目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:ムロツヨシ, 出演:岸井ゆきの, 出演:若葉竜也, 出演:吉村界人, 出演:淡梨, Writer:𠮷田恵輔, 監督:𠮷田恵輔, プロデュース:柴原祐一, プロデュース:花田聖
¥700 (2022/10/18 20:02時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
田母神に同情してしまうが、ゆりちゃんを完全に「悪」と捉えるのも難しい
些細な不運・不幸を積み重ねることで巨大な亀裂を描き出す構成・展開が見事な映画
この記事の3つの要点
- 献身的な協力を惜しまなかった田母神が、あっさり関係性を切られてしまう展開から、人間関係の難しさを様々に考えさせられた
- 人生において何を優先するかの違いによって、物語の受け取り方が変わる
- 私が「YouTuber」を「クリエイター」と呼びたくない理由
ムロツヨシと岸井ゆきのの存在感が絶妙だったな、ポップでありながら深く考えさせられる作品
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エンタメ作品としてももちろん面白かったですが、とにかくメチャクチャ考えさせられる映画でした。
この映画で描かれてるような状況って、世界中あらゆる場所で起こっててもおかしくないもんね
しかも、「田母神」と「ゆりちゃん」のどちら側に立つかで受け取り方がまったく変わるところも面白い
映画を観た人の受け取り方は様々だと思いますが、間違いなく言えるのは、「映画制作側は『田母神』に同情的だ」ということです。少なくとも私は、映画全体がそのように描かれていると感じました。そして恐らくそれは、「『田母神』に同情する人の方が多いはずだ」という感覚から来るものだと思います。私もその1人で、後半における「田母神の暴走」も、「そんな風になっちゃうのはしょうがないよなぁ」という感覚で捉えました。
ただ、冷静に考えた時、「ゆりちゃんの振る舞い」の善悪を問うことは難しいとも感じます。
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例えばこんなことを考えてみましょう。幼い頃からピアノが天才的に上手かった子どもがいるとします。その子は初め、家の近くにあるピアノ教室に通っていました。というかむしろ、そこで初めてピアノと出会い、楽しさに目覚め、その才能が花開いていったということにしましょう。そのピアノ教室は、その子に「ピアノの世界の魅力」を存分に伝え、羽ばたく大きなきっかけを与えたというわけです。
しかし次第に、町のピアノ教室ではもはやその子に何も教えてあげられなくなってしまいます。あまりに成長のスピードが早いからです。そこでその子は、ピアノの楽しさを実感させてくれたそのピアノ教室を離れ、より高いレベルの教育を受けるられる場所へとステージを変えました。
さて、この話を読んで、「『ピアノの楽しさ』を教えてくれたピアノ教室から離れちゃうなんて酷い」と感じる人はまずいないでしょう。誰もが、「それは仕方がないことだ」と感じるだろうと思います。そして、あらゆる要素をフラットに捉えた場合、この映画で描かれる状況もまた、基本的にはこの話と同じだと私は感じるのです。
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「より高いレベルで闘うために、今いる世界を離れる」っていう物語だからね
もしあなたが、「ピアノ教室から離れた子ども」には「仕方ない」と感じ、映画『神は見返りを求める』の「ゆりちゃん」には「酷い」と感じるとすれば、その違いを生み出す「何か」がそこにはあるはずです。
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そして私は、その要素が「YouTuberという存在」そのものにあると思っているのですが、その辺りについてはこの記事のラスト付近で触れたいと思います。
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イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は、人数合わせのために連れてこられた合コンでゆりちゃん(岸井ゆきの)と出会う。ゆりちゃんはYouTuberなのだが、努力の割には再生回数も登録者数もまったく伸びない。いわゆる「底辺YouTuber」である。
合コンで出会っただけの2人が深く関わるようになったきっかけは、ゆりちゃんのあるお願いだった。イベント会社に勤めているのだからと、彼女は田母神に「何か使える着ぐるみはない?」と尋ねたのだ。これをきっかけに田母神は、ゆりちゃんの動画投稿にかなり積極的に関わるようになる。車の運転や必要なものの手配、着ぐるみに入ってのダンスなど、休日を利用してゆりちゃんを強くバックアップしていったのだ。編集があまり得意ではないというゆりちゃんに代わって、テロップをつけるなどの仕上げの作業までやってあげていた。
