目次
はじめに
著:辻村深月
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この記事で伝えたいこと
「普通」から外れているというだけの理由で、何故自分の価値観が否定されなければならないのか?
この記事の3つの要点
- 「平凡な人間」に囲まれた世界で、自分の世界をどう守るか
- 理解しがたい干渉を受ける世界に対する絶望
- 話が通じるかもしれないと思える存在に出会える奇跡
主人公のイタさを理解しつつ、私は彼女にとても共感できてしまいます
この記事で取り上げる本
著:辻村深月
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この物語の主人公は、小林アンという中学生2年生です。そして私は、彼女にもの凄く共感できてしまいました。教室の中でアンが感じること、アンが生きる上で大切にしていること、アンが世の中に対して抱く絶望。こういうものが、私には手に取るように理解できてしまうような気がしました。
大事なことだから先に書いておくけれど、アンの言ってることはもの凄く「イタい」です
イタいことは分かった上で、それでも共感できちゃうんだよね
この教室の中で、無難な借り物ではない言葉を話せるのは、私の他には、多分あいつだけだ。
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特に学生時代、私もよくこういう感覚を抱いていました。クラスメートが話している内容が、私にはどうにもレベルが低いものに感じられていた記憶があります。その話の何が面白いのか、それのどこが泣けるのか、そういうことが私には上手く理解できないまま会話に参加していた、と振り返ってみて感じます。
私はなんとなく、「みんなと合わせられないのは自分が悪いんだ」と感じていましたが、アンは違います。アンは、自分の価値観を理解できない人間を「センスがない」と言い切り、自分の周りには「平凡な人間」しかいないと嘆くのです。
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イタいですね。
ただ私も、アンと同じ側にいる可能性は充分にあったし、「私が良いと感じるもの」が世間的にあまり認められていないと感じる時、「この良さに気づかないなんてセンスがない」とまったく思わないと言えば嘘になります。
私の周りのセンスのない人たちは、私がいいと思うものをそろって同じ言葉で「怖い」と形容する。
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アンほどの強烈さは私の中にはありませんが、それでも、安全な場所に立ってアンのイタさを笑うことはできない、とも思います。
著者の辻村深月は、こういう共感されなそうな主人公を真ん中に置いて素敵な物語を生み出すから凄いと思う
生きる上でアンが大事にしていること
アンは、学校でも家庭でも、表向きそれなりに「普通」の振る舞いをします。感覚の合わない「平凡な人間」を見下しながらも、その思いを表に出すことはありません。
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なぜなら、アンにとって何よりも大事なことは、自分が美しいと感じる世界を守ることだからです。
例えばアンは、少年少女たちが起こした事件の記事をスクラップしています。そしてそういう記事を眺めながら、彼らを羨ましく感じてしまうのです。平凡な人生を平凡に終わらせるよりも、たった一つしかない命を有効に使って、これ以上ない注目を集める人生にアンは惹かれてしまいます。
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アンにとっては、一片の疑いもなく、そういう世界の方が”美しい”と感じられます。もちろんこんな考えは、なかなか他人とは共有できません。そしてアンは、他人と理解し合うことよりも、自分が美しいと感じる世界をどうにかして守ることに心血を注ぐことになります。
アンにとって許せないのは、「自分には理解できないものを壊そうとする者たち」です。
他人の趣味趣向を理解できなくてもいい、ただ、邪魔する権利もないはずだ。アンはそう考えます。アンが美しいと思うものを「怖い」と感じるのは自由です。そこで留まってくれればいいのに、「普通」の範疇に収まらないものを排除しようとする動きがどうしても出てきてしまいます。
アンは、自分の世界を保持するためなら、多少のことなら我慢するつもりでいます。他人には理解してもらえない世界を維持していくためには、それなりの代償を払う必要があると、渋々認めているのです。
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しかしそれでも、「平凡な人間」は、アンの世界を打ち壊しにきます。
「自分には理解できないもの」が「誰かに高く評価される」みたいな可能性を潰したいんかなぁ
確かに、先に壊しちゃえば、「自分が間違ってた」っていう恥ずかしい結論は回避できるけどねぇ
そんな理不尽な世界で生きていたくない、と感じてしまうアンの気持ちは、痛いほど理解できるつもりです。
「私を、殺してくれない?」
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アンのイタさは、クラスメートに「私を、殺してくれない?」と頼むところで最高潮に達するでしょう。
しかし、このアンの行動は、ある意味では救いの予兆でもあります。というのも、彼女がこんな風に他人にアプローチするのは、相手のことを「同志」と捉えたということだからです。
自分と同じ感覚を持っているかもしれない、と感じられる人の存在に気づいた時、心が少し軽くなります。特に、自分と同じような人間はあんまりいないだろうなぁ、と否応なしに自覚させられる世界においては。
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本を読んでて良かったことの一つは、自分と似たような価値観が世の中に存在しうるって感じられるところだね
リアルでそういう人に出会うのって、相当難しいからね
「多様性」という言葉がよく使われるようになり、様々な価値観が受け入れられる世の中になりつつあると感じています。しかしその一方で、まだまだ古い考え方が支配的である場面も多いでしょう。
