目次
はじめに
この記事で取り上げる映画

「ニッツ・アイランド 非人間のレポート」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 本作を観て「なるほど、そんな手があったか!」と感じたが、しかし、思いついたとしても普通はやらないだろう
- 「『現実世界』では許容されないこともOK」という世界だからこそ、「人間性」がより強く浮き出ているように感じられた
- 「『現実世界』から離れたい」という気持ちが、「ゲーム内の世界を『リアル』だと思いたい」という感覚に繋がっているようだ
その斬新さにとにかく驚かされたし、さらに、人間の「存在」や「人生」について深く問う内容になっている点も良かったなと思う
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
映画『ニッツ・アイランド』は、「オンラインゲーム『DayZ』内でドキュメンタリー映画を撮る」という、思いついたって普通はやらないだろうイカれた企画を実現させた作品
久しぶりにちょっとぶっ飛んだドキュメンタリー映画を観たなという感じだった。「ドキュメンタリー」に限る話ではないが、「表現方法」なんてあらゆる領域で既に出尽くしていて、「新しいもの」なんかもう生まれないような気もしていたのだけど、もちろんそんなことはない。しかしそれにしても、「よくこんなこと考えて、やろうと思ったものだ」と感じさせられた。思いついたとしても、やらないだろ、普通こんなこと。
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「オンラインゲーム内でドキュメンタリー映画を撮る」という、本作『ニッツ・アイランド』の基本情報
この記事では既に「オンラインゲーム内でドキュメンタリー映画を撮る」という本作の設定に触れてしまっているが、それを知らない人に本作の説明をする際、「生物も自然も一切画面に映らないドキュメンタリー映画」なんて言い方も出来ると思う。普通に考えれば、そんなことまずあり得ないだろう。「ドキュメンタリー映画」というのは、その対象が何であれ「現実世界に存在するもの」を映すはずなので、「生物も自然も一切画面に映らないドキュメンタリー映画」なんてものをイメージするのは難しいはずだ。
しかし、「ゲーム」や「仮想現実」などの登場によって、「現実世界とは異なる場所で起こっている出来事を映し出す」みたいなこともあり得る世の中になった。いやホント、「なるほどなぁ」、と思う。本作を観たことで、「確かにこんなやり方もあるよな」と感じさせられたのだが、そうそう思いつくアイデアではないはずだ。まずはその点に驚かされてしまった。
というわけで本作『ニッツ・アイランド』は、最初から最後まで「オンラインゲーム内」のみで完結するドキュメンタリー映画である。少なくとも私はそんなドキュメンタリー映画を観たことがないし、異色中の異色と言っていいんじゃないかと思う。
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ちなみに、この点は先に触れておくべきだと思うが、私は「ゲーム」を一切しない。オンラインゲームだけではなく、スマホゲームやPlayStation、Nintendo Switchなんかもたぶんやったことがないと思う。スマホで詰将棋やシンプルなパズルゲーム(ガチャとか課金が無いようなタイプ)を多少やるぐらいだ。そんなわけで、オンラインゲームに関する知識が一切ないので、本作の感想でも何か的外れなことを書いてしまう可能性がある。そういう箇所があったとしても、「単なる知識不足」と認識してほしい。
さて、本作はド頭からゲーム画面のまま始まり、「いちプレイヤーとしてゲーム内に存在する撮影班が様々な人に話を聞く」というスタイルで展開されていく。で、本作には、「これが何のゲームで、どんな風に物語が進んでいく設定なのか」みたいな説明は一切出てこない。このゲームをプレイしたことがある人はもちろん、画面を見るだけでピンと来るのだろうが、そうではない人にはその辺の基本情報はまったく提示されないまま進んでいくというわけだ。そんなわけで、その辺りの情報については、公式HPやネットの検索などで補うことにしようと思う。
本作の舞台になっているのは「DayZ(デイジー)」というゲームだそうだ。公式HPには「サバイバル・ゲーム」としか書かれていないのでネットで調べてみたのだが、Wikipediaでは次のように紹介されていた。
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プレイヤーは架空のNIS諸国のチェルナルスで、謎の疫病により多くの人間が暴力的になったゾンビを相手に生き延びなければならない。サバイバーのプレイヤーは食糧、水、武器、薬を手に入れ、ゾンビを殺したり避けたりし、または他のプレイヤーとも殺し合いや回避をしたり、時には協力をして生き残らなければならない。