しかし、どれだけやってもゆりちゃんのチャンネルは一向に人気が上がらない。2人で1年以上一緒に頑張ってきて、ようやく入ってきた広告収入はたったの1500円。それでも田母神は、頑張っているゆりちゃんの手伝いが出来るだけで楽しかったし、幸せだと感じられる日々だった。
そんな状況に変化をもたらしたのは、田母神の同僚・梅川。彼はYouTuberのイベントを仕切っており、軽い気持ちで、面識のあった大人気YouTuber・マイルズの2人にゆりちゃんを紹介したのだ。その後、マイルズによる”体当たり企画”のコラボ動画が大バズリし、ゆりちゃんは一躍人気YouTuberの仲間入りを果たすことになる。
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ゆりちゃんのチャンネルが人気になってからも、田母神は彼女の手伝いをしていたのだが、ゆりちゃんは、新たに加わった優秀なデザイナーを頼るようになっていく。このデザイナーをブレーンに、これまでとはまったく違うクオリティの動画を制作するようになったため、センスの古い田母神はむしろ邪魔になってしまった。
ゆりちゃんは、「これまで手伝ってくれたこと」には大変感謝していると言いつつ、「これからはもう関わらないでほしい」と田母神に告げるのだが……。
「人生において、何を優先するか」という価値観の違い
映画の中盤以降、田母神は「ゴッドT」という名前で、自分をあっさりと切り捨てたゆりちゃんに先に積極的に復讐をしていきます。そうなって以降の展開については、「共感できない」という方ももちろん出てくるでしょう。しかし、田母神が「ゴッドT」になってしまうまでの展開においては基本的に、観客は田母神に同情的だろうと思います。
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ゆりちゃんが、まさに「豹変」としか言いようがない変貌を遂げるからね
ゆりちゃんの気持ちも分からないわけじゃないけど、それにしても酷くない? って思うわ
映画では途中から、田母神とゆりちゃんの会話がまったく噛み合わなくなってしまいます。ファミレスでの会話の場面がその最たるものでしょう。この場面で田母神は「気持ち」を求めています。
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与えたものに対して、返そうという気持ちはないのか。
こう口にする田母神に対してゆりちゃんは、
お金がほしいってこと? それって見返りを求めてるってことじゃないの?
と返すのです。
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ゆりちゃんが「分かってて気づかないフリをしてる」のか「ホントに分かってない」のかが捉えがたい
色んな解釈が可能だと思いますが、「田母神が『気持ち』を求めていることをゆりちゃんは理解している」と受け取ることもできるでしょう。ゆりちゃんはもう田母神に対して何の「気持ち」もない、しかしさすがにそう口にするのは憚られる、だから「『気持ち』が欲しいことに気づかないフリをして、『お金』の話をしている」というわけです。男女の別れ話のように、「口に出している言葉」と「本心」が絶妙に重ならず、そのような言葉をやり取りすることでさらに心が離れ、修復の糸口さえも失ってしまう、という状況なのだとすれば、その描き方が絶妙だと感じました。
さて、そんなわけでここでのポイントは、「ゆりちゃんが田母神への『気持ち』を失ったこと」だと言っていいでしょう。そして、その是非によって『ゆりちゃんの行動の善悪』を判断する」と考えるのが自然なように思います。
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もちろん、「他人に対する気持ち」は様々な理由で変わり得るし、「豹変」としか言いようがない変化であっても、その人なりにやむを得ない事情があったりもするでしょう。ただこの映画では、ゆりちゃんが人気YouTuberになる以前、2人で頑張って良い動画を作ろうとしている時期の「幸せそうな映像」がたくさん流れます。ある場面では、「私にはこんなことしかお礼をしてあげられない」みたいなことを言って、ゆりちゃんが服を脱ぎ始めたりもするのです。この2人のやり取りから、少なくとも田母神と観客は、「初期の頃は、田母神とゆりちゃんの気持ちは通じ合っていた」と受け取るのが自然に思います。
もちろん、「そういう演出の映画」だってことは十分分かってるけどさ
前半が幸せそうであればあるほど、後半との落差が際立つからね