もちろん、他人に危害を加えたり、他人の自由を侵害するような考え方が許されるとは思っていません。しかし、そうでないなら、それがたとえどれほど歪んでいようが、どれほど気色悪かろうが、許容される世の中であってほしいなと私は思います。
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「普通」と違うというだけの理由で他人の価値観を否定し、打ち壊そうとする人間が、全員駆逐されますように。
辻村深月『オーダーメイド殺人クラブ』の内容紹介
ここで改めて本の内容を紹介します。
アンは学校ではなかなか上手くやっている。クラスの中心人物である芹香と同じグループで、倖と三人でいることが多い。芹香はクラスの女子の人間関係を牛耳っていて、そのせいでややこしいことも起こるのだが、それなりになんとかやっている。
母親は、美人でお菓子作りが上手い。赤毛のアンに憧れ、娘の名前もそこからつけた。母親の価値観にはまったく共感できないが、しかし自室に籠ればそこまで干渉されずになんとかやっていける。
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アンは日々、周囲の人間にイライラしている。そのセンスの無さに。くだらない会話をし、中途半端にしかこだわりを貫けない「平凡な人間」を軽蔑している。それでも、自分の美しい世界を守るための我慢はするし、どうにか日常は上手く回っていくはずだった。
女子の世界は複雑だ。芹香の主導で無視される女子が定期的に選ばれるが、その順番がアンに回ってきてしまう。しばらくすれば終わることは分かっている。しかし、そう思っていても、無視されている間の心の痛さは薄れない。
隣の席に座っているのは、アンが「昆虫系」と名付けた徳川勝利。何を考えているのか分からない、喋ったこともほとんどない男子だ。しかしある日、彼のふとした呟きがきっかけで、アンの無視が終わった。そのこともあり、アンは徳川のことが気になりだす。
あるきっかけからアンは、徳川とは話が通じるかもしれない、と直感する。意を決して、アンは徳川に頼む。
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「私を、殺してくれない?」
辻村深月『オーダーメイド殺人クラブ』の感想
辻村深月の作品は好きで結構読むのですが、こういう「イタい」子どもを描き出すのが非常に上手いなと感じます。子ども特有の残酷さや無邪気さみたいなものを鋭く切り取って、絶妙な形で物語として提示するなぁと思っています。
この物語は、基本的にはアンの葛藤を描き出すものだけれど、アン・芹香・倖という3人の関係性もかなり深く描かれてます。私は男なので、女子同士の関係性を実感として知っているわけではありません。ただ、小説を読んだり、友人の女性から話を聞いたりしてその複雑さをなんとなく知っているつもりです。そして辻村深月は、そんな女子同士の難しい関係性を垣間見せてくれる作家でもあります。
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基本的には、芹香がボスで倖が八方美人、そしてアンは、面倒を回避するために上手く合わせているだけ、という関係性です。ややこしさの中心は芹香で、私には彼女のような存在は本当に謎でしかありませんが、しかし、人生の節目節目で、芹香のような人物を見かけることがあります。女性から話を聞くと、芹香のような人間とは当然関わりたくないのだけれど、そうもいかない状況になってしまうのだそう。大変だなぁ、と思います。
自分の存在感を常に周囲にアピールしてないと不安っていうことなんだろうね
私はやはり、女子の世界の中で否応無しに浮いてしまうアンに惹かれます。それなりに上手く馴染むものの、倖ほどの振る舞いはできず、ややこしさに絡め取られてしまうアンの方が素敵だと感じられるのです。
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アンには明確な美意識があって、できるだけそれに反することはしたくありません。そういう葛藤ゆえに、倖ほどの八方美人にはなれないでいる不器用さは好ましいですね。
著:辻村深月
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自分の価値観が世間のそれと合わないことは、仕方ありません。そりゃあ、合っている方が様々な点で楽でしょうが、自分が何に惹かれてしまうのかは、自分でコントロールできるものではないでしょう。
世の中から外れたものは、どうしても非難され、そして排除されてしまいます。しかしそれでも、自分が美しいと感じるものを、臆せず「美しい」と言える自分でありたいし、それが容易な社会であってほしいと思っています。
「平凡な人間」に価値観を破壊されながらも、自分の美しい世界をギリギリまで守ろうと必死に戦い抜く少女の物語から、生きる指針を感じ取ってください。
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数学界の超難問ポアンカレ予想を解決したが、100万ドルの賞金を断り、フィールズ賞(ノーベル賞級の栄誉)も辞退、現在は「森できのこ採取」と噂の天才数学者グリゴリー・ペレルマンの生涯を描く評伝『完全なる証明』。数学に関する記述はほぼなく、ソ連で生まれ育った1人の「ギフテッド」の苦悩に満ちた人生を丁寧に描き出す1冊
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元気で明るくて楽しそうな人ほど「傷」を抱えている。そんな人をたくさん見てきた。様々な理由から「傷」を表に出せない人がいる世の中で、『包帯クラブ』が提示する「見えない傷に包帯を巻く」という具体的な行動は、気休め以上の効果をもたらすかもしれない
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ルシルナ
苦しい・しんどい【本・映画の感想】 | ルシルナ
生きていると、しんどい・悲しいと感じることも多いでしょう。私も、世の中の「当たり前」に馴染めなかったり、みんなが普通にできることが上手くやれずに苦しい思いをする…
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