確かに画面内にはゾンビみたいな奴が出てきた気がする。観ている時はよく分からなかったが、あのゾンビを倒したりしつつ生き残りを図るゲームなのだろう。
さて、私の理解が正しければ、オンラインゲームのプレイヤーは別に「ゲームの目的に沿った行動」をしなければならないわけではない。ゲームの設定は、あくまでも「こういう世界観ですよ」という説明でしかなく、究極的には「何もせずに、ゲーム内の世界にただいるだけ」でも別にいいのだ。実際に、作中で取り上げられていたプレイヤーの1人は、「自分は不眠症で、毎日仕事終わりにここに来ては、1人で散歩している」と言っていた。この人物は既に、1万時間もこのゲーム内で過ごしているそうだ。計算してみると、仮に24時間ずっとゲーム内にいると仮定しても416日。1日5時間で計算すれば2000日、約5年半である。1万時間ずっと散歩していたわけではないだろうが、それにしても凄い時間の使い方だなと私には感じられる。
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そんなわけで、オンラインゲームの世界では「許容されている範囲内で何をしても(しなくても)いい」というわけだ。であれば、その中で「様々な趣味趣向で繋がったコミュニティ」が生まれるのも当然の流れだろう。散歩仲間を見つけてもいいし、一緒に農業をやってもいいし、勝手に自警団みたいなものを組んでみてもいい。どのオンラインゲームにもそういうコミュニティが存在するのかはよく分からないが、少なくとも本作の舞台になっている「DayZ(デイジー)」にはそういうものがたくさんあるようだ。
そしてだからこそ、ドキュメンタリー映画として成立する余地が生まれる。ゲーム内の世界は確かに「現実」ではないが、「ある一定の範囲内で『現実』みたいに扱える空間」でもあるからだ。しかも、「『現実世界』では許されないこと」だってゲーム内では許容されたりするだろうから、そういう観点から考えれば、「現実世界」以上に「人間」の姿がより深く垣間見えるとも言えるかもしれない。面白いところに目を付けたものだなと感じさせられた。
ゲーム内の様々なプレイヤーについて
さて、サバイバル・ゲームだから当然と言えば当然だが、「DayZ(デイジー)」内では「殺人」が許容されている。これは「現実世界ではあり得ない状況」と言えるだろう。プレイヤーはもちろん、ゾンビを倒すために武器などを獲得するわけだが、それを使って他のプレイヤーを殺すことも出来る。そのため、「『殺人が許容されている』という、『現実世界』とは違った境界条件が設定された世界での振る舞い」には、より強く「人間性」が浮かび上がるんじゃないかと思う。
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個人的に最も興味深く感じられたのが、「DayZ(デイジー)」内で出会ったというある男女のやり取りだ。それぞれ、ベルリンとオーストラリアからアクセスしているらしいのだが、女性の方がこんなことを言っていた。
私はビーガンで、現実世界では動物を殺さない生活をしてるけど、ここでは人を殺してる。
なるほどなぁ、と思う。別にゲームだから「人を殺している」こと自体はいいのだが、彼女はその事実を「自分はビーガンなのに」という認識と共に捉えているというわけだ。この感覚は興味深いなと思う。本人の中でどんな風に折り合いがついているのか気になるところである。
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また男性の方は、
僕は子どもを寝かしつけてからここに来ている。正直、子どもにはオンラインゲームをしてほしいとは思わない。
と話していた。彼自身は、もう抜け出せないぐらいこのゲーム世界に依存してしまっているらしく、
リアルなゲームは決して悪いとは思わないけど、「現実世界への興味を失わせる」というデメリットがある。
みたいに認識しているようである。「子どもには勧めない」と思いつつ、「それでも自分はここから離れられない」とも考えているというわけだ。このような感覚もまた、実に興味深いと感じさせられた。
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さて、また別の話をしよう。私は「DayZ(デイジー)」がサバイバル・ゲームであることを鑑賞後に知ったので、観ている際には特に何とも思っていなかったのだが、映画冒頭で撮影班が取材交渉を行った組織が、実はかなりぶっ飛んだ集団なのだと後から理解できた。というのもその組織は、「すべての生き物を殺さない」という信条を有しているのだ。サバイバル・ゲーム内に「すべての生き物を殺さない」と決めているコミュニティが存在することも面白いし、また、「彼らにとって『ゾンビ』は『生き物』に含まれるのだろうか?」みたいな点もまた気になるところである。
