目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 2014年の「雨傘運動」に参加したことで逮捕され、中国での活動ができなくなった歌手デニス・ホー
- 香港の大スターに憧れて歌手を目指し、アーティストでありながら社会活動にもコミットするようになった理由
- 法や人権を踏みにじるような無秩序を決して許してはいけない
立ち上がらなければならない状況に陥った時、彼女のような勇敢さを発揮できる人間でありたいと思う
自己紹介記事
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記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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日本で香港の民主化運動が取り上げられる際は、周庭さんが注目されることが多い。もちろん、周庭さんも香港の人々にとって旗印のような存在だろう。しかし香港には、周庭さんよりも前に、民主化運動の先頭に立つ者として広く知られる人物がいた。
それが、香港ポップスのスターであるデニス・ホーだ。私はこの映画を観るまで、彼女のことはまったく知らなかった。
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デニス・ホーは2014年、いわゆる「雨傘運動」に参加した。9月28日から79日間続いた民主化要求デモで、学生・市民が繁華街を占拠し、中国中央政府のある決定に抗議の意思を示したのだ。催涙弾や催涙スプレーから身を守るために雨傘で対抗したことからそう呼ばれている。
デニス・ホーは、繁華街を占拠した学生たちを支持し、自ら先頭に立ってデモに加わり、最終的に逮捕された。この影響で彼女が失ったものはとても大きい。
2003年以降、香港のスターたちは中国から収益を得るようになっていった。彼女も同様で、本格的に中国に進出すると、世界的企業とのタイアップにも恵まれ、「楽にお金が稼げる」という状況だったそうだ。
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しかし、中国中央政府に抗議する「雨傘運動」に参加したことで、デニス・ホーは中国で活動できなくなってしまう。収入の9割が失われたそうだ。中でもインパクトを与えたのが、世界的化粧品メーカー「ランコム」だった。「ランコム」は彼女のライブのスポンサーになっていたのだが、中国からの”圧力”があったのだろうか、スポンサーを下りてしまったのだ。この一件は香港市民に衝撃を与え、
世界的企業でさえ中国の”圧力”に屈してしまうのだ
という絶望をもたらした。
2016年、デニス・ホーは小口のスポンサーを募りライブを行う計画を立てる。50程度集まればいいと考えていたスポンサーは、最終的に300に上り、大手スポンサー後援のライブよりもお金が集まったそうだ。しかしこれ以降、彼女は香港でライブを行っていない。開催の見込みが立たず、断念しているそうだ。そんな状況ゆえに、彼女は、第二の故郷であり、実の両親も住んでいるカナダ・モントリオールへと拠点を移すことにした。
では、なぜ彼女の両親はモントリオールに住んでいるのだろうか?
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カナダ・モントリオールから香港へ「逆輸入」されたポップスター
香港の中国返還は1984年に合意され、1997年に行われた。この決定に、香港市民は大いに落胆したという。返還のまさにその日、香港には雨が降っていたようで、香港市民はその雨を見て、
天が香港のために泣いている
と嘆いたのだそうだ。
中国への返還が合意された当時、香港では「直接選挙を求める運動」が行われた。中国に返還されることで、それまでの自由を手放したくなかったのだ。当然だろう。そしてその直後、中国で天安門事件が起こる。香港市民は、事態の行方を固唾を呑んで見守った。民主化に対する市民の動きに共産党がどう反応するかで、香港の未来も決まると考えていたからだ。
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結果は誰もが知る通り、軍はなりふり構わず市民を射殺し、徹底的な弾圧を行った。香港でも同じことが起こると考えたのは当然のことだろう。そんなわけで香港市民は、「香港に住み続ける」か「移住する」かの選択を迫られることになったのだ。
その結果として、デニス・ホーの両親はモントリオールへの移住を選んだのである。
モントリオールで生まれ育った彼女は、
モントリオールでの生活がなければ、今の私はない。個人を尊重し、価値観を高め合うことをここで学んだ。
と語っていた。デニス・ホーの人生には、活動家として立ち上がるまでにターニングポイントとなる出来事がいくつか存在するのだが、「モントリオールで生まれ育ったこと」はその大きな1つと言っていいだろう。
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そうして彼女は、自分のルーツである香港へと舞い戻り、歌手を目指すことに決めた。では、いかにしてデニス・ホーは、中国相手に真正面から抵抗するような活動家になったのだろうか?
