目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:シム・ウンギョン, 出演:松坂桃李, 出演:本田翼, 出演:田中哲司, 出演:岡山天音, 出演:北村有起哉, 監督:藤井道人, プロデュース:河村光庸, Writer:詩森ロバ, Writer:藤井道人, Writer:高石明彦
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「国民の半分ぐらいが賛同しているビジョン」を実現するためなら独裁でもいい、と私は思う
- 「ソフトな独裁状態」は、「敗北=ジ・エンド」の社会を生み出す
- あくまでも”フィクション”だが、現実を鋭く切り取った衝撃的な映画
理由もはっきり分からないまま、映画を観ながらずっと泣いていた。たぶん私は、悔しかったんだと思う
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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「独裁を許容する」を説明する
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私は、条件付きで「独裁」を許容している。ただしここで言う「独裁」というのは、暴力や武力などによって支配するものではない。権力側に、法を超越するような権限が与えられてもいいと思っている、という意味だ(ここが、民主主義とは違う点だろう)。このことをこの記事では「ソフトな独裁」と呼ぶことにしよう。
どうしてこんな話をするかと言えば、私は今の日本は「ソフトな独裁状態」にあると思っているからだ。なので、現状をどう評価するかの指針をまず示そうと考えている。
どんな条件なら「ソフトな独裁」を許容するのかと言うと、「国民の半分ぐらいが賛成しているビジョンの実現を目指していること」だ。
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例えば、「日本は鎖国すべきだ」という意見が日本人の半分ぐらいの人に支持されているとしよう。その場合、あらゆる強権を発動し、時には法律を無視するような政策を取ってでもその実現のために動く、というスタンスは、私の中で許容できる。もちろん私は「日本は鎖国すべきだ」なんて意見には反対だが、それが多数派の意見だというのなら諦めて従うし、国家の横暴も許容するつもりでいる。
もちろん、仮に大多数の賛成があろうと、例えば「どんな軽微な犯罪者も死刑にする」「地球環境への影響など無視した方針を取る」など、倫理的に許されないことまで許容しようとは思わない。その辺りの感覚の説明は難しいが、なんとなく理解してもらえると信じて話を進めよう。
私は大前提として、すべての個人の希望が実現する国家などあり得ないと思うし、誰かが(それが自分だとしても)不利益を被ったり自由を差し出したりしなければならない、と考えている。どんな政策を取ろうが不満は必ず出てくるし、反対する人間はゼロにはならない。
だから、「国民の半分ぐらいが賛同しているビジョンを目指す」という指針しかないと思う。
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ただし、権力側が、国民の意識をある特定の方向に向けさせようとしているなんて状況もゼロではないだろうから、「賛同している」という状態の判定は難しい。だから今書いている話は机上の空論と言えばその通りなのだが、ある種の思考実験だと思ってほしい。
映画の中で、こんなセリフが出てくる。
安定した政権の維持は、この国の安定と平和に繋がる
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この国の民主主義は形だけでいいんだ
これらに対して私は、「国民の半分ぐらいが賛同しているビジョンを目指している」なら許容できる、という立場を取る。しかし、そうではないなら、唾棄すべき発言だ。
今の日本の「ソフトな独裁状態」は許容できるか?