そしてもちろんだが、それとは真逆のスタンスを持つ集団も存在した。「深夜の闇」と名乗る者たちで、女性リーダーがグループを統べている。撮影班一行が取材場所として指定された建物に入ると、武装し顔を隠した面々が、半裸で机上に横たわる男性を取り囲むようにして彼らを迎え入れた。半裸の男性が誰なのかよく分からなかったが、小声で「助けて」と命乞いをしている音声が入っていたので、一般プレイヤーなんじゃないかと思う(しかしそもそもだが、このゲームの中でプレイヤーが命を落としたらどうなるのか、私はよく理解していない)。その男性は彼らにとっての「今日の獲物」らしく、なんと、インタビューの最中、メンバーの1人が男性に銃を発射し殺してしまった。詳しいことはよく分からないものの、そういう残虐な行為を好む者たちが共に行動している集団らしい。
撮影班はそもそも、「この集団が『人食い』と呼ばれている」という噂を聞きつけ取材を申し込んだそうなのだが、まさに噂通りの野蛮さだった。そもそも、本作『ニッツ・アイランド』は「DayZ(デイジー)」内の「ある島」を舞台にしているのだが、「深夜の闇」はどうやらその島を「自分たちのもの」と捉えているようである。そのため、自宅の庭なのだろう場所にピーマンを植えていた男性を捕まえては、「『私たちの土地』にピーマンなんかを植えたのか?」と難癖をつけ、そのまま殺してしまっていた。なかなかムチャクチャなことをやっているなと思う。
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彼女たちは、「出自こそ様々だが、見ての通り『殺しが大好き』という共通点で集まっていて、思うがまま好き放題に暴れまわっている」と話していた。サバイバル・ゲームなのだから、そういうスタンスも当然許容されるべきだろう。とはいえやはり、「異様」な感じはしてしまった。ただそれはそれとして、先程も言及した通り、ゲームの世界だからこそ「殺しが大好き」なんてことを平気で口に出来るとも言える。そういう意味で、「人間性」がより強く浮き彫りにされる環境なのだろうとも感じさせられた。
「オンラインゲーム内の世界は『リアル』なのか?」に対する様々な考え方
本作『ニッツ・アイランド』の撮影班はしばらくの間、「どんなプレイヤーがいるのか?」「誰に取材アポを取るのが良いか?」みたいなことを把握するのに時間を費やしたのではないかと思う。そんな風にしてゲーム内のことについても理解を深めていったのだろうと思わせる描写がしばらく続く。そして次第に、「恐らくこれこそが、本作を作ろうと考えた動機なのではないか?」と感じさせるものが見えてくるようになる。それは、「オンラインゲーム内の世界は『リアル』なのか?」という問いに集約できるだろう。中盤以降は、これに関する問いかけを直接的に投げ掛けることでプレイヤーの認識を確かめようとしていたように思う。
さて、多くのプレイヤーがこの問いに答えていたのだが、まず大前提として、「彼らは全員、『これはゲームであり、リアルではない』と理解している」ということはきちんと認識しておいてほしい。少なくとも、本作で撮影班の取材に答えた人たちの中には、それらを混同している人はいなかったと思う。この点を理解した上で以降の文章を読んでいただきたい。
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個人的に印象的だったのは、「現実のことよりもよく覚えている」「ここでの冒険は記憶としてちゃんと残る」みたいなことを主張する人が結構いたことだ。確かに脳の仕組みから考えても、「より関心の強いもの、より強く刺激された出来事を覚えておく」ようになっていると思う。そして多くのプレイヤーが、このゲーム内で多くの時間を過ごしているわけで、であれば「脳内の記憶の中で『ゲーム内の出来事』が最も鮮明だ」なんてことも普通に起こり得るだろう。
そしてだとすれば、「ゲームの世界こそが『リアル』である」という認識に近づいていってもおかしくないようにも思う。
さてそもそもだが、ゲームをやらない私には、「風景だけなら、かなりのリアリティを感じさせる」という程度には本物っぽくて驚かされてしまった。人間の動きを含めるとまだまだ不自然さは多く、プレイヤー込みで認識するとどうしても「バーチャルの世界だ」という感覚になってしまうが、風景については、上手くは表現できないものの、「『現実世界』とはまた違ったリアルさ」を感じさせる仕上がりになっているなという印象である。こういう部分については恐らくもっと進化していくはずだし、であれば「ゲーム内こそが『リアル』である」という感覚がさらに強化されても全然おかしくないはずだ。私たちは錯視画像を見た時に、「頭では『そんなはずがない』と思っていても、知覚が騙されてしまう」という経験をするが、それと同じようなことが、バーチャルの世界に対しても起こる可能性は全然あるんじゃないかと思っている。