私は基本的に、新しい世界で闘うためにゆりちゃんが田母神を切る決断をしたことは正解だったと思っています。唯一の正解ではないでしょうが、複数ある正解の内の1つではあると思うし、そういう選択をした彼女を責める気にはなれません。ただ、あんな風に手酷く切り捨てるような真似をしなくても良かったはずです。もちろん、ゆりちゃんの振る舞いが酷いからこそ、後半の「ゴッドT」が成立するわけで、そういう「物語の要請上の必然」という側面は間違いなくあるでしょう。ただ、田母神とゆりちゃんのような関係は実際に存在し得るし、だからこそ、「世界中に存在するだろうゆりちゃん」には、「『世界中に存在するだろう田母神』にもう少し優しくしてやってくれ」と感じてしまいました。
ゆりちゃんとの関係が悪化するのと並行して、田母神の周囲の状況も悪くなっていく
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この物語が上手いのは、ゆりちゃんとの関係が悪くなっていくのと同時に、田母神の周囲の状況も悪化していくという点です。これは、「物凄くお人好しの田母神」が「ゴッドTという復讐の権化」に変身してしまう説得力を持たせるための要素として組み込まれているのだと思います。田母神のキャラクターであれば、「ゆりちゃんから手酷く関係を切られた」というだけでは、「ゴッドT」に変貌するような怒りを発揮することはなかったはずだからです。
私が田母神の立場でも、あの場面ではゆりちゃんに助けを求めるだろうなぁ
田母神には「自分は彼女に助けを求めてもいいぐらいのことはやってきた」って感覚があっただろうしね
田母神は、ゆりちゃんが人気YouTuberになっていくのと同時並行で、お金の問題にさいなまれるようになります。別にギャンブルなどの借金ではなく、田母神が良い人であるが故に窮地に追い込まれてしまうのです。そんな状況であれば、YouTuberとしてかなり稼げるようになっただろうゆりちゃんに助けを求めたくもなるでしょう。なにせ、ゆりちゃんがそうなれたのは、底辺の時期を2人で乗り切ったからです。だから、田母神を助ける余裕があるだろうゆりちゃんに、「ちょっと返してもらう」ぐらいの気持ちでいたのだと思います。
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映画では具体的に描かれる場面はありませんが、恐らく田母神は、ゆりちゃんに自身の窮状を伝えていないはずです。「伝えなくてもゆりちゃんは助けてくれるはず」という感覚があったからでしょう。ゆりちゃんも、田母神の現状を正しく理解していれば、また振る舞いが違ったかもしれません。しかし結果として、助けを求めた田母神の手を、ゆりちゃんは冷たく振り払うのです。
これが、田母神を「ゴッドT」へと変えてしまった決定打だったと言っていいでしょう。
ホントに、何かがちょっと変わっていれば、全然違う関係性になったんだろうなぁって気がする
このように映画『神は見返りを求める』では、人間関係がとても絶妙に描かれていきます。同情される側であるはずの田母神が「ゴッドT」になってしまうことで世間や観客の「共感」から遠ざかるところや、どう考えても「酷い」としか言いようがないゆりちゃんの振る舞いを完全に「悪」とは捉えきれないところなど、善悪をはっきりできない感じが実に良く出来ていると思いました。
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私は「YouTuber」を「クリエイター」と捉えたくない
さて、冒頭で私は、「まったく同じ状況を描いているはずなのに、『ピアノ教室』はセーフで『ゆりちゃん』はアウトに感じられる」という話を書きました。そしてその理由を「YouTuberという存在」と示したまま終わっています。次はこの辺りの話に触れていきましょう。
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私が、ゆりちゃんの振る舞いを「許容しにくい」と感じる大きな理由の1つが、「ゆりちゃんが闘おうとしている世界が『YouTube』である」という点にあると考えています。というのも私は、「YouTuber」という存在をどうしても「クリエイター」とは捉えられないからです。
もちろん、「クリエイター」と呼べる「YouTuber」もいるけど、「YouTuber」だからと言って「クリエイター」とは限らないって思う
「クリエイター」かどうかは、「才能が生み出している」と捉えられるか否かに関係すると私は思っています。そして、「ピアノ演奏」は間違いなく「才能」だと思えますが、「YouTube動画制作」は私にはどうしても「才能」には感じられないのです。
映画の中に、非常に印象的な場面がありました。ブレーンとして頼りにしているデザイナーから、ゆりちゃんがこんな風に言われるシーンです。
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ゆりちゃんがしていることなんて、誰でもできるんだから。
これは要するに、「出役がやっていることは重要ではない」という意味でしょう。ゆりちゃんが人気YouTuberになれたのは、「体を張ったコラボ動画」や「センスの良いデザイナー」のお陰です。もちろん、ゆりちゃん自身に魅力が無ければ話にならないわけですが、同時に、ゆりちゃんの魅力だけではどうにもならないとも言えます。ゆりちゃんのチャンネルが人気なのは、ゆりちゃん自身の力というよりはブレーンの力であり、「誰でもできるんだから」という言葉はまさにその事実を指摘していると言っていいでしょう。