前述したような前提に立った上で、私は、今の日本の状態は許容できないと考える。なぜなら、「そもそもビジョンが存在しない」と感じるし、仮に日本という国が何らかのビジョンを目指して進んでいるのだとしても、「そのビジョンが国民の半分ぐらいに支持されている」とは到底思えないからだ。
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だから今の日本の「ソフトな独裁状態」には反対だ。
私は政治や経済に詳しいわけではなく、最新情勢や過去の歴史などを踏まえた捉え方が出来るわけではないが、現状の日本の政治の中枢にいる人たちが、「国民の半分ぐらいが賛同しているビジョン」を捉えたり打ち出したりすることなど不可能だと考えている。具体的にこれと指摘するつもりはないが、政策や有事への対応など、何をしても「そうじゃないんだよ」「ズレてる」と感じることが多い。
国民の多くも、現在の政治に対して諦めしか抱いていないだろう。
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外国には外国なりの問題があると理解した上でどうしても感じてしまうのが、外国のリーダーの有能さだ。国民にどうすれば言葉が伝わるのか、今何をすることが求められているのか、そういうことの捉え方がまったく違う印象を持ってしまう。日本とは大違いだ。
いずれにしても、今の日本は「ビジョン」など持っていないと思うし、持っていたとしてもそれは「少数派に向いたビジョン」でしかないと私は考えている。そしてだからこそ、そんな国が「ソフトな独裁状態」を敷いていることに、苛立ちを覚える。
そしてさらに苛立ちを募らせるのは、「ソフトな独裁状態」が、「敗北=ジ・エンド」というような社会を作り出していることだ。
「正しさ」や「正義」は、常に複数存在し対立するものだ。しかし大抵の場合、それらの中からたった1つの「正義」が選ばれるる。
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正しいと信じて邁進しても敗北してしまうことはある。「敗北」したからといって「間違いだった」とは限らないはずだが、「ソフトな独裁状態」だと、「敗北=ジ・エンド」となってしまいがちだろう。「独裁」には「反対勢力の壊滅」や「権力の過剰行使」などが付随してくるものであり、それは「ソフトな独裁」でも変わらない。つまり、「敗北した者を立ち上がれない状態にする」という作法が当たり前になってしまうということだ。
100歩譲って、「国民の半分ぐらいが賛同しているビジョン」を目指す過程の話であるなら許容できる場合もあるかもしれないが、現状はとてもそうとは思えない。さらに、人の命が奪われているとなれば、どんな事情があれ許容できるものではない。
敗北すれば不可逆なマイナスが課せられる世の中では、誰も立ち上がろうとしなくなるだろう。権力に歯向かうデメリットが、あまりにも高いからだ。そして、そうなればなるほど、権力側にいる人間が思う「正義」だけが実現されることになり、一層「ソフトな独裁状態」が強化されることになる。
もちろん、権力側はそうなることを狙っているだろうし、望んでいるのだろう。私たちはまさに、そのような負のループの中にいるのだと感じる。
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この映画は、そんな日本の現状を“フィクション”として切り取っていく。
映画『新聞記者』の内容紹介
この映画は、「実話を元にしている」などという表記は一切ないが、描かれるエピソードがどの事件を元にしているのか、見れば誰でも分かるほど、「政治絡みの実際の事件」が散りばめられた”フィクション”である。
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韓国人とのハーフである吉岡は、東都新聞社会部の記者であり、「真のジャーナリスト」と呼ばれた父の遺志を継ぎ、正義を追う日々を送っている。
ニュースでは様々な事件が報じられる。文科省トップの不倫疑惑が起こり、女性ジャーナリストをレイプした総理に近しい記者が逮捕直前で取り止めになった。
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それらの背後には、内閣情報調査室(内調)が関わっている。内調は各省庁の官僚を寄せ集めて構成されており、多田という厄介な男が束ねている。
外務省官僚である杉原はそんな内調に配属が決まった。週刊誌記者のようなスキャンダル探しや、SNSへの情報のバラマキなど、それまでとはまったく違う仕事をやらされ戸惑う杉原。しかし多田から、「これも国を守るためだ」と諭され、もうすぐ子どもが生まれることもあって、杉原は割り切って仕事をしよう考えることにした。
しかしある時杉原は、明らかに誤った情報を流すように命じられ迷う。さすがに拒否すると、「嘘か本当かを決めるのはお前じゃない。国民なんだ」と、やるべき仕事を強要される。杉原は、自分の仕事に葛藤を抱くようになっていく。
彼は、外務省時代に北京大使館で一緒に働いた、最も信頼する上司である神埼から連絡をもらい、久々に食事をすることになった。杉原は、自身の現状を踏まえつつ、「『官僚の仕事は誠心誠意国民のために尽くすことだ』とかつて神埼さんに怒られた」という懐かしい思い出を口にする。しかし神埼はそれに対し、「キツイね。過去の自分から叱られるというのは」といつもと違う様子だ。