デニス・ホーの活動家としての歩み
香港へと戻った彼女には、憧れの人物がいた。アニタ・ムイ、香港ポップスの先駆けと言っていい大スターだ。彼女に心酔したデニス・ホーは、様々な経緯を経た上で、アニタの弟子としてツアーについてまわり、経験を積んでいく。
そんなアニタ・ムイは、大スターでありながら、当時としては非常に珍しく、社会活動に力を入れるアーティストだった。そんな人物に憧れ、すぐ傍で活動を目にしてきたことも、デニス・ホーにとっては非常に大きな転換点だったと言える。
その後デニス・ホーも香港で徐々に人気を博し、やがて名実ともに香港のスタートなっていく。当然デニス・ホーも、アニタと同じように社会活動に力を入れようと考えた。しかし、彼女なりに考えて動いてみたものの思ったようには上手くいかない。モヤモヤを抱えながらも奮闘し続けるが、やがて鬱のような状態に陥ってしまう。
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そんな時に知ったのが、ジェリー・チェンというアーティストだ。彼は社会問題を歌詞に織り込んだ歌を歌う特異な存在であり、さらに同性愛者であることも公言していた。
彼の存在を知り、デニス・ホーは、恋や自分自身のことばかり歌っていていいのだろうか、と考えるようになる。そしてさらに、彼女の決意をダメ押しする出来事が起こった。香港議会に提出されていた「同性愛に関する法案」が否決されてしまったのだ。
この決定を受けて、彼女は決断する。立ち上がるしかない、と。そして彼女自身も同性愛者であると公表したのである。
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デニス・ホーの告白は、彼女の予想を遥かに超えて大きなものとして受け止められ、香港のゲイ・コミュニティを活気づかせることになった。そして結果としてこの告白によって彼女は、「香港のためにみんなの先頭に立つ」という役割に一層自覚的になっていく。
そしてその決意がやがて、「雨傘運動」での抗議へと繋がっていくのである。
法や人権を無視する社会に立ち向かうという決意
最終的に国連でスピーチするまでになったデニス・ホーが映画の中で、「なぜ香港市民が立ち上がったのか」について語る場面がある。
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我々外国人は一般的に、「香港の民主化運動は逃亡犯条例改正に反対の意を示している」と理解しているだろう。私もそのような理解だった。確かに、事実としてそれは正しい。2014年の「雨傘運動」は、中国が香港の選挙への介入の度合いを強めたことがきっかけだったが、さらに「逃亡犯条例改正」によって抗議の渦は大きくなっていったからだ。
しかし香港市民は、「逃亡犯条例改正」のような具体的な事柄に抵抗しているわけではない。彼らは「法や人権を無視する大国のやり方」に反対しているのだ。
香港には、1997年の返還から少なくとも50年間は「一国二制度」が適用されるはずだった。中国に編入されるはずが、中国とは別のルールで社会生活が営まれる、という取り決めだ。しかし中国はこの約束を反故にし、香港に中国のルールを押し付けようとしている。
そしてまさに、法や人権を無視したそのようなやり方にこそ、香港市民は声を上げている、というわけだ。
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私たちは、大国ロシアがウクライナに侵攻した現実を生きている。まさにこれも、法や人権を無視した暴挙だと言っていい。日本も同様に、北朝鮮のロケット打ち上げや、中国・韓国・ロシアなどの国との領土問題など、法や秩序が蔑ろにされた現実に直面している。
私たちは、香港やウクライナで起こっているようなことが日本でも起こり得ると自覚すべきなのだと思う。その場合、私たちは、香港やウクライナの市民のように、法や人権を無視したやり方に毅然とした態度で反対できるだろうか?
同じような状況で、自分だったらどんな行動が取れるだろうかと改めて考えさせられた。
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デニス・ホーは、毎年7月に香港で行われるデモに今も参加している。その理由は、”中国国内”で唯一香港だけが大規模なデモや行進を行えるからだそうだ。
香港のニュースを積極的に追っているわけではない私の認識では、周庭さんが逮捕されて以降、香港民主化運動に関する報道は減ってしまったように思う。ロシアがウクライナに侵攻する前の時点でさえ、既に香港の話題がテレビのニュース番組で取り上げられることはほとんどなかったのではないだろうか。
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現状、香港がどうなっているのか分からない。しかし、中国との関係が良くなっているわけがないだろう。今でも厳しい状況が続いているはずだ。
そんな世界で生きる私たちには何ができるのか、きちんと考えなければならない。
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