もちろんそのことは、ゆりちゃん自身が一番良く分かってるだろうし、だからこそ辛いよねとも思う
ゆりちゃんもたぶん「承認欲求」からYouTuberを始めたタイプだと思うけど、結局、人気YouTuberになっても「承認欲求」が満たされにくいんだろうなぁ
さて、ここまでで私が主張してきた「『YouTuber』を『クリエイター』と捉えたくない」という話は、「出役だけではなく、チーム全体として考える」ことで解消できるでしょう。出役が「クリエイター」でないとしても、そのチャンネルに関わるチーム全体は「クリエイター」だと言えるという解釈です。
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しかし、私の中にはさらに、「YouTuber」を「クリエイター」と捉えたくない理由があります。これについても映画の中で印象的な場面がありました。ゆりちゃんがサイン会の場でファンの女の子に向かってこんな風に呟くのです。
でも、映画や音楽みたいに、時代を超えて残るものじゃないから、寂しいよね。
「自分に才能があるわけじゃない」ってだけじゃなく、「作ってるものも消費されるだけ」って理解してるってことだよね
そんな気分になっちゃうなら、何故YouTuberであり続けようとするのか、結構不思議だなって思う
これに対してゆりちゃんのファンは、「残るものって、そんなに偉いんですか?」と不思議そうに返します。ファンからすれば、日々「楽しい」と感じられる動画を作ってくれることがありがたいのであって、それが未来に残るかどうかなんて関係ないのです。また公式HPには、このセリフについての裏話が書かれていました。当初YouTuberに対して偏見を抱いていた監督が、取材を進める中で考えが変わり、YouTuberに対するリスペクトを込めべく、この「残るものって、そんなに偉いんですか?」というセリフを組み込んだのだそうです。
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さて、今の若い世代の人たちは、YouTuberやTikTokerを「クリエイター」と呼ぶことに恐らく抵抗はないでしょう。たぶんそこには、「バズらせるものを生み出す人は凄い」という敬意みたいなものがあるのだろうと思います。ただ、年齢的にもう「オジサン」である私には、そういう感覚がまったくありません。私はどうしても、「こういうメッセージを届けたい」「こういう現実を知らしめたい」「こういう感覚に気づいてもらいたい」など、「楽しい」とか「バズった」とかだけではない何らかの要素が込められたものこそ「創作」と捉えたいし、そういうものを生み出す人こそ「クリエイター」と呼びたいと感じてしまうのです。
こういう感覚は、これから益々通じにくくなっていくんだろうなぁって思うよね
最近の世の中の変化で、一番「嫌だな」って感じることかもしれない
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またYouTubeの場合、「再生回数」以外に評価の指標が存在しないこともまた、「創作」と呼びたくないポイントだったりします。音楽でも映画でも小説でも芸術でも、「どれだけ売れたか」「どれだけ見られたか」以外に、それぞれを客観的に評価する基準みたいなものがある程度確立しているはずです。ただYouTubeの場合は、「再生回数」1択だと思います。そうなると、「ベストセラーになった小説はすべて面白い」とか「興行収入が大きい映画はすべて傑作」と言っているような違和感がどうしても生まれてしまうでしょう。
もしかしたら今はまだ過渡期なだけで、YouTubeも他の様々な分野と同様に、「その良し悪しを判断する客観的な指標」みたいなものが出てくるかもしれません。ただ、その期待はちょっと薄いでしょう。「客観的な指標」が生まれるかどうかは要するに、「学問になり得るか」と似た問いだと私は思っています。そして恐らくYouTubeは「学問」にはならないでしょう。たぶん、「消費されるもの」としてその存在が続くだけだと私は感じています。
もし「YouTuber」を「クリエイター」と捉えるのであれば、ゆりちゃんの振る舞いは、冒頭で例示したピアノの話と同じだということになり、ゆりちゃんの言動に対する違和感は大幅に減少するかもしれません。つまり、「YouTuber」を「クリエイター」だと考える人がこの映画を見れば、ゆりちゃんに共感する見方になるのだろうと思います。だとすれば、私の捉え方とはまったく異なるものであり、そういう意味でも多様な捉え方が可能な映画であると感じられました。
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出演:ムロツヨシ, 出演:岸井ゆきの, 出演:若葉竜也, 出演:吉村界人, 出演:淡梨, Writer:𠮷田恵輔, 監督:𠮷田恵輔, プロデュース:柴原祐一, プロデュース:花田聖
