目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:ふくだももこ, プロデュース:本間憲, プロデュース:菊地陽介, プロデュース:柴原祐一, 出演:うらじぬの, 出演:ファーストサマーウイカ, 出演:齊藤広大, 出演:中井友望, 出演:大下ヒロト, 出演:中山求一郎, 出演:當山美智子, 出演:南久松真奈
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「マイノリティ」は「見えない存在」であり、だからこそ「誇張」されがちである
そして、「誇張」されるが故に実態が正しく伝わらず、余計「誤解」が生まれるという悪循環が続くことになる
この記事の3つの要点
- 主人公の2人、梨田と浜中は、何故「変な人」として描かれなければならないのか?
- 「マイノリティのことを理解しないのは良くない」という雰囲気が、逆に無理解を広げることに繋がっている
- 42分という上映時間は短いが、配信で観ることを考えると上手いやり方かもしれない
この映画で描かれる「変さ」が「当たり前」と見なされるような世の中になるのが理想だと思っています
自己紹介記事
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さてまずは、ちょっとだけ”炎上”しそうな話から始めましょう。
先に書いておきますが、私はLGBTQに対する偏見はないつもりです
映画の中に、まさにそんな風に言ってた女性がいたよね(笑)
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私は今40歳なので、昭和のテレビ番組の記憶もそこそこあります。で、昔のバラエティ番組では、同性愛者を「気持ち悪い存在」として描くような雰囲気がまだまだ存在していました。そもそも、今では「ゲイ」という呼び方が当たり前になったと思いますが、昔は「ホモ」と呼ばれることが多かったはずです。そして、この手の話題では必ず取り上げられるだろう「保毛尾田保毛男」などは、まさに「気持ち悪いキャラクター」として造形されたのだと思います。
さて、バラエティ番組では笑いを取るために、要素を大げさに強調してキャラクターを造形することが多いでしょう。しかしその事実を抜きにしても、昔のテレビで「ステレオタイプなホモ」として描かれていたような人たちは、実際にはほとんどいなかったはずです。ここで言う「ステレオタイプなホモ」というのは、「髭面でオネエ言葉を喋る人」みたいなイメージでいいでしょう。もちろんそういう人も中にはいたと思いますが、「ゲイ」の人たちはほとんど、テレビで描かれていたような「ステレオタイプなホモ」とはまったく違う風に存在していたはずです。
しかし今思うとホント、「偏見を笑いにする」みたいなことが当たり前に行われてた気がする
そんな世の中で、自身のナイーブな部分をカミングアウトするのは、相当難しいよね
それではなぜ、「ホモ(ゲイ)」は「保毛尾田保毛男」のような扱われ方になったのでしょうか? その理由は「見えないから」だと私は考えています。どういうことなのか説明していきましょう。
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私はこれまでの人生で、「名前を付けて区別されるセクシャリティ」(「普通ではないセクシャリティ」という表現をしたくないので、回りくどく書きました)の人に3人出会ったことがあります。「アセクシュアル」「デミセクシャル」「トランスジェンダー」の3人です。3人とも、話の流れの中で自然とそういう話になった(私にカミングアウトする流れになった)という感じでした。
さて、先ほど少し触れましたが、本作中には「私、女子高出身だから、ホントそういうの偏見ないよ」と口にする女性が登場します。これは「そんな言い方をしてしまうあなたは、まさに偏見丸出しだよ」みたいな描かれ方になっているし、もちろん私もそう受け取りました。で、その女性みたいな感じになりたくないので、あまり自分で言いたくはないのですが、私は、誰のどんな話もフラットに聞けるタイプの人間だし、「そういうタイプの人間である」ということが相手に伝わるように意識して振る舞ってもいるつもりです。それでも私はこれまでに、3人しか「名前を付けて区別されるセクシャリティ」の人に出会えていません。
私に打ち明けてないだけで周りにいるはいるのか、そういう人が私の周りにはいないのかは分からないけど
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また、「LGBTQって打ち明けられたことがある」という話をすると周囲の人に驚かれることの方が多いので、やはり一般的には「LGBTQに出会ったことがない」という人の方が多いのだろうと思います。一昔前とはかなり時代が変わったと思うのですが、やはり未だにLGBTQの人たちは「見えない存在」なのだと言えるでしょう。