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ただそれはそれとして、「視覚以外の感覚があまりにも追いついていない」とも感じはする。雨が当たる感触、風の冷たさ、漂う匂いなんかをバーチャルの世界で実感できるのは、まだまだ大分先のことになるだろう。確かに「視覚情報」の進化は凄まじいが、それ以外の感覚も同程度のレベルに達しない限り、「リアルな世界」と捉えるのはまだまだ難しいように思う。
とはいえ、本作を観ていてもう1つ感じたことは、「『仲間がいること』こそが『リアル』の要件なのかもしれない」ということだ。何人かのプレイヤーが「現実逃避」という言葉を使っていたのが印象的だったが、オンラインゲームにのめり込む要因の1つとして、やはり「現実世界から逃げ出したい」という感覚は無視できないようである。どんな「現実」から逃避しているのか、それは人それぞれ違うだろうが、恐らく共通しているのは「『現実世界』に仲間はいない」ということだと思う。そして、ゲーム内に「信頼できる仲間」(実際にそういう表現を使っているプレイヤーがいた)がいるのであれば、「現実世界」ではなく「ゲーム内世界」の方をより「リアル」と感じてしまうのも当然な感じはする。
もちろん、「そんなことは本作を観なくたって何となく想像できる」なんて感じる人もいるだろう。ただ、実際に膨大な時間をゲーム内世界に費やし、そこでの人間関係の中で生きているプレイヤーの言葉を聞くと説得力があるなと思う。
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ちなみに、ゲーム内では「牧師」であるプレイヤーは、実際にはマッサージ師として働いているそうで(ただしこれも自己申告なので真偽は不明だ)、「リアルの世界でゲームの話をしたことはない」のだそうだ。また別のプレイヤーは、「『現実』から離れたくてここにいるわけで、『現実の自分』とは違う形で存在している」みたいなことを言ってもいた。そういう感覚があればやはり、「ゲームの世界を『リアル』だと思いたい」という気持ちが強くなるのも当然だろう。
そんな、ゲームプレイヤーたちの様々な認識が理解できる、実に興味深い映画だった。
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本作はまず「ドキュメンタリー映画としての斬新さ」が圧倒的だったなと思う。そしてその上で、「人間の『存在』や『人生』などについて色々と考えさせるテーマ性」にも優れていると感じさせられた。正直なところ、「メチャクチャ面白い映画」というわけではなかったのだが、「オンラインゲーム上でドキュメンタリーを撮影する」というアイデアと、それを実現させた実行力がとにかく素晴らしかったので、その点だけでも十分評価できるなと思っている。
ちなみに、撮影班はなんと、ゲーム内で963時間も過ごしたそうだ。ただ、本作を撮影していた期間はコロナ禍真っ只中だったそうで、逆に言えば「ゲーム内でドキュメンタリー映画を撮るしかなかった」みたいな状況だったのかもしれない。また、コロナ禍だったことで、多くの人がオンラインゲームの世界に流れたりもしただろう。そういう意味でも、より多様な人間性が映し出されていると言えるのかもしれない。
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お笑い芸人・髭男爵の山田ルイ53世は、“神童”と呼ばれるほど優秀だったが、“うんこ”をきっかけに6年間引きこもった。『ヒキコモリ漂流記』で彼は、ひきこもりに至ったきっかけ、ひきこもり中の心情、そしてそこからいかに脱出したのかを赤裸々に綴り、「誰にも優しい世界」を望む
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美醜で判断されがちな”ルッキズム”の世の中に刃を突きつける小説『自画像』。私自身は、「キレイな人もキレイな人なりの大変さを抱えている」と感じながら生きているつもりだが、やはりその辛さは理解されにくい。私も男性であり、ルッキズムに加担してないとはとても言えない
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日光に限らず、ありとあらゆる「光」に肌が異常に反応してしまうため、ずっと真っ暗闇の中でしか生きられない女性が、その壮絶すぎる日常を綴った『まっくらやみで見えたもの 光アレルギーのわたしの奇妙な人生』から、それでも生きていく強さを感じ取る