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映画は、田母神とゆりちゃんメインに展開されていきますが、あまり登場しない梅川が最も印象的だったかもしれません。彼はとにかく、最初から最後まで「クズ感」満載といった振る舞いを貫き通します。映画の後半で、田母神・ゆりちゃん・梅川の3人で話をする場面があるのですが、田母神もゆりちゃんもかなりヤバさを放つ中で、梅川の異常さが際立つシーンでした。そして、そのことが明白に描かれることでスッキリ感を得られる場面でもあります。
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また、そんな梅川以上にイカれていると言えるのが、YouTuber・マイルズの2人です。「病院で動画撮影をしている場面」を含め、出てくる度に「YouTuberのヤバさ」みたいなものを分かりやすく表現していると感じました。「こういう存在を『クリエイター』と呼びたくない」という感覚も、きっと私の中にあるのだろうと思います。
「お人好し」から「復讐の権化」まで見事に演じるムロツヨシは最高だったし、「底辺YouTuber」から「人気者」へと絶妙に変貌する岸井ゆきのも素晴らしかったです。ゆりちゃんは、前半と後半ではまるで別人なのですが、その「別人感」を岸井ゆきのがぴったり演じていると感じました。言い方は悪いかもしれませんが、ゆりちゃん役を演じたのが「分かりやすい美人」だと、こうはいかなかったでしょう。両極をどちらもしっくり来る形で体現する岸井ゆきのはお見事でした。
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少しだけ不満を挙げるとすれば、「『これ以上ないどん詰まり』に行き着いた田母神・ゆりちゃんの『もう少し先』を見たかった」と感じました。「こんな展開を望んでいた」みたいな希望は特にないのですが、あの時点から2人がどうやって次の一歩を踏み出していくのか、その可能性が垣間見えてほしかったと思います。
ただ、とにかく複雑に感情を揺れ動かされたし、また、難しいことを考えなくてもポップに楽しめる作品でもあり、とても面白かったです。
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映画『最悪な子どもたち』は、最後まで観てもフィクションなのかドキュメンタリーなのか確信が持てなかった、普段なかなか抱くことのない感覚がもたらされる作品だった。「演技未経験」の少年少女を集めての撮影はかなり実験的に感じられたし、「分からないこと」に惹かれる作品と言えるいだろうと思う
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【あらすじ】映画『千年女優』(今敏)はシンプルな物語を驚愕の演出で味付けした天才的アニメ作品
今敏監督の映画『千年女優』は、ちょっとびっくりするほど凄まじく面白い作品だった。観ればスッと理解できるのに言葉で説明すると難解になってしまう「テクニカルな構成」に感心させられつつ、そんな構成に下支えされた「物語の感性的な部分」がストレートに胸を打つ、シンプルながら力強い作品だ
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【痛快】精神病院の隔離室から脱した、善悪の判断基準を持たない狂気の超能力者が大暴れする映画:『モ…
モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』は、「10年以上拘束され続けた精神病院から脱走したアジア系女性が、特殊能力を使って大暴れする」というムチャクチャな設定の物語なのだが、全編に通底する「『善悪の判断基準』が歪んでいる」という要素がとても見事で、意味不明なのに最後まで惹きつけられてしまった
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映画『市子』はまず何よりも主演を務めた杉咲花に圧倒させられる作品だ。そしてその上で、主人公・川辺市子を巡る物語にあれこれと考えさせられてしまった。「川辺市子」は決してフィクショナルな存在ではなく、現実に存在し得る。本作は、そのような存在をリアルに想像するきっかけにもなるだろう
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映画『街の上で』(今泉力哉監督)は、「映画・ドラマ的会話」ではない「自然な会話」を可能な限り目指すスタンスが見事だった。「会話の無駄」がとにかく随所に散りばめられていて、そのことが作品のリアリティを圧倒的に押し上げていると言える。ある男女の”恋愛未満”の会話もとても素晴らしかった
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【嫌悪】映画『ドライビング・バニー』が描く、人生やり直したい主人公(母親)のウザさと絶望