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そしてその数日後、神埼はビルの屋上から身を投げ自殺する。その直前、杉原に電話で「ごめんな」と言い残して。
一方、東都新聞社会部に、奇妙なFAXが届く。一枚目に羊がサングラスをしている絵が載った、「新設大学院大学設置計画書」という文書だった。差出人不明で、真偽も不明だが、書かれていることを信じるなら、おかしなことが起こっている。本来であれば文科省の所管であるはずの大学新設が、何故か内閣府主導で行われていることを示唆しているのだ。
内閣府は最近、内調を私物化していると噂されており、その影響はメディアにも及んでいた。そんな内閣府が、またキナ臭い動きをしている。吉岡が担当となって、情報を集めることになった。
神埼の死を不審に思う杉原と、大学新設の裏事情を突き止めようとする吉岡。内調と新聞記者という真逆の2人の人生が交錯し、信じがたい巨悪が明らかになる……。
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映画『新聞記者』の感想
凄い映画だった。たぶん、映画中ずっと泣いていた。「泣けるから良い映画だ」などと言いたいわけでは決してないが、凄まじい衝撃に泣かずにはいられなかった。
たぶん見ている間ずっと、何か「悔しさ」を感じていたのだと思う。その「悔しさ」の正体は、自分でもよく分からない。ただ、「あぁ、自分はこんな絶望的な国に生きているのだな」という諦念みたいなものに支配されたことは確かだと思う。
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「ソフトな独裁」を実現するツールとして登場する「内調」は、実在する組織だ。内調がこの映画と同じようなことをしているのか、私には分からないが、大きくズレてもいないだろう。「ビジョンの実現のための独裁」ではなく、「権力を維持するための独裁」であることが明らかで、「さもしい」という言葉が一番適切な気がする。
このような社会に身を置かざるを得ない私たちは、一体どう生きるべきだろうか?
敗北した際の大きすぎるリスクを恐れて何も行動しない、という生き方を、私は否定しない。誰もが権力に立ち向かえるほど強くはないし、見せしめのように「さらし首」にされている個人をニュースなどで否応なしに見せられることで、身動きが取れなくなってしまっても仕方ないと思う。
しかし一方で、「何もできなかったという後悔を抱える」ことも辛い。この映画では、杉原がその立ち位置にいる。自分ではなく、自分が大切だと思う人が敗北し不可逆的なマイナスを被った時、「何もしなかった自分」を許容できるかは難しい。
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個人が闘うべき時に、立ち上がる勇気さえ持たせないようなやり方は最低だと思うし、そうまでして守り抜く「権力」で、一体彼らが何をしたいのかは、私にはよく分からない。
映画は、とてもリアルだ。先述した通り、この映画で描かれている事柄は、どんな事件を元にしているのか誰もがすぐ分かるはずだ。映画では、「官邸権力と報道メディア」という実際の討論番組の映像も組み込まれる。元文科省の官僚である前川喜平や、東京新聞の望月衣塑子らが討論しており、発言内容もそのまま使われている。そしてそれが、映画の世界の中で違和感なく収まっているのだ。どれだけリアルに現実を下敷きにしているのか分かるだろう。
この映画はあくまでも“フィクション”だろうが、この映画から私たちは、「自分が『ソフトな独裁国家』に生きているのだ」ということを実感する必要がある。この「独裁状態」を打破するためには、私たちがまず「独裁状態」に気づかなければならないからだ。
「政治に関心を持っても無駄だ」と感じさせることで安定した政権を維持しようという権力側の目論見に、素直に乗っかる手はない。私たちは、無理矢理にでも政治に関心を持つべきなのだと思う。
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出演:シム・ウンギョン, 出演:松坂桃李, 出演:本田翼, 出演:田中哲司, 出演:岡山天音, 出演:北村有起哉, Writer:詩森ロバ, Writer:藤井道人, Writer:高石明彦, 監督:藤井道人, プロデュース:河村光庸
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最後に
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映画で描かれるように、内調はメディアに干渉していると言われる。「映画」だからこそ、”フィクション”とは言えここまで現実に切り込むことができたと言えるだろう。
自分がどんな国に生きているのか絶望するために、是非見てほしいと思う。
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日本の「戦国時代」さながらの内戦状態にあるソマリア共和国内部に、十数年に渡り奇跡のように平和を維持している”未承認国家”が存在する。辺境作家・高野秀行の『謎の独立国家ソマリランド』から、「ソマリランド」の理解が難しい理由と、「奇跡のような民主主義」を知る
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