このように、いわゆる「マイノリティ」の人たちというのは、多くの人にとって「認識されない」「可視化されない」存在というわけです。
登場人物2人は、何故「変な人」として描かれなければならないのか
映画『炎上する君』には、梨田と浜中という2人の主人公がいるのですが、彼女たちはあることがきっかけで「夜、わき毛をつけて踊る」というパフォーマンスをし始め、一部で話題になります。つまり、そんなことをしてしまうような「変な人」として描かれているというわけです。
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さて、ここで問題なのは、「何故、梨田と浜中は『変な人』として描かれなければならないのか」でしょう。本作においては、この点がとても重要なのだと思います。そして恐らくその理由は、「『過剰に装飾しなければ気づいてもらえない』という現状を皮肉るため」だと私は感じました。
理屈だけ捉えるなら「保毛尾田保毛男」と同じなんだよね
もちろん、『炎上する君』の描写を批判してるみたいなことでは全然ないんだけど
先述した通り、「マイノリティ」の人たちは大体の場合「見えない存在」です。当然、何もしなければそのまま埋もれ、誰にも気づいてもらえないでしょう。だからマイノリティである本人も、「自身を過剰に装飾して見せなければならない」と感じるかもしれないし、そんなマイノリティを取り上げる側も、「過剰に装飾しなければ伝わらない」と考えるかもしれません。そして、そのようなスタンスの延長線上に、「実際には存在しないキャラクター」を生み出す動機が存在しているというわけです。
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未だにメディアなどでLGBTQが取り上げられる際には、「決まり切った枠組み」の中に嵌め込もうとするスタンスが見え隠れすることがあります。つまりその「枠組み」が、「過剰な装飾」として機能するというわけです。しかし、別にその人をその人のまま切り取ればいいはずなので、本来的にはそんなことをする必要はありません。ただ、「それでは伝わらないかもしれない」という心配から、「枠組み」が用意されるというわけです。
そして、映画『炎上する君』では、そのような「世の中のスタンス」を笑い飛ばすために、敢えて梨田と浜中に「過剰な装飾」を施し、「変な人」として描き出したのだと感じました。
「ここまでやらないと、あなたたち見えませんよね?」みたいな挑発さえ感じるよね
「見ようとしない人」にはどうやったって見えないわけで、そういう人には残念ながらその長髪も届いてないんだろうなぁ
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いつも考えていることですが、私は、「多様性」とか「ダイバーシティ」が本当の意味で実現するのは、梨田や浜中のような人間が「変な人」として描かれずに済むようになった時だと思っているのです。
マジョリティは、無自覚にマイノリティを「削る」
さて、私はここまで、梨田と浜中を「見えない存在」と書いてきましたが、あくまでもこれは「マジョリティにとって」です。マイノリティにとっては、梨田も浜中も「見えすぎるほどの存在」でしょう。ちなみに私が言う「マイノリティ」とは、「マイノリティ的なマインドを持った人」のことであり、LGBTQや障害者に限定されません。この辺りの話については、映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の記事で詳しく書きましたので読んでみて下さい。
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『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』はホント、久々にズバズバ突き刺さる作品だったなぁ
さて、そんな「見えすぎるほどの存在」として、私の友人の友人のことを少し取り上げましょう。ムラタエリコという女性で、『ユーハブマイワード』というエッセイをリトルプレスとして出版しています。
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実は、映画『炎上する君』を観るきっかけが、この『ユーハブマイワード』でした。友人と話をしている時に、「『炎上する君』って映画のテーマが『ユーハブマイワード』と近いかもしれない」と言われたことで、初めてこの映画の存在を知ったのです。観てみて確かに、非常に近いものがあるなと感じました。
エッセイ中には、まさにドンピシャの「毛」についての文章もあります。彼女が「毛」についてどんなことを書いているのか、少し抜き出してみましょう。