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ヨーロッパ企画の上田誠が生み出した、タイムループものの新機軸映画『リバー、流れないでよ』は、「同じ2分間が繰り返される」という斬新すぎる物語。その設定だけ聞くと、「どう物語を展開させるんだ?」と感じるかもしれないが、あらゆる「制約」を押しのけて、とんでもない傑作に仕上がっている
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名作と名高い映画『ぼくのエリ』は、「生き延びるために必要なもの」が「他者を滅ぼしてしまうこと」であるという絶望を抱えながら、それでも生きることを選ぶ者たちの葛藤が描かれる。「純愛」と呼んでいいのか悩んでしまう2人の関係性と、予想もつかない展開に、感動させられる
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イスラエルとパレスチナの対立を背景に描く映画『クレッシェンド』は、ストーリーそのものは実話ではないものの、映画の中心となる「パレスチナ人・イスラエル人混合の管弦楽団」は実在する。私たちが生きる世界に残る様々な対立について、その「改善」の可能性を示唆する作品
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台湾のろう学校で実際に起こったいじめ・性的虐待事件を基に作られた映画『無聲』は、健常者の世界に刃を突きつける物語だ。これが実話だという事実に驚かされる。いじめ・性的虐待が物語の「大前提」でしかないという衝撃と、「性的虐待の方がマシ」という選択を躊躇せず行う少女のあまりの絶望を描き出す
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涙腺がぶっ壊れたのかと思ったほど泣かされた映画『彼女が好きなものは』について、作品の核となる「ある事実」に一切触れずに書いた「ネタバレなし」の感想です。「ただし摩擦はゼロとする」の世界で息苦しさを感じているすべての人に届く「普遍性」を体感してください
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「片想いの相手には近づけないから、その恋人を”奪おう”」と考える主人公・木村愛の「狂気」を描く、綿矢りさ原作の映画『ひらいて』。木村愛を演じる山田杏奈の「顔」が、木村愛の狂気を絶妙に中和する見事な配役により、「狂気の境界線」をあっさり飛び越える木村愛がリアルに立ち上がる
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【衝撃】卯月妙子『人間仮免中』、とんでもないコミックエッセイだわ。統合失調症との壮絶な闘いの日々
小学5年生から統合失調症を患い、社会の中でもがき苦しみながら生きる卯月妙子のコミックエッセイ『人間仮免中』はとんでもない衝撃作。周りにいる人とのぶっ飛んだ人間関係や、歩道橋から飛び降り自殺未遂を図り顔面がぐちゃぐちゃになって以降の壮絶な日々も赤裸々に描く
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【感想】リドリー・スコット監督の映画『最後の決闘裁判』から、社会が”幻想”を共有する背景とその悲劇…
例えば、「1万円札」というただの紙切れに「価値を感じる」のは、社会の構成員が同じ「共同幻想」の中に生きているからだ。リドリー・スコット監督の映画『最後の決闘裁判』は、「強姦では妊娠しない」「裁判の勝者を決闘で決する」という社会通念と、現代にも通じる「共同幻想」の強さを描き出す
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【選択】映画『サウンド・オブ・メタル』で難聴に陥るバンドマンは、「障害」と「健常」の境界で揺れる
ドラムを叩くバンドマンが聴力を失ってしまう――そんな厳しい現実に直面する主人公を描く映画『サウンド・オブ・メタル』では、「『健常者との生活』を選ぶか否か」という選択が突きつけられる。ある意味では健常者にも向けられているこの問いに、どう答えるべきだろうか
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【葛藤】正論を振りかざしても、「正しさとは何か」に辿り着けない。「絶対的な正しさ」など存在しない…
「『正しさ』は人によって違う」というのは、私には「当たり前の考え」に感じられるが、この前提さえ共有できない社会に私たちは生きている。映画『由宇子の天秤』は、「誤りが含まれるならすべて間違い」という判断が当たり前になされる社会の「不寛容さ」を切り取っていく
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【感想】映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、「リアル」と「漫画」の境界の消失が絶妙
