戦争、壮絶な格差社会、残忍ないじめ……中国の社会問題をこれでもかと詰め込み、重苦しさもありながら「ボーイ・ミーツ・ガール」の爽やかさも融合されている映画『少年の君』。辛い境遇の中で、「すべてが最悪な選択肢」と向き合う少年少女の姿に心打たれる
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「偏見・差別ゆえに、他人の能力を活かせない人間」を、私は無能だと感じる。そういう人は、現代社会の中にも結構いるでしょう。ソ連との有人宇宙飛行競争中のNASAで働く黒人女性を描く映画『ドリーム』から、偏見・差別のない社会への道筋を考える
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【不正義】正しく行使されない権力こそ真の”悪”である。我々はその現実にどう立ち向かうべきだろうか:…
権力を持つ者のタガが外れてしまえば、市民は為す術がない。そんな状況に置かれた時、私たちにはどんな選択肢があるだろうか?白人警官が黒人を脅して殺害した、50年前の実際の事件をモチーフにした映画『デトロイト』から、「権力による不正義」の恐ろしさを知る
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【矛盾】その”誹謗中傷”は真っ当か?映画『万引き家族』から、日本社会の「善悪の判断基準」を考える
どんな理由があれ、法を犯した者は罰せられるべきだと思っている。しかしそれは、善悪の判断とは関係ない。映画『万引き家族』(是枝裕和監督)から、「国民の気分」によって「善悪」が決まる社会の是非と、「善悪の判断を保留する勇気」を持つ生き方について考える
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「障害者だから◯◯だ」という決まりきった捉え方をどうしてもしてしまいがちですが、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の主人公・鹿野靖明の生き様を知れば、少しは考え方が変わるかもしれません。筋ジストロフィーのまま病院・家族から離れて“自活”する決断をした驚異の人生
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【情熱】映画『パッドマン』から、女性への偏見が色濃く残る現実と、それを打ち破ったパワーを知る
「生理は語ることすらタブー」という、21世紀とは思えない偏見が残るインドで、灰や汚れた布を使って経血を処理する妻のために「安価な生理用ナプキン」の開発に挑んだ実在の人物をモデルにした映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』から、「どう生きたいか」を考える
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【考察】映画『ジョーカー』で知る。孤立無援の環境にこそ”悪”は偏在すると。個人の問題ではない
「バットマン」シリーズを観たことがない人間が、予備知識ゼロで映画『ジョーカー』を鑑賞。「悪」は「環境」に偏在し、誰もが「悪」に足を踏み入れ得ると改めて実感させられた。「個人」を断罪するだけでは社会から「悪」を減らせない現実について改めて考える
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「統合失調症だからといって病気だとは捉えず、ただの個性だと思う」と話す松本キックは、相方・ハウス加賀谷とどう接したか。そしてハウス加賀谷は、いかにして病気と向き合ったか。『統合失調症がやってきた』『相方は、統合失調症』から、普遍的な「人間関係の極意」を学ぶ
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「爆弾事件の被害を最小限に食い止めた英雄」が、メディアの勇み足のせいで「爆弾事件の犯人」と報じられてしまった実話を元にした映画『リチャード・ジュエル』から、「他人を公然と批判する行為」の是非と、「再発防止という名の正義」のあり方について考える
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お笑い芸人・髭男爵の山田ルイ53世は、“神童”と呼ばれるほど優秀だったが、“うんこ”をきっかけに6年間引きこもった。『ヒキコモリ漂流記』で彼は、ひきこもりに至ったきっかけ、ひきこもり中の心情、そしてそこからいかに脱出したのかを赤裸々に綴り、「誰にも優しい世界」を望む
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美醜で判断されがちな”ルッキズム”の世の中に刃を突きつける小説『自画像』。私自身は、「キレイな人もキレイな人なりの大変さを抱えている」と感じながら生きているつもりだが、やはりその辛さは理解されにくい。私も男性であり、ルッキズムに加担してないとはとても言えない
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「ホームレスは怠けている」という見方は誤りだと思うし、「働かないことが悪」だとも私には思えない。振付師・アオキ裕キ主催のホームレスのダンスチームを追う映画『ダンシングホームレス』から、社会のレールを外れても許容される社会の在り方を希求する
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どんな病気も治す「奇跡の水」の存在を私は信じないが、しかし何故「信じない」と言えるのか?「奇跡の水を信じる人」を軽々に非難すべきではないと私は考えているが、それは何故か?映画『星の子』から、「何かを信じること」の難しさについて知る
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「アイヌの町」として知られるアイヌコタンの住人は、「アイヌ語を勉強している」という。観光客のイメージに合わせるためだ。映画『アイヌモシリ』から、「伝統」や「文化」の継承者として生きるべきか、自らのアイデンティティを意識せず生きるべきかの葛藤を知る
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「共感」が強すぎる世の中では、自然と「想像力」が失われてしまう。そうならないようにと意識して踏ん張らなければ、他人の価値観を正しく認めることができない人間になってしまうだろう。映画『ミセス・ノイズィ』から、多様な価値観を排除しない生き方を考える
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【素顔】「ヨコハマメリー史」から「伊勢佐木町史」を知れる映画。謎の女性が町の歴史に刻んだものとは…
横浜で長らく目撃されていた白塗りの女性は、ある時から姿を消した。彼女の存在を欠いた伊勢佐木町という街は、大きく変わってしまったと語る者もいる。映画『ヨコハマメリー』から、ある種のアイコンとして存在した女性の生き様や彼女と関わった者たちの歴史、そして彼女の”素顔”を知る
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