膨らんだ二つの胸、ぼーぼーの脇毛やすね毛や腕毛。足の親指に生える毛、ギャランドゥも乳首の周りに生える申し訳程度の毛も、口の横に生える毛も気にならないで生きていける時がある。いわば無敵の時だ。
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「社会の作り出した美意識にいつまでやんわりと付き合うのか」とか「可哀想だ。こんなに一生懸命生えようとしているのに」みたいな気持ちが毛に対してある。
私は男だから、こういう感覚に「共感出来る」とはちょっと言いにくいんだけど、でも分かる気はする
これって結局のところ、「毛」に限る話じゃないからね
まさに映画『炎上する君』の中で梨田と浜中が話していることに通ずるものがあると感じます。
「毛」についてのこの話は結局のところ、「マジョリティが『当たり前』のものとして無意識に押し付けてくること」全般に関係するものと言えるでしょう。私は「マジョリティ」というのは要するに、「自身の言動に疑問を抱かされることがない人」のことだと思っています。「本当は『やらされている』のに、そのことに気づいていない」とか、「周りがみんなそうしているから特に疑問に感じない」など理由は様々でしょうが、とにかく「マジョリティ」というのは、「自分の振る舞いが『当たり前』のものだと、無条件に信じられる人」だと考えているのです。
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もちろん、それだけであればとても素敵だと感じられるかもしれません。私も「マイノリティ的なマインド持った人」なので、マジョリティの「自分の振る舞いに疑問を抱かない」というスタンスに、羨ましさを感じることがあります。「そういう風に生きられたら、シンプルに楽だっただろうなぁ」と考えてしまうことがあるのです。
まあ、「こっち側」の感覚からすると、「マジョリティ」として生きるのはちょっと怖さを感じもするけど
結局のところ、平たく言えば「鈍感」だって話だし、その「鈍感さ」が周囲に何らかのマイナスをもたらす可能性もあるからね
しかし、やはり私は「マジョリティ」を許容しにくいと感じます。なぜなら「マジョリティ」は、「『自分が思う当たり前』以外のこと」をナチュラルに排除しようとするからです。というか、「『排除している』という意識さえ無いまま排除している」という表現の方が正しいでしょうか。そしてそのような「無意識の振る舞い」が、結果としてマイノリティを「削っていく」ことになるわけです。私はどうしても、これを「受け入れがたい」と感じてしまいます。さらに、マジョリティには当然、「誰かを傷つけているつもり」などまったくないはずなので、これを「問題」として取り上げることもまたとても難しいのです。
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映画『炎上する君』でも、そのような「マジョリティによる見えない刃」が随所で描かれます。既に紹介した、「私、女子高出身だから、ホントそういうの偏見ないよ」というセリフもその1つです。恐らく、そんな言葉を何の疑問を抱かずに口に出来てしまう人は、この言葉がどのように「悪い」のか、恐らく理解できないでしょう。そのような「マジョリティ」のスタンスが、お笑いライブや居酒屋でたまたま耳にした会話、あるいは街中で受け取ったティッシュなどを起点に描かれていくというわけです。
「見えない存在」をマジョリティはどう捉えるのか
さて、時代は少しずつ変わってきました。これまではマジョリティがマイノリティのことを気にしていなくても、特に問題なかったはずです。しかし今は違います。「ジェンダーレス」「多様性・ダイバーシティ」「SDGs」みたいな言葉が徐々に市民権を得たことで、「マイノリティのことを理解しないのは良くない」という雰囲気が少しずつ出来上がってきているはずです。そのこと自体はとても良いことだと思っています。
「『見えない存在』を見ようと努力している」ってのは、凄く良い変化だと思う
これまでは、「無視している」という意識さえ無いぐらい見えてなかっただろうからね
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ただ問題もあります。「マイノリティのことを理解しないのは良くない」という雰囲気が強くなりすぎたことで、「私はマイノリティのことを理解していますよ」という趣旨の「過剰な主張」が目につくようになったことです。ただ残念なことに、「『私はマイノリティのことを理解していますよ』と直接的に伝えるような主張」は実際のところ、「私はマイノリティのことを何も理解していません」という逆の意味で伝わることの方が多いと思います。