映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、「マンガ家夫婦の不倫」という設定を非常に上手く活かしながら、「何がホントで何かウソなのかはっきりしないドキドキ感」を味わわせてくれる作品だ。黒木華・柄本佑の演技も絶妙で、良い映画を観たなぁと感じました
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【あらすじ】映画『流浪の月』を観て感じた、「『見て分かること』にしか反応できない世界」への気持ち悪さ
私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
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【感想】映画『竜とそばかすの姫』が描く「あまりに批判が容易な世界」と「誰かを助けることの難しさ」
SNSの登場によって「批判が容易な社会」になったことで、批判を恐れてポジティブな言葉を口にしにくくなってしまった。そんな世の中で私は、「理想論だ」と言われても「誰かを助けたい」と発信する側の人間でいたいと、『竜とそばかすの姫』を観て改めて感じさせられた
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【考察】『うみべの女の子』が伝えたいことを全力で解説。「関係性の名前」を手放し、”裸”で対峙する勇敢さ
ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
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「どこにでもいる普通の女性」が「横領」に手を染める映画『紙の月』は、「日常の積み重ねが非日常に接続している」ことを否応なしに実感させる。「主人公の女性は自分とは違う」と考えたい観客の「祈り」は通じない。「梅澤梨花の物語」は「私たちの物語」でもあるのだ
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厳しい受験戦争、壮絶な格差社会、残忍ないじめ……中国の社会問題をこれでもかと詰め込み、重苦しさもありながら「ボーイ・ミーツ・ガール」の爽やかさも融合されている映画『少年の君』。辛い境遇の中で、「すべてが最悪な選択肢」と向き合う少年少女の姿に心打たれる
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実際に起こった衝撃的な事件に着想を得て作られた映画『ルーム』は、フィクションだが、観客に「あなたも同じ状況にいるのではないか?」と突きつける力強さを持っている。「普通」「当たり前」という感覚に囚われて苦しむすべての人に、「何に気づけばいいか」を気づかせてくれる作品
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「死は特別なもの」と捉えてしまうが故に「日常感」が失われ、普段の生活から「排除」されているように感じてしまうのは私だけではないはずだ。『湯を沸かすほどの熱い愛』は、「死を日常に組み込む」ことを当たり前に許容する「家族」が、「家族」の枠組みを問い直す映画である
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森見登美彦の原作も大好きな映画『夜は短し歩けよ乙女』は、「リアル」と「ファンタジー」の境界を絶妙に漂う世界観がとても好き。「黒髪の乙女」は、こんな人がいたら好きになっちゃうよなぁ、と感じる存在です。ずっとニヤニヤしながら観ていた、とても大好きな映画
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「血の繋がり」だけが家族なのか?「将来の幸せ」を与えることが子育てなのか?実際に起こった「赤ちゃんの取り違え事件」に着想を得て、苦悩する家族を是枝裕和が描く映画『そして父になる』から、「家族とは何か?」「子育てや幸せとどう向き合うべきか?」を考える
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便利すぎる世の中に生きていると、「この便利さはどのように生み出されているのか」を想像しなくなる。そしてその「無関心」は、世界を確実に悪化させてしまう。伊藤計劃の小説を原作とするアニメ映画『虐殺器官』から、「無関心という残虐さ」と「想像することの大事さ」を知る
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ルシルナ
理不尽・ストレス・イライラする【本・映画の感想】 | ルシルナ
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