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ベートーヴェンと言えば、誰もが知っている「運命」を始め、天才音楽家として音楽史に名を刻む人物だが、彼について良く知られたエピソードのほとんどは実は捏造かもしれない。『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』が描く、シンドラーという”天才”の実像
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『八月十五日に吹く風』は小説だが、史実を基にした作品だ。本作では、「終戦直前に原爆を落としながら、なぜ比較的平穏な占領政策を行ったか?」の疑問が解き明かされる。『源氏物語』との出会いで日本を愛するようになった「ロナルド・リーン(仮名)」の知られざる奮闘を知る
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「北九州連続監禁殺人事件」という、マスコミも報道規制するほどの残虐事件。その「主犯の息子」として生きざるを得なかった男の壮絶な人生。「ザ・ノンフィクション」のプロデューサーが『人殺しの息子と呼ばれて』で改めて取り上げた「真摯な男」の生き様と覚悟
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旅行者として東日本大震災で被災した小説家・彩瀬まるは、『暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出』でその体験を語る。「そんなこと、言わなければ分からない」と感じるような感情も包み隠さず記し、「絶望的な伝わらなさ」を感じながらも伝えようと奮闘する1冊
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東田直樹の著作を英訳し世界に広めた人物(自閉症児を育てている)も登場する映画『僕が跳びはねる理由』には、「東田直樹が語る自閉症の世界」を知ることで接し方や考え方が変わったという家族が登場する。「自閉症は知恵遅れではない」と示した東田直樹の多大な功績を実感できる
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「ルールは守らなければならない」というのは大前提だが、常に例外は存在する。どれほど重度の自閉症患者でも断らない無許可の施設で、情熱を持って問題に対処する主人公を描く映画『スペシャルズ!』から、「ルールのあるべき姿」を考える
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「SNSなどでの炎上を回避する」という気持ちから「正論を言うに留めよう」という態度がナチュラルになりつつある社会には、全員が全員の首を締め付け合っているような窮屈さを感じてしまう。西川美和『すばらしき世界』から、善悪の境界の曖昧さを体感する
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1969年5月13日、三島由紀夫と1000人の東大全共闘の討論が行われた。TBSだけが撮影していたフィルムを元に構成された映画「三島由紀夫vs東大全共闘」は、知的興奮に満ち溢れている。切腹の一年半前の討論から、三島由紀夫が考えていたことと、そのスタンスを学ぶ
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2人を殺し、7人に重傷を負わせた金川真大に同情の余地はない。しかし、この事件を取材した記者も、私も、彼が殺人に至った背景・動機については理解できてしまう部分がある。『死刑のための殺人』をベースに、「どうしようもないつまらなさ」と共に生きる現代を知る
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生きることがしんどくて、自殺してしまいたくなる気持ちを、私はとても理解できます。しかし世の中的には、「死にたい」と口にすることはなかなか憚られるでしょう。「自殺を決して悪いと思わない」という著者が、「死」をもっと気楽に話せるようにと贈る、「笑える自殺本」
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人が死んでも「悲しい」と感じられない男に共感できるか?(私はメチャクチャ共感してしまう) 西川美和の『永い言い訳』をベースに、「喪失の大きさを理解できない理由」と、「誰かに必要とされる生き方」について語る
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