作中で、梨田と浜中が銭湯の湯船に浸かりながらその時々のニュースについて議論するシーンが何度か描かれるのですが、その1つにこんな話題がありました。50代の政治家が14歳の少女との関係を指摘され、「私たちの間には恋愛関係があった」と強弁しているというニュースです。もちろん普通に考えれば、その政治家は「そんなわけがない」と理解した上で、どうにか責任逃れ出来ないかと考えて「恋愛関係があった」と主張しているに過ぎないと思います。しかしもし仮に、その政治家が本当にそう信じて言っているとしたら、その認識はあまりにマズいと感じられるでしょう。
そして私には、これと同じような視線が、マジョリティからマイノリティに向けられているように思えてしまうのです。だって普通に考えれば、「私、女子高出身だから、ホントそういうの偏見ないよ」みたいな主張が言葉通りに届くはずがないでしょう。だからもし、「『偏見ないよ』と言えば、『偏見を抱いていないこと』が相手に伝わる」と考えているのであれば、それは、「『恋愛関係があった』と強弁している政治家」とほとんど同じと言っていいんじゃないかと思うのです。
ホントに、こういうレベルの「想像力のない発言」をする人って、実際にいるから怖いなって思う
「マイノリティのことを理解しないのは良くない」っていう雰囲気が強くなったことで可視化されるようになった「不具合」って感じするね
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私のこのような主張が理解出来る方は、作中のあらゆる描写に「うわっ、メッチャ分かるー!」と感じられるはずです。一方、ここまで私が書いてきたことに対して、「えっ? マジで何言ってるの?」みたいに感じる人には、この映画は恐らくまったく理解不能でしょう。そして、もし後者のタイプだとしたら、「『恋愛関係があった』と主張する政治家」と同類の可能性が無くもないので、意識して注意していただくのが良いかと思います。
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映画館も色々難しいのは理解できるけど、42分の映画なら、もうちょっと安くしてほしかったなぁって思う
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さて、「映画館で観る」としたら42分はさすがに短すぎますが、映画を配信でも観る時代なので、そう考えると「サクッと観れていい」という評価になるかもしれません。私が観た上映回では、上映後にトークイベントがありました。監督・脚本のふくだももこは子育て中で、夜はなかなか出られないということでトークイベントは欠席でしたが、その代わりなんと、観客と役者に向けて手紙を用意していたのです。私は、そんなトークイベントを初めて経験しました。
そしてその手紙の中で監督は、「本気で日本中の人に観てほしいと思っている」みたいなことを書いていたのです。そう考えると、42分という長さも、もしかしたら戦略的なのかもしれません。まあ、それにしても短いよなぁ、とは思いますが。
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最後に
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トークイベントで語られた中で驚いたのは、「お笑いライブのネタは、役者自身が考えた」という話です。作中にはお笑いライブの場面があるのですが、そのネタはふくだももこではなく、演者が自ら考えたのだと言っていました。お笑いライブに出演する役者たちはオーディションの後、「本読み(ネタ作り)」という名目で集められたそうです。映画製作においてはなかなか耳にすることのない集まりでしょう。
映画の中ではかなり短く編集されていましたが、撮影では3組の芸人がそれぞれ約3分のネタをフル尺で演じたのだといいます。お笑いライブのパートは決して長くはありませんが、撮影自体は役者にとってかなりハードなものだったみたいです。
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全体的にはとても「変」な映画で、だからこそ興味深い作品だったとも言えます。そして何よりも、この「変さ」が「普通」と捉えられるような社会になってほしいとも感じました。
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ルシルナ
どう生きるべきか・どうしたらいい【本・映画の感想】 | ルシルナ
どんな人生を歩みたいか、多くの人が考えながら生きていると思います。私は自分自身も穏やかに、そして周囲の人や社会にとっても何か貢献できたらいいなと、思